キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

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 彼の者の過去。

 


14:浮遊城の再誕

 

         □□□

 

 

 アイングラウンド全土を厄災は襲った。本当に身動きが取れず、空中に居ようとも揺らされるような地震が起こり、大地が切断されて崩れながら空へ浮かび、アイングラウンド上空の一点を目指して飛んでいったのだ。そこら辺の土や岩の塊などではなく、大地そのものが切り抜かれて、飛んでいくという、世界からすれば前代未聞の厄災が大地を襲ったのだった。

 

 街も、村も、森も、川も、平原も、そこに住まう動植物、住人達を巻き込みながら、大地は轟音と共に切り抜かれて、空へ浮かんでいった。切り抜かれた大地は崩れ落ちながら、一点に寄せ集められていき、やがて一つの形を成していった。

 

 ところどころ崩れかけ、作りかけのようになっているけれども、上に進むに連れて細くなっていくような形状になっている、鋼鉄の城。空へ浮かび、それの中そのものが一つの世界となっている巨大な建造物。

 

 かつてソードアート・オンラインというデスゲームの舞台となり、プレイヤー達の活躍によってデスゲームがクリアされた際、自己崩壊機構によって崩壊し、消滅していったはずの場所。

 

 名をアインクラッドというそれが、アイングラウンドの上空に浮かんでいた。

 

 その様子を、キリト達は絶句したまま見ているしかなかった。自分達を閉じ込め、自分達によって崩壊させられた浮遊城アインクラッドが、このアイングラウンドを素材にして出来上がってしまった。もう見る事も行く事もなかったはずの場所が再誕してしまったという光景に、言葉を失わずに居られるSAO生還者などいなかった。

 

 《はじまりの街》、キリトの住まう家もまた激しい地震に襲われたが、空へ運ばれる大地のように切り離される事なく、その場に留まり続けてくれた。

 

 厄災の手から逃れる事が出来たその家に、キリトは戻ってきた。時刻は夜の七時を超えていたが、起きた事が起きた事というのもあって、家の中にはキリトの頼れる仲間達、あの悲劇の城であるアインクラッドを乗り越えた戦士達が集まっていた。誰もが深刻な表情をしており、キリトもまたその中の一人となっていた。

 

 

「とんでもない事が起っちゃったわね……アインクラッド誕生って事で、《はじまりの街》はお祭り騒ぎになってるわ」

 

 

 いつにもなく疲れたような表情でリズベットが言う。ここにいる全員はそれぞれ別行動をし、この世界に起きた厄災の影響、その現状の情報を出来る限り集めてきたのだ。いつものフィールド探索よりも高難度かつ急を要する探索だった。誰もが疲れて当然だ。

 

 

「急にあのアインクラッドがアイングラウンド上空に現れたんですもん。他のプレイヤーの人達は、《SA:O》のサプライズイベントだって思ってるみたいです」

 

 

 リズベットの隣のシリカもかなり疲れている様子だ。ピナも「ぎゅるるう」という疲労困憊の声を出して主人に抱かれている。アイングラウンドを素材にしたアインクラッド創造は、カーディナルシステムが運営の手などを一切無視して起こしたものだ。その話をプレイヤー達は知らないのだから、そんな暢気な事を言っていても不思議ではない。

 

 

「崩壊したフィールドの情報も調べてきたけれど、残念ながら被害はゼロじゃないゾ。《はじまりの街》とこの辺は巻き込まれなかったみたいだけど、他の村とか町とかは、創世の被害に遭ったみたいダ」

 

「あちこち滅茶苦茶になってるよ。なんだか、この世の終わりみたいっていうか……」

 

 

 情報屋であるアルゴとシュピーゲルの二名の報告の後、キリトは先ほど見たものを思い出す。地震が納まってくれたタイミングを見計らかって、キリトはリランの背に乗って空へ上がり、行ける限りフィールドを飛び回り、厄災の被害を確認した。

 

 見えたものは想像を絶していた。あちこちの大地がごっそりと切り抜かれて、巨大な爆弾が爆発したか、もしくは巨大な隕石でも降って来たかのようなクレーター状になっている。ところによってはクレーターの中に瓦礫の山が出来上がっていて、かつて村や町があったところは見る影もなくなっていた。厄災に巻き込まれた場所からリランが生命反応を検知する事はなかった。全て死に絶えたのだ。

 

 もし現実世界くらいにまで文明が発達していたのであれば、瓦礫の山からは火の手が上がり、黒煙が空を覆っていた事だろう。まさに世界終末の光景と言える風景――というわけではなかったが、いずれにしても見えるものはこの世の終わりの風景だった。それを起こしたのは、アインクラッド創世神話に登場する現象、《大地切断》だ。

 

 

「《大地切断》が起きたんだ。本来のそれは、地表が円形に切り抜かれて空へ上昇していくようになってるはず。けど、今回の《大地切断》は切り抜かれた大地が崩れながら空へ上昇していっていた。きっと不完全で中途半端だったんだろう。あんな《大地切断》に巻き込まれたんだ……NPC達は一溜りもなかっただろう」

 

 

 仲間達の顔に悲しみが広がる。今回の厄災によって、この世界に生きる罪なき命達は理不尽に潰された。防げなかったというのが余計に悔しく、悲しく感じられる。その中で、リーファがキリトに声掛けする。

 

 

「この状況は運営も気付いてるよね。けど、何もアナウンスもないって、どういう事なんだろう」

 

「現状に問題なしって事なのかしら。セブンなら、それらの動きがわかるんじゃないの」

 

 

 シノンの問いかけに、キリトは首を横に振る。セブンは祈りの神殿で起こった事の解析、調査に当たっており、とても《SA:O》の運営の状況を把握する暇はなかった。それどころか、セブンはそもそもアメリカにいるため、日本国内にある《SA:O》の運営会社の状況を把握する事は出来ないのだ。だが、運営がどのような状況になっているかは安易に想像が付く。考えたくはないが、この《SA:O》のベータテスト中止も検討している頃だろう。

 

 その事を話すとシノンは勿論、皆も戸惑ったような顔になった。もう戸惑わずにはいられないような出来事ばかりが連続していた。

 

 

「それにしてもキリト君、ジェネシスの事は本当なの。ジェネシスがプレミアちゃんの双子の姉妹と《使い魔》と合体して、とんでもない事になったって。この大地切断はジェネシスが引き起こしたって……本当の事なの」

 

 

 アスナの問いかけに、キリトは頷く。自分でも正直信じられないが、キリトは確かにこの目で見た。ジェネシスを慕うティアという少女が大地切断を引き起こす力を持ったまま、ジェネシスの《使い魔》共々光になって、ジェネシスに吸収されていくのを。二人の力を得たジェネシスが全ての制限を無視したような動きを見せてきたのを。

 

 そうしてまるで《SA:O》の神にでもなったかのようなジェネシスの攻撃に遭ったキリトは、セブンとプレミアを乗せたリランに回収され、そのまま撤退した。この後だ、このアイングラウンドを厄災が襲い、アインクラッドが誕生してしまったのは。

 

 双子巫女の片割れの力を得たジェネシスがその力を使い、アインクラッドを創生したというのは、見ていなくてもわかった。この厄災は厄災を望むジェネシスの願いが成就した結果なのだ。

 

 

「本当だよ。あいつはプレミアの双子の姉妹であるティアっていう娘と合体して、とんでもない力を得た。あいつ自身、チート行為で自分の強化をやっていたけれど……まさかそいつにカーディナルと繋がってるティアが融合して、力を与えるなんて」

 

「一番力を得ちゃいけないのが、よりによって世界最強の力を得て、神になってしまった。全く持って最悪な状況だね」

 

 

 そう言って割り込んできた声は、玄関の方からした。向き直ってみれば、そこにいたのはユイと同じ黒い長髪、ストレアと同じ大きい胸、リランと同じ赤茶色の瞳をした白いコートを着た女性。このゲームの開発者の一人だったというイリスだ。その傍には彼女が製作した子供達の一人であるユイの姿もある。

 

 

「イリスさん! 来てくれたんですか」

 

「あぁ。ユイに非常用回線を使われちゃったんでね。仕事を切り上げて来させてもらった。んだけど……やれやれ、とんでもない事になってるじゃあないか」

 

 

 イリスは玄関の窓からちらと外を見てから、室内に向き直る。自分達が状況を説明する必要はなさそうだった。

 

 

「ついに誕生してしまったか、アインクラッドが。まさかこんな事になるなんてね」

 

「すみません。防ごうとはしたんですけれど、それでも……」

 

「いやいや、君達を咎めようと思ってるんじゃない。その事はもう気にしないでおくれ」

 

 

 イリスはキリト達と出会ったSAOの時のように、玄関すぐの壁に凭れ掛かった。

 

 

「さてさてさーて。ユイから話を聞かせてもらったけど、ジェネシスがとんでもない事になったんだってね。彼、アミュスフィアの改造をしてチートしてたんだって?」

 

「はい。あいつの強さはチートによるものでした。しかもアミュスフィアの改造に成功して、デジタルドラッグの強化運用を可能にしていたと、本人が言ってました」

 

「ふむふむ、流石は彼と言ったところだね。名声を手に入れられるだけある」

 

 

 キリトは思わず首を傾げた。他の皆も同じように疑問を抱いたようだった。名声とは何だ――その質問をする前に、イリスは言った。

 

 

「キリト君、前にゴッド・オブ・モッド、ゴッド・オブ・チートの話はしたよね」

 

「はい。チートとMOD開発の有名人です。それが?」

 

「ネットで色々調べてみたんだけどね、その正体が割れた。海外で有名なアレは、日本人だ。そして《SA:O》に来て猛威を振るってもいた。私達に突っかかり、この大地切断を引き起こしたジェネシス。それが、ゴッド・オブ・チートの正体だ」

 

 

 キリトは大声を上げて驚いてしまった。海外で名を馳せていて、公式に認められるMODを作るゴッド・オブ・チートが、あのジェネシスだって。自分の戦っていた相手は、プロ顔負けのMOD作りの達人だったって。

 

 言い出したイリスは腕組をし、静かに語り始める。

 

 

「彼の周辺の連中の話を調べてみる事で、色々くっついた情報を掴められんだ。プライベートな情報だけど、この際だからそんなもの全部無視させてもらうよ。

 現実世界での彼の名前は大槻(おおつき)久弥(ひさや)君。十九歳だ。彼は情報処理学科として名門の中学校と高校の出身のようだ。彼は生まれつきIQが異常なまでに高く、判断力や能力が抜きんでていた。特にプログラミングや情報処理になると、そのIQは爆発するようでね。その分野で右に出る者は一人もいなかったし、他の誰よりも優れていた。情報学校での成績は常にトップだった。それこそアスナにも引けを取らないくらいのエリートだったんだ」

 

 

 同じエリートであるアスナが反応を示し、ユピテルがきょろとアスナを見る。イリスは続ける。

 

 

「しかし、彼は学校には行ってなかったみたいなんだ。学校ではなく、引きこもってプログラムや情報処理をやっていたらしい。

 ……原因は苛めだ。彼は天才的なIQを持ち、大人のプログラマーが作り上げる事さえ難しいプログラムを中学生でありながら完成させたり、ネットに広めたりした。そんな彼がいたのは超名門情報処理学校。一人だけ情報処理に異常なまでに優れる彼は、周りの連中の(そね)み、(ねた)み、やっかみの対象になった。周りの連中は自分らの身勝手な考えの基、彼を迫害したんだ。彼を《化け物》呼ばわりしてね」

 

 

 キリトはハッとした。ジェネシスがどうして孤独な道を歩んでいたのか、強さにこだわっていたのか、わかってしまった。彼は現実世界で孤独にさせられていたのだ。天才的な頭脳と能力を持っているのに、それを妬む、やっかむ連中に絡まれ――迫害されたために。

 

 『弱い奴は淘汰される。だから強くあらねばならない』。その心情は、彼を化け物呼ばわりする連中からの迫害によって出来上がったのだ。一方的な嫉妬を募らせる、力はないが数だけは多い連中に蔑まれたせいで、出来上がってしまったものだった。

 

 

「化け物として迫害された彼は、引きこもってプログラムと情報処理に打ち込んだ。その過程でゲームのチートやらMODやらを見つけて手を出し始めたようだ。すると持ち前のIQと情報処理能力がそこでまた爆発し、画期的なチートやMODが作られた。特にMODは海外勢にバカ売れした。

 そんな彼の事を、ゲームユーザー達は《ゴッド・オブ・チート》なんて呼ぶようになった。一応MODもチートと同じ類だからね。それがジェネシスの正体だ」

 

 

 イリスの話が終わると、部屋の中に重い沈黙が落ちた。イリスの話したジェネシスの正体が本物なのかは、ユイとリランが否定しない事が証明している。今の説明は、ユイやリラン達が掴んだものなのだろう。ネットの中で自由自在に情報収集の出来る彼女達ならば、ネットに散らばる情報からジェネシスの正体を割る事も出来たのだ。

 

 その話に事実上喰い付いたのは、シノンとユウキの二人だった。キリトとカイムの二人で彼女らに目を向けると、どこか悲しそうな表情が浮かんでいた。その顔のまま、ユウキが小さな声で言う。

 

 

「そうだったんだ……あんなあいつも、ボク達みたいに……周りの人達に蔑まれて……」

 

「……なんだか納得がいったわ。あいつがあそこまで強さにこだわってたのは、そういう事があったからだったのね」

 

 

 苛められていたシノンの治療を行っていたイリスが、頷きを返す。

 

 

「情報によれば、ジェネシスは現実世界でも強い方だったんだよ。突き詰めれば、それこそ茅場さんや私並みの技術力を発揮して、画期的なものを作れたかもしれない。だが、それを彼に嫉妬心を燃やす連中が全力で阻止しようとしたんだ。革命をもたらすくらいのモノを作り出せる頭脳を持っていた彼への嫉妬に狂って、化け物扱いして迫害し、自分のちっぽけな自尊心や競争心を満たそうとしたんだ。

 まぁ、その中で彼はゴッド・オブ・チートとして名を馳せ、そこら辺の連中が稼げる額の何百倍も稼いで富を得ていたんだがね。彼は十分に逆襲できていたと思うよ」

 

 

 しかしジェネシスは止まらなかった。VR世界で強くなれば、現実世界でも本物の強さを得られる。そう信じて、ジェネシスは自分の頭脳を最大限に活かした画期的なチートやデジタルドラッグを作り出し、戦い続けたのだ。そしてついにカーディナルの厄災を引き起こし、双子の巫女の片割れを吸収し、本当の神に近しい存在と化した。

 

 これからもジェネシスは止まらないだろう。天才が今あるものを破壊して新たなものを想像する破壊者兼創造者であるように、ジェネシスもまたこの世界を破壊し、新たなものを作り出そうとしているのだ。そんな事をされればこの仮想世界分野がどうなるかなど、わかったものではない。

 

 

「だが、それでもあいつのやった事はVRマシンの改造……犯罪だ。VRマシンの改造は第二の茅場を生み出しかねないという事で重罪ってなってるから、あいつは逮捕されなきゃいけない」

 

 

 キリトが呟くなり、エギルが提案するように声掛けをした。

 

 

「あいつを逮捕すれば、全部終わるんじゃねえのか。今、警察はどうなってるんだ。あいつを逮捕するために動いてるんじゃないのか」

 

 

 その疑問に答えたのはイリスだった。髪の毛をぐしゃぐしゃと掻き、面倒くさそうな表情をしていた。

 

 

「そうなんだよ。ジェネシスはアミュスフィアの改造をしたって事で逮捕されなきゃいけないんだけど……実のところ、同じ罪を犯した人間が五百人くらい日本中で見つかってるんだ」

 

 

 その話にキリトを含めた全員が驚きの声を上げる。アミュスフィアの改造をしたのはジェネシスだけではなく、五百人もいる。信じられない話だったが、ユイが真実である事を告げてきた。

 

 

「今、日本全国のあちこちでアミュスフィアの改造を行ったとして逮捕されている人が、次々と出てきています。ニュースによると、イリスさんの言う通り、その数は五百人以上に上っているそうです。おかげで警察の方も天手古舞(てんてこまい)になってしまっているようです」

 

 

 キリトは耳を疑った。アミュスフィアの改造はITに精通している自分でも、セブンでも出来なかった芸当だ。それが出来る人間がジェネシスを含めて五百人以上もいるなど、ありえないはず。それこそ、誰かがアミュスフィアの改造の方法をネットで流さない限りは――。

 

 そこまで思ったところで、キリトははっとした。気付いたようにイリスが言う。

 

 

「キリト君、何が思いついた」

 

「まさか、アミュスフィアの改造方法がネットで出回った!?」

 

 

 イリスは深々と溜息を吐き、頷いた。皆が驚きの声をもう一度上げると、イリスは続けた。

 

 

「そのまさかさ。ネットで拾った情報だと、今から数週間前にアミュスフィアの改造のやり方が書かれたファイルをダウンロードできるダウンロード先が記されたサイトが出てきたらしい。そのサイトは十五分程度だけ公開されて、今は跡形もなく消えているそうなんだが……十五分間でかなりの数のユーザーがそのファイルを入手し、アミュスフィアの改造を行ってしまったようだ。日本では五百人程度のようだが、世界中だとどれくらいになるだろうね」

 

「そのアミュスフィアの改造の仕方を広めたのが、ジェネシスだって事でしょうか」

 

 

 シノンの問いかけにイリスは「そうだろうね」と答える。やはり禍根はあいつだったのだ。ならば、そのアミュスフィアの改造の仕方のダウンロード先を掲載したサイトのIPアドレスなどを辿れば、あいつの許へ行けるのではないか。しかしその希望をイリスは真っ向から否定した。

 

 

「けれど、もしジェネシスなら上手くやったもんだ。ダウンロード先にあったのは世界各国にサーバーを置くアップローダーらしくてね。アメリカ、イギリス、中国、ロシア、韓国、果てはオーストラリア、インド、ベトナムと、あちこちのサーバーらしいんだ。流石に日本の警察はそこにまで手を回せないし、そのサイトだってあくまでダウンロード先を掲載しただけだから、はい逮捕というわけにはいかない」

 

 

 そもそもジェネシスが大槻久弥という人物であり、ゴッド・オブ・チートであり、アミュスフィア改造をして《SA:O》を滅茶苦茶にしているなど、警察が信じるかどうかわかったものではないし、その警察だって日本全国のアミュスフィア改造者を逮捕しに行く任務の真っ最中だ。

 

 そしてジェネシスはティアを取り込んだ事により、ティアと結びついていたカーディナルまでも味方につけたようなものだし、《SA:O》の運営もアインクラッドの出現、厄災による影響の対処などで大忙しで、ジェネシスをどうにかできるような状態ではないだろう。

 

 IPアドレス、IDを辿ったりするにも、ジェネシスはシステムと結びついてしまっているから、いくらでも偽造できるかもしれない。何もかもがゴッド・オブ・チートに味方している。あの時の宣言通り、ジェネシスはこの世界そのものとなろうとしていた。

 

 

「警察も運営も動いてくれない……それならもう、俺達でどうにかするしかなさそうだな。俺達がプレミアのクエストを最後まで進めてしまったようなものだ。俺達が落とし前を付けなきゃいけないし、今度こそジェネシスとの決着を付けないとだ」

 

 

 SAOの時から変わらぬディアベルの意思表明に皆が頷く。警察も運営も動けないならば、動ける自分達の手で出来る事を探し、可能であればジェネシスを止めなくてはならない。

 

 それにティアがジェネシスにあそこまで味方したのも、ティアがプレイヤー達に虐げられ、人間そのものを憎むようになってしまったからだ。その責任をプレイヤーとして、果たさなければならないだろう。ついに暴走状態に陥ってしまったティアとジェネシスの二人を止めなくてはならない。

 

 やるべき事は、その方法を探す事だが――。

 

 

「あれ、ところでプレミアちゃんはどこに行っちゃったの。姿が見えないけれど……」

 

 

 アスナの気付きに皆が同じように気付く。キリトもそうであり、辺りを確認してみる。アスナの言ったとおり、ティアの双子の姉妹であるプレミアの姿はなかった。てっきり皆の中に混ざっているかと思っていたが、彼女は最初からここにいなかったらしい。

 

 

「そういえば、プレミアちゃんの姿が見えねえな。どこいっちまったんだ?」

 

「外は大地切断の影響で危なくなってるって言うのに……どうしちゃったんだろ」

 

 

 クラインとレインが不安そうに言うと、皆に不安が広まる。今のアイングラウンドは厄災の影響で危険な状態にある。アインクラッドになれなかった大地の破片が空から降ってくる事もあるくらいだ。こんな状況下でプレミアが一人だけ外に出ているなど、危ないどころの話ではない。おまけにもう外は夜だから、尚更危ない。

 

 

「俺、ちょっと探しに行ってくるよ。そんなに遠くには行っていないはずだ」

 

 

 仲間達が少し驚いた様子を見せる。直後にシノンがキリトの許へ歩み寄る。

 

 

「あなた一人で行くの。それなら私達も」

 

「いや、皆には情報収集を頼んでおきたい。まだ情報が必要だと思うからな。リランもユイ達と一緒に内部情報の捜索を頼んだ」

 

 

 キリトはそう言って部屋を駆け出し、家の外へ、草原地帯へと飛び出した。

 

 草原地帯は既に夜を迎えていて、満天の空には銀の粒のような星々が煌めき、星座を描いていた。

 

 

 




 ――原作との相違点――

 ・ジェネシスのリアルに大幅な設定改変が加わっている。

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