キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

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11:暴かれた記憶Ⅰ

         ◆◆◆

 

 

 目を開けると、そこに広っていたのはアインクラッドじゃなかった。何故なら、アインクラッドはファンタジー世界で、道路もビルもないからだ。なのに今、目の前に広がっているのは小さなビル状の建物が建ち並ぶ商店街のような風景。ちらと見るだけでも、ここがアインクラッドじゃないって事がわかったけれど、どうして私はこんな場所にいるのだろう。いや、そもそもどうやってこんな場所に来たんだろう。

 

 もしかしてゲームがクリアされて、私は現実に帰ってきたのかな。どう見たって現実の世界だけど……なんだろう、どこか懐かしく感じるし、更に言えば人が一切いなくて、静まり返っている。人のいない街なんてありえないし、どう考えたっておかしい。

 

 

「ここは……なに? なんで懐かしく感じるの……」

 

 

 人も車も通らない街を眺めていると、少し遠くから声が聞こえてきた。声に誘われるままそこへ目を向けてみたところ、こっちに歩いてきている二つの人影が確認できた。

 片方は大人の女性で、もう片方は11歳くらいの女の子。仲良くしながら歩いているのが確認できたから、多分親子なんだろう、あの二人は。

 

 だけど妙だ。私は、あの二人の事を知っている気がするし、更に言えばあの女の子がもっと妙だ。服装は桃色の上着と白色のスカートだけど、髪の毛と目の色が私と同じ色なんだ。それにどこか、顔付も私に似ている気がする。

 

 一方女性の方は私に似ているわけでもないけれど、はっきりとした見覚えはあった。けれど、見た事があるって感じるだけで実際誰なのかはわからない。

 

 

 よくわからないけれどどこか気になる親子。その二人がどんどんこっちに近付いてきているのがわかると、胸の中が急にひんやりしてきて、止まらなくなった。あの二人に見られてはいけない、あの二人に見つかってはいけない――そんな気持ちに突き動かされて、私はすぐそばにある路地裏に隠れた。

 

 

「あぁそうだわ、これからちょっと銀行に寄らなきゃなんだけど、詩乃、待ってられる?」

 

 

 母親であろう女性からの声だった。

 詩乃? 詩乃は私の名前だけど、あの女の子の名前も詩乃って言うのかな。というか、なんなのあの女の子は。顔から髪、目の色まで私と同じで、名前も私と同じ詩乃だなんて。

 

 

「大丈夫だよ。ちゃんと本を持ってきたから、おかあさんが終わるまで待ってられるよ」

 

 

 女の子の声だった。本を持ってきたって事は読書が好きな子なのかしら。私も読書するのは好きな方だけど、まさかそこまであの子は同じなの?

 

 二つの足音が大きくなってきた。心臓がドクドクと音を立てて、歪な鼓動を全身に行き渡らせる。その音の大きさは、まるで喉の辺りにまで心臓がせり上がってきたみたいだった。

 

 見られたくない――そう思っているのに、私は親子が通りすぎるのを確認できるであろう路地の隙間から目を離す事が出来なかった。気配を消そうとしても、心臓が激しく動いているせいで、息が荒くなっている。こんなんじゃ、気付かれてしまう。気付かれたら……どうなる?

 

 良くわからない不安に駆られながら、じっと表通りを見つめていると、ついにあの親子の横姿が私の目の中に映し出された。どこかで見たことがあるような気がしてならない女性と、私と同じ名前と特徴を持っている、少し小さな女の子。そのどこか楽しそうな様子を見ていると、大きな音をたてる心臓のせいで熱くなった胸の中が、まるで氷を入れられたように一気に冷えた。

 

 異様な親子は路地裏に隠れる私に気付く事なく通りすぎていった。息が荒くなっていたから気付かれると思ったけれど、そうでもなかったらしい。

 

 

 私は慌てて路地裏から表通りに戻り、あの親子が通って行った方角に目を向けた。親子は表通りを数歩歩いたところで、隣接している建物の中に入って行ったのが見えて、私は慌てたまま追いかけ、その建物の前に辿り着いたところで、身体を建物の方へ向けて、店の看板を見上げた。

 

 緑の背景に白い文字で「真王(しんおう)銀行」と書いてあった。あの女性が言っていた銀行は、この銀行の事を差していたらしい。建物の規模から考えて、あまり大きな銀行でもないみたいだ。

 

 そして、目を看板から自動ドアの方へ向けて、私は思わずぎょっとした。ガラスの自動ドアの向こうに、あの親子の姿がある。

 

 母親の方は窓口で係員と何か話をしていた。恐らく、何らかの書類発行の手続きを行っているだろう。一方娘の方は近くにある椅子に腰を掛けて、母親の手続きが終わるのを待っているように見える。その他の客の姿は確認できないので、あの二人だけが銀行の客として存在している状態のようだ。

 

 

「……」

 

 

 入ったら見つかってしまう。貴方は誰だと疑われて、どうにもならなくなってしまう。――そう思い続ける心に反して、私の身体は銀行の中へと入り込もうと、足を進み始めた。止まって、止まってと心の中で叫んでも身体はいう事を聞かない。そしてそのまま自動ドアの前まで来ると、ガラスで出来たドアは音を出さずに開き、私の身体は私の心に反して銀行の中へと入り込んだ。

 

 普通、銀行に人が入り込めば、係員が『いらっしゃいませ』の一言くらいは言う。だけど、銀行の人は私に向けて何一つ言わず、テーブルに置かれている各自の仕事や、電話などに没頭していた。そればかりか、私が入ってきた事に気付いてすらいないように見える。いったい、どうなっているの。

 

 

「なんで誰も気付かないのよ」

 

 

 あの女性の方に目を向けてみる。女性はずっと係員と話をしながら、ボールペンで紙の必要事項を記入する事に集中している。相変わらず私に気付いている様子はない。

 

 

 一方女の子の方に目を向けてみれば、足をぶらぶらとさせながら本を読んでいた。何の本を読んでいるのか気になって、表紙の方に目を向けてみたけれど、タイトルが削り取られているような感じなっていて、よく確認する事が出来なかった。それでも、見た感じ3文字で、表紙に鹿の絵が書いてあり、尚且つかなり厚い本であるというのがわかった。あれは多分、小説だろう。

 

 そして女性と同じように、私の存在に気付いているような感じはない。本を読む事に夢中になっているのだろうか。

 

 そもそもこの銀行の様子はどこかおかしい。普通、銀行に人が来て何もしていないのであれば、流石に係員が不審に思って声をかける。だけど個々の係員達は私が何もしていないにもかかわらず、ずっと自分の仕事に没頭していて、声の一つもかけてこない。まるで私がいる事をわかっていない、もしくは私の事が見えていないみたいに。いや、もしかしてこの人達は本当に私の事が見えてないのかもしれない……そうでなきゃ、こんなに無視をするはずがない。

 

 

「あの、すみません」

 

 

 思わず係員達の方へ声をかけたその時、私の時には何の音も立てなかった自動ドアが、キィという音を立てて開いた。

 

 誰か入って来たんだろうか、そう思って振り返ってみると、そこには黒い帽子と黒い革のジャンパーを着て、灰色の長ズボンを履き、手にボストンバックを持った、痩せた中年男性の姿が見えた。……けれど、すぐさまその男性の様子がおかしい事に、私は気付いた。

 

 黄色く変色した白目の真ん中で、穴が開いてしまったかのような、大きな黒い瞳孔が激しく動いていて、そのうえ、口元から唾液が流れ出てぽたぽたと床に垂れている。まるでシューティングゲームか、またはそれを題材にした映画とかで出てくるゾンビのようだ。こんなの普通の人間のやる事じゃない――明らかに何らかの異常が彼の中で起きているのがわかる。

 

 

(なんなのよ、あれ)

 

 

 周りに目を向けてみれば、あの女の子も本から目を離してゾンビのような男に目を向けていた。流石に人がゾンビみたいに歩いていたら変だと思うよね。

 

 そう思いながら目を再度男に向け直した直後、男は足早に女性のいる窓口の方へ向かっていった。その時の足音に気付いたのか、女性が振り返って男と目を合わせた瞬間、男はいきなり女性の方に掴みかかり、そのまま突き飛ばした。女性は地面に倒れ込み、「痛っ」という悲鳴を上げた。直後に、私は女の子と合わせて「あっ!」と声を上げる。

 

 

「な、なにを……」

 

 

 女性が言いかけて顔を男に向けた瞬間、男は窓口のカウンターに置いてあった、女性の記入していた紙を下敷きにする形でボストンバックを置き中から黒っぽい何かを取り出した。――それはこの日本では警察や自衛隊以外持つ事が許されていないはずの、拳銃だった。

 

 

 だけど、あれが本物の拳銃であるはずがない。普通の人なら、拳銃を手にする事なんて出来ないはずだもの。

 

 あれは多分、玩具店に売っているようなエアガンやモデルガンの類だ。でもなんでそんなものをここで取り出して、人に向ける……? 脅す事は出来るかもしれないけれど、もしモデルガンだって気が付かれたら捕まる……。

 

 咄嗟に頭の中で考えを回していたところ、それまで何も言う事が無かった男が急に声を張り上げた。

 

 

「こ、こノ鞄ニ金を入レロ、警報ぼタんヲ押スなよォ!?」

 

 

 随分と呂律の回っていない、掠れた声だった。続けて男は喚く。

 

 

「金ダ、かネを入れロ、アるだケ全部ダ! 早クシろぉ!!」

 

 

 その時ようやく、私はあの男が銀行強盗である事に気付いた。そして銀行強盗が、モデルガンで人を脅せるなんて思って、あんなふうに向けるわけがない――あの拳銃は本物だ!

 

 直後、私と同じようにあの拳銃が本物である事を悟った男性局員が札束をテーブルの下の方から取り出して男に差し出した。

 

 男がその札束を局員から奪い取った瞬間、いきなりズドンっという破裂音のような大きな音が鳴って、私は耳と目を塞いだ。耳が痺れて、強い耳鳴りが起きてすぐに止まった。

 

 音が止んだ事に気付いて両耳から手を離し、顔を上げると、それまで男に金を渡していた男性局員がぐらりと倒れ込んだのが見えた。その時、男性局員の手が近くの書類を巻き込んだらしく、多数の書類が宙を舞った。男は興奮した様子で、銃を持つ右手をがたがたと震えさせながら、甲高く叫ぶ。

 

 

「ボ、ぼ、ボタんを押すなっテ言ったダロうがぁ!!」

 

 

 まるで呂律が回っておらず、文字に直せば、平仮名、片仮名、漢字が出鱈目に混ぜ合わされているようなものになるであろう声色だった。もう、あの男はまともじゃないんだってすぐにわかる。

 

 鼻から妙な匂いが感じられる。これは、花火の匂い? いや、火薬の臭いだ。あいつが銃を撃ったからこんな臭いがするんだ。

 続けて男は、男性局員の近くにいる女性局員に銃口を向けて、叫んだ。

 

 

「お、おイお前、こっチニ来て金を詰メろ」

 

 

 女性は軽く手を上げて、首を小さく振るだけで何もしなかった。いや、怯えてしまって何もできないんだ。そりゃそうよ、あんなふうに拳銃を向けられてしまえば、誰だって怯えて動けなくなる。

 

 多分、ここの職員の人達は銀行強盗に対する訓練をしていたのかもしれないけれど、拳銃を持った銀行強盗なんかに出くわせば、そんな訓練の成果なんて全然出せなくなる。寧ろ、訓練通りの行動をとれる人の方が数少ないだろう。そしてそんな人はこの場にはいない。あの女性局員も、怯えて動けなくなるタイプの人だ。

 

 

「早くしロ! 早くシネェと、もう一人、もうヒトリ、撃ツぞォ!!?」

 

 

 男は身体を半回転させて、客のいるスペースに銃を向けた。そしてその銃口の先にいたのは、あの子の母親である女性だった。

 

 女性は何が起きているのかよくわかっていないような顔をしていたけれど、すぐさま女の子の方へ顔を向けて、これ以上ないくらいに大きな声で叫んだ。

 

 

「詩乃、逃げてぇッ!!!」

 

 

 女性の声が頭の中に響いた瞬間、いきなり視点が変わった。目の前にあの女性と、銃を持った狂人の姿が見える。背が小さくなったように感じたけれど、これはあの女の子の視点? 私はあの女の子に乗り移ったの? いや、そんな事はどうでもいい。

 

 あの女性は大切な人、そしてあの狂人はその銃で女性を撃ち抜こうとしている。そんなの絶対に許さない。

 

 ――私があの人を守らないと。頭と心の中に声が響き渡り、その声は私の身体を突き動かした。

 

 私は手に持っていた本を放り投げて一目散に男へ走り、男の銃を持つ手に思い切り噛み付いた。あまり鋭くないはずなのに、私の歯は力強く男の手に食い込み、男は驚愕したような声を上げて、私の身体を振り回した。

 

 

 そのうち、私の口は男の手から外れて、身体に何かにぶつかったような鈍い痛みと衝撃が走った。近くにあったサービスカウンターに激突してしまったみたいだけど、私はもうそんな事さえも気にならなかった。

 

 あいつは私の身体と一緒に、切り札である銃も手放していた。そしてその銃は今、私の目の前に転がって来ていた。これを失えば、あいつだってそこら辺の人間となんら変わらない。

 

 

 私は無我夢中であいつの切り札を拾い上げた。ずっしりと両腕に響いてくるような重さと、あの狂人が握っていた際に付着した手汗と熱で、まるで生き物を抱えているような気分になった。だけど、それと同時に私はある事に気付いた。

 

 あいつはこの銃で局員を撃って、動きを止めた。あいつと同じ事をあいつにやってやれば、あの女性を狙うあいつの動きを止められるはず――その事に気付いた私は見よう見まねで拳銃を構えて、男に向けた。直後、男は発狂したような咆哮を上げて私に飛びかかってきた。

 

 

 狂人の身体が覆い被された事により、身体に重さがかけられて、視界がうす暗くなり、顔に悪臭を放つ息が、耳に奇声が、腕に握り締められる痛みが襲い掛かってくる。文字通りもみくちゃにされてしまってわけがわからなくなりそうだったけれど、指が上手く銃の引き金に引っかかっている事だけはわかって、私は咄嗟に引き金を引いた。

 

 

 ズドンッという猛烈な音が耳に鳴り響いて耳鳴りに変わり、両手から腕、そして肩へ強い衝撃がかかった。空気が熱くなって、顔にむわっとかかる。

 

 多分こんな銃を11歳の私がまともに使えるわけがない。こんな銃を撃った暁には、その反動エネルギーに肩をやられるだろう。けれど、この狂人が寸前に私の手から銃へと手を移していたおかげで、反動エネルギーのほぼ全てが狂人の手に吸い込まれ、私はなんともなかった。

 

 

 その直後に男は「グぇ」という奇妙な声を上げて私からよろよろと後退した。男の、黒いジャンパーの腹部に赤黒い円が素早く広がっていくのが見えて、男は必死になってそこを抑えつけている。その指の間から、毒々しい血が一筋流れていた。腹の中の太い血管を、やられたんだ。

 

 

 動きが、止まった……? そう思ったのも束の間、男は腹から手を離して、もう一度私に襲い掛かってきた。男の、毒々しい赤色に染まった手が見えて、傷口から何かが飛んできて手にかかったのを感じ取った瞬間腹の底から震えが来て、すぐさま両腕に伝達されて、私はがたつく指でもう一度引き金を引いた。

 

 

 もう一度ズドンという炸裂音が鳴り響き、反動エネルギーを受けた銃は思い切り跳ね上がって、私の肘と両肩に強い痛みを与えた直後に私の身体を引っ張り、カウンターの壁に激突させた。鈍い衝撃と痛みが全身を駆け巡り、息が詰まる。

 

 意識をしっかりさせて目の前に視線を送れば、そこには今度こそ倒れ込んでしまった狂人の姿があった。そして更によく見てみてみれば、狂人の背後にある壁に小さな風穴が空いていて、更に狂人の肩に同じような形の穴が開き、血が流れ出ていた。銃弾は狂人に命中した後に壁に突き刺さったらしい。

 

 

 今度こそやった? そう思った瞬間に男は発狂しきった怒りの声を上げて立ち上がろうとした。

 そんな、まだやる気だなんて――一気に顔が青ざめてしまったのが自分でわかり、胸の中の心臓がもう一度強く脈打ち始める。

 

 こいつをここで止めないと、女性も私も、ここにいる全員この狂人に殺されてしまう。本当に、こいつを止めないと……!!

 

 

 そう心の中で唱えた直後に、男は血に塗れた手を私に向けて伸ばしてきた。心の中が一気に恐怖と恐慌でいっぱいになって――破裂した。

 

 

「嫌ぁぁッ!!」

 

 

 恐怖の破裂と一緒に、私は引き金を引いていた。3度目の破裂音が銀行内に木霊し、衝撃で私の身体はもう一度サービスカウンターに叩き付けられた。背中に強い衝撃が走り、息が詰まったと同時に吐き出された。

 

 

「ぼふっ、ごほっ」

 

 

 激しく咳き込んでいても、あの狂人の声は聞こえないし、何も来ない。

 急に静かになった狂人の方へ目を向けてみれば、狂人の額に風穴があいていて、動かなくなっていた――そう思ったすぐ後に、狂人はどたっと音を立てて床に倒れ込んだ。そしてそのまま……動かなくなった。

 

 

 やった。

 ついにやった。

 ついにあの狂人を止める事が出来た。

 大切な人を、守る事が出来た。

 

 

 強い安堵が心の中に満たされて、恐怖も恐慌も姿を消した。

 やったよ、悪い奴を倒したんだよ――そう思ってあの女性に目を向けて、その顔を確認した。

 

 女性の顔には驚愕して、何がなんだかわからなくなっているような、目の前の現実が信じられなくなっているかのような表情が浮かんでいた。

 

 

 何で、何でそんな顔をしているの。私は悪い事なんかしてないのに、何でそんな顔をしているの。私の身体がなんだかおかしいの?

 確認するために、私は顔を落とした。

 

 両手に赤黒い血がべったりと付いていて、赤黒く染められた両手で、私は拳銃のグリップをしっかりと握っていた。

 そして、目の前には頭に風穴を開けた男が一人倒れている。

 

 

「あ……」

 

 

 自分のやった事がわかって、叫ぼうとした次の瞬間に、女性が立ち上がって、私の身体を思い切り抱き締めて、大きな声を出して泣き始めた。

 

 その声を聞いた瞬間に、また視点が変わった。いや、戻ったと言った方が正しいのかもしれない。

 

 その証拠に、目の前にあの女の子が、手を血塗れにして銃を握っている女の子が座り込みながら、女性に抱き締められてボーッとしている光景が見える。

 

 

 違う。女の子じゃない。

 

 あの女の子は他人じゃない。

 

 あの女の子は、私だ。11歳の時の、私だ。

 

 そして私を抱き締めているのは、私のおかあさんだ。

 

 

 両手を見つめてみると、赤黒い血で毒々しく染まっていた。

 そうだ、これが私の手だ。()()()()()()だ。

 

 全部思い出した。

 

 私は、

 

 私は、

 

 銃で人を殺したんだ――。

 




原作との相違点

1:詩乃と母親が訪れたのが郵便局ではなく銀行になっている。

2:詩乃の母親が精神年齢逆行を起こしていない。

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