キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

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祝・ホロウリアリゼーション発売。


17:草原浮遊島の決戦 ―三神獣との戦い―

 三神獣の内の一匹、大鷲の巨人の名を冠する巨鷲龍フレースヴェルグとの戦いはかなりの時間、続いていた。戦いが始まったのも結構唐突であったから、時間を確認する余裕なんてなかったが、それから十五分以上は戦っているだろう。やはりエリアボスというだけあってか、そんな簡単に倒せる相手なんかじゃなかった。

 

 そんな巨鷲龍と戦っている俺達の消耗率もまた、結構なものになってきている。相手にしている巨鷲龍の攻撃力はかなり高くて、一撃喰らうだけでHPをかなり減らされてしまうし、攻撃を四発くらい連続で喰らえば戦闘不能になってしまうくらいのものだ。現に今だって、巨鷲龍の攻撃に巻き込まれて戦闘不能になったメンバーは結構いるし、復帰アイテムもかなりの頻度で使っている。

 

 熟練とまではいかないものの、様々なボスと戦い続けたために、ボス戦に慣れている俺達にそれだけの消耗をさせる実力と戦闘能力を持つ巨鷲龍は、紛れもなく俺達がこれまで戦って来たボスの中で最強だった。だが、そんな巨鷲龍のHPを俺達は十五分かけてかなり削り、三本目の真ん中付近まで消耗させる事に成功していた。

 

 

「あともう少しだ、皆頑張れ!」

 

 

 かつてSAOに居た時、ボス戦でボスの体力をある程度削った時のように皆に号令を下す。確かに巨鷲龍はALOに来てから今まで戦って来たボスの中で最強と言える存在であるけれども、俺達は巨鷲龍のHPを削って弱らせる事に成功している。如何に草原浮島の最強のボスと言えど、倒せない相手ではないのだ。

 

 それを皆も理解しているのか、如何にダメージを受けようともすぐさま回復してそれぞれ攻撃するべき場所に向かっていき、その中でリズベットが巨鷲龍の頭に接近し、更にリーファが尻尾に接近して、手持ちの武器に光を纏わせた。

 

 

「せやあああああああッ!!」

 

「はああああああああッ!!」

 

 

 二人の掛け声と共にそれぞれのソードスキルが炸裂し、巨鷲龍の頭にメイスによる重い一撃が、尻尾に鋭い連続斬撃が放たれる。次の瞬間、巨鷲龍の頭に生えていた巨大な一対の角が巨鷲龍の悲鳴と共に砕けて、地に落ちていったのが見えた。どうやら、巨鷲龍の角は破壊可能部位だったらしいが、これまで何回攻撃しても巨鷲龍の角は折れる気配がなかったので、HPと連動した部位だった事を俺は理解する。

 

 

「角が折れた!」

 

 

 巨鷲龍を巨鷲龍たらしめていた巨大で鋭利な角。それが消失した事により、皆の方から歓声が上がる。それはそうだ、これまでかなりの時間攻撃を続けていたというのに、一考に部位欠損を起こしたりしなかった巨鷲龍がついにその角を折ったのだから。

 

 ようやくこちらに戦況が傾き始めたのを皆が確認して、それぞれの攻撃立ち位置に移動しようとした次の瞬間、巨鷲龍の頭が突然連続で爆発。

 

 一体何事かと思って向き直ってみれば、そこには大弓を構えているシノンの姿と短弓を構えているシュピーゲルの姿。それを目の当たりにして俺は、二人の放った火矢が巨鷲龍の顔元で爆発し、角の折れた巨鷲龍に更なる追い打ちを仕掛けた事を把握する。

 

 そこですかさず、両手斧を構えたエギルと刀を構えたカイムが一気に巨鷲龍の背中へ移動し、甲殻に包まれていない部分の一つである翼に狙いを定めて、ソードスキル発動体勢を作り上げて、炸裂させる。

 

 

「これで決めてやるさッ!!」

 

「これで、どうだよッ!!」

 

 

 力強い三連続攻撃を放つ両手斧ソードスキル《ラウンドトリプル・スラッシュ》、刀を振るい、鋭くて巨大な衝撃波を放つ刀ソードスキル《残月》。それぞれ属性も攻撃回数も異なっているソードスキルが巨鷲龍の両翼に放たれると、巨鷲龍は悲鳴を上げてそのHPをかなり減少させる。今までは毛があって甲殻のない部分を切断属性で攻撃するのがいいと思っていたけれど、どうやら切断属性は翼を狙ってもよかったらしい。

 

 もう一つ巨鷲龍の弱点を発見する事が出来た直後に、それに気付いた切断武器持ちの者達が一斉に翅を広げ、そのうちのシリカとフィリアが空を素早く滑空しながら巨鷲龍に接近、手持ちの短剣でソードスキルを発動させないまま巨鷲龍の甲殻のない部分を斬っていった。斬られる度に巨鷲龍の身体から毛が舞って、巨鷲龍のHPは少しずつであるものの減少していく。

 

 先程からソードスキルによる攻撃を中心に仕掛けているけれど、なにもソードスキルだけがダメージソースというわけでもない。それぞれの属性の利く部位を狙って攻撃して行けば、ソードスキルでなくても十分なダメージを与える事が出来るのだ。だからこそ、皆はそんなにソードスキルを酷使した戦闘を繰り広げてはいない。

 

 そして見てみれば、あれだけあった巨鷲龍の《HPバー》はついに最後の一本に突入し、赤色に変わっていた。しかし次の瞬間、巨鷲龍は一気に体勢を立て直すと、翼を広げて天高く咆哮して周囲に居た者達を全て弾き飛ばした。飛ばされた者達が体勢を立て直した直後には、巨鷲龍は赤いオーラのようなものを纏っていた。

 

 

「怒り状態になったぞ!」

 

「もうすぐって事だけど、攻撃が苛烈になるわ!」

 

 

 俺の言葉にシノンが答える。この大陸が実装される前のALOでもよくあった事だけど、ボスは一定のダメージを負うと全身に赤いオーラを纏う怒り状態に移行し、攻撃を苛烈にするが、同時に防御力が著しく低下するので、攻撃を見極めて反撃すれば、一気にダメージを与えて倒す事が出来る。巨鷲龍は今その状態にあるので、猛烈な攻撃が飛んでくるだろうけれど、一気に倒すチャンスを俺達に与えているのだ。

 

 

「皆、あいつの攻撃が激しくなるけど、一気に倒すチャンスだ。もうひと踏ん張り、頼む!」

 

 

 そう言った直後、巨鷲龍は突然大きな声で咆哮し、その翼で思い切り羽ばたかせて空へ舞い上がった。そして俺達から一気に遠のいていき、かなり離れたところで方向転換。そのまま俺達の元に戻ってきた。それも、かなり猛スピードで。――俺達が一番注意していた攻撃である、高威力突進攻撃だ。それを察知して、ユイが叫ぶ。

 

 

「突進攻撃、来ます! 皆さん、避けてください!!」

 

 

 ただでさえ威力の高い攻撃なのに、そこに怒り状態による攻撃力の上昇がプラスされているのだから、あの突進攻撃がひとたまりもない威力になっているのは簡単に想像出来た。そんなものを喰らえば、みんな一斉に戦闘不能になり、そのまま全滅なんて事になりかねない。

 

 最悪の事態を避けるべく、回避体勢を取ろうとしたその時に、後ろから何かが高速で通ったような暴風が巻き起こり、髪の毛が前方向に揺れ、飛ばされそうになった。慌てて姿勢を戻して視線を送ってみれば、そこには突進する巨鷲龍に向かっていく狼竜の姿。リランが巨鷲龍に突進を繰り出していた。

 

 

「り、リラン!!?」

 

「何をするつもりなの!?」

 

 

 これまで見せて来なかったリランの行動にアスナと一緒に驚く。リランの事だから、巨鷲龍の突進を受け止める気でいるのかもしれないが、そうなのだとしたらあまりに無茶だ。リランの大きさは確かに俺達を遥かに凌駕しているけれど、それでも巨鷲龍の方が上回った大きさと力を持っている。そんな巨鷲龍の突進を、リランが止められるわけがない。

 

 

「リラン、無茶するな!!」

 

 

 制止をかけるが、リランは構わず巨鷲龍に向かって行った。そして誰もが顔を蒼くする中、リランはついに巨鷲龍と距離を縮めて、やがて衝突し合った。俺はすぐさま、リランが巨鷲龍に跳ね飛ばされると思ったのだが、リランと巨鷲龍が繰り広げる光景を見て驚く事になった。

 

 てっきり跳ね飛ばされて終わると思われていたリランは、巨鷲龍と頭をぶつけ合って空中で激しい押し合いを繰り広げている。まさに二匹以上怪獣が登場する怪獣映画によく出てくる、怪獣同士が取っ組み合いをしているかのような光景に、思わず唖然としてしまったが、その光景がある程度続いたところで、リランは力強く羽ばたいて前進し、向かって来ていた巨鷲龍を押し返し始めた。

 

 そしてかなり押し込んだところで、リランが力強く咆哮しつつ頭を突き上げると、巨鷲龍は悲鳴を上げながら大きく姿勢を崩して、そのまま轟音と衝撃波を起こしながら地面に落ちた。あれだけ巨大な龍とぶつかっていたというのに、リランが勝ってしまったという結果に俺達はもう一度呆然としてしまったが、すぐさま耳元に届いて来た、巨鷲龍が落ちた時とは違う巨大な音で我に返った。

 

 地に落ちた巨鷲龍に目を向けてみれば、激しい爆炎が巻き起こっており、巨鷲龍の身体を包み込んでいる。それが、リランの放った火炎弾によるものだと気付くのに、時間はかからなかったし、今巨鷲龍に攻撃を仕掛ける最大のチャンスだという事もわかった。

 

 

「皆さん、一斉に攻撃してください! フレースヴェルグはダウンしています!」

 

 

 ユイの力強い指示を受けた俺を含めた前衛達は一斉に巨鷲龍の元へ突撃し、それぞれ攻撃すべきところに密集して、一斉にソードスキルを発動させた。ほぼ同刻、後衛で攻撃や魔法を繰り出していた者達も、一斉に遠距離攻撃と魔法を放った。

 

 双剣、片手剣、両手剣、両手斧、刀、短剣、ナックルと言ったそれぞれ属性の異なるソードスキルによる虹色の大爆発、そして水属性、風属性、火属性の最上位魔法が巻き起こり、横たわる巨鷲龍の身体が包み込まれると、巨鷲龍は大きな悲鳴を上げて、そのHPをごっそり減らしていった。

 

 虹色の大爆発と三属性の織り成す連続する魔法が終わる頃、巨鷲龍のHPは残りわずかになっており、あと数回攻撃を加えればゼロになりそうな状態に陥っていた。しかし、完全な瀕死状態であろうとも、巨鷲龍は体勢を立て直して飛び上がり、空中に舞い戻ってきた。そこで俺達は咄嗟に巨鷲龍から距離を取り、粗方離れたところで巨鷲龍に向き直る。

 

 その時には、巨鷲龍が息を大きく吸い込み、口内にエネルギーを集めている事がわかった。これまでの戦いの中であまり使う事はなかったけれど、風属性エネルギーブレスを照射するつもりでいるらしい。それをいち早く感じ取ったユイが、同じように指示を下す。

 

 

「風属性エネルギーブレスが来ます! 七、六、五……!」

 

 

 ユイがカウントダウンを始めた次の瞬間、俺はすぐさま宙を蹴ってあるところへ向かった。そこは、SAOに居た時は勿論、今も尚よく跨っている、相棒である狼竜リランの項だ。巨鷲龍がブレスを放とうとしているならば、リランも先程のように対抗できるはず。そしてリランのブレスが打ち勝てば、そのまま巨鷲龍に止めを刺せるはずだ。咄嗟の考えをまとめた頃に、俺はリランの項に辿り着き、そこに跨った。

 

 

「リラン、ビームブレスだ! ビームブレスで、あいつに止めを刺せ!」

 

《言われないでも、そう考えておったわ!》

 

 

 鳳狼龍という別名を持つリランはその大きな口で空気を吸い込んで、口内を燃え上がらせ始める。同じ頃に、巨鷲龍の口内からかなりのエネルギーが漏れ始め、緑色の光を帯び始めていた。

 

 

「三、二、一、ゼロ!!」

 

 

 ユイのカウントダウンがゼロになった瞬間、巨鷲龍はその大きな口をかっと開き、身体の奥から緑色に輝く極太の光線を俺達目掛けて放ってきた。目の前が翠一色になりそうになった時、リランは皆の前に躍り出て、同じように口を開いて、身体の奥底から灼熱の光線を迸らせた。それは一目散に巨鷲龍の元へ向かい、数秒も経たないうちに巨鷲龍の放つ緑色の風属性エネルギーブレスと衝突した。

 

 周囲を浮かぶ島がどこかへ飛んでいってしまうのではないかと錯覚しそうになるくらいの猛烈な風が顔に吹き付けてきて来るが、俺はリランの項の剛毛を両手で握って、しっかりと目の前に視線を送り続ける。風属性エネルギーと火属性エネルギーが衝突し合い、中心には激しい衝撃波と光を放つ力場のようなものが出来ているが、徐々にであるものの、それは俺達から離れて巨鷲龍の元へ向かいつつある。それまでは下回っていたというのに、今となってはリランの方が巨鷲龍のブレスの出力を超えているのだ。

 

 

「そうだリラン……そのまま、押し返せ!!」

 

 

 SAOの時と同じように高らかに叫ぶと、リランは更に大きく口を開き、身体から迸る灼熱の光線を太くする。次の瞬間、双属性のぶつかり合う力場は俺達から一気に遠のき、徐々に巨鷲龍の口元へ接近していく。そして最後の一押しと言わんばかりにリランが更に強く光線を吐くと、ついに力場は巨鷲龍の元へ突達し、大爆発を引き起こした。

 

 逆巻く爆炎と煙が巻き起こり、巨鷲龍の姿が確認出来なくなったが、しばらくするとほぼ全身が赤いダメージエフェクトに包み込まれ、《HPバー》の全てを失った巨鷲龍が爆炎と煙の交じり合う空から現れ、そのまま力なく下方向へ落下していき、轟音と共に地面に衝突。

 

 それから数秒も経たないうちに、巨鷲龍は全身を水色のシルエットに変え、光を放ちながら無数のポリゴン片に爆散し、消滅していった。すっかり見慣れたその様子を見続けていると、大きな効果音が耳に届いてきて、俺は顔を上げた。そこには、クエストを無事に達成した証拠、もしくはボスを討伐する事に成功した証である《Congratulations!!》の文字が現れていた。

 

 最終的に戦闘不能者無し。巨鷲龍フレースヴェルグの討伐に、俺達は成功した。それがわかった瞬間、皆の方から歓声と疲れ果てたような声が上がり、俺はリランから降りて皆の方へと近付いた。直後に、皆一斉に集まって来て、エギルが最初に口を開いた。

 

 

「どうやら、これで草原の島はクリアみたいだな」

 

「あぁ。三神獣の内、フレースヴェルグは倒れた。これで草原の島のグランドクエストはクリアだ」

 

 

 答えると、俺と同じように戦闘中皆に指示を下していた青い髪のウンディーネ騎士、ディアベルが嬉しそうに言う。

 

 

「やり応えのある相手だったな。だけど、無事に倒せてよかったよ」

 

「あぁ。ディアベルの指示もいい感じだったぞ。この次もこの調子で頼む」

 

 

 周りの皆を見てみると、やはり誰もが嬉しそうな表情を浮かべている。あれだけのボスを倒す事が出来た事に、達成感と歓喜を感じているのだろう。現に俺も、かなりの達成感を感じているのだが、その中である者達を見つけて少し驚く事になった。それは、ユウキ、カイム、フィリアの三人であり、三人ともその顔に残念そうな表情を浮かべている。

 

 

「ってあれ。三人とも、どうしたんだよ。せっかくボスを倒したのに浮かない顔して」

 

「……フレースヴェルグって、テイムできないモンスターだったんだね……」

 

 

 ユウキの言葉を聞いて、俺は「あ」と言ってしまった。そういえば結構前に《使い魔》探しをした時、ユウキ、カイム、フィリアの三人はフレースヴェルグをテイムしたいと言っていた。そして今回それを相手にしたから、きっとテイムできると思って戦いに励んだに違いない。だが、待っていた現実はフレースヴェルグをテイムできないというもの。――その事に、この三人は酷く落ち込んでいるのだ。

 

 その様子を横から見たのだろう、多くの《ビーストテイマー》のいるケットシー領の領主、アリシャが俺の隣にやって来て、三人に声をかける。アリシャの顔には、困ったような呆れたような、何とも言えない表情が浮かんでいた。

 

 

「だから言ったでしょ、フレースヴェルグはテイムできないって。きっと他の三神獣達も同じだと思うナ」

 

「くっそぉ。せっかくキリトのリラン並みの《使い魔》が手に入ると思ったのに」

 

 

 カイムがどこか悔しそうに呟き、アリシャが苦笑する。確かに俺のリランは他のプレイヤーから見れば途轍もないレアアイテムに等しい存在で、これ以上ないくらいの攻略の決め手だ。そんなリランを最初に見た時から、カイムは羨望の眼差しを向けていたから、今回のフレースヴェルグをテイムできる瞬間を待ち望んでいたに違いない。

 

 

「流石にあんな強いボスはテイムできないヨ。だけど、多分あれくらいに進化するモンスターもいるかもしれないから、諦めるのはまだ早いヨ」

 

「本当に!? じゃあ、やっぱりドラゴン種の弱いのからテイムをしなきゃなんだね」

 

 

 向き直って来たフィリアにうんうんと頷くアリシャ。確かに俺のリランの種族である《鳳狼龍》だって《狼竜族》というドラゴン種が進化した姿だから、狼竜族の初期種をテイムする事が出来さえすれば、いずれ《鳳狼龍》に辿り着く事が出来るようにはなっている。だから、今は皆羨望の眼差しを向けているだけれど、その気になって狼竜族と戦い続ければ、全員が《鳳狼龍》やその進化種をテイムできる可能性を持っているのだ。

 

 なので、アリシャの言葉は強ち間違ってはいないのだ。直後、ユウキ達の近くで話を聞いていた、クラインが悔しそうに叫んだ。

 

 

「ちくしょー! やっぱりキリトのリラン並みの《使い魔》は一発じゃ手に入らないのかよ! なぁ、次の大陸は解放されたんだよな!?」

 

 

 途中でいきなりやってきたクラインに驚きながら、俺は軽く頷く。

 

 

「え? あぁ。フレースヴェルグが倒れたから、次の大陸に行く権限が手に入ったはずだぜ。だけどそれがどうしたんだよ」

 

「なら、次の大陸だ! 次の大陸に行けば強いドラゴン種もいるだろ! 次の大陸で必ずドラゴン種をテイムしてやるッ!」

 

 

 そこで俺は深い溜息を吐く事になった。フレースヴェルグを倒して、テイムできないという事がわかれば、皆モンスターをテイムする事を諦めるのではないかと思っていたのだけれど、寧ろ皆は次の大陸のモンスター達をテイムする事を考え始めた。

 

 そんな事を考えているのはクラインだけだろうとも思いたかったけれど、見てみればシノン、アスナ、シリカ、シュピーゲル、ストレア、サクヤ、アリシャを除いたほぼ全員がクラインと同じ事を考えているような顔をしていた。

 

 今ALOには空前の《使い魔》ブームが来ているけれど、俺達の元にやってきているそれは、一向に去る気配というものを見せていなかったのだった。皆の《使い魔》探しは、次の島に行っても続くのだ。

 

 

「わかったよ。次の島に行ったらまた《使い魔》探しをしてくれ。既に《使い魔》を持ってる俺達で攻略を進めるから――」

 

 

 溜息交じりに言ったその時、目の前に突然あられたウインドウを見て、俺は言葉を止めた。何事かと中身を見てみれば、アイテムを手に入れて、ストレージの中に収納されたという告知であり、もっとよく見てみれば、《巨鷲の宝玉》という名前の翡翠色をした丸い宝石のようなアイテムが映し出されていた。

 

 それがフレースヴェルグを倒した証のアイテムであるという事に、俺はすぐに気付き、その様子を見ていたサクヤが声をかけてきた。

 

 

「キリト君、そのアイテムは?」

 

「多分、フレースヴェルグを倒した証っていうか、次の島に渡るための権限みたいなものだと思います」

 

「なるほど。あとはこれに似たものを二つ集めれば、スヴァルト・アールヴヘイムの最終ボスのところへ行けるという事だな」

 

「そうでしょうね。よし、アイテムも手に入ったところだし、早速次の島に向かおうぜ」

 

 

 どうせ皆も次の島に渡って《使い魔》を探す気満々だろう――そう思った直後に、アスナが何かを思い出したような顔になって、俺の元へやってきた。

 

 

「待ってキリト君」

 

「ん、どうしたアスナ」

 

「ちょっと話があるから、次の島に行くのはちょっと待ってくれないかな。シノのん、キリト君の事ちょっと借りてけど、いいかな」

 

 

 突然話を振られたシノンはきょとんとして、アスナに向き直る。

 

 

「えっ。別にいいけれど……」

 

「ありがとう。出来るだけすぐに終わらせるから」

 

 

 シノンに礼を言うアスナの顔には、真剣な表情が浮かんでいた。恐らく、俺と真剣な話があるからこそ、このような事を言い出したのだろう。これは、攻略を多少遅らせても聞かなければならない。

 

 

「よし、それじゃあパーティは街に戻ったら一旦解散。今はゲーム内時間で十一時だから、十三時になったらラインの転移門に集合だ。それまで皆、自由行動でいいな」

 

 

 そう言うと、皆頷いてくれた。その直後に、俺は皆と共に転移門の方へ急ぎ、空都ラインへと戻った。

 

 

 

 




次回、新たなキャラの話になるかもです。

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