キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

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ALO新大陸へ。

そしてすごく意外な新キャラが登場。


08:空都にて

「ついに来たぞ、黒の妖精族の浮遊大陸(スヴァルト・アールヴヘイム)!!」

 

 

 最初に聞こえてきたのは、興奮を極めているかのような相棒の少女の声だった。明日テレビが《壊り逃げ男》に襲撃されたために、レクトもその影響をもろに受けて、ALOのアップデートを中止してしまうのではないかと、俺と直葉を含めたユーザーの皆が心配をしていた日の翌日。

 

 アルヴヘイム・オンラインは無事にアップデートされて、新たな要素を無限大ともいえる量含んだ大陸、スヴァルト・アールヴヘイムを俺達プレイヤーに齎してくれた。

 

 俺は《壊り逃げ男》が再び日本社会に出現した事が驚きだったし、ある種の不安を感じていたけれど、新大陸の実装はその全てを吹き飛ばしてくれ、不安の何もかも忘れたかのようにアミュスフィアを起動し、仮想世界アルヴヘイム・オンラインへと飛び込んだのだった。

 

 

 妖精世界ALOでは、俺や直葉/リーファと同じように、この時を待っていたと言わんばかりに相棒のリランと娘のユイ、仲間のストレアが喜びを見せており、現実世界よりやってきた俺達を歓迎してくれた。

 

 そして、そんな彼女らに連れられて転移門に行ってみれば、あったのだ。昨日までなかった新たなる街《空都ライン》という名前が。俺達は迷わず昨日まで見た事のなかったその街を選択して転移。青い光のドームに視界と身体が包み込まれ、やがてそれが晴れると、これまで見た事のない光景が俺達の視界へ飛び込んできた。

 

 

 基本的に石で作り上げられている、大小さまざまな大きさかつ、実に様々な形をした、古代遺跡を思い出させるファンタジー感たっぷりの建物の数々と、古代遺跡とはまた違うけれど、中世ヨーロッパなどを彷彿とさせる沢山の露店。

 

 イグドラシルシティとは全然違う風貌の街並みを、サラマンダー、シルフ、ノーム、ウンディーネ、インプ、スプリガン、ケットシー、プーカ、レプラコーンといったALOに存在するすべての種族の、数えきれないほどの様々なプレイヤーが行き交っていた。

 

 

「すっげぇ! これがスヴァルト・アールヴヘイムか!」

 

「光と闇が交差する浮遊大陸、その最大の都市である空都ラインが、ここみたいだね。それにしてもすごい数の人……まるで休日の遊園地とかみたい」

 

 

 周りを見渡しながら放たれたリーファの呟きに俺は頷く。ALOのプレイヤーは日本に何万人もいるし、海外からログインしているプレイヤーもいるため、もはや億に達するくらいの人々がALOにログインを果たしており、そして俺達と同じようにこのアップデートを心待ちにしていたのだ。その全員がこうやって空都ラインに集まっているからこそ、これだけの混雑具合が生まれているに違いない。

 

 だが、改めて集まっているプレイヤーを見回してみたところ、その数は俺の想定をはるかに超えた数である事に気付き、俺もリーファと同じようにあまりの人だかりに驚いてしまった。あまりの人の数に、もはやプレイヤーの重さで浮遊大陸が下の大陸に落ちてしまうのではないかと思えてくる。

 

 

「あ、やっと見つけた。キリト!」

 

 

 アップデートと広がる未知の領域の光景に興奮するプレイヤーのざわめきの中から、聞き覚えのある声が聞こえてきて、俺達は一斉にそこへ振り返った。白水色の髪の毛に、深緑を基調とした戦闘服を身に纏っていて、頭からヤマネコのそれを思わせる大きな耳と、尻元から尻尾を生やした少女が、集う人々の間を息苦しそうに抜けて、俺達の元へと歩いて来た。

 

 その少女の姿を目の中に映すなり、俺は心の中に嬉しさを感じて、ユイは目を輝かせる。

 

 

「シノン!」

 

「ママ!」

 

「やっぱり早いわね、キリトとユイは。今ログインしたの」

 

「あぁそうだ。それに俺とユイだけじゃない。リランとストレアもいるぜ」

 

 

 俺に言われて、シノンは俺の後ろ側にいた、SAO自体からの仲間であるリランとストレアに顔を合わせて微笑む。新大陸でもちゃんと会えたのが嬉しいのだろう。

 

 

「リランとストレアも来てくれたのね」

 

「当然だ。我とてこの新大陸の実装が嬉しくないわけではないからな」

 

「シノンもちゃんと来てたんだね、よかったぁ。てっきりこの人ごみに揉みくちゃにされちゃったんじゃないかって思ってたよ~」

 

「確かにそれくらいの人だかりではあるわね。でも、まさかこれだけの人が集まるなんて、思ってなかったかも。強制ログアウトとか起きなきゃいいんだけど」

 

 

 確かにこれだけのプレイヤーがログインしていると、一部のプレイヤーが優先されて他のプレイヤーが回線落ちしてしまうなんていう事が昔のMMO(ネトゲ)などによくあったけれど、このALOは日本一太い回線を持つレクトが運営しているゲームなので、ちょっとやさっとの事で回線落ちする事はない。現にレクト自身、ALOの売りの一つとして、回線落ちしないというのを宣伝している。

 

 

「その心配はないよ。なんたってアスナのとうさんがボスをやってるレクトのゲームだからな。正確にはその子会社のだけど、回線の太さは日本一だ。だから、強制ログアウトなんて事にはならないよ」

 

「そうならいいんだけど……」

 

「あっ、見つけた! キリト君、シノのん――!」

 

 

 更に聞き慣れた声が人ごみから聞こえてきて、俺達はそこへ向き直る。人ごみの中をかき分けるようにして現れたのは、ウンディーネによく見られる水色の長い髪の毛で、白と青を基調とした戦闘服を身に纏った少女アスナと、アスナに手を繋がれている銀色の髪の毛と青色の瞳が特徴的な、白金色の服を着た小さな少年ユピテル。

 

 その後ろにはピンク色の髪の毛が特徴的で、赤色の服を纏ったレプラコーンであるリズベット、シノンと同じケットシーを選択していて、黒青色を基調とした服を纏い、肩にフェザーリドラの幼体であるピナを乗せた俺と同じ《ビーストテイマー》のシリカ、SAO時代からずっとトレジャーハンターを名乗っていて、宝を見つけ出す事に喜びを感じている黒髪のスプリガン少女フィリアがいて、その更に後ろには申し訳程度とでも言わんばかりの存在感を出している、俺やフィリアと同じスプリガンであり、短弓使いのシュピーゲルの姿があった。

 

 

「アスナ達も来てたのか。早いな」

 

「うん。わたし達だってこの日を待ち望んでいたもん。だけどそういうキリト君達こそ早いじゃない」

 

「まぁ、我らは出来る限り早くログインしようと思っていたからな。というか、我やユイやストレアはログインしっぱなしなのだがな」

 

 

 そこでリズベットとシリカが苦笑いして見せる。その様子を軽く見ただけで、俺は彼女らがここまで来るのにそれなりに苦労して来たのがわかった。

 

 

「こっちはここまで来るのに苦労したわ。イグドラシルシティも転移のために混雑してるんだから。おかげで何回シリカの姿を見失いかけて、迷子にさせるところだったか」

 

「すごい数の人なんですもん。だけどキリトさん達がちゃんといて安心しました」

 

 

 空都ラインの混雑の仕方を見て忘れかけていたけれど、ここに来る前のイグドラシルシティの転移門周辺もかなり混んでおり、特に背の小さいユイが逸れてしまいそうだったから、ユイとしっかり手を繋いで逸れないようにしてきたんだった。

 

「本当にすごい数の人だよね。夏休み中とかのテーマパークみたい」

 

「けれど、誰も回線落ちとかないみたいでよかった。皆がちゃんとログインできてる」

 

 

 人ごみに驚いているフィリアと、皆がいる事に安堵しているシュピーゲル。確かにレクトのサーバーを使っているから回線落ちとかないだろうけれど、それぞれの都合とかもあるから、皆が揃えない可能性だって大いにあった。だけど、見る限りでは皆が揃っているから、その辺りの心配は杞憂に終わっている。

 

 

「おーい、みんな――!」

 

 

 しかし、そこでまた人ごみから声がして、SAO時代からの仲間達全員で振り向く。そこには紫色の長髪で、同じく紫を基調とした戦闘服に身を包んでいる、絶剣と呼ばれるくらいの実力を持つインプの少女ユウキ、和服と洋服を足したような衣服を身に纏っていて、男性にしては髪の毛が長く、パートナープレイヤーと言ってもいいくらいにユウキと居る時間が長いけれど、俺の親友でもある黒茶色の髪の毛のシルフ少年カイムの姿があった。

 

 二人は俺達を見つけるなりそそくさと人ごみをかき分けて来て、SAOの時から今の今までずっと一緒にいるアスナの元へ駆けつけてきた。この日をさぞかし心待ちにしていたのだろう、すごく嬉しそうな顔のユウキが傍までやって来たところで、アスナもまた嬉しそうな表情を浮かべる。

 

 

「ユウキにカイム君! 二人もちゃんと来れたんだね!」

 

「当たり前だよ! この日をボク達みたいなALOヘビーユーザーがどれだけ待ち望んだ事か! もう嬉しくてそこら辺飛び周っちゃいそう!」

 

「……だからこうして、ユウキの近くにいるんだよ。どこかに行ってしまって戻って来れなくなるのを防ぐためにね」

 

 

 カイムがどこか呆れたような顔をすると、ユウキが苦笑いする。ユウキは確かに強いけれど、たまに妙に子供っぽいところがあるから、SAOでこういう騒ぎになった時にはどこかへふらふらと消えて行ってしまう事もあった。この様子だとユウキがSAOに来る前にはそういう時があったという事なのだろう。

 

 

「だけど、お前だって嬉しいだろ、こうやってゲームに新要素が追加されるっていうのは」

 

「まぁ間違ってはいないけれどね。ぼくだってこの日を待ち望んでいたわけだし」

 

「ならいいんだよ」

 

 

 そう言ってやると、カイムの顔に笑みが浮かんだ。カイムだって色々あったけれど根っこは俺と同じゲーマーだから、こうやってゲームがアップデートされた日にはちゃんと喜びを感じる事が出来る。最近はユウキの近くにいるためなのか、そういうのが見れなくなっているけれど。

 

 親友達もこの日を待っていた事を確認すると、再び人ごみの方というか、広場の方から聞き慣れた声が聞こえてきた。振り返れば、そこにはクライン、ディアベル、エギルのSAOからの付き合い連中。ユウキや他の皆と同じようにこの日を待ち望んでいたのだろう、クラインがさぞかし嬉しそうな様子でやってきた。

 

 

「よぉキリトに他の皆! ちゃんと揃えてるみたいじゃねえか!」

 

「クラインにエギルにディアベルも来たのか」

 

「当たり前だ。ネットでも今回の大型アップデートは話題になってたからな」

 

「公開直後に飛び込まなきゃ、ゲーマーの名が廃るってもんだぜ」

 

 

 まるでSAOにいた時に、新たな階層が解放された時のような素振りを見せる男達三人。他の皆を見ていてもそうだけど、何だか皆してあの頃からそんなに変わっていないような気がしてならない。

 

 いや、だからこそこんなに嬉しさを感じるのだろう。あの時、SAOの頃からゲームに臨む姿勢が何一つ変わっていないのだから。

 

 そこで俺はぐるりとまわりを見回して、集まった皆の顔を確認する。ログインした当初はログインできない者が出てくるのではないかと思っていたが、これまでずっとALOをプレイしてきている仲間達全員が揃っている。――いつものメンバーが揃って、ALOに実装された新エリアの攻略に臨む事が出来る。

 

 それが何よりも嬉しくなって、何度も皆を見回してしまったが、そこでそのうちの一人であるシノンが俺と同じように周囲を見回している事に気付き、咄嗟に声をかけた。

 

 

「あれ、シノンどうした。メンバーなら全員揃ってるはずだぜ」

 

「……」

 

 

 何も言わずにただ周りを見回すシノンを見て、俺は咄嗟に頭の中に一人の女性の姿を思い出す。そうだ、シノンが今もっとも会いたがっている人物は、俺達と同じようにゲーマーで、こういうゲームのアップデートとかがあればすぐに駆けつけてきそうな人物だ。だから、この中にいても不思議ではないが……見つける事が出来ないようだ。

 

 やがてシノンの様子にリランとアスナも同じように感付いて、声をかけた。

 

 

「シノン、どうした。何か気になる事でもあるのか」

 

「ここには皆揃ってるはずだけど、どうかしたの、シノのん」

 

 

 親友二人に声をかけられたその時に、シノンはようやく見回すのをやめて、すぐさま俯いた。続けてその口が音無く動き出す。

 

 

「……やっぱり、いない」

 

「いないって……もしかしてイリス先生の事?」

 

「……えぇ。イリス先生はゲームが好きな人だから、こういうイベントが起こればすぐにでも来ると思ってたんだけど……違ったみたい」

 

「まぁ、イリスのやっている仕事は我らのようなAIを作り出す仕事である上に、ゲーム開発というクラインやエギルのようなそれよりも過密なものだ。ネットゲームに飛び込む余裕など無くて当たり前なのかもしれぬ」

 

 

 イリスの手によって作られた一番最初のAI、リランが腕組みをしながら言う。確かにイリスのやっている仕事はここにいる誰もが経験したものよりも高度な技術と日数を要するようなものだ。本人は無類のゲーム好きのようだったし、ALOもかなり気に入っていたみたいだけれど、ここに来れるような余裕は作れないのだろう。

 

 

「イリスさんは仕方がないよ。あの人は忙しくて、ここに来る余裕だって作れなかったんだ。だから、今日はここにいないイリスさんの分も遊び尽くして――」

 

「ん――、それは心外だねキリト君。私がアップデートの日に来れないなんて、誰が知ってたんだい」

 

 

 いきなり背後から聞こえてきた声に驚いて、俺は咄嗟に振り返り、皆は一斉にそこへ視線を向ける。つやつやとした、腰に届くくらいの長い黒髪に赤茶色の瞳で、この中の女子の誰よりも背が高く、ストレアやリーファと同じくらいに胸が大きい、白いコートと黒いズボンを着こなした女性がいつの間にか姿を現していた。

 

 そう、今話に出していて、シノンが捜していた人物であり、俺達の仲間の一人でもあって、SAOの時の最高の協力者だった、イリス。

 

 

「イリスさん!」

 

「イリス先生!」

 

 

 皆からの注目と声を受けると、イリスはふふんと笑って、軽く掌を立てる。その様子と表情は久しぶりに仲間達に出会えた事を喜んでいるかのようだった。

 

 

「やぁやぁ皆。何ヶ月ぶりだろうか。とにかく久しぶりだね。元気そうで何よりだ」

 

 

 数か月前となんら変わっていない、フランクな態度と喋り方をするイリス。そんな彼女を見つめる皆の目つきは、揃って驚いたようなものだった。そりゃそうだ、まさか突然現れてくるなんて、俺も含めて思ってもみなかった。

 

 しかしその直後、驚いている者の一人だったシノンが急に足を動かして、イリス目掛けて走り出し、その胸の中に飛び込んだ。ぽすん、という布同士がぶつかるような音が鳴ると同時にシノンの顔がイリスの胸に埋められ、拳が握られる。

 

 突然シノンが飛び込んでくるのは予想できなかったのだろう、イリスは意外感と驚きを混ぜ合わせたような表情を浮かべてシノンを見つめていたが、すぐさま顔に微笑みを浮かべて、シノンの身体へと手を回した。

 

 

「先生……先生っ」

 

「……久しぶりね、シノン。元気にしてるみたいで嬉しい」

 

「イリス先生こそ……」

 

「うん、私も元気にしてたわ。結構な間、会えなくてごめんね」

 

 

 シノンがイリスの胸の中で頷く最中、アスナ達にくっついてきてここにやってきた、イリスの現実世界での患者の一人であり、イリス曰く弟子であるシュピーゲルが師のイリスの元へ行き、小さく声をかけた。その表情もシノンと同じような、会いたい人に会えた事を喜んでいるそれに変わっており、そこに目を向けたイリスは笑む。

 

 

「シュピーゲル、君も元気そうだね」

 

「はい。イリス先生も変わってないみたいで、嬉しいです」

 

「まぁ結構な間ではあるけれど、何もかも変わってしまうような時間じゃない。だから変わっていなくて当然なのだけれどね」

 

 

 シュピーゲルがそうですねと苦笑いすると、それまでイリスの胸の中に顔を埋めていたシノンが満足したようにイリスから離れていった。イリスは穏やかな顔をしているシノンの頭を軽く撫でた後に、俺の隣とアスナの隣を交互に眺めた。

 

 何があるのかと視線を向けてみれば、彼女の子供とも言えるAIであるリランとユピテルがいて、俺は妙な納得感を得る。この人はリランとユピテルを自分の子供のように扱っていたし、何ヶ月も子供に会えないでいた。そして今回、こうやって二人の子供に会えたわけだから、嬉しさを感じているのだろう。

 

 

「君達も変わらないみたいだね、リランにユピ坊」

 

「あぁ。お前こそ変わらないようで何よりだ」

 

 

 そこで、今現在ユピテルの母親となって育てているアスナが、元母親であるイリスの元へと駆け寄る。

 

 

「イリス先生……!」

 

「アスナ。この様子だと私のプレゼントは上手く行ったみたいだね」

 

「はい。あの、ありがとうございました。ユピテルを助けてくれて……」

 

「なぁに、私はユピ坊を失いたくなかっただけさ。それに、ユピ坊にあんな事をしたのは事実上チートコードの使用に近いから、あまり褒められる事じゃないんだ」

 

 

 アスナの話によると、あの時《壊り逃げ男》である須郷に使役されていたユピテルは、ユピテルのコピーであったらしく、ユピテルの本体はずっとイリスのストレージの中に収まっていたんだそうだ。

 

 そしてそれが出来るのは、開発者であるイリスがそのコマンドを知っていたからなのだが……普通のプレイヤーじゃ出来ないような開発者だけのコマンドを呼び出すのは、確かにチートコードの使用に近いから、あまり良いものとは言い難い。だが、それでもユピテルが助かったのは事実だから、咎める必要も皆無なのだが。

 

 そんな俺を含めた仲間達を数回にわたって助けてくれたイリスの元へ、俺もまた歩み寄る。そこで黒髪長身妖精は、同じように妖精となった黒の竜剣士である俺に顔を向けてきて、笑んだ。

 

 

「キリト君。君は相変わらずアップデートには一番乗りか」

 

「そういうイリスさんだって、こうやってアップデート初日に現れてるじゃないですか」

 

「そりゃそうだ。私だってこの日を待ち望んでいたのだから」

 

「仕事が忙しいんじゃなかったんですか。ましてやイリスさんはゲーム会社にいるんでしょう」

 

「そうだね。だけど何も休みなしでずっとやってるわけじゃないよ。それに、休日出勤なんてする必要もないくらいのペースでやってるから、こうやって休日にALOに居ても無問題さ」

 

 

 そこでシノンが何かに気付いたような顔になり、俺も恐らくシノンと同じ事に気付いた。この人は茅場晶彦程じゃないけれど、AI研究に関しては天才の域に行っている。だからこそ他の人間達じゃ辿り着けないような速度で仕事が出来て、休みが確保できる。……ならばシノンを心配させるくらいに日を空けてALOにログインする必要はなかったはずだ。

 

 

「それって、そんなに日を空けないでALOに来れたって事じゃ……」

 

「そうだよ。そんなに日を空けてALOにログインをする必要はなかった。でもその必要はあったんだよ。如何せん、皆に会わせたい子が居たんでね」

 

「俺達に会わせたい子、ですか」

 

 

 シノンと俺の言葉に頷くと、イリスは後ろの方に手を回した。よく見てみれば、イリスの身体の後ろに小さな人影がある事がわかって、皆で軽く驚いてしまった。そしてそれにイリスは手を伸ばすと、そのまま動かして、前の方まで持ってきた。

 

 とことこという小さな足音を立てながら俺達の元へ姿を現したそれは、薄らと赤紫がかった銀色の、背中の中央位まで届くくらいの長い髪の毛で、同じような銀色の瞳をしている、白いワンピースのような服に身を包んで、頭にアンクレットにも似つかないような飾りを付けた、ユイよりも幼い身体つきをした少女だった。

 

 だが、ユイと同じような天使級の愛らしさを感じさせるその姿を目に入れた途端、仲間達の間で黄色い声と驚きの声が同時に上がって、アスナが笑みながら、リランが首を傾げながら言った。

 

 

「あっ、可愛い!」

 

「誰だ、その幼子は」

 

 

 次の瞬間、銀色の少女は俺達を興味深そうに眺めてから、イリスを見上げながらコートの裾を引っ張り、声を出した。

 

 

「かあさま、この人達は?」

 

「あぁ、私の友人達さ」

 

 

 皆でイリスと銀色の少女を交互に見つめていると、イリスはふふんと鼻を鳴らして笑み、銀色の少女の頭の上に手を乗せ、その口を開いた。

 

 

「紹介しよう皆、そして驚けリランにユピ坊。この子はリランとユピ坊の妹だ」

 

「え? リランとユピテルの妹? って事は……!?」

 

「そう。この子は、SAOに実装される予定だった《メンタルヘルス・ヒーリングプログラム》の試作三号だ。

 コードネームは、《クィネラ》」

 

 

 《MHHP_003》に該当する存在、リランとユピテルの妹。その言葉を聞いただけで、俺達は広場中のプレイヤー達が一斉に注目するくらいの大声を上げて驚いてしまった。

 




原作との相違点

・クィネラがMHHPの三号になっている。
 原作でのクィネラは……原作を読んでいる人はわかるはず。

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