キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

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03:女神の計画

          □□□

 

 

「セブンちゃ――んッ、最高だったぜぇ――ッ!!!」

 

 

 エギルの経営する喫茶店 午後九時過ぎ

 

 無精髭の武士らしき恰好の男が大興奮した様子で叫び、その声が喫茶店の中に木霊し、その声に喫茶店に集まる多くの者――キリトを含めた――が顔を(しか)める。

 

 つい先程まで、キリト達は空都ラインのライブ会場に赴き、そこでセブンの開催するコンサートライブに参加していた。

 

 セブンのライブは夜の七時からの開催であり、キリト達がライブ会場に辿り着いた時間は六時五十分だったのだが、その時には既にライブ会場の観客席はその周囲はプレイヤー達でごった返しており、ライブ会場の中心部を見る事さえも困難な状況だった。

 

 まるで軍勢のような人々の間を抜けていき、どうにか中心部を見る事が出来るところまで行ったところで、ライブコンサートを開いた張本人である歌姫セブンは登場。愛らしい声色で集まってくれた人々に感謝の言葉を述べ、会場を大盛り上がりさせてから、先日発売されたばかりの新曲を披露し始めた。

 

 その激しさと愛らしさを含みながらも透き通るような歌声は会場いっぱいに響いていき、集まったプレイヤーの耳の中に確実に入り込み、会場を現実世界のアイドルのライブコンサートと同様に熱狂させた。

 

 その歌を皆と共にキリトも聞いていたのだが、やはり科学者でありながらもアイドルとしての道を選び、その道を突き進む事だけを選んだセブンの歌声というものは素晴らしいもので、普段は――といってもシノンの記憶を取り込んでからだが――激しめの音楽を聞く事がないキリトも、聞き入らざるを得なかった。

 

 

「セブンの歌はいい歌だったけれども……これではっきりしたわね、キリト」

 

「あぁ、セブンはそんな事はしてなかったって事だな」

 

 

 シノンからの言葉を聞き、キリトは頷く。セブンのライブコンサートが終わった時、セブンは集まってくれたプレイヤーに対し、シャムロックがスヴァルトエリアの最終ダンジョンの攻略に行き詰っているから、出来る限り力を貸してやってほしいと頼み込んだのだ。

 

 それまで歌を聞いて熱狂していたプレイヤー達は、突然の頼みごとに驚く事になりはしたものの、すぐさまセブンの頼みごとを呑み込み、熱狂の勢いに任せるような形で承諾の声を一斉に上げ始めたのだった。

 

 そんなセブン率いるシャムロックから、キリト達はダンジョンの攻略の最中に攻撃を受ける事になったのだが、シャムロックの者達の強さはキリト達をかなり下回ったものであり、大して苦労もなくキリト達は返り討ちに成功。

 

 しかも、その後に仲間さえも同じような目に遭ったけれども、いずれもすぐに返り討ちにする事が出来てしまったという報告があったものだから、キリトはセブンがシャムロックの者達に何度も指示を下して洗脳している、もしくは特定の対象を洗脳するスキルを使っているのではないかと模索したのだが、その予想はセブン自らの言葉によって外れる事となったのだった。

 

 セブンは自分達のような攻略ライバルを全力排除せよなんていう命令もしていなければ、無謀でも戦いに挑めという指示もしていなかったのだ。

 

 

「シャムロックの人達は、自分の意思であたし達に挑んできたんですよね」

 

「あの()をスヴァルトエリアの覇者にしたいがため、自分達よりも遥かに強いあたし達に挑んだ、か……なんか魔力的なものを感じるわね」

 

 

 自分と同じくシャムロックの連中と戦う事になったというリーファとリズベットが愚痴をこぼすように言う。日中シャムロックの者達と戦う事になった時、彼らはセブンを崇拝し、セブンをスヴァルトエリアの最初のクリア者にする事が目的であるという事を演説するかの如く喋った。

 

 そしてその最大の障害が自分達であると言って襲い掛かって来て、そのまま返り討ちになってしまったのだ。先程のセブン、シャムロック達の行動によって、その影響力や目的を思い知ったであろうアスナとフィリアが呟くように言う。

 

 

「けれど、それも納得できる気がするね。セブンはあれだけのルックスと支持率を持ってて、プレイヤー達に呼びかけたりもしてるんだもの」

 

「あんなふうに扇動されちゃ、シャムロックの人達もそうじゃない人達も、何でもする気になっちゃうよ。自分の特徴や強みを最大限に利用して人身掌握。まさに小悪魔って感じだね」

 

 

 フィリアの呟きを聞いたそこで、キリトはとある人物を頭の中に思い浮かべた。それは他でもない、SAOの時からの宿敵のようなものであり――今も尚生存して更に厄介な事になっている男。殺人ギルドの《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》の首領であったPoH(プー)だ。

 

 PoHは人心掌握に優れており、その技術を最大限に利用する事によってプレイヤー達を誘って凶悪化させ、《笑う棺桶》を作り上げて何人ものプレイヤーを殺害し、尋常でない勢いでその凶悪なプレイヤーの数を増させていった。

 

 その結果として、自分達攻略組は《笑う棺桶》の討伐を敢行し……当時身体の中に取り込んでしまっていた世界を守ろうとする機構《ホロウアバター》の本能に巻き込まれたっリランの暴走によって《笑う棺桶》は狩り尽くされ、PoHもその時に死亡したとされていた。

 

 だが、PoHは生きていた。それも、《笑う棺桶》以上の脅威となった《壊り逃げ男》の生みの親であり、《壊り逃げ男》事件の元凶であるハンニバルの部下となったという、最悪のケースを迎えて。

 

 

(人心の掌握……)

 

 

 PoHもそうだが、その上司となったハンニバルもまた人心の掌握に優れており、それを利用する事によってPoHのヘッドハンティングに成功したと思われる。そうでなければハンニバルと言えどPoHを配下に置く事など出来なかったはずだ。

 

 そして、それと似たような事をやっているセブン。セブンも一見、科学者として、アイドルとして名を馳せているだけで、それに伴った人望や指示や人気を集めているだけのように見える。

 

 けれども、そのセブンのギルドであるシャムロックの者達は、セブンのためと言って無謀な攻略に挑んだり、明らかに自分達が負ける事が確定している事が簡単に予想できる戦いを起こしてしまっている。本人は意図していないのだろうけれども、結果的にこのような事を起こす事には成功しているのだ。

 

 まさかとは思うが、セブンも《壊り逃げ男》であった須郷伸之/アルベリヒのように、裏でハンニバルが手を貸したりしているのではないのだろうか。もしくは、本当にセブン本人は何も知らないけれども、そこに付け込んでハンニバルが何かをしているのではないのだろうか。

 

 

「……」

 

「キリト?」

 

 

 シノンに声をかけられても、キリトは反応せずに頭の中を回し続け、それに加えて皆の事をぐるりと見回す。この考えはきっと皆に話したとしても、いくらなんでもこじつけ過ぎではないかと言われるのは目に見えている。

 

 話したところで無駄なのだろうし、そもそもこれは自分が勝手に考えている事だから、真実であるとは限らないのだ。――それがわかっていたとしても、アルベリヒとPoHという前例を見ているキリトは、そう思えて仕方が無かった。

 

 そんなふうに考えているキリトを心配したのか、シノンの隣にいるイリスがもう一度声をかけてきたそこで、キリトはようやく応じた。

 

 

「キリト君、どうしたんだい」

 

「何でもないですよ。ただ、セブンが本当に何の指示も出してないのに、シャムロックの連中はあんな事を始めてしまったのかって、思っただけです」

 

「確かに、我らが相手にした者達のやっていた事は全て連中の独断によるものだという事はわかったな。だが、まだ一部の者達とはいえ、シャムロックは内部分裂とやらを始めているのではないのか」

 

 

 険しい顔をしたリランからの言葉にキリトは頷く。セブンの様子を直接見る事で、シャムロックの者達のあの行動がその者達の独断によるものであるという事はわかったけれども、あれらは全てシャムロックの最精鋭であるスメラギの嫌うやり方であり、恐らくセブンさえも望んでいないようなやり方であろう。

 

 そうであるにもかかわらず、シャムロックの者達があのような事を始めているという事は、シャムロックの中で分裂が起きているという事に他ならない。

 

 組織というのは大きくなればなるほどその力を増す傾向にあるけれども、あまりにも多くの人間を抱えてしまうと、内部の人間達が組織の方針を無視したような行動をとり始めてしまう事もある。それが組織の管理者や首領の手でなんとかできる程度のものならばまだいいが、あまりにそれが膨れ上がって、管理者の手でなんとか出来るようなものでなくなってしまうと、組織そのものの死を招いてしまう事だって有り得るのだ。

 

 まだSAOに居た頃、キリトが団長を務めた血盟騎士団も、最終的には百二十人を超える軍勢となっていたし、管理もそれに伴って難しくなったものだ。あの時は全員揃ってデスゲームをクリアして現実世界に帰るという大きな目標があったからこそ、分裂なんて事は起きなかったけれども、もしそうではなかったならば、大きな分裂も起きていたかもしれない。

 

 そうなった場合の時の事を考えると、組織は大きければいいというものではないというのを、キリトは改めて思う。

 

 そんな管理者の手さえも届かない場所があるくらいに巨大な組織となったシャムロックに、ほんの少しの間だけれども所属していたレインが、その口を開いた。

 

 

「そうだね。わたしが居た時はまだ、シャムロックはそんな事は起きないくらいのギルドだったよ。けれど、今はセブンの方針さえも無視して皆が動き始めてる……セブンはこの状況をどう思っているのかな」

 

 

 そう言うレインの顔を見ながら、キリトは「まただ」と思った。今朝もそうだったのだが、レインは今、自分達を相手にしている時にはしないような顔をして話をしている。まるで遠くにいる妹や家族の事を心配している、あるいは慈しんでいる姉のような表情だ。

 

 最近分かった事だけれども、レインはセブンの話をする時や、セブンの身に何か起きた時などに出くわすと、ほぼ確実にこのような顔をする傾向にあり、セブンの身をいつも心配しているような様子を見せる時もある。

 

 どうしてそんな様子になるのか、以前よりかなり気になっているけれども、聞こうとするとレインのその時の顔が頭の中に思い浮かんでしまい、聞く気が失せる。そのせいで未だにその答えを聞けずにいるのだ。

 

 そして今もまた、理由を聞く気にはならないで、キリトはレインに答える。

 

 

「それについては本人に聞いてみるしかないだろう。と言っても今朝あんな事になってたし、ライブコンサートなんてやったわけだから、あの娘が現れるのはいつになるか、想像もつかない――」

 

「プリヴィエート! マスター、いるー!?」

 

 

 キリトの言葉を遮る形で喫茶店の中に飛んできた声に、その場にいる全員で驚く。愛らしさと幼気(いたいけ)さ、麗しさを含んだ少女の声色。それも、つい先程まで聞いていたようなそれに酷似している物だとすぐにわかるようなものだ。

 

 まさかと思って発生源に向き直ってみれば、そこには藍色と青色を基調とした衣装に身を包んだ、銀色の長髪と赤紫色の瞳が特徴的な小柄の少女と、それに付き添うようにしている、白と水色で構成された戦闘服を着こなした、水色の短髪で紫色の瞳をした青年の姿。たった今の会話に出て来ていて、尚且つ先程までライブコンサートを開催していた張本人であるセブンと、シャムロックの最精鋭であるスメラギだった。

 

 

「せ、セブン!?」

 

「えっ、セブンちゃんッ!?」

 

 

 まさか本人が登場してくるとは予想していなかったものだから、セブンのクラスタを自称するクラインに混ざってキリトも声を上げる。その場にいる全員の注目を集めている事から、ファッションモデルにでもなったような気になっているのか、セブンは得意気な様子でキリトの元へと歩いた。

 

 

「あら、キリト君達も揃ってたのね。それも全員。面白い偶然もあったものだわ」

 

「セブン、どうしてここに。君はライブコンサートの後じゃないのか」

 

「勿論その後よ。その後だからこそ、こうやってここに来たわけ。疲れた時はマスターの淹れる飲み物が一番よく効くのよ。というわけでマスター、ホットミルクを頂戴」

 

 

 さらっとエギルに注文をしてキリトの隣にセブンは座る。ほとんど同じタイミングでエギルはスメラギに注文を聞き、「何もいらない」という返事を聞いたそこで、厨房の方へと向かって行った。その直後に、ひときわ強い視線を飛ばしていたクラインが凄まじい勢いでセブンの近くにやってきて、その口を開く。

 

 

「せ、せ、セブンちゃん、まさか、まさか、本物に会えるなんてっ」

 

「あら、貴方はキリト君のお仲間よね」

 

「それだけじゃないですっ、俺は、セブンちゃんの大ファンで、セブンちゃんのクラスタでっ」

 

 

 本物のアイドルに会えた事に感激するしか出来ないでいるファンのようなクラインだったが、突如としてその言葉は止まる事となった。不思議がって目を向けてみれば、セブンを守る騎士のような立ち位置のスメラギが、かなりの眼光でクラインの事を睨みつけているいて、クラインは顔中に冷や汗を浮かべている。

 

 「セブンに気安く近付くな。その首を吹き飛ばすぞ」とでも言っているようなスメラギが放つ、捕食者(キツネ)のような眼光に晒されたクラインは獲物(ウサギ)のように縮こまり、音を立てずにセブンの元を離れて行った。

 

 その眼光の矛先はやがてセブンの隣に座るキリトに向けられる事となったが、強者と結構な回数戦ってきたキリトは何も感じる事無く、軽くスメラギと目を合わせた程度で、すぐにセブンへ目を向け直したのだった。

 

 

「それでセブン、さっきのライブだけど……」

 

「おぉっ? その様子だと、キリト君もあたしのライブに来てくれたみたいね。どうだったかしら、あたしの生歌(なまうた)は」

 

「それはもう良かったよ。周りの皆と同じ気分だったかな。やっぱり君の歌は良い」

 

「でしょでしょ! ま、あたしが生で歌ってるんだから、当然よ!」

 

 

 まるで功績を褒められた子供のように喜ぶセブン。本人はどう思っているのかはわからないし、聞く気もないけれども、如何に天才科学者やアイドルと言われようとも、セブンはまだ十二歳という、功績を褒められれば素直に嬉しさを感じざるを得ない年齢の子供であるというのが、やはりこういう部分でわかる。が、そんなふうに喜んでいたセブンから、すぐさま笑みは消えた。

 

 

「……けど、今日は一人でここに来る事は出来なかったわ。というか、ついに突きとめられちゃった」

 

「……スメラギか」

 

 

 残念そうな顔をするセブンの目線の先にあるのは、ほぼセブンの付き人と言っていいスメラギ。以前よりセブンは誰にも教えないでここに来ていると言っていたけれども、こうしてスメラギと一緒に来たという事は、スメラギに場所を知られた、もしくは白状させられたのだろう。

 

 スメラギはかなりセブンの事をよく見ているみたいだから、いずれにしてもばれる日が来るだろうとは思っていたが、いよいよそれが現実となったのだ。しかし、そんな話をする気にはならず、キリトは早速と言わんばかりにセブンに話を振る。

 

 

「そういえばセブン、君は最近のシャムロックの動向を把握しているのか」

 

「シャムロックの動向? それならしっかり把握してるつもりだけど。というか、自分が率いるギルドの動向を常日頃把握しておくのは、当然の事でしょう」

 

「なら、君の指示や命令なく、シャムロックの連中が俺達に襲い掛かったっていうのは? その話はメンバーから聞いたりしていないのか」

 

「え」

 

 

 一瞬だけ目を見開くセブン。どうやらシャムロックの者達が自分達をターゲットにして襲い来るようになってきているという状況は、ギルド長であるはずのセブンも把握していない事柄であったらしい。それだけシャムロックの者達の動向が分裂的になってきているというのを、そして昼間にシャムロックと交戦した事を、キリトはセブンに話した。

 

 その話の途中で、セブンもスメラギも数回にわたって驚いたような反応を示し、話が終わりに差し掛かった頃には、セブンは申し訳なさそうな顔になる。そしてキリトによる話が終わったその時に、セブンはその顔のまま口を開けた。

 

 

「……そんな事があったのね。皆が頼んでもないのにそんな事をやり始めて……キリト君、それに皆、ごめんなさい。ギルド長としてシャムロックの人達の行動を謝るわ」

 

「いや、別に謝罪してほしくて言ったわけじゃないんだけれど……」

 

「けれど……でもね、キリト君。皆もあたしも、悪い事をしているつもりなんかないのよ。皆が仲良くしてもらいたいっていうのも、何も変わってないの」

 

 

 顔を上げたセブンが、逆に驚いた顔になってしまっているその場の全員を認めた後に、キリトと交代と言わんばかりに話し始める。

 

 

「あたしは何かと茅場博士と比べられる事があるけれども、茅場博士がしていた事とは違うのって、自身を持って言えるわ。それだけは、言える」

 

「セブンはそいつらと違って何も禁則事項を犯していないし、誰かを騙してもいない。そいつらとセブンは違うと、お前達だってわかっているはずだ。ただ、彼女を慕う者の中には、そいつらのような行き過ぎた行動を取ってしまう者もいるというのも事実。その事に関してはこちらの責任だ。申し訳ない」

 

 

 確かにあの時のシャムロックの連中はセブンの動向や指示を無視して自分達に襲い掛かって来たわけであり、セブン自身は誰も騙してはいないし、禁則事項を犯したわけでもない。だが、それらを全てスメラギが知っているというのは不思議に思え、キリトはスメラギに問うた。

 

 

「スメラギは、現実(リアル)でも七色博士の知り合いなのか」

 

「そうよ。あたしの研究仲間で、日本人なの。アメリカまで渡って来て……今はあたしの助手ってところよ。意外かしら」

 

「いや、納得した。だからいつでもスメラギはセブンに近いところに居れるわけか」

 

「そういう事だ」

 

 

 スメラギの返答の後に、セブンが表情を引き締めた。先程のような子供っぽさを感じさせる表情の一切が消えて、如何にも科学者らしいそれになったものだから、キリトも周囲の者も背筋を伸ばした。

 

 

「キリト君。それにキリト君のお仲間の皆……これからもきっとシャムロックの人達が襲ってくる事もあるかもだけど、それを防ぐ方法ならあるわ。あたしのこれからやろうとしている事に協力してほしいの。そうすれば皆もキリト君達を襲うのをやめると思う」

 

「君がこれからやろうとしてる事? そう言えばこの前、《クラウド・ブレイン》とかなんとか言ってたけれど、それの事か」

 

「それよ。それに協力してほしいの」

 

「けれどそれって結局何なんだ」

 

 

 キリトに問われたセブンは一瞬何かを躊躇うような顔をしてキリトから目を逸らし、数秒後に目線を戻す。まるで、これから話す事は出来れば話したくないように思っていると感じられる動作だった。

 

 

「……あたしはこれまでプレイヤー達に呼びかけて、シャムロックを、そしてクラスタというコミュニティを確立してきた。それは心と魂の繋がりであり、一つの目的のために多くの人間が一致団結して邁進(まいしん)しようとする、人間が元来持つ崇高な意志の働きよ。

 社会性を持ち、協力し合う事で生まれる高次元の意志は、ネットワークを介して新たな力を作り出す事が出来る。それが《クラウド・ブレイン》というものよ」

 

 

 クラウドという単語はキリトが何度も聞いた事のあるものだった。クラウドとは英語で群衆を意味する単語であり、これを用いた言葉の中にはクラウドファンディングという、不特定多数の人間が同じく不特定多数の人間にネットワークで呼びかけ、資金の提供や協力を行ってもらう事を意味するものもある。

 

 セブンの言う《クラウド・ブレイン》の仕組みもクラウドファンディングに似ているような気がするが、全くの別物であるというのも同時にわかっていた。

 

 

「そのネットワークを介するっていうのは、どういう事なんだ」

 

「人の脳が持つ演算処理能力をネットワーク上で一つにまとめ上げて、クラウド化して共有する。それでコンピュータのCPUなんかじゃ作り出せないハイスペック且つ情緒的な演算処理システムを構築するって仕組みよ。一昔前の家庭用ゲーム機を複数台繋げてスパコンにするのと同じような感じかしら」

 

 

 そこでキリトは引っかかった。複数の人間の演算処理能力を一つに繋げてしまうというのは、アミュスフィアがあればできる事なのだろう。そしてこのALOには、シャムロックには、セブンの言うように大量の人間が集まっており……事実上《クラウド・ブレイン》を作り出す事が可能な環境となっている。

 

 

「まさか君はその実験を、このALOのスヴァルトエリア攻略中に行おうとしているのか」

 

 




長くなったので二分割。
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