◆R-9Ø "RAGNAROK"
「アーデルハイト! 出撃だ! 出撃するぞ!」
北欧のある空軍基地で、Rユニットを身にまとった少女が個人兵舎で大声を上げた。
少女はRユニットで廊下を器用に飛行し、見知った部下の住む私室を開け放つ。
部屋の中では、少女より僅か年上の10代後半の女性が身体を休め読書に勤しんでいた。
「アーデルハイト、行くぞ!」
Rユニットの少女の声に、アーデルハイトと呼ばれた女性は本から視線を上げ、少女にうんざりとした顔を向ける。
「……少佐、整備中では?」
「そんなものとうに終わっている! 今の整備主任はわざわざR-TYPEから来た研究員だからな!」
Rユニットの少女は右腕と一体化した機銃で脚のユニットを叩きながら大きな声で笑った。
少女の名はハンナ・ルーデル。
カールスラント空軍第二急降下爆撃航空団所属のウィッチだ。
彼女はカールスラント空軍の中でも極めて『特殊な』ウィッチである。
ハンナ・U・ルーデルはかつて対地爆撃RユニットR-9B "STRIDER"を駆る空戦ウィッチであった。
R-9Bの搭載波動砲はバリア波動砲。ネウロイのあらゆる攻撃手段を防ぎ、大型ネウロイの突撃すら押しとどめる守りの波動砲だ。
そして機銃にはRユニット標準搭載のレールキャノンだけではなく、陸戦ネウロイ爆撃用の小型ミサイルが多数詰まれている。
フォース装着時のフォースレーザーは着弾分散レーザー。地上に向けて発射され、着弾と同時に四方へレーザーが飛び散るという代物。
R-9Bは空戦ネウロイの攻撃を波動砲で防ぎ、ミサイルとフォースレーザーで地上をなぎ払う名爆撃機と呼ばれていた。
ハンナはこのR-9Bを駆り欧州のネウロイ戦線で300をゆうに超える陸戦ネウロイを駆逐してきた英雄であった。
だが、彼女はただのエースパイロットではなかった。
その最大の特徴は被撃墜数。疾風の名の付くR-9Bだが、ハンナの出撃回数は他のウィッチ達の数倍にも及ぶものであり、その無理の結果今まで八回も陸戦ネウロイの対空レーザーで撃ち落とされた過去がある。
地に落ちた爆撃ウィッチは陸戦ネウロイに蹂躙されるのみ。であるはずが、彼女は地に落ちてもまるで陸戦砲撃手のように群がるネウロイを吹き飛ばし、生還し続けていた。
全身に傷痕が残り、その可愛らしい顔にも大きな一文字の傷が残っている。
その不死身性から付いたあだ名が『ストライダーの悪魔』だ。魔女を超えた悪魔の名は欧州戦線を駆け巡り、そしてTeam R-TYPEの目に止まることとなった。
Team R-TYPEは彼女専用の機体を用意した。
R-9Ø。開発コード『ラグナロック』。量産機であるR-9S "STRIKE BOMER"を爆撃ウィッチである彼女戦用にTeam R-TYPE直々にカスタムした機体である。
その最大の特徴は、同じくTeam R-TYPE純正の機体R-9C "WAR HEAD"の機構『ANGEL PAC』を発展させた機能である。
「しかしすばらしいな! ユニットと一体化するというものは!」
アーデルハイトの部屋で右腕と融合した機銃を振り回しながらハンナは笑う。
『ANGEL PAC』。それは機体の超高速起動にウィッチの身体を耐えさせ、継戦能力を維持するために考えられた機構。
四肢を排除し、除去した四肢や臓器をRユニットと一体化させるという画期的なものである。
これは、急加速に対する防護魔法に劣るウィッチでも超音速の領域で急旋回をするなど、ウィッチの域を超えた、魔女を『天使』に変える新世代の技術だ。
だが、最大の問題としてR-9CはTeam R-TYPEが手製で生産するカスタム機であり、「資質に劣るウィッチをエース級に変える」という開発コンセプトに合わず、欧州戦線の第二次ネウロイミッションでの投入を最後に凍結されてしまった。
しかしTeam R-TYPEは、Rユニットとウィッチの一体化という素晴らしい技術を眠らせたままにしておくつもりは毛頭なかった。
「資質に劣るウィッチをエース級に変える」のが駄目なら、「エース級のウィッチをトップエースに変える」。それに選ばれたのが『悪魔』であるハンナ・ルーデルだ。
用意されたR-9Øとハンナはネウロイの融合技術によって完全に同一化した。
だがTeam R-TYPEはたったそれだけで彼女の改造を終わらせなかった。
ハンナ・ルーデルはカールスラント最強のウィッチである。R-9Øとの融合時、年齢は14歳。ウィッチとして最大級の力を誇る年齢だ。
ウィッチは20歳前後で急激に力を失うのが定説である。Team R-TYPEが作りだした最強の機体を年齢というちっぽけな要因で失うわけにはいかない。
そこで彼らは、古代より伝わる魔道の秘術とネウロイの解析によって解き明かされた生命工学を組み合わせ、ハンナの身体年齢を14歳に固定した。
そうして最終兵器『ラグナロック』が誕生したのであった。
誰よりもネウロイを駆逐することに熱意を燃やすウィッチ、ハンナ。
彼女の原動力は復讐心でも愛国心でもない。戦場で戦うことそのものが彼女のやる気の元であった。
ゆえに幼い少女ゆえの戦う事への葛藤もない。四肢を切断し代わりに機銃と義手とRユニットを取り付けるのも二つ返事で承諾した。
そして今日も己の身体の整備が完了するとともに、彼女の副官であり僚機を務めるアーデルハイトの下へと駆け込んできたのだ。
器用にも人の走る速度で基地内でRユニットを駆る様子は、まさしく空戦ウィッチとしての才能のなせる技であろう。
アーデルハイトはため息を一つつき、立ち上がる。
休む間もなく出撃を繰り返すハンナに付いていってはとても身が持たない。が、ハンナはたった一人でも無数のネウロイの群れに突撃していくような戦争馬鹿だ。
いつの間にやらアーデルハイトの心の中には「私がついていないとこの人は駄目だ」という気持ちが生まれていた。なにせ、R-9Øと融合してからは満足に身の回りの雑事をこなすことすら出来なくなっているのだから。
「解りました。他の出撃人員は?」
「聞いて驚け、私とお前二人だけ(ロッテ)だ! 爆撃し放題だぞ!」
「はあ、そうですか……」
まあこれもいつものことか、とアーデルハイトはため息をつく。
R-9ØはTeam R-TYPE製ともあって超火力だ。アーデルハイトの駆るR-9Bとは比べものにならない性能である。自分が僚機を務めるのもいざというときの回収係という意味合いが強い。それが僚機の仕事と言ってしまえばそれまでなのだが。
「少佐、一言良いですか?」
「うん? 何だ?」
「いろいろ狂ってますね、ラグナロックって」
「そうだな、R-TYPEのやつらは良い具合に狂っていて最高だ!」
アーデルハイトはラグナロックと一体化している貴女も狂っているのですよ、とは言わなかった。
戦果報告。
昆虫型小型陸戦ネウロイ18機を対地ミサイル及びガイドレーザーにて撃墜。百足型大型陸戦ネウロイ1機をメガ波動砲にて撃墜。
大型ネウロイの対空レーザーがR-9Bのバリア波動砲チャージ時にR-9Øに命中。R-9Øのシールドを貫通し機体に損傷が見られたため帰還した。
北北東方面からのネウロイの侵攻が見られたがコロニーの発見には至らず。
R-9Ø搭乗者の身体には負傷は見られないが、R-9Øのユニット部に損壊が見られたため負傷扱いとしてハンナ・U・ルーデル少佐の休養を申請する。
-カールスラント空軍第二急降下爆撃航空団 アーデルハイト中尉-
そんな報告を上げ、上層部からハンナに休息を与えて貰うよう望んだアーデルハイトであった。
だが、肝心のハンナの様子はと言うと。
「修理が終わり次第出撃だ! 北欧の夜明けは近いぞ!」
アーデルハイトはため息をつく。
本当に狂っている。R-9Øのユニットは最早ハンナの心臓だ。それが損壊したというのに、全く気にした様子が見られない。
狂気の集団Team R-TYPEと彼女の相性はあまりにも合いすぎていたようだ。
これ以上の戦果を上げては、彼女はさらなる改造を受け、最終的にはネウロイと相違ない生命体へと変えられてしまうのではないだろうか。そうアーデルハイトは悪寒を走らせる。
自分が出来るのは、少しでも多くハンナに休息を取らせ、悪魔の開発部にこれ以上注目をされないようにすることだろうか。
そんなことを思うアーデルハイトの心中とは裏腹に、その後も戦果を上げるハンナとR-9Ø。
彼女達が北欧一帯からネウロイを駆逐する最終作戦、オペレーションコード『THE THIRD LIGHTNING』に投入される日は近い。