アンジュがアルゼナルに来てから数日がだった。
「例の新人ですが、基礎体力、反射神経、格闘対応能力、更に戦術論の理解度、全てにおいて平均値を上回っております」
「優秀じゃないか」
エマの報告を聞いたジルはにやつく。
「『ノーマの中では』……ですが……」
ジルは移動しながら懐からアンジュから没収した指輪を見る。
「パラメイルの操縦適正に特筆すべきものあり……か……」
やがて、ジルは1機のパラメイルの前に着く。
それは、所々錆付いており年季を思わせる機体だった。
アリシアがメイに整備するようにと頼んでおいた機体……ヴィルキスだった。
◇
「わあ♪ 今日はプリンだぁ♪」
「ココ、あんたまた食べずにとっとくんでしょ?」
「だって勿体無いんだもん」
「お子様だなぁ、ココは」
平凡な日常が続きくアルゼナル。
だが、アリシアはある事で悩んでいた。
(今日がドラゴンの襲撃がある日で、ゾーラとココ、ミランダが死ぬ日だけど……)
歴史通りに進めばそうなる。
もし、ここで3人を助けたとしても、歴史の修正力で近い内に死ぬ。
結局の所、どう足掻いても結末は変わらない。
「はぁ~」
「珍しいわね。あんたがそんな顔をするなんて」
「ん? サリアか……」
昼食の時間だったので、サリアはお盆を持っていた。
「……この後、ドラゴンが来る」
「今……何って言った?」
サリアは今、食べようとしていたスプーンを落とし、聞き直す。
周りはスプーンの音に反応して、こちら側に目を向けていた。
「…………」
アリシアはトン、トンと指を叩く。
それを聞いたサリアは理解する。
アリシアがやっているのは、隊長、副長中でしか使われない暗号。
『この後、ドラゴンが来る』
『なんで、あんたがそれを知っているのよ』
『それは教えられない』
『…………』
サリアは悩む。
アリシアの今までの行動は不可解なところがある。
本来、副長はアリシアが務めるはずだったのだが、それを降りた。
それも、ジルの許可を取ってのこと。
『今言えるのはここまで……それと今回、私も参加する』
『……分かった。後でゾーラ隊長に言っとくわ』
『よろしく』
サリアとの会話を終え、その場から立ち上がると、別の所で暴動が起こる。
その暴動の中心はアンジュとロザリーのようだ。
しかし、それはすぐに収まった。
「イタ姫様……一つ忠告しといてあげる……ここはもう、あんたがいた世界じゃない。早く気付かないと……死ぬよ?」
ヒルダはアンジュに忠告するが、アンジュにとってそんな事はどうでもいいことだった。
それを眺めていたアリシアは……
「少しは被害を少なくしてみるか……」
生死は避けることは出来ないが、被害までなら変えることが出来る。
それが、アリシアがおこなってきた実験の答え。
◇
アリシアは部屋からヴァイオリンを持ち出し、墓のある所に来ていた。
「~♪ ~♪」
アリシアが弾いている曲は『ナイト・オブ・ナイツ』。
前世で好きだったこの曲を、今無き仲間に聞かせるのが、彼女の日常だった。
「~♪ ~♪」
11年……長いような短いような歳月。
アリシアが待ち望んだ役者がそろったのだから。
そして、始まりの時間が刻々と近づいていた。
「アリシア様、またやっているわね」
「うん。でも、なんだか不思議な曲だよね」
ココとミランダはラウンジから聞こえるアリシアの演奏を聴いていた。
「ん? アリシアか……」
指令室で一服していたジルは、アリシアが演奏をしていることに気付く。
だが、ジルは……
(ヴァイオリンと言うことは、ドラゴンが来ると言うことか……)
アリシアの演奏は二つある。
ヴァイオリンを弾く時は必ず、ゲートが開く。
歌の時は、収容者が来ると、決まっている。
「今日はヴァイオリンですか……」
エマ監視官は、アリシアの演奏には少し悩んでいた。
稀に弾くのは別に構わないが、人間より上手いのがどうも、嫌だったらしい。
「才能の差だ。諦めろ」
「…………」
数分後、アンジュが嘆願書を手に指令室に入ってくるが、ゾーラに連れて行かれた。
そして、指令室に一本の電話が入った。
「はい! アルゼナル司令部!」
演奏を終えると同時にアルゼナルにサイレンが鳴り響く。
「さあ、カーニバル時間だ」
アリシアは墓を後にする。
◇
『敵反応、ブリック級1。他は反応不明瞭のため、数・等級共に不明! パラメイル第一中隊は接敵次第各自対応せよ!』
『第一中隊了解!』
全員各自のパラメイルに搭乗する。
ゾーラを筆頭に着々と発進し、アリシアはアンジュ、ココ、ミランダの後ろをついて行く。
アリシアの今回の任務は新人の援護だった。
そして、結末は歴史通りになった。
ゾーラ、ココ、ミランダ 死亡
アンジュ 軽傷
パラメイル 3機大破