キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

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前回に続き、とある人が初登場。


15:息子と母と

「それでかあさん、俺に聞きたい事って?」

 

「あぁうん。それはね……」

 

 

 和人と詩乃が仲直りした三日後の桐ヶ谷家。

 

 金曜日の学校を終えて帰宅してきた和人は非常に珍しいと思える出来事に出くわしていた。普段は家にいる事が少ない、もしくは帰ってくるのが夜遅くになる傾向にある母の(みどり)が、普通に家に居たのだ。

 

 今日も夜遅くに帰って来る事になるだろうから、夕食は直葉と二人で――リランとユイを会話に加えながら――摂ろうと思っていた和人は帰ってきて早々、リビングで出迎えてきた翠の姿に驚いたのだった。

 

 その時には当然、和人は翠に家にいる理由を尋ねたのだが、翠は首を傾げながら「今日は仕事が休みの日だから、家に居て当然でしょう」と言い、直後に「言わなかった?」と和人に尋ねた。

 

 

 翠からの質問を振られても、和人は全くと言っていいほど翠からの話を思い出す事が出来なかったが、翠は基本的に嘘を吐くような母親ではないというのを和人は小さい時からよく理解していたため、単に翠の話を聞きそびれてしまったのだというのがわかった。

 

 そうして翠が家にいる事を確認した和人は自分の部屋に向かい、制服を脱いで私服に着替えると、そそくさとリビングに戻った。

 

 いつもならば和人は学校から帰ってくると、現在時刻を確認し、休止状態になっているパソコンを立ち上げてメールの有無などを確認した後に、アミュスフィアを起動して妖精の世界へとダイブするのだが、今日はパソコンを立ち上げただけで、アミュスフィアの起動をしようとはしなかった。帰って来た時に、翠から話があると言われていたからだ。

 

 

 まさか最近の事で説教か何かがされるのではないだろうか、それとも、何か地雷を踏むような事を気付かない間にやってしまっていたのではないだろうか――あまりいい予感を感じる事が出来ず、和人は不安を抱きながら一階へ続く階段を下り、リビングに赴いた。そこでは、帰って来た時と同じように長ソファに翠が腰を掛けていたが、いつの間にかスマートフォンを手にしてディスプレイを操作していた。

 

 だがその後すぐに、翠はスマートフォンを懐に仕舞い直し、やってきた和人の方に目を向ける。翠の視線を浴びながら、和人はその隣に腰を下ろして用件を尋ねた。

 

 

「それでかあさん、俺に聞きたい事って?」

 

「あぁうん。それはね……あなたの最近の様子についてよ」

 

「最近の様子?」

 

「えぇ。あなたってば、最近学校に行けなくなるくらいに落ち込んだりしたじゃない。そしてそうなったかと思えば、いきなり元気を取り戻して元通りになっちゃった」

 

 

 確かに、一週間ほど前に詩乃に突然別れを告げられてから、和人は完全に意気消沈してしまい、ALOにログインするどころか、学校に行く事さえ出来なくなっていた。更にその時にはそこに付け加えて風呂に入る事も出来なければ、満足に食事をする事も出来なかったものだが、和人のあまりの急変ぶりに驚いた直葉と翠が面倒を見てくれたおかげで風呂に入る事も、満足に食事をする事も出来るようになった。

 

 そしてその後に、詩乃の現状を明日奈から聞いてからは、和人は落ち込んでいる場合ではない事を確認し、ALOにログインして詩乃を説得。詩乃との関係を取り戻す事に成功してからはすっかり元の状態になり、ALOに行く事も出来れば、学校に通う事さえ元通りに出来るようになった。

 

 だが、これら一連の流れは翠からしてみれば怪奇現象以外何者でもない。あまりの急変を繰り返した和人が心配になっているというのが、その目を見ただけでわかり、和人は首を横に振った。

 

 

「大丈夫だよ、かあさん。俺はもう大丈夫なんだ。医者に行くほどの事じゃないよ」

 

「けれど、あなたがあんな事になったのはあれが初めてだったから、すごく心配だったのよ。そしてあなたがあんな事になった原因は……」

 

「……うん。詩乃だよ。詩乃の事で、ちょっと問題があったんだ」

 

「詩乃ちゃんって……あなたがゲームの中で好きになった人、よね」

 

「うん……」

 

 

 翠は詩乃を知らないわけではない。和人はSAOから帰って来てから詩乃の話を沢山翠に持ちかけているし、実際和人がリハビリをしている時に、付きっきりになってその手伝いをしていた詩乃の事を見ている。

 

 初めこそは和人に付き纏っているように見えて少し混乱したけれど、和人のリハビリを献身的に手伝ってくれている詩乃の姿を見て、詩乃が和人にとってどういう人物であるのかを、翠はすぐさま把握する事が出来た。

 

 

「ネットゲームで好きな人が出来るっていうのは、あり得ない話じゃないのだけれど……まさか和人がそれをやっちゃうなんて、思ってもみなかったわ」

 

「俺も正直、こんな事になるなんて、全然予想してなかったよ」

 

「そして詩乃ちゃんは、和人が思い悩めるくらいの相手……他人の事で思い悩んだりする事のなかった和人が思い悩めるのが、詩乃ちゃんなのよね。詩乃ちゃんについて思い悩んだからこそ、あんな感じになっちゃった」

 

「……うん。そうだよ、かあさん」

 

「……野暮な事を聞くかもしれないけれど、改めて聞かせて。あなたは、和人は詩乃ちゃんの事をどう思っているの」

 

 

 翠の問いかけを受けて、本当に野暮な事を聞いて来るものだと和人は思ったが、それを言葉に出す事はなかった。何故ならば今の翠の様子は、まるで覚悟などを見ようとしているかのようだったからだ。

 

 そしてその問いかけへの答えなど、和人はとっくの昔から導き出している。

 

 詩乃はこの世で最も愛おしい人で、自分が愛情を注ぐ事の出来る相手であり、自分が守らなければならない、支えてやらねばならない娘。更に普通の恋人と違って、記憶を共有しており……もはや自分の半身と言っても間違ってはいない。

 

 自分の命はもう朝田詩乃のもの。詩乃と共に生き、詩乃と共に幸せになるために、詩乃と共に幾多の困難を乗り越えるために使っていく。これからもずっと一緒に居て、様々な出来事を詩乃と共に共有していく――様々な事があったから揺らぐ事もあったけれど、SAOの時から心に誓っている事を和人は頭の中でまとめ上げると、翠の目を見ながらその口を動かした。

 

 

「俺はね、かあさん。あの世界に捕えられて、詩乃と出会ってから、ずっと決めてるんだ」

 

「なんて?」

 

「ずっと詩乃と一緒に居るって、ずっと詩乃の傍に居るって。これからずっと、一緒に生きていきたいって。詩乃と、約束してるんだよ」

 

「……本当に?」

 

 

 自分よりも長く生きていて、既に恋愛も結婚も、出産も育児も経験している母。母は和人と詩乃が高校の間だけの恋愛をしているだとか、卒業したら元彼元彼女の関係になる事を心配しているのだ。

 

 実際、和人も周りの高校生達がしている恋愛など、軽いものだという話を聞いた事があるし、高校の卒業を最後に別れてしまったカップルの話もよく聞く。

 

 そんな情報を母は自分よりも嫌というほど入れているだろうから、自分と詩乃もそうなるのではないかと思っているのだろう。

 

 

「かあさん。確かに俺は詩乃と喧嘩する事だってあるよ。だけど、それくらいに俺は詩乃が好きなんだ。もう、詩乃以外の女性と付き合える気なんてしない」

 

「……本当に、あなたは詩乃ちゃんとこれから生きてくつもりなのね」

 

「そうだよ。もう、ずっと前から詩乃と決めてる。詩乃も、同じ気持ちで居てくれてる」

 

「本当に、詩乃ちゃんもそう思っているの」

 

 

 ついに和人は何も言わず、ただ頷いた。もはやどんなにゆさぶりをかけられたところで、この答えを揺るがせるつもりなど毛頭ない。ずっとずっと、変えるつもりなどない――和人は目の中にその言葉を浮かべて、翠の瞳をじっと見つめ続ける。そんな和人の黒色の瞳を、翠はじっと見つめ続けていた。

 

 そうしてほんの少しだけ時間が経った頃、翠は険しい表情を浮かべていた顔に、今度は微笑みを浮かべて、そっと和人の頬に手を添えた。

 

 

「和人……あなた、強くなったわね」

 

「え?」

 

「今の和人の目、SAOに行く前の和人じゃ見られなかったものよ。

 決意や覚悟の感じっていうのかしら、今の和人の目はそんな感じなの。あなたはSAOに閉じ込められて……そこで強くなって、帰ってきたのね」

 

「……」

 

 

 確かに、こんな気持ちを知ったのはSAOの中だ。SAOに閉じ込められて詩乃に出会うまでは、こんな気持ちを抱く事が出来る事など知りもしなかったし、抱いた時にどうなるのかも知らなかった。

 

 ネットゲームに傾向して、現実を見ようと思っていなかった息子が大切な人を守りたい、愛したいという気持ちを抱けるようになっているのが、翠はとても嬉しく感じているのを、和人はその目で理解する。

 

 

「和人の気持ち、よぉくわかったわ。和人は本当に詩乃ちゃんの事が好き。詩乃ちゃんと一緒に居ようと思ってる。そしてそれを、詩乃ちゃんは受け入れてくれている。悩んだり、気に病んだりする事もあるくらいに詩乃ちゃんが好き。そうね? 和人」

 

「うん。そうだよ」

 

「それなら、和人。詩乃ちゃんの事を幸せにしてあげて、あなたも一緒に幸せになってね。詩乃ちゃんはあそこまで献身的に和人のリハビリに付き合ってくれた娘……あんな娘、滅多にいないからね。あんな娘を幸せにしないのは、男として最低よ」

 

「勿論だよ」

 

 

 そう力強く言うと、もう一度翠は笑んでそっと和人の頬から手を離した。直後、翠は深呼吸をすると、ほんの少し首を傾けさせて言った。

 

 

「それじゃあ、成長した和人に突然の頼みごとをしようかしら」

 

「えっ、何するつもりだよ」

 

「和人、詩乃ちゃんって、SAOを生還した人達のマンションで一人暮らししてるのよね」

 

「そうだけど」

 

 

 和人の答えを聞いた翠は得意気にふふんと笑う。母がこういう反応をした時は、何かしら思い付いている時であるというのを、息子である和人は嫌というほど理解している。同時にそういう時は大抵ものすごい内容である事も。

 

 そして、それを今の辺りにしている息子である和人は軽く冷や汗を掻いて、胸の中に良からぬ予感を募らせるが、それを感じ取ったかのように翠はにっと笑んだ。

 

 

「それじゃあ、詩乃ちゃんを今晩の夕食に招待して。それで一晩泊めましょう」

 

「ええっ。何を言い出すのですか、母君様」

 

「だって私、和人をここまで虜にする詩乃ちゃんとまともに話をした事がないもの。和人のリハビリの時も、あんまり詩乃ちゃんが必死だったから、なかなか話しかけられなかったのよ。まぁ、どんな容姿の娘なのかは知っているのだけれどね」

 

 

 確かに考えてみれば、詩乃は和人と毎日話をしているけれど、和人の母である翠は全くと言っていいほど詩乃と話をした事がない。和人の妹である直葉ならば、ALOでリーファとなってシノンとしての詩乃と話をしたり、一緒に遊んだりしているけれど、やはり翠は詩乃と話をしたりしていないのだ。

 

 

「確かにかあさん、詩乃と話した事なかったな」

 

「そうよ。だから和人、詩乃ちゃんを招待しましょうよ。明日は土曜日で学校もお休みなんだから、大丈夫でしょう」

 

 

 今日の学校が終わった時、周りの生徒達が喜びの声を上げていた。その理由は今日が金曜日であり、明日が学校が休みである土曜日だったからだ。

 

 その喜びは勿論和人も感じており、帰って夕食を終えて、風呂に入って、寝る準備をしたら、さっさとALOにログインしてグランドクエストを進めようと考えていた。

 

 

「大丈夫だけれど……でも、そんな急に言われて、詩乃が承諾してくれるかどうか。詩乃は割と早いうちから、夕飯の準備始めるからさ」

 

「じゃあ、それよりも早く連絡すればいいわ。詩乃ちゃんだって、今日の分の夕食を作らないでいいんだから、お得だと思うのだけれど?」

 

「確かに……」

 

 

 SAOから帰って来た時からは、詩乃と一緒に食事をする事はそれなりにあったけれど、それは全て外食であり、家で一緒に食べた事なんてない。それに、詩乃の記憶をある程度掘り出すとわかるのだが、詩乃はもう一年以上、大勢で食卓を囲んで食事をした事もないのだ。

 

 もし、詩乃を今日の夕食に誘う事が出来たならば、自分、詩乃、翠、直葉、リラン、ユイの六人で食卓を囲んで食べる事になるから、久々の大勢の食卓に詩乃は喜んでくれるだろう。

 

 それにいずれにせよ、翠には詩乃を紹介しなければならないのだ。そしてその紹介はなるべく早い方がいい。翠の提案は、かなりいい線行っている。

 

 

「わかったよ。じゃあ、ちょっと詩乃に連絡してみる。けど、上手くいくかどうかまではわからないからな」

 

「ええ、連絡して頂戴」

 

 

 和人はひとまず頷くと、懐からスマートフォンを取り出して起動。軽く操作して電話帳を開き、詩乃のページを開いたところで通話開始ボタンをタッチして、耳に沿えた。

 

 呼び出し音を聞きながら、翠に向かって口の前で人差し指を立てる「静かにしてくれ」というジェスチャーをすると、翠はうんと頷いたが、直後に呼び出し音が止まって声が聞こえてきた。

 

 

《もしもし、和人?》

 

「あぁ詩乃。今電話出来るかな」

 

《出来るわ。丁度帰って来たところなの》

 

 

 詩乃の居場所は事実上詩乃の家であるマンションの一室だ。それを確認するなり、和人は胸の中に軽い安堵を抱き、スマートフォンの向こうの詩乃に問うた。

 

 

「そうか。なぁ詩乃、今日、買い物した?」

 

《買い物? なんで?》

 

「詩乃って、学校から帰ったら、すぐに夕食の買い物するだろ。今日はした?」

 

《いいえ……まだ行ってないけれど》

 

「そっか! じゃあさ、詩乃。急な話で悪いんだけどさ」

 

《うん?》

 

「今日、俺の(うち)に泊まりに来ないか」

 

《えっ!?》

 

 

 予想通り、だと思った。いきなりこんな事を言われたら、様々な物事を見てきた事で驚く事に慣れている詩乃も驚くに決まっている。スマートフォンの向こうにいる詩乃の、その表情を想像して苦笑いしながら、和人は詳細を説明する。

 

 それが終わった頃には、詩乃は落ち着きを取り戻しており、和人の言葉が一旦研ぎられたその時に話しかけてきた。

 

 

《そうなんだ、和人のおかあさんが、私に》

 

「そ。かあさんが詩乃に会いたがってるんだ。それで、今日の夕飯をうちで食べて、尚且つうちに泊まってほしいってかあさん言ってるんだけど……どうかな。詩乃は、大丈夫か」

 

 

 そこで、詩乃の言葉がいったん止まる。基本的にあまり休みを設けないで喋る詩乃がこうやって一旦沈黙するのは、何かを考えた時だとか答えに困った時とかだ。

 

 もしかして、詩乃の都合は悪かったのだろうか――そう思いながら、和人が口を開こうとしたその時、詩乃の方が先に声をかけてきた。

 

 

《……あのね、和人》

 

「うん? もしかして、駄目か?」

 

《あぁいや、そういうわけじゃないの。寧ろ、あなたと二人きりで話したい事があるから、丁度いいの》

 

「俺と話したい事……?」

 

《うん。だから、あなたの家に泊まりに行くっていうのは、全然大丈夫なのだけれど……本当にいいの? 私なんかが泊まり込むなんて……》

 

「かあさんがいいって言ってるんだから、いいんだよ。詩乃だって、大勢で食卓を囲むの久しぶりだろ?」

 

《そうだけど……本当に、邪魔じゃないの?》

 

「邪魔なわけないよ。大丈夫さ」

 

 

 そう言ってやると、詩乃の安堵するような声が聞こえてきて、和人の脳裏にそんな顔をしている詩乃の姿が想像される。もう既に和人は詩乃の顔が見えていなくとも、声を聞くだけで詩乃の表情や様子がどのようなものになっているのか、理解できるようになっていた。

 

 

《それじゃあ……今晩、お世話になるわね》

 

「うん。……あ、何なら迎えに行こうか。荷物とか、あるだろ」

 

《そんなに大袈裟な荷物は持って行かないわよ。だから、和人は待ってて》

 

「わかった。待ってるから、来てくれよ」

 

《うん。待っててね》

 

 

 その言葉を最後に、詩乃との通話は終了し、和人はスマートフォンを耳から離して懐に仕舞う。直後に翠の方に向き直ってみれば、その顔には笑みが浮かべられているのがわかった。和人の声を聞いているだけで、詩乃がどのような答えを返したのかが、わかったのだろう。

 

 

「詩乃ちゃん、来てくれるみたいね」

 

「うん。だけど、本当に大丈夫なのか。俺と詩乃と、スグとかあさんで、四人だけど」

 

「大丈夫じゃないなら、最初から言わないわよ。それに食材だって、もう既に四人分買って来てあるの」

 

「……つまり、俺に話す前から詩乃に夕食を振る舞うつもりだったと」

 

「そのとおりよ。さ、詩乃ちゃんが来てくれるのが無事に決まったところで、早速夕飯の支度にとりかからないと。直葉にも手伝ってもらわなきゃ」

 

 

 そう言いながら翠は立ち上がって、キッチンの方に向き直る。いつもならば、和人と直葉と翠の三人分だけ用意すればいいのだが、今回はそこに詩乃が加えられるから、手間が増しているし、尚且つ詩乃という客人のために普段よりメニューを豪勢にしなければならないはずだ。

 

 もうじき、直葉が学校から帰ってくる時刻だが、果たして二人で作ったところで夕食に間に合うのだろうか――気になった和人が声をかけようとした時、翠は咄嗟に振り返って、その唇を開く。

 

 

「別にあなたに手伝ってほしいわけじゃないわよ。あなたは、自分の部屋の整理や掃除をして頂戴。詩乃ちゃんと、大事な話があるんでしょう」

 

「……!」

 

 

 そこもしっかり聞いていたのかと、和人は軽く驚くが、直後にある事に気付く。

 

 確かに、自分の部屋は客人――ましてや詩乃――を招き入れる事を前提にしていないから、整理や掃除をする必要があるし、そんな整理整頓も掃除もされていないところに詩乃を招き入れること自体嫌だ。

 

 部屋が散らかっているような記憶はないが、翠の言う事に従った方が良さそうなのは確かだった。

 

 

「わかった。俺、行ってくる」

 

「くれぐれも、ALOにログインしないようにね。あぁそうそう、出来るなら、ユイちゃんとリランにもクエストとかに行かないように言っておいてね。今日の夕飯、ユイちゃんとリランとも話しながらしたいから」

 

「わかったよ」

 

 

 そう答えると、和人はスマートフォンのディスプレイを操作しながらリビングを後にし、電話帳アプリを開きながら階段を上がっていって、自分の部屋に着いたところで、スマートフォンを耳にあてて、妖精の世界にいる娘と相棒に、通話を開始した。

 

 

「あぁユイ……ん、リランも一緒か。実はだな……」

 

 

 


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