キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

36 / 561
07:探求、探索

           ◇◇◇

 

 

 

 リズベットをリランが追いかけて行った後、帰ってきた二人はどこか安心したような、吹っ切れたような明るい表情を浮かべていた。

 

 何があったのかは知らないが、きっとリランがリズベットの相談に乗って、その悩みを解決してやったとすぐにわかった。

 

 まぁそれが何なのかを聞き込みたくなるほどの知りたがりでもないから、その辺りの事はスルーしたけれど、帰ってきたリズベットがシノンの耳元で何かを囁くと、シノンは急に顔を真っ赤にして悶絶し始めた。

 

 一体何が起こったのか、リズベットが何を吹き込んだのかは知らないが、リズベットはひとまず俺の武器をいつでも鍛えてやると言ってくれた。

 

 リズベットは見ての通りダークリパルサーを作り上げたマスタースミス、その腕前は一級だ。そんなリズがそう言ってくれたのが、とても頼もしく思えた。

 

 そうして俺達はそれぞれの場所に戻り、それぞれのやるべき事を全うし始めた。

 

 

 

  2024年 4月25日

 

 

 

 アインクラッドの攻略は、第五十七層まで解放された。しかし、ここ最近はリランの力を使っても苦戦するような、賢くて強いボスとの戦いが続き、一月から四月まで、五十四層から五十七層までしか進む事が出来なかった。

 

 死亡者を絶対に出さないという信念のもと、皆が行動したから、ボス戦でも撤退が続いたりして、攻略速度がひどく落ちたのだ。

 

 それでも、ディアベルやアスナは「命あっての物種、遅れた分は後々取り返せばいい」と言ってギルド団員達を説得し、皆を落ち着かせていた。 

 

 確かに攻略を焦って死人を出してしまったら意味はないし、余計な犠牲を出してしまったという事で、団員達や全プレイヤーの意志や士気を下げてしまいかねない。

 

 少し攻略が遅れてしまってもいいから、安全性を求めると言う戦い方は、俺もみんなも納得していたし、シノンやリランも納得していた。

 

 きっとこの先も安全性を求めた戦い方が推奨される攻略が続くだろうと思って、実際にそんな戦いを続けたある日、アスナが俺達の家に訪れた。

 

 

「キリト君、すごく悪いんだけどさ……」

 

 

 家に来たアスナをリビングに招き、シノンとリランと俺の三人で話を伺っている。アスナはどこか話し辛そうな表情を浮かべて、何かを言おうとしているのを繰り返している。

 

 

「どうしたんだよアスナ」

 

「その、突然ですごく悪いんだけど、リランを私のところに貸してくれないかな。リランと一緒に居たくなっちゃって」

 

 

 何だそんな事かと安心する。もしかして俺は、何かアスナを怒らせるような事をしたんじゃないかと思ってしまったが、そんな事はなかったようだ。

 

 

「なんだそんな事か。いいよ、前からアスナにはリランを貸すっていう約束をしてたしな」

 

 

 そう言って、俺は肩に止まっているリランを抱き上げて、アスナに差し出す。

 

 

「だけど、いいのか。リランをアスナに貸すっていう事は、俺は攻略を休む事になるんだぜ。攻略は結構遅れ気味だったよな?」

 

 

 アスナはふふんと笑った。

 

 

「別にみんな、キリト君がいなくちゃ攻略が出来ないわけじゃないわ。それに、キリト君とリランはずっと戦いっぱなしだったし、みんなキリト君とリランに支えられながら戦い続けた。みんなを支えてくれたキリト君とリランには、しばらく休んでほしいのよ」

 

 

 確かに最近は攻略を休む事なく続けていた。ボス戦だって毎回出たし、ボスがなかなか手強い相手だったから、人竜一体も沢山使った。みんなからはそれは感謝されたけれど、やはり休みはなかったような気がする。

 

 

「また休まず戦ってたな……俺」

 

《そう言うがアスナだってそうだぞ。ずっと戦いっぱなしだったではないか。お前も疲れているはずだ》

 

 

 アスナが苦笑いする。

 

 

「そうなのよ。それで実は、団長の方から直々に休めって言われたのよ。ボス戦とかは自分が団員を引き連れて何とかするからって、君には長期休暇を与えるって……」

 

 

 シノンが足を組み、意外そうな表情を浮かべる。

 

 

「へぇーっ、あのヒースクリフが自ら動いたんだ」

 

「そうそう、あの不動の団長が自ら動き出したのよ。それで今日から軽くニ週間くらい休みなんだけど……そこでリランと一緒に居たいって思って」

 

 

 アスナも俺と同じように戦いっぱなしだったし、懐いてる相手であるリランとあまり話をするような事もなかった。アスナはリランに話したい事が沢山あるみたいなことを随分前から言っていたから、それが溜まって来たのだろう。

 

 その間はリランと話せなくなるけれど、別に大丈夫だ。

 

 

「わかったよアスナ。ほらリラン、アスナのところへ行ってやれ」

 

《そうするつもりだが……本当に大丈夫なのか。我が居なくなって困るような事はないのか》

 

 

 シノンが微笑みを浮かべる。

 

 

「大丈夫よ。私とキリトの二人だけでもなんとかなるから、あんたも休んでらっしゃい」

 

《む、そうか》

 

 

 一応、リランに釘を刺すように言う。

 

 

「だけど、アスナに万が一何かあった場合は、お前がアスナを守れよ。お前はフィールドに出れば俺が居てもいなくても、元の姿に戻るんだから。でもだからといって……そのままアスナの《使い魔》にはなるなよ?」

 

 

 俺の言葉にアスナが焦ったように反応を示す。

 

 

「し、しないよそんな事! リランには本当に、一緒に居てもらうだけだから!」

 

 

 アスナの焦った顔を見ると、不思議な安心感が心の中に湧き出てきて、俺はすぐにアスナにリランを差し出した。

 

 

「ほら、行ってやれリラン」

 

「ありがとうキリト君」

 

 

 アスナは軽く頭を下げた後に、小さなリランの身体を俺から受け取った。そのリランの本来の姿が、俺が背中に跨ってもあまりがあるくらいに大きなものだから、実に奇妙だとつくづく思う。

 

 

「さてと、お互いしっかり休もうか」

 

「えぇ。次、どんな敵が立ち塞がってきてもいいようにね。それじゃあ、またねキリト君、シノのん」

 

《我に隠れて攻略したりするでないぞ》

 

 

 そう言って、アスナはリランを連れてログハウスを出ていった。しばらくすると、リランが歩くドスンドスンという音が聞こえてきたが、それも時間と共になくなっていった。

 

 リランがいなくなったログハウスは、しんと静まり返ったが、すぐさま俺はある事に気付いた。

 

 そういえば、俺は基本的にリランと一緒で、誰かと二人きりになるなんて事はなく、シノンとだって二人きりになった事はなかった。

 

 今、このログハウスには、俺以外の人間はシノンしかいないというのがどこか新鮮に思えて、心の中が少し熱くなったような気がした。

 

 

「さてと、俺達だけになったわけだけど……」

 

「初めてよね、私達のところにリランがいないのって」

 

「そうだな。何があっても、基本的にリランと一緒だったから、少し違和感があるな。同時に、なんだか寂しい」

 

 

 俺は後ろ頭に手を回して、天井を見上げた。至って何の変哲もない組まれ方をした木だ。

 

 

「さて、休暇をもらったわけだけど、何をして過ごそうかな。今まで暇潰しすらレベル上げとかに使ってきたもんだから、娯楽がわからないや」

 

「ごめんキリト、あと二日くらい、休むのを待ってくれない?」

 

 

 いきなりシノンに言われて、俺はそこへ目を向ける。シノンはどこか申し訳なさそうな顔をして、俺から目を逸らしていた。

 

 

「なんでまた?」

 

「実はね、弓のスキルに関するクエストとかないかなって思って探してたら、遠距離攻撃に関するクエストを見つけたのよ。場所は五十五層の街。というか、五十五層で起きるイベントみたいなの」

 

 

 今までシノンのスキルは見てきた方だけど、シノンの弓スキルというのは特徴のあるものだった。

 

 モンスターに発見されていない状態で遠距離攻撃すれば威力が大きく上昇するだとか、矢が当たった部位によってダメージが大きくなったり小さくなったりするだとか、まるでシノンだけ別なゲームをプレイしているかのような感じだった。

 

 だけど、問題点もしっかり存在している。攻撃を当てれば確かにダメージは入るんだけど、いちいち敵の急所を狙わなければならなかったり、硬い部位に当てると無効化されてしまったりなど、俺達が剣で攻撃しても起きないような事が起きる。

 

 これは仕様なのか、もしくはイベントやクエストで強化できないものかと、俺自身も思っていた。

 

 低威力のままでは戦闘を長引かせてしまったり、シノン自身が危険に晒される可能性が大きくなる一方だった。

 

 弓のクエストが現れたという事は、その危険性やデメリットを軽減したり、もしくは無くしたりできるものなのかもしれない。

 

 

「それ、本当なのか」

 

「えぇ。あなた達から離れて行動した時に、顔に赤い模様を描いてる黄色い髪の毛の女の情報屋から聞いたのよ。「おねーさんは唯一の弓使い、もしかしたらこれはおねーさんのためだけにあるクエストかもしれないゾ」って言って……」

 

 

 シノンの言葉を聞いて、俺は真っ先にある人物を頭の中に思い出した。その独特な喋り方をして、顔に赤い模様を入れている黄色い髪の毛の情報屋の人と言えば、第一層の時からの俺の知り合いだ。

 

 恐らくあいつが五十五層まで出向いて、シノンを探し、情報を探したのだろう。あの情報屋なら、情報を届けるのに最適そうな人物をすぐさま見つけられるだろうから、シノンがこのアインクラッドの中で唯一の弓使いである事をすぐに知り、シノンのためのクエストと思われるイベントを探し出して、そしてシノンに巡り合ったところだろう。

 

 

「その情報屋、俺知ってる」

 

「え、知ってるのキリト」

 

「知ってるも何も、そいつは第一層の時から情報屋をやってる奴で、俺によく情報をくれた奴なんだ。あいつの事だから、シノンが弓使いである事をどこかで知って、そのためのイベントを見つけ出し、そしてシノンに教えたってところなんだろうな」

 

 

 俺はシノンに向き直す。

 

 

「なぁシノン、そいつは今どこにいるんだ?」

 

 

 シノンは少し上を眺めて、顎に手を添えた。

 

 

「多分だけど、まだ五十五層にいるんじゃないかしら。前に会った時は、五十五層の情報屋がたくさん集まってるところの近くだったから……」

 

 

 なるほど、情報屋達が意見交換や情報交換を行う場所か。確かにあいつならそこにいるだろう。ひとまず俺もシノンが受けるべきであろうイベントの事も、クエストの事も気になる。行って確かめてみよう。

 

 

「よし、行こうシノン。五十五層の、情報屋が沢山いる場所だな」

 

「行くの?」

 

「行くのって……君が俺に一緒に来てくれって頼んだんじゃないか。その要求、呑み込むよ」

 

 

 シノンは少し驚いたような顔をした後に、頷いた。

 

 

「ありがとうキリト。それじゃあ、早速五十五層に向かいましょう」

 

 

 俺は同じように頷いて、いつもの黒いコートを着て剣を携え、シノンもまた戦闘服に着替えて弓を背中にかけて、ログハウスを出て街へ向かい、転移門を通って五十五層の街へと飛んだ。

 

 五十五層の街はギリシャの海岸沿い方面の街並みに非常に近い作りになっているところで、建物はすべて白と青の二色だけで構成されており、とても美しい街だった。

 

 解放されてからだいぶ日が経っているが、それでも五十五層というキリのいい数字であり、尚且つ美しい外観の街だからか、街行く者も多く、賑わっていた。

 

 俺は道行くプレイヤー達を横目に、顎に手を添えた。確かにシノンの言う通り、ここにあいつはいる。あいつは元々人混みの中に姿を隠すような情報屋だから、下手に人のいない場所やフィールドを探すよりも人が行き交っているところを探した方がよく見つかる。

 

 

「ここになら、あいつはいるな」

 

「そんな事、わかるの?」

 

「わかるさ。これでも第一層から今までの付き合いだからな。まぁ腐れ縁ではあるけど。それじゃあ、探しに行くけれど、逸れるんじゃないぞシノン」

 

 

 シノンは俺の隣に並んで、強気に笑った。

 

 

「私は小さい子じゃないわよ。あなたこそ、道行く人達の中に呑み込まれて、どこがどこだかわからないような状態にならないでよ」

 

「まぁいざとなったらマップ追跡を使うから、それで何とかできるよ。さぁ、行こう」

 

 

 シノンは頷き、俺の隣にしっかり並んで歩き始めた。まるで本当にギリシャの海岸沿いに来たかのような、白と青だけの美しい建物間を抜けて、道行くプレイヤー達の間を潜り抜けるように進んだ。

 

 

 その最中、いくつもアクセサリー店や酒場、飲食店、宿屋などを見つけて、俺達は立ち寄りそうになったが、あくまで目的がシノンに情報を与えた情報屋を見つける事であると思い出し、その都度目を逸らした。

 

 だけど、情報屋を見つけてクエストやイベントの詳細を理解したら寄ってもいいんじゃないかと思い、それをシノンに提案してみたところ、シノンは「今日はそんな気分じゃないわ」と言って跳ね除けてしまった。

 

 まぁそうだろうなとは思っていたけれど、シノンにも気分の波のようなものがちゃんと存在している事が知れて、少し意外に思えた。が、人混みを抜けてプレイヤーの数が極端に確認できなくなると、シノンは急に俺に言った。

 

 

「でも、この街は嫌いじゃないし、寧ろ好きな雰囲気だわ。クエストやイベントが終わって何もなくなったら、また来ましょう。ここは、あなたと二人きりで廻りたい」

 

 

 俺はシノンに顔を向けた。何となくだが、シノンの頬が桜色に染まっているように見える。

 

 

「確かに、いつもだったらリランが俺の肩に居て、何かしら言って来るもんな。今日は凄く肩が軽いし、頭の中に響いてくる《声》もない。こんなの久しぶりだし……リランがいるといないじゃ、廻れる店だとか、出来る事とかも結構変わるしな」

 

「そうよ。リランがいないのはニ週間だけだから……その間に、リランがいない時だけできるような事を、楽しみたいところだわ」

 

「なんだよ、まるでリランを邪魔者みたいに言って。リランは邪魔者じゃないだろ」

 

「そうだけど、リランがいると出来ない事も、言えない事も沢山あるわ。今日からニ週間はそれが無くなるから、思い切り色々やっておこうって思ってるのよ。それに……」

 

 

 言い留まったシノンに首を傾げる。

 

 

「それに?」

 

「私、情報屋の人が教えてくれたイベントをこなせば、もっと強くなれるような気がするのよ。ニ週間後に帰ってきたリランに、もっと強くなった私を見せたい」

 

 

 そういえば、これまで弓を持ったシノンを連れてボス戦に望んでいたけれど、結構シノンが危機に晒されるシーンは多かった。

 

 俺もリランも何度も冷や冷やしたし、リランもシノンが必死になって戦っているのに、敵に大したダメージを与えられていない事に言い音を立てていなかった。

 

 もし、シノンがイベントをこなす事によって強くなる事が出来れば、帰って来た時にはさぞかし驚く事だろう。

 

 リランの驚いた顔は、見てみたいかもしれない。

 

 

「そうだな。それじゃあ、早くその情報屋を見つけるとしよう……」

 

「どんな情報屋を見つけるつもりなんダ?」

 

「そりゃ、いつもフードを被っていて、金髪の髪の毛で、顔に猫髭みたいな赤い模様のペイントを施した情報屋……」

 

 

 思わず答えたその次の瞬間、俺とシノンはいきなり背後に現れていたプレイヤーに、声を上げて驚いた。

 

 いつの間にか俺達の背後に現れていたプレイヤーは、金色の髪の毛で、顔に猫髭のような赤いペイントを施した女性プレイヤーだった。

 

 そう、俺達が探し求めていた情報屋であり、俺が第一層の時から世話になっている折り紙つきの情報屋アルゴだ。

 

 

「アルゴ!」

 

 

 その名を呼ぶと、アルゴはあいさつの代わりと言わんばかりに掌を俺達に見せつけたが、俺はアルゴの姿に若干の違和感を覚えた。

 

 アルゴは第一層の時から、ぼろぼろになったローブを着用して、フードを常に被っているのだが、今のアルゴはぼろぼろのローブではなく、新品の薄黄色のパーカーを着用して、そのフードを被っている。

 

 

「アルゴお前……」

 

 

 言いかけたその時に、シノンがアルゴを指差して、俺に顔を向けた。

 

 

「そうよこの人だわ! この人が私に情報をくれた情報屋の人よ!」

 

 

 アルゴが頭の後ろで手を組む。

 

 

「そーだ。丁度三週間ぶりだケド、おねーさん、キー坊と関係のある人だったんだナ」

 

「そうよ。あなたもキリトと関係のある人だったのね」

 

 

 アルゴはふふんと笑った。

 

 

「奇遇じゃないカ。おねーさんはてっきり独り者だと思ってたのに、まさかキー坊と一緒の人だったなんテ。おれっちでも流石に予想は出来なかっタ」

 

「俺もまさか、シノンに情報を与えたのがアルゴだったなんて思ってもみなかったさ。それでアルゴ、このシノンがアインクラッドでの唯一の弓使いなんだけどさ」

 

 

 アルゴの表情が少し真面目なものに変わる。

 

 

「シノンって事は、シーさんでいっカ。シーさん、前に教えた情報は試したのカ?」

 

「ううん、試してないの。これから試そうと思ってたところなんだけど、ちょっと情報を度忘れしちゃって……もう一度教えてくれるかしら」

 

 

 アルゴは頷いた。

 

 

「いーヨ。あの情報はタダで手に入れた情報だかラ、ただで何度でも教えてやル。ついでにキー坊も聞いていくといいヨ」

 

 

 俺もシノンの隣に並び直して、話を聞く姿勢になった。俺はシノンと一緒にクエストをこなす事にしたから、クエストの話はよく聞いておかないと、対策を立てたりする事も出来ない。

 

「頼むぞアルゴ。どこに行けば、クエストのフラグが立つようになってるんだ?」

 

 アルゴは俺達の方から身体を逸らし、そのまま東の方角に向け、話し始めた。

 

 なんでも、この街を東に行ったところに、弓を使っていた爺さんNPCがいるらしく、その人の話を最後まで聞くとフラグが発生して、クエストがスタートするようになってるらしい。

 

 そしてそのクエストは、この層にある遺跡エリアに向かって、中にある特殊なイベントアイテムを入手する事が目的になっていて、尚且つそのクエストは遠距離攻撃が出来なければ、ほとんど達成が出来ないようにできているらしい。

 

 アルゴはこのクエストの話を無料で聞いた際に、血盟騎士団が公表している唯一の弓使いの話を思い出して、弓使いを捜索したそうだ。

 

 しかし、その努力も虚しく、全く弓使いが現れない事に嘆いていたところ、弓を背負ったシノンが偶然この層に現れ、アルゴは歓喜してシノンにクエストの事を教えたそうだ。

 

 

「なるほど、そういう経緯があったんだな。そしてそのクエストを発生させるには、シノンと一緒にこの街の東にいるNPCに話しかければいいのか」

 

「そういうコト。まだクリアしたっていう情報は来てないから、多分シーさんが先駆者になるナ。これはまたみんなの間でいい話題になるゾ」

 

「よし、そうと決まったら早く行きましょう。場所は街の東、老人のNPCを探して、クエストを発生させましょう」

 

 

 走り出しそうになったシノンを、アルゴが呼び止める。

 

 

「待ってクレ二人共。せっかく五十五層に来たんだから、レストランくらいには寄って行った方がイイ。丁度ここから東へ向かう道中に、クリームパスタが最高に美味な店があるゾ。クエストに行く前にそこで料理を食べて元気になってから行くとイイヨ」

 

 

 俺達は二人で見合った。

 

 確かに時間を見てみれば昼食に丁度いい時間になっているし、近頃あまり外食した事が無かったし、この街を練り歩くのも初めてだ。せっかくだから、アルゴの進めるレストランに行くのもありかもしれない。

 

 それに、アルゴは基本的に嘘を吐かないから、その言葉は信用に足りる。

 

 

「そうか……シノンはどうする?」

 

「もうお昼の時間だったのね。なら食べてから行く事にしましょうか」

 

 

 シノンはアルゴに顔を向け直した。

 

 

「アルゴはどうするの。一緒に行く?」

 

 

 アルゴは首を横に振った。

 

 

「二人の中を邪魔するような事はしないヨ。二人でゆっくりした後に、クエストに望んでクレ。応援してるゾ」

 

 

 アルゴは笑んだ後に、俺の方に顔を向けた。

 

 

「それとキー坊。実はある事が前と変わってるんだけど、キー坊はわかるカ?」

 

 

 やはり振ってきた。アルゴはこれまでぼろぼろのローブを着ていたが、今は新品のパーカーに変わっている。大胆なイメチェンをしたものだ。

 

 

「イメチェンしたなアルゴ。どうしたんだ、そのパーカーは」

 

 

 アルゴは「おぉっ」と言った後にもう一度笑んだ。

 

 

「流石にいつまでもボロローブのままでいるのは嫌だったから、着替えたのサ」

 

「そうだったのか。でも、あの姿のお前も結構似合ってると思ったんだけどな」

 

「そうカ? なら、気が向いたら前のに戻すようにするヨ。それじゃあキー坊、シーさんと仲良くナ。シーさんも、キー坊をよろしくナ」

 

 

 アルゴはどこか嬉しそうに手を振って、そそくさと街の中へと消えて行ってしまった。どうしてアルゴがあんなに嬉しそうにしていたのかはわからなかったが、ひとまず俺達はアルゴに教えられた店に向かう事にした。

 

 ――それがシノンとの初めてのデートである事に気付いたのは、レストランに辿り着いた時だった。

 




アルゴ登場&キリトとシノンのデート兼強化クエスト開始。

そして次回、二人に大進展。乞うご期待。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。