「……ステイルは回収させていただきます。いずれまた」
奇抜ファッションのその女が口を開いた。
「って待たんかい! おぬしら、一体何者だ!」
「私たちは魔術師。そして私は聖人です」
「んなことは分かっとるっちゅーの」
インデックスを後ろに下げ、太公望はあたりに風を発生させる。
「なるほど、確かに奇妙なものです。魔術ではない……これが超能力……」
勘違いをしているが、それを修正するかどうかは太公望しだいである。
「おぬしの名は?」
「……神裂火織、と申します」
直後、ステイルと神裂火織のいた場所が爆発した。爆発した、と言うのはそう見えただけで、実際は神裂火織がステイルを抱えて超高速で跳躍したためであった。
太公望が外に目を向けた時には、もはや二人は去ってしまっていた。
「……ふむ、これはまたものすごく厄介なのが出てきたのう……」
「あれが聖人、世界に20といない聖痕の保持者……やっぱり恐ろしいんだよ」
「まあ、すぐには攻めて来んと思うし、帽子を回収して帰るとするか。あやつ、案外礼儀正しいようだしのう」
『魔女狩りの王』の発生により、このあたりは焼け焦げている。ドアノブは爛れ、その機能を果たしていない。
「どれ、ちょこっと失礼して……」
ドアを思いっきり蹴ると、ドアは開いてしまった。
「ほれ、取ってこい」
「うん!」
トコトコとその部屋に入っていくインデックス。その姿を見ながら太公望はこの部屋
の持ち主の名前を見る。
「上条……か」
ここの家主がおそらく何らかの不可思議を行使してインデックスの衣の魔術を解いた。この街の能力者だろう。インデックスの誇る絶対防御を朝であっただけで解いてしまうとは、ここの主は一体何者なのだろう。
「捕らえられなかったのは残念だが収穫はあった。今はそれでよしとするかのう……」
その後、フードを手に入れたインデックスと太公望は一端太公望の寮に戻った。ちなみに一応謝罪金として五万円を上条宅に置いていった。
「さてインデックス、今回の一戦についての概観を述べよ」
「うん、太公望がセコかったってことだね」
「ちゃうわい! あれは戦術とゆー……」
「はいはい、もういいから」
呆れ気味なインデックスに対し若干ジト目になる太公望。
「……まあ、よかろう。此度の戦果といえば魔術というものを直に見れたことだのう。あ
れはなかなか危なそうなシロモノだ」
「魔術っていうのは異世界の法則に基づいて超常現象を起こすものだからね。人間にとっては毒なんだよ」
「薬にも毒にも、か」
「そういう汚染に対しては宗教防壁とかで、自分の心身を守る魔術師が多いかな。追っ手もそうだったし。私だって清貧を重んじるシスターなんだよ」
また無い胸を張るインデックス。
「まあおぬしが清貧かどうかは置いておくとしてだ」
「置いておかないで欲しいんだよ」
「ふむ、魔術というのは、わしらの方とは似ているところもあるが、異なるところもあるようだのう」
太公望は懐から打神鞭を取り出す。
「前にも言うたとおり、こいつは使えば様々な奇跡を起こすことができる。が、普通の人間、つまり仙人骨を持たぬもの手にすれば瞬く間に力を吸い取られてミイラになってしまうのだ」
「仙人骨っていうのは何?」
「うむ、まあ簡単に言えば生まれつき骨髄の少ない骨のことでのう、そう滅多にあるものではないのだ。おぬしも間違って触れぬように注意するように」
「むう……聞いたこともないんだよ」
「かかか、おぬしの知識も案外当てにならぬのう」
「むきー!」
太公望はインデックスをからかいつつ、他方に意識を傾ける。
あの女魔術師。体から闘気が迸っていた。インデックスの言う聖人の説明や帯刀からしても接近型の魔術師……か?
そして今後の展開。よりその流れを見逃さぬようにしなければならない。脳裏にはステイルのあの時の顔が浮かんだ。攻撃を止めた時のあの顔が――。
「おぬしはあの二人と知り合いかのう?」
「今まで追っ手と逃走者の役割でしかないんだよ」
「おぬしは記憶喪失だからのう……」
ごろりと太公望は床に転がる。そして取り出した打神鞭をかざし、その先についている球体をジッと見つめる。
「神裂火織といったか……あやつなら何かを知っておるな」
「何かって何?」
「さあのう? ただ、あやつと次に出会う時、ことが大きく動く。そんな気がするのう」
よっ、と太公望は腰を丸めて後ろから倒立し起き上がる。
「四時か……。インデックス、おぬし疲れておらぬかのう。休みが必要であれば……」
「全然大丈夫なんだよ! むしろたいこーぼーの方が休みが必要かも。宝貝って、力を吸収するんでしょ? たいこーぼーの方がずっと疲れてるはずなんだよ! 私には強制詠唱っていう魔術があるんだから!」
「なんだそれは?」
「敵の術式に割り込みをかけて誤作動を起こさせる魔術なんだよ。私には魔力はないけど、敵の魔術の制御を奪って戦えるんだよ!」
「な、なんと……! そんなことができるなら早く言わんか!」
「たいこーぼーが敵の力量が知りたいって言うからなんだよ!」
「むう……ともかくおぬしは少し休め。疲れていては戦いたくても戦えぬぞ」
「……たいこーぼーは疲れてないの? 結構な力を使ったと思うんだよ」
「かかか、いっちょまえに心配などしおって」
そう言うと、ぬぎぬぎ、と太公望は道士服を脱ぐ。その下には『デンキヒツジ』と書かれた黒いシャツがあった。
「申し訳ないのだが、この部屋を探索したところ布団がないことが判明した。というか、ほとんどのものがない。そんなわけでそれを布団替わりにしてはくれまいか」
パン! と顔の前で手を合わせてお願い! のポーズをとる太公望。
「あ……その、ごめんなさい。私のことは気にしなくていいから……」
「いやいや、ちょうど炎に当たったところだし、今は夏らしいしのう。この格好の方がちょうどいいかもしれぬ。男臭くて申し訳ないのだが、よかったら使って欲しい」
ポイっとその道着を投げるとポスッとインデックスは受け取った。
「……ありがとう、」
「かかか、素直でよろしい!」
インデックスはその道着を自分の上にかけて横になる。しばらく経つとそこから寝息が聞こえてくる。
「……ふう、全く強情な娘だのう。おぬしの方がよっぽど疲れておるだろうに。なんせ昼も夜も逃げ続けてきたのであろうからのう」
この少女と出会ったベンチのことを思い出しながら、太公望の方は瞑想にふける。もっとも、力を高めようとするのだが、この学園都市はどこか『おかしい』らしく、あまり効果はないように太公望には思えた。
「……わしとていくつも危機を乗り越えてきたつもりだ。子供に心配されるほど落ちぶれてはいないよ」
そして太公望はインデックスのそばで瞑想を続けた。
すう、と目を開けるとインデックスはすやすやとまだ寝ていた。そして外を眺めたら、もう夜だった。
「……はあ、長い昼寝になってしまったのう」
一応備え付けてある時計を見ると時刻は午後八時。コキコキと肩や首を回し、のそのそと立ち上がる。
「晩御飯……といきたいが……」
インデックスの方に近づき、上にかぶさっている道着の懐からお金を取り出す。わずか一日二日でこれほど減ろうとは……。
「う~む、これでは先が思いやられるのう……」
まだ手元に三分の一程度は残っているが、この暴食のインデックスがついていては心もとない。
「インデックス、起きよインデックス」
太公望が体を揺するとインデックスは瞼を少し開けた。
「あ、れ……たいこーぼー? どうかした……?」
道着の端を掴んでインデックスは眠たそうにしている。
「眠りの邪魔をして悪いのう……。だが晩御飯でも食べに行かぬか?」
「晩御飯!?」
その言葉を聞いた瞬間、インデックスの目はカッと見開かれ一気に睡眠状態から覚醒したようだ。
「行く行く! もうお腹ペコペコなんだよ!!」
ぶわっとかぶさっていた道着を太公望の方によこし、インデックスはたたた、とドアの方に駆けていった。それを受け取った太公望は羽織り、インデックスの後について行った。。
「かか、現金な奴よのう。よし、ではいざー! いざー!」