◆R-9B "STRIDER"
ネウロイは大きく二つの種類に分けられる。
地上を歩く地上型ネウロイと空を飛ぶ飛行型ネウロイだ。小型、中型、大型というサイズによる呼び分けもあるが、戦略的見地ではネウロイが空を飛ぶか陸を歩くかの方が重要となる。
一方で、戦闘脚を履くウィッチも地を行くか空を行くかでタイプを分けることができる。
キャタピラの付いたRユニットを履く陸戦ウィッチ、高速歩行用の底部を有していない航空ウィッチ。そしてもう一つ、空から地上型ネウロイを攻撃するのを専門とした爆撃ウィッチだ。
地上型ネウロイは飛行型ネウロイに比べ、数が多い。理由はわからないが、まあ得てして生物にとって空を飛ぶというのは難しいものだ。
数が多いのだから空を飛ぶウィッチも地上を攻撃する必要がある。
そうして作られるのが急降下爆撃航空団というわけだ。
そんな爆撃ウィッチの中に、一人の鬼才がいるという噂をカールスラントで耳にしたことがある。
第一次ネウロイミッションのオストマルクで。第二次ネウロイミッションのカールスラントで。最前線の激戦区にて、数々の地上型ネウロイを爆撃し、ネウロイの巣の内部へエース機が進入するための道を切り開いた影の立役者がいると。
カールスラントにいる時は結局そのウィッチを取材することは適わなかった。
が、幸運なことに、彼女は今カールスラントからスオムスへ援軍にやってきているという。
私は前線の基地を転々としながらその爆撃ウィッチの目撃情報や噂話を集めて行った。
「あのウィッチは機械だな。ネウロイを倒すためだけに生きているとしか思えないぞ」
スオムス東部の基地で、例の爆撃ウィッチと共闘したことがあるというウィッチからそんな話を聞けた。
ちなみに取材中のウィッチもスオムス戦線で活躍中の新鋭のエース。スオムス空軍のエイラ・イルマタル・ユーティライネン軍曹だ。
元は彼女を取材するために基地へと来たのだった。純粋なスオムス空軍の航空ウィッチの数は四個中隊と少ないのだが、彼女はそんな状況でR-9Aを駆りスオムス東部の前線を押しとどめていた。
戦果の秘訣はわずか先の未来を見通すという予知の固有魔法だという。なるほど、まさに戦いの場に身を置くウィッチの理想的な能力だ。
そんなことを聞き出しているうちに、ふと例の爆撃ウィッチの話題になり、ユーティライネン軍曹は彼女と一度共闘したことがあると漏らしたのだ。
その評価が、先ほどのネウロイ破壊マッシーンというわけ。
「正直、R-9Bは微妙な機体だぞ。爆撃ユニットなんて言われてるけど本当は長距離航行ユニットなんだって整備兵から聞いた」
R-9B "STRIDER"。現状Rユニットの中で唯一の急降下爆撃ユニットだ。
例の爆撃ウィッチもそれを履いているという、実績確かな機体である。
少なくとも私の知識ではそうだった。
しかし、ユーティライネン軍曹はR-9Bは微妙でしかも爆撃機などではないというのだ。
「波動砲はチャージが必要なのに、シールド魔法とたいした違いのない効果しか生まないバリア波動砲だ。あれで守りに入るのは無理だな」
おかしいな、バリア波動砲は光学ハニカム構造を使用したバリアブロックを放出することで、あらゆる攻撃を防ぐ優れた魔導回路と聞いたはずなのに。
彼女の口から出るR-9Bは今まで聞いてきたR-9Bと違う。
「しかもフォースの対地レーザーは癖が強くて、対空レーザーはアローヘッドより弱いんだぞ。着弾分散レーザーと対地ミサイルのおかげで、爆撃ユニットってかろうじて呼ばれている状況だな」
R-9A "ARROW-HEAD"はユーティライネン軍曹のRユニットだ。
スオムス軍にはR-9A、R-9K、そしてR-9Sが配備されている。
タンク系のRユニットが陸戦ウィッチに与えられていないのは、Rユニットのキャタピラでは豪雪地帯を走れないとスオムス軍が勘違いしたためらしい。
その勘違いを受けて、スオムスにはTeam R-TYPEの支部が設置されたという。
まあ今の時代、飛行に魔力をほとんど割かないRユニットで障害物の多い地上をわざわざ走る利点というのは薄れているから、Team R-TYPE的には最前線に試作機の売り込みをかけに来たというところかもしれない。
そんな最前線のスオムス軍の新エースさん的には、R-9Bは微妙機体らしい。
うーむ、実際に見比べたことがあるわけじゃないからわからん。
「フォースが無ければミサイルの分だけ他のRユニットより対地能力が高いのでは?」
「あのなー、わざわざカールスラントから来てるやつが、フォースを持ってきてないわけがないじゃないか」
そうだった。カールスラントといえば、つい先日までフォースの原材料のネウロイがわさわさ居た場所。そしてTeam R-TYPEの本拠地。
さらには、東部が開放されたと言えど情勢が今だ安定し切れていないカールスラント国内から、貴重なウィッチをフォースを付けないなんて厳しい条件でわざわざ他国に送るはずがないのだ。
「あの人はそんな対空性能の低いR-9Bで制空権を支配された空を飛び回ってるんだ。私と同じ心臓を持ってるとは思えないな」
なるほど、それで機械と。
「軍曹の目指す理想のウィッチ像とは違いますか?」
「ああなろうとは思わないなー。私はこの予知魔法で、『無傷の魔女』を目指してみるかな」
あら素敵。これはちょっと良い記事が書けそうだ。
「人格に難があります」
噂の爆撃ウィッチをそう評したのはカールスラント空軍のスオムス方面義勇軍の爆撃ウィッチ、ジュゼッピーナ・チュインニ准尉だ。
第二次ネウロイミッションの成功の後、スオムスにはカールスラントから多数の援軍が差し向けられていた。例の爆撃ウィッチもそのカールスラント空軍から派兵された義勇軍だ。
チュインニ准尉はカールスラントで、その爆撃ウィッチと作戦を共にした経験があるらしい。
チュインニ准尉に対する取材は非常に難しいものだった。
なにせ、顔を合わせたとたん「憧れのケイコ中尉にお会いできて! わったしー、とっても幸せです! マンマミーヤ!」などと叫びだしたのだ。
何でも扶桑海事変に援軍として扶桑に来たときに、私達扶桑海三羽烏の姿を見て一目惚れしたとか。私は彼女を見た覚えはない。
そんなはしゃぐチュインニ准尉を何とか静めて、まずは彼女自身の話を聞いた。
ロマーニャ空軍所属だが、第二次ネウロイミッションでカールスラント空軍に組み込まれ、原隊復帰する間もなくスオムスに送り込まれたらしい。
スオムスは地上型ネウロイの数が多い。そこで活躍するのが彼女達爆撃ウィッチ。
チュインニ准尉の使用機もR-9Bで、爆撃性能は高いようだ。ただし、対空能力は低く、飛行型ネウロイに狙われると劣勢を強いられるとか。
そして話は噂の爆撃ウィッチに移る。
その爆撃ウィッチは何度も被撃墜を経験し、そのたびに奇跡の生還を繰り返しているという。ユーティライネン軍曹の目指すウィッチ像とは真逆だ。
R-9Bは空戦に弱い。ならば飛行型ネウロイに取り付かれて撃ち落とされてきたのだろう、と思ったのだが違った。被撃墜はいずれも地上型ネウロイの対空射撃によるものらしい。
地上型ネウロイは飛行型ネウロイと違い空を飛ぶために必要な機構が存在しないため、純粋な火力が高い。それに何度も撃ち落とされて生き延びているのだから驚きだ。
「あの方は軍人ウィッチとして理想的な精神力を持っています。ネウロイを倒すことだけを考える思考回路、負傷を恐れぬ度胸、死を嗅ぎ取り避ける直感」
でも、人格に難がある、と。
「将校としては最悪ですねー。自分に付いてこれない列機は仲間として扱わない。完全な実力主義者ですぅ」
実力主義者だと最悪なのか?
「ええ、最悪です。あの方は相手の目の前で足手まといはいらないとはっきり言います。そして実際に列機から外す。結果、士気が下がる。後進が育たない。って感じですね」
なるほど、確かに自分の上官にはなって欲しくないタイプだ。
叩いて延ばすとかではなく、叩いて捨てるなのか。
「結局それもあの方の生存本能の強さによるものなんでしょうねぇ。目の前のネウロイに勝つための最善を考える。先のことは今を生き延びてこそー、と」
結果としてついたのがあのあだ名というわけか。
『ストライダーの悪魔』。悪魔なんて不吉な名がウィッチにそうそう付くわけがない。
「まあ、まともじゃないのは確かですよ。何せ、機動の邪魔になるからって、Team R-TYPEのやつらに自分から進んで手足を切って貰ったくらいですから」
えっ。
まさかそれは……。
「ルーデル少佐のユニットはもうR-9Bじゃないですよー」
「私の知ってる天使と違う……」
「? 何のことだ?」
「いえなんでも……」
噂の爆撃ウィッチ、ハンナ・U・ルーデル少佐を見て思わずそんな言葉が漏れてしまった。
いけないいけない、ANGEL PACは軍事機密だぞ。何ぽろっと口に出してるんだ私。
スオムス軍やカールスラント軍から取材をしていくうちに、私はあることを確信した。
噂のルーデル少佐はあのウォー大尉のようなパッケージング処理を受けているのだと。
しかし実際に会ってみると、あのチタニウムホワイトの筒に閉じ込められた少女の姿は無かった。
確かにルーデル少佐は、別に戦場にいるわけでもないのにRユニットを履いているし、生身のは魔法で動く金属製の義腕に取って代わられている。
だがその姿からはANGEL PAC特有の悲壮感は感じられない。胴体を収めるあの筒がないだけでこれだけ印象が変わるのか。
「しかしようやく扶桑のやつが来たか。東洋からわざわざこんな場所に来るなどとん酔狂な女だ、と言いたいところだが今回ばかりは歓迎するぞ」
「……? 扶桑がどうかしたんですか?」
「ああ、扶桑語を喋れるやつに用があった。取材はおまけだ。そんな時間があったら一機でも多くのネウロイを落としに行く」
おおう、記者泣かせですこと。
と、取材の取り次ぎを行ってくれた少佐の副官、アーデルハイト中尉が何かを抱えてこちらへとやってきた。
少佐の言う扶桑人への用というやつであろうか。
アーデルハイト中尉が抱えているのは、動物を中に入れて持ち運ぶための金属製のキャリーバッグだ。大きさ的に犬が一匹入りそうなものだ。
中尉はそれを私の目の前の床に置き、バッグの前方に付けられた蓋を開ける。
するとキャリーバッグの中から、ぬっとイヌ科の動物の顔が覗き出た。
それは、とても見覚えのある顔だった。
「コン平さん!?」
『……? おお、圭子嬢か!』
「ん? なんだ? 知り合いか?」
キツネのコン平さん。人語を理解し、話す霊獣。
戦死したはずの智子の使い魔だ。
キツネとしてはとても小さいそのコン平さんの身体を私は抱え上げ、膝の上に載せた。
銀色の毛並みはまさに霊獣の名にふさわしい神々しさで、ふさふさの尻尾は――何故か二本あった。
あれ、一年前に見たときは、尻尾は一つだけだったはずなのに。
「尾の多い喋る霊獣となれば、粗末に扱うわけにもいかなくてな。しかし言葉が通じん。扶桑語らしい単語が出るのはわかったんだが、こんな僻地に扶桑語を喋れるやつなんていないと来た」
椅子に座りRユニットの脚を前に投げ出しているルーデル少佐が言った。
ああ、そうか。コン平さんは扶桑語は喋れるけどスオムス語もカールスラント語も喋れないのか。
「で、何なんだそいつは。明らかに軍に関係ありそうな単語を喋っていたぞ」
「友人のウィッチの使い魔だった方です。彼女はヘルシンキで戦死したと聞いたのですが……」
「ヘルシンキだと?」
「穴拭智子少尉。スオムス義勇軍のウィッチでした。ヘルシンキの解放作戦で全滅しています」
「ストライク・ボマー中隊か!」
椅子を蹴倒して少佐が立ち上がる。
いや、この場合は浮かび上がるか。日常的にRユニットを履く姿はやはりどうにも奇怪だ。
「記者、そいつからヘルシンキの状況を聞いてくれないか。あの中隊の使い魔だったなら巣の中も見ているはずだ」
「は、はい、わかりました……」
少佐の勢いに押され、思わず頷く。
明らかに年下の少女が相手だというのに、完全に蹴倒されている私であった。
「……コン平さん、どうしてここに居るのか詳しく話してくれる? 智子達はネウロイの巣を制圧しに行ったのよね?」
『はい、恥ずかしながらお嬢様を残し無様にも生き延びてしまいました。あれは怪異の巣の中に潜り込んだ後のことです――』
コン平さんがヘルシンキの戦いを語り始める。私はそれに耳を傾けながら、ルーデル少佐とアーデルハイト中尉のためにカールスラント語に訳す。
ネウロイの巣の中は製鉄工場を元に、スオムスの首都ヘルシンキの金属資材をかき集められて作られた要塞だった。
銀色の装甲をまとったネウロイ達。ネウロイと一体化し稼働を続ける工場の機械。兵器へと変えられた大型プレス機。天井から不意に降り注ぐ溶けた鉄。
中隊の仲間達は巣の奥へと進むにつれ、ネウロイの激しい攻撃に一人、また一人と倒れていった。
やがて、智子は残り一人となった仲間と共に、敵中枢と思わしきコアを破壊する。
やっとの思いで巨大なコアの破壊に成功する。が、それは巣を構築するマザーネウロイのコアではなかった。
既に満身創痍であった智子は、もう自分はこれ以上戦えないと判断する。両脚はRユニットと一緒に完全に潰れ、その場から動くこともままならない。
そして智子はコン平さんとの一体化を解き、彼を唯一生き残った迫水ハルカ一飛曹に託す。生き延びて巣を脱出し、作戦の失敗を伝えるよう智子は迫水一飛曹に命じた。
自分は死ぬだろう。だが、コン平さんを道連れにするつもりはない。連れていってやってくれ。そう言って智子は迫水一飛曹の背を押した。
来た道を逆に辿り、迫水一飛曹は巣からの脱出に成功する。
しかし、巣を出てもヘルシンキの街はネウロイの瘴気に支配された地だ。
ヘルシンキ上空を制圧するスオムス空軍の元へと辿り着く前に、迫水一飛曹は地上型ネウロイに撃ち落とされ、息絶えた。
地へと投げ出されたコン平さんは、ネウロイのうろつくヘルシンキをただ一匹で走り回り、襲いかかるネウロイを霊力ではじき飛ばしコアを牙で噛み砕いて生き延びる。
時間もわからなくなるほどの間ただひたすらに逃げ惑い、やがてネウロイの支配する地から脱することができた。
その後はスオムスの自然の中で小動物を狩って生き延びながら、人の居る土地を目指して放浪した。
そしてあるとき、ネウロイに撃ち落とされ地に伏せる航空ウィッチを発見する。
ネウロイに殺された智子達のことを思い出し、せめてこのウィッチのことは弔ってやろうと駆け寄るが、そのウィッチは撃墜されたというのに軽い怪我を負うのみでしっかりと生きていた。
それが目の前の少女、ルーデル少佐だったという。
「そうか、でかした! でかしたぞ、記者! それに霊獣!」
話を聞き終えたルーデル少佐は、義腕と一体化した機銃を振り回しながら叫ぶ。
当たったら洒落にならないその金属塊から逃げるように、私はコン平さんを抱えて部屋の隅へ。
『この少女は何を興奮していらっしゃるのでしょうか』
「コン平のことを褒めてるみたい」
しかしまあよく生きて帰ってきたものね。
瘴気あふれるネウロイの支配地からこの小さな体で逃げ出すとは、さすがやんごとなき霊獣。
そういえば何で尻尾増えているの。
え? ネウロイのコア噛み砕いていたら増えた? 月日で増えるものじゃないのそれって。
と、ルーデル少佐がアーデルハイト中尉になだめられてようやく静まったようだ。
そして、こっちを見てきりっとした顔をしながら言った。
「記者、知っているか? オペレーションコード『THE THIRD LIGHTNING』の事を」
「え、ええ、スオムス南部のネウロイの巣を狙って潰していく作戦ですよね。ちらちらと漏れ聞くだけで詳しくは無いんですけど」
「聞いて驚け、次の目標は首都ヘルシンキだ。そいつのおかげでネウロイの野郎をぶち抜き放題だぞ!」
ええとつまり。
コン平さんの持ち帰った情報が、ピンポイントでスオムス奪還作戦に必要な情報だったってことかな?
「記者、お前を従軍記者として徴発させてもらう。仕事は霊獣の翻訳業だ。……断るとは言わんよな?」
……なんだこの流れは。
◆R-9E "MIDNIGHT EYE"
オペレーションコード『THE THIRD LIGHTNING』。
第三次ネウロイミッション。ネウロイに対する電撃戦。
簡単に言えば偵察機で位置を特定したネウロイの巣の中にラグナロクを突入させて、母胎となっているネウロイコアをピンポイントで撃破するというものだ。
共に突入するのはスオムス空軍のR-9A中隊だ。
この作戦でルーデル少佐の駆るR-9Ø "RAGNAROK"は既に小規模な地上の巣、ブラウシュテルマーを三つ破壊している。
多大な戦果だが、だがこれはまだこの作戦の前哨戦だ。
次なる目標は、智子の死んだ地……首都ヘルシンキのネウロイの巣を制圧し、スオムス南部の制空権を支配することだ。
その後はヘルシンキを足掛かりに東へ向かいオラーシャ帝国へと進入。
ペテルブルグを解放した後、海岸沿いに西へと進軍しオラーシャ軍と合流。
そして、バルト海東部のスオムス湾海岸線を支配する大規模なネウロイの巣を攻略する。
これだけ聞くと無茶な作戦だが、実はそうではない。
ヘルシンキの解放をトリガーとし、『THE THIRD LIGHTNING』は連合軍の共同作戦へと変わる。
南からは第一次ネウロイミッションで解放されたオストマルク駐在軍が、西からは第二次ネウロイミッションで解放されたカールスラント軍がオラーシャ帝国へ進軍し、三方向から同時に前線を押し進める。
これは電撃戦であり、包囲戦だ。
多方面から同時進行をすることにより、目的の巣周辺のネウロイを四方に散らばらせ、ラグナロックの突入口を作るのだ。
私の経験した扶桑海事変みたいにネウロイの親玉が丸裸、なんて欧州戦線は甘くない。
過去のネウロイの巣攻略の例から判明している。重要なのは、いかにして強力なウィッチを巣の内部へと突入させるかである。
過去のミッションの成功が今回のミッション発動の契機となった、とでも言えば記事にした際の読者受けが良いだろうか。
まあ、実際のところは首都を奪い取られ追い詰められたスオムス軍が連合軍に提案し、オラーシャ領西部を取り戻すという内容にオラーシャ軍が賛成、余裕のできたカールスラントとオストマルクが前線をオラーシャ側に押し込むためにこれに乗ったという状況だったりする。
スオムス軍、オラーシャ軍、カールスラント軍、そしてオストマルクの連合軍が一度に動く。
思惑はそれぞれ違えど、まさしく人類初の総力戦となるだろう。
その中核となるのが、ルーデル少佐のラグナロックだ。
しかし、この作戦の主役はラグナロックだけではない。
ネウロイに占拠されているスオムス湾と広大なオラーシャ帝国最西部の領域を飛び、ネウロイの巣の位置を特定した立役者がいる。
R-9E "MIDNIGHT EYE"。偵察用Rユニットだ。
データ収集を目的として作られた機体で、対ネウロイ用の装備も強力なものは有していない。
搭載している波動砲は索敵波動砲。遠くを見通す『魔眼』を再現するために作られた魔導回路で、ネウロイの体内を解析しコアの位置を特定、コアに直接波動エネルギーを叩きつけるという少し変わった波動砲だ。
フォースも情報収集用に作られたカメラ・フォースと呼ばれる特殊なフォースで、光のパターンを魔法で記録するというフィルムいらずな新型カメラである。個人的にすごい欲しい。
陸上偵察RユニットとしてTP-1 "SCOPE DUCK"も存在するが、大きな成果を上げたのはR-9Eの飛行隊であった。
今回の『取材』対象はそのR-9E隊の若きエース、サーニャ・V・リトヴャク軍曹だ。
若き、というか幼い。聞くと、まだ十歳らしい。
なんでそんな歳で実戦投入されているのかというと。
「私の魔法……電波を使った感知系……だから」
なんでも、固有魔法が広域探査という貴重な偵察用魔法だからだとか。
彼女の魔法とR-9Eとの組み合わせは、巣を狙って叩く今回の作戦で欠かせないものになっているらしい。
ヘルシンキの巣は位置が早期に特定されているので今回に限っては出る幕はない……とはいかないところが人手不足のスオムス戦線の辛いところだ。
リトヴャク軍曹はオラーシャ帝国陸軍所属。
固有魔法を見込まれ、訓練も半ばに最新RユニットのR-9Eと共にスオムスへと送られてきた若き……幼きエースである。
そう、エースである。戦闘能力の低いR-9Eでしっかりと飛行型ネウロイを五機撃ち落としている。一体どうやってるんだろう。
「えと……遠くのを見つけて、気づかれないようにこっそりアプローチして……波動砲で離脱を」
やだなにこの子可愛い。思わずカメラのシャッターをおろす。
お人形さんのような可憐な子だ。色素の薄い肌と髪は触れたら壊れてしまいそう。
なんでこんな小さな子が戦場なんかにいるのかね。
「ウィーンに住んでいたんです……」
なるほど。ウィーンは1939年のネウロイ出現で崩壊したオストマルクの首都だ。
ウィーンから逃げ、祖国のオラーシャ軍で航空ウィッチとなることで生活基盤を築いたのだという。見た目に似合わず結構しっかりした子だ。
「お父さんとお母さんとはウィーンではぐれて……ウィーンに戻っていなかったから……オラーシャにいると思うけど……」
オラーシャ帝国は広い。この戦争下で一度親と子が離れてしまったら再会するのは容易ではない。
だが、大丈夫。お姉さんに任せなさい。何たって私はペンを手に戦う戦場記者だからね!
オラーシャとオストマルクの新聞にあなたの記事を載せてみせるよ。
「え……扶桑軍の方じゃないんですか……?」
ああうん、今は記者兼軍人ね。
◆R-9D "SHOOTING STAR"
ルーデル少佐に『徴発』された私はちょっと面倒な立場になった。
というのも、私はあがりを迎えたとはいえ未だに使い魔を持つウィッチである。
そしてかつては扶桑陸軍で中尉なるものをやっていて、扶桑海事変では空戦の狙撃で三十を越えるネウロイを撃墜している。
扶桑海三羽烏の一人、扶桑海の電光、加東圭子中尉。近接戦闘が得意な扶桑ウィッチの中では異質な狙撃手である。
という私の脚色混じった来歴を基地に立ち寄ったチュインニ准尉が漏らし、瞬く間に私の正体が基地の人々に広がった。
そしてやつらがやってきた。
扶桑陸軍のお偉いさんが、ではない。
R-9Cを作りだした悪夢の技術者集団、Team R-TYPEがである。
「空、飛べるわよね?」
「はあ、もうシールド張れませんが」
「じゃあシールドのいらない距離で撃てれば良いわね」
私に拒否権は無かった。
そうして用意されたのがR-9D "SHOOTING STAR"。長距離狙撃ユニットだ。
おかしい、コン平さんの戦場での記憶を翻訳しながら軍にくっついて記事を書けば良かったはずなのに、私専用のRユニットがいきなり届けられた。
Team R-TYPE曰く、波動砲はその気になれば月まで届くから、ネウロイの攻撃圏外から狙い撃てば十分戦力になるだろう、と。
いやいやいや。いくら狙撃が得意でも、そんな距離からは当てられませんよ。
と反論するも、「固有魔法はウィッチ同士が肌を密着させれば共有できるから、感知系とロッテを組めばいいわ」と返ってきた。
そうしてやってきたのがリトヴャク軍曹だ。
全て決まってしまった後に扶桑陸軍に慌てて電話するも、既にTeam R-TYPEの扶桑支部から連絡は行っていたらしく、「この作戦には我らも各方面から援軍を送っている。頑張ってくれたまえ加東大尉」と返ってきた。
あれ、昇進してるんですけど。
スオムスの冬の訪れは早い。まだ10月だというのに空は凍てつくような寒さだ。
私は懐かしい解放感と共に、スオムスの空を舞った。
ヘルシンキ解放作戦。その戦場に私は航空ウィッチとして参戦している。
すでに空を飛ぶのは諦めたはずだった。戦場を生き延びたウィッチならば誰もが迎える“時間切れ”を仕方のないことだと受け入れたはずだった。
しかしどうだ。実際に飛んでみると、私の中にはこんなにも空への未練が残っていたというのか!
魔法力の衰えは感じない。きっとこのR-9Dの魔導エンジンが、かつてのロ式艦上戦闘脚とは比べものにならない程の変換効率を発揮しているのだろう。
シールドはやはり張れない。こればかりは仕方がない。
でも大丈夫。ネウロイの砲撃は私には届かない。
「よろしくね、サーニャ」
僚機のリトヴャク軍曹――サーニャに笑いかける。
「はい」
小さな返事だが、頼りにしてるよ?
「あとコン平さんも」
『お任せ下さい』
肩に乗るコン平さんにも戦いの前に挨拶する。
コン平さんはある日、智子の敵討ちとも言えるヘルシンキ解放作戦への同行を私に申し出た。
一年前に軍を辞めた私だが、使い魔のキタキツネさんとの契約は切れていない。取材の旅の仲間として、彼女とは苦労を分かち合ってきた。
なのでコン平さんと契約することはできないのだけど、コン平さんは霊獣だ。一体化せずとも霊力のなんちゃらで私の魔法力サポートをできるらしい。
肩に密着したコン平さんはRユニットに衣服の一部と見なされて、振り落とされることはない。
二十歳を越えた老魔女に十歳の幼い魔女、そして小さな霊獣と珍妙な組み合わせがこの飛行小隊。
仕事はもちろん、狙撃だ。
機銃を両手で構える。
Rユニット共通のレールキャノンとは一風変わった狙撃砲。
レールキャノンの銃口の下に、波動砲射撃専用の長い砲身が取り付けられている。
波動エネルギーを圧縮し、長距離魔法ビームを撃ち出す圧縮波動砲の理論上の最大射程は三八万キロメートル。
機体名のシューティング・スターは直訳すると流星だけれど、この射程距離から考えると星撃ちと訳した方が相応しいだろうな。
冷却システムに難があるので最大パワー射撃は禁止と言われたが、そんな馬鹿魔法力を持ったウィッチなどこの世に存在するのかしら。Team R-TYPEの考えていることは本当にわかんない。
『“電光”、作戦開始だ。訓練通りのぶっといのを頼むぞ』
通信機から声が届く。
ルーデル少佐だ。
このコールサインはちょっとやめてほしいと言ったのだけど誰も聞いてくれなかった。
「ヤー、“黄昏”。機体名のような神々の黄昏を迎えないことを願います」
『は、神々の座は我々なんかよりネウロイの方が相応しいさ。何せ北欧の神はギリシャの神にも負けないろくでなし揃いだ』
通信越しに少佐が豪快に笑う。
私もそれに釣られて口に笑みを浮かべ、そして機銃の先をヘルシンキの街の方角に向ける。
そんな私の首筋に、暖かな手がそっと添えられた。
サーニャの手だ。
固有魔法の共有は通常手と手を繋ぐことで行うらしいのだけど、シューティング・スターの圧縮波動砲を撃つためには両手で機銃を構えなければならない。
サーニャの指先が添えられた首筋を中心に、感覚が広がっていく。
電波による広域探知。
五つの感覚に数えられない六番目の感覚が、遥か遠くのヘルシンキの街を映し出す。
電波の感覚領域に色の情報は存在しない。だがきっと瘴気に包まれた町並みは銀色に輝いているのだろう。ネウロイの作り出す流体金属の色だ。
かつては多くの人が日夜を問わず活動していたであろう首都の町並み。
その中に、蠢く異形の姿が“視える”。
「連射するわよ。こらえてね」
「ん」
背後からサーニャの頷く声が聞こえる。
さて、二年ぶりの実戦といきますか。
「こちら“電光”、射撃開始します」
圧縮された波動エネルギーが、光の帯となって遠いヘルシンキの街へと突き刺さる。
命中。
コア破壊は不明。次弾のチャージを開始。
私の仕事は遠方から陸上型ネウロイを狙撃し、ネウロイ達の注意をこちらへと向けることだ。
空から突き刺さる砲撃に、ネウロイは狙撃手である私のことを探し出そうとするだろう。
だが私達はネウロイの攻撃の届かない遥か北方の空の上だ。飛行型ネウロイがこちらに向かうかもしれないが、それはヘルシンキに向かって南下するウィッチ隊が迎撃してくれる。
そして、ネウロイの注意がこっちに向いた分だけ突入部隊は巣へと進入しやすくなる。
シールドがないのは正直怖い、が、ここは他のウィッチ達を信じよう。サーニャもいるしね。
「あ、コア撃破確認……」
後ろでサーニャが呟く。
私は狙いを定めるので精一杯でコアの破壊まで見れていないが、余裕のあるサーニャからはコアが貫かれる様子が見えるのだろう。
サーニャの感覚を借りているだけだから、見ているものは同じなはずなんだけどね。
「ありゃ、以外と当たるもんだね」
「圧縮波動砲は……風の影響も重力の影響も受けないって……整備兵さんが」
「狙えば当たる、か。うすのろな陸上型は当て放題だ」
まあそう上手くはいかない。なにせ市街地だ。建物の死角は多く、電波のおかげで位置はわかっても障害物があって当てられない敵の方が多い。
と、街に降下してきた飛行型ネウロイに砲撃っと。
『ちょっとカトー、今のはわたくしの獲物でしてよ』
今の通信は、都市上空の制圧を行っているスオムス空軍のアホネン航空中隊からか。
「“百合1番”こちら“電光”。射線に入った場合の命の保証はしかねます」
『んなっ』
中隊長のアホネン大尉はカウハバ基地で、かつて智子と共に戦場で戦っていた仲間らしい。
何故か初対面からすごいなめられた態度を取られたのだが、智子は扶桑人としてスオムスでどんな醜態を晒していたのだろう……。
繊細で暴走しがちだったあの子にはしっかりと手綱を取れる上官が必要なんだが、取材した限りだと、ねえ。
智子のことを思い出してちょっと心が涼しくなった。
いけないいけない。いくら寒いスオムスの高々度の上空だからって、気持ちは熱くならなくちゃ。
今回の私の役割は、トリガーハッピーになるくらいでちょうど良い。
『ラグナロック隊、進入開始する』
と、いよいよ内部突入か。
巣の中に一匹も帰さないつもりで狙撃再開だ。
ちょっとでも動く相手には全く当たらないけどね。指先のかすかな震えで着弾地点が百メートル単位で変わるってなんぞ。
1940年10月。スオムスの首都ヘルシンキの解放に成功。マザーネウロイを失ったスオムス南部のネウロイが消滅する。
突入部隊の戦死者は四。巣の内部では、かつてのスオムス義勇独立実験中隊の姿を模した人型ネウロイの存在が確認された。流体金属の特性を用いた擬態か、ウィッチの遺体を用いた加工品かの真偽は不明とされている。
ヘルシンキの解放をもって連合軍はオラーシャへの進軍を開始。
ラグナロックを有するスオムス連合軍はヘルシンキに臨時基地を設立。スオムス湾を南下する海上部隊と、カレリア地方経由でオラーシャに向かう陸上部隊に分かれる。
今スオムス北部にネウロイが発生したら酷いことになるなーと思うものの、空気を読んで口にはしないでおく。
ヘルシンキの突入部隊だったスオムス軍のウィッチ達の精神状態が酷いことになっているが、その他の兵士達の士気は高い。
1940年11月。オペレーションコード『THE THIRD LIGHTNING』の最後の突入が行われる。
ネウロイの巣はオラーシャ帝国最西部の都市タリンの上空に位置する、巨大な瘴気の渦。スオムスの首都ヘルシンキとはスオムス湾を挟んで目と鼻の先だ。
出撃回数が異常としか言いようのないことになっているラグナロックは、スオムス連合軍としてはこれが最後の出撃となる。
今回私は後方の拠点に構え、所定の空域に進入した飛行型ネウロイのみを狙撃するという対空砲の役割だ。後方の拠点とはスオムス湾に浮かぶ艦隊である。
超長距離狙撃を行いながら「この狙撃って、一般兵は瘴気に近づけないからウィッチが出撃しないといけないって大前提が崩れちゃいますよね」と艦長に話しかけて困らせたりする。未だにこの狙撃距離に対応するネウロイは現れない。艦隊の守りがあるので今回の私は無駄口を叩く余裕があった。
ちなみにウィッチが戦争に参加する理由は、すでに「瘴気を防げる」ことから「Rユニットを履けること」に変わっているので、大前提は崩れてはいない。
飛び回る航空型ネウロイに向かって当たるはずがない波動砲を連射していると、不意に南の空に渦巻いていた巨大な瘴気が消滅した。
代わりに現れたのは、白く輝く無数の雪。いや、違う。コアを破壊されたネウロイの死骸だ。巣を構築していたマザーネウロイのコアが破壊され、付近一帯のネウロイ全てが死滅したのだ。
遠いタリンの街に、舞い散るネウロイの欠片がまるで雪嵐のように降り注がれていった。
そして、サーニャと共有する電波網に、ラグナロックからの通信が届いた。
『カトー! カトー! 聞こえているか!』
「……あ、はい、聞こえてますよ。やりましたね」
『マザーネウロイにシャドウ・フォースを食われた! R-TYPEのやつらに新しいやつを作っておくように言ってくれ!』
「……了解、そこは寒いでしょうから、熱いコーヒーも用意してヘルシンキで待ってますよ」
なんとも締まらない通信だ。私の知ってる天使と違う。
ああ、そうか、彼女はラグナロックの悪魔だ。召されるような天の国も、焼かれるような美しい翼も持ち合わせていないのか。
ヘルシンキの港へと戻り、Team R-TYPEにルーデル少佐の伝言を伝えて一週間後。
急遽改装されたヘルシンキのある屋敷で、スオムス軍のお偉様方を集めた祝賀会が開かれた。
戦争も終わり最早軍人とは言えない私も、その場に列席していた。
今の私は記者であるわけで、そんな関係者しか入れないパーティに参加しない理由がないというわけだ。
今回の大規模作戦――第三次ネウロイミッションで活躍した英雄達の写真を愛用のライカⅡで撮りまくる。
ときどき「シューティング・スター」という単語が聞こえるが、いやいやあーあー聞こえない。
空は良い。Rユニットは素敵。
でもあの超長距離狙撃は、やっていてちょっとうんざりしたので誇りたくない。
中々当たらないし、当たっても、感知魔法の知覚はサーニャには悪いけど私自身の感覚じゃない。
撃ち抜いたという実感がないのだ。こんな虚無感ばかりが残る戦いを今後も続けろと言われたら、ちょっと遠慮したい。
やはりシールドを失った私はもう“エース”ではないんだろう。
誰かに力を借りなければ満足に射撃もできない航空ウィッチなんて、老害以外の何者でもない。
空を飛び続けたいというだけなら、Team R-TYPEにテストウィッチの志願をすれば望みは叶うだろう。
でも、今回の戦いでわかった。私の空は、戦場だ。
テストウィッチと戦場記者どちらが私の空に近いかと考えれば、後者になる。
エースになれなくてもエースの姿を世界の人々に知らせることはできる。
例えばそう、このパーティにサーニャは参加していないけど、それはサーニャが新聞記事に載っているのを見た両親がわざわざオラーシャの遠くからスオムスまで彼女を探しに訪ねてきたからだ。
初めて見る彼女の満面の笑みを見てわかった。私はこの生き方で間違っていないのだろう。
と、そんなことを考えながらライカのシャッターを切りまくっていて、ふと気づく。
ルーデル少佐……いや、ルーデル中佐がいない。アーデルハイト中尉もだ。
あの日の通信以来、彼女とは会っていない。パーティの参加メンバーを見るに、タリンに居たスオムスのカールスラント軍はこちらに戻ってきているはずだ。
まさか……。
私は第二次ネウロイミッションでの武子の言葉を思い出す。
ウォー大尉は、マザーネウロイ撃破の通信を最後に行方が知れなくなったと。
私は慌てて周囲を見渡し、近くにいたカールスラント軍人の肩を掴む。
「ちょっと聞きたいんだけど!」
「ああっ、ケイコお姉様! 狙撃凄かったですぅ! わたしの星も撃ち抜いてくださいー!」
ってよりによってチュインニ准尉か。
まあろくでもないロマーニャ娘でも、カールスラント軍人であることには変わらない。
「それはいいから、ルーデル中佐がどうなったか知らない?」
私がそう言うと、びくりとチュインニ准尉の顔が引きつった。
この反応は。
「まさか……」
「はい、中佐は今朝方……」
今朝方ですって?
今日の朝に、カールスラント軍かTeam R-TYPEのやつらが中佐に何かしたのか。
「ヘルウェティア連邦にネウロイ発生と聞いて新しいフォースを担いで、飛行船に……」
「……は?」
「やっぱりあの方は最悪です。ケイコお姉様にお会いするのよりネウロイを倒す方が好きなんです!」
ええっと……。
ヘルウェティア連邦。カールスラントの南に位置する小国で、1939年のオストマルク陥落以降ちょくちょくネウロイの姿が目撃されており、国軍が厳戒態勢に入っていた。
小国なのでひとたびネウロイの大軍に攻められると、他国の援軍がなくては戦線を維持できない。
つまりだ。
あの永遠の十四歳、挨拶一つしないで新しい戦場に向かいやがった!
「えええええ! あ、あれ、新しいフォースを担いで?」
「ネウロイ使わないあれですねー」
ネウロイを原材料に使わない純正の人工フォース。ルーデル中佐愛用のシャドウ・フォースと呼ばれるもので、作成はTeam R-TYPEにしか行えない。
Team R-TYPEのスオムス支部には、中佐から受けた通信内容を一週間前に伝えてある。
つまりあれだ。中佐は新しいフォースを用意しろという自分の言いたいことを一方的に私に言っておいて、熱いコーヒーを用意して待ってますねとかいう私の恥ずかしい台詞は思いっきり無視したのだ。
顔が熱くなっていくのを感じる。
決め台詞が。私の決め台詞が盛大にスルーされた。
「ケイコお姉様のコーヒー、代わりにわたしがいただきますぅ」
いやもう勘弁してください。
……あと、私は未だに中佐に『徴発』されたままだけどどうすんの!?
R-WITCHES
THE THIRD LIGHTNING
THE END