R-WITCHES   作:Leni

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STRIKE WITCHES(後)

 

 見覚えのある場所。

 見覚えのある仲間達。

 だけど……

 …………なぜ?

 

 

 

◆R-9A "ARROW-HEAD"

 

 リネット・ビショップ。

 ブリタニア空軍所属。階級は軍曹。

 ウィッチ養成校卒業と同時に501JFWに派遣された新兵。ろくな訓練もなしに最前線へ送られたのはかわいそうだったが、まあ今のネウロイ戦線ではよくあることダナ。

 最初は本当に何もできないダメダメなヤツだったが、使用ユニットR-9Dでの狙撃に目覚めてからは後方からの長距離波動砲撃でネウロイコアをいくつも撃ち抜いてきた。

 トップエース揃いの隊の中では放っておくと何を遠慮しているんだか、一人でいようとすることが多かったのでワタシは出来るだけ一緒にいるようにしていた。親友と呼べる仲になった、ならイイナァ。

 隊のみんなからはリーネと呼ばれている。ワタシも呼んでいる。おどおどしたヤツだが笑うと可愛い。狙撃の時の顔は怖い。

 

 ぺリーヌ・クロステルマン。

 ガリア空軍所属。階級は大尉。

 501JFW創設前からガリアの最前線で戦い続けてきたトップエース。航空ウィッチにひつようなあらゆる能力が高い完全無欠の天才。固有魔法は雷撃を放つというもので、中型ネウロイを叩き落とす火力を持つ。波動砲と同時に固有魔法を放てばコア位置が特定されていないネウロイも蒸発する。飛行魔法に必要な魔力が瞬間的に枯渇して墜落するけど。

 その能力の高さから狂気の集団Team R-TYPEに目を付けられたかわいそうなウィッチ。でもガリアを取り戻すためと、それまで使ってきたエース専用機R-9Leo2からR-9Wに乗り換えたのが約半年前のことだ。

 スオムス戦線でラグナロック大佐と戦場を共にしてTeam R-TYPEはろくなものではないと知っていたワタシはペリーヌを止めた。止めたんだけど、結局ヤツラの下へと向かってなんと大佐と仲良くなって帰ってきた。ワケワカラン。

 

 二人とも、ワタシの大切な戦友だ。

 ネウロイコロニーの突入役を決める際は一悶着あったけど、それでも作戦前は絶対に生きて返ると三人で誓ったんだ。

 その彼女達が、どういうわけかコロニーから生還したワタシとR-9Aに銃を向けている。

 

 ワタシは必死に未来を覗いて弾丸とレーザーの嵐を回避する。

 怖い。あれだけ頼もしかったはずの二人の機体がすごい怖い。二人が駆るのはR-9DとR-9W。

 それは人に向けて良い兵器ではない。Rユニットは人類の敵ネウロイを倒すための最終兵器なんだ。

 

 R-9D "SHOOTING STAR"。遠距離射撃を目的として作られた機体だ。

 星落としとは良く言ったもので、その驚異的な照準性能と圧倒的な破壊力で新米で頼りなかったリーネを一人前のエースに育て上げタ狙撃手の盟友。

 Team R-TYPE曰く「ウィッチを一人消費すれば月まで届く」という長距離圧縮波動砲はワタシの未熟なシールドなど軽々と貫いてしまうだろう。

 

 R-9W "WISE MAN"。Team R-TYPE純正の実験機。

 特殊な魔導回路を組んだ波動砲の実用実験のために開発されたラシク、この機体の波動砲はウィッチの思考操作で『曲がる』。

 R-TYPE純正の名は伊達ではなく、ウィッチに対し相当な精神負担を強いるじゃじゃ馬だ。それこそこの機体を乗りこなすには、おとぎ話の賢者でもなければ不可能であると整備兵が立ち話をしていた。

 ペリーヌも出撃のたびにへろへろになって帰還し、毎回自力でRユニットを取り外せないほどに消耗しテいた。裏を返してみれば、ウィッチを限界まで消耗する化け物機ということデアリ、アローヘッドで立ち向かえるような相手ではない。

 

 リーネの波動砲がワキをカスメ、勝手に外れたかと思ったペリーヌの波動砲が曲がり、回避行動を取っていたワタシに襲いかかる。

 ワタシはそれを機体の限界まで急制動をかけて回避する。レールキャノンとミサイルであればフォースやビットで防げるが、波動砲はダメダ。隙間をすり抜けたエネルギーがシールドを打ち破ってRユニットごと消滅させられてしまう。

 

 ワタシがネウロイだったらこの攻勢で何度撃墜サレテイタダロウカ。

 

 どうすれば良いんだろう。通信に答える声はない。

 二人は明らかに本気だ。エースウィッチ二人の完璧なコンビネーション。ワタシはコノママ死ぬのか?

 死ヌ。嫌ダ。死ニタクナイ。

 ジャアどうする? ソウダ、撃ち落とせばイイ。

 

 大丈夫、Rユニットを正確に狙えば死にはシナイ。下は巴里の廃墟だけど、大破さえさせなければシールドで耐えきってくれるはず。

 

 魔力を脚に込め、急加速。狙うはリーネのR-9D。

 ペリーヌの射撃は正確じゃない。R-9Wの曲がる波動砲を真っ直ぐ撃つのは難しいと言ったのはペリーヌ本人なんだ。

 フォースレーザーもR-TYPE純正にふさわしい大火力で、リーネに近づいてしまえばフレンドリーファイアを恐れてペリーヌは手だしできなくなるはずだ。ワタシは仲間を信じているから、ペリーヌは絶対に撃たない。それこそ、この状況で正確に敵だけを打ち抜けるのは501では今接近しているリーネくらいだ!

 

 R-9Dへと肉薄。この距離でリーネは戦ったことがないはずだ。

 空戦型ネウロイの基本はレーザー。突進が得意な陸戦型ネウロイ相手でも、航空ウィッチが気をつけなければいけないのは対空砲と対空レーザーのみ。そしてウィッチ同士の模擬戦も501ではペイント弾での射撃戦だ。でもワタシは北欧で扶桑のカタナ使いと模擬戦を何度もしたことがある!

 

 機体を限界まで加速させて逃げようとするリーネと交差する。ワタシの横に浮かぶビットがR-9Dの左脚をかすめる。リーネはコロニー突入の際に左のビットを失っていた。ツマリそこがリーネの防御の穴だ。

 

 機体を反転。リーネのRユニットがわずかにえぐり取られ、黒煙を上げ始めたのが見える。バランスを失ったリーネは回転しながら高度をゆっくりと下げていった。

 そのリーネの様子に驚いたのか、ペリーヌの動きが目に見えて荒くなる。

 R-9Wは精神制御に頼る部分が多い。この隙は、逃さない。

 波動砲を一瞬チャージ。シールドを貫く最低限の威力を込めた赤いエネルギーがフォースの先から飛び出す。

 波動砲を曲げられるのはR-9Wだけじゃない。ソウ、ワタシの波動砲も曲がるハズなんダ。

 

 波動砲がR-9Wのユニットに食らいついたのヲ確認すると同時に、ワタシは全力でこの場を離脱シタ。

 リーネが無事なら地上から波動砲で狙い撃ちされてしまう。

 

 高度を下げ、廃墟の街へと降り立つ。

 ネウロイの影響で黒く染まっていた町並みは夕日に照らされ美しく輝いている。

 

 幼い日に見た巴里を舞台にした映画を思い出す。

 小さな劇場のモノクロの映画。その風景が今、目の前に色鮮やかに広がっていた。

 

 美シイ。

 ソウダ、ワタシはこの人のスム街へと帰るタメに戦ってきたんダ。

 

 ――帰リタイ。

 

 スオムスニ、帰リタイ。

 そうだ、ガリアの戦いは終わったンだ。基地へと帰還して、原隊復帰の指令を待とう。

 

 基地の方角へと身体を向けた瞬間。

 視界の端から何かガ高速で接近し、そしてワタシにぶち当たった。

 

 咄嗟に盾にしたビットが大きくはじけ飛んだ。

 

 敵襲か!?

 揺れる機体を制御し、己の横を通り過ぎたであろう敵を視界の中に収める。

 夕日と同じ色をしたRユニットを駆るウィッチが弧を描いて旋回し、ワタシに向かっテ機銃の先を向けた。

 特徴的な形状の機銃からは、二本の巨大なアームが伸びていた。

 

 あの機体は、R-9F "ANDROMALIUS"。アームはRユニットのフォース制御機構コントロールロッドを拡張した『コントロールアーム』だ。おそらく、ワタシはあのコントロールアームで殴らレたのダロウ。

 アームでの敵機への近接戦闘。そんな無茶をするウィッチは一人しか心当たりがナイ。

 バルクホルン大尉。ワタシと同じ501JFWの仲間ダ。

 彼女の愛機R-9Fはカールスラントの試験機で、ネウロイ係数ノ高イフォースヲ制御スルタメノコントロールロッドヲ強化サレタ機体ダ。

 高密度のエネルギーヲ持つロッドレス・フォースをその巨大なコントロールアームで制御する特殊機体。

 そのアームをこの人は固有魔法の馬鹿力で近接用ノ武器に変える。

 

 再びR-9Fが急接近してくる。

 またアームの攻撃か、と身構えるが機銃の先端に光が灯っているのが目に入り咄嗟に急上昇。

 ユニットの底ぎりぎり近くを衝撃波が通り過ぎる。

 本来なら波動砲の回路を持たないはずのR-9Fに特別に組み込まれた衝撃波動砲だ。戦場でそのチャージ光を見慣れていなければ今頃挽肉ニなっていたトコロだった。

 

 R-9Fはレールキャノンもフォースレーザーも撃ってこない。また視界のすみで旋回し、こちらへと突進してこようとする。

 ここは巴里の市街地。無闇に機銃を撃って建物の崩落を防ごうとシテルのカナ。

 人が去って数年、溜まった砂埃の量は多い。そんな状況で無闇やたらに弾丸を飛ばセば、アタリ一面砂煙に紛れてしまう。

 それゆえの接近戦。そもそも501で最も接近戦を得意とするのは彼女ダ。

 

 怪力でのアーム攻撃と衝撃波動砲の合わせ技はヤッカイナコトこのウエナイ。

 ワタシは自分の安全を守るため、あえて四方へとフォースレーザーをぶちまけた。

 建物が倒壊し、予想通り砂煙が舞う。さらにはレーザーの火力で火災がウマイ具合ニ起き始めたようだ。

 Rユニットを動かし、ワタシは煙の中へと紛れる。シカイが真っ暗でミエナクなるけど大丈夫。魔法の感覚が次どこを敵が通るか知らセテくれる。

 

 1、2、3、発射。

 対空レーザーの照射と共に煙の中から飛び出す。

 予想通りだ。優秀なバルクホルンはしっかりとレーザーをシールドで受け止めている。

 ダケド、シールドは名前の通り盾ナンダ。一方向からの攻撃しか防ぐことがデキナイ。

 地を這うように飛ぶワタシ。

 荒れた巴里の道路からは1メートルもない高度で機体を飛ばしてイル。

 気分はさながら陸戦用R戦闘脚TW-2を操る陸戦ウィッチだ。

 シールドを地面に対しほぼ垂直に展開するバルクホルンの下をクグリヌケる。

 その最中にR-9F底部のフォースを抱えるコントロールアームをレールキャノンで撃ち抜いた。

 

 コントロールアームを失い制御を失ったフォースが暴走し、R-9Fの底部を吹き飛ばす。

 バルクホルンは咄嗟に機銃側のアームでフォースを制御シニかかったヨウダ。

 暴走したフォースの制御まで含めて計算通り。さすがはあの国が誇る無敵のエースダ。

 しかし、その機体デハもう戦えないはずダナ。

 

 ワタシはまた逃げるように機体を走らせる。

 彼女が追ってこないように。仲間に銃を向けないために。

 

 急いで基地へモドロウ。

 ここはナニカガおかしい。

 

 廃墟の街から飛び立ち、北東へ。

 帰りたい。だけれど、また誰かがワタシを追ってくる。

 

 あれは、長距離航行用ニカスタムシタR-9B "STRIDER"。ソレトR-9DH "GRACE NOTE"。

 見覚えのある仲間の機体だ。搭乗者は

 

 …

 

 ……

 …

 

 ………

 

 黒い悪魔とスペードだ。

 敵だ。いや、チガウ。仲間ダ。撃ち落とさないと。

 

 スペードノ持続式圧縮波動砲ハ厄介ダ。リーネチャント同ジクライ凄イ射撃ヲシテクル。

 黒イ悪魔ノR-9Bモ注意ガ必要。R-9Aニ並ブ名機デソノ安定性トシールド波動砲ノ防御性能ヲ武器ニ悪魔ハ無茶苦茶ナ軌道ヲスル。

 

 デモ大丈夫だ。ワタシにはワタシだけの波動砲がある。

 赤い可愛い波動砲。名前は何にしよう。

 そうだなー。デビルウェーブ砲っていうのはどうかなサーニャ。

 

 チャージチャージ発射。

 

 どーんどーんどーん。でも大丈夫。波動砲には手加減するように言ってあるから死なないよ。

 私は仲間思いなんだぞーサーニャ。

 

 あ、自立自走式移動コンテナだ。補給に来てくれたのか。

 POW ARMORは相変わらず可愛いなー。

 よし、魔力がみなぎって来たぞー。

 

 …

 

 …………

 

 ……

 

 ………

 

 …

 

 おっといけない、疲れで意識が飛んでたみたいだ。危ない危ない、飛行中だぞ今は。

 何だったかな。

 そうだ、帰るんだった。スオムスに。

 

 今はガリアの巴里を出たところだから、どう行こうか。地図は手元にないからどうするかな。

 とりあえず東に向かおうか。夕日を背に真っ直ぐ進めば何とかなるかなー。カールスラントに入ったら誰かに道を聞けばいいかな。

 カールスラントを横断したあと北に向かえばバルト海が見えてくるはず。バルト海まで進めばスオムスはすぐだ。

 

 夕日を背に東へ。

 風を切ってガリアの空を進む。

 

 すると、聞き慣れた飛行機のプロペラ音が左手方向から聞こえてきた。

 ガリアが解放されてさっそく軍かどこかの連絡機が飛んだのだろうか。

 

 顔を横に向けてその姿を捉える。

 と、そこに飛んでいたのは銀色に輝くレシプロ機だった。

 

 ……銀色?

 

 人が乗る飛行機に銀の塗装がされたものは存在しないはずだ。

 そう、だってその色は北欧地帯を飛び交っていたネウロイの色なのだから。

 

 どういうことだ。

 目をこらし、銀のレシプロ機を注視する。

 

 レシプロ機は私のいる方角へと飛んできているようだ。

 一機だけと思った機体は、やがて地平線の向こうから二機三機と数を増やしていく。

 

 まるで私の行く手を阻むように編成された銀のレシプロ戦闘機二個中隊がこちらへと向かってくる。

 

 いや、あれは戦闘機じゃない。銀色の流体金属で形作られたネウロイ、メルトクラフトだ!

 スオムスの悪夢が蘇る。なんだ、なんだこれは。

 

 ガリアのネウロイは私の手で全て消滅したはずだ。

 いや、そもそも西欧戦線のネウロイは黒い装甲のはずだ。銀の装甲は北欧のネウロイの特色だ。

 

 近づいてくる。

 くそっ、新しいコロニーが現れでもしたのか。

 

 機銃を向け、対空フォースレーザーを発射する。

 赤い歯車状のエネルギーの塊が先頭を飛ぶメルトクラフトの装甲を抉る。

 メルトクラフトは流体金属のネウロイ。簡単に装甲を吹き飛ばしコアの位置を暴くことができる。

 

 滴になってはじけ飛ぶ装甲の奥。そこあったのはネウロイコアではなかった。

 そのコアの輝きは明らかに人の手で加工されたもの。

 フォースやビットと同じようなオレンジ色の輝きを放っている。

 

 ……つまり、この流体金属ネウロイは人の手によって作られたということだ。

 

 どういうことだ。レーザーで吹き飛ばした内部に人は乗っていなかった。

 そしてネウロイである証拠に、吹き飛ばした装甲は時間を巻き戻すかのように再生していく。

 

 フォースをネウロイが取り込んだのか?

 いや待て、そうだ、作戦前にブリタニア空軍の大将さんが言っていた。

 隊長に向かって自信ありげに胸を張っていたんだ。ウィッチの力に頼らない「人道的な新兵器」の用意があると。

 

 人道的。その響きは、人類最高の研究機関Team R-TYPEの対極を行く言葉だ。

 人道的、人道的。ああ、このネウロイには人が乗っていないのか。撃墜されても人的被害がない、そういうことか?

 

 でも、この銀に輝く装甲素材は、明らかに北欧戦線で捕縛されたネウロイのものだ。人道的でも、スオムスを蹂躙したネウロイを使うというのはどうなんだ。

 私はスオムスの悪夢を思い出し、吐き気がこみ上げて……こない。

 そうだ、元々フォースだってネウロイコアを加工した兵器じゃないか。

 このメタリックな素材はむしろ親近感を覚えないか?

 

 とと、油断した。体当たりされるところだった。

 今は何故か仲間達がこちらに向けて銃を向けているという異常事態なんだ。

 ブリタニア空軍の新兵器ならこいつも私を狙っているってことになる。

 

 幸い、この銀のレシプロはパイロットが乗っていない。

 やっぱり加工したコアを使った無人機かな? スゴイナー。

 

 機銃を向けてメルトクラフトもどきの群れに向けてフォースレーザーをばらまいた。

 面白いように相手の装甲がはげていき、次々と人工コアが露出していく。

 それを一個一個レールキャノンで狙撃し、コアを破壊する。

 メルトクラフトもどきからも反撃の銃撃が降り注ぐが、R戦闘脚と比べたらさしたる驚異でもない。

 元々メルトクラフトは新米航空ウィッチ達が撃墜数を稼ぐための脆い小型ネウロイなのだ。今の最高に気分が良い私にとって、二個中隊など敵にもならない。

 

 全てのコアを撃ち抜き、敵編隊の沈黙を確認。

 邪魔が入ったけど、スオムスに帰らなくちゃな。

 

 ……帰らなくちゃいけないんだ。なのに、また敵が来た。

 アローヘッドだ。フォースもビットもない素の機体。

 

 加速を緩め、アローヘッドと向かい合う。

 こいつは敵だ。仲間じゃない。501にはR-9A使いはいない。

 だから、倒す。私の邪魔をするならウィッチが相手だって容赦はしない。

 

 急加速。

 相手も加速を始めるが、遅い。

 アローヘッドの加速の仕方はそうじゃない。私の愛機だ。誰よりも知ってる。

 ドッグファイトにすらならない。容易に背後を取った。

 終わりだ。レールキャノン掃射。

 

 ……ッ! かわされた!

 

 何だ今の動きは。まるで背後に目があるかのように減速回避された。

 でも、まだ戦いは始まったばかりだ。

 相手のシールド展開の認識の外を縫うように機体を旋回させる。

 対ネウロイ戦には必要ない空戦技術。模擬戦を繰り返しているうちに習得した人類に必要のない技だ。

 フォースもビットもない相手ならば、容易に命中させられるはずだ。

 

 ってああ! また回避された!

 レーザーも駄目か。どうなってんだ。

 アローヘッドにこんな奇妙な軌道を補助する機構なんて付いていない。だとすると、ウィッチの固有魔法か。空間把握か、私と同じ予知か。

 だけど回避されるなら、攻撃の手を増やせばいい。

 フォースにはレーザー発射機構の他にレールキャノン発射機構も備わっているんだ。それも四門。

 フォースレーザーの威力が高く、フォースレールキャノンは狙いが定められないので、フォースレールキャノンを使うウィッチは少ない。

 そしてウィッチ同士での模擬戦にはフォースの使用が禁止されている。だからこそ、模擬戦に慣れたウィッチを相手にするときに、フォースレールキャノンは決定打になりうる可能性が高いんだ。

 当然今まで人に向けてフォースレールキャノンを向けた事なんてない。いや、そもそも数時間前まで人に向けてフォースレーザーやビットでの体当たりなんてやったことがなかったんだ。

 それでも私は帰るために、こいつを落とす!

 

 機銃、構え。フォース発射。

 四方に銃弾をまき散らしながらフォースが飛ぶ。レールキャノン以外にも、フォース自体が高密度のエネルギー砲弾だ。

 避けるであろうコースを予測。機銃の先を予測コースへと向ける。

 

 アローヘッドは回避行動を取る、と思われたがぐるんとその場で一八〇度回転した。

 何を、と思う間もなく、ガリアの空に閃光が走った。

 目がくらむ、が、見えた。

 フォースが。私のフォースが、アローヘッドに奪われた!

 ヤツはコントロールロッドを飛来するフォースに向けて射出して、私のフォースのコントロールを奪い取ったのだ。

 

 驚愕する。

 こんなことが可能なのか?

 あのフォースは私のコントロールロッドの支配下にあったはずだ。

 そんなことができるのか。わからない。わからない。

 

 いや、落ち着け私。

 ヤツがフォースをこちらに向けたぞ。反撃が来る。恐ろしいR-9Aのフォースレーザーが来る!

 

 魔法の感覚に身を任せるまま機体を空に走らせる。

 すれ違いざまに赤と青の対空レーザーが来る。

 上空に逃げると、三方向に飛ぶ青い反射レーザーが行く先をなぎ払う。

 下を潜り背後を取ろうとすると黄色の対地レーザーがガリアの大地を抉る。

 

 なんて完璧なレーザーの使い分けだ。

 加速だけを見てアローヘッド操作の素人と思ったのは完全な勘違いだった。こいつは完全にアローヘッドを使いこなしている。

 だが私だってアローヘッドをずっと愛機として使い続けてきたウィッチだ。フォースレーザーの切り替えには独特の『癖』がある。その隙を突いて、フォースを奪い返してみせる。

 

 高度を上げ対空レーザーを誘い込む。その後に対地レーザーに切り替えさせて接近だ。

 

 ――1、2、3、今だ!

 

 Vの字を描くように急上昇。このまま正面から接近してコントロールロッドを――

 

 ダメだ、死ぬ! 回避回避回避!

 頭の上をフォースが勢いよく通過していった。こいつ、まるで私の動きを初めからわかっていたかのようにフォースを撃ち出したぞ。

 予知がなければ蒸発していたところだった。フォース相手にシールドは無意味だ。実戦でシールドを使わない――いや、咄嗟にシールドを使えない私じゃなかったら確実にやられていた。

 しかしチャンスだ。レールキャノンの弾を吐き出すフォースへと機体を旋回させ、機銃を構える。

 コントロールロッド、射出。

 

 ……あれ、どうしてだ。フォースが私の支配下に戻らない。

 このままじゃ危ない、フォースに衝突してしまう。

 

 上空に離脱しながら、私はフォースを睨み付ける。

 私のフォース。R-9Aと一緒にずっと戦いを共にしてきたフォース。なのに、どうして……。

 

 ! いけない、敵から目を離してしまった!

 

 機体を捻りアローヘッドを視界に入れる。

 すると、ヤツは機銃をこちらに構え夕日のような輝きを銃口に灯していた。

 波動砲が、来る。

 

 空を引き裂いて波動砲が撃ち出される。

 確実に私に命中する軌道。未来が見えていても避けられない一撃。

 けれど私は、Rユニットの飛行魔法の限界を超えて加速の方向を『反転』させる。ぐちゃぐちゃに押しつぶされそうなGが全身を襲う。遅れて、鼓膜が破れそうになる轟音が感覚器官へと届いた。

 避けれ、た?

 

 ――いや違う、まだヤツの波動砲は終わってない!

 

 アローヘッドの魔導回路ではあり得ないはずの続けざまの波動砲が撃ち出された。

 体の中身がGで潰れる感触を味わいながら、私はそれを回避する。

 さらにもう一発、波動砲が来る。体表の穴から体液が噴き出す感覚と共に私はそれを避けた。

 

 連射機構を備えていないアローヘッドでの三連続波動砲。

 ヤツの機体はカスタム機なのか?

 いや、違う。アローヘッドはオーバーヒートを起こしたのか黒煙を上げている。

 Rユニットには化石燃料は使われていない。おそらく、魔力の暴走でRユニットに使われている資材が加熱、蒸発しているのだ。

 

 ユニットの内部で別次元に繋がっているヤツの両脚は、魔力の暴走で一体どうなっているんだろう。

 もしかすると、逃げるチャンスかもしれない。

 ……いや、ダメだ。何となくだが、私の身体も無理な回避行動の連続で、取り返しの付かない状態になっている気がする。

 ここで、倒さなくては。

 

 レールキャノンを構え、牽制弾を撃つ。

 アローヘッドは煙を上げながらもそれを回避する。

 二発、三発と撃つがどれもシールドも使わずに回避された。

 

 やっぱり、アローヘッドは私の動きを先読みしている。

 未来予知、ではない。私みたいな急旋回による回避ではなく、綿密に組み立てられた熟練航空ウィッチの回避動作だ。

 アローヘッドは、私の動きを知っている。エイラというウィッチの戦い方を知っている。

 

 アローヘッドを駆る相手が誰かはわからない。

 どういうわけか、ヤツの姿を正確に捉えられない。

 だけどわかる。敵は私の戦い方を全て知っている。

 

 笑いが漏れる。

 おかしい。

 かないっこない? いや、違う。

 エイラの戦い方を知っているから何だと言うんだ。今までエイラが使ってきた戦闘脚はR-9A "ARROW-HEAD"だ。

 搭載機銃、レールキャノン。搭載フォース、スタンダード・フォース。使用可能フォースレーザー、対空レーザー、反射レーザー、対地レーザー。搭載ビット二機。搭載波動砲回路、スタンダード波動砲。

 現代航空ウィッチの教科書のようなラインナップ。

 でもそれももはや過去のこと。

 さあ、波動砲チャージ開始だ。

 

 アローヘッドのレーザーをかいくぐりながら、二段チャージ。

 未来が見える。引き金を引け。まっすぐ行ってどーんだ。

 

 咆哮を上げてデビルウェーブ波動砲が空を切り裂く。

 

 アローヘッドは回避行動を取る。

 でもこれはスタンダード波動砲ではない。避けようとも牙を打ち鳴らしながら敵へと食らいつく魔弾だ。

 

 波動砲は螺旋の軌道を描き、アローヘッドへと命中した。

 凝縮されたエネルギーが解放され、ガリアの空に赤い花を咲かせた。

 

 光はやがて消え、アローヘッドはフォースを残して世界から姿を消した。

 

 私は加速していた機体を止め、旋回させる。

 戦いは終わった。

 さあ、進路を戻そう。東の空へ。

 

 魔力をユニットに流し、ゆっくりと速度を上げる。

 身体を再生させ魔力を全身から絞り出す。

 もう私を止めるものは何もない。

 帰ろう。

 501はもう私を迎えてはくれない。

 仲間達はもう私に笑顔を向けてはくれない。

 

 だから帰ろう。スオムスへ。

 私の帰るべき故郷へ。

 

 

 

◆N-1D "NEUROI SYSTEM α"

 

【ネウロイ素子強化サンプル】

 当初は軍の型番コードを持たなかった機体である。

 人類の手で開発された機体ではなく、ガリア共和国北部の海岸を漂流する事故機を回収したものである。回収時点ではネウロイだと思われていたが、分析の結果、内部にコアはなく代わりに変質したR-9Aが入っていることがわかった。ボイスレコーダーなどの解析結果から、ガリア解放戦に参加したR-9Aが敵の攻撃を受け変質したものと結論づけられた。その特性から、機体表面に付着した「ネウロイ素子」の研究用に極秘裏にTeam R-TYPEへ輸送することが決定した。

 ガリア解放戦での本機のR戦闘脚に対する戦果は圧倒的で、ガリア解放戦に当たっていた連合軍第501統合戦闘航空団とブリタニア空軍特殊ネウロイ航空弾第一中隊及び第二中隊を退けている。

 ガリア解放戦に参加したウィッチの中で本機に撃墜されなかった者は、本機の搭乗ウィッチ本人と補給を受けるために前線から撤退していたシャーロット・E・イェーガー少尉のみである。

 回収されたボイスレコーダーによると、ネウロイ化した後も人としての意識が残っていたようであり、これもまたネウロイ素子を用いたR戦闘脚開発に関する貴重なサンプルであると言える。

 

 撃墜記録

・NM-02 "WARLOCK" 二十八機

・R-9B エーリカ・ハルトマン中尉

・R-9D リネット・ビショップ軍曹

・R-9DH ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ少佐

・R-9F ゲルトルート・バルクホルン大尉

・R-9W ピエレッテ=アンリエット・クロステルマン大尉

・R-9A アレクサンドラ・ウラジミーロヴナ・リトヴャク中尉(作戦本部の判断により特例で昇進)

 

 -1943年、連合軍よりTeam R-TYPEへ向けた軍事資料より抜粋-

 

 

 

 

 

 夏の夕暮れ

 やさしく迎えてくれるのは

 海鳥達だけなのか?

 

 -回収されたボイスレコーダーより-

 

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