「もう、泣き止んだかのう……」
「うん……ありがとう」
それを聞くと太公望はようやく一息つくことができた。緊張の解けた顔付きで額の汗を拭う。
太公望は子供を泣かせるのは好きではないが、一度子供(に見える)を泣かせたことがあった。しかもかなり悪辣なことをして泣かせた。その結果、太公望は一度死ぬこととなってしまった。そのトラウマがあり、元からそうであったが一層子供を泣かせるような真似はしたくなかったのだ。
「よし、それで今後についてだが、おぬしの追っ手についてはいずれ倒さねばならないであろう。わしはそやつらに会ったことがないのでなんとも言えんが、そやつらから何か聞き出せれば良いのう」
「倒す……その前に聞きたいんだけど、たいこーぼーは強いの?」
その言葉は太公望のハートを抉るのに十分の言葉だった。
「…………ううむ……わしが強いのか弱いのか、ちと判別するのは難しいのう……。その魔術師
とやらがどのくらいの力量なのか判らぬし……」
一応それらしいことを言って言い逃れてみる太公望。しかし以前もそのような言葉をかけられたことがあるため、少し反応してしまう。
戦績はそれなりにいい、はずだが、今は『片割れ』もいないし、力にみなぎっているわけでもない。
「……それで、また聞きたいのだが、おぬし、前会った時には帽子をしていたのう。どこかで落としたのか?」
「え!? あれ!? 本当だ……どこで……あ、多分あの人のところに……」
「ふむ、おぬしがサラダとビスケットを恵んでもらった者のところか。するとその者、少々危ういやもしれぬのう」
「その通りなんだよ! 『歩く教会』は常時防御の効力があるけど、その魔力で向こうに探知されちゃうんだよ!」
「ふむふむ。おぬしのその衣は能力が消え失せておるのに、その帽子にはある。これはどういうことかの?」
「えっと……それはその……あんまり言いたくないことだから聞かないでほしいな……」
「むう、そうか。とにかくその追尾機能によって、現在その者は危うい状況におるのう。場所は分かるか?」
「うん。覚えてるけど……でも、あの人はすぐに出かけるって言ってたからすぐさま危険に巻き込まれることはないと思うな」
「そうなのか。……ふむ、その帽子、わしらがおびき出すか、おびき出されるかといったところかのう」
かかか、と若干楽しそうな笑い声を太公望は上げた。
太公望は少し推理する。インデックスの話では、その学生と思しき人物は現在出かけており、おそらくすぐには自分の寮には帰ってこないらしい。空腹であっただろうインデックスに対し、サラダとビスケットを与えたところを見ると、おそらく優しい人物、しかし金銭面でそれほど充実しているとは言い難い。自身の部屋を、その人物の部屋と比較して広いと評価するところを考えてみると、この科学重視、かつ能力開発を行う学園都市において、それほどランクの高い学校には通っていないのであろう。
しかし、それではインデックスの衣を無力化されていることはどうしたことか。おそらくその人物によって、意識的または無意識的にそうなったのであろうが、そんな能力を持つ人物がこの地で優遇されていないとはどんな事情があるのだろうか。
その人物が学生とするならば、夏休み初日に出かけるということは、遊戯にふけっているのか、それとも補習に行っているのか。
「のうインデックス、その者は学生服……を着ておったかの」
「うん。上は白いシャツで、下は黒いズボンだったよ」
制服で向かったのであればおそらく補習。昼、もしくは夕方あたりで帰宅してくるのだろう。かなり強引だが、その人物の安全はひとまず大丈夫……だろう。
「……ところで、おぬしのその格好、ここでは目立つのではないか。狙われやすくなってしまうのではないか?」
「う~ん、どうだろう。私の知っている範囲だと追っ手の人数はそう多くないんだよ。把握している限りだと二人」
「二人か。であれば追跡されたとしてもその衣の防御力がより有効というわけか。しかし、やはりおぬしの格好、珍妙で目立つような気がするのう」
「むう~、やっぱりたいこーぼーの方が変なんだよ! 変な角生えてるし」
「これは角ではない。布だ布」
再び顎に手を当てて太公望は考える。
「さて作戦だ。まずわしが帽子のあるところに向かって相手を待ち伏せて倒す。それに釣られたその相方もぶっ倒す! 二人も手下をやられた魔術結社のボスは忘我状態で乗り込んでくる! そいつをぶっ倒せばジ・エンド!! ダハハハハ! 早速実行に移そう!」
「いくらなんでも無茶なんだよ……。もう少し現実的に行くべきなんだよ」
「しかしこうしなければ根本的におぬしはずっと危険のままであろう?」
ごろりと寝転がって太公望は伸びをする。
「おぬし自身は今のところサーチはかかっておらぬのであろう。ひとまずおぬしはここにおれ。わしがその場に様子を見に行こう」
「それはダメなんだよ! 私も一緒に行く!」
「ダアホ。それでは本末転倒ではないか。そもそもわしはおぬしの安全を図りたいわけで、危なそうなところに行かせられるかい」
「とにかくダメ! それにたいこーぼーは魔術のことなんてよく知らないでしょ? アドバイザーが必要だと思うんだよ!」
「アドバイザー? ううむ、おぬしにその任が務まるのかのう?」
「その点は大丈夫なんだよ! 私には十万三千冊の魔道書があるんだから!」
なさそうな胸をふんと張るインデックス。しかし太公望の顔色は明るくない。
「ふむ、とりあえずその敵の能力でも聞いておこうかの」
「私もそんなに見たわけじゃないけど、ひとりは炎の魔術を使ってた。かなり腕の立つ魔術師かも。もうひとりは……聖人だね」
「せいじん? 宇宙人か何かか?」
「違うんだよ! 聖なる人。莫大な天使の力を蓄えていて、大規模、高威力の魔術が使えるんだよ。戦闘では普通の魔術師じゃ全く歯が立たないし、身体能力も大幅に強化されていて、バッサリ言えば、めちゃくちゃ強いんだよ」
「よくわからんが……身体能力……天然道士みたいなものかのう……」
聖人の説明に、自分の弟子や体格のいい髭面の男などを思い出す。
「……って、それじゃあわし勝てるのかのう……」
インデックスの説明に己の力量を比較して甚だ焦ってくる太公望。
「おぬしの話じゃわし、炎使いはともかく、後者には太刀打ちできそうもないのう」
「え!? あれだけ大見得切っておいて!?」
インデックスは驚きの声を上げる。
「そんなバリバリ戦闘向きなやつに正面から言っても勝てるわけなかろう。大体なんだそのパラメーターは! ズルではないか!」
「そんなこと言われてもどうしようもないんだよ!」
「くう……そんなやつが魔術師というのにはわんさかおるのかのう?」
「ううん。聖人は世界に二十人くらい」
「二十人か……それでも多いのう」
太公望はため息をつく。太公望は頭脳派であって体力とかそういう方面には秀でていない。ボコボコの殴り合いは数度行ったことはあるが正直気持ちの良いものではない。
「……まあ、よい。ついて来ても良いが万一の時は一人で逃走してもらうぞ。それまではおぬしをなんとしてでも守る」
「分かったんだよ。ありがとう!」
向日葵のような笑顔だった。
こやつは人を幸せにする心を持っておる――そう太公望は思った。そして自然に周りに人ができ、助けてもらうことができる。少しベクトルは異なるが、自分の仕えた王もそのような人物だった。太公望は、弟や妻や家臣らに囲まれて、ややひきつりながら、しかし明るく幸福な笑顔の王を思い浮かべた。
禁書目録の中に封神演義が入っているとすると、確かにインデックスが宝貝や太公望に食いつかないのはおかしいです。
言い訳① インデックスの頭の中には封神演義は入っていない説
言い訳② インデックスの頭の中には原書の封神演義は入っているが、その中の打神鞭には風を操る効果がないため、風を操った杖と結び付けなかった説
言い訳③ インデックスの頭の中には原書と安能版が入っている……がいずれにしても打神鞭は頭をかち割る物で結びつかなかった説。
しかし安能版はおそらく入っていない……と思われる。色々な理由で。そうなると雷公鞭も存在しなくなって……え~と、よくわからなくなる。
言い訳④ 発音的な問題で太公望とたいこーぼーが別になった。
屁理屈① 禁書世界に封神演義はなかった説。しかし封神演義は文化面、宗教面での影響があるため却下。
etc.
いろいろ言い訳を考えてみてもどうも整合性が取れないので、いっそ二つは完全別世界でもいいかなと思っています。禁書世界に封神演義はなかった的な流れ。でもそれだと面白くならないんですよね……。
さてどうしましょうと少し悩んでいます。インデックスが封神演義の知識を持っていれば活かしたいけれど、私の足りない頭では思いつかず、結局原作とあまり変わらない形で終わりそうです。というか終わります。
もういっそ、全部アレイスターの仕業で済ませようかしら……。