キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

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ある人の思いが発覚する。そして長くなったので二分割。


12:実験の終わりと従者の想い

          □□□

 

 

 苦戦となった《白の女神龍》との戦いを終え、それが墜落して行った場所にキリト達は降下した。《白の女神龍》が敗北して墜落した時には、大量のガラス片のようなポリゴン片が巻き散らかされ、《白の女神龍》は消滅して行った。

 

 そして今、それが居た場所には力を失ったように座り込んでいる、元の少女の姿を取り戻したセブンの姿があった。

 

 変異をした時には大幅にセブンの姿は変わってしまい、衣服なども失われたように見えたが、今のセブンにはすべて戻って来ており、《白の女神龍》に変異する前の姿そのものとなっていた。だが、セブンは顔が見えないくらいに俯いてしまっており、身動き一つ取らないで居る。

 

 そんなセブンへキリトが声をかけようとその時に、セブンはかっと顔を上げ、自分の顔がその泣き顔であるという事を周囲に知らしめた。

 

 

「どうしてなの? どうして駄目なのッ!? みんな、みんなあたしの事好きだって、応援してくれるって言ったじゃない!! コンセプトだってくれたじゃないッ!!」

 

「……」

 

「キリト君達はどうしてあたしの邪魔をするの!? 酷いよ! 酷いよぉッ!! こんなの酷いよぉぉッ!」

 

 

 これまで大人顔負けの大人っぽさと科学者らしさ、子供っぽさが複雑に混ざり合った合成物(アマルガム)のような雰囲気こそがセブンの持つモノだったが、今のセブンは大人っぽさの欠片もなく、ただ子供らしさを全開にして泣き散らしているだけだ。

 

 これまで見る事のなかったセブンの一面――十二歳の子供らしさ――が浮き出ているその様子にキリトが何も言葉をかけられずにいると、レインが一歩踏み出して、セブンに寄り添った。

 

 

「あんたさ……自分を大人に見せて勝手に正当化してばかりかと思ってたけど、そうやってちゃんと……泣く事が出来たんだね」

 

「へっ……?」

 

「あんたはずっと、大人達に囲まれて、世間に担がれて、話題の的にされて……振り回されてるうちに、乗った波から降りられなくなっただけなんだよね……?」

 

 

 レインの問いかけを受けても、セブンは嗚咽を返すだけだった。しかしレインは何も答えがなくとも、ぺたん座りをしているセブンに寄り添い、膝立ちのままゆっくりとその手を広げ、ふんわりとセブンの小さな身体を抱き締めた。

 

 

「ほら、無理をしていないでお姉さんの胸でお泣き。しばらく貸しててあげるから、ね?」

 

 

 妹を思いやり、慈しむ姉の声色でレインが静かに言うと、セブンはレインの胸の中に顔を埋め、そのまま大きな声を出して泣き始めた。その泣き声と様子には、天才科学者であるセブンというものは存在しておらず、あるのは七色・アルシャーピンと言う一人の少女の本当の姿と言えるもの。

 

 セブン/七色は天才科学者と言われ、女神と崇められ、アイドルと騒がれるうちに、周りの大人達に取り囲まれてしまって、そのまま逃げる事が出来なくなり、何も本当の事が言えなくなってしまっていただけだったのだ。

 

 周りの大人達の期待を裏切る事も出来ず、寧ろ裏切ってしまう事を過度に恐れてしまうようになって、自分の身体に何度も鞭を打ち無茶をして、実験や活動を繰り返すようになってしまっていたというのが、この七色・アルシャーピンという一人の少女の真実。

 

 それを理解するなり、キリトは安堵の気持ちを感じながら、深呼吸に近しい溜息吐いた。

 

 

「やれやれ、二人はちゃんと姉妹だったって事か」

 

「そうね。語り合う必要なんて最初からなかったって事なのかもしれないわ」

 

「うむ。我も弟一人と妹三人を持っているからよくわかるぞ。姉妹や姉弟は下手に語り合わなくとも、通じ合うものなのだ」

 

 

 キリトと同じように安堵しているシノンと、何かに深く納得しているかのようなリラン。二人だけではなく、この場にいる全員が目の前の光景に深く安堵しているような様子を見せている。

 

 レインの事情を聞いてから、キリトはレインとセブンがちゃんと接する事が出来るかどうかについて一種の不安を感じていたけれども、どうやらそれは皆も同じだったようで、目の前で繰り広げられるレインとセブンのやりとりを見て安心してようだ。

 

 

「キリト君、皆――!」

 

 

 そんな皆と一緒に目の前で姉妹らしい様子を見せている二人を眺めていると、後方から呼び声がしてきて、皆と一緒になって振り向く。そこにあったのは闇の空間の如し大部屋の入り口から走ってくる二つの人影。白いコート状の衣装を身に纏った黒髪の女性と、白と青を基調とした戦闘服に身を包んだ水色の短髪の長身男性。

 

 この決戦の場にはいなかった自分達の仲間であるイリスと、先程キリトとのデュエルをしてから移動する様子を見せていなかったシャムロックの最精鋭であるスメラギだ。

 

 

「イリスさん、それにスメラギも」

 

 

 二人は入口から走ってキリトの元へと駆け付け、立ち止まったイリスは早速と言わんばかりにキリトに声をかける。

 

 

「キリト君、遅れてすまなかった。出来れば早く追いつきたかったんだけど、どうも色々と立て込んでいてね」

 

「そんなに無理して来なくても大丈夫でしたよ。なんとかなりました」

 

 

 キリトにそう言われると、イリスはある一点に注目する。それは勿論、一人の赤髪の少女が銀髪の小さな少女の身体を抱き締め、その顔を自らの胸に埋めさせてやっているという、姉妹さながらの光景。これまでのその二人からは想像も出来ないようなそれを目にしたイリスは深く溜息を吐き、その顔に微笑みを浮かべる。

 

 

「……どうやら君達、セブンとの戦いに決着を付けられたみたいだね。そしてセブンの計画というものを頓挫(とんざ)させてしまった……という事か」

 

「いえ、セブンの実験結果はまだ……」

 

 

 キリトがそう言うなり、イリスによって開発されて、今はキリトの娘となっているユイとその妹であるストレアが傍までやってきた。ユイに至っては何かのウインドウを開き、その中身を閲覧し続けている。

 

 

「パパ、今現在のシャムロックやセブンさんのクラスタの人達の様子の映像を見ているんですが、羽飾りを通して流されているここの光景に、皆さん呆然としているようです」

 

「途中からかなりのカオス展開になってたからね。クラスタやシャムロックの人達の高まってた感情も白けただろうし、実験は失敗に終わっちゃったんじゃないかなぁ」

 

 

 確かに考えてみれば、突然セブンが《白の女神龍》となって自分達と戦いを始め、理解できそうにないような攻撃を何度も繰り出し続け、最終的に自分達に敗れて、レインの胸元に泣き付いているなんていう、非常に混沌とした展開がかなりの速度で織り成された。実際にセブンと戦い、全てを実体験した自分達でなければ、この展開を理解する事は難しいだろう。

 

 だが、確実に言える事は、セブンのやっていた実験と計画は今この時を持って失敗に終わったという事だ。キリトがそれを改めて実感していると、イリスと共に部屋に入ってきた青年スメラギが近付いてきた。

 

 自分よりも高い位置にあるスメラギの紫色の瞳を見つめると、スメラギは驚きの表情を浮かべながら、その口を開いた。

 

 

「キリト……お前は……」

 

「……残念だけど、セブンは俺達の手で止めさせてもらったよ。お前達がやろうとしていた計画と実験は、失敗に終わった」

 

「……そうか」

 

 

 非常に厳格な様子を見せているためわかりにくかったけれども、スメラギの表情の中には本気でセブンを思いやっている、セブンの事を心の底から応援していると言うのがわかる暖かさがしっかりと含まれていた。

 

 そんなスメラギが心から応援するセブンの実験を失敗させてしまった事に、キリトは少しだけ罪悪感に似た気持ちを抱いたが、それを口にするよりも前にスメラギが表情を戻し、泣き止み始めたセブンの元へと静かに歩き出し、その場に寄り添う腰を落としていく。その事に気付いたのだろう、セブンがレインの胸から顔を離し、傍に来ている右腕科学者と目を合わせた。

 

 

「……スメ、ラギ、くん……」

 

 

 呼ばれてもスメラギは何も答えない。信頼と応援をしているセブンに何も言わないだなんてどうしたのだろうか。そう思ったキリトが声を発そうとしたその瞬間に、スメラギは音を出さないで立ち上がり、そのまま虚空を見上げる。

 

 

「――シャムロックの最精鋭のスメラギだ。シャムロックの者達にクラスタの者達、全員聴け!」

 

 

 突然大きな声を出したスメラギに全員で驚き、そこから目を離す事も、言葉を発する事も出来なくなる。空間にもう一度静寂が取り戻された事を感じ取ったかのように、スメラギは再度言葉を紡ぎ始めた。

 

 

「今お前達が見ている映像はとても信じられないものだろう。だが、これこそがセブンの、七色・アルシャーピンと言う一人の少女の真の姿だ。どんなに親しい俺達にさえも見せなかった、七色博士の本当の有り(よう)なのだ。

 俺達シャムロックは、そしてクラスタの者達はセブンを女神と呼称し、崇拝し、その期待に応えるべくして様々な事をやってきた。膨大な時間を費やしてきた。きっとこれを見ている者の中には、何百時間もセブンのために使った者もいるだろう。それは全てセブンというたった一人の、このALOに舞い降りた女神の期待に応えるためだったはずだ」

 

 

 そこでスメラギは一旦言葉を区切り、姉とは知らない少女の胸から顔を離しているセブンへと向き直ったが、すぐさま虚空へ視線を戻し、再度言葉を紡ぎ続けた。

 

 

「だが、七色博士は……セブンは決して天から舞い降りてきた女神などではない。俺達と同じ人間だ。所詮俺達と同じ人間でしかないのだ。しかも俺達よりも小さな子供なんだ。

 俺達はセブンの期待に応えるべく色々やったが、それと同時にセブンもまた、俺達の期待に応えるために身を粉にし、自分の身体に鞭を打ち続けていたのだ。何百人、何千人もの俺達の期待に、たった一人で応えようとしていたんだ」

 

 

 確かにこれまで見てきたシャムロックとクラスタの者達は、セブンのために日々様々な事を行い、ライブを行えば必ず参加して声援を送り、苦労してアイテムをセブンに与えたりなど、自分の持っている時間を積極的にセブンに捧げてきた。まるで本当に人々のために天から舞い降りてきた女神を崇拝するかのように。

 

 セブンはただの人間の身でありながら女神のように崇拝され、信奉され、挙句その信奉者達の期待というものに、何百万ものファンという名のモンスターにたった一人で戦い続けなければならない状況に晒され続けたのだ。

 

 かつてクラスタであったけれども、スメラギから話を聞く今この時までそう思う事さえなかったのだろう、クラインがか細い声を出してスメラギを眺めていた。スメラギの話は更に続けられる。

 

 

「……シャムロック、クラスタの皆。セブンに熱狂するなとは言わない。セブンの事を応援するなとも言わない。批判をしたければするがいい。けれども、セブンは何百万人もの俺達の相手をしながら、身を粉にして自らの研究も進め続けていたのだ。たった一人で、戦い続けていたんだ。

 だからせめて、セブンの事をもっと(いた)わってやってくれ。その苦労や負担が肩代わりできるものならば、そうしてやってくれ。もっとセブンの事を……大事にしてやってくれないか。どうか……頼む」

 

 

 そう言ってスメラギは言葉を終わらせる。

 

 これまでシャムロックの最精鋭として戦い続け、幾多の《ビーストテイマー》達を打ち破ってきた最強の《ビーストテイマー》が、頭を下げて周りの者達に懇願(こんがん)しているという状況。今この時まで見てきたスメラギからは想像も出来ないようなその行動と言葉。

 

 それらによって織り成される目の前の光景にキリトは呆気に取られてしまっていたが、その中でスメラギの横に並んだものの第一声を聞く事によって我に返る。スメラギの隣に並んだのは、先程から自分と同様に呆気に取られていた、セブンのクラスタであったクラインだ。

 

 

「お、オレもあんた達と同じ、セブンちゃんのクラスタだ。それで、オレもこの人と同意見だぜ。確かにセブンちゃんは可愛いし、歌は上手いし、やってる事は偉大だしで、本当に女神様や天使ちゃんみたいなもんだよ。けれどよ、セブンちゃんは神様でも天使でもなんでもねぇ、この人が言ってるようにオレ達と同じ、人間なんだよ。傷付きもするし疲れもする人間なんだ」

 

 

 途中でクラインはどこか悔しそうな表情を浮かべつつ、歯を食い縛った。まるで自分の行いを後悔しているかのような風貌に、ずっとクラインを見てきた者達全員で注目する。

 

 

「なのにオレ達と来たらセブンちゃんを女神扱いして、いらない期待ばっか寄せて、いらねえ仕事をいくつも作っちまって、無理と期待を押し付けるような事を続けちまってた。そのせいでセブンちゃんはくたくただしぼろぼろだ。

 オレ達クラスタがやらなきゃいけねえ事はセブンちゃんをぼろぼろにする事じゃなくて、セブンちゃんが倒れそうになってたら支えてやって、必要なら休ませてやる事のはずだろ?」

 

 

 クラインの言葉はより強くはっきりとしたものとなっていく。これまで見た事がないくらいに誠実さと力強さを持った雰囲気を、クラインは(かも)し出していた。

 

「だからこれからはオレ達クラスタで、これまでと同じようにセブンちゃんを応援しながら、セブンちゃんの事を支えてやろうぜ。それがオレ達クラスタが本当にやるべき事のはずだ。頼むぜ、オレと同じクラスタの皆!!」

 

 

 力強く言い放ち、スメラギの時と同様頭を下げるクライン。まさかあのクラインがこのような事を言って頭を下げるとは予想出来ていなかったようで、スメラギを除く全員が呆然としてクラインの事を見ている事しか出来なかった。

 

 だが、その中でキリトはクラスタとシャムロックのこれまでの行いとセブンの真実を照らし合わせる事で、如何にセブンに余計な負担が掛けられていた事を把握出来た。

 

 これまでシャムロックとクラスタのやっていた事は、セブンのためとは口ばかり、全て独善的なモノばかりで、セブンの心に本当に届いているのはほとんどなかった。それがこのような結果を招いたのだから、クラスタもシャムロックの連中も反省して、自分達のセブンに対する気持ちややり方などを改める事となっただろう。

 

 しかし、シャムロックの最精鋭であるスメラギならばともかく、クラインの言葉は他のシャムロックやクラスタ達の耳に届いているのだろうか。キリトが聞こうとするよりも前に、ユイが答えを返してきた。

 

 

「クラインさんが、シャムロックとクラスタの皆さんを更に呆然とさせてます」

 

「という事は、クラインの声は届いてるって事か」

 

「届いてるっていうか、クラスタとシャムロックの皆が受信してる映像に映ってるよ。けれどいきなりすぎてよくわかってないみたい」

 

 

 ストレアが困ったような顔をして言うが、キリトはそれでもいいと思った。クラインの行っている事は何も間違ってはいないし、何よりクラインというクラスタの一人からこう言われているのだから、きっとシャムロックやクラスタの者達全員に言葉は行き届いているはず。スメラギとクラインの伝えたかった事は、しっかりと伝わっている事だろうし、これから現実に変わっていくだろう。

 

 キリトがそんな気を感じている一方で、最初にクラスタとシャムロックの者達に語りかけたスメラギが、きょとんとしてしまっているセブンへと歩み寄った。見上げて目を合わせたセブンが小さくその名を呼ぶと、スメラギはもう一度腰を落として目の高さをほぼセブンと同じにし、その口を開いた。

 

 

「セブン、今まで本当に悪かった。俺はお前の近くに居ながら、お前を支えてやるような事もせず、研究とアイドルとしての活動に身体の事も考えずに熱中するお前を、傍観している事しかしていなかった。他の者達と同じようにお前に一方的に期待を寄せて、お前の現状を知ろうともしていなかった……」

 

「……」

 

 

 そこでスメラギはそっと手を伸ばし、そのまま静かにセブンの頭頂部へ置く。まるで小さな妹に手を差し伸べる兄のような、もしくは娘を愛でる父親のような雰囲気が漂い、セブンもレインもきょとんとする。

 

 

「けれどセブン、お前は本当によくやった。《クラウド・ブレイン》計画は失敗したが、お前の研究は間違いなく人類の未来への貢献が出来ている。お前は紛れもない功労者であり、偉大なる科学者だ。俺はそんなおまえの傍に居れている事を、お前の右腕になれている事を、心の底から誇りに思う」

 

 

 そうして、スメラギの顔に穏やかな笑みが浮かぶ。

 

 

「今までずっと、よく頑張ったな。偉いぞ、七色」

 

 

 これまでとは想像も出来ないような優しげな声色で言葉をかけながら、スメラギはそっとセブンの頭を撫でた。理解する事に時間がかかっているのか、セブンはずっとスメラギの事を見ているだけだったが、そのうちかけられた言葉の意味を心の中に落し込めたのだろう、目元から大粒の涙を流し始めた。

 

 それから間もなく、セブンは涙で顔中をぐちゃぐちゃにして、そのままスメラギの胸の中に飛び込み、再び大きな声を出して泣き始めた。その時にはスメラギもあまりに突然の事に驚いた様子を見せていたが、すぐに落ち着きを取り戻し、胸元にいる偉大な少女に手を差し伸べて、優しくその身体を抱き締めたのだった。

 

 更に見る事が出来た、スメラギの意外な一面。セブンの従者でありながら、セブンの事をしっかりと顧みているという証拠。それが広がる目の前に皆でもう一度釘付けになったが、やがてキリトの隣にいるイリスが深い安堵の溜息を吐き、シノンが安心しきったような顔をする。

 

 

「なぁんだ。スメラギ君もあぁいう事がしっかりできるんじゃないか。そして、まともな事をちゃんと考える事が出来ていたんじゃないか」

 

「これで一件落着ってところね。これを見てる連中は訳が分からなそうだけれども」

 

「そうだな。何がともあれ、これで……」

 

 

 キリトが口にしようとした次の瞬間、その頭の中にある言葉が浮かび上がる。先程の泣きじゃくっていた時のセブンの言葉だ。取り乱していた部分もあったからこそ出て来たのだろうけれども、セブンは「コンセプトをもらった」と言っていた。セブン程の人物を動かすほどのコンセプトを、誰かが提示して、それをセブンが遂行していたという事実。

 

 その中身がどのようなもので、そして提示者が誰なのか、キリトはすぐさま予想する事が出来、セブンへと向き直る。きっとこのチャンスを逃せば、その内容を確かめる事は出来なくなるだろう。

 

 聞くならば今しかない――そう頭の中で呟いてセブンの元へ向かったその時丁度、スメラギの胸元で泣き付いていたセブンは落ち着きを取り戻し、その身体から離れる。

 

 それから数回嗚咽をした後にレインへと身体ごと向き直って来たものだから、キリトも思わず足を止めた。

 

 

「……レイン、その、ありがとう……なんだかんだ言ってあたしは、貴方に助けられてる……」

 

「ううん、わたしこそごめん。身の程も考えないで怒鳴り散らしたりして……」

 

「そんな事無いよ。貴方が怒ってくれなかったら、あたしは暴れてただけだったと思うから。けれど何で、貴方はここまであたしに言ってくれたり、こういう事をしてくれたりするの」

 

「……!」

 

 

 ついにその瞬間が来た。セブンは知らないがレインが知っている、セブン/七色・アルシャーピンの真実。それを話したいがために、レインはここまで自分達と一緒に突き進み、セブンとも戦ったのだ。

 

 ずっとレインの胸の中で暖められ続けていた、セブンに伝えなければならない事。それを伝えるという事柄が実現するその瞬間の兆しを目の当たりにして、キリトは完全に立ち止まる。しかし、レインは場の空気に同調するかのように黙り込んでしまい、口を閉ざしたまま動く事さえなくなる。

 

 今この場の映像は全てシャムロックやクラスタの者達に流されているという、一種の中継生放送現場のようになっている。そして今からレインが言い出すであろう事はセブンの人生観そのものを変え、シャムロックとクラスタの者達が腰を抜かし、ニュースが埋め尽くしてしまうくらいの重大な情報だ。このような場に居てしまっているからこそ、レインは緊張してしまって言えなくなっているのだろうか。

 

 

 けれど、今言わなかったら、今度いつセブンに出会えるかわからなくなってしまう。今を逃してしまったら――結論を出す前にキリトがレインの元へ行こうとしたその時。レインは胸元に手を添え、呼吸を治そうとしているかのような仕草をしてから、意を決したようにセブンと自らの目をしっかり合わせた。

 

 

「あのね、セブン。ううん、()()。こんな事を話したところで信じてもらえないかもしれないけれど……わたしとセブン。ううん、七色はわたしの――」

 

 


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