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キリトの提案を受けて、私達は血盟騎士団の本部に赴き、アスナを探したけれど、どれだけ隈なく探しても、アスナを見つけ出す事は出来なかった。一体どこにいるのか気になって、近くの団員に尋ねてみたところ、アスナは本部を出てこの層の街に出かけていると聞いた。
何だ、最初から街を探せばよかったじゃないかというリランの呟きを耳にした後に、私達は本部を出て街を探し回った。そしてそこで、ようやくアスナに出会う事が出来た。
私は早速弓矢の事をアスナに教えて、更に鍛冶屋がどこかにいないかを尋ねた。
するとアスナは丁度鍛冶屋のところへ武器の研磨を頼みに行くところだったらしく、丁度いいから一緒に行こうと言ってくれた。私はそれに賛成してアスナに付いていこうとしたけれど、その時にアスナが、キリトとリランには付いてこないでほしいと言って二人を跳ね除けてしまった。
一体どうして二人が抜ける必要があるのかと私が尋ねる前に、キリトとリランは「54層に戻って攻略を進めておく」と言ってそそくさと私達のもとを去って行ってしまい、私はアスナと二人きりになってしまった。アスナはリランにすごく懐いていて、リランと沢山話をしたいんじゃないかと思っていたから、アスナの言動はどこか不思議に思えた。
どうしてリランと話をしないのだろうと考えていると、アスナは私を連れて本部のある層を離れ、48層の街に転移した。なんでも、この街の一角に、アスナの親友である鍛冶屋がいるらしい。鍛冶屋っていうから男の人がやっているのかと思っていたけれど、私達と同い年くらいの女の子だとアスナから聞かされたものだから、驚いてしまった。
アスナみたいな凄まじい剣士が、実は料理スキルをマスターしていたり、剣技の時点でもうかなり強いキリトが、リランっていう更に強い相棒を持っていたり、男の人がやるような鍛冶の仕事を私達と同じ年の女の子がやっていたりと、この世界のプレイヤー達は奇想天外なのが多い事を、私は改めて思い知ったような気がした。
そして、その鍛冶屋が女の子だと聞いて、どこか安心したような気も感じた。鍛冶屋の人がむさ苦しい男の人だったら、ちょっと嫌だなと思っていたから。そしてその女の子がどんな子なのか考えながら、街中を歩いていたその時に、アスナが声をかけてきた。
「ねぇシノン、聞きたい事があるんだけど……」
「なによ、改まって。もしかしてリランの事かしら」
「ううん、リランの事じゃなくて、その飼い主っていうか、キリト君の事についてよ」
「キリトについて? 何か気になった事でもあったの」
アスナはどこかぎこちなく言った。
「その……単刀直入に聞くようで悪いんだけど、キリト君とシノンってどういう関係なのかなって思って。ほら、貴方達って同じ家で暮らしているじゃない。その……どういう関係っていうか、どういう事があってああいう事になってるのかなって思って」
あぁそうか。アスナは私がキリトとどういう関係なのか、知らないんだった。
ん?
っていうか私とキリトって一緒に暮らしてて、それでもお互いが好き……これって……。
考えていたら、私は顔が思いきり熱くなったのを感じた。多分、顔がかなり赤くなってると思う。私達は、私とキリトは一般的に言う、恋人関係だ。
キリトとずっと一緒に居たからあまり自覚していなかったけれど、私達はいつの間にか恋人同士になってたんだ。
キリトやその《使い魔》であるリランには、キリトが恋人であるって話せる。だけどアスナや他のプレイヤー達に話そうとすると、恥ずかしさや気難しさが心の中から胸の中いっぱいに込み上げて来て、言えなくなってしまう。
とりあえずアスナにはキリトと恋人同士になったなんて言わないけれど……それでもキリトと一緒だったらばれるだろうなぁ。
もういい。とにかく今は同居人って言っておこう。多分後々ばれるだろうけれど、その時はその時でいいんだ。
「キリトとはただの同居人よ。ほら、私は最初からこのゲームの中に居たわけじゃないから、熟練者のキリトと一緒に居るのよ。そうすれば、生存率を少しでもあげられるからね」
「つまり、キリト君とはそんなに特別関係じゃないって事ね?」
「そのとおりよ。あいつなんてすごく朴念仁で、何考えてるのか全然わからなくて困るわ。だけどその強さは信頼できるものだから、一緒に居るだけ。あいつと一緒に居る、っていうか一緒に戦ってくれるっていう代わりに、私はあいつに料理を作ってやってるのよ」
アスナは「ふぅん」と言った後に目の前の道路に目を向けた。
「でも、キリト君は優しくていい人よ。リランをあんなふうに使おうとした私ですら、最初から何事もなかったかのようにしてくれたし、その行いとかを許してくれたから」
「……そうね。
アスナの顔がこっちに向いた。
「シノンはどうなの。キリト君の事とか好きだったりする」
言われて思わずぎょっとし、アスナの顔を見つめてしまった。キリトの事が好きで、キリトとはもう恋人同士なんだって悟られないようにしようとしていたのに、早速尋ねられるなんて思ってもみなかった。
どう答えよう。流石にいきなりキリトの事が好きだなんていうわけにはいかないし、というかアスナの事だから、私の事を既に気付いているかもしれないけれど。
っていうか私……色々あの人に言ってはいるけれど、面と向かって好きだって言った事ない気がする。私に好きって言われたら、あの人はどんな反応をするのかな、いや、どんなふうに受け取ってくれるのかな。
だけど、これらの事もアスナに話すべきじゃない。
「馬鹿を言わないで。あの人……あいつは単にお人よしなだけよ。好きとかそんなふうには思ってない。だから、そんな事聞かれたって面白い反応とか出来ないわ」
「そうなんだ。シノンがずっとキリト君のところにいるから、てっきりキリト君の事が好きなんじゃないかって思ってたんだけど……まぁいいわ」
やっぱり見抜かれてる。
というか当然よね、歳が近い男女が同じ屋根の下でずっと長い間暮らしていたら、恋人か夫婦だと思うのが自然だ。でも本当に私がキリトの恋人である事には気付いていないみたいだから、ひとまず誤魔化せたみたい。
「ところでアスナは最近どうなの。キリトに時折リランを貸してほしいなんて言ってたけれど」
「あぁそれね。リランとはあの時結構話をしたからしばらくはいいかなって思ってたのよ。だけど、やっぱりリランに聞いてもらいたい話は沢山あるから、そろそろ借りたいかな」
アスナはやはりリランの事が気に入っているらしい。多分その関係でキリトにも興味を持っていたとか、そんな感じなんだろうな。
いや、まさかとは思うけれどアスナにも私みたいな気持ちが……?
「だからもう少ししたら、キリト君のところに行こうと思うんだけど、シノンの方は大丈夫? リランが居なくなると困る事とか、ある?」
アスナの言葉で我に返り、私はアスナの顔を再度見直した。アスナの顔は純粋無垢というか、キリトの事とかを考えているようなものではなかった。アスナがキリトを好きでいるなんて事は、私の思い違いだろう。何考えてんだか。
そう言えばキリトは近頃攻略ばかりに勤しんでいて、まるで休んでいない。そろそろノーリランデー……休暇が必要なはずだ。
「別にリランが居なくなって困る事なんかないし、そもそもリランがあんたのところに行くときは、キリトは休暇を取る事になっているからね。あいつも散々攻略に勤しんでいるから、そろそろ休ませてやらないといけないわ。休みなしで戦い続けたら、いつかあの時のあんたみたいになりかねないからね」
アスナがどこか不安そうな顔をする。
「確かに、あの時はリランの助けが無かったらって考えたらぞっとするわ。あんな事にキリト君がなったら、それこそ大問題だし、私は凄く悲しい。だからそんなふうにならないために、キリト君も休みを取った方がいいわ。攻略が遅れるだとか、そういうのは動ける私達が何とかするから」
そうだ。キリトはとりあえず休んだ方がいいんだ。今までずっと一人で戦い続けて、リランと私が加わってもなお戦い続けているんだから。そろそろゆっくり休まないと、持たなくなってしまうだろう。
「帰ったら無理にでもキリトを休ませるとするわ。それで、あんたのところにリランを行かせましょう。でもひとまずは、鍛冶屋に行かないとね」
アスナは目の前にもう一度顔を向けた。風景はいつの間に圏内ではあるものの、街外れになっている。話している間に住宅街とかから抜けちゃったみたい。
そして目の前にぽつんと、水車が備えられている煙突付きの一軒家が確認できた。
「あれが私の親友が経営してる鍛冶屋だよ。名前はすっごく単純に『リズベット武具店』」
リズベット武具店。すごく安直で単純な名前だとは思うけれど、分かりやすく感じた。そしてリズベットっていうのがアスナの親友の名前なのかしら。
「リズベット武具店? っていう事はリズベットがアスナの親友の名前?」
「そうよ。話しやすい子だからすぐに打ち解けられると思う。ほら、早く行きましょうシノン。私もシノンの弓を強化したらどんなものが出来るか興味あるわ」
アスナはいきなり私の腕を掴んで走り出した。とくに抵抗しないまま走り続けて武具店の中に入り込んだところでアスナは私の腕を離した。入って最初に見えてきたのは部屋中に陳列された長剣や両手斧の数々だった。
現実も店ならば、入った時に金属の独特な匂いがしてくるものだろうけれど、そういう設定をしていないのか、私の嗅覚センサーは全くと言っていいほど反応をしなかった。そしてアスナがごめんくださいと一声かけると、直後に店の奥から人が出てきた。
赤を基調としたスカート付きの服に白いエプロンを身に付けた、少し癖がかかった明るい桃色の髪の毛の女の子だった。歳は私達とさほど変わらないように見えたので、私はその女の子こそが、アスナの言う親友のリズベットだとすぐに理解した。
「いらっしゃいアスナ。って、そっちの見慣れない人は?」
アスナはにっこりと笑って私とリズベットを交互に見つめた。
「今日はリズに紹介したい人がいて、来たのよ。新しく出来た私の友達でね」
リズベットと目が合った。そもそも私はアスナと友達になった覚えはないけれど、アスナの中ではもう私は友達らしい。まぁアスナはいい人だってわかったから、友達であっても悪い気はしない。いや、むしろ心地よい。そしてアスナは、武器を見るのと同時にリズベットに私を紹介したかったみたいだ。
「初めまして。私はシノン」
「よろしく。あたしはリズベット。この店――」
「リズベット武具店だっけ。鍛冶屋をやっているそうじゃない」
リズベットがきょとんとしてアスナの方に顔を向けた。私がリズベットが鍛冶屋である事を既に知っていた事に少し驚いたらしい。
「何だ知ってるんだ。っていうか、アスナが教えたんでしょう」
「いいじゃないの。リズは腕の立つ鍛冶屋なんだから、鍛冶屋って紹介されて悪い気はしないでしょう」
「まぁそうだけどさ。っていうか意外ね、アスナにあたし以外の友達が出来るなんて」
アスナの眉が寄った。
「ちょっと何よその言い方は。まるで私が友達作るの下手くそみたいじゃない」
「いや、だってそうじゃないの。実際あんただってここ最近まで迷宮攻略ばっか考えているような顔してたじゃない。だけど最近はそんな事もなくなって、なんか余裕で満ち溢れてるような感じになったわね」
リズベットとアスナの会話は本当に穏やかなものだと思った。きっとリズベットはアスナがあんなふうになってた時でも、アスナの傍にいる事を、アスナの友達である事を忘れたりしなかったんだ。そして、アスナが迷宮攻略ばかりを考えなくなった理由はリランにあるんだけど、リズベットがリランを見たらどんな反応をするのかな。その辺りはどうでもいいか。
だけど、アスナにもちゃんとした仲間がいてよかった。ちょっと入り込み辛く感じるけれど。
「最近はすごくいい事があったし、何よりとてもいい人に出会ったのよ」
リズベットの顔にからかうような笑顔が浮かび上がる。
「おぉ!? もしかして彼氏が出来たとか!? その彼氏のおかげで迷宮攻略が全てじゃなくなったとか!?」
アスナは顔を赤くして首を横に振った。
「そんなんじゃないわよ! 出会ったのは女の人! すごく話を分かってくれる女の人! その人に出会ったおかげで、迷宮攻略が全てじゃないってわかったのよ」
リズベットがどこか残念そうな顔をした。多分アスナに彼氏が出来たと思って胸が躍ったんだろう。
そしてアスナが今女の人に出会ったって言ってたけれど、リランはあれでも《Female》、つまり雌。だから女性と言っても差し支えない。……姿は人間じゃないけれど。
やがて、リズベットは両手を腰に当てて、どこか安心したような表情を顔に浮かべた。
「まぁよかったじゃないの。あんたと来たら寝ても覚めても迷宮攻略みたいな顔で、張り詰めすぎじゃないかって思ってたくらいだからさ。あんたの雰囲気が柔らかくなってよかったと思うわ」
リズベットの顔が私に向けられる。
「あんたも、迷宮攻略がメインじゃなくなった余裕綽々のアスナに惹かれて、友達になったの?」
そういうわけじゃないけれど……でも今のアスナはかなりいい雰囲気を放っているから、そう言ってもあながち間違っていないのかもしれない。
「そうじゃないって言ったら嘘になるわ。だけど、前からアスナはどこか放っておけないところがあったっていうか。それで友達になったのよ。リズベットもそうでしょう」
「まぁね。それにいくらアスナが迷宮攻略が全てな人じゃなくなったとしても、放っておけないのは変わらないからね」
アスナは顔をまた赤くして、私とリズベットを交互に見た。
「もう二人して私を手間のかかる人みたいに言ってー!」
いや、実際アスナは手間のかかる人だと思う。もしあの時リランがアスナの心を開かなかったら、今でも閃光のアスナは生存していただろうし、下手したら迷宮攻略の最中に死んでいたかもしれない。閃光のアスナを消したリランとキリト、そしてそんなアスナと友達で居続けていたリズベットは本当に大手柄だわ。
直後、リズベットは何かに気付いたように言った。
「あぁそうだ。アスナ、ランベントライトの方はどう? この前研磨したばっかりだから、耐久値はそこまで減ってないでしょ」
「うん。私の方はリズが作ってくれた上に、何度も研磨してくれてるから大丈夫よ。やっぱりリズの作ってくれたものは違うわ」
思わず驚いてアスナの腰に携えられている細剣に目を向けた。あの剣はリズベットが作った剣だったんだ。道理で店屋では見ないなと思ったわけだわ。そんな私に、リズベットは顔を向けて、不思議な笑顔を見せる。
「まぁ知ってのとおり、あたしは鍛冶屋をやってる。もし武器を見てもらいたいとか、研磨してもらいたい、強化してもらいたいとか思ったら、色々やってあげられるわよ。その様子だと、あんただって攻略を進めているプレイヤーみたいだしね」
「そういうのわかるんだ」
「わかるわよ。これでも沢山の攻略組プレイヤー達の武器を見たり強化したりしてるからね。どんなプレイヤーが攻略に赴いていて、どんなプレイヤーがそうじゃないのか、一目見るだけでわかるわ。それで、シノンは前者」
私の身体を見るだけで、攻略に赴いているプレイヤーかどうかわかるなんて、流石は鍛冶屋というべきなのかしら。
「それじゃあ見てもらいたい装備があるんだけど、いいかしら」
「いいわよ」
私はリズベットの許可を受けた後にアイテムウインドウを呼び出し、自動出現したはいいけれど使い物にならない白い弓を召喚し、リズベットに見せつけた。リズベットは白い弓を見て目を丸くした後に、驚きが混ざったような声を出した。
「ちょ、なにこれ、弓?」
「そうよ。これが私の武器なんだけど……」
「確かに強化カタログに弓っていうのがあって、これ何なんだろうなとは思ってた。だけど使える人が現れないからどうなってんのかなって思ってたわけだけど……あんたが使い手だったのね、シノン」
やっぱり今まで弓矢使いが現れた事はなかったらしい。必然的に私が最初の弓使いで、リズベットが初めて弓を取り扱う瞬間だろう。
そう思っていると、リズベットはいつの間にか弓の詳細情報が書かれたウインドウを呼び出して、情報を閲覧していた。
「ホワイト・ボウ。実物は初めて見る物だけれど……如何せん攻撃力がかなり低くて使い物にならないわね。これは要強化だわ」
「強化できるの?」
「勿論。その代わり素材が必要になるけれどね」
リズベットは右手の人差し指を動かして、私達が標準的に使っているウインドウとは違うウインドウを呼び出して、目を頻りに動かした。
「人狼の爪、人狼の大牙、蜥蜴人の鎧、大蜘蛛の糸。これらアイテムを3つずつ用意すれば、この弓を54層以降でも通じるくらいの強さに出来るわ」
人狼の爪と大牙、蜥蜴人の鎧と大蜘蛛の糸。所謂モンスターがドロップする素材アイテムだけど、私はその名前に聞き覚えというか、見覚えというか、とにかく覚えがあって、すぐさまアイテムウインドウを開いた。
確かキリトと一緒にレベリングをしていた時に、そんな名前のモンスターと沢山戦って、売れるほど素材を手に入れたような……そう思っていた直後に、リズベットが言った素材が全て揃っている事が確認できた。しかもその量はリズベットが要求した三倍くらいの量だ。
「あったわ。素材全部ある」
「えぇっ、最初から集めてきてたわけ?」
「うん。結構モンスターと戦って来たしね。これいいかしら?」
私はそう言って、アイテムウインドウの送信ボックスにリズベットが要求した素材を全て入れて、リズベットに送信した。素材を受け取ったリズベットはウインドウを開いて、中身を確認してすぐに閉じた。
「本当だわ、全部揃ってる。これなら今からでも強化できるけれど……シノンはどうしたい。強化するなら普通にお金を取るわよ」
「最初からそのつもりだったけれど? 強化できるなら強化して。お金の心配なら、大丈夫だから」
リズベットは少しきょとんとして「あら、そう」と言い、店の奥の方に身体を向けた。
「それじゃあ付いてきてよ。工房で強化するから」
「わかったわ」
リズベットが動き出そうとした次の瞬間に、アスナがリズベットと私に声をかけた。
「あ、そうだリズにシノン。強化が終わったら街に行って三人でお茶しない? 三人でいろいろな事を話したいのよ」
リズベットはアスナに頷いた。
「それ賛成だわ。あたしもシノンの事とかもっとよく知りたいし。っていうかまぁ、弓についてだけどね」
弓については私自身もよく理解して無いんだけれど、もしかしたらリズベットの何かしら情報を持っているかもしれない。それになんだろう、たとえリズベットがそういう情報を持っていなかったとしても、リズベットやアスナとじっくり話がしたいという気が私の中に起きている。久しぶりに出来た本当の友達に、色んな事を話したいっていう、これまで出てこなかった欲求が今、鮮明なくらいよく出てきているような気も感じる。
「シノンはどう? これから予定とか入ってる?」
「……付き合うわ。これが終わったら三人で街に行って、お茶会をしましょう」
アスナとリズベットはにっと笑ってくれた。本当に久しぶりに見た、真っ新で濁りのない笑顔だった。