キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

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11:二人のいない日々

 キリトとシノンが別れてしまったという情報は、その二人と普段から一緒にALOを楽しんでいて、同じ学校に通っている者達の耳にすぐさま入り、大きな騒ぎになった。

 

 あれだけ互いを愛し合い、求め合っている二人が別れてしまうなど天と地がひっくり返ってしまったとしてもあり得ない、もしこの二人が別れた時には天変地異が起きる、だから即ちありえないというのがいつものメンバー達の認識であったのだ。あり得ない事が起きたその時に、大騒ぎするのは当たり前だった。

 

 そしてその心配とざわめきは三日経った今でも、いつものメンバーの心の中に残り続けている。

 

 

「……今日も来なかったわね、あの二人」

 

 

 学校の授業が終わった後に人のいない食堂に来たのは、問題の二人とSAOの時からの仲間である、アスナ/明日奈、リズベット/里香、シリカ/珪子の三人だった。いつもならばここにキリト/和人、シノン/詩乃が加わるのだが、この二人の姿はどこにもない。

 

 

「あれから三日も経ってるのに……一切登校せず、ね」

 

 

 長テーブルに添えられている椅子に深々と座って明日奈が呟くと、周りの二人が頷く。和人と詩乃はこの学校に入学してから、ずっと欠席せずに毎日登校して授業に参加していた。だけど三日前に別れ話をしてからは、この二人はALOだけではなく、学校に姿を現す事もなくなった。

 

 一応、双方風邪をこじらせてしまったと教師に連絡をしていたらしく、無断欠席扱いにはなっていない。そして周りの者達も、和人と詩乃は風邪や体調不良で休んでいると信じ込んでいる。

 

 だが、本当は二人とも風邪なんか引いていないし、そんな理由のために学校を欠席しているわけではない――その真実を学校の中で知っているのは、明日奈、里香、珪子の三人だけだった。

 

 

「まさか、こんな事になってしまうなんて……」

 

 

 明日奈の右隣に座り、不安そうな顔をしながら両手を胸の前で組む珪子。その対面には里香がいるが、やはり里香の顔もまた不安と心配が混ざったとそれとなっている。というよりも、今のこの場に居る人間全員がそんな顔をしていた。

 

 

「……一体全体、あの娘らに何があったっていうのよ。詩乃が和人と別れるなんて、絶対あり得ないわよ」

 

 

 SAOから脱出して、学校が始まった数日後。和人から 、自分は詩乃の記憶も持っているという少し信じられない話を里香は聞いた。

 

 その時には嘘を吐いているんじゃないかと思ったけれど、和人が嘘を吐いて人をからかうような男性ではない事も里香は知っていた。

 

 そしてSAOから脱出する事に成功してからというもの、和人は詩乃の事をこれまで以上に大事にするようになって、詩乃もまた和人の事をSAOの時以上に愛しているのが、普段の二人の仕草や会話を見るだけでわかるようになった。

 

 それこそまるで、お互いを自らの半身のように思っているかのように。

 

 だから、和人の話は真実であると里香は信じていたし、この二人が別れるのは例え天と地がひっくり返っても、空と雲の色がひっくり返っても、海の水が全部溶岩になったとしてもあり得ないという確信を得ていた。

 

 そのはずなのに、この二人が別れたなんて話が来たんだから、その時には里香は何が起きたのかわからなくなったものだ。

 

 

「というか、三日も経った今、あたしはまだ知らない事があるんだけど」

 

「それって」

 

「そもそもよ。別れ話をしたのは、振ったのはどっちなのよ。詩乃なの、和人なの」

 

 

 そこで明日奈は三日前の事を思い出す。詩乃と和人が別れたというのを直接本人達から聞いたのは、意外にも和人の妹である直葉だった。その直葉からリランが話を聞き、リランの話を自分達が聞いた。

 

 リランと直葉によると、最初和人が詩乃に連絡しようとしても、詩乃は一向に和人からの電話などに出ようとはせず、そのうえで和人のスマートフォンに別れのメールを送り付けたそうだ。和人は最初はそれを信じずに、数回詩乃に連絡をしようとしたそうだが、詩乃はその一切を無視。

 

 それにより和人は詩乃との関係が閉ざされた事を把握し――現在に至る。

 

 この話を聞いた時、その場にいた全員で天変地異を目にしたかのように飛んで驚いたのを、明日奈は今でもしっかりと覚えている。

 

 

「別れ話をしたのはシノのんの方みたい。それで和人君は……」

 

「轟沈して引きこもっちゃったってパターンか……というか和人が振られたんなら、和人に何かしらの問題があったって事でしょ。もしくは詩乃の嫌な事をやっちゃったか。いつかやらかすんじゃないかって思ってたけれど……ついにやらかしたのね、あいつは」

 

「でも里香さん、それは変じゃないですか」

 

 

 そこで里香は珪子に向き直る。珪子の顔には何かを考えているような表情が珍しく浮かんでいるものだから、里香は思わず珪子を不思議がった。

 

 

「変って、何がよ」

 

「キリトさん――和人さんの中には、詩乃さんの記憶もあるんでしたよね、明日奈さん」

 

「そうだよ……だから和人君にとってシノのんは、半身と言っても間違いじゃないの。だから、二人が別れるなんて事は絶対にないって思ってたんだけど……」

 

「そうですよね。だからあたし、今回の事は変だって思うんです」

 

「だから、何が変なんだってば」

 

 

 そこで珪子は明日奈と里香を見回しながら、口を開く。その表情は真剣なものに代わっており、それ明日奈と里香は口を閉ざして、完全に珪子の話に聞き入る姿勢を取る。

 

 

「和人さんは詩乃さんの記憶を持ってます。それはきっと、和人さんは詩乃さんが嫌な事とか、詩乃さんが嫌がる事とか、手に取るようにわかるって事だと思います」

 

「確かにそうだね。和人君の中にシノのんの記憶があるって事は、シノのんの気持ちが考えなくてもわかるって事だもんね」

 

「なので、和人さんは詩乃さんが嫌がる事を全部把握してるはずだし、それをやろうなんて思わないはずですよ。和人さんにとって詩乃さんの嫌がる事は、何もメリットがないはずだから」

 

 

 珪子の話を聞いて、明日奈は頷く。

 

 珪子の言う通り、和人は詩乃の記憶を把握すれば、詩乃が何をすれば喜ぶかもわかるだろうし、詩乃が何をされたら嫌がるかもわかるはずだ。そして和人が詩乃へ向けている愛情は本物であり、詩乃からも本物の愛情を受けている事もわかり切っているはず。

 

 だから、和人が詩乃の嫌がる事を進んでやるとは思えないし、そもそも珪子の言う通り、和人が詩乃の嫌がる事をしたところで、和人からすれば何のメリットも存在しないのだ。なので、和人が詩乃の嫌がる事をしてしまったために詩乃から別れ話をされたとは考えにくい。

 

 

「そうだよね……じゃあ和人君はどうして、シノのんに振られたっていうの」

 

 

 三日前、リランから自分達は確かに和人と詩乃が別れてしまったっていう話を聞いた。しかし、その時リランはどうして和人と詩乃が別れたのかは頑なに話そうとせず、聞いても聞くなと繰り返すだけで教えてはくれなかった。

 

 

「リランは話してくれなかったもんねぇ……一番気になる事を」

 

「そうですよね……一番話してほしかったのに」

 

 

 里香が口を漏らすように呟くと、明日奈は咄嗟にポケットからスマートフォンを取り出して起動、電話帳を開いて、ある名前を選択する。それは勿論、あの時いつものメンバー全員に和人と詩乃の破局を告げたリランだ。

 

 やはり詳しい理由を聞かなければスッキリしないし、この状況は変わる事はないだろう。ここは一つ、リランが得意としている尋問のような形で、リランに詰め寄って聞き出すしかない。

 

 

「仕方ないわ。ここは一つ……」

 

「え?」

 

 

 二人が軽くきょとんとしている最中、明日奈はモニタに表示されている通話開始ボタンをクリックし、同時にスピーカーモードも起動してからテーブルに置く。コール音がほんの少しなった程度で、妖精の世界との通信が繋がり、スピーカーの向こうから聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

《もしもし、明日奈(アスナ)か》

 

「うん。わたしだよ、リラン」

 

《学校は終わったのか》

 

「うん。ねぇリラン、今電話出来る?」

 

 

 ほんの少しだけ、妖精の世界からの《声》が止まる。近くに話を聞いているプレイヤーや、敵がいないかどうかを探しているのだろう。それからほんの少しして、もう一度声が届けられてきた。

 

 

《出来るぞ。フィールドに出てはいるが、今は何のクエストもやっておらぬし、周りにプレイヤーもおらぬ。電話するならば今の内だ》

 

「そっか。じゃあ、ちょっとお話しして。わたしの近くには里香と珪子ちゃんもいるの」

 

《里香に珪子……リズとシリカだな。お前達揃って、どうしたのだ》

 

 

 そこで明日奈のスマートフォンに里香が顔を近付けて、声を送る。その時に気付いたのだが、里香は現実世界から仮想世界のリランと話をするのは、これが初めてだった。

 

 

「リラン、あたしだよ。里香……っていうか、リズベット」

 

《里香でわかるぞ。それで里香、なんだ》

 

「あんた、あたし達に和人――キリトとシノンが別れたって、教えてくれたじゃない」

 

《……教えたな》

 

「それで気になるんだけど、あんたはあの時のキリトとシノンの近くに居たんでしょ。なら、二人に何があったのか、知ってるはずよね」

 

 

 そこでリランの声は止まる。この前と同じように沈黙を貫き通すか、それは出来ないと言おうとしているのだろう。そこで珪子が里香と交代して、仮想世界にいる友人に声を送り始める。

 

 

「珪子です。リランさん、教えてくれませんか。どうしてキリトさんとシノンさんは、あんな事になったっていうんですか」

 

《ただ知りたいだけならば、我は教える気はないぞ》

 

「あたし達、この状況を何とかしたいんです」

 

 

 そこで明日奈が珪子と代わり、和人も詩乃も学校に一切来ないで、沈黙したままである事をリランに話した。その話が終わった頃に、明日奈は自分の思いと考えを、リランに話す。

 

 

《なるほど、双方共に自分の殻に閉じ籠ったまま出て来なくなったという事か》

 

「どっちかが学校に来てるならわかるよ。だけど二人揃って学校に来てないなんて、やっぱりおかしい。リラン、あの二人に何があったのか教えてほしいの。わたし達は……出来るなら和人君とシノのんを助けたいの」

 

 

 リランの声はまたそこで止まる。やはりリランからしても話したくない事なのか、主から何かしらの命令を受けていて、それに従って喋らないでいるのか。

 

 だが、このままでは三日前と同じであり、これが続くようならばずっとのこの停滞が続く事になる。それではいつまで経っても和人と詩乃が再び自分達の目の前に現れる事はないだろうし、いつものように一緒に遊ぶ事など出来やしないだろう。

 

 

「リラン!」

 

《……これは和人の全てに関わるような話だ。聞くお前達にもある程度の覚悟が必要となるだろう。そしてこれは絶対に他言無用。お前達以外に、本当に聞いている人間はおらぬのだろうな》

 

「いないわよ。ここにいるのはあたしと明日奈と、珪子の三人だけよ」

 

 

 里香の言葉を聞いて、リランは「むぅ」という小さな声を上げる。そして、それから間もなくして、リランの声がもう一度スピーカーの奥から聞こえてきた。

 

 

《ならば、いいだろう。本当の事を、お前達に話してやる》

 

「話して、リラン」

 

 

 明日奈が声を送ると、リランはついにその口を割って話し始めた。あの時、和人の身に何が起きていたのか、それを聞いた詩乃がどうしたのか、そして今和人がどうなっていたのかを、全て。

 

 その話を聞いてる最中、明日奈、里香、珪子の三人は何度も瞠目して、リランの言っている事が信じられなくなったりしたが、それでも三人は最後までリランの話を聞き続ける。

 

 そして、全ての話が終わった時に、リランは深い溜息を吐いた。まるでこれまで胸の中にため込んでいた全てを吐き出したかのようなものだったが、三人は気にせずに、ただ瞠目したままその場を動く事が出来なかった。

 

 食堂の中が強い重力のように重い沈黙に包み込まれる。三人しかいないが、もはや誰も言葉を発する事が出来なかった。

 

 しかし、里香が信じられないような顔をしてその沈黙を破り、仮想世界の中にいるリランに言う。

 

 

「何よそれ……和人の頭ん中の詩乃の記憶が、和人を蝕んでるって……」

 

《信じられぬかもしれぬが、事実だ。そのおかげで、和人は人混みを避けるようになったし、何の練習過程もなしに料理を作れるようになっている。そして……自分の記憶と詩乃の記憶の違いを曖昧にして、何が何だかわからなくなる時さえある》

 

「それで、その状態が続いたら……和人さんは……」

 

《和人の記憶と詩乃の記憶が混ざり合い、和人の記憶は崩壊し、和人の精神は死に絶えるだろう……》

 

「そんな、死ぬと同じじゃないッ!」

 

 

 明日奈が思わず叫ぶが、スピーカーの奥から聞こえてくるリランの声は、感情を抑え込んでいるような声色だった。

 

 

《その事を隠して、和人はずっと苦しんでいた。だが、いつまでも隠させるわけにはいかないと、我とユイで思ってな……あの時、和人に話させたのだ。そして、それを聞いた詩乃は……そのまま行方をくらました。だが、まさか直葉の言ったような事になるとは……》

 

 

 最初は感情を押し殺したようなものだったリランの声も、途中から悲しんで居るような声色に変わっていた。SAOの時からこの二人とずっと一緒に過ごしているのだ、このような事になってリランが悲しくないわけがないと明日奈は理解していたが、同時に気がかりで、考え込んでいた。その横で珪子が呟くように言う。

 

 

「じゃあ、詩乃さんはそれを隠してた和人さんに怒って……そのまま?」

 

《そうではないかと、我は思っている。あの時、和人は詩乃を裏切ったようなものだからな……詩乃が怒っても、無理はない》

 

 

 明日奈は横目で珪子を見てから、リランに繋がるスマートフォンを見つめる。

 

 果たして本当にそうなのだろうか。SAOで出会ってから、親友として詩乃と今まで一緒に過ごしてきたが、詩乃はその程度で怒るような()ではないと、明日奈はわかっている。

 

 他人には大人っぽく、クールに、時には冷たくドライな発言もするような娘として振る舞っているけれど、詩乃は本当は優しくて、思いやりがあって、素直で、愛する人には沢山の愛情を注ごうとする娘だ。

 

 そんな詩乃が隠し事を一回された程度で、愛する人である和人への愛を無くしたりするものか。

 

 リランの言っている事は間違っている。きっと真実は他にあるのだ。

 

 それを探し出して、見つける事が出来たならば、その時この二人を仲直りさせられるはずだ。

 

 

「……リラン、教えてくれてありがとうね」

 

《ん、どうした明日奈》

 

「わたし、やるべき事がわかった。リランのおかげだよ」

 

《やるべき事って……お前、一体何を思い付いたのだ》

 

 

 リランの言葉を最後まで聞いた後に、明日奈はモニタの通話終了ボタンをクリック。リランの声を強引に遮ってしまうと、スマートフォンをポケットに投げ込み、席を立った。急な明日奈の行動に里香と珪子の二人は同時に驚いて、そのうち里香が声をかける。

 

 

「ちょ、ちょっと明日奈、何を思い付いたっていうのよ!?」

 

「ごめんね二人とも、わたし、行ってくる!」

 

 

 そう言うと、明日奈は床を蹴り上げるかのごとく走り出し、食堂を出た。そしてそのまま階段を下り、廊下に差し掛かったところで早歩きになり、帰りゆく生徒達の間を抜けて学校を出ると、再び走り出した。

 

 途中で立ち止まって、スマートフォンを取り出して画面を確認してみれば、表示されている時刻は午後一時。以前学校の近くのマンションの詩乃の部屋で、一緒に料理をやった時に詩乃が自ら教えてくれた、夕飯の支度をするために近くのスーパーマーケットに出かける時間だ。

 

 詩乃は一人暮らしなので、学校が終わるとすぐに夕飯の支度のための食材を買いに行く。そして今はその時間だから、もしかしたら、学校の近くにあるスーパーマーケットに行けば、詩乃を見つけられるかもしれない。三日間何も食べずに部屋に閉じ籠っている事など、詩乃が出来るはずがないのだ。

 

 いや、もしかしたら詩乃ならやってしまうかもしれないが、もしスーパーマーケットで見つけられなかったのならば、もう最終手段として詩乃の部屋に直接乗り込むだけだ。今回はそれくらいにやらなければならないだろう。

 

 

「シノのん……ッ」

 

 

 明日奈は親友の名を呟くと、親友がいつも使っているスーパーマーケットの方へと走り出した。その二分後くらいに、何台もの車が行き交う道路の歩道に差し掛かり、そこで明日奈は走るのをやめて歩き始めたが、その速度は早歩きであり、歩いて来る人々の誰よりも早かった。

 

 街行く人間達は、早歩きの栗毛の少女を不思議そうな目で眺めたり、ちらと見たりしたが、少女は一切それらを気にすることなく早歩きを続ける。そしてある程度歩道を進み、角を曲がったところで、目的地であるスーパーマーケットの前に明日奈は辿り着いた。

 

 以前来た夕暮れ時には、沢山の車が駐車場に停まっていて、同じく沢山の買い物客がいたものだが、まだ昼過ぎである今は、車はあまり停まっておらず、それに従って買い物客の数も少ないように見える。客が森の木々のように沢山いる時に、詩乃を探すのは至難の技だろうが、今ならば比較的簡単に見つけられるはずだ。

 

 

「今ならいけるはず……」

 

 

 そう呟き、スーパーマーケットの中に入ろうと、入り口に向かったその時だった。スーパーマーケットの入り口の自動ドアが開き、買い物を終えた客であろう人が中から出て来たのだが、その姿を見るなり、明日奈はその場で立ち尽くしてしまった。

 

 黒茶色のセミロングヘアで、もみあげの辺りを白いリボンで結び、白色のパーカーを着て、黒くて膝の下くらいに裾があるスカートを履いて、色々なものが入っているであろうベージュ色のトートバッグを両手で持ち、深く俯いた少女。それが中から出てきた人物の姿だった。その姿を目に入れるなり、明日奈は思わず叫んだ。

 

 

「シノのん!!」

 

 

 声が耳に届いたのか、スーパーマーケットの入り口から数歩歩いたところで少女は立ち止まった。明日奈はすぐさま駆け出して、駐車場を渡り切り、少女の目の前まで向かう。近くに来る事で、少女の特徴が求めていた人物のそれと完全に一致している事がわかり、明日奈は一種の安堵を浮かべた。ちゃんと外に出る事が出来ていたらしい。

 

 

「シノのん、会えてよかった……心配してたんだよ」

 

 

 ようやく会う事の出来た詩乃は、何も言わないで俯いているだけだった。顔を見たくないのか、それとも顔を見せたくないのか――そんな思いが伝わってきそうな感じだったが、明日奈はそんな考えを取り払い、もう一度詩乃に声をかける。

 

 

「シノのん、その、大丈夫? わたし、シノのんの事、心配で……」

 

 

 そう問いかけたところで、ようやく詩乃の顔がゆっくりと上がってきたが、それを瞳の中に映すなり、明日奈は言葉を失った。詩乃の瞳には一切の光がなく、まるで闇の底のように暗かった。そして、その目の下には、真っ黒な隈が出来ている。

 

 これまで一緒に過ごしてきた中で、一切見る事のなかった詩乃の顔が、そこにあった。

 

 

「しの、のん」

 

「……あすな」

 

 

 光無い黒い目をした詩乃の口が、明日奈の名前を紡いだ。明日奈はただ、たった三日の間に変わり果ててしまった親友の顔を、ただ見つめる事しかできなかった。

 




原作との相違点

・女の子達が全員キリトを和人と呼んでいる。
・女の子達が基本的に本名で呼び合っている。
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