キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

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長め。


13:選ぶに勝る、思いやる心

          □□□

 

 

 夜八時五十五分 空都ラインの宿屋

 

 大客間の一室を貸し切って、一同は部屋の壁にかけられているスクリーン――正確にはクィネラが出現させている、動画サイトに接続されたウインドウ――を直視していた。スクリーンが映し出しているのはネットの人気番組である《MMOストリーム》のチャンネルであり、その番組の開始時刻である午後九時を、一同は心待ちにしている。

 

 普段、《MMOストリーム》が放送されている時間はクエストなどに赴いているため、こうして《MMOストリーム》を見る事自体が珍しい事だし、普通ならばあまりあり得る事でもないのだが、今回ばかりは見ないわけにはいかないために、一同は《MMOストリーム》を見る事に夢中になっているのだ。

 

 その一同の中に混ざって、シノンもまた、じっと《MMOストリーム》が放送される事になっているスクリーンを眺める事に集中している。

 

 

「あとちょっと、あとちょっとで始まりますね!」

 

「えぇ。まさかこんな事になるなんて、誰が予想できたんだろうね」

 

 

 隣のソファに座りつつ、非常にわくわくした様子でウインドウを見つめているリーファとアスナの声に反応するかのように、シノンは横目を向ける。

 

 こうして皆が宿屋の大客間の一室に集まり、《MMOストリーム》の放送を待ちわびている理由はただ一つ、キリトとリランが《今週の勝ち組さん》に出演する事が決定したからだ。

 

 今日、シノンはキリトよりも早くログインして酒場のクエストボードへ向かい、リランを進化させる要因を手に入れられるクエストがないかを探した。そして《使い魔》を強い個体へ進化させるアイテムが手に入る傾向のある条件を満たしたとあるクエストを見つけ出し、キリトを受注者として挑んだのだが、そのクエストこそが当たりであり、リランを無事に強い個体へ進化させる事が出来た。……だが、フィリアから聞いた話によれば、このクエストは一日前の配信の時から現在までクリア者がいなかったらしく、リランを進化させるために向かった自分達が一番乗りであったという。

 

 そして一番乗りを獲得して数時間経っても二番手が現れなかったために、キリトは高難度クエストクリア者として《MMOストリーム》に出演する権限を手に入れ、そのまま出演を果たす事になったのだった。

 

 《MMOストリーム》という全国放送の番組にキリトとリランが出演し、その名を轟かせる映像を見ないわけにはいかなくて、こうしていつもならばクエストをやっている時間であっても、皆は宿屋の一室に集まって、《MMOストリーム》の開始を待っているのだ。

 

 

「まさかキリト君とリランが《Mスト》、《今週の勝ち組さん》に出演する事になるとはねぇ。リランの母親としてはこれ以上ないくらいに誇らしいよ」

 

 

 そう言ってシノンの右隣で紅茶らしき飲み物が入ったカップの中身を啜っているのは、白いコート状の戦闘服に身を包み、非常に長い黒髪と大きめの胸が特徴的な、この中にいる少女達の中の誰よりも年上で、大人の雰囲気を漂わせている闇妖精族インプの女性。一年以上一緒に過ごしており、様々なところで自分を助けてくれている元専属医師、イリスだ。

 

 普段は仕事の忙しさの関係でALOにログインしてくる頻度も少ないイリスだが、事実上娘と行ってしまってもいいリランがキリトと共に《MMOストリーム》に出演するという話をシノンから聞くなり、「それは見るしかない」と言ってALOへログイン。こうして皆の中に混ざって、《MMOストリーム》の開始を心待ちにしていた。

 

 

「シノン、君も嬉しいだろう。なんたって、キリト君が《Mスト》に出演するという快挙を達成したんだからさ。これって彼が血盟騎士団の二代目の団長になった時以来の大事じゃないかな」

 

 

 確かにイリスの言う通り、シノンは今夜の出来事が嬉しかったし、《MMOストリーム》という、今となっては地上デジタル放送のどの番組よりも高い視聴率を持つ大きな番組に出演するキリトの姿を見れるというのは誇らしく感じられる。

 

 けれど、血盟騎士団の二代目の団長になった時のキリトと今のキリトの違いは、自分の記憶が頭の中に混ざり込んでしまっているという点だ。元より人と接する事があまり得意でもなければ好きでもなかった自分は、大きな出来事があった時に人前に立ち、注目を浴びながら何かを話したりするというのは大の苦手だった。

 

 今はお守りや処置によってある程度は緩和されているものの、自分の記憶を宿してしまっているキリトは、大勢の注目を浴びながら何かを喋る事を苦痛に感じているはず。

 

 もしかしたら、《MMOストリーム》の出演中に不調を起こしてしまうのではないだろうか――皆はキリトが出演するという事を純粋に喜んで、そんな事は考えていないようだけれど、シノンは一人だけそれが気がかりで仕方が無かった。

 

 

「嬉しいですけれど……キリトは大丈夫でしょうか」

 

「確かに、私も心配ではないわけでもない。けれどキリト君は君と同じように大きく成長を遂げているし、血盟騎士団団長だってやってるんだ。それに君達から聞く限りでは、キリト君は大勢のプレイヤーに言いたい事があるから、《Mスト》に出演する事を選んだのだろう。なら、キリト君はしっかりとやり遂げるはずだ」

 

 

 恩師の横顔を見つつ、シノンは《MMOストリーム》の撮影現場へ向かう前のキリトを思い出す。《MMOストリーム》から招待状を受け取った時、キリトは強い眼差しで「多くのプレイヤーに言いたい事があるから、行ってくる」と言い、《MMOストリーム》の現場へと向かって行った。

 

 勿論その時には止めようとも考えたけれども、キリトの黒い瞳の中に浮かぶ強い意志の光を見た途端にシノンはキリトを引き止める言葉を失い、そのまま送り出す事しか出来なかった。

 

 心配だけど、もうキリトは行ってしまっているのだから、無事を祈るしかない――そう心の中で呟き、スクリーンに向き直ったそこで、ようやくスクリーンの中身に変化が起きた。《MMOストリーム》が始まった時に流れる特有のオープニングムービーが流れ始め、司会を務めている少女と思われるものの声でアナウンスがされたそこで、その場にいる皆の注目が一斉にスクリーンの中に集まり、部屋の中が《MMOストリーム》が放つ音だけで満たされるようになる。

 

 オープニングムービーが終わり、今回のコーナーがキリトとリランの出演している《今週の勝ち組さん》である事がアナウンスされると、スクリーンの中の動画の場面は、《今週の勝ち組さん》の時に使われる現場の光景へ切り替わり、まず最初にポップな衣装に身を包んだ少女がカメラに映り、いつものように今夜の《MMOストリーム》と《今週の勝ち組さん》の内容がどうなっているかを説明。それが終わったその時にカメラが移動し、インタビューを受ける事になるであろうゲストが映し出された。

 

 ゲストは二人おり、一人目はシルバーブルーの髪の毛とサングラスが特徴的な、野戦服のような衣装に身を包んだウンディーネと思わしき男性プレイヤーだったが、二人目が映し出されたそこで、一同は驚きと喜びの混ざった声を上げる。

 

 二人目のゲストは、先程この現場へ向かっていった、黒い短髪に線の細い顔、黒いコートに身を包み、背中に剣を二本背負ったスプリガンの剣士。

 

 キリトの姿そのものだった。

 

 

「キリト……!」

 

 

 自分の中では誰よりも大切な人である少年の姿が映し出されるなり、シノンは喰いつくようにスクリーンに注目し、少年の右手に注目したが、すぐさま小さな声を出した。椅子に座ってしゃんと背を伸ばしているキリトの右手首には白銀色の腕輪がしっかりと嵌められており、現場の照明の光を浴びてきらきらと煌めいている。

 

 キリトはちゃんとお守りを付けて行ってくれた――その事がわかるなり、シノンは心の中に少しだけ安堵感を抱いたが、番組が始まる前からずっと渦巻いている不安の強さに勝る事はあってくれなかった。

 

 

『本日はこの二人をゲストに呼んでいますよ! 今回も大物ばっかりで最高ですね! しかもすごいのは、先週と同じ人が今週も出続けてるって事ですよ!』

 

 

 可愛らしいと思える声で言うなり、司会の少女は一人目のゲストであるシルバーブルーの髪の男性プレイヤーの元へ向かって行ったが、カメラの中に映ったその男性プレイヤーの姿を見るなり、皆が一斉に不満の声を上げた。

 

 青銀色の髪の毛にサングラスが特徴的なウンディーネの男とは、周りの《ビーストテイマー》達に嘘情報を拡散して混乱させた悪質さを持ち、《使い魔》は厳選するべきという持論を持ち合わせている、《ビーストテイマー》としては優秀な能力を持つ、ゼクシードだった。

 

 

「おやおや。また現れたのかい、このゼクシードは」

 

「……なんでかわからないけれど、見てると腹が立って来るなぁ、このゼクシード」

 

 

 もう一度右方向に向き直ってみれば、呆れているような顔のイリスと、その更に右隣で不満そうな顔をしているシュピーゲルが見えた。いや、周りを見てみればイリスとシュピーゲルだけではなく、ほぼ全員が不満そうな、もしくは嫌いな食べ物を目にしたかのような顔をして、ゼクシードを睨んでいる。

 

 実際リランの不安を煽り、進化する時まで落ち込ませ続けていた元凶であるのがゼクシードだから、またその姿を見てしまった事に、こういう反応をせざるを得ないのだろう。そんな視線を浴びている事などわかるはずもないゼクシードはカメラに映るなり、得意気に離し始める。

 

 

『あはは、当然ですよ。ボクは次も《今週の勝ち組さん》に出れるように、色々やりまくりましたからね。しかもそのおかげでもっと強くなる事が出来たんですから、本当に良い事尽くめですよ』

 

『ゼクシードさんは最強種のドラゴン、《狼竜族》をテイムする事に成功していますけれど、それをより強い個体へ進化させる事に成功したんですよね?』

 

『いいえ、違います。あの《使い魔》ですけれど……実はそんなに強いものでもないっていうのがわかってしまいまして。邪魔だったので捨てました』

 

 

 ゼクシードの発言がされるなり、その後方の壁に表示されている動画サイトから投稿され、右から左へ流れていくコメントに「は!?」「何考えてんだこいつ!?」「最強種捨てるとか正気じゃない」などといった驚きの声が沢山混ざっていくが、そこに加勢するように周りからも驚きの声が上がり、シノンもその一人となる。

 

 それでも尚、ゼクシードは得々と続ける。

 

 

『これまではずっと、《ビーストテイマー》はドラゴンをテイムして、尚且つ《狼竜種》を手に入れる事を目指すというのが一般的であり、《狼竜種》こそ最強というのが通例みたいなものでした。

 しかし今だから言えます。《狼竜種》最強なんて幻想だったんですよ!』

 

 

 シノンは画面に映る青銀髪男の言い分が信じられなかった。この男は《狼竜種》こそが最強であり、《ビーストテイマー》が目指す頂きのようなものであると得意げに話していて、弱い《使い魔》など捨ててしまえと言って、あまり強くない《使い魔》を使っている《ビーストテイマー》とその《使い魔》を最大限に侮辱していた。

 

 だのに今、この男は自分の使っていた《使い魔》であり、キリトやシリカのような《ドラゴンテイマー》が憧れる最強種であるはずの《狼竜種》さえも侮辱しているし、最強種を捨てたも言っている。様々なプレイヤーの言い分や発言を聞いてきた経験があっても読めなかったのだろう、司会の少女が驚きながらゼクシードに問うた。

 

 

『ちょっ、ちょっとゼクシードさん!?《狼竜種》はレジェンダリーウェポンを手に入れるのと同じくらいに難しい存在でしょ? それを捨てる上に《狼竜種》最強が幻想だったなんていうなんて、どうしちゃったんです!?』

 

 

 嫌な視線を向けられている事はわからなくても、驚きの声が上がっているのはわかったのだろう、ゼクシードはさらに続ける。

 

 

『あっと、経緯を話すのがまだでしたね。実はボク、あれからもっと強い《使い魔》を手に入れる方法はないかと思ってあちこち駆け回っていたんですけど、その中で奇跡に出くわしたんですよ。なんと、《狼竜種》を超える強さを持つドラゴンに進化するドラゴンを見つけたんです! いやぁ、あれは本当に衝撃的でしたよ』

 

『《狼竜種》を超えるドラゴンに進化するモンスターって事は、同じドラゴンですよね?』

 

『そうですよ。そしてこいつこそが、今のボクの《使い魔》、《狼竜種》を超えるドラゴンです!』

 

 

 ゼクシードが得意気に指を鳴らすと、その後方に青鈍色の光球が発生し、やがてそれは爆発。現場全体にフラッシュを抑える加工が施されているおかげで、異常なほどまぶしい光が来る事はなかったが、光が収まったスクリーンの中に現れていた存在に一同は驚く事になった。

 

 太く発達した筋肉で構成された四肢を持ち、背中側を青黒色の甲殻で、腹側をまるで鉄の棘のように逆立つ水色の剛毛で包み、前足と後ろ脚をより発達した水色の逆立った剛毛で包み込み、背中と腰からそれぞれ一対ずつ猛禽類のそれに似た、水色の羽毛で構成された巨大な翼を、尻元から二本の太い尻尾を、水色の毛に包まれた竜と獣が複雑に混ざったような輪郭で出来た頭部の目の上からは悪魔のそれを思い起こさせる前方へ湾曲した形状の角を生やし、更に耳の上から後部へ伸びる角を生やした、極めて異様と言える姿をした竜が、得意気な顔をしているゼクシードの背後に出現していたのだ。

 

 この前出演した時に見た狼竜よりも異様且つ威圧感のある、悪魔のような竜の姿がカメラに映し出されるなり、ゼクシードと《使い魔》の間に流れるコメントが「なんだこれ!?」「なんだなんだ!」「滅茶苦茶強そうなのが来た!」などの驚きの声で溢れかえる。

 

 こうなる事が最初から予想できていたのだろう、ゼクシードは更に得意気な顔になって、椅子に深々と座る。

 

 

『強そうでしょう? もう一度言いますが、これが今のボクの《使い魔》であり、《狼竜種》を超える力を持ったモンスターです。名前は《デビルリドラ》っていうみたいですよ』

 

『す、すごいのが出てきましたねぇ。こんなのを手に入れてしまうなんて、流石ゼクシードさんです』

 

『いやぁ、苦労しましたよ、こいつの進化元を探し出すのには。何せ、《狼竜種》とは比べ物にならないくらいに弱い初期段階の、すっごく意外なものがこいつに進化するように出来ていたんですから。その時には信じられなかったですよ』

 

 

 この前の時と同じように得々と語るゼクシードは背後にいる悪魔の竜に顔を向ける。リランならばキリトが顔を向けて来た時、特に理由がないならば向き直り、その真紅の瞳でキリトの姿を映し出す。そのリランと色こそ同じなれど、禍々しさを感じさせる紅い瞳をした悪魔の竜デビルリドラは、ずっとカメラを見つめているだけだった。

 

 

『その意外なドラゴンにスヴァルトアールヴヘイムで手に入ったアイテムを使ってみたら、このドラゴンになってくれたんです。そしたらどうです、《狼竜種》を超える強さになってたんですよぉ!』

 

『意外なモンスターがこれに進化ですかぁ』

 

『そうですそうです。このALOじゃ二匹まで《使い魔》を持てますが、一匹しか戦わせられない仕様です。そしてこのもう一匹の空きっていうのもすごく重要ですから、空きを圧迫するだけだった前の《使い魔》は捨てました。それにこのデビルリドラも実は二代目でして、一回目の奴がいい能力値の奴だったらよかったんですけど、そうじゃなかったんで厳選したんです』

 

 

 そこでゼクシードは両手を広げて掌を上に向ける。呆れた事になっただとか、何か残念なものを見た時のような仕草だった。

 

 

『それに最近は《狼竜種》でも勝てないようなモンスターもいますし、《狼竜種》では攻略が難しいクエストだって沢山出て来てます。だからもう《狼竜種》さえいればいいとか、《狼竜種》最強なんて幻想、過去のお話です。

 だから必死になって《狼竜種》を手に入れようと頑張っていた、もしくは《狼竜種》使いとなっていた《ビーストテイマー》さんに言います、ご愁傷様です。これからは、《狼竜種》以外のドラゴンの時代です!』

 

 

 溜息を吐くようにゼクシードが言うなり、右から左に流れていくコメントがゼクシードへの批判で埋め尽くされる。ゼクシードは以前の出演の際、《狼竜種》こそ最強であるみたいな発言をし、それを実際に手に入れる事で証明していた。

 

 それをこうして自ら否定したゼクシードにこれだけの批判の声が上がっている事は、その話を信じて行動していたプレイヤーも多かったという事の証明に他ならなかった。

 

 

(……?)

 

 

 次から次へと流れてくるゼクシードへの様々な意見のコメントを余所に、シノンはじっとゼクシードの背後にいる悪魔の竜に注目する。この悪魔の竜はゼクシード曰く《デビルリドラ》というそうなのだが、どうもこの悪魔の龍がどこかで見た事があるような気がしてならないし、そもそもその名前自体もどこかで聞いた事があるような気がする。

 

 けれど、このようなドラゴンを戦った事もなければ、このような名前を耳にしたのだって今日が初めてだから、知っているわけもない。

 

 

「あれ……このゼクシードの《使い魔》、ピナと同じじゃない!?」

 

 

 リズベットの声で、シノンははっとする。その声の主であるリズベットの隣に顔を向けてみれば、そこにはシリカの姿があり、胸元には水色の毛に身を包んだ小さな竜、《フェザーリドラ》という種族名を持つ《使い魔》ピナが抱かれているのがわかった。

 

 そうだ、ピナだ。この悪魔の竜《デビルリドラ》は禍々しさなどがあるけれども、基本的な造形はピナにかなり似通っている。しかも名前も《デビルリドラ》という、《フェザーリドラ》と似通ったものとなっていると来ている。

 

 間違いない、ゼクシードの連れている《デビルリドラ》はピナと同じ《フェザーリドラ》を進化させたものだ。それに気付いたのだろう、シリカが胸元のピナを見ながら言う。

 

 

「間違いありません、ゼクシードさんの《使い魔》はピナと同じ《フェザーリドラ》から進化したものです。けど、ゼクシードさんの話を聞く限りじゃ……」

 

「この人は何匹もの《フェザーリドラ》を使い捨てて厳選して、《デビルリドラ》に辿り着いたって事だよね……」

 

 

 シリカと一緒になって悔しそうな顔をするフィリア。ゼクシードはキリトと真反対の厳選至上主義者であり、強い《使い魔》を手に入れるためならば何匹もの《使い魔》を使い捨てる事に何の躊躇いもない。そしてゼクシードは今の《使い魔》を手に入れるまでに、何匹もピナのような《フェザーリドラ》を使い捨てているのだろう。

 

 キリトと一緒にイメージ力を鍛えていたせいなのか、使い捨てられていく《フェザーリドラ》達の光景が容易に想像出来てしまったシノンは、心の中に大きな不快感を覚えた。が、それ以上不快感の元凶そのものであるゼクシードの発言はなく、司会はついに《MMOストリーム》初登場である黒の狼龍使い、キリトにインタビューを開始する。

 

 

『さてさて、次のゲストさんは……今注目の《ドラゴンテイマー》であるキリトさんです! キリトさんは昨日配信された超高難度クエストを一番乗りでクリアし、二番乗りを未だに出していません。そんな難しいクエストを突破するなんて、流石ですね』

 

『ありがとうございます。確かにすごい難しいクエストでしたから、俺も正直うまくやれるかどうかは不安だったんです。けれど、クリアできて本当に良かったです』

 

 

 ポップな衣装の少女に声をかけられた少年は、少しだけぎこちなさを交えた言葉を紡ぐ。血盟騎士団の団長の時とはまた違う大勢に見られているわけだから、どうしても緊張してしまっているのだろう。だが、あまり深刻に緊張しているようには感じられないため、このまま喋り続ける事は出来るはずだ。

 

 どうか最後までやり切って――シノンは心の中で祈りながら、スクリーンの中のキリトを見続ける。

 

 

『キリトさんは少数チームを組んでスヴァルトエリアを攻略し、シャムロックに対抗していると聞いています。そして何より、シャムロック顔負けのとても強い《ビーストテイマー》とも言われていますね!』

 

『……はい。俺も他の《ビーストテイマー》の人達と同じですね』

 

『そんなキリトさんが今回、あの超高難度クエストを突破したという事は、やはり《使い魔》と一緒になって戦ったのでしょう? 超高難度クエストを突破できたんですから、キリトさんも厳選に厳選を重ねた《使い魔》で挑んだんでしょうねぇ!』

 

『……!』

 

 

 ポップ衣装の少女の言葉を耳に入れたキリトはぴくりと反応を示し、それを聞いたシノンもやはりと思った。

 

 司会の少女がこう言ったという事は、自分達の挑んだクエストは非常に難しくて、それをクリアするならば《使い魔》は厳選するほかなくて、そもそも《使い魔》は厳選して強いのを手に入れていき、弱いものは捨てていくものであるというやり方が一般的になっているのだ。

 

 

『…………』

 

『って、あれ? キリトさん? どうしちゃったんですか』

 

 

 キリトが突然俯き、拳を強く握って沈黙したものだから、司会の少女が慌てる。きっと近くまで行けば喉を鳴らす音が聞こえてくるのだろうが、スクリーン越しではキリトからの音を聞き取る事は出来なかった。

 

 そして沈黙の開始から数秒後に、キリトは顔を上げて沈黙を終わらせた。

 

 

『……それに関して、俺は皆さんに言いたい事があります』

 

 

 柔らかさのない凛とした声で言い、キリトは横にいる青銀髪の男に向き直る。その目はモンスターを相手にしている時のそれとほとんど同じ物だった。

 

 

『ゼクシードさん、あんたは言いましたよね。弱い《使い魔》は捨ててしまえって。《使い魔》は使い捨てて、強いものだけを求めていくものだって。そして、《狼竜種》最強は幻想だって』

 

『え? あぁはい、言いましたよ。っていうか、それが一般的ですし、今や《使い魔》は厳選してなんぼだっていうのは、キリトさんもよくわかってるんじゃ』

 

『そうですか。なら俺は、あんたも含めた《ビーストテイマー》全員に言いたい事がある』

 

 

 ゼクシードが「え?」と言うと、キリトはもう一度正面に向き直り、しっかりと背筋を伸ばして拳を握りしめ、力強く言い放った。

 

 

『《狼竜種》最強が幻想なら……《使い魔》は厳選が至上っていう事こそ、幻想です』

 

 

 キリトの言葉がスクリーンの向こうへ響くと、辺りはしんと静まり返った。しかし、動画サイトからのコメントだけはその勢いを止めず、次々右から左へ流れ続けて行っている。が、その中身は「何言ってんだこいつ」「なんだかおかしなことを言い出したぞ」「ゼクシードに対抗するつもりか」などの批判的な内容ばかりだった。

 

 

『……いいえ、別に厳選する事は間違ってません。けど、厳選が最高のやり方というのが幻想だと、俺は言いたいんです。現に俺の《使い魔》は一度も厳選されてない、最初の《使い魔》のままです。その《使い魔》と仲間と力を合わせて、俺は超高難度クエストをクリアしました』

 

 

 そこでキリトは一旦俯いたが、それでもはっきりと聞こえる大きさの声で、言葉を放ち続ける。

 

 

『……知っている人は知っているでしょうけれど、俺の《使い魔》はゼクシードさんが最強ではないと言った《狼竜種》です。ですが、元々俺の《使い魔》は違うゲームで育成していたモンスターであり、このALOにコンバートした際に《狼竜種》となったモンスターでした。

 

 当時、《狼竜種》は最強種と呼ばれていましたが、俺もそれを良く実感していました。こいつと戦えばどんなモンスターも怖くないって思って、そいつとずっと一緒に戦ってきました。けれど、スヴァルトエリアの攻略が中盤に入った頃から、《狼竜種》の強さは他の《使い魔》を下回るようになって、全然勝てなくなってきました。その時には俺も、長年育て続けたこいつを捨てるべきかと、こいつではもう駄目なのかと、不安になりました。

 

 けれど、俺はそいつを捨てようとはどうしても思えませんでした。コンバートする前のゲームで、俺は何度もそいつと力を合わせて戦い、何回も困難を乗り越えました。だから最後までそいつと一緒に居たいと思って、他の《使い魔》を使う気にはなれなかったんです。なんとかして今の《使い魔》のまま戦い続ける方法はないかと、皆さんもよく知ってると思うケットシー領の領主のところに通いつめたりもしました』

 

 

 キリトが淡々と語る度に、シノンの頭の中にはキリトがリランと一緒に過ごしていた時の光景が、水面へ浮かび上がる泡の如く次々とフラッシュバックする。共に力を合わせてボスに挑み、苦難を乗り越えて、あのSAOという呪われしゲームをクリア。そしてその後はALOにコンバートされ、あの時のように肩に力を入れる事なく攻略に行ける事に歓喜しながら、キリトとリランは今の今まで生きてきた。

 

 

『そしたら……俺がここに呼ばれる事になった要因である超高難度クエストに挑んだ時に、奇跡が起こりました。俺の《使い魔》が、クエストの中で進化する事が出来たんです。それが……こいつです』

 

 

 キリトが呟くように言うと、その後方にゼクシードの悪魔の竜の時を上回る大きさの光球が出現し、やがてそれは爆発。辺りを白金色一色に染め上げるほどの閃光がほんの少しの間起こり、それが収まったその時にキリトの背後に現れていた存在に、司会もゼクシードも驚愕した。

 

 全身を白金色の豪勢な鎧と美しい毛並みに包み、狼の輪郭を持ちながらも兜を装着し、人間のそれに酷似した上半身を持ちつつ、前腕が槍とも剣とも似つかない巨大な武器となっている一対の巨腕を肩から生やしていて、先端部がトライデントのようになっている尻尾を持つ、真紅の瞳の狼龍。

 

 アリシャ曰く、《ビーストテイマー》と深い信頼関係を築いた《狼竜種》が、信頼する主人から《神槍グングニル》を与えられる事によって進化し、その場合のみこの世界に存在するようになる、神々しき狼龍《戦神龍ガグンラーズ》の出現に、司会の少女もゼクシードも完全に絶句。

 

 この映像が配信されているであろう動画サイトからの、「なんだこれえええ」「かっけえええええええ」「え!? これどうやんの!?」「こんな《狼竜種》見た事ない」といった混乱と驚き、感動が混ざったコメントが押し寄せてくる事も気にしないで、キリトはそっと現れし自身の《使い魔》に向き直る。

 

 白金色の軍神の鎧を纏う狼龍は(こうべ)を垂れて主人と目を合わせ、主人である少年はその真紅の瞳に自身の姿を映しながら、その頭部を優しく撫で上げる。心地よさを感じたかのように狼龍が息を吐くと、少年は狼龍の頭部に手を添えたまま、もう一度カメラに向き直った。

 

 

『こいつのおかげで、俺は超高難度クエストを突破する事が出来ましたし、こうして《MMOストリーム》という大きな番組に出演する事も出来ました。今こうしてここに俺がいるのは、全部この《使い魔》のおかげなんです。

 もし俺が厳選のためにこいつを手放していたならば、俺は今頃ここにいる事も無ければ、超高難度クエストをクリアする事だって出来なかったでしょう』

 

 

 言い放ったキリトは信頼する《使い魔》、愛する家族の一人でもあるリランと共に、左を見る。動いたカメラがそこで見たモノとは、先程まで自分の《使い魔》を得々と語って、《狼竜種》を最強最強と自分で言っておきながら侮辱するような発言を繰り返したもう一人のゲスト、青銀髪の男ゼクシード。

 

 青銀髪の男は少年の黒色の瞳に睨まれても動じなかった。いや、正確に言えばその背後にいる《使い魔》――自身が侮辱した《狼竜種》の新たなる姿に茫然としてしまって、動く事も出来なければ喋る事だって出来ないのだ。

 

 まるで石像のようになってしまっている青銀髪の男を軽く睨んだ後に、黒き衣装に身を包む少年はカメラに向き直る。

 

 

『多分皆さん、これの入手方法だとかが気になっている頃だと思います。流石にそれを全部明かしてしまうと皆さんの楽しみを削いでしまうと思うので、詳しく言う事は出来ませんけれども、これと同じくらいの強さの《使い魔》に辿り着く方法ならば教える事が出来ますし、是非とも皆さんにそれを実際にやってもらいたいと思っています』

 

 

 全国のスクリーンの前の《ビーストテイマー》達の声とも言わんばかりに、キリトとリランの背後に流れるコメントに「なになに!?」「教えて!」「俺こいつ欲しい!!」などの要望が流れ始める。それに答えるかのように、キリトは続けた。

 

 

『ケットシー領の領主の話によりますと、こいつの進化条件はレジェンダリーウェポンを進化媒体として使用とした事なんだそうですが、それよりも重要な理由は、《使い魔》を捨てたりせずに一匹だけと一緒に居続け、戦い続ける事なんだそうです。

 どのくらいの時間が必要なのかはわかりませんが、百時間や二百時間、一週間や二週間……一ヶ月くらいである可能性もあります』

 

 

 《使い魔》は弱かったら捨ててもっと強いのを求める、弱い《使い魔》と一緒に居続ける事など最も非効率的なやり方であるという、《ビーストテイマー》達の間の流行を一蹴するような進化条件の提示に、流れてくるコメントに「なんだよそれ」「そんな時間ねぇよ」「時間の無駄じゃね?」といったキリトへの批判が並び始める。

 

 確かに、キリトのやっていた事は《ビーストテイマー》達の流行から完全に離れたものであり、傍から見れば異端的、非効率的なやり方だった。それをやれと言っているのだから、コメントが批判で溢れても不思議ではないと、シノンは思った。

 

 見ていなくても批判が次々来ているのがわかるのだろう、キリトはもう一度俯いてから顔を上げ、さらに続けた。

 

 

『確かに、俺のやっていた事は全部非効率的なやり方ですし、信じられなくて当然かもしれません。けれど、俺はそれで強い《使い魔》を手にする事が出来ましたし、普通なら厳選した《使い魔》を使っていなければ倒せないような敵を倒す事だって出来ました。ケットシー領の領主の話では、この《使い魔》は今のところどの《使い魔》よりも強いものなんだそうです。そしてこれはクエストなどには出現せず、《ビーストテイマー》が進化させる事でのみ、このゲームに存在するようになるモンスターでもあるそうです。

 そして……皆さんの使っている《使い魔》の全てが、俺と同じような事をすれば、こいつみたいなとんでもない強さの《使い魔》になる可能性を秘めてもいるそうです』

 

 

 アリシャから教わった事や自身で知った情報などをある程度話してから、キリトはカメラにもう一度向き直り、背筋を伸ばした。同刻、キリトとリランの背後のコメントの流れが一旦停止する。

 

 

『……厳選をするなとは言いません。けれど、もし厳選の末に良い《使い魔》が手に入ったなら、とりあえずその《使い魔》を長い間育て続けて、一緒に居続けてください。

 非効率的なやり方ではありますが、《使い魔》は長い間一緒に居る事で《ビーストテイマー》を信頼するようになり、その信頼を築く事で見つけられるものも沢山ありますし、《ビーストテイマー》と《使い魔》の信頼が、《使い魔》の最強種への進化に繋がるはずなんです。

 《使い魔》は使い捨ての道具でもなければ、ボス狩りの兵器でもない、皆さんが持っている、一緒にこのゲームで遊んでくれる友達、親友、仲間そのものなんです』

 

 

 そこでキリトは一旦リランに向き直り、もう一度その頭部を軽く撫で、その吐息を聞きながら、力強く言った。

 

 

『そして今、ゼクシードさんの否定した《狼竜種》を使っている《ビーストテイマー》の皆さんは、どうかそれを捨てないで、ひとまず使い続けてください。そうすればきっと、強い《使い魔》に乗り換え続けるよりも、ずっと強い《使い魔》に出会う事が出来るはずです。

 厳選したなら、それをずっと使い続けて……手に入れた《使い魔》を仲間だと思って信頼して、使い続けてみてください。どうか……』

 

 

 キリトはリランと一緒にカメラに向き直り、その向こうにいるすべての人に訴えかけるように、頭を下げた。

 

 

『どうか、お願いします』

 

 

 頭を下げつつ放たれたキリトの切望、スクリーンの向こうにいるであろう全ての《ビーストテイマー》に向けられたメッセージ。

 

 プレイヤー達の持論だとか、トッププレイヤー達同士のやりとりなどが基本的にされる《MMOストリーム》、《今週の勝ち組さん》でこのような演説が行われる事など誰も想定していなかったのだろう、キリトの話が終わったその時には司会は勿論、隣のゼクシードも、動画サイトの視聴者からのコメントさえも呆気に取られて言葉を失い、ただキリトをじっと見ている事しか出来なくなっていた。

 

 それはスクリーンの向こうでキリトを見ている、シノンを含めた一同もそうだった。ゼクシードが話している間などは、皆はそれぞれの意見などを独り言のように喋っていたが、キリトが話し始めた頃から食い入るようにその話を聞くだけになっていた。

 

 

 キリトの話が終わった今もそれは続いていたが、やがてそれは一つの音で終わりを告げる事になった。スクリーンの中にいる《MMOストリーム》の司会者であるテクノポップの衣装に全身を包んだ少女が、正気を取り戻したかのように拍手を始めたのだ。

 

 乾いた音が連続して鳴るようになるなり、スクリーン前の一同も同じように拍手を始め、動画サイトからのコメントも「88888888888888888」という拍手を表す文字列でいっぱいになり、その中に「ブラボー!」「めっちゃいい事言われた」などの称賛の声が混ざるようになり、ついには「ゼクシード敗れる」「キリト、ゼクシードを完全論破」「ヒーローは現れた」などゼクシードとの比較意見も混ざり始める。

 

 そして、流れくる拍手コメントが止んだところで、司会の少女が気を取り直したように、いつの間にか椅子に座り直しているキリトへ近付いた。

 

 

『キリトさん、ありがとうございました。ちょっと圧倒されちゃいました……』

 

『すみません、この場はこんな事のために使って良いようなものじゃないのに』

 

『いえいえ。という事はキリトさんの《使い魔》は厳選したモノじゃなく、ずっと一緒に戦ってきた歴戦の仲間だったって事ですね! キリトさんと《使い魔》の絆が、《使い魔》をとっても強くしたなんて、素敵です!』

 

『絆ですか。まぁ、そういう事になるんですかね。けれど、《使い魔》を長く使い続ける事によって、《使い魔》が《ビーストテイマー》を信頼するっていうのは他でも見られてるみたいで――』

 

 

 キリトが言いかけたその時に、キーの高い声による笑いが突然聞こえるようになり、司会もキリトも、リランも驚いたように音の方角へ向き直る。カメラがそこへ移動した時にフレームに入ったのは、何かを嘲笑するように大笑いしているゼクシードだった。

 

 

『キリトさん、確かに良いお話でしたけれどね、そんな非効率的な事してどうするんですかぁ。一週間も一ヶ月も同じ《使い魔》を使い続けるくらいなら、厳選しまくった方がいい奴手に入るんですよ? 現にボクもその(あかつき)にこいつを手に入れたわけですし。それに、その話が本当だっていう確証はあるんですか? ボクのはあるんですけれど』

 

『……』

 

『それに、キリトさんとの信頼とやらで進化したその《使い魔》は本当に強いんですか? キリトさんがその《使い魔》と一緒に討伐したそのボスも、もしかしたら正攻法で挑むと強いけど、攻め方を変えるだけで簡単に勝てるようなボスだったのかもしれないんですよ。《使い魔》との時間が進化を産んで、その《使い魔》がものすごく強いだなんて確証もないのに、演説っぽく言うのはどうなんですかねぇ』

 

 

 嫌味たっぷりなゼクシードの口調に、シノンは歯を食い縛った。あのボスは正攻法で挑んでも、奇策を交えたような戦闘方法でも倒せないような強敵であり、リランの進化が無ければ絶対に倒す事など出来なかった。ゼクシードがこう言っているという事は、こいつはあのクエストに挑んではいないし、どのようなモンスターが出てくるかさえもわかっていない。

 

 そしてこう言うゼクシードの腹の中に《使い魔》を信頼するという気持ちが微塵も存在していない事も、よくわかった。――隣にいるおかげですぐにそれがわかったのだろう、キリトが険しい顔で言い返す。

 

 

『……確かにそうかもしれません。けど、あんたが厳選とやらに使い果たした時間を一匹の《使い魔》と一緒に居る時間にしていたなら、あんたの《使い魔》もこいつくらいになってたかもしれないんですよ。あんたは強さへの近道を進んでるつもりかもしれませんが、本当は遠回りし続けてるかもですよ』

 

『そう言いますか。ならキリトさん、貴方の《使い魔》が本当に強いかどうか、この後ボクとデュエルして実証してみてくださいよ。本当にキリトさんの《使い魔》が、厳選に厳選を重ねたボクの《使い魔》に勝てるくらいに強いのかどうか』

 

『……いいですよ。そこまで言うなら俺もそれに乗りますし、あんたの《使い魔》の強さには興味があります。デュエルしましょう』

 

 

 キリトの眼光に恐れるような素振りを一切見せないゼクシードは、ふふんと笑った。

 

 

『それじゃ、この番組が終わった後の午後十時三十分頃、草原浮島ヴォークリンデの草原地帯。そこでデュエルでいいですよね? 言っておきますが、ボクの《使い魔》はすっごく強いんですよ。それこそ、他の《ビーストテイマー》の皆さんの《使い魔》がデュエルしても、全然ボクの《使い魔》に勝てる人がいないくらい。もしボクの《使い魔》に勝てなかったなら、その時は皆さんに土下座して嘘を謝罪してくださいね』

 

『ならあんたも俺に負けたら、《使い魔》を捨てるような真似をして、他の《ビーストテイマー》の皆を騙すのをやめてくださいね。それに、《Mスト》に来るくらいの《ドラゴンテイマー》であるゼクシードさんの実力も興味深いです』

 

『そうこなくっちゃ。ってな事で皆さん、今日の午後十時三十分、ヴォーグリンデの草原地帯でボクとキリトさんデュエルしますんで、興味ある方は来てくださいね~』

 

 

 相変わらず見ているだけで腹の立つ様子でキリトとデュエルの約束を勝手にしたゼクシードは、カメラに手を振る。「なんだかとんでもない事になったぞ」「ちょっとログインしてみるわ」などのコメントが寄せられるようになったが、シノンはそれに目もくれず、ただゼクシードの事を睨んでいるキリトとリランを見ていた。

 

 

「……キリト、リラン……」

 

 

 




 次回、キリトとリランのコンビが原作から大幅に見せ場の増えたゼクシードとデュエル。そして明かされるとんでもない事柄。

 乞うご期待。





――補足――

・《使い魔》の最大数
 《使い魔》は一人の《ビーストテイマー》につき最大二匹までテイム可能だが、戦わせられるのは一匹だけ。《使い魔》はアイテムボックスに入れる事は出来ないため、既に二匹テイムしている場合はモンスターをテイムする事が出来なくなる。

・《使い魔》のテイムイベント
 モンスターをテイムする際には、テイムするかどうかを選択する画面が表示されるが、これからテイムするモンスターのステータスを確認する事も出来る。

 ゼクシード達の言う厳選をする場合は、常に一匹だけを持っておいてテイムイベントを起こし、テイムするモンスターのステータスを確認し、強い数値を持つモノ手に入ったらそれまでの《使い魔》を捨ててテイムするという方法を繰り返す。

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