キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

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07:可能性のかたち

 

         □□□

 

 

「ほぅ。ティアの姿が私達の知っているモノではなくなったのか」

 

「はい。あれは確かにティアだったのですが、俺達の知らない姿でした」

 

 

 キリト達はノーザスロット氷雪地帯からジュエルピーク湖沼群最北部、キリトの自宅へと帰還していた。ノーザスロット氷雪地帯の迷宮の中で、ある事情に出くわしたすぐ後に、プレミアが頭痛を訴えて気を失ったのだ。

 

 確かに生命ではあるものの、気を失うほどの頭痛に見舞われるなど、ありえない事のはずだった。それが起きたために、キリト達は一旦探索を切り上げて帰還。キリトとシノンとリラン、ユイとストレアにとっての自宅であり、皆にとっては集会所でもあるジュエルピーク湖沼群のログハウスに戻ってくると、留守番をしていたユイが出迎えてきたが、そこに加わる者がいた。

 

 ユイとストレア、リランとユピテル、プレミアとティアを制作した張本人であるイリスだった。なんでもログインするだけの余裕を掴む事が出来たからやってきたのだと、そこでユイが説明してくれた。

 

 そのイリスは気を失っているプレミアに驚いたが、すぐにキリト達から話を聞く姿勢を作った。キリトはアスナとユピテルにプレミアを看病するよう頼みつつ、プレミアを二階のベッドへ向かわせると、早速イリスにノーザスロット氷雪地帯で起きた事の数々を話した。

 

 やはりこれまで沢山の異変と困難にぶつかっては乗り越えてきた仲間の一人という事もあってか、イリスは全く驚く気配もなくキリトの話を聞き続けていた。

 

 

「おかしいねぇ。普通ならプレミアもティアも姿が変わったりする事はないはずだよ。あの娘達の容姿は私が直々に設定したものだからね」

 

「それが変わってるって事は、ティアちゃんにただならない異変っていうのが起きたって事なんでしょうか」

 

 

 心配そうな顔をするシリカにイリスは頷きを返す。イリスにはシリカやそのほかの仲間達の心配は伝染していないようだった。

 

 

「それは追々話すとして、もっと引っかかる部分がある。『わたしの行き着く可能性は、答えの見つける事の出来ない、哀しく寂しいもの』……ティアは確かにそう言ってたんだね」

 

 

 ノーザスロット氷雪地帯の迷宮の中で見つけ出した、《仮面のNPC》と言われる存在の正体はティアだった。

 

 《仮面のNPC》となってしまっているティアにキリト達が接触した後、ティアとプレミアの両名は突然頭痛を起こし、更にティアは《仮面のNPC》から元の姿へと戻った。《仮面のNPC》がティアである事をキリト達に知らしめてすぐにティアは、《仮面のNPC》の姿へと変わってしまった。

 

 その時プレミアは何かを感じたようで、すぐにティアに問いかけた。「この哀しくて寂しい感情はティアのモノ?」と。ティアはそれに頷き、言ったのだ。「わたしの行き着く可能性は、答えの見つける事の出来ない、哀しく寂しいもの」だと。

 

 その言葉を残してティアはその場を立ち去ってしまい、プレミアは気を失った。ティアを追う事も考えたが、プレミアの容体が心配であり、尚且つ情報量が多くなったために、キリト達は帰還を選択したのだった。

 

 

「何なのかしら、ティアの言ってた可能性っていうのは」

 

 

 リズベットが疑問を抱いたような顔で尋ねるが、キリトは答えようがない。あの時プレミアが何かを感じ取っていたようだったが、彼女はまだ回復していない。答えを聞こうにも聞けない状態だから、疑問に拍車がかかっている。

 

 そんなリズベットの質問に答えたのは、イリスだった。

 

 

「少なくともティアの姿が変わっている事と関係しているだろうね。しかしまぁ驚いたよ。まさかティアが独自の変化を起こしているだなんて。私、あの娘には何もしてないよ?」

 

 

 そう言うイリスはどこか嬉しそうだった。ティアはイリスに作られたAIの一人であり、彼女が制作した証でもあるアニマボックスを搭載している。そのティアが母親の手を離れ、独自の変化を遂げて、ある意味成長しているというのは、イリスにとっては喜ばしい事なのだろう。

 

 

「そうだろうな。だが、あの様子だとあいつが自らの意志で変化したようには思えぬ。我やユピテルとは違うケースであろう」

 

 

 イリスに話しかけたリランは元々、今のような姿や能力を持っていたわけではない。自らの破損を防ぐためにアニマボックスの中に様々なデータを取り込み、その影響で今の姿を作り出したのだ。

 

 更にユピテルもアスナのアバターデータを取り込んだ事によって毛色、目の色、性格の一部などがアスナと共通するようになった。これら全てをイリスは最初から知っていたわけではないそうで、「リランとユピテルはアニマボックスの可能性を見せてくれた」と言って嬉しそうだった。

 

 その可能性の塊であるアニマボックスが、ティアの中にもある。そしてそれは今、リランとユピテル、ユイとストレアの時とは全く異なる変異、しかもリランやユピテルのような健全な形とは言えない変化を起こしてしまっている。キリトはそう思えた。

 

 

「どうしてティアちゃんはそんな事になっちゃったんだろう。イリス先生は何かわかりませんか」

 

 

 リーファの問いかけにイリスは首を横に振った。キリトの想像していた反応だ。

 

 

「詳しい話は見て調べてみないとわからないだろうね。けれど、ただならない事が起きているっていうのは間違いない。そうだろう、ユイ」

 

 

 イリスの目線の先、キリト達が戻ってくるまでホロキーボードを操作して調査を行っていたユイが、母親からの言葉に答えた。

 

 

「はい。ティアさんの事も、パパ達が見てきた文字化けした名前の異様なモンスター達も、この世界に起きている何らかの異変によるものです。まだ解析中なのでなんとも言えませんが、世界のあり方そのものに影響が出るほどの大きな何かが起きているのは確かです」

 

 

 ユイとユピテルの解析力の高さは折り紙付きで、データの調査や解析を任せると驚異的な速度でやってのける。そんな彼女達でもまだ解析が完了していないという事は、今回の異変が相当この世界、このゲームの深部にまで届いているようなものである事を意味するのだろう。いずれにしてもまだ時間がかかりそうだ。

 

 そう思ったところで、キリトは気になっていた事の一つを思い出し、イリスに問うた。

 

 

「そういえばイリスさん、プレミアがリランやユピテル、ストレアでも掴めなかったティアの信号を掴んだみたいなんです。そのおかげで俺達はティアを見つける事が出来たんですが、プレミアにはそういうものがあるんですか」

 

 

 イリスはぴくりと反応を示し、下腹部の前で手を組んだ。SAOの時から見ている、イリスの不思議な癖だった。

 

 

「ほほぅ、その機能が役立ったのかい。確かにプレミアとティアにはそういう機能を付けておいてはいたよ。アニマボックス信号とはまた違う、二人だけが感じ取れる信号で交信する機能ね。この世界は私にとっても、あの娘達にとっても未知の世界、何が起きてもおかしくないからね。いざとなった時には互いを感じ取れるようになっているのさ」

 

 

 何が起きてもおかしくない世界――だからこそアインクラッドが誕生したり、ティアの姿が変化したり、モンスター達の形がおかしくなったりするなどの異変が起きている。SAO、ALOはある程度収まった形だったが、《SA:O》は常軌を逸した出来事が沢山起きるようになっているのだ。最早何が起きたとしても驚くに値しないのかもしれない。

 

 

「けど妙だね。その信号はプレミアとティアが意識すればいつでも感知できるようになってるんだけど、プレミアはその時までティアの信号がわからなかったんだろう」

 

「プレミアがティアの位置を掴めたのは、ほんの一瞬だったみたいです。その後はわからない、感じ取れないって言ってて……」

 

 

 シノンの説明を受けたイリスは「ふーむ」と言って壁に寄り掛かった。

 

 

「なんだかプレミアにカーディナルが干渉していた時に似てなくもないね。今度はティアに何かしらの力が働いて、それがジャミングの役割を果たして、互いが検知し合えなくなっている。そんな事を起こさせる原因は――」

 

 

 イリスが言いかけたその時だ。二階から足音が複数聞こえてきて、その場の全員で振り向いた。気を失ってベッドで寝かされていたプレミアと、彼女を看病していたアスナとユピテルが降りて来ていた。一階に足を付けたところで、アスナが皆に声掛けする。

 

 

「皆、プレミアちゃんの具合が良くなったよ」

 

 

 あの時ひどい頭痛に呻いていたプレミアも、すっかり具合が良くなっているようだった。そのためアスナもユピテルも安心した顔をしており、皆もそれに続く。だが、当の本人はすまなそうな表情をしていた。

 

 

「ごめんなさい。わたしのせいで、ティアを再び探し出さなければならなくなりました。わたしがもっとしっかりすれば、こんな事には……」

 

「いやいや、謝る事なんかないよ。君に何もなかったみたいで、安心したよ」

 

 

 キリトが言うなり、皆も同じような顔をしてプレミアに首を横に振ってみせた。プレミアの顔が少しだけ晴れたのを見計らって、シノンがプレミアに近付きつつ声を掛ける。

 

 

「プレミア、あの時あんたは何を感じたの。ティアについて、何かわかった事とかある?」

 

 

 プレミアは胸の前で手を組んだ。何か辛くなるような光景を見たような表情になり、静かに口が開かれる。

 

 

「わたしがあの時感じられたのは、とても寂しい感情です。ずっと一人のまま、自分を見てくれる人が一切いない、哀しくて寂しい思い……それがわたしの中に流れ込んできました。それはティアの可能性だと、言っていました」

 

 

 確かにティアと別れる前、そんな事を言っていた。それを今この時まで気にし続けてきたものの、はっきりとした答えには辿り着けていない。プレミアの言葉に疑問を抱いたのだろう、リーファが挙手するように言った。

 

 

「可能性って、もっとポジティブなイメージがあるけれど、ティアちゃんの場合はそうじゃないって事なのかな」

 

 

 壁から離れたイリスがプレミアに近付きつつ、皆に言葉を掛ける。

 

 

「ティアは世界の全てを破壊しようと思うくらいにまで、人間達に迫害されてきた。人間を簡単に信じられなくて当然と言えば当然だけど、そのせいで自分をかなり追い込んでしまっているのだろう。しかもティアはプレミアが気を失うくらいの頭痛に襲われても尚、誰かに頼らずに、自分一人で何とかしようとしている……」

 

「放っておく事なんかできないね。ティアちゃんを早く追いかけて、ボク達のところに連れてきてあげよう!」

 

 

 やる気満々なユウキに、皆が頷き、「早く追いかけよう」などの声を上げ始める。どんな理由があるにせよ、どんなに拒まれようとも、ティアを放っておく事など出来ないし、放っておいてはならない。

 

 ティアをあそこまで追い詰めてしまったのは自分達人間だ。ティアの辛い思いを無くさせ、清めてやる責任がある。やるべき事は変わっていない。

 

 キリトが改めて確認すると、プレミアが近寄ってきた。いつにもなく、勇敢で強い意志を感じさせる顔色になっていた。

 

 

「キリト、もう一度ティアを追いかけましょう。もしティアが自分の可能性を探し求めた結果が哀しいものに辿り着いてしまうのであれば、わたしは新しい可能性を探し出したいです。ティアにもう辛い思いをさせない可能性に、導いてあげたいです」

 

「俺達も同じ気持ちだ。ティアは今もきっと辛い思いをし続けているはず。早くそんなところから抜け出させてあげないとだ。もう一度ノーザスロット氷雪地帯に探索へ向かおう」

 

 

 プレミアだけではなく、皆に聞こえるように言うと、仲間達全員が声を合わせて「おぉっ!」と返事をしてくれた。誰もがティアを救う気いるようだ。いや、これが全て自分達人間の仕業の責任であるという事を、誰もが理解してくれている。

 

 こんな仲間達が一緒に居てくれるのだから、きっとティアを探し出した後、彼女の思いを浄化してやれるはずだ。想像以上の強い意志と希望を抱けたキリトは、心強い仲間達と共にもう一度ノーザスロット氷雪地帯へと飛ぶべく、転移門を目指した。

 

 

 キリト達の家の周囲にある小さな町の転移門から、ノーザスロット氷雪地帯へと転移する事は出来た。ティアと出会った迷宮の中間地点が、丁度転移地点に記録されていたのだ。もしかしたら最初から探索し直しになるかもしれないと思っていたので、これには助けられた気になった。だが、安心など出来ない。迷宮の中は身体の崩れた亡者達が歩き回っており、侵入者を見つければ容赦なく襲い掛かってくる。

 

 この中で頭痛に襲われたら、ティアだって一溜りもないのは明らかだ。キリト達は急いでティアを探し出すべく、パーティをいくつかに分けての探索に乗り出た。最早四の五の言っている場合ではないと伝わったのだろう、誰も文句を言わず、分散探索を開始してくれた。

 

 その中でキリトは自分を含めた四人パーティを組んだ。キリト、シノン、リラン、プレミアの四名。これまでフィールドを探索する時によくやっていた組み方だ。これはキリトとシノンとリランという三人に守られる事で、プレミアは心配なく探し物をする事が出来る構成である。

 

 この中のプレミアは、これまでずっと導いてくれて、その先に重要なモノを見つける事が多かった。今はそうではないかもしれないが、淡い期待を抱かざるを得ず、キリトはこの四人パーティで進む事にした。

 

 身体を欠損させておかしくなっている亡者達を斬り倒しながら進んでいくと、迷宮の出口に差し掛かった。外に出てみたところ、辺りはすっかり夜になっている事が確認できた。分厚い雪雲に覆われていた空は解放されて、金の粒のような星々が煌めき、真ん中で満月が主役を取っている。

 

 ウインドウを開いて時刻を確認すれば、午後六時三十分付近。夕食を摂らなければならない時間であったが、とてもログアウトしている余裕などない。夕食のためのログアウトは、ティアを見つけ出してからでいい。事は刻一刻を争う。キリトは急ぎ足になって、迷宮の外へと伸びる橋を渡ろうとした。

 

 橋は迷宮に入る前にあったものと同じような自然物だった。手摺(てすり)も装飾も何もない。もし強風に吹かれて足を滑らせようものならば、谷底へ真っ逆さまだろう。来た時のように気を付けて渡ろうとしたその時だった。

 

 前方に黒い影が見えた。キリト達は瞬時に武器を抜く姿勢を作る。黒い影は先程まで相手にしてきた亡者達と同じくらいの大きさしかないからだ。それがこちらに向かって走ってきている。

 

 遠くにいる亡者のうちの一匹の気を引いてしまったか。もしそうならば、その亡者は遠くにいる獲物も感じ取れる、いわば中ボスクラスのそれであろう。こんなに狭い場所で闘うのは危険だが、やるしかあるまい。キリトは立ち止まって迎撃姿勢を作ったが――。

 

 

「……!!」

 

 

 亡者のような人影は予想以上に目の前にまでやってきて、得物を振るってきた。中ボスクラスでもここまでの速度を出せるのはそうそう居ない。まさか異変に巻き込まれる形で、異常な強化をされたのか――一瞬のうちに思考するキリトに、刃が襲い掛かった。

 

 

「キリトッ!!」

 

 

 しかしその刃はキリトを襲う事なく、何か鉄のような硬い物に衝突したような金属音を立てて止まった。しかもその直前で声がして、更に目の前に何かが躍り出ていたから、キリトは驚くしかなかった。ようやく起きた事が確認出来た時には、目を見開いてしまった。

 

 

「プレミア、それにティア!?」

 

 

 向かってきた人影の正体は、黒いローブを纏って白い仮面を付けた女性。まさしくキリト達の探していたティアであった。それが振るう大剣を、何倍も細い剣で、プレミアが受け止めていた。

 

 

「ティア、どういう事!?」

 

「ティア、やめろ!」

 

 

 驚くシノンとリランが声を上げても、ティアは答えない。仮面のその下にある目は、鍔迫り合いをしているプレミアに向けられていた。目がこちらに向けられているのがわかったように、プレミアは口を開く。

 

 

「ティア、見つけました……!」

 

 

 ティアはぎりぎりと歯を食い縛った後に返事をする。声にも身体にも、強い力がかかっているようだった。

 

 

「言ったはず。わたしに関わるなと。わたしを探すなと。なのに何故、わたしを追い回してくる」

 

「関わるなというのは無理な話です。わたしはあなたを連れ帰りに来ました。あなたに、わたしに起きている事の真相を知るために」

 

「知ってどうする」

 

「助けます。それで、あなたの哀しい可能性を、別なものに上書きします。わたしはそのためにここに来ました」

 

 

 プレミアに言われた事が予想外だったのか、ティアがプレミアに若干押される形になる。しかしすぐにティアは姿勢を戻し、丁度半々のところまで押し返した。

 

 

「これはわたしの可能性が起こした問題だ。つまり、わたし自身の問題」

 

「それなら、尚更放っておけません。あなたの問題ならば、わたしの問題でもあるからです」

 

 

 次の瞬間、ティアはぎりっと歯を強く食い縛り、プレミアを押し込みをかけた。プレミアは身軽にバックステップして細剣を構え直し、ティアから距離を取る。

 

 

「知ったような口を利くな! 自分だけ幸せな可能性に辿り着いて、満足しきってるあなたに、何がわかる! 人間に認められて、迫害も何もされなかったあなたなんかに!!」

 

 

 その一言にキリトは声を詰まらせる。プレミアはティアとは真逆で、人間に迫害されるような事はなかった。自分達が保護して、愛情を注いでやったからだ。

 

 そしてティアは誰にも手を取ってもらえず、唯一信用出来たジェネシスも、唯一の友人だったアヌビスも失った。そんなティアからすれば、プレミアの言葉はどれでも怒りを抱けるのだろう。ティアをそんなふうにしてしまったのはやはり、自分達人間に他ならない。

 

 今のティアの姿は、この《SA:O》で人間の犯した罪が形を持ったものだ。キリトにはそう思えて仕方がなく、胸の内がきりきりと痛む気がした。そんな人間であるキリト達の前に、盾のように立ち塞がったプレミアは、首を縦に降った。

 

 

「……はい。だからこそ、わたしはあなたを放っておけないのです。あなたが哀しい可能性に辿り着くのを、防ぎたいのです。もしあなたがそれを拒もうとするならば、無理矢理にでも受け入れさせます。そしてあなたに教えてあげます。人間を憎んだりする必要なんてない事を!」

 

「邪魔をするならば、例えあなたであろうと、斬る……!!」

 

 

 そう言って大剣を構え直したティアからは、明確な怒気と闘気が感じられた。ティアは本気でこちらと斬り合うつもりでいるらしい。例え家族であるプレミアが相手の中にいるのだとしても容赦しないつもりだろう。このままでは拙い――そう思ったキリトが剣を抜こうとしたのを、プレミアが腕を出す事で引き留めてきた。

 

 

「ティアがその気ならば、わたしは受け入れます。わたしも剣を振るって、あなたがわたし達を斬ろうとするのをやめさせます。わたしはあなたを助けたい……その気持ちだけは本物であると、自信を持って言う事が出来ます!」

 

「プレミア、まさかティアと戦うつもりなのか!?」

 

 

 遠い姉であるリランからの問いに、プレミアは頷いた。そのまま少しだけ顔をこちらに向けてくる。

 

 

「わたしはキリトとシノンとリランと、皆から色々な事を教わって強くなりました。わたしには今、大きな力が宿っています。その力を持って、苦しんでいる姉妹を救いたいです。だから、やらせてください」

 

 

 そう告げたプレミアの声には強い意志が込められていた。これまで聞いてきた中で最も強いものだ。そんな声を出せるほどに、プレミアは強く成長していた。そんなプレミアの邪魔をするような事は、キリトは出来そうになかった。

 

 その様子を察したのか、プレミアは続ける。

 

 

「それに、キリト達がティアを斬ってしまったら、ブルーカーソルというものになってしまいます。けれど、わたしが戦うのであればその危険はありません。なので、ここはわたしの出番です!」

 

 

 最早プレミアは誰に引き留められても止まらないつもりだろう。同じように止まらないつもりのティアを止める事が、今自分のなすべき事であると思っているのだ。キリトは深呼吸の後に剣を鞘に戻し、一歩下がった。

 

 

「わかった。プレミア、ティアの事を頼んだ」

 

「ちょっと、キリト!?」

 

「あいつらに戦わせるというのか!?」

 

 

 シノンとリランの驚きは予想の範囲内だった。キリトは続ける。

 

 

「ただし君が危なくなったら、俺達は助けに入るからな。バックアップは任せておいてくれ」

 

 

 プレミアが少しだけ笑むと、シノンとリランは事情を把握したような様子になった。そのままプレミアが正面に向き直ると、ティアがぶんと大剣で空を斬った。

 

 

「わたしの可能性はわたしが決める……人との可能性に満ちれたお前に、踏み入れさせてたまるものかッ!!」

 

 

 咆吼したティアは、地面を蹴ってプレミアへ走った。

 






――原作との相違点――

・ティアとプレミアが戦う。原作ではキリトとティアが対決する。

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