『対ネウロイ戦における
もっとも有効な攻撃、
それはネウロイをもって、
ネウロイを制することである』
-1940年 Team R-TYPE所長宮藤博士の年頭挨拶より-
1937年。
扶桑海沖にて突如大規模な怪異が発生した。
遭遇戦にて痛手を負った扶桑海軍は魔女の投入を政府に申請。すみやかに許可が下りた。
近代兵器のことごとくは怪異に有効打を与えられない。
それは20年前のネウロイ大戦でも示されていた事実であった。
人類がネウロイに対し唯一対抗できる手段。それが魔女である。
しかし、近代兵器を使った魔女の力をもってしても怪異との戦いは優勢とはならなかった。
事態を顧みた軍部は、さらなる手を新たに投入した。
試作の戦闘脚、ロ式艦上戦闘脚。
それは、欧州の戦闘脚研究チームTeam R-TYPEの宮藤博士が提唱する魔導動力理論に基づいて作成された新兵器、Rユニットと呼ばれるものであった。
1938年。
Rユニットと魔女の活躍により扶桑海の怪異が消滅する。
最終戦の最中、陸軍所属の魔女、穴拭智子少尉の手により一匹の偵察型小型ネウロイが生きたまま捕縛された。
捕縛されたネウロイは陸軍の研究所に送られ、最終的に欧州のTeam R-TYPEの下へと渡る。
稀代の天才兵器開発者宮藤博士の手に落ちたネウロイ。それは魔女達の悪夢の始まりであった。
◆R-7
「……正気の沙汰ではない」
Team R-TYPEのテストパイロットである坂本美緒少尉はある新兵器を見つめながら呟いた。
彼女の目の前で輝く物体。研究員達はそれを『フォース』と呼んでいた。
その正体は、ネウロイのコアを加工し瘴気を取り除いた超束積エネルギー生命体。
Team R-TYPEは怪異としか定義されていなかったネウロイを明確に生命体と結論づけていた。
本来ならば赤い結晶体であるはずのネウロイコアは、研究員達の加工によりオレンジ色に輝く光球へと変貌していた。
坂本はネウロイの元の姿を思い出す。
このネウロイが捕縛された扶桑海での戦いに、彼女も海軍の新兵魔女として参戦していた。
元は翼を閉じたテントウムシのような人間大の飛行型ネウロイであった。その形状で一体どうやって空を飛んでいるのか全くもって謎である。
未だ齢十四にも満たない坂本であるが、海軍、そしてテストパイロットとなる経歴から高等な教育は受けている。航空機が、そして戦闘脚が空を飛ぶ仕組みはしっかりと頭に叩き込んである。が、ネウロイがどうやって空を飛ぶかなど完全に謎である。
だが、この研究所の研究員達はその謎の怪異を加工し、兵器として改造してしまったのだ。
恐るべし技術力、と一言で評価するのは何かが違うと坂本は思う。
人類の敵であるはずのネウロイを兵器へと変えてしまうその発想。そこに狂気の片鱗を感じるのだ。
テストパイロットとして研究員達と接する時間が増えるたびその思いは強くなる。
――断言しても良い。彼らは狂っている。
フォースの輝きから逃れるように、坂本は背後へと振り返る。
と、そこにはいつの間に居たのか、一人の研究員がたたずんでいた。
驚く坂本に、研究員、宮藤博士は薄い笑みを貼り付けた顔で言った。
「少尉、準備はよろしいかね」
「……はい、問題ありません」
坂本は意味もなくフォースの前に居たわけではない。フォースはTeam R-TYPEの最高機密にして最重要兵器。見たいからといっていつでも見られるような代物ではないのだ。
坂本はテストパイロットである。担当機はTeam R-TYPE純正のRユニット、R-7。高出力波動砲をテストするための試作機である。
波動砲とは、Team R-TYPEが独自に開発した対ネウロイ魔導砲撃である。
従来の対ネウロイ攻撃は実弾兵器、爆弾兵器、そしてウィッチの固有魔法によるものであった。
20年前のネウロイ大戦で特に戦果を上げたのが、ウィッチの固有魔法である。だが、固有魔法はその名の通りウィッチ一人一人が固有で持つもの。あるウィッチの魔法がネウロイに対して有効だとしても、他のウィッチが同じ魔法を使うといった手段はとれない。
そこで開発されたのが波動砲である。
Rユニット内部に組み込まれた魔導回路で特定の固有魔法を再現する。
ウィッチであれば誰でも同じ固有魔法を使用することができる、それが波動砲である。
波動砲の理論はすでに確立されており、作業用魔導脚であるR-5以前のRユニットでは低出力波動砲がすでに実用段階にある。
現在実験段階にある対ネウロイ戦用高出力波動砲は試作機RX-6で実証され、そして坂本が駆るR-7で実戦に耐えうるかのテストが行われているという状況だ。
「人類の未来は私のテスト結果次第、か」
R-7を脚に装着しながら独りごちる。
今日のテスト内容はRユニットの底部にフォースを取り付けての波動砲発射実験だ。
すでにフォース無しでの波動砲発射実験、そしてRユニットと一体化した機銃にフォースを取り付けての波動砲発射実験は完了している。
今日のテストを完了させれば波動砲発射実験は一連の試験内容を消化したことになる。
Rユニットが脚にしっかりと固定され、使い魔が坂本の身体から出現する。
坂本の使い魔はドーベルマン。耳が頭から、尻尾が軍服のズボンの穴から飛び出す。使い魔を使役し、同調している証拠だ。
坂本は足先に魔力を集中させ、R-7の魔導エンジンを始動させる。
そしてR-7に備え付けられたランプが点灯し、エンジンの駆動が始まった事を坂本に伝えた。
Team R-TYPE純正のRユニットは、旧来の戦闘脚にあるようなエンジン音は全く存在しない。
そして、航空用ユニットであるR-7だが、他国の飛行脚とは違い展開する飛行魔法――通称プロペラが存在していない。代わりに存在するのは加速用のバーニアだ。
R-7はネウロイの解析により、根本的に飛行の仕組みが異なるのだ。
Rユニットの起動を確認した坂本は、ユニットの右脚に取り付けられている機銃を取り外し、手に取る。
この機銃もR-7独自の兵装だ。従来、戦闘脚と武装はそれぞれ別のものである。
戦闘脚は移動用、武装は攻撃用と別々に用意され、ウィッチは戦闘脚で増幅された魔力で武装を強化する必要があった。ウィッチは戦闘脚の操作と武装の強化をそれぞれ別の工程として行わなければならなかったのだ。
その改善を目指して作られたのがこの機銃、高速電磁レールキャノンだ。
銃床から伸びるケーブルはRユニットの右脚へと伸びており、魔導エンジンを起動させると自動で機銃に魔力が供給されるようになっている。供給される魔力量は可能なまでに削られており、機銃のトリガーを引いた瞬間だけ必要量の魔力がユニットから送られる。
坂本は思う。
扶桑海での戦いでこの機体があれば、どれだけの被害が抑えられただろうか、と。
彼女がかつて駆った戦闘脚とは、あらゆる面でこのRユニットが勝っているのだ。
扶桑海の怪異は退けられた。
だが、世界から怪異が消え去ったわけではなく、いつ20年前のような大規模なネウロイの侵攻が始まってもおかしくない。
だからこそ坂本はテストパイロットを志願し、欧州まで来たのだ。
テストが終われば、Team R-TYPE純正のRユニットは量産され世界各地のウィッチの手に渡るだろう。
責任は重大だ。
「フォースを」
坂本がそう言うと、フォースを床に固定していた器具が取り外される。
坂本はRユニットを操作しフォースの上へ飛び、Rユニットの底部に取り付けられているフォースコンダクタを操作する。
フォースコンダクタとはフォースを抱えるための大きなペンチのような部品だ。フォースを固定し、Rユニットから伝わる魔力でフォースを操作する。
フォースコンダクタはRユニットの底部の他にも機銃の先端にも取り付けられている。
「R-7、離陸します」
坂本は無線にそう伝えると、Rユニットに魔力を送り、飛翔加速魔法を起動させる。
ユニットのバーナーに魔法の青い火が灯り、R-7は垂直に上昇した。
R-7は旧来の戦闘機とは飛行の仕組みが異なる。離陸に滑走路は必要ない。これは全て、人がネウロイの力を手に入れた成果であった。
「指定空域へ到着しました」
『到着を確認。機銃の標的を射出する』
まずはフォースをユニットに装着しての機銃射撃。機上から弾頭が抜かれたミサイルが照射される。
坂本は機体を地面に対し水平に動かす。空中で腹ばいになる格好だ。
飛行魔法はRユニットだけではなく操縦者の全身にかかっている。この構えは、対ネウロイ戦でネウロイと向かい合ったときに被弾面積を減らすためのものだ。
機銃も機体と同じように水平に構える。手に抱える機銃からは重さを感じない。ケーブルでRユニットと一体化した機銃だ。坂本の身体と同じように重力から解放されている。
ミサイルがR-7と同じ高度へと到達する。
坂本は引き金を引き、すぐさま離す。高速電磁レールキャノンは機関銃だ。口径は小さいが弾丸の速度は火薬式のものとは比べものにならない。さらにはRユニットと直結した魔力強化は陸戦ウィッチに匹敵するものであり、試験用ミサイルに連射するような代物ではない。
機銃から放たれた弾丸はミサイルへと命中。魔力強化された弾丸が二発命中すると原型をとどめることなく破裂し、残骸を弾丸が三発、四発と打ち抜いていった。
この程度の射撃ならば、坂本の固有魔法である魔眼を使うまでもない。
『命中を確認。続けてフォースの標的を射出する』
再び地上からミサイルが発射される。
次に行うのはフォースを武器として使用するテストだ。
ネウロイコアエネルギーの塊であるフォースは、兵器として様々な可能性が見いだされている。
ネウロイのビーム、弾丸に対するシールドとして。
フォースを砲弾とした砲撃として。
フォースエネルギーを利用した光線魔法の媒体として。
R-7には光線魔法の機構が組み込まれていないので、今回行うのはフォースを撃ち出す砲撃試験だ。
機銃のフォースコンダクタを用いた砲撃試験は問題なく行えた。
だが、Rユニットからフォースを撃ち出すこの砲撃試験に坂本は自信がなかった。
何しろ、足の裏から球を打ち出すのだ。当てろというのは無理がある。
「……やるしかないか」
身体を直角に曲げてL字の体勢を取る。本来の利用用途は背後のネウロイに対して撃ち出すというものだが、その状況をテストパイロットで再現するわけにはいかない。
フォースは高エネルギー収束体。模擬戦用ペイント弾のような使い方は出来ない。ウィッチに向かって撃ち出せばシールドを突き抜けてユニットごと蒸発させてしまう。
「無理に当てる必要はない。正しく射出されるかどうかの試験なんだ……」
坂本はそう自分に言い聞かせ、浮かび上がってきたミサイルにフォースを撃ち出した。
フォースコンダクタが勢いよく開き、フォースが飛んでいく。その速度はレールキャノンの弾とは比べものにならない遅さだが、兵器としては十分許容範囲の速さだ。
坂本は目をこらしフォースの軌道を見つめる。魔眼を抑えるための眼帯はつけていない。
地面に対し水平に飛んでいったフォースはミサイルの僅か横を通過する。
外れた、と坂本が認識すると同時にフォースはミサイルに向かって軌道を曲げた。
まるでミサイルに対して吸い付いたかのような動き。そしてミサイルは瞬時に蒸発した。
金属製のミサイル、それが一瞬で蒸発したのだ。フォースの持つ恐ろしさが解る。
だがフォースの持つ力はこれだけではない。一度標的に接触さえしてしまえば、標的が消滅するまでいつまでもその場に吸い付き続けるのだ。ネウロイはコアが破壊するまで永久に再生し続ける生物だ。フォースを用いれば、ネウロイの再生を上回りコアに到達するまでネウロイを削り続けられる可能性がある、と見られている。
まさにネウロイのために作られた兵器だ。その正体はネウロイを加工したものなのだが。
『命中を確認。フォースを回収せよ』
「……了解」
坂本は指示に従いフォースコンダクタを操作する。フォースコンダクタはフォースと魔法的な連結が取られており、フォースを誘導して引き寄せることができる。
坂本の許へフォースがゆっくりと戻ってくる。
フォースコンダクタが欠陥品なら私もミサイルと同じ末路だな、と僅かな恐怖がよぎるが、それを振り払いフォースコンダクタを開いてフォースをキャッチした。
「フォースを回収しました」
『回収を確認。続けて波動砲の試験を行う。標的は無し。十二時方向に水平に射撃。角度に注意せよ』
「了解しました」
ふう、と息を吐いて坂本は再び地面に対し腹ばいの体勢を取る。
十二時方向は海。この試験場は海岸線に設立されているものだ。理由は試験段階の波動砲を陸地に向けて撃つわけにはいかないといったものだ。
高出力波動砲は現存する兵器で最大級の火力を持つ。戦艦の主砲や列車砲以上の破壊力を持つのだからもの凄いとしか言いようがない。
扶桑海の怪異で判明した事実として、戦艦では中型以上のネウロイを撃退することができないというものがあった。
戦艦の主砲はネウロイの装甲を貫く。が、ネウロイはコアを破壊しなければ再生してしまう。
故に戦艦でネウロイを撃退するにはコアの位置を特定しつつ正確に主砲で打ち抜く必要がある。しかしながら戦艦の主砲は連射が利かないのだ。装甲を砕いてから再生される前にコアを撃つという芸当が不可能なのだ。
結果として扶桑海では小回りの利く空戦ウィッチの魔力銃撃が戦果を上げた。
その戦果をR-7で担うのが高速電磁レールキャノンだ。
R-7の波動砲はそれとは完全にアプローチが違う。分厚いネウロイの装甲ごとコアを打ち抜くといった力業だ。
だがその力業こそがかつてのネウロイ大戦でウィッチ達がネウロイに対して与えた固有魔法という名の有効打なのだ。
「固有魔法、か」
坂本の固有魔法は右目の魔眼。超人的な静止視力・動体視力を眼に宿すというもの。ネウロイコア位置の特定という面では役に立つが、直接的にネウロイを打倒するわけではない。
そんな固有魔法だが、扶桑海の戦いに新兵として参戦した当時は魔眼の制御ができず苦労した。
しかし波動砲は一度ユニットの機能として成立してしまえば、制御に苦労することなくあらゆるウィッチが使用可能となるのだ。
「やはり責任は重大だな」
気合いを入れて坂本は機銃を水平に構える。
R-7の波動砲は機銃の先端に力場を作りだし魔力の砲弾を撃ち出すというものだ。
照準は水平線の彼方。
Rユニットの固有魔導回路へ魔力のチャージを開始する。
一秒、二秒と魔力チャージをし水平に構えた機銃の先端に魔法の力場が形作られていく。
その最中、坂本は僅かな違和感を覚える。
だが、魔導回路によって作られた魔力砲弾の力場はすでに機銃の先端に展開している。力場を消す手段もないため坂本は波動砲を放つための機銃のトリガーを引いた。
次の瞬間、坂本の視界を青白い光が覆った。
驚く暇もなく坂本とRユニットは波動砲の光に包まれ、欧州の空に青い光の花が散った。
「――応答せよ、R-7応答せよ!」
地上の試験観測部隊では突然の波動砲の暴走に大きな動揺が広がっていた。
海の向こうへと撃ち出されるはずの魔法の砲弾がテストパイロットごとR-7を撃ち抜いたのだ。
生存を確認するための通信が繰り返され、救助部隊が空へと飛び立った。
「ふむ、機体実験は失敗か」
その中で一人、苦笑いをして佇む研究者がいた。宮藤一郎。Team R-TYPEの研究者であり、魔導動力理論とフォース理論を撃ち出した鬼才である。
彼は双眼鏡を覗き実験空域を見上げる。
そこには坂本、そしてR-7の姿は無い。しかし
「すばらしい」
宮藤博士は薄い笑みを浮かべた。
「フォースは無傷ではないか」
これが人類の敵ネウロイに対抗する狂気の開発部、Team R-TYPEの始まりの一歩であった。
1938年。
ネウロイコアを利用したフォースの実用化実験が開始。
フォースを操作するための機構フォースコンダクタがTeam R-TYPE純正のRユニット、R-7に世界で初めて試験搭載された。
同年8月、フォースの実用化実験に失敗。
実験の際にテストパイロットである扶桑皇国海軍所属の坂本美緒少尉が死亡した。なお実験日は坂本美緒少尉の14歳の誕生日であった。
フォース実用化実験の詳細はRユニット底部コンダクタにフォースを装着して波動砲を発射するというもの。
実験失敗の原因は、力場安定用レギュレーターが異常加熱しエネルギー蓄積座標が反転し、R-7本体に向けて波動砲が発射されたためと見られている。
なお、実験用フォースは無傷で回収された。
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