キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

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12:《ドラゴンテイマー》

 

「ここがヴォークリンデ、か」

 

 

 少々のトラブルを超えた後、俺達は酒場エインヘリアルのクエストカウンターでクエストを選択し、目的地に赴いた。最初、クエストの種類は勿論、最大三十人の一パーティーで挑む事が出来るパーティ制グランドクエストであるのだが、俺はこれを受けた時に思わず驚いてしまった。

 

 これまでクエストと言えば最大で四人から五人くらいのパーティでしか挑めないように出来ていたから、従来のシステム通り、一度皆と別れて別々に行動しなきゃいけなくなるのではないかと思っていたのだけれど、まさかの最大三十人。

 

 俺達は三十人にギリギリ達していなかったため、全員で受ける事が出来たのだ。これもまた、スヴァルト・アールヴヘイム実装時の新仕様だった。

 

 

 そしてそんな皆と一緒に、空都ラインの転移門から飛んだ先に広がっていたのは、ところどころ岩石や遺跡のある、ファンタジー世界らしいとてつもなく広大な草原。

 

 上を眺めれば巨大な青色の空に雲が点々と泳いでいて、草原の奥からはほんのりと暖かくて心地の良い風が吹き、身体を撫でてくる。現実世界には早々存在しないのであろう絶景。この草原こそが、はじまりの地とも言える草原浮遊島ヴォークリンデだった。

 

 始まって早々広がってきた美しき光景に、パーティーメンバーの一人であるアスナが喜びの声を上げる。

 

 

「綺麗なところだね! ここが最初のステージなの」

 

「そうらしいな。だけどこんなに広大なところだとは思わなかったな……これってシルフ領並みの広さがあるんじゃないのか」

 

「多分それくらいはあるんじゃないかなぁ。でもこんなに広いと、グランドクエストの目的を達成するのは難しそうだね」

 

 

 リーファの視線を浴びながら、俺は右手を振ってウインドウを開いて、クエストボードを確認する。そこには、

 

『草原浮遊島ヴォークリンデ・グランドクエストフェイズ1 草原浮遊島の空を取り戻し、道を切り拓け』

 

 と書いてある。クエストを受ける時はほぼスピードを重視したから、あまり中身をよく読んでいなかったけれど、改めて読んでみるとクエストの説明文は極めて簡素なもので、攻略目標とそのヒントが何となく書かれているような感じだ。

 

 

「空を取り戻して道を切り拓け、か。随分と簡素な事しか書いてないな」

 

「空を取り戻す……どういう意味かしら。空はちゃんとあるし、違和感もないけれど」

 

 

 顎に手を添えるシノンと同じように、俺は顎に手を添えて思考を巡らせる。

 空を取り戻すというのだから、きっとこの空が何かの支配圏にあり、その支配者を倒す、もしくは支配者から奪還する事が目的となっている設定だろう。典型的なファンタジーRPGに出てくるクエストだ、これは。

 

 

「うぉ、うおおお、おおおおおおおッ!!?」

 

 

 そう考えていたその時、悲鳴ともとれる何とも間抜けな声が上空から聞こえてきたものだから、驚きながら真上に視界を向けると、そこには上空から落ちてくる和服と洋服を合わせた戦闘服を着た赤い翅を持つ男の姿。

 

 いつの間にか空に飛び立っていたクラインが、悲鳴の根源だった。

 

 

「く、クライン!?」

 

 

 驚きながら名前を呼んだ瞬間、クラインは空中で宙返りして滞空状態になり、そのまま俺のすぐ前にゆっくりと降りてきて、深い溜息を吐いた。

 

 

「おーやべぇ。もうちょっとで墜落(おち)るところだったぜ」

 

「いやいや、どうしたんだよクライン。急に降りてきて」

 

 

 クラインは振り返り、俺達に説明を施した。何でも、クラインはヴォークリンデの景色を見た瞬間に、空を飛びたいという衝動に駆られたそうで、いつも通り翅を生やして空へ飛び立ったらしい。しかし、ある程度上昇したところで突然失速(ストール)し、そのままここまで落ちて来たそうだ。

 

 

「失速? スピードを緩めちゃったの、クラインさん」

 

「いやいやそんな事はねえよ。寧ろいつも通り加速してたんだが……ある程度まで上昇したところでいきなりスピードががくって下がっちまって……ったく、何なんだよ。限界高度まで行ってねえぞ!」

 

 リーファの言葉にクラインは首を横に振りつつ、苛立っているかのように言う。

 

 背中に翅を生やして空を飛ぶ事の出来るこのゲームには、限界高度というものが設定されており、それよりも先の高いところには行けないように出来ている。もしも限界高度よりも高いところに行こうとしたならば、その時は強制的な失速がかかり、落ちてしまう。――クラインの言っている事は、限界高度に達した時の現象に酷似していた。

 

 

「限界高度が低く設定されているという事か……? なぁリラン、お前の翼ならどうかな」

 

「我の翼か? 我の翼ならば何となく高度制限を超えられるが……やってみるか」

 

「あぁ、ちょっと人竜一体でやってみよう」

 

 

 皆の注目を浴びながら、リランは俺達の元を軽く離れ、直後にその身体を強い白金色の光に包み込ませた。

 

 そしてその光が爆発するように止んだ頃、狼の耳と尻尾を持つ金髪の少女のいたところには、狼の輪郭を持ち、人間の頭髪を思わせる金色の鬣を生やし、全身を紅色と白金色の甲殻と毛に包み、耳の上から紅色の角を、背中から赤と白の二色からなる羽毛の翼を四つ、額からは大聖剣を思わせる大角を、尻尾に大剣を生やしている、赤い目の竜が佇んでいた。

 

 その姿を見るなり、リランと出会ったばかりのサクヤが目を見開いて、アリシャが大声を上げて驚く。

 

 

「な、なんだと!?」

 

「ふええぇっ!? リランちゃんの姿が変っちゃった!!?」

 

「あぁそっか、アリシャさんとサクヤさんには教えてなかったな。だけど質問に答えるのは後だ」

 

 

 驚いている二人に背を向けて俺はジャンプし、現れた狼竜――SAO時代の時からの相棒に飛び乗って、その背に跨った。目の位置が一気に高くなり、世界がより広くなる。SAO時代、数々のプレイヤーを守りつつも羨ましがられた、俺達だけが成し得る技、人竜一体だ。

 

 

「リラン、調子はどうだ。飛べそうか」

 

《問題ない。ただ、どこで失速するかわからぬから、しっかりと掴まっておるのだぞ》

 

 

 同じくSAOの時からすっかり聞き慣れている初老の女性の《声》を聞き入れると、俺は姿勢を低くして、相棒の背中にしっかりと掴まった。直後に、狼竜リランはその翼を高らかに広げて羽ばたき、暴風を起こしながら上空へ舞い上がった。

 

 翼が上下する度に身体の下で筋肉が脈動しているのがわかり、自分で飛んでいる時とは比べ物にならないくらいの暴風が吹き荒れてきてどこかに流されてしまいそうになるが、しっかりと掴まって目の前に視線を送り続ける。

 

 そんな俺を乗せたリランは、何度も羽ばたいて猛スピードでぐんぐん上昇して行ったが、それから数秒も経たないうちに速度を急激に緩めていき、ついには空中で静止。俺が「あれ」と言った瞬間にリランの身体はひっくり返り、そのまま地面目掛けて落ち始めた。

 

 地上と空が反転して急速に地面側に引っ張られ、俺は思わず声を上げる。

 

 

「う、うぉおおおああああ!?」

 

《キリト、掴まれッ!》

 

 

 絶叫マシンの如く落ち行くリランの指示を聞いた俺は、クラインのように悲鳴を上げつつもリランの背にしっかりと掴まった。直後、リランはぐるりと宙返りして力強く羽ばたき、俺を上に向けた状態で空中に留まる。

 

 ホバリングを開始したリランを見て、墜落が防がれた事を認知した俺は溜息を吐く。

 

 

「お、落ちずに済んだか。というか今のは一体……」

 

《キリト、既に気付いていると思うが、周りを見てみろ》

 

 

 頭の中に響いてきた《声》に従い、俺は周囲を見回す。転移門の近くでは気付かなかったけれど、空の中には遺跡のような建築物のある浮島が三つほど存在しており、俺とリランは地上からはかなり離れてはいるものの、浮島のどれよりも低い高度にホバリングしている。浮島に上陸できそうで、出来ない。

 

 

「浮島なんてあったんだな」

 

《そして、どの浮島よりも高い高度に行く事は出来ぬようだ》

 

「今の失速はそれが原因か。となると、浮島のある地点が限界高度になってるらしいな」

 

《随分と不自由にされたものだ。これでは気軽に飛べぬぞ》

 

 

 そう言ってリランは羽ばたきの頻度を落として、ゆっくりと地面へ近付いて行き、やがてどすんという重いものが地上に降りたような音とわずかな衝撃を与えて、着陸。リランが姿勢を低くしたタイミングで俺はその身体を滑り降りた。直後に、俺の元へと皆が駆け寄ってきて、そのうちの一人であるアスナが心配そうに声をかけてきた。

 

 

「キリト君、大丈夫だった? リランが宙返りしたんだけど……」

 

「あぁなんとか。だけどクラインの言ってる事に嘘はないみたいだ。ある程度の高さまで行くと強制的に失速するようになってる。少なくとも浮島まで行く事は出来ないみたいだ」

 

「という事は、クエスト文の中にあった空を取り戻せっていうのは、高度制限を解除しろっていう事なのかしらね」

 

 

 考え込んでいるような姿勢をするシノンの言葉に、俺は頷く。先程までは空が何かしらの存在に支配されているから、それを何とかしろというのが答えなのではないかと思っていたけれど、クラインの証言と今の現象ではっきりした。

 

 この空の解放というのは、シノンの言う通り、高度制限を解除の事を指しているのだ。

 

 

「多分そう言う事だろう。今までのRPGとかのセオリーから考えて、この地上のどこかに高度制限を解除するものがあって、それを使って高度制限を解いて、浮島まで行くってパターンだろうな」

 

 

 とは言ったものの、これからどうするべきか――そう考えようとしたその時、驚いた顔をして、冷や汗を顔にいくつか浮かべているサクヤとアリシャが俺の元へやってきて、まず最初にサクヤがその口を開いた。

 

「そ、その前に、どういう事だキリト君。リランはなぜ、あのような姿になったのだ。

 幻惑魔法を使ったようには見えなかったが……」

 

 

 そこでSAOの時からリランを知っており、サクヤの友達であるリーファがなだめるように声をかける。

 

 

「リランはねサクヤにアリシャ、AIだからこういう力があって……自分をモンスターにする事が出来るんだよ。それで、おにいちゃんの《使い魔》なんだ」

 

「リランがAIだと聞いた時には驚いたが……ここまで出来ると何が何やら……」

 

「っていうかリランちゃんがキリト君の《使い魔》って事は、キリト君は《ビーストテイマー》の中の《ドラゴンテイマー》って事だヨね!?」

 

「《ドラゴンテイマー》?」

 

 

 聞いた事のない用語の登場に首を傾げていると、俺と同じ《ビーストテイマー》であり、俺よりも《使い魔》との付き合いの長いシリカがすぐ傍まで来て、説明を加えてきた。

 

 

「《ドラゴンテイマー》は、様々な《使い魔》を使役する事の出来る《ビーストテイマー》の中でも、ドラゴン族を使役する事の出来たプレイヤーの別名なんです。あたしもピナを使役してますし、一応キリトさんもリランさんを使役してますから、《ドラゴンテイマー》ですね」

 

「ドラゴン族……ワイバーンとかピナのフェザーリドラみたいなのか」

 

「そう言う事ですよ。リランさんは《鳳狼龍フェンリア》ですから、立派なドラゴン族。その中でもテイムが難しいとされる種類です」

 

 

 ユウキとカイム曰く、ザ・シードが適用される前ではケットシー族のみが《ビーストテイマー》となる事が出来ていたそうだが、茅場が作り上げたザ・シードが適用されてからは、ALOに存在する全ての種族がモンスターを《使い魔》にする事が可能になったそうだ。その波に乗っかるプレイヤーも多くて、現に今、街を歩けば沢山の《ビーストテイマー》達を見る事が出来るし、その時はあまり気にしていなかったけれど、空都ラインに集まっていたプレイヤーの中にも、無数の《ビーストテイマー》達が居た。

 

 まさに、空前の《使い魔》ブームといえるものが、ALOには到来している。そして、その無数の《ビーストテイマー》の中でドラゴン族をテイムする事に成功した者が、《ドラゴンテイマー》と呼ばれるらしい。

 

 

「なるほどなぁ……《ビーストテイマー》は沢山見るけれど、ドラゴンをテイムしている奴はそんなに見ないな。……周りの連中からの羨望の眼差しの原因はそれか」

 

「そりゃそうだヨ、ドラゴンをテイムできる確率は、今も大人気のハンティングアクションゲームの、ものすごく強い猿型モンスターを捕獲した際にペットに出来る確率よりも低いって言われてるからね。まさに極限レアアイテムと同じって事。リランちゃんの種族はその中でも最強のドラゴン族にカウントされてる種類だヨ」

 

 

 元より《ビーストテイマー》になる事の出来る種族の筆頭であるアリシャが続けて説明をすると、俺はその内容に驚いてしまった。

 

 リランはSAOの時に自分を修復するためにモンスターのデータを取り込み、その結果として狼竜の姿を手にしたわけなのだが、このゲームでの狼竜が極限のレアエネミーであるとは思っていなかった。

 

 そして、なぜそのようなものをリランは気軽に手に出来たのか、思わず気になった俺は当の本人に問いかける。

 

 

「きょ、極限レアアイテムってマジか。おいリラン、なんでそんなものを手に出来たんだ、お前」

 

《我だって詳しい理由はわからぬ。ただ、この世界にコンバートされた時に、この世界の根幹システムが我にこの姿と種類を割り当てたのだ。恐らく前の姿に極めて近しい性質を持っていたのが、この姿なのだろう》

 

 

 確かに、今のリランの姿は前の時とは結構変わっているものの、狼をコンセプトにしたドラゴンという概念自体は変化していない。そしてリランの中には、狼のドラゴンのデータが入っているため、そのようなデータが存在しているゲームならば、どうしてもそれを割り当てる必要が出てくる。

 

 だからこそ、このゲームの根幹システムは、レアドラゴン族である鳳狼龍の姿と強さを、狼竜のデータを持つリランに仕方なく与えたのだろう。

 

 

「ちなみにキリト君は知ってると思うけど、《ビーストテイマー》がテイムした《使い魔》は、媒体を与えたり、種族熟練度を上げていく事によって、進化する特徴もあるんだヨね。これはドラゴンも同じだし、進化したドラゴンはかっこよくて強いから、皆欲しがるんだ」

 

 

 アリシャの説明にまたもや俺は驚いてしまう。リランはSAOに居た時、進化するモンスターとして攻略組に君臨して、俺達の希望になっていたが、まさかその性質さえもここに持ってきているとは思ってもみなかった。

 

 つまりリランはこれだけ強そうでも、まだまだ強くなれるのだ。そしてそれは、全てのドラゴン族やモンスター族の《使い魔》にも言える事。――そんなものを欲しがらないプレイヤーが、どこにいるというのだ。

 

 

「あっ……」

 

 

 しかし、俺はそこで重大な事実に気付く。……本来は何時間も何日も汗水たらして戦ったとしても手に出来るか怪しいものであり、プレイヤー達が憧れの眼差しを向ける存在を、いつの間にか俺は《使い魔》として手にしていて、何気なく使う事が出来ている。そしてこれを手に入れるまで苦労した事は特にない。――完全にチーターか何かだ、俺。

 

 

「という事は、俺は開始した時からリランというレアアイテムを手に入れてたってわけか」

 

《我をアイテム扱いするでない》

 

「まぁそれにしても、リランちゃんの種族である狼竜族っていうのは、本当にテイム確率が低いものだから、手に出来たキリト君は運が良かったんだヨ。まぁ、リランちゃんがなんでそんな事出来るのか、さっぱりだけどね」

 

 

 アリシャが狼竜の姿となっているリランを眺め、そんなアリシャを眺めていると、多数の視線のようなものを背中に感じて、悪寒にも似た感覚が走った。

 

 視線に逆らいながら咄嗟に振り返ってみれば、そこにあるのは仲間達ほぼ全員の姿。その目線は真っ直ぐリランに向けられている。

 

 

「ど、どうしたんだ、皆」

 

「あたし達でも、リランみたいな《使い魔》を手に出来る……決めたわキリト、あたしも《ビーストテイマー》になる」

 

 

 視線を向ける者達の一人であるリズベットの言葉に、俺はその場にひっくり返りそうになる。口から蛙を飛び出させて見せたかのようなリズベットから、そのような言葉を発するに至った経緯を聞こうとしたその時に、エギルが腕組みをしながら言う。

 

 

「俺も前からキリトのリランとか、シリカのピナみたいな《使い魔》を手にしてみたいって思ってたんだよなぁ。それが可能になってるんなら、狙わない手はないよな」

 

「ましてやそれが進化までするんだから……それ自体が最高のお宝よね!」

 

「俺も、一度キリトのリランみたいな《使い魔》が欲しいなって思ってたんだよな!」

 

 

 そこにフィリアとディアベルも加わって、《使い魔》への欲を曝け出す。確かに今のALOは《使い魔》ブームが起こっているけれど、まさかここにまで《使い魔》ブームがやってくるとは思ってもみなかった。

 

 

「えっと、皆さん、これから攻略なんですけれど……?」

 

「そうだけどよ……やっぱり俺も《使い魔》欲しい!」

 

「それじゃあ、皆で手分けして攻略しながら、《使い魔》を探すってのはどうかな! このフィールドには新しいモンスター達が沢山いるわけだし、全部のモンスターにテイムできる確率があるんだしさ!」

 

 

 SAOの時からリランのような《使い魔》を欲しがっていたクラインが言い、同じような事をリランを見る度に言っていたリーファが突然提案すると、皆が「いいねそれ!」と言い始める。ちなみにそんな事を言っていないのは、アスナ、シノン、シリカ、イリスの四人くらいだ。

 

 

「《使い魔》かぁ……そういえばボクも出来るようになったんだっけ。じゃあやってみよっかな!」

 

「《使い魔》……確かにキリトばっかりズルいもんね。よし、ぼくも攻略ついでに《使い魔》探ししてみよう」

 

 

 ついにユウキとカイムの二人まで加わると、イリスが苦笑いしながら近づいてきた。その服のポケットからは可愛らしい妖精になったクィネラが顔を覗かせている。

 

 

「ははは、どうやら皆の間にも《使い魔》ブームが来てしまったようだね」

 

「これって攻略に影響しますかね」

 

「無論、強いモンスターを《使い魔》に出来たならば、攻略もより面白味のあるものになるだろう。現にモンスターを《使い魔》にして育成していくっていうのが、ザ・シード適用後新生ALOの宣伝文句の一つになってもいるからね。それに、皆もSAOにいた時は君のリランを羨ましがっていた。それが出来るようになったんだから、やりたくなって当然さ」

 

「そうですけれど……」

 

 

 直後、イリスはどこか険しさを感じさせる表情を浮かべて周囲を見回し始める。そこには何も見当たらず、ただ雄大な草原と広大な空が広がっているだけだ。

 

 

「それに……私が気を付けるべきだと言ったシャムロック。連中にも沢山《ビーストテイマー》が居るに違いないし、血盟騎士団の時のように精鋭部隊がいるならば、君やシリカのような《ドラゴンテイマー》もいるかもしれない。シャムロックと敵対した時に備えて、モンスターとの戦いは優先的にやっておくべきだろう。それに、強い《使い魔》を手にする事が出来れば、対人戦闘の時にも役立つはずだ」

 

 

 確かにシャムロックくらいのギルドなら、それだけ沢山の《ビーストテイマー》を抱えていても不思議じゃない。シャムロックと戦うという事は、沢山の《ビーストテイマー》達と戦う事にもなるだろうし、同時に沢山の《使い魔》達と戦う事にもなるという意味だ。

 

 その時に役立つのは対モンスターのセオリーだから、モンスターとの戦いは積極的にやっておくべきだ。それに、《使い魔》を手にするにはモンスターとの遭遇をする必要があるし、時には戦闘しなきゃいけない時もあるから、丁度いいのかもしれない。

 

 

「よぉしわかった。それじゃあグランドクエストをこなすついでに、《使い魔》探しをしよう。ただし、俺は詳しいやり方を知らないから、テイムの仕方はシリカから聞いてくれ」

 

「えぇっ、あたしですか!? ま、まぁいいですけれど」

 

「それなら私も手伝うヨ。これでも沢山の《ビーストテイマー》達を抱えているからね。ただし、強い《使い魔》が欲しいならその道は結構遠いから、それなりに覚悟してね」

 

 

 シリカに続いてアリシャが言うと、皆は一斉に頷いて見せた。これだけの皆のやる気を見るのはSAOの時の階層攻略の時以来――その時くらいの熱意を抱いて、皆が《使い魔》を求めているのだ。

 

 

「それじゃあ、グランドクエスト攻略&それぞれの《使い魔》探し、開始ッ!!」

 

 

 SAOの時のように号令を放つと、皆高らかに声を上げて「おおっ」と言った。皆が《ビーストテイマー》になるなんて信じられないけれど、そうなった時もそれなりに楽しそうだと、俺の胸はどこか高鳴っていた。

 

 

 


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