キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

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12:平穏

         ◇◇◇

 

 

 俺はシノンとユイを連れて一回に降りると、いつもの椅子に座って、届いていた新聞を広げたが、そこで少し驚くべき出来事に出くわした。見出し記事に、57層のボス戦の攻略が完了し、58層への道が開かれたというのが書かれていた。

 

 今回のボスはクォーターポイントを彷彿とさせるくらいに強いボスであったが、ヒースクリフ率いる血盟騎士団が余裕の戦いを見せ、見事に撃破したとの事だ。

 

 普通ならヒースクリフが出てくる事はなく、アスナが血盟騎士団を、ディアベルが聖竜連合を率いて、その中に俺とリランが参加して戦うのがセオリーであり、最も安定した戦い方だ。

 

 今回はアスナもディアベルも俺さえも参加していないパーティなのに、ヒースクリフは血盟騎士団の精鋭部隊を率いて、死亡者を出さずにクリアしたという。

 

 流石血盟騎士団の長だと思うが、あまりに規格外すぎじゃないかと思う時がある。

 

 このアインクラッドで暮らすうちに沢山の謎に出くわして、未だ解けずにいるが、その中にはリランの事とヒースクリフの事がある。

 

 リランはこれまで何度も思った通り、NPCであるはずなのに、心を持っていたり、喋ったりでき、クォーターポイントのボスと互角に張り合えるくらいの力を持っているなど、これまでアインクラッドで見る事のなかった特性をいくつも持っている。

 

 本人に尋ねても、記憶を喪失してしまっているので詳しい話を聞く事ができないでいるし、ここまで登って来たというのに、リランは一向に記憶を取り戻せないでいる。リランが本当に何者なのかというのは、正直早く解き明かしてしまいたい事柄だといつも思う。

 

(……あいつは)

 

 そしてもう一つは、血盟騎士団のヒースクリフだ。アスナと仲良くなってから、ヒースクリフの話も時折聞くようになったが、同時にヒースクリフがかなりの謎に包まれた存在である事がわかってきた。

 

 まずヒースクリフは、ボス戦やダンジョン攻略に滅多に顔を出してこない。血盟騎士団のボスだから、様々な事情があって出て来れないのだろうと思うけれど、それにしてもあまりに出なさすぎだ。

 

 目の前で部下たちがボス戦を繰り広げているというのに、長である自分はほとんどボス戦に参加しないなど、まるで傍聴席に座ってボス戦の話を聞いたり、眺めているような感じだ。

 

(いや)

 

 それだけじゃない。アスナによると、ヒースクリフはアインクラッド最強の剣豪と呼べるくらいに戦闘能力が高く、このアインクラッド中のどこを探しても、ヒースクリフの体力が警戒を示す黄色に変色したところを見た事のある者はいないという。

 

 普通、どんなプレイヤーでも攻撃を受ければ体力が減るし、場合によっては色が黄色になったり、危険を示す赤になったりする。これに例外はない。

 

 だからいくらヒースクリフが強いからって、色が黄色になるまで減った事が無いなんて事は基本的にありえないはずだ。

 

 なので色が黄色になった事が無いというのは、単純にHPが減ったらすぐ回復をしているのか、そもそも攻撃を受けないようにしているか、自動回復スキルを俺よりも強くしているかのどれかが理由だ。

 

 しかしアスナによれば、ヒースクリフはほとんど回復アイテムを使わず、飛んで来る攻撃も回避する事もあるけれどほとんど盾で受け止めており、自動回復スキルも人より低い数値になっているという。

 

 まず、回復アイテムを使わないという事は、体力が減っても回復をしないという事であり、普通にやれば、戦っているうちに様々な要因で体力が黄色に変色してしまうような行為だ。

 

 そして盾で受け止めるというのもそうだ。このゲームでは、盾で攻撃を防ぐという事は、あくまで受けるダメージを極力減らすだけであり、完全に無効化するわけではない。だから攻撃を受け続ければ、体力はみるみる減っていくし、そのうち黄色に到達する。

 

 ……が、これを防ぐ方法ならある。俺とリラン、ついでに言えばシノンも取得している自動回復スキルだ。

 

 自動回復スキルは、強化すればするほど、その回復量が増すようになっている。このスキルを使えば、確かに盾で攻撃を防いですぐに回復、防いですぐ回復を繰り返す事になり、事実上体力を減らさないでいられる。

 

 しかし、アスナによればヒースクリフの値は、人よりも少ないものであり、自動回復の量もそれに伴っている数値だという。

 

 これらの事から考えて、どんなにヒースクリフの腕前がすさまじいとしても、激しい戦闘を繰り広げて体力が黄色まで減らないなんて事はあり得ない。

 

 例えディアベル以上の指揮能力や、アスナ以上の戦闘能力を持ち合わせ、更にユニークスキルなんてものを持ち合わせていても、だ。ヒースクリフのこれまでの経歴は、明らかにおかしすぎる。

 

 リラン並み、いや、リラン以上にヒースクリフは謎めいた存在だ。この存在のおかげで、まるで喉に小骨が常に引っかかっているような不快感に襲われてならない。アスナに言えばコンタクトが取れるだろうか。とにかく一刻も早く、ヒースクリフが何者であるかを解き明かしたい。

 

 だけど今はアスナもリランも――。

 

「ぱ。パパ。パーパぁ」

 

 小さな女の子が出すような声で、俺はハッと我に返った。何事かと周囲を見回してみれば、すぐそこに大きくてくりくりとした愛らしい黒色の瞳の、10歳前後に見える女の子の顔があった。

 

 あまりにすぐ近くにあったものだから、俺は思わず驚き、その名を呼んだ。

 

「ユ、ユイ」

 

 近くには俺のために作ってくれたであろう、赤いソースのかかったサンドイッチの入った皿を右手に、ユイのために作ったのだろう、ホットケーキの入った皿を左手に持ったシノンの姿もあった。顔には少し呆れたような表情が浮かんでいる。

 

「キリト、また考え事をする時の姿勢をしてたけれど、もしかしてまた考え事の世界に入り込んでたの?」

 

 思わず苦笑いする。リランとヒースクリフの事について考えていたら、いつの間にか考え事の時の姿勢をして、そのまま深いところまで入り込んでしまったらしい。シノンが呆れたような顔を、ユイがつまらなそうな顔をしていて当然だと思えた。

 

「ごめんごめん、57層のボスが倒されたらしくてさ、ボス戦がどんなふうだったとか、出て来たボスがどんな奴だったとかを考えてたら、ついつい深いところまで耽っちゃって」

 

 シノンが軽く溜息を吐いて、苦笑いに似た微笑みを浮かべながら歩き出し、俺の近くのテーブルにサンドイッチの入った皿を置いた。

 

「あなたの考えは時にすごい結論を招いたりするから、聞いてて嫌いじゃないけれど、あまり深く入り込みすぎて戻って来れなくなるような事はやめてよ。特にバトル中は絶対に考え事の世界に入り込まない事」

 

「イエス、マム」

 

 シノンがもう一度溜息を吐いた直後、いきなりユイが顎に手を添えて、何かを考えるような顔をして、俺達は思わず注視してしまった。

 

 ――すぐさま、考え事をしている時の俺の姿勢そのものだと気付いて、シノンが苦笑いしながらユイの傍にホットケーキの乗った皿を置いた。

 

「こらユイ、パパの真似しないの。それでほら、ユイのご飯はこれね」

 

 ユイはすぐに俺の真似をやめて、シノンのおいたホットケーキを見つめた。それと同時に、俺はシノンが用意してくれたサンドイッチを一口(かじ)る。

 

 中身はチーズとチキン、レタスが入っていて、その上からチリソースがたっぷりかかったものであり、三種の素材の風味と、チリソースの強い辛みが混ざり合って、とても美味しい。普通の人なら辛いと言って顔を顰めてしまうくらいだが、俺からすれば丁度いいのだ。

 

 俺の好きな味を理解してから、シノンは時折俺用と自分用の二食を作るようになって、こうして俺用に辛い料理を出してくれる。

 

 「そんな二度手間かけなくたって大丈夫だよ」と言ったけれど、「あなたは辛いものが好きなんだから、辛い物が食べられる方がいいでしょ、この世界の料理は手順が簡単だから、そんなに重作業でもない」と言って跳ね除けてしまった。

 

 だからこうしてわざわざ辛い料理を作ってくれるんだけど、面倒をかけているような気がして、時折申し訳なく思う。が、やはりシノンの作る料理は辛かろうがそうではなかろうが、とても美味しいので、辛くても辛くなくてもいい。

 

 そんな事を考えながらサンドイッチを口に運び、新聞にもう一度目を向けたその時に、俺は妙な視線を感じた。

 

 時々シノンが目を向けてくる事はあるけれど、これはシノンによるものではない。一体何者かと思ったその時に、俺は視線の正体がユイである事に気付いた。

 

 しかもユイの視線は俺ではなく、俺の手に持たれているサンドイッチに向けられている。

 

 ――かなり興味深そうな顔をして。

 

「ユ、ユイ。これはかなり辛いんだぞ。お前には無理だって」

 

 ユイはじっと俺の手元を見つめたままだったが、そのうちシノンが声をかける。

 

「ユイのはこっちのホットケーキよ。早く食べなさい」

 

 ユイはホットケーキとサンドイッチを交互に見つめた後に、俺に言った。

 

「パパとおなじのがいい」

 

 二人で「えぇっ」と言ってしまった。いくらユイが欲しいとはいえ、このサンドイッチは辛めに作られている。

 

 これは普通の人でもかなりの反応を示すものだし、あのリランでさえも難色を示して食べたがらない代物だ。ましてや味覚が発達段階にある子供のユイからすれば、とてつもなく辛く感じるものだろう。

 

 だけど、ユイの瞳はかなり切実に俺の食べるサンドイッチを求めているように感じられた。

 

「仕方のない奴だ。そこまで言うなら俺は止めん。何事も経験だ」

 

 そう言って、俺はサンドイッチをユイに渡した。ユイはさぞ嬉しそうにサンドイッチを受け取って、目を輝かせていたが、すぐ傍でシノンが軽い悲鳴を上げる。

 

「ちょっとキリト、それはユイにあげていいものじゃないわよ!」

 

 シノンが止めに入ろうとしたその次の瞬間に、ユイは「あむっ」と言って、俺用に作られたサンドイッチにかぶりついた。二人でじっとユイを見つめていると、ユイは少しずつ顰め面をしていき、最終的に口の中のサンドイッチを呑み込んで、ぎこちなく笑んだ。

 

「お、おいしい」

 

 辛いとか拙いとか言い出しそうだったのに、美味しいという言葉がユイの口から出てきて、俺は思わず驚いた。なかなか根性のある子のようだ、ユイは。……俺用の料理を口にして悶絶しかけたリランよりも、もしかしたら根性があるかもしれない。

 

「なかなか根性があるじゃないか。なら今晩は激辛フルコースに挑戦するか」

 

 そう言いながら頭を撫でてやると、ユイはにっこりと笑んで「うん」と頷いたが、即座にシノンが、

 

「そんなものは作らないわ。調子に乗らないで」

 

 と言って却下してしまった。それに二人で苦笑いしたそのすぐ後に、ユイは再び眠気を覚えたようで、眠りに就きそうになっていた。

 

 そこですぐさまシノンが横長のソファに腰を掛けてユイを手招きする。ユイはふらふらと近付いていって、そのままシノンの胸に倒れ込むと、シノンはユイの身体をゆっくりと動かして、頭を自らの膝に乗せさせた。

 

 ユイはシノンの膝に頭を乗せると、余程気持ちが良かったのか、すぐに穏やかな寝息を立て始めた。

 

 本当に娘が出来たような感じがして、心の中に複雑な思いが出て来た直後に、シノンが顔を上げて、片手で覆った。

 

「……久々にどうしたらいいのかわからないわ……」

 

 思わず頷く。ユイの様子を見る限りでは、ユイはリランと同じ……いや、リラン以上に甚大な記憶喪失になっているようだ。それに、見た目は10歳前後に見えるけれど、ユイの言動を見ていると、10歳の子供というよりも、もっと下、幼児と同じくらいに見える。

 

「記憶はないみたいだけれど……まさか親を殺されたショックで記憶喪失になって、精神年齢が逆行したとか……」

 

「……考えたくないけれど、あり得そう……」

 

 ユイの記憶喪失の重度がどれくらいなのかわからない。もしリラン程の重度だった場合は、そう簡単に記憶を取り戻す事は出来ないだろう。

 

 そしてそれまで、このユイをどうするべきか。親兄弟がいたとしても、ユイ本人がこの有様じゃどうにもならなそうだし、何よりユイは俺達をパパとママと呼んでいるような状態。多分引き離そうとしても、俺達を本当の親だと思って付いてきてしまうだろう。

 

「ユイの記憶が戻るまで、面倒を見てやりたいって思う。だけど、俺達はあくまで休暇をしているわけであって、ずっとこの状態で入れるわけじゃない。今は遠いところにいるけれど、いずれは前線に戻って攻略を再開しなければならないしな……そうなったらこの子をどうするべきなのか……」

 

 こんな時、こんな時にリランがいたらどんなことを提案してくれるだろう。

 

 リランは基本俺達の話を聞いてくれる一方だけれど、こうやって行き詰った時は、提案をしてくれる。もし今リランがいたら、ユイについて何かしらの提案をしてくれるだろうけれど、今はリランも休暇中でアスナのところに行っている。

 

 リランに会うにはアスナとコンタクトを取る必要があるし、そもそもユイをアスナに会わせる事になるから、どんな事になるか。

 

「こんな時……リランがいてくれればいい知恵出してくれそうなのに……」

 

 シノンの方を見て、少しだけ驚いた。やはりシノンも同じような事を考えていたらしい。

 

 ならば、やはりやるしかない。

 

「わかった。リランを呼び戻そう」

 

「えぇっ。リランは今アスナのところにいるのよ。アスナが一緒に居たいって言ってるのに、無理矢理引きはがすような事をするの?」

 

「違う。アスナと一緒に行動するんだ。アスナと一緒になってユイと一緒に過ごし、リランからいいアイディアをもらう。それで家に帰ったら俺とシノンとユイの三人に戻り、昼間になったらアスナと合流して、一緒にユイについて探すんだ」

 

 シノンがいまいち理解していないような顔になる。

 

「えっと……わかったような、わからないような。でもリランのところに行って、ユイの事について意見をもらうのは、やるのね」

 

「そういう事さ。アスナには少し悪いけれど……俺、今回はいいアイディア出そうにない」

 

 シノンが呆れたような顔をしたが、すぐさま納得したように頷いた。

 

「私も同意見。でも、なんでかな」

 

「なにが?」

 

 シノンは膝の上のユイに手を伸ばし、その髪の毛をそっと撫でた。

 

「不思議と、この子ともっと一緒に居たい、過ごしたいって思ってる。本当は駄目なんだろうけれど……私はこの子と一緒に居たいわ」

 

 俺も同意見だった。パパと呼ばれて悪い気はしなかったし、何よりユイはまるで我が子のように可愛く感じる。いずれリランが戻って来るけれど、俺、シノン、ユイ、リランの四人での暮らしはどんなに楽しいものになるのか、明るい想像が掻き立てられる。

 

 だから正直、ユイの親兄弟が見つかったとしても、ユイと一緒に居たいと思う。

 

「俺も同じ気持ちだよ。でも一応、ユイについて知っておかなきゃ。親兄弟の事も、ユイ自身の事も」

 

「そうね。ユイの事がわかったら、これからの事を考えましょうか」

 

「よし、それじゃあ早速リランの居場所を……」

 

 確認しようとして、俺は目を丸くした。ウインドウを開いてリランの居場所を探してみたところ、リランは第22層に来ていて、俺達の家のすぐそばに来ているのだ。そしてすぐ近くにアスナの反応も検知されている。

 

「あれ、リラン、ここにきてる」

 

 シノンがきょとんとする。

 

「えっ、リランが来てるの?」

 

 直後、玄関の方から戸を叩く音と、声が聞こえてきた。

 

「キリト君、シノのん、いるー!?」

 

 噂をすればと言わんばかりのアスナの声だった。

 

 これから会いに行こうと考えていたのに、まさか向こうから来るなんて。俺はすかさず立ち上がって、玄関の方へ向かったが、そこで既にアスナの持つプレイヤーの気配と、リランだけが持つ《使い魔》独特の気配を感じた。間違いなく外にあの二人がいるようだ。

 

 玄関の戸を開けてみると、やはりと言うべきか、当然と言うべきか、アスナの姿がそこにあった。その服装は薄黄色の長袖のセーターと、薄茶色の膝の下まであるスカートというこれまで見た事のないものだった。

 

 だけど、その恰好とは裏腹に、アスナの顔はどこか青白く見える。

 

「アスナ、どうしたんだ」

 

 アスナはいきなり俺に頭を下げた。

 

「ごめんなさいキリト君! リランが、リランがね!」

 

「お、落ち着いてくれ。どうしたっていうんだ。リランがネギでも食べたか?」

 

「そうじゃない、もっとすごい事になっちゃって……」

 

 アスナがそう言った直後、アスナの背後にふわりと何かが落ちてきた。何事かと思って家から出て見てみれば、それはかなり大きな羽毛だった。それこそ、俺の足の先から胸のあたりまで届くくらいに巨大だ。

 

「これは一体……」

 

「そ、それは……」

 

 アスナが言おうとした直後に、耳元に何かが羽ばたくような音が聞こえてきた。まるで大きな鳥が羽ばたいているような音だったが、同時にそれはモンスターが出せるような音だった。

 

 この層は基本的にモンスターが出ないから、そんな音が出ないはずなのに――そう思った直後に、俺の目の前に何かが落ちてきて、凄まじい風が吹き付けてきた。

 

 吹き飛ばされそうになってその場に踏ん張り、目を腕で覆って、目の前の光景が少しの間解らなくなった。

 

 一体このモンスターのいない22層に何が現れたのかと思って目を向け直したその時に、俺は思わず声を上げて驚いた。

 

「ってええええええ!!?」

 

 目の前にいたのは、白金に輝く鎧と言っても差し支えのない豪勢な甲殻に身を纏い、背中からひときわ大きな羽のある羽毛の翼を、まるで金髪の女性のそれと同じような鬣を頭の周囲に生やし、肘や脚の後ろの方から金色の毛を生やしているが、腹、胸、頭は白金色の毛に包まれていて、尻尾が大剣のようになっていて、額からも大剣のような角が生えている、狼の輪郭を持った赤い瞳のドラゴンだった。

 

 そしてそのドラゴンが、今は俺から離れてはいるけれど、今から探しに行こうと考えていた相棒のリランであるという事に、俺は額の剣と赤い瞳と狼の輪郭で気付いた。

 

「り、リラン!? リランなのか!?」

 

 俺の言葉の直後に、頭の中に聞き覚えのある、年配の女性の声色に似た《声》が聞こえてきた。

 

《そうだとも。思ったより早い再会になったな、キリト》

 

「どういう事だ、お前この前と比べて全然違う姿になってるぞ!」

 

 俺は咄嗟にウインドウを開いてリランのステータスを確認した。リランの能力値は俺と別れる前よりも3倍ほどの数値に膨れ上がっており、名前も《Rerun_The_SaberDragon》に変化している。

 

 これは進化だ。リランは俺が見てない間に進化をしたんだ。姿も名前も、そして能力値さえも変わっているという事は、進化した事に他ならない。だけどアスナも休暇中だったはずなのに、どうしてリランは進化出来たのだろうか。考え込もうとしたその時に、アスナが声をかけてきた。

 

「キリト君、これってどういう事なの、何だか急にリランの姿が変わっちゃって……私、特にこれと言った悪い事してないよ!?」

 

 そういえば、アスナにリランが進化するドラゴンである事を話すのを忘れていた。だからリランが進化した事にこんなに焦ってるのか。

 

「落ち着いてくれアスナ。実はリランについて話し忘れてた事があるから、家に招待するよ。そこでゆっくり話すし……」

 

 俺はアスナからリランに向き直した。姿が変わっているけれど、その頼もしい眼差しが、リランから消えてはいなかった。

 

「リラン、お前にも相談があるんだ。お前がいない間に、重大な問題が起きた」

 

 リランの顔がどこか険しいものになる。

 

《何があったのだ。ひとまず中に入って話を聞こう》

 

「いや、その()()()()()()が中に居るんだ」

 

《なにっ?》

 

 俺は背後にある家の方に目を向けたが、そこである事に気付いた。いつの間にか問題そのものであるユイが目を覚ましてシノンと一緒に玄関先に立ち、きらきらとした目でリランの事を見つめていた。

 

《幼子……?》

 




ユイとリラン。

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