キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

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シノン回


11:少女の記憶

              ◆◆◆

 

 

 目を開けると、私はいつの間にかベッドの上に寝転んでいた。いつの間にか白くて軽い服を着ていて、周りに白衣を身に纏った人達が忙しなく騒いでいる。これは、病院かしら。私はいつの間に病院なんかに来たんだろう。

 

 真上の方を見てみると、大きな白い機械が姿を現した。本当に大きくて、私の上半身をすっぽりと覆ってしまうくらいの大きさだ。でも不思議と、その機械には覚えがあった。何度か、利用していたような。でも、何のために使っていたのかまでは出てこない。

 

 声が聞こえてきた。女の人の声で、マイクを越しているような声色。

 

 

「それでは詩乃さん、メディキュボイドの使用を開始します。そのままでお願いします」

 

 

 何も言わないでいると、大きな機械が音を立てて、私の上半身をすっぽりと覆った。直後に私の目の前は真っ暗になった。

 

 でも、そのすぐ後に不思議な光景が私の目の前に広がった。

 橙色の光のラインがところどころに走っている、真っ黒な空間。そして目の前にはいくつかのモニタのような、四角いウインドウが出ている。そう、SF映画とかそういうものに登場するサイバー空間だとかVR空間だとかそういうものでよく出てくるような光景。

 

 何でこんなところに飛ばされたのと思った直後に、私は答えを導き出した。

 そうだ、私はメディキュボイドを使って、VRに入り込んだんだ。そしてここは、VRに入った時に一番最初に訪れる場所。キャラクターだとか、ネームだとか、そういうものを決めて、アバターを作成する場所だわ。

 

 そう思っていると、女性の声が聞こえてきた。さっきの人ではない、コンピュータ音声によく似た声。その声は、私にアバターを作成してくださいと言う指示を送ってきた。直後に、私の目の前に水色の光で構成された入力ウインドウが出現する。

 

 ウインドウの中には既に一つの単語が出現している。

 

 《Shinon(シノン)》。

 

 自分で決めた覚えはないけれども、これが私のアバター上の名前らしい。性別は勿論女性だ。

 

 その辺りの事を把握し終えると、ウインドウは消えた。すぐさま女の人の声が聞こえてきて、カウンセラーが到着するのお待ちくださいと私に伝えた。もうすぐ、話を聞いてもらえるらしい。

 

 そう思っていたその時、突然地面が揺れ始めた。横揺れの地震のような揺れに思わず身体が不安定になる。ここはVRMMOの中……地震なんか起こるわけがないし、第一これはゲームとかそういうものじゃないから地震イベントみたいなものだって無いし……。

 

 考えていると、突如床が抜けた。いや、床が消えたと言うべきかもしれない。

 とにかく、いきなり揺れ始めた床が消えて、私は黒いVRの海の中へ落ち始めた。ひょっとしたら吸い込まれているのかもしれないけれど、私の身体は闇の中に引っ張られ続けた。私は悲鳴さえも上げれず、ただ黒い空間の中に落ちて行った。

 

 落下していくうちに意識がどんどん薄くなり、やがて目の前が真っ暗になった。

 

 

 

              ◆◆◆

 

 

 

「ッ!!!」

 

 

 思わず飛び起きて、最初に広がっていた光景は、如何にもログハウスの中と言ったような光景だった。でも、夜中に目覚めてしまったらしく、周囲を見回しても暗い。明るいところと言えば、月明かりが差している窓くらいだ。

 

 周りをもう一度見渡してみれば、隣のベッドでぐっすりと眠っているキリトと、小さくなって、そのうえに乗る形で眠っているリランの姿があった。その様子から察するに、物音を立てても起きそうにない。

 

 

「何でこんな時間に起きたんだか……」

 

 

 呟いて、もう一度ベッドに横たわって目を瞑ったけれど、一向に眠気が来なかった。完全に目が覚めてしまっている。まるで、朝目覚めた時と同じみたいに。多分こうしてても眠る事は出来ないだろう。

 

 

「ちょっと出歩いてこようかしら。どうせ、フィールドモンスターもいないわけだし」

 

 

 もう一度呟いた後に、ゆっくりとベッドから降りて、音を立てないように歩き、階段を降りて、外に出た。戸を開けた途端に、冷たい夜風が吹いてきて、寒くなった。身体を見てみれば、下着も当然の格好だった。……道理で寒いわけね。

 

 私はウインドウを開いていつもの服を着用して、家の裏手に回った。キリトが家を買った後に気付いたのだけれど、この家の裏手に回ると、目の前には広大な湖が広がっている。下からでも見れるし、勿論二階からでも楽しめる。

 

 見えるのは湖だけじゃない。草原も、針葉樹林といったこの層を象徴するものの全てが、この家の裏手から見渡せるようになっている。何とも、いい家を選んだんだ、キリトは。

 

 

(いい景色……)

 

 

 空を眺めてみれば、白く輝く月が見える。でも、あれは現実にある月じゃないし、この夜空も、草原も針葉樹林も、湖も、この世界そのものがVRでしかない。

 

 さっきの夢のおかげなのか、記憶が戻ってきている。どうやってこの世界に迷い込んできたのか、そもそもこの世界に来る前に何をしていたのかを。

 

 

「私は、病院からこの世界に迷い込んだんだったわ」

 

 

 ふと呟いたその時に、後ろから足音が聞こえてきた。私のものじゃない、草を踏みつけるような音。振り向いてみれば、そこにあったのはいつもの黒いコートを羽織っておらず、目を少し頻りに擦りながら、少し眠たそうにしているキリトの姿だった。

 

 そう、この世界に迷い込んでから最初に出会って、今まで一緒に居る、キリト。

 

 

「キリト」

 

「どうしたんだよシノン。こんな時間に外に出て」

 

「夜中に目が覚めちゃって、そこから眠れなくなったのよ。そういうあんたは何をしに」

 

「音が聞こえてきて、目を覚ましたらシノンがいなかったから探しに出たんだ。いくらフィールドモンスターがいないとはいえ、夜中に勝手に出て行かれたらびっくりするよ」

 

 

 どうやら、私の事を心配してここに来たらしい。というか、あの時音を立てずに動いたつもりだったのだけれど、キリトの事を起こしてしまっていたらしい。

 

 

「ごめんなさい、起こしちゃって」

 

「別に気にしてないから大丈夫だよ。ところで隣座ってもいい」

 

「別に構わないわ」

 

 

 そう言ってやると、キリトは「そっか」と言って歩み寄って来て、私の隣に座った。

 そうだわ、キリトは私の記憶について興味があるようにしているような感じがあった。一応、記憶の一部が戻ってきた事を教えておこうかしら。

 

 

「ねぇキリト、私、記憶を取り戻したみたいなの。話していいかしら」

 

 

 そう言った瞬間、キリトはかっと目を開けて私の顔を見つめてきた。

 

 

「本当なのか、シノン」

 

「えぇ。今から話すね」

 

 

 私はキリトに、思い出す事が出来た記憶の話を始めた。

 

 

「私がこのゲーム、《ソードアート・オンライン》を知ったのは、テレビやネットのニュースでよ。沢山の死亡者が出て、首謀者がまだ逮捕されてない、平成史上最悪のサイバー事件として取り扱われてる」

 

「なんだって。という事は、君はナーヴギアをどこかで手に入れて、それを使ってここに来たのか? このゲームには基本的には、フルダイブ機能がないとは入れないようになっているんだけど」

 

 

 ナーヴギア。ニュースによると、茅場という人が所属する会社が開発、販売したフルダイブ機能を搭載しているVRMMO専用ハード。そして、ソードアート・オンラインはそのナーヴギアでのみプレイできるゲームであり、「人類はとうとう完全なる仮想空間の実現に成功した」なんていう謳い文句の元、販売されていた。

 

 けれど、それはソードアート・オンラインがプレイヤーを殺害するゲームである事が判明した後に販売停止になり、全ての家電量販店からその姿を消した。

 

 

「ナーヴギアなんてとっくに販売停止になってるわ。多分、私をここに招いたのは病院にあったメディキュボイドね。ナーヴギアと同じくフルダイブ機能を搭載した大掛かりな装置。キリトは知ってるかな、VRMMOがナントカコントカ療法にいいとか言って、医療面でも使われてるのよ。麻酔薬の代わりだとか、精神治療にどうとか」

 

「へえ、VRMMOは病院でも使われていたのか。てっきり娯楽オンリーかと思ってたけれど、そうじゃないんだな」

 

「そう。私はカウンセリング用のVRMMOを病院で使ってね、アバターを作成してカウンセラーを待っていたのよ。あ、勿論このVRMMOはソードアート・オンラインじゃないわよ。無難なVRMMOね」

 

 

 キリトの眉が寄る。

 

 

「えっ、じゃあなんで君はここにやってきたんだ? 君がやっていたのはSAO(これ)じゃないんだろう」

 

「何でここに飛ばされたのかは、私にもわからない。アバターを作成して待ってたら、急に床が抜けて落っこちて、次に目を覚ましたらあんたの腕の中」

 

「SAOが、君をここに引きずり込んだとでも言うのか」

 

「そう考えるのが妥当ね。多分今頃病院は大騒ぎよ。私がいつまで経っても目を覚まさないって。私がSAOのプレイヤーになってしまったって」

 

 

 キリトが困ったような表情を浮かべる。

 

 

「そうだろうな。メディキュボイドを使ってSAOじゃないアプリケーションを起動したら、SAOに呑み込まれてしまったなんて、誰も想定出来っこない。それにしても、君は何故そんなものを使ってたんだ」

 

「えっ?」

 

「メディキュボイドとか、そのナントカコントカ療法だよ。どうしてそんなものを使っているんだ。それにカウンセラーとか……何かあったのか」

 

 

 そうだ。私は何でメディキュボイドなんて使ってたんだろう。メディキュボイドを使ってアバターを作ったってのはわかるんだけど、どうしてそんな事をしたのか、そもそもどういった経緯でメディキュボイドを使ったのかまでは思い出せない。ここが肝心なはずなのに、どうでもいい事ばかり思い出して、重要な事はまだ霧がかかったままだ。

 

 

「それがわからないのよ。メディキュボイドを使ってVRに入り込んだのはわかるんだけど、どうして入り込んだのか、どうしてメディキュボイドを使わなきゃいけなかったのかまでは思い出せないの。ここがすごく肝心なはずなのに、ここだけが何故か思い出せなくて……」

 

「なんだ、そこはわからないのか。でも、メディキュボイドを使ってここに入り込んでしまったのがわかっただけでも、一歩前進だな」

 

 

 実はそうでもない。ここが本当にあのSAOの中だってわかったという事は、ここが本当にデスゲームの中であるという事がわかったって事なんだから。ニュースによれば、SAO内でHPがゼロになって死亡すれば、現実世界のプレイヤーの脳を、ナーヴギアが焼き壊す。それは私も変わらない。

 

 私がこの世界でHPをゼロにされれば、病院のメディキュボイドが、私の脳を焼いて殺す。いや、メディキュボイドは確か、ものすごい出力のある機械だったから、あれがもし電磁パルスモードに入りでもしたら……。

 

 考えたら、お腹の底から震えが来た。多分、現実世界だったら吐いてる。

 

 

「……ッ」

 

「シノン、どうした?」

 

「ねぇキリト、この世界で、HPがゼロになったら、本当に死んでしまうのよね。じゃあ、私も……」

 

 

 突然、手が暖かくなった。何だろうと思ってみてみれば、キリトが私の手を覆っていた。

 

 

「大丈夫だよ、シノン。君の事は俺が守る。俺が最後まで守り切って、君を現実世界に返す」

 

 

 思わず、目が点になってしまった。まさか、こんな台詞があのキリトの口から出てくるとは思わなかったし、いやそもそもこんな臭い台詞を、ゲームとだとかアニメだとかドラマだとかに登場しそうな臭い台詞を言う事が出来るなんて。

 

 

「あんた、それ本気で言ってるの」

 

 

 そんなの冗談に決まってる。でなきゃこんな臭い台詞は……。

 

 

「悪いけど本気で言ってるよ。俺はもう誰も死なせたくないんだ。君だって、その一人だし、君は俺のところに落ちてきた。だから最後まで見届けて、守り切ってやりたいんだよ」

 

 

 どうやら、本気で言っていたらしい。その証拠と言うべきなのか、彼の黒色の目は本気の色というか、嘘を言っているような人間の目をしていなかった。この人、本気で私を守りたいとか言っている。こんなに臭い台詞を吐いて、しかもそれを本当に実行してしまいそうな目つきをしてる。

 

 

「馬鹿じゃないの。そんな事言って……私なんて、戦えもしないし、あんた達の足手まといにしかならないかもしれないのに……」

 

「それでも構わない。君がいてくれるだけで、俺はそれでいいんだ」

 

 

 キリトの言い分は全くよくわからない。この人は全く普通じゃないし、寧ろかなりの馬鹿だ。馬鹿だからこんなセリフを言ったりできるんだわ。でも何故か、何故だか、その言葉には異様な説得力と暖かさがあった。

 

 この人を信じてみたい、この人は信じれる、根拠もないのにそんな事を思える。

 

 

「……そう。なら、あんたの言葉に甘えてみようかしら」

 

「信じてくれるのか」

 

「えぇ。あんたの言葉、何だか信じられるのよ。それに、あんたが悪人だなんて思えないし。だから、あんたの事、少しは信じてみようとは思う。でもねキリト」

 

 

 キリトは「え?」と言って首を傾げた。

 

 

「私、記憶を少し取り戻したおかげで、何を目指していたのか、何を目的にしていたのかも思い出す事が出来た。私は、強くなりたい」

 

「強くなりたい、だって?」

 

「えぇ。ここにいるって事と、レベルがあるって事は、私は強くなる事も出来るんでしょう。それに私にも、こうやって短剣っていう武器がある。

 私は、強くなる事を願っていたわ。それがどうしてなのかは思い出せないけれど、私は強くなりたい。物理的にも、精神的にも」

 

 

 キリトは驚いたような顔で私を見つめていたけれど、しばらくして口を開いた。

 

 

「強くなりたいって……このゲームは遊びじゃないんだぞ。そんな軽々しく言えるようなものじゃないよ。それに、今だって君みたいな初心者が入り込めるような状況じゃ」

 

「誰だって最初は初心者でしょ。どんな科学者も、どんなプレイヤーも、知識ゼロの状態から始まる。あんただって、このゲームを始めた時は初心者だったんでしょう」

 

「そ、そうだけど」

 

「なら、あんたが私に技術を教えてほしい。あのアスナっていう人の話によれば、あんたは周りの人が吃驚するくらいの実力者なんでしょう。そんなあんたから鍛えてもらえば、強くなれる。そんな気がするけれど」

 

 

 キリトが考え込むような姿勢になる。

 

 

「クォーターポイントはないから、周りの連中に攻略を頼んで、君の鍛錬に付き合う事は出来ると思うけど……本当にやる気なのか君は。もしかしたら死ぬかもしれないんだぞ」

 

 

 あ、この人やっぱり馬鹿だわ。早速自分で言った事を忘れてる。

 

 

「そんなのやってみなきゃわからないし、私は死なないわ。だって、キリトが守ってくれるんでしょう?」

 

 

 キリトはハッとして、苦笑いした。

 

 

「そうだったな。君は、死なないね。俺と……リランが守るんだから」

 

「そういう事よ。だからお願いキリト。私に戦う力を与えて頂戴。ある程度教えてもらえれば、後は自分で何とかできるから」

 

 

 キリトは私の目をじっと見つめていたけれど、すぐさま軽く溜息を吐いて、言った。

 

 

「わかったよ。君の要求を呑み込もう。君を鍛える事で、俺も何か得られるかもしれない。だから、強くなるなら一緒だ。一緒に強くなっていこうぜ、シノン」

 

 

 何とか、キリトは私の言葉を聞いてくれた。アスナの時みたいに跳ね返されるんじゃないかと思ったけれど、そうじゃなくてよかった。

 

 

「了解よ。じゃあ朝方から始めたいんだけど、まずはどこからやるの?」

 

 

 キリトが考え込むような姿勢を再度取り、呟くように言った。

 

 

「まず1層まで戻って、そこから始めよう。あそこにはレベル1,2の敵がわんさかいるから、攻撃されても大したダメージにはならない。そこであらかた戦い方のコツとかを教えるから、大体よくなってきたら2層、3層と上げて行こう。俺達もそうやって強くなってきたから、シノンもそれで行けるはず」

 

「わかったわ。じゃあ、大晦日である31日までに50層まで辿り着きましょう。それなら、キリト達と同じくらいになるでしょう」

 

 

 キリトの目が点になる。

 

 

「えっ、君はそんなハードスケジュールで行くつもりなのか? 今日は26日……31日まで5日くらいしかないぞ。君が1層から初めて51層まで行くという事は、一日10層駆け上がる事になるぞ。かなり無理があると思うんだけど。というか、あまり現実的じゃないというか……」

 

「いいのよそれで。51層っていうのはあくまで目標であって、いけるところまでいければそれでいいから。目標が高ければモチベーションも高くなるし」

 

「そ、そうかぁ……じゃあ、ものすごいハードスケジュールだけど、それでいいんだな」

 

「構わないって言ってるでしょ」

 

「わかったよ……それでいこう。でも、本当に51層に辿り着けるかどうかはわからないから、辿り着けなくても怒らないでくれよ」

 

 

 ふふんと笑って見せる。

 

 

「どうって事ないわ。さぁ、お願いねキリト」

 

「わかりましたよ、シノンさん」

 

 

 キリトはそう言って、深々と溜息を吐いた。

 その時に、私はふとある事を思い出して、キリトに声をかけた。

 

 

「あ、そうだわキリト。気になってた事があるんだけど、聞いていいかしら」

 

「なんだ?」

 

「あんたが連れてるあのリランだけど……あれって雄なの? それとも雌なの?」

 

 

 キリトはきょとんとした。

 

 

「リランの性別が気になるのか?」

 

「えぇ。あれ、如何にも雌雄がありそうな形だし。あんたは知ってるんでしょ? リランが雄なのか雌なのか」

 

 キリトはまたまた考え込むような姿勢を取った。

 

「そういえばあまり気にした事が無かったな……あいつの性別ってどっちなんだろう。雄なのか、雌なのか……」

 

 

 思わず驚いてしまった。キリトはどうやら、リランの雌雄を知らないらしい。

 

 

「あんた、飼い主のくせにペットの雌雄すら知らないわけ?」

 

「あぁ。その辺りの事はあまり深く考えた事が無かったから……リランが起きたらステータスを確認してみるよ。きっとわかるはずだから。でも雌だと思うな、俺は」

 

「何でそう思うのよ」

 

「あいつの《声》、どう考えても女性のものなんだよ。デカい時はちょっと年取った女性の《声》だし、小さい時は本当に女の子みたいな《声》。シノンもリランの《声》を聞いてるからわかるだろ?」

 

 

 確かに、大きい時のリランの《声》はおばあちゃんまで行かないけれど、年配の女性みたいな声色で、キリトの肩に乗れるくらいの大きさの時は女の子みたいな声色だ。これはつまり、リランが雌である事を示す事だと思うけど……。

 

 

「そうね……リランは、雌かぁ……」

 

「まぁ、リランが起きたら確認してみるけどさ。(メィル)なのか(フィメール)なのか。というか、何でそんな事を聞いたんだ」

 

「ただ単に気になっただけよ。深い意味はあまりないつもりだけど。でもあれが雌なら、雄はどんな姿をしてるのかしらね。」

 

 

 キリトがログハウスの方へ目を向ける。

 

 

「あまり変わらないと思うけれど。あいつ、ドラゴンだけど哺乳類みたいな姿をしてるし」

 

「そうとは限らないんじゃない。現実のカブトムシとか、雄と雌で全然形が違うじゃない。リランの種類もきっとカブトムシみたいに全然姿が違ったりするんじゃないかしら」

 

「そんなものかなぁ。何にせよ、あいつの雄が存在するなら見てみたいな」

 

 

 そんな他愛もない話を繰り広げていると、急に眠気が来て欠伸が出た。吹っ飛んでいた眠気が今更になって戻って来たらしい。

 

 

「ごめんキリト、何だか急に眠くなってきた」

 

「そりゃよかったよ。さ、早く眠りに戻ろう。今日の昼からは鍛錬なんだから」

 

 

 私は頷き、キリトと共にログハウスの中へ戻った。

 何故だかはわからないけれど、強くなるんだ、私は。

 




◇◇◇ → キリト視点の事

◆◆◆ → シノン視点の事

□□□ → 第三者視点の事

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