実は似ている者達。
◇◇◇
俺達はプレミアのクエストを終えて、ひとまず家に戻っていた。
そこで散らばっていた皆をもう一度集めて、作戦会議も兼ねて一連の出来事を話しはしたものの、皆の驚きがしばらく止まなかった。何せ、あのジェネシスの許にもう一人の女神と呼ぶべき、プレミアの双子の姉妹が渡ってしまっていたという状況が生まれてしまっているのだから。皆が驚いてしまうのも無理はなかった。
それだけではなく、その双子の姉妹はプレイヤーを、人間を強く憎悪し、報復をするためにアインクラッド創世を望んでいる事までわかってしまったのだから余計に悪い。
他のNPC達と様子の違うプレミアは、プレイヤー達にレアモブ扱いされて命を狙われる事もあった。彼女が何か重要な役割を持っていると判断してからは、俺達の手で保護する事にした。それからプレミアが命を狙われるような事は無くなり、声掛けする者自体も居なくなった。
けれども、俺達はもう一人の存在に気付く事が出来ずにいた。誰にも守られる事の無かったもう一人の方は、レアモブ扱いされるがまま命を狙われ続けた。その末に他のプレイヤー達の事など微塵も考えもしないジェネシスのところに行ってしまったのだから、もう一人の女神と呼ぶべき双子が抱く人間への憎悪は、仕方がないものと言うしかなかった。
そもそもジェネシスに拾われたのが一番悪いという結論を皆が出したがっていたようだが、こればかりはジェネシスだけを咎めれば済むような問題ではなかった。最悪の要素が積み重なりまくったうえで、今の状態は成り立っていた。
しかし、光明がないわけではない。ジェネシスの行動がどうなるかはわからない。だが、きっとあいつはプレミアのクエストを進めるために打って出るはずだし、プレミアのグラウンドクエストを一応大詰めまで進めた俺達のところにも、グラウンドクエストに関連する何らかの情報や要素が舞い込んでくるはずだ。それに、最近解放したオルトラム城砦にも、何かグラウンドクエストに関連するようなものが眠っているかもしれない。それらを巡っていけば、もう一人の女神を連れまわすジェネシスと出会う事になるだろう。
ひとまずはグラウンドクエストに関連していそうな情報がないかどうかをフィールドを探索して探し、もしその中でジェネシスに出くわしたら、今度こそあいつを止め、もう一人の女神を俺達の許に保護し、グラウンドクエストを完全に頓挫させる。
そのためにまずは人海戦術で探索する――という、結局のところいつも通りの作戦を立て、敢行を決定。皆はフィールドへ――その多くがオルトラム城砦へ――向かっていったのだった。カーディナルの厄災を、ここまで進めてしまった俺達の手で止めるために。
俺もその気で居たが、家に帰ってきた後もログインし続けていたイリスに呼び止められ、俺とシノンの二人で家に残る事になったのだった。
「さてさてさーて、随分と
俺とシノンが並んで座る椅子とテーブル越しのところにイリスは座っていた。ジェネシスとプレミアの双子の姉妹についての話は皆に話した時にイリスも聞いていたのだが、その中で彼女は何も言わずに黙っているだけだった。ようやく言葉を出したのは、俺とシノンを呼び止めた時だった。
「プレミアに双子が居ただなんて、全く考えても居ませんでした。その双子の様子は……」
「聞いた。人間をひどく憎悪してるって話だね」
「……はい」
あのプレミアの双子の少女がアインクラッド創世の理由を語っていた時の表情は、本心を話している時のものだった。あの少女の中に積もる人間への怒りと憎悪は本物だ。
それをその目でしかと見てきたシノンが、俯き加減で問いかける。
「その原因を作ったのは、私達プレイヤーなんでしょうか。あの娘はどうして、あんなに……」
イリスはテーブルの上に置いてあるカップを手に取り、中身を啜るようにして飲んだ。俺達にも出されているそれの中を満たしているのは紅茶だった。《SAO》の時からイリスが飲んでいる飲み物であるそれは、《SA:O》にも当然存在していた。
「……そういえば《はじまりの街》に行くと、時折レアモブがどうだの、レアモブを見かけただのの話をしている連中を見つけたりもしたもんだが……彼女は連中から狙われ続けていたんだね、私達の見ていない間に。今までずっとそうなってたんなら、そりゃあ人間が憎くもなるもんだ。保護してやれなかったのが悔やまれるよ」
イリスの意見には賛成だった。
きっと彼女もプレミアと同じように、最初は何もなかったのだ。いや、もしかしたらプレミアよりも強い感情や人間性を最初から持ち合わせていたのかもしれない。だが、その中に人間への怒りや憎悪などは含まれていなかったはずだ。
もし彼女がプレミアの時のように危害を加えない者達に保護され、接していれば、あんな怒りも憎悪も抱く事は無かったのだ。彼女の中に怒りと憎悪という名のドス黒い泥を沈殿させて、彼女の心を
それを口にしようとした時に、先に口を開けたのはシノンだった。
「……私、なんだかあの娘の気持ちがわかるような気がします」
俺もイリスも反応を示し、二人でシノンに向き直る。シノンは華奢な手を自分の胸元に添えた。
「私も、イリス――
シノン/詩乃は詩乃が何も悪くないはずの事件に巻き込まれてから、ずっと周りの者達から虐げられてきた。それがどれだけ凄惨で、どれだけ詩乃の心と精神を苦しめたのか、そのせいで詩乃がどれ程苦しくて辛い思いをしてきたのか、俺は嫌というほどわかる。《SAO》で彼女と本当の意味で繋がり、何もかもを知る事になったのだから。
そして今でも詩乃は、その事件によるPTSDと、心無い周りの者達の虐げによる後遺症を患ったままになっている。だからこそ彼女はイリスの許に行き、治療を受ける事になったのだ。
「もし私があの時、愛莉先生に出会う事もなくて、治療を受ける事もなくて、皆に会う事もなくて、和人に会う事もなかったのなら……私は今でも心を閉ざしてて、もしかしたらあの娘みたいに周りの人々を勝手に憎んだり、報復したいと思ったりしたのかもしれません」
言われてみれば、詩乃とあの娘の境遇はよく似ている。詩乃もあの娘も、周りの理解の無い人間達に虐げられ、誰の助けも得られず、誰に守られず、誰も信用できないような醜い環境に置かれ続けていた。
詩乃は本当に人間が信じられなくなり、心が歪み切ってしまう前に愛莉と俺達のところに来れたおかげでそうならずに済んだが、あの娘はそうなれなかった。詩乃とあの娘は、光と影だった。
「だから私、あの娘の思ってる事が、あの娘の苦しみがわかる気がします。一人ぼっちにされて、誰にも助けてもらえないでいるあの娘の気持ちが……」
イリスはじっとシノンの事を見つめていたが、やがて安堵したように溜息を吐いた。そのまま若干の微笑みを浮かべて、再度シノンを見つめる。
「……そうだね。君達の話を聞く限りのプレミアの双子と、私の診てきた詩乃はよく似ているよ。あの娘と君の境遇はほとんど同じだと言えるだろう。そんなあの娘に共感できるだけじゃなく、敵意を持ったりしないとは。……君は優しくなったね、シノン」
シノンは静かに瞳を閉じた。声なくイリスに礼を言っているのだ。
確かにイリスの治療を受けてから、俺達に出会ってから、俺が一生掛けて守ると誓ってからというもの、シノンの心は随分と豊かになり――本来の彼女自体がそうなのだが――、優しさを持つようになった。その証拠に、シノンはこちらに敵意を剥き出しにしているプレミアの双子について、明確な敵対心は持ち合わせていない。彼女がここまでの状態になれたのは、イリスがちゃんと治療を施したおかげなのだろう。勿論その中に俺達の功績もしっかりと入っているはずだ。
「今のあの娘にとって、世界は冷たい氷の場所だ。そんなところにあの娘を置いておくわけにはいかないし、君達もそんなつもりは無いはずだ」
「はい。ここまであの娘の状態を深刻にしてしまったのは俺達の責任でもあります。だから、あの娘を何としてでも保護して、もう大丈夫だと言ってあげたいです」
思っている事を口にすると、シノンも同じように頷いてくれた。
あの娘は人との繋がりを全て断たれ、迫害され、命を狙われ、酷い目に遭い続けてきた。そんなあの娘を寒い世界から救い出し、人との繋がりをしっかりと持たせてやりたい、傷付けられたあの娘の傷を癒してやりたい。シノンにそうしてきているように、皆と力を合わせて、あの娘の事を助けてやりたいというのが、俺の気持ちだった。
「私も同じ気持ちだ。あの娘はプレミアと同じで、豊かな人間性を獲得するに至っているし、本来プレミアと同じで清らかな心を持った娘なんだ。本当はそうしてしまった連中にやらせるべきなんだけど、穢されてしまったあの娘の心を
俺とシノンはもう一度頷いた。この世界に住まう者達を傷付け、穢すのが俺達プレイヤーなのだとしたら、この世界に住まう者達を慈しみ、愛し、清めるのもまたプレイヤーがやらなければならない事だ。世界を傷付けたまま、穢したままにしておいてはいけない。
もう一度皆が集まった時、話さなければ――改めて心に決めた直後に、イリスはテーブルに肘を付いた。
「それにしても、まさか開発段階の穴を突かれてしまうなんてね。このゲームの開発会社に在籍してる時に、セキュリティ強化を勝手でもやっておくべきだった」
ジェネシスがプレミアの双子の少女を連れてクエストを進めていると話した時、皆がある事を気にした。どうしてジェネシスが俺達のやっているクエストを横取りできているのか。普通ならば、そのクエストを進めているプレイヤーに与している者達くらいにしか出来ない途中参加が、どうしてジェネシスが出来ているのか。誰もがその事を疑問に思っていた。
その説明はユイとユピテルがしてくれた。このゲームではプレイヤーがクエストを進める際、クエストNPCが一番最初にそのプレイヤーのIDを記録する。これによってそのクエストNPCはそのプレイヤーを雇い主と認識し、雇い主以外のプレイヤーがクエストを勝手に進めてしまえないようにする。このシステムがあるからこそ、俺達プレイヤーは誰かに邪魔される事を恐れたりせず、気楽にクエストを進める事が出来るのだ。
しかしプレミアの場合は違った。プレミアは全ての設定が《Null》であったために、誰でもクエストを受けられるようになってしまっており、横入りも途中参加もしていい事になってしまっていた。
それだけではない。プレミアのクエストはグラウンドクエストという、ゲームの根幹に根差している大事なクエスト、何度もテストを繰り返す必要のあるクエストだ。他のクエストのように雇い主の記録などを行って、テスターの誰もが出来ないようにしてしまっていたら、開発にどれ程の手間や時間がかかるかわかったものではない。
だからこそ、普通のクエストに実装されている雇い主の記録はされず、誰もがいつでもクエストを進めれるようになっていたのだろう。こればかりはゲームを開発するうえで仕方のない事だ。
それをジェネシスが知っていたかは定かではないが、まんまと抜け道として利用されてしまった。システムの抜け道を使ってグラウンドクエストに途中参加してしまったジェネシスが、グラウンドクエストを面白がり、最後まで成し遂げるつもりでいるのは確かだった。
その様子を見てきたシノンは、苛立ったように言った。
「ジェネシス……なんでよりによってあいつが途中で入ってくるのよ。何のつもりでクエストを進めようと思ってるわけ」
「俺達への嫌がらせってだけじゃなさそうだ。きっとあいつは、常にトッププレイヤーで居たいっていうタイプのプレイヤーだよ。ランキング上位をやたら目指すプレイヤーみたいな、な」
ジェネシスが掴んだのは、まだ実装されていないはずのグラウンドクエスト。誰も知らないその存在をいち早く知り、攻略する事が出来るというのだから、喰い付かないわけがない。未実装のはずのクエストを最初にクリアしたという偉業を成し遂げてトップに居続けるために、ジェネシスはあんなに躍起になっているのだろう。
俺に返事するように、イリスが続ける。
「トップであり続けるために、どんな手段でも使う人みたいだね、彼は。トップに誰も寄せ付けないために、デジタルドラッグやチートといった強引な手段もガンガン使っているんだろう」
俺はその言葉に思わず反応し、驚いた。ジェネシスがデジタルドラッグを使っているだって。
「イリスさん、ジェネシスの事がわかるんですか」
「いや。ただ、彼が戦闘中に突然狂暴化して強くなるっていう、君達と情報屋から聞いた話を照らし合わせると、どうしてもデジタルドラッグを使っているっていう結論に辿り着いちゃうのさ。決め手は君達がこの前戦ったっていう異様な集団の特徴を聞いた事だ。デジタルドラッグを使っていた連中とジェネシスのケースは似すぎている。ジェネシスも使ってるよ、《クリムゾン・ハイ》を」
直後に、イリスは俺に目を向けてきた。時折出てくる事のある、鋭い眼光だった。
「……そんなものを使ってまで、彼は最強であろうとしている。あそこまで強さにこだわる彼の気持ちが、君はちょっとくらいわかるんじゃないかな、キリト君」
シノンが驚いたように俺の事を見てくるが、目を向け返す余裕はなかった。
イリスの言った事は、図星だった。
俺も《SAO》に閉じ込められて居た頃、リランと出会って《ビーストテイマー》になり、シノンと出会うまでは基本ソロプレイで、いつだって独りよがりの効率重視の攻略を進めてきた。その時は、この《SAO》という極限環境のデスゲームを生き延びるため、最後まで生き延びるためならば仕方がないと思っていたけれども、それは今考えれば言い訳でしかない。
ソロで戦う俺の中には、この《SAO》というVRMMOで最強でありたいという独善的な気持ちも確かにあったのだ。《SAO》最強の剣士キリトになりたいという願望が存在していたからこそ、俺はソロプレイを敢行していた――今ならばそう思える。
「……わかります。俺もシノンとリランに会うまで、独善的な事ばかりやってました。その中で、《SAO》で最強になりたいって思ってなかったわけじゃありません。レベリングに励んでた理由だって、生き残るためと思っていましたけれど……今思えば、誰よりも強くなって、強い奴だと思われる事を望んでいたんだ。現実の俺は弱かったから、せめてVRMMOで最強になりたい……そう思ってたんだ」
イリスはうんうんと頷き、視線を俺から天井の方へ向けた。だが、彼女の目に天井は映っていなかった。
「それは誰でも思う事だね。この仮想世界は基本的に自由だ。現実世界じゃ叶わないような事も平然と叶えてしまえる。だから誰もが躍起になるのさ。現実世界で駄目なら、仮想世界でトップになってみせようってね。
……現実で叶えられない願いを仮想世界で叶えてしまおうってね」
そう言うイリスの瞳はどこか哀愁を含んだものだった。《ALO》に行ったあたりからだろうか、イリスは時折こんな目をする時がある。しかし滅多に見られるものではないうえに、したとしてもすぐに戻るから、どうして彼女がこんな目をするのかはあまり気にしていなかった。その気にされない目つきを元のそれに戻し、イリスは再度口を開けた。
「ジェネシスも大方そのクチだろう。この《SA:O》で、仮想世界で最強になってみせるという気持ちが彼を突き動かしている。《SAO》でソロプレイヤーやってた頃のキリト君と、今のジェネシスは同じだ。君達は根っこは共通する者達と言えるだろう」
やはり否定できなかった。強くなりたい、仮想世界で最強になりたいという思想を持っている点では、俺もジェネシスも結局同じなのだ。ジェネシスの連れている双子巫女とシノンが影と光ならば、俺とジェネシスもまた似たような関係だろう。どちらが光で、どちらが影なのか――それを導き出そうとするのを遮ったのは、シノンの声だった。
「――本当に強いのはキリトの方です」
俺は思わずシノンの方を見た。イリスもきょとんとした様子でシノンを見ていた。
「キリトはずっと私を守ってきてくれました。私を守るために必死になって戦ってくれましたし、いつだって本当に私を助けてくれました。それは、キリトが本当に強かったから出来た事だって思います。だから私、キリトの事を信じられるんです。キリトなら大丈夫だって……思えるんです」
気付いた時には小声でシノンの名前を呼んでいた。彼女は微笑みながら俺を横目で見て、もう一度イリスに言った。
「私が信じるキリトの強さは、ジェネシスになんか負けてません。キリトの方が本当に強いって、そう断言できます」
きっぱりと断言されて、俺は身体の中が熱くなった気がした。まるで人前で愛の告白をされたかのように感じる。
だが同時に不安にもなった。俺は本当にそこまで強いのだろうか。ここまでやって来れたのは実は奇跡と偶然のおかげで、俺の力は何もないんじゃないか。俺の力なんて――。
「そうだね、キリト君は強いよ。実際《SAO》最強プレイヤーになったわけだしね」
俺の思考を遮ったのはイリスだった。イリスははっきりと物を言うつもりの目線を俺に向けてきていた。そこに視線が吸い込まれる。
「キリト君。どうして君がそう言われていたのか、わかる?」
答えはすぐに出なかった。
確かに《SAO》の頃、俺はアインクラッド最強のプレイヤーと呼ばれる事もあった。血盟騎士団という大ギルドの二代目の団長に就任できたのも、そういう評判があったからだと、アスナに言われた事もある。だが、そうなれた理由について深く考えた事はなかった。
「それは君が、守りたいモノを守るために強くなりたいと思っていたからだ。君の中の一緒に戦ってくれる皆を、シノンを守りたいっていう意志が、君に強さを与えたんだよ。だから君は自然と力を求め、実際に手に入れていって、最強プレイヤーになったんだ。君が手にした強さは、チートやデジタルドラッグなんかを使ったとしても絶対に手に入れる事出来ない強ささ」
イリスはそっと姿勢を変え、両肘をテーブルの上に置いた。
「そしてその意志を君は今でも持ち続けている。そうだろう?」
言われて俺ははっとする。そうだ。俺は今でも強くなりたいと思っている。《SAO》の時のような危機がシノンに、皆に訪れても大丈夫なように。彼女達を守れるように――そう願って、強くなろうと思っている。
「……持っています。皆を、シノンを守りたいっていう気持ちは、俺にあります」
「なら、君はジェネシスに負けてなんかいられないよ。守るべきものを持って、実際に守るために強くなろうと志す君が、守るべきものも何もない身勝手な奴なんかに負けるなんていう酷い話は無いからね。そしてそいつがこの世界を壊そうと目論んでいるなら……もう言わなくてもわかるだろう?」
イリスに言われ、俺は胸の中に出てきたものを確認する。ジェネシスがこの世界を壊そうとしているのであれば、俺はそれを阻止したい。俺の守りたいもの――皆の中には、この世界に住まう住人達、そしてカーディナルの厄災に選ばれてしまったプレミア、その双子の姉妹も含んでいる。
この世界に生きる者達を、プレミア達の命を守るためにも、カーディナルの厄災を引き起こそうとしているジェネシスの行いを許しておくわけにはいかない。どんなにジェネシスがチートやらデジタルドラッグを使ってブーストしていたとしても、負けるわけにはいかないのだ。
「この世界は本物の
いつも以上に声に気合が入ってしまっている事に、言ってから気が付いた。イリスはそんな俺をもう一度じっと見つめてから、やがて噴き出すように笑い出した。
「……やっぱりキリト君でよかったよ。このグラウンドクエストを受けてくれたのがさ。もしそこら辺のプレイヤー達がやる事になったなら、とんでもない事になってただろうね」
カーディナルの厄災、アインクラッド創世は恐らく《SAO》で幾度となく経験した巨大な危機に匹敵するものと言えるだろう。そんなものを抑え込めるプレイヤーが《SAO》生還者達以外の中にそうそう居るとは思えない。イリスの言っている事はわかるものだった。
「頼んだよキリト君。私が偶然携わる事になったこの世界を守っておくれ。私も創造者の一人として、出来る限りの協力はしよう」
如何にも頼み込んでいるような声色で、イリスは俺に言った。彼女がこう言うという事は、きっと彼女の助力はあまり期待できないという事であり、俺に全てを任せているという事だろう。《ALO》の時からイリスのログインは不定期だし、《SA:O》に行ってもそれは変わっていない。
イリスの協力は期待せず、俺達の手でこの《SA:O》を守りきってみせる。俺は心で深くそう思い、深呼吸をした。
その直後だ。玄関口のドアが外から開けられて、外の空気が家の中に入ってきた。探索に出ていた皆が早くも戻ってきたのだろうか。三人で出迎えるように目を向けてみたところで――少し驚く事になった。家に入ってきたのはリランやユイ達と一緒に《はじまりの街》へ赴いていたはずのプレミアだったのだ。
「あぁプレミア、おかえり」
声をかけてもプレミアは返事をしてくれなかった。彼女は深く俯きっぱなしで、しかも一緒にいたはずのリランもユイ達もいない。一人だけで家に入ってきていた。
「リランやユイ達はどうした」と聞こうとしたその時には、プレミアは小さな足音を立てながら俺の許へと歩いてきた。明らかにいつものプレミアではないが、頭上を確認してみてもクエストマークは出現していない。
「プレミア、どうした」
そこでようやくプレミアは顔を上げた。ひどく悲しそうな表情を浮かべて、
「……キリト……わたしの力は……《むがむちゅうのちから》は、世界を滅ぼす厄災なのですか……? それに……キリト達は、どこから来た人達なのですか……?」
そう俺に尋ねた。
気付いてしまった娘。