キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

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12:想い故に得られたモノ

 

「くっはぁ! 美味すぎるぞッ!!」

 

 

 ビールジョッキのそれに酷似した形のジョッキ一杯に注ぎ込まれた林檎のジュースを一気に飲み干したリランの、大きな声が喫茶店中に響き渡る。

 

 現段階では挑むには早すぎるくらいの高難度クエストを終える事が出来、尚且つその中でリランを他の《使い魔》に負ける事などほとんどなくなったように思えるような境地に進化させる事が出来た俺達は、皆を呼んで喫茶店に戻った。

 

 空都ラインの中は相変わらず無数のプレイヤー達でごった返しており、その中には沢山の《ビーストテイマー》もいたけれど、リランは平然とその中を通って喫茶店まで歩いた。最早リランは他の《使い魔》達を見ても何も思わなくなり、堂々と街の中をある事が出来るようになっていたのだ。

 

 そのリランの姿に安堵しながら喫茶店の中に入ると、皆が既に到着しており、俺達が来て早々にリランの進化と高難度クエストのクリアを祝福してくれて、アスナとリーファに至っては沢山の料理を作ってくれていた。

 

 裏世界を攻略しきったわけでもないのに、スヴァルトエリアのラスボスを倒したわけでもないのに、開催されている大きなパーティーに俺達は喜び、リランに至っては進化して更なる強さを手に入れ、不安も悩みも振り切った事に歓喜しているかのように、沢山の料理にがっつき、林檎のジュースを飲みまくったのだった。

 

 その様子を見ながら、クエストをクリアしてきた俺とシノン、クィネラも皆の開催したパーティーを楽しみ、俺達がクエストに行っている間に皆がやっていた事、シャムロックとの攻略競争の現状などを聞いていた。

 

 

「なるほどな、シャムロックも裏世界攻略にはかなり手を焼いているのか」

 

「あぁ。もう俺達とシャムロックの攻略状況の差は極僅かになって来てるんだ。丁度いいタイミングで戻って来てくれたよ、キリト」

 

 

 俺がいない間にチームリーダーをカイムと一緒に務めていたディアベルが、飲み物を口にしながら言う。ディアベル達の話によれば、攻略状況は俺が皆からのメッセージで知っていたのとほとんど同じ状況下にあり、シャムロックとの競争は極僅かにシャムロックが勝っているくらいになっているそうだ。

 

 そしてディアベルは、俺と進化したリランの力があれば、裏世界攻略のスピードを上げてシャムロックを追い抜く事が出来るだろうと読んでいるらしい。

 

 確かに、リランは俺の予想をはるかに上回るくらいの強さを持つ姿に進化し、俺達が挑むにはまだ早いボスに勝利する事も出来た。あのボスが全体的に見てどれくらいの強さだったのかはまだわからないけれど、あれくらいの強さのボスは早々いないだろうし、グランドクエストの中にあれくらいのボスがいるとは思えない。あのボスを打ち破る事が出来たのだから、俺達はきっとこの先も行けるだろう。

 

 そんな会話をディアベルと繰り広げていると、アルゴ程ではないけれども情報通であるフィリアが俺の元へやってきた。

 

 

「ねぇキリト。キリト達が挑んだクエストって、もしかして最近になって解放された、北欧神話モチーフのストーリークエスト?」

 

「あぁ。元はシノンが持ってきてくれて、それを俺達で挑戦したって感じだな。それがどうかしたのか」

 

 

 そこでフィリアは驚いたような顔になる。なんでも、あのクエストは昨日実装されたクエストであり、レジェンダリーウェポンが手に入るだろうと予想されて話題を呼んでいて、昨日から今日にかけて多くのプレイヤーが挑戦しているらしい。

 

 しかし、このクエストの中で手に入るであろう、伝説の武器欲しさに挑んだ――所謂廃人も含めている――プレイヤー達は、軒並みこのクエストに登場するボスモンスターに打ちのめされる一方で、昨日配信されたモノであるというのに、今の今までクリア出来た者は現れなかったそうだ。

 

 

「あのクエストって、そんなに難しいものだったのか」

 

「そうだよ。さっきクエストボードを確認したら、一番乗りはキリトになってて、二番乗りはまだ現れてなかったの。きっとシャムロックの人達も驚いてるんじゃないかな」

 

 

 確かに先程のクエストは難しかったし、現れたボスである魔狼龍もとんでもないくらいに強いボスモンスターだった。もしあの時リランが《神槍グングニル》を触媒に進化しなかったならば、俺達はあのクエストを失敗して詰んでいた事だろう。もしそうなった場合の事を想像すると、フィリアの話した現状は非常に頷けるものだと思えた。

 

 その話を横耳で聞いたかのように、今度はとても嬉しそうな顔をしたクラインがやってきた。

 

 

「やったじゃねえかキリト! お前の名前がスヴァルトエリア中に轟いてるぜ!」

 

()せよ。そんな大した事をしたわけじゃないんだからさ」

 

「いやいや大した事だぜ。なんたって、まだお前以外のクリア者の名前が出てないんだからな! 今頃シャムロックの連中も大慌てに違いねぇぜ」

 

 

 シャムロックの最精鋭であり、恐らくシャムロックの攻略チームを束ねているであろうスメラギもまた、俺の事は大きな好敵手として認識しているそうだし、他のシャムロックの者達もまた、俺や俺達の事を良く知っているはずだ。

 

 そんな俺の名前がこのクエストの一番乗りとして表示されていたならば驚くだろうし、俺がその境地まで辿り着いてしまっているという事に厳戒態勢になるだろう。

 

 

「という事は、あのクエストを突破した俺は、シャムロックにより深く目を付けられたって事か。シャムロックの連中も慌ててる……か」

 

「キリト君~」

 

 

 シャムロックの現状を考えようとしたその時に、前方から聞こえてきた少しだけ癖のある、かなり聞き覚えのある声に振り向く。そこにいたのは褐色肌と金色の短髪、猫というよりも獣のそれに近い耳を下、それなりに露出度のある戦闘服に身を包んだ、ケットシーの少女。

 

 《ビーストテイマー》や《使い魔》の事にかなりの知識を持ち合わせているケットシー領の領主、アリシャ・ルーだった。よく見ればその隣には深緑色の長髪と高身長で、若草色の和服に似た衣装に身を包んだ、ストレアやイリスのように胸の大きいのが特徴的な女性――カイムが(ねえ)と呼んで慕うシルフ領主、サクヤの姿もあった。

 

 そしてこのサクヤが、アリシャよりも先に俺に声をかけて来たのだった。

 

 

「聞いたよキリト君、高難度クエストクリアの一番乗りになったそうじゃないか」

 

「はい。けどこれはリランのおかげなんです。リランがあの時進化してくれたおかげで、俺達は勝つ事が出来ました」

 

「んー! ついにリランちゃんが進化するに至ったのネ! キリト君、リランちゃんのステータスとか、もう一回見せてくれないかナ?」

 

 

 「いいですよ」と一言答えて、俺はステータスウインドウを展開して可視化する。間もなくしてアリシャは俺の隣にやって来て、覗き込むようにリランのステータス、爆上がりした数値を見ていき、やがて大きな声を出して驚いた。

 

 

「ちょっ、何この数値!? リランちゃん、とんでもないのになっちゃってるヨ!? リランちゃんってば、一体どういう進化をしたの!?」

 

 

 そこで俺はあの時リランがどのようにして進化したのかや、その後どのような戦いを繰り広げたかなどを、全てアリシャに教えた。普段俺達が食い入って聞くような《使い魔》の話などをしてくれるアリシャは、食い入るように俺の話を聞き、その中で数回驚きの声を上げ、話が終わった頃には少し収まったものの、驚きを隠せないような顔をしたままだった。

 

 

「《神槍グングニル》……レジェンダリーウェポンが、リランちゃんの進化に繋がったのネ。そしてキリト君、今のところリランちゃんというか、《戦神龍ガグンラーズ》をテイムできてるのは君だけヨ」

 

「他にはいないんですか」

 

「いないヨ。そもそもこの《戦神龍ガグンラーズ》自体、私も初めて見るからネ。多分スヴァルト・アールヴヘイムが実装されてから登場したモンスターだヨ」

 

 

 確かに俺は今まで、《戦神龍ガグンラーズ》なんていうモンスターに立ち向かった事もなければ、その姿を見た事もないし、それが出てくるクエストさえも見かけた事がない。アリシャの言う通り、リランの新形態である《戦神龍ガグンラーズ》は、このスヴァルト・アールヴヘイムと同時に実装されたモンスターなのだろう。

 

 

「ん? いやもしかしたら、クエストに出てくるモンスターですらないかも……」

 

「え? それってどういう事ですか」

 

 

 アリシャによると、このALOに存在するモンスターの中には、クエストやフィールドには登場する事無く、《ビーストテイマー》が進化させる事でのみ登場するモンスターも存在しているそうで、リランの今の形態である《戦神龍ガグンラーズ》は、それである可能性が高いらしい。

 

 確かにリランと一緒に戦って分かったけれど、今のリランの項には人一人が入るためのキャノピーに似た、如何にも《ビーストテイマー》を乗せることを前提としているかのような部分が存在している。このような部位を他のモンスターが持っている事など無いし、あったとしても意味がない。

 

 その事から、アリシャは《戦神龍ガグンラーズ》は野生には存在しないモンスターであると考えているそうだ。

 

 

「野生には存在せず、《ビーストテイマー》が進化させる事でのみ、現れる……」

 

「それだけじゃないと思うヨ、リランちゃんが進化出来た理由は」

 

 

 言うなり、アリシャは「シリカちゃーん」と大きな声を出し、リズベットやアスナと話をしていたシリカを隣にやって来させた。その胸元にはいつものように、《使い魔》である水色の子竜ピナが抱かれている。

 

 

「なんですか、アリシャさん」

 

「シリカちゃんのピナちゃんって、他の《使い魔》では取らないような行動を取る事って話を聞いてるんだけど、知ってるヨネ? キリト君」

 

 

 シリカのような《ビーストテイマー》は沢山いるけれども、シリカの《使い魔》であるピナには、他の《使い魔》には見られないような特徴があるという話は、本人から聞いているし、俺も数回見ている。

 

 フェザーリドラという種族の幼体であるピナは、いつもシリカの傍にいる事は勿論の事、シリカのピンチにいち早く駆け付けて回復ブレスなどを吹きかけ、尚且つシリカが本当に危機に晒された時には身代わりになろうとするなど、ピナ以外の《使い魔》では見られないような行動を取ろうとする事が多い。

 

 本来そのようなルーチンは《使い魔》のAIには組まれていないそうなのだが、シリカのピナだけはそういう行動を取る。この仕組みは未だに理解されておらず、同じ《ビーストテイマー》である俺も、全くその仕組みが理解できていない。

 

 

「知ってます。それがどうかしたんですか」

 

「実は最近、その仕組みがわかって来たのヨ」

 

 

 ある《ビーストテイマー》が使っていた、進化が非常に遅れている《使い魔》がアイテムによって進化したという事例があり、それがまた奇妙な話が付き纏っているというのを、アリシャは話し始めた。

 

 《使い魔》を進化させる事が出来たとある《ビーストテイマー》は、該当するモンスターとモンスターを進化させたアイテムを記録し、それをネットの攻略情報サイトに書き込んだそうなのだが、それを実際に試したプレイヤー達は同じ《使い魔》を使い、尚且つ同じアイテムを使ったのに、進化させる事が出来なかったというのだ。

 

 おかしいと思ったその《ビーストテイマー》は当時の《使い魔》のステ振りの仕方や、進化させた時間帯なども詳細に書き込んでみたそうなのだが、それでも尚、他のプレイヤーはその《使い魔》の進化を再現する事が出来なかったらしい。

 

 

「全く同じ条件でやったのに、進化できなかった? どういう事なんです、それ」

 

「不思議でしょ? けれどネ、後々その仕組みが分かったのヨ。それは、その《使い魔》がその《ビーストテイマー》と長く居て、信頼していたから、アイテムを受け付けて進化したのヨ。真似したプレイヤー達とその《ビーストテイマー》の違いは、《使い魔》と一緒に居た時間だったの」

 

 

 このALOで存在する《使い魔》には、STRやAGIと言ったステータスの他に、長く一緒に過ごしている事で上がっていく隠しステータスが存在し、それによって進化する《使い魔》もいるとされているそうだ。シリカのピナが他の《使い魔》では見られないような行動を取るのもまた、シリカとピナが長い時を一緒に過ごしているからであるという。

 

 報告事例こそは少ないものの、この『長い時間一緒に過ごした』というのを進化条件としている《使い魔》が進化した時には、その他の進化方法で進化する《使い魔》を優に超えるステータスを持つ《使い魔》になる場合がかなり多いらしい。

 

 

「キリト君とリランちゃんはかなり長い間一緒に居るんでしょ? だから、リランちゃんが進化出来たのはレジェンダリーウェポンが手に入ったからだけじゃなく、キリト君が長い間リランちゃんと一緒に居て、信頼関係を築いていたからだと思うナ。まぁ、公式ガイドブックに載ってたわけじゃないから、本当かどうかはわからないけどネ」

 

 

 リランとはSAOの中で出会い、彼是二年近く一緒に居る。もしSAOの時から一緒に居る時間がカウントされ続けているのであれば、俺とリランが一緒に居る時間の値は、他の《ビーストテイマー》達では到底辿り着く事の出来ない数字となっているだろう。

 

 その事を理解しているかのように、サクヤが俺に言って来た。

 

 

「キリト君はどこまでもリランと一緒に居る事を選び、その他の《ビーストテイマー》に異端、非効率と言われながらもずっと育て続けていた。

 キリト君がリランと一緒に居る事を選び続けたが故に辿り着けたのが今の境地なのであれば、《使い魔》が弱いと思ったらすぐ捨てるようなやり方をする《ビーストテイマー》達では、決してリランのような《使い魔》を手に入れる事は出来ないだろうな」

 

 

 今のALOの《ビーストテイマー》達の間では、弱い《使い魔》はすぐに捨てて、最初から強いステータスを持っておいて、尚且つ強い《使い魔》に進化する事が確定しているであろう《使い魔》を探していく、俗にいう《厳選》というやり方が流行とされている。

 

 だがもし、アリシャの話が本当であり、リランの進化条件がレジェンダリーウェポンの使用と、《ビーストテイマー》と一緒に居た時間ならば、リランを不安にさせたゼクシードは勿論、その他の《ビーストテイマー》達もリランのような《使い魔》を手に入れる事など出来やしないだろう。

 

 ――《使い魔》を大事にするという基本的な心がけを忘れてしまっているのだから。

 

 

「だからキリト君は昨日配信された超高難度クエストの一番乗りだけじゃなくて、《厳選》以外の方法で《厳選》を超える《使い魔》を手に出来た、流行破りだネ」

 

 

 アリシャに言われた俺は、料理にがっつく事に夢中になっているリランに向き直った。それから間もなくして、進化する前のリランの様子――弱い《使い魔》として捨てられてしまうかもしれないという不安に駆られている姿が脳裏にフラッシュバックする。

 

 確かにリランの今の様子とステータスを見る限りでは、リランを超える《使い魔》を手に出来ている《ビーストテイマー》は存在しないように見えるし、今のリラン、《戦神龍ガグンラーズ》を超えるモンスターを《使い魔》とした《ビーストテイマー》の話も聞いていないから、今現在使われている《使い魔》の中の最強は、リランなのだろう。

 

 

(もし……)

 

 

 リランが《戦神龍ガグンラーズ》に進化出来たのがレジェンダリーウェポンの使用と、俺と一緒に居た時間なのだとすれば、《使い魔》を大事にし、一緒長い時間を過ごす事によって《厳選》で手に入るのを超える《使い魔》が入手できるという事の証明となる。

 

 これを流行させる事が出来れば、《ビーストテイマー》達は《使い魔》を捨てる事をやめ、一匹の《使い魔》を大事にするようになってくれるかもしれない。――存在するかどうかはわからないけど、捨てられる事を不安に思う《使い魔》もいなくなるはずだ。

 

 

(……!)

 

 

 けれどどうする。どうやってこの情報を広めるというのだ。

 

 攻略サイトに書いたところで信憑性のない情報は淘汰されてしまうし、俺以外にこの境地に辿り着いたものがいないから、尚更信じてもらえない。しかもアリシャの話だって真実ではないかもしれないと本人が言っているから、やはり信憑性に欠ける。けれど、シリカとピナの関係だってあるのだから、きっとアリシャの話は真実であり、アリシャがした《ビーストテイマー》と《使い魔》の話だって真実なのだ。

 

 けれど、どうやったら《厳選》というやり方をその身に浸透させてしまったプレイヤー達を、動かす事が出来るというのだろう。

 

 どうすれば、どうすれば……深いところまで考えようとしていたから、俺は突然のウインドウの出現に声を上げて驚く事になった。俺が突然大きな声を上げたものだから、皆もまた驚いてしまい、気付いた時には、喫茶店にいるほぼ全員の視線が俺に集まっていた。

 

 同じように驚いている皆に謝りながら、目の前に現れたウインドウをよく見てみたところ、それがメッセージウインドウであるという事がわかり、それを展開したそこで見えてきた宛先に、俺はもう一度驚く事になった。

 

 

 メッセージの宛先は、《MMOストリーム》。文章の中身は、俺が今日の夜九時から放送される《今週の勝ち組さん》に出演するのに相応しい戦績を叩き出しているので、是非とも出演してみませんかという、招待状そのもののだった。

 

 

 俺はこれまで《Mスト》に出演した事など無かったから、招待状はどのようなものなのかと思っていたけれども、実物はかなりあっさりとしているそれだった。そしてその内容はすぐさま皆の目に留まり、その一番乗りとなったアリシャとサクヤがとんでもない大声を上げた。

 

 

「き、キリト君、それ!!」

 

「《MMOストリーム》の招待状じゃないか!!」

 

 

 二人の領主の声が轟くなり、それに続く形で皆が一斉に驚きの声を上げる。俺もそうだけど、皆も俺の元へ《Mスト》からの招待状が来るなんて予想もしていなかったのだろう。完全に予想外な出来事に出くわして驚いた時の顔のまま、リーファが俺の元へやってくる。

 

 

「お、おにいちゃん、それ本物!? 偽物とかじゃないよね!?」

 

「宛先に《Mスト》ってあるし、アドレスも本物みたいだ。けれど、なんで俺のところに《Mスト》からの紹介状が来たんだ?」

 

「もしかすると、パパが先程超高難度クエストを突破したからなのかもしれません」

 

 

 そう言って説明してきたのがユイ。ユイ曰く、《Mスト》の《今週の勝ち組さん》からの招待状を受け取るのは、優秀なプレイヤーは勿論の事、超高難度クエストの一番乗りなども該当するというのだ。俺はリランとシノンとクィネラの四人で、昨日実装されたばかりの超高難度クエストを突破したわけだが、その二番手が中々生まれてこないから、《今週の勝ち組さん》に出演しないかという誘いが来たらしい。

 

 

「そういう事なのか……」

 

「勿論拒否する事も可能ですけれども、どうしますか、パパ」

 

 

 チャンスが来たと思った。

 

 《今週の勝ち組さん》というコーナーを持つ《MMOストリーム》は全国放送であり、テレビやネットで見る事は勿論、このVRMMOの世界で見る事も出来るようになっている。そしてこの番組を楽しみにしているプレイヤーも、《ビーストテイマー》も沢山いる。

 

 今夜という唐突さはあるけれども、この《今週の勝ち組さん》に出演する事が本当に出来るならば……俺とリランで実現できた進化を、《厳選》を上回る進化の方法を流せる。《ビーストテイマー》は《使い魔》と一緒に出演できるから、狼竜形態に限定されるけれども、リランを連れていく事も出来、説得力を出す事も出来る。

 

 信じてもらえるかどうかまではわからないけれど、伝える事は出来るはずだ。ごくりと息を呑んだ俺は、食べるを止めている相棒の元へ行き、そのすぐ傍で立ち止まる。向けられてきた真紅の瞳に自分の姿を映しながら、言った。

 

 

「リラン……《Mスト》に行くぞ」

 

 

 




次回、とある人とキリトが対戦。

皆さんがスッキリするであろうお話になる予定なので、乞うご期待。



――今回の補足――


・《使い魔》と長く居る

 《使い魔》は長く使う事で《ビーストテイマー》を信頼し、攻撃から守る、適度に補助を好意を行うなどのルーチンが加わるようになっている。
 そしてこの《使い魔》と一緒に居た時間を進化条件にしている《使い魔》も存在し、その条件で進化した《使い魔》は群を抜いて強いものになりやすい傾向にある。



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