――これはネウロイに立ち向かう少女達の物語である。
釣りバカ
綾香さん
ストライクウィッチーズ
ダイナマイトフィッシング
広大なライン川の自然を守れ!
爆釣! サーモンフィッシング!
◆R-9AD "ESCORT TIME"
ライン川。それは西欧カールスラント帝国と隣国ベルギカ領を繋ぎ、北海へと注ぎ込む大河である。
第二次ネウロイミッションにて解放されたカールスラントだが、資源豊かなライン川には釣り人の姿が見えない。
カールスラントの人々の心に娯楽を楽しむ余裕が戻っていない、というわけではない。
この国で川釣りをするには、専用の釣り免許が必要となるからである。
娯楽のために試験の必要な釣り免許を取ろうとする者は少ない。
そんなライン川で、一人の東洋人が鮭釣りに挑もうとしていた。
鮭。それは川に生まれ、海で育ち、産卵のために故郷の川を遡上する特殊な生態を持った魚である。
この川を遡る鮭を専門に狙った釣りを、サーモンフィッシングと呼ぶ。
ライン川で取れる代表的な魚はサケ科のマスであるが、サケ科サケ類に分類される鮭も少ないながら生息している。
その少ない鮭を狙うのが、扶桑皇国出身の東洋人、黒江綾香だ。
歳は二十歳だが、その細身の身体と西洋人からすると童顔とも言える顔立ちから少女と呼んでも違和感のない姿であった。
綾香は流れの速い川面に釣り糸を垂らし、リールの付いていない川釣り用の釣り竿を手にじっとチャンスを待ち続けていた。
日はまだ高く正午を過ぎた時間。強い日差しを頭に被った麦わら帽子で防ぎ、綾香は水面を眺める。泥の混じった川の水は魚影を隠し続けている。
「うじゅー、あたしも釣りやりたいー」
「うるさい、魚が逃げる!」
「うー、なんかアヤカ怖いー」
待ちを続ける綾香の背後では、一人の幼い少女が大きな石に腰掛けながら地団駄を踏むように足をばたつかせていた。
フランチェスカ・ルッキーニ。ロマーニャ出身の好奇心旺盛な齢十歳の子供だ。
「仕方ないっすよ。昼もまわったのにまだ一匹もかかってないんすから」
そしてもう一人、カールスラント在住の少女ヘルマ・レンナルツがルッキーニをなだめていた。
ヘルマの歳は十一。一つ年上の姉貴分として、自由奔放すぎるルッキーニの手綱をどうにかして操ろうと頑張っていた。
「でもさっき釣れたじゃん」
「あれはコイだ!」
ルッキーニのつぶやきに綾香が鋭く言葉を返す。
コイはマスと並ぶライン川の代表的な魚。
カールスラントではこのコイを蒸し焼きにし、茹で野菜やザワークラウトを添えるなどしたものが家庭の食卓に並ぶことも多い。
カールスラント娘のヘルマは、綾香の足下に置かれている藁で編まれた魚籠を覗き込む。
「フライにしてクリームソースがいいっすかねー。マッシュポテト付きで」
「鮭が釣れればコイなどおまけでしかない……ぬっ!」
綾香の眼光が輝く。
川の流れによるものとは違う、かすかな釣り糸の揺れが彼女の手に伝わってきたのだ。
「しゅうううううべえええええるッ!」
雄叫びと共に竿を引くと、川面から釣り針を咥えた魚が身を躍り出す。
大きな魚の姿。
しかしそれはコイであった。
「アヤカさん、すごーい! おっきいー!」
「むう、コイ釣りに来たわけじゃないのだが……」
そう呟きながら手に掴んだコイの口から鮭用の大きな釣り針を外し、魚籠にコイを乱暴に放り込む。
リリースはしない。
ヘルマが言っていた通り、鮭が釣れなかった場合の夕食になるのだ。
「あたしもやりたいー」
「駄目っすよー。免許取らないと捕まっちゃうっすよ」
ルッキーニとヘルマの会話を後ろに聞き流しながら、綾香は再び釣り針を川面に打ち込む。
ヘルマは文句を言い続けるルッキーニの隣に座り、ふと思い出したことをアヤカに向かって言った。
「でも私聞いたことあるんすよねー。川の鮭は餌を食べないって」
「鮭釣りは文化だ。釣れないはずがない!」
川に回帰してきたサケ科の魚を狙うサーモンフィッシングは、綾香の言ったとおり釣り人々に古くから愛され続けてきた釣り文化である。
時期さえ間違えなければライン川でも鮭は釣れるのだ。
次こそは、と気合いを入れる綾香であったが。
「ネウロイだー!」
「ネウロイが出たぞーッ!」
上流から人々の叫ぶ声が聞こえる。
釣り竿を抱えた白衣の大人達が、川岸を全力疾走している。
彼らはTeam R-TYPE本部の研究員達。今日は息抜きがてら休暇を取った所員一同で、サーモンフィッシングに来ていたのだ。
走る彼らの背後に、黒い影が浮かんでいる。
西欧地帯のネウロイの特徴である黒い装甲。そしてエイに似た飛行型ネウロイの独特のフォルム。
綾香はそれを見てわなわなと身体を震わせた。
「ぬ、ぬ、主だー!」
「いやネウロイっすよ!?」
ヘルマが突っ込みを入れている間に、研究員達が彼女達の元へとやってくる。
彼らは釣り竿とは別に、一抱えほどある荷物を運んできていた。
Rユニットだ。
「黒江君、出番だ」
研究員達の一人、所長宮藤一郎博士がRユニットの拘束を外しながら綾香に言った。
そう、綾香達三人はTeam R-TYPE所属のウィッチである。
Team R-TYPEの研究員達が作りだした新型試作Rユニットをテストするのが彼女達本来の仕事だ。
「うぉおりゃああ!」
雄叫びと共にRユニットを装着し、魔導エンジンを起動させる綾香。
「アヤカさん無茶っすよ! もうシールド張れないんすよね!?」
顔を青ざめさせながらヘルマが言うが。
「シールドがなんぼのもんじゃい!」
綾香はそう言い残しライン川の上空へと飛んでいった。
「ちょっとイチロー、あたしのユニットないの!」
「いやあ、今日は休暇だからね。手荷物として持ってこれたのは一機だけだよ」
そんな会話を交わすルッキーニと宮藤博士を見たヘルマは、あることに気づいた。
ユニット台の横に、一本の扶桑刀が置かれたままになっている。
「ああ! アヤカさん武器忘れてるっすよ!」
Rユニットには機銃が備え付けられているが、綾香が得意とするのは扶桑刀による近接戦闘だ。
慌ててヘルマは空を見上げる。
すると、そこにはネウロイの体当たりを受ける綾香の姿が。
「アヤカさん!」
「いや違う、よく見るんだ」
宮藤博士の言葉を受け、ヘルマは目をこらす。
綾香は無事であった。
ネウロイの上を綺麗な弧を描きながら舞っている。
「出たー! アヤカの秘技、つばめ返し!」
ルッキーニが両手を上げ飛び跳ねながら言った。
つばめ返し。扶桑の航空ウィッチに伝わる空中戦ドッグファイトの奥義だ。
身を捻ると瞬く間に敵の背後を取ることができる。
ネウロイの後ろにぴったりと張り付きながら、綾香は叫ぶ。
「今のは疑似餌じゃい!」
それと同時に、ネウロイの装甲が大きく弾けた。
綾香の駆るRユニットはR-9AD "ESCORT TIME"。新型の波動砲を搭載した試作機だ。
搭載波動砲はデコイ波動砲。波動エネルギーで作られたデコイユニットを作り出す、試作魔導回路である。
ヘルマが見たネウロイの突撃を受ける綾香の姿は、波動エネルギーで作られた偽物の綾香。それがネウロイの表装に取り付いて、破裂したのだ。
波動エネルギーの破裂でネウロイの装甲が剥げ落ち、内部のコアが露出する。
それに向かって、綾香は手に持った武器を振るった。
綾香の手にあるのは扶桑刀ではなく釣り竿。
ザイオング慣性制御システムを完全に制御下に置いた美しいフォームで、釣り針をコアにめがけて打ち込んだ。
魔力で強化された釣り針がコアに突き刺さり、装甲の再生が始まるよりも速く綾香は釣り竿を引く。
「つるーぶるぅああッ!」
ネウロイからコアが勢いよく釣り上げられた。
コアを失ったネウロイの装甲は色を失い粉々に砕け散る。
そして綾香は手元へとたぐり寄せたコアに再生を封じる魔法をかけた。
ネウロイの生け捕り。綾香の軍人時代の戦友、穴拭智子が編み出した魔法技術である。
こうして綾香はライン川上空で一匹の飛行型ネウロイを一本釣りするという釣果を得たのだった。
「まだカールスラントからネウロイが全て消えたわけではないんだな……」
遠くに沈む夕日を見上げながら、綾香は宮藤博士の操縦するジープの後部座席でつぶやいた。
傍らの魚籠にはあふれんばかりの鮭が収まっている。
ネウロイを撃退した後の綾香は神懸かったとでも言わんばかりに次々と鮭を釣り上げていたのだ。
「いっくらー。いっくらー」
綾香の隣では、ルッキーニが宮藤博士から聞かされた『イクラ丼』を想像しながら、卵の詰まったメスの鮭の腹を突っついている。
渡されたイクラの醤油漬けのレシピメモを助手席でじっと見つめていたヘルマは、綾香のつぶやきを聞き後ろに振り返る。
「ライン川の西の向こうのガリアはネウロイの領域っすからね」
「三度のミッションもネウロイの根絶に至らず、か……」
綾香は前へと向き直り、遠くに見えるTeam R-TYPEの研究所を見て、拳を作る。
既に二十歳を超え軍を退いたこの身。しかし、魔法力は今だ失われずウィッチとしてまだ出来ることがある。
そう、最前線で戦いを続けるウィッチ達のために、新しいRユニットを送り出す手伝いが自分には出来るのだ。
「よーし、これからも世界中のネウロイと戦うぞー!」
立ち上がり右の拳を空に向けて突き上げる綾香。
それに続き、ルッキーニ、ヘルマ、宮藤博士も拳を空に掲げる
「おおー!」
頑張れ綾香! 負けるな綾香!
炎の釣りバカ少女、綾香の戦いは続く!
キャスト
釣りバカ綾香
釣りバカヘルマ
釣りバカフランチェスカ
釣りバカ一郎
Team R-TYPEの釣り人達
原作
ストライクウィッチーズ キミとつながる空
スカイガールズ
R-TYPE FINAL
またみてね♡
これで完結となりますが、短編連作形式のため気が向いたときに更新を行うかもしれません。