R-WITCHES   作:Leni

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スオムスいらん子中隊爆発する

 

◆R-9S "STRIKE BOMER"

 

「みなさーん、聞いてくださーい! 今日はなんとスオムス空軍と模擬戦をします!」

 

 カウハバ空軍基地。その基地内に用意されたスオムス義勇独立実験中隊の指揮所で、実験中隊長であるエルマ・レイヴォネン中尉は集められた隊の面々へと突如そんな事を言い出した。ちなみに現在時刻は朝の六時だ

 模擬戦。そんな予定は今この場に来るまでに一切聞かされていない。

 その突然の隊長の話に噛みついたのが、隊の訓練を任されている穴拭智子少尉だ。

 

「どういうことですか。まさか、今日になるまで伝え忘れてたとかじゃないでしょうね」

 

「ち、違いますよー。ハッキネン大尉も昨日の深夜に叩き起こされて聞いたって言ってました……」

 

「大尉が叩き起こされて? 軍部の上の指示ってこと?」

 

「わからないですけど、なんだか偉い研究員の人が来てるらしいです」

 

 偉い研究員。スオムス軍の兵器開発部門の人だろうか。

 ハッキネン大尉に対して無理を通せるような偉い階級の研究者がスオムス軍にはいるのか、と智子は頭を捻る。スオムスは配備する兵器を他の国からの輸入に頼っている。高い地位を与えられるような兵器開発者がいるとは想像しがたい。

 

「確か、Team R-TYPEとかいうところの人らしいです」

 

 そうエルマが言うと同時、それまで部屋の端で図板にペンを走らせていた幼女、ウルスラ・ハルトマン曹長がペンを放り投げ、じっとエルマの顔を見つめた。

 普段はまともに会話すら成立しない部下に見つめられ、エルマはうろたえる。

 

「ど、どうかしましたかぁ」

 

「……どうかした、じゃないわよ」

 

 呆れたように智子はため息をつく。

 Team R-TYPE。対ネウロイ兵器であるR戦闘脚を作りだした技術者集団。その技術力は軍の兵器開発部門や軍需企業の何十年も先を行くと言われている。

 所属する研究員は世界各国から集まった天才ばかり。智子の愛機であるロ式九七戦闘脚もTeam R-TYPEが提唱した魔導理論を受けて扶桑軍が開発した機体だ。

 

「ほへー、すごい人達なんですね。でもなんで急に模擬戦なんでしょう」

 

 隊員に模擬戦を知らせたエルマ本人が疑問の声を上げる。

 模擬戦のことをついさっき知らされた智子達にそんなことわかるはずがない。

 

「アホちゃん達に配備された新型機の試験じゃないかな」

 

 そうコメントしたのはリベリオン出身のキャサリン・オヘア少尉だ。

 

「ああ、あの、R……なんちゃらアローヘッドですか」

 

「R-9Aね。ハルカのR-9A2の元になった機体よ」

 

「え、わ、わたしのですか」

 

 突然話を振られた迫水ハルカ一等飛行兵曹が慌てて背筋を伸ばす。

 彼女の飛行脚はR-9A2 "DELTA"。扶桑海軍が航空ウィッチに配備した初のR戦闘脚だ。

 旧式の飛行脚を持たされてスオムスへと送り込まれたウィッチ達の集まり『いらん子中隊』の中で、唯一の最新兵器持ちがハルカだ。機体性能は非常に高く、「試し乗りさせて」と隊の他のメンバーに言われることも多い。

 

「詳しいわねキャサリン。リベリオンもR戦闘脚に乗り換えしているのかしら」

 

 そう智子は感心したように言う。

 

「んーん、アホちゃんが自慢してたのを聞かされただけ」

 

 そう笑いながらキャサリンが答える。

 アホちゃんとは、彼女達と同じくこのカウハバ空軍基地に駐在している航空ウィッチ部隊、スオムス空軍第三機械化航空歩兵大隊第一中隊の中隊長ミカ・アホネン大尉のことだ。

 同じ基地に所属するの航空ウィッチとしてアホネンは智子の戦友であり、ライバルであり、そして天敵だった。

 

「まあ、模擬戦も悪くないわ。別の隊が相手っていっても、同じ基地の仲間との訓練と思えば戦力の底上げになるわね」

 

「あの、それなんですけど、相手はアホネン大尉のところじゃないんですよー」

 

「は? どういうことよ」

 

「えっと、つい今朝方他の基地のウィッチさん達が模擬戦のためにここにやって来たんですよ」

 

「……ハルカ、そんな人見た?」

 

「い、いえ、見てないです」

 

「そりゃそうですよー。到着したの起床ラッパが鳴る前なんですから」

 

 ほややんとした声で言うエルマに、智子はどう答えを返したものかと頭を振った。

 どの基地からわざわざやって来たのかは知らないが、ウィッチ達は到着時間的に深夜行軍をさせられたようだ。

 航空機での移動ならいいが、車での移動だとしたら大変だ。雪に被われたスオムスの陸路は過酷だ。

 

「……で、模擬戦開始はいつですか?」

 

「はい、〇九〇〇です! それまでに模擬戦用の装備の確認をお願いします!」

 

 智子はまだ見ぬウィッチ達のハードスケジュールに、思わず同情の涙が浮かんだ。

 

 

 

 

 

 模擬戦は時間切れの引き分けで終わった。

 智子達義勇軍『いらん子中隊』と対戦したのはスオムス空軍第二四戦闘機隊第三中隊。いずれもアホネン達と同じくR-9A "ARROW-HEAD"を駆っていた。

 スオムスは武装を他国からの輸入に頼っている。戦闘脚も例外ではない。スオムス空軍はこのR-9Aを正式採用したらしい。

 

「エイラ・イルマタル・ユーティライネンか。覚えたわ」

 

 智子は模擬戦でスオムス空軍側で唯一最後まで残った若きウィッチの名を脳裏に焼き付けた。

 模擬戦はスオムス空軍側の優勢であった。アローヘッドの性能は非常に高く、義勇軍側は次々と撃墜されていった。

 

 なんとか対抗できたのは義勇軍側の熟練兵、エリザベス・F・ビューリング少尉が智子とのコンビネーションで奮闘してくれたからだ。スオムス空軍側を残り二機まで何とか追い詰めたところでビューリングも相打ちでペイント弾を受け、最後は残った智子とエイラの二人が三十分にもおよぶドッグファイトを繰り返したのだった。

 射撃も模造刀での近接攻撃も全てすんでのところで回避され、智子は戦いながら憤慨しそうになった。

 

 模擬戦終了後に智子がその相手ウィッチと会話したところ、何でも『未来予知』の固有魔法を使っていたという。

 あの長い時間固有魔法を使い続けていたというのだから、固有魔法とR戦闘脚共に非常に燃費が高いのであろう。

 

「ミーもR機欲しいね。ハルカ、交換しない?」

 

 開始早々に撃墜されたキャサリンがR戦闘脚使いのハルカへとまとわりつく。

 

「い、嫌ですよ。わたしあんな重そうなの絶対乗りこなせません」

 

 そう答えるハルカは、ひいき目に言ってそれなりに善戦したほうだ。

 だがそれは技量と言うよりも機体性能によるところが大きい。彼女のデルタはアローヘッドの後継機なのだ。

 

「スオムス空軍のヤツラ、全員R-9系列に機体を変更するらしい。……こう実際に戦ってみるとわたしらの機体は完全に型遅れなのがわかるな」

 

 そう煙草を吹かしながら言ったのはビューリング。

 彼女の愛機ハリケーンは戦友の残した機体だが、彼女はいつまでもその機体に乗り続けられるとは思っていない。

 航空ウィッチの時代が変わる。そう、R戦闘脚の時代に。

 

「そうね。……最近の訓練でみんな使い物になるようになったと思ってきたけれど、旧型機と最新機とここまで差があるとは思わなかったわ」

 

 扶桑で開発されたロ式戦闘脚など、本物のR戦闘脚の足下にも及ばない。

 つばめ返しで背後を取ったと思った瞬間に、驚異的な加速で銃の射程外まで逃げられるのだ。寄って斬るにも速度が足りない。

 

 どうにかして最新機を用意できないだろうか、と思う智子だがそうもいかない。

 この実験中隊は各国の軍から『問題あり』として見捨てられたウィッチの集まりなのだ。

 戦果は上げているが、軍に最新機を融通して貰えるかというとかなり厳しい。

 

 そんなことを智子がビューリングとうだうだと話していると、中隊指揮所にエルマが駆け込んできた。

 

「大変です! 大変なんです!」

 

「え、えっ? どうしたの? 落ち着いて」

 

 何やら大声で叫ぶエルマを智子はどうどうと馬をあやすように背をさすった。

 

「わ、わたしじゃちょっと対応しきれないというか処理能力の限界を超えているというか皆さん助けてください」

 

「だからそれじゃわからないっての」

 

 いらつくように智子が返す。そして横からビューリングがエルマに言った。

 

「誰が、どこで、何をした?」

 

「あ、はい。アールタイプさんが、格納庫で、新型機をわたし達にプレゼント!」

 

「……へ?」

 

 エルマを見ていた中隊のメンバー全員の目が点になった。

 

 

 

 

 

「私はTeam R-TYPEのスオムス支部の者だ。よろしく」

 

 格納庫で待っていたのは、くたびれた白衣を着た三十代の男性。扶桑人である智子にはいまいち見分けがつかないが、金の髪色を見るに欧州人ではあるようだ。

 智子は彼に向かって敬礼するが、彼はいやいやと手を振った。

 

「私に階級は無いからかしこまらなくて良いよ。私達は二等兵から元帥まで全て同じ態度で接するからね。そちらも好きにしてもらって構わない」

 

 元帥にもこの態度、と聞いて智子はどう対応すべきか思考が止まる。

 Team R-TYPE。世界最高の天才集団。軍外部の偉い人と見て接するのが良いのだろうか。

 と、そんなことを考えている智子の横では、ビューリングが煙草をくわえてマッチを擦った。

 いくらなんでもそれは、と智子は思ったが研究員はそれを気にした様子も見せない。

 

「さて、急な模擬戦ご苦労。今回の模擬戦は、ちょっとしたお遊びで開催させて貰ったものでね」

 

 智子は眉をひそめる。

 お遊びで軍を動かせる、と彼は言っているのだ。

 

「もちろん単にウィッチの飛ぶ姿を見たいなんて下世話な理由じゃないよ? 君達にR機の性能を知って貰うためにやってもらったんだ」

 

 そのためにわざわざ遠くの基地から航空ウィッチの一個中隊を連れてきたというのだろうか。

 R-9Aはこの基地のスオムス空軍所属のウィッチにも配属されているというのに。

 

「なんでわざわざそんなことをしたかと言うとね、君達にR機に興味を持って貰おうと思ったんだ。君達、R機に乗りたいかい?」

 

「はい! 乗りたいでーす!」

 

 手を上げて大きな声で答えたのはキャサリンだ。

 

「うむ、そうかね。では君達にR機をプレゼントするとしよう。あれだ」

 

 研究員は格納庫に置かれていた一機のR戦闘脚を親指でさした。

 格納庫に来てから隊のみんなもずっと気になっていたのか、ずっとちらちらと目をそちらに向けていた。

 R-9Aとはまた違う機体。彼女達は初めて見る戦闘脚だ。

 

「R-9S "STRIKE BOMER"、ロールアウトしたばかりの最新機だ」

 

 研究員は機体をそう紹介した。

 R-9シリーズ。そのR戦闘脚独自のフォルムはまごうことなき最新鋭の機体だ。

 

「この機体は君達スオムス義勇独立実験中隊全員に支給される。もちろん、フォースとビットもセットでだ」

 

「……義勇軍相手に大盤振る舞いですね」

 

 智子は怪しむように研究員の顔を覗き込む。

 どういう意図で彼はこんなことをしているのだろう。

 智子達実験中隊はスオムスで二〇〇を超えるネウロイを撃墜している。スオムス空軍も彼女達を頼もしい援軍としてみているだろう。

 だが、高価なR戦闘機、それもフォース、ビット付きを他国の軍に所属している彼女達に融通するということがあるのだろうか。

 

「うん? たいしたことないよ? そもそも我々はスオムス支部と便宜上名乗ってはいるが、Team R-TYPEに国籍はない。用意した機体をスオムス軍に渡す義理なんてないしね。我々の作った機体が優秀なパイロットの手に渡りさえするなら、後の細かい政治の事情など知ったことではないね」

 

 彼は機体を渡す相手がスオムスだろうが多国籍軍だろうが構わない、と言っているのだ。

 しかも、支給。買い取れと言っているわけではない。

 

「……寄せ集めの部隊が優秀だ、と?」

 

 智子達の活躍はスオムス中に轟き、親友の武子が手紙でいうには西欧戦線まで伝わっているという。

 しかしだ、戦果は上げているもののスオムス軍部の本隊への評価は高くない。どこまで言っても『いらん子中隊』であることには変わらないのだ。

 だが、目の前の研究員の評価はと言うと。

 

「ああ、優秀だ。優秀だとも! 穴拭少尉、君の機体は何かね?」

 

「ロ式九七戦闘脚です」

 

「うむ。扶桑海事変で数多くのネウロイをぶち殺した名機の一つらしいな。名機、名機か。あんなポンコツが名機とは笑うに笑えないな」

 

「なっ……!」

 

 怒りで血が一瞬で頭まで上る。が、怒鳴りそうになる心を落ち着けて目を伏せる。

 相手はロ式九七戦闘脚の元となった魔導理論を提唱した世界最高の研究チームだ。

 そんな彼からすれば自分の愛機も型遅れの機体なのだろう。

 

「さて、急な模擬戦だったがちゃんとアローヘッドの性能を見たかい?」

 

「……はい」

 

 研究員の問いに智子は頷く。

 そういえば何故自分が彼の相手をしているのだろう。智子は周囲に立つ隊の面々を眺めた。

 中隊長のエルマはぼんやりと天井を眺めている。完全に役割を放棄している。

 キャサリンとウルスラはいつの間に移動したのか、R-9Sをぺたぺたと触っている。話にならない。

 ハルカは……彼女には期待すまいと智子は代わりに隣のキャサリンを見る。煙草を吹かすキャサリンと目が合い、彼女は「ん?」と眉を上げ、そして「任せた」と呟いた。

 いっそのこと中隊長の座を乗っ取ってやろうかと思う智子だった。

 

「聞くところによると両者一機を残して引き分けらしいが、君はアローヘッドを撃墜できたかい?」

 

「はい、三機撃墜しました」

 

「そう、それだよ」

 

「……?」

 

「スペックだけを見るとあらゆる面でアローヘッドがロ式を上回っている。なのに何故ロ式を駆る君が勝てたのか? 簡単だ。そのアローヘッドがポンコツだったからだ」

 

 研究員の物言いに、また智子は意図を掴みきれず頭に疑問符を浮かべる。

 R-9AはTeam R-TYPEがネウロイの大規模出現に合わせて公開した機体だ。それをあろうことかTeam R-TYPEの研究員本人がポンコツだと言うのだ。

 

「……ではこのR-9Sはポンコツではないと」

 

「まあ待ちたまえ。私はR-9A自体は名機だと思っているよ。しかし君の撃ち落としたR-9Aはポンコツだ。何故か! それは、Rユニットに必要なウィッチという部品がそのR-9Aと噛み合っていなかったからだ!」

 

 演説をするかのように研究員は両腕を大きく開き、語る。

 

「ウィッチとは何か! 航空パイロット? 違う。ウィッチはRユニットの中核となるコアパーツだ。ウィッチの機械部品としての重要性を考えれば!」

 

 言いながら彼はR-9Sの下へと歩き、そしてやにわにR-9Sを蹴りつけた。

 R-9Sの近くにいたキャサリンは驚いてその場に転げ、ウルスラは頭を押さえて床に伏せた。

 

「今のR戦闘脚などウィッチの力量の差から鑑みればさしたる価値など無い。それは君がR-9A相手に証明している」

 

「……はあ」

 

 理解を超える研究員の行動に、智子は思わず生返事を返す。

 天才となんとやらは紙一重とは良く言ったものだ。とぼんやりと智子は思った。

 

「しかしだね、いくら優秀なウィッチでも型遅れの機体を使っているというのはいただけない。兵器開発は秒単位で進んでいるんだ。君達の使用している戦闘脚は、全て『旧式』と呼ばれる代物だ」

 

 ようやく思考が追いつき、智子は頷く。

 

 彼の言葉は正しい。スオムス空軍は決して安いものではない航空戦闘脚を、全てR-9シリーズに交換しているのだ。

 智子もそのことは十分に自覚している。

 

 スオムスへと来る前、智子は親友の武子に言われたことがある。「これからの空戦では格闘戦はおまけになる」と。

 そのとき、智子はその言葉を否定した。ネウロイを打倒するのは格闘戦に習熟した名人と、格闘戦使用の飛行脚だと。

 

 しかし、スオムス空軍の駆るR-9Aはどうだ。格闘戦用の装備など備えておらず、ウィッチ達の練度も高いとは言えない。だというのに、彼女達との模擬戦では機体性能に任せた連携で完全に追い込まれてしまっていた。

 智子がR-9A乗り達を撃墜し、引き分けに持ち込めたのはスオムス空軍側が最大の兵装であるフォースを使っていなかったからだ。

 

「そんな古い機体を履いて君達のような優秀なウィッチにこんな最前線で死なれてしまっては、人類の損失というものだよ」

 

 ――またこれだ。寄せ集め部隊でしかないわたし達に何故彼らは目を付けたのか。

 

 智子自身は、自分はエースであるという自負がある。

 だが、この隊の他のメンバーはお世辞にも一人前のウィッチであるとは言えない問題児ばかりだ。昔とは違って彼女達には『やる気』があるため、訓練で使い物になるレベルまで引き上げることはできたのだが。

 

「その、わたし達は優秀な魔女、なのですか?」

 

 智子は切れ目の視線を研究員へと向ける、が。

 

「うん、そうだよ? Team R-TYPEが保証する。我々は世界の全ての軍に所属するウィッチの能力を把握しているからね」

 

「……なるほど、わかりました」

 

 納得することにしよう、と智子は結論付ける。

 世間の評価と実情の評価がようやく一致するようになった、と思っておくことにする。

 

「それで、その機体ですか」

 

「ああそうだ。話が長くなったね。機体説明をしようか。何せ、これから君達が命を預けることになる機体だ。ああ、乗り換えたくないという人はいるかね?」

 

 智子は隣のビューリングを見る。

 彼女の愛機ハリケーンは死んだ戦友から譲り受けた大切な機体のはずだ。乗り換えに納得するのだろうか。

 

「……ああ、かまわない。良い機会だと思っておくよ」

 

「そう……」

 

 異議がないのを見た研究員は、笑みを浮かべてR-9Sに触れる。

 

「ストライクボマー。Team R-TYPEが用意した新しい量産機だ。同じ世代の量産機としてR-9Kなんてのもあるけど、君達に合うのはこちらだと判断した。特徴は『メガ波動砲』だ。その威力は君達が以前撃墜したディオミディアを一撃で落とせるくらい、といえばわかるかな」

 

「ワーオ、それは最高ね!」

 

 Rユニットに取り付けられている機銃をぺたぺたと触りながらキャサリンがはしゃぐ。

 ハルカも興味が湧いたのかキャサリンの後ろから機銃をしげしげと眺めている。

 

 ハルカの使用機R-9A2の波動砲、試作型拡散波動砲はこの実験中隊における最大の武器だ。その威力は智子の扶桑刀による近接攻撃よりも高く数々の中型ネウロイを撃ち落としてきた。

 その波動砲を遙かに超える威力なのだ、と研究員はハルカに向けて語った。

 

「機体の系列はすでに欧州戦線で戦果を上げているR-9C "WAR-HEAD"の後継機で、安定性は抜群で――」

 

「待って」

 

 研究員の解説の途中で、じっとストライクボマーを観察していたウルスラが言葉を挟んだ。

 

「R-9Cと同じなら、わたしは乗りたくありません」

 

「おや、どういうことかな?」

 

 隊のメンバーの視線がウルスラへと集まる。

 先ほどまで誰よりも興味深そうにこの機体を眺めていたのがウルスラだ。それが突然手の平を返したのだ。皆驚いている。

 

「ANGEL PAC」

 

 ぽつりとウルスラが呟く。

 

「ホワイ? エンジェルがどうしたね?」

 

「R-9Cのパイロットは機体に乗る際にANGEL PACと呼ばれる加工をされる。両腕両脚を切断して、機体と神経接続するというもの。機体と接続されたウィッチは二度と機体から脚を外すことができなくなる」

 

 うひい、と機体に触れていたキャサリンとハルカが身を引いた。

 智子は研究員を睨み付ける。もしそれが事実なら、Team R-TYPEとははたして……。

 

「あー、あれねー。確かに私がカールスラント支部にいたころ手足ぶった切って機体と繋いだりしたけど、連合軍の見解だと『そんな事実はない』らしいよ?」

 

「えっと、それは……」

 

「私としてはいくらでもやりましたよーって言っても良いんだけど、軍人である君達は聞かなかったことにしないとまずいかもね。いやあ軍人さんって大変だね」

 

 格納庫の空気が明らかに変わる。この場には研究員と実験中隊の面々しかいない、わけではない。

 整備兵達がアホネンの中隊のR-9Aを点検整備しているのだ。彼らからすれば聞かなければ良かったことを聞かされた、という状況だろう。

 

「ま、安心したまえ。これは量産機だ。ANGEL PACは機体の動きにウィッチが付いてこられないという問題点を解決するために取られた手段でね。しっかり問題は解決してある。乗るにあたって犠牲にするものは何もないよ。いや、あるかな。一度これをはいたらもう二度と旧式の戦闘脚なんて履く気が起きなくなるくらい素晴らしい体験ができるという問題が!」

 

 本当にこの機体を受け取って良いのか。

 智子はそんな思いを抱くが、彼の言葉を信じるならばこれを受け取らない理由はない。

 旧型の戦闘脚から新型のR機への移行。それは戦力が飛躍的に向上するということであり、戦場での仲間達の『死』が遠ざかるということだ。

 

「さて、質問はあるかな? 無いなら搭載兵器の詳細に移ろう」

 

 

 

 

 

 スオムス義勇独立実験中隊はTeam R-TYPEより六機のR-9S "STRIKE BOMER"の支給を受けた。

 予備機は無いが、Team R-TYPEが選抜した専用の整備兵がカウハバ空軍基地へと派兵され、スオムス空軍のR-9Aとともに輝かしい戦果を上げていった。

 スオムスに侵攻したネウロイはその前線拡大を止め、智子達は救国の英雄として人々に讃えられた。

 すでに彼女達を『いらん子中隊』と呼ぶ者はいない。

 

 そして彼女達にR-9Sが配備されてから三ヶ月後のこと。

 スオムス空軍から指令が下る。ネウロイの巣を駆逐せよと。

 

 自信と勢いをつけた彼女達は、意気揚々とカウハバ空軍基地を出立。元製鉄工場を巣とするネウロイの群れへと突撃していった。

 

 

 

 

 

「しかし、優秀なウィッチ揃いだったわね」

 

 Team R-TYPEのスオムス支部で、ある女性研究員が送られてきた電報を眺めながら言った。

 女性研究員の横では、智子達にR-9Sを渡した男性研究員が横から電報文を覗き込んでいる。

 

「ああ、あれほど癖のあるウィッチが集まっている部隊は他にはないね」

 

「どれも機体性能をテストするのに優秀なサンプルばかり。失われたのは痛いけれど、まあこれも予想通りかしら」

 

 電報の内容は、ネウロイの巣の殲滅作戦に向かった実験中隊の全滅を知らせるもの。スオムスに配備されたR-9Sは、これで全て失われたことになる。

 

「だな。実験体として秀でていても、兵士としては二流揃いだ。巣を潰すには超一流が一人必要だ」

 

 男性研究員はそう笑いながら言った。

 R-9Sは量産機ではあるが、データ取りのための実験機でもあった。元々量産機としては同じR-9C系列であるR-9K "SUNDAY STRIKE"の方が生産コストに優れている。

 Team R-TYPEが彼女達にR-9Sを支給した真意。それは、最強の機体、開発コード『ラグナロック』を作り出すため、個性の強いウィッチが集まったスオムス義勇独立実験中隊を使ったのだ。

 いや、そもそもこの実験中隊自体、Team R-TYPEがスオムス空軍へ呼びかけて集められたものだ。見返りとしてTeam R-TYPEは大量のR戦闘脚をスオムス空軍に卸している。

 

「さて、じゃあラグナロックの調整にかかりましょうか。パイロットの選別は任せたわよ。今度は兵士として優秀な子を選んでちょうだい」

 

「問題ないよ。カールスラントから生きの良いのが一人来ていてね。喜んで受けてくれるだろうさ」

 

 スオムスの未来は明るい。

 

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