キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

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 沢城みゆきさんの演じたキャラクターの人気ランキング、二年連続でシノンであるとの事。

 そのシノンを本作のメインヒロインにして、本当に良かった。
 


12:毒髑髏 ―敵との戦い―

 

          □□□

 

 

 最悪のタイミングの会敵だった。この地下遺跡のエネミー達と戦い、更に鰐型戦機と戦い、数々のレアアイテムを手に入れた後である今は、なるべくエネミーと戦わずに街へ戻りたい状態だった。

 

 しかしそこで(シャチ)達が現れたのだから、キリトは溜息を吐きたいどころではなかった。

 

 まさかここで、このタイミングで鯱達と出会ってしまうだなんて、なんてついていないのだろう。レアアイテムを沢山手に入れられたのだから、今日は幸運を呼べていると思っていたが、不運も一緒に呼んでしまっていた。

 

 

「ほぉらぁ、遊んでいってよぉ」

 

 

 黒髑髏の青年――と思わしき男――が言い出すと、周りの鯱達が一斉に飛び出して来た。人数は六人、そのうち三人が大型ナイフ、そして残りがアサルトライフルで武装している。この前遭遇した時と同じ装備を使用しているようだ。

 

 そこにキリトはほんの少しだけ安堵した。もし鯱達の武装が変わっていたのであれば、戦術や戦法を大きく変えなければならなかったし、最初の一回でそれを把握するのは極めて難しい。前に襲撃を受けた時は辛うじてなんとかなったが、もう少しでやられるのは目に見えていたくらいだった。

 

 今回は二回目であり、鯱達の動きや癖はほとんど把握できている。なので前よりも上手く戦える。可能であればここから逃げ出したいけれども、あの鯱達の追撃を振り切るのは極めて困難だとわかる。

 

 そして自分達の戦力はここで手に入れた武器によって大きく底上げされている。こうなったら最早、戦って勝利する他ない。

 

 

「キリト!」

 

「キー坊!」

 

 

 フィリアとアルゴが掛けてきた声に、キリトは応じた。新たな光剣である《氷雨》を引き抜き、USPも一緒に構えた。

 

 

「皆、戦うぞ! こいつらの事は倒すしかない!」

 

「だろーナ。おれっちでモ、こいつらから逃げるのは無理だってわかるゾ。どうせダ、こいつらの情報を集めておいてみるカ」

 

 

 アルゴが《グロック21》を構え、鯱達へ向けて発砲した。放たれた弾丸は鯱のうちの一人を捉えていたが、鯱はそれを恐るべき跳躍力で回避して見せた。

 

 まさか銃弾を(すん)でで回避されるとは思っていなかったのだろう、アルゴはすぐに「ナッ!?」と驚いた。

 

 そのアルゴへ鯱の一人が大型ナイフで斬りかかったが、その間にキリトは躍り出て光剣による一閃を放つ。ダークリパルサーを思い出させる色合いの光の刃が鯱の一人の胴体を斬り裂き――その《HPバー》の中身の半分以上を一瞬で奪い取った。

 

 つい先程まで使っていた《カゲミツ》ではここまでの威力を出す事は出来なかった。やはり《氷雨》は非常に高い攻撃力を持った光剣らしい。なんて頼もしいものを拾う事が出来たのだろう。

 

 キリトは驚き、心を躍らせたかったが、すぐに我に返った。斬り込まれた鯱の一人はまたしても驚くべき速度で跳躍し、後退していったのだ。すかさず別な鯱が大型ナイフを持って襲い来る。しかもその数は二人。大型ナイフ持ちの《前衛》は全員キリトを狙っていた。

 

 

「――ッ!」

 

 

 キリトは右側から来る鯱にUSPの銃弾を浴びせて、左側から向かってきた鯱に光剣による斬撃を入れた。やはりというべきか、光剣で斬られた鯱の方が大きなダメージを負っていた。USPに撃たれた鯱は一旦後退してから、バネのような弾み方で飛び掛かってきた。

 

 手に持たれている鉈のような大型のナイフがキリトへ襲い来るが、キリトは咄嗟に鯱の腕元を狙って光剣を突き出した。大型ナイフがキリトの腹部を抉り、キリトの光剣が鯱の手元を貫く相打ちになった。

 

 体勢を崩したのは鯱の方で、大型ナイフを地面へ落として無防備になる。隙だらけになった鯱に向けてキリトはUSPの弾丸を浴びせた。放たれた弾丸は真っ直ぐ鯱の頭を撃ち抜き、やがてその頭上に戦闘不能を示すアイコンを出現させた。

 

 まずは一体片付けたが、倒したわけではない。ここに他の鯱が来れば蘇生させられてしまい、結局振出しに戻ってしまう。リセットを防ぐには、迅速に鯱達を全滅させるしかない。そのリセットを行うべく、二人の鯱が向かってきていた。いや、どちらかと言えば仇討ちしに来たのかもしれない。

 

 いずれにしても向かって来た鯱を、キリトは光剣で横薙ぎした。一人にはバックステップで離脱されたが、もう一人を斬る事には成功し、斬られた鯱もまた戦闘不能になって倒れた。そこでキリトは逃げた鯱を追撃する。

 

 仕掛けてきたのをカウンターするだけではなく、こちらからも向かって行かなければ埒が明きそうにない。勝つなら打って出ねば。そう考えて走り出したキリトの足元を、後衛に廻っている鯱が持つアサルトライフルからの弾丸が襲った。

 

 鯱達の前衛を倒しても終わりではない。後衛も倒さなければならないし、何よりこの空間を満たす悪意の根源である黒き髑髏の仮面も倒さなければならない。順番は前衛の全撃破、後衛によるそれらの蘇生の阻止、そして黒髑髏の撃破だ。

 

 一瞬のうちに練り上げた作戦をキリトは頭の中に閉じ込める。間もなくして鯱達の射撃がキリトの胴体付近を狙ってきたが、そこでキリトは光剣を回すようにして振った。

 

 まるで吸い込まれるように弾丸が飛んで来たかと思うと、全て光剣の刃で弾き飛ばされていった。

 

 

「えぇッ!?」

 

「キリトッ!?」

 

《なんだと!?》

 

 

 フィリア、シノン、リランの順で驚く声が聞こえてきた。まさか自分が飛んできた弾丸を光剣で弾くとは思ってもみなかったのだろう。

 

 この光剣を持ってからだろうか、飛んでくる銃弾の軌道、速度が読めるようになった。弾丸の軌道を読めるのは《弾道予測線(バレット・ライン)》が出ているから当然なのだが、《弾道予測線》が見えてから、どのタイミングで剣を振るえば被弾を防ぐ事が出来るかがわかるようになったのだ。

 

 どうしてこのような事が出来るようになったのかは定かではない。もしかしたらこの光剣《氷雨》にそのようなエキストラスキルが付与されているおかげかもしれないし、経験値を溜めた事によってスキルが発現したのかもしれない。

 

 いずれにしても確認している余裕はないが、光剣で銃弾を弾く事が出来るのがわかったのは大きい。自信が(みなぎ)ったような気がして、キリトは強く地面を蹴って鯱を追った。

 

 キリトの狙う前衛担当の鯱は、追い付いてきたキリトへ向けて、何も声を出さずに大型ナイフを振るってきた。直接的な声を出さず、声のような音を出すシャチの生態をなぞっているかのようだ。その刃に向けて光剣で応戦すると、刃は美しい円弧を描き、鯱の大型ナイフの刃を叩き斬った。

 

 完全に武装を奪い取れたところでキリトはくるりと身を(ひるがえ)し、勢いを載せた光剣をもう一度振り下ろした。光の刃は鯱の右肩を斬り抜け、両断。鯱は即座に戦闘不能に陥って倒れた。

 

 

「おぉー、おぉー、さっすがぁ」

 

 

 前衛の全滅に成功すると同時に黒髑髏が声を掛けてきた。追い詰められているはずなのに、全く余裕を失っていない。寧ろ自分達がここまで戦えている事に拍手を送ってきているかのようだ。

 

 それは自分の強さをしっかり理解しているようにも、自分の強さに傲り高ぶっているかにも思え、空間を満たす悪意と混ざってとても不快な気持ちをキリトに飛ばしてきた。

 

 

「このッ……」

 

 

 黒髑髏の挑発に合わせて、残された鯱達が一斉に弾丸を飛ばしてきた。それらすべての軌道が見えたが、斬り落とす余裕はない。キリトはステップとダッシュを繰り返して回避していって、本当に近くまで飛んできた弾丸のみを光剣で弾いた。

 

 回避を繰り返したのと、鯱の後衛連中そのものが後方へ退きつつ撃ってきているせいでかなりの距離を稼がれてしまっていた。

 

 だが、途中で射撃が止まった。鯱達がアサルトライフルのリロードを行っているのが見えた。流石の鯱達でもリロードタイムを消す事だけは出来ないのだ。

 

 その隙を突いてキリトは鯱達へ走り出したが、接敵する寸前で鯱達のうち一人が突然後方へ吹っ飛ばされ、更に一人を爆発が襲った。間もなく二人とも戦闘不能になって倒れる。

 

 咄嗟に背後を振り向くと、フィリアの狙撃銃とリランのミサイルポッドから煙が出ていた。どうやら彼女達が援護してくれたらしい。鯱達も自分にターゲットを向ける事に夢中になり過ぎて、仲間達の姿が見えなくなっていたのだろう。

 

 これ以上ないチャンスを作ってくれた二人に頷きをして、キリトは残された一人へ向かった。アサルトライフル持ちのそいつは、かなり正確な射撃能力を発揮してきた。弾丸の一発一発がこちらの急所を狙っているのが《弾道予測線》でわかる。

 

 だが、それ故にどこからどのタイミングで来るのか丸わかりだ。キリトは飛んできた弾丸を全て光剣で弾き飛ばし、一気に接敵。

 

 

「だぁッ!!」

 

 

 掛け声を出しつつ、光剣で最後の鯱を一閃した。光の刃は鯱の身体をアサルトライフルごと両断して、地に伏させた。すぐさま鯱の頭上に戦闘不能アイコンが出現する。

 

 これで全ての鯱を倒す事が出来たが、その身体が爆散しないのは、パーティメンバーがまだいるという事だ。

 

 鯱達を取りまとめていると思われる、黒髑髏。こいつを倒さなければこの戦いは終わらない。キリトはキッと黒髑髏を睨んだ。仮面のせいで表情は読めないが、空間に満ちる悪意の中に挑発の意思が混ざっている気がしてならない。

 

 余裕とそれ故の挑発の姿勢を先程から一切崩していないという事の表れだった。

 

 

「わぁお。まさか全部やっちゃうなんてねぇ。流石、さっすがぁ」

 

 

 黒髑髏は声にさえ挑発の音を載せていた。余裕だからこそ出せるような姿勢である。普通ならばパーティメンバーが全員戦闘不能になり、追い詰められている状態である事に焦るはずだが、この黒髑髏にはそれがない。勝ち負けを気にしておらず、ただ戦う事だけを純粋に楽しんでいるようにも見える。

 

 このGGOではかなり変わった性格のプレイヤーが多い傾向にあるような話を聞いた事があるが、あの黒髑髏もそのうちの一種類なのだろうか。いずれにしても、あいつからは良い気を感じない。

 

 いや、そもそも空間にばらまけるだけの悪意を持っている時点で、良い気など感じるわけがない。あいつが持っているのは純粋な悪意であり、あいつはこの空間を満たす悪意の主人だ。

 

 そんな悪意を持ってこちらを狙ってきているプレイヤーはいずれにしても退けなければならない。

 

 

「お前、なんなんだよ。こいつらの仲間なのか」

 

「仲間っていうかぁ、もっと大切な存在だよ」

 

 

 キリトは思わず眉を寄せた。鯱達が仲間よりも大切な存在だと。

 

 

「なら、なんでお前はこいつらを守ったりしなかったんだ。仲間よりも大切な存在だっていうなら」

 

「そんなの簡単だよ。皆はこの程度どうって事ないんだ。倒されても、どうって事ないんだよぉ!」

 

 

 そう言って黒髑髏は右手のアサルトライフルの銃口をキリトへ向け、連射してきた。キリトは咄嗟にダイブとローリングをして回避したが、すぐさま黒髑髏の姿勢に驚かされた。黒髑髏は片手でアサルトライフルを構えて発砲してきていた。

 

 アサルトライフルは連射時にそれなりの反動があるため、基本的には両手で構えなければならない。もし片手で構えようものならば、反動を抑え込めなくて銃身が跳ね上がり、弾丸が狙いと全く異なる方向へ飛んでいってしまう。そうなれば弾の無駄だし、何より隙だらけになる。

 

 なので基本的にアサルトライフルは両手でしっかり構えて撃たなければならないのだが、使用者のSTRがそのアサルトライフルの要求数値よりも遥かに高ければ、片腕で安定した発砲をする事は可能である。

 

 つまりあいつは片手でアサルトライフルを撃てるくらいのステータスを持っているという事だ。もしくはあのアサルトライフルが軽量型で、反動を抑制した独特の造りになっているか。鯱達がAGI突出ステータスをしているならば、黒髑髏はSTR突出ステータスをしているのか。

 

 いずれにしても拳銃感覚でアサルトライフルを発砲してくるのは厄介極まりない。想像以上に強いプレイヤーを敵に回してしまった。どうしてこうも強い奴らが次から次へとやってくるんだか。キリトは半分呆れたような気になりながら、黒髑髏の許へ向かう。

 

 

「ははははははッ!」

 

 

 黒髑髏は笑い声を上げながらアサルトライフルの連射をして来ている。その弾丸は正確にキリトの位置を捉えており、既に数発が身体を掠めていた。直撃ではないので痛みに似た不快感はなく、ダメージもあまりないが、これだけ早く動き回っている自分を捉えるだけの射撃能力を黒髑髏は発揮してきている。思った以上の強敵だ。

 

 

「調子に乗るなよ……ッ!」

 

 

 思わず呟いたその時に、黒髑髏の射撃が止んだ。空になったマガジンを引き抜き、新しい物と入れ替える動作に取り掛かっている。アサルトライフルを使っていようが、拳銃を使っていようが、必ず出来るリロードの隙。それがようやく訪れてきた。

 

 キリトは持ち前のAGIを頼りに一気に駆け抜けて、黒髑髏との距離を縮めた。そして黒髑髏をそれ足らしめている仮面に向かって光の刃を振るった。調子に乗ってられるのもここまでだ。

 

 

「あ、やっぱりそうするよね、キリトさんなら」

 

 

 そんな声がしたと同時に、胸から背中へかけて悪寒に等しい感覚と、痛みに近しい不快感が走って、キリトは動きを止めた。光剣も黒髑髏に届く寸前のところで止まってしまい、その仮面を青白く染めていた。

 

 

「な、に……」

 

 

 キリトは自身の胸元を見た。左胸の付近に何かが刺さっている。ナイフだ。サバイバルナイフ、コンバットナイフを更に鋭利にしたような形状をした鋭いナイフが、いつの間にか突き立てられていた。しかもHPの横には毒状態になっている事を示すアイコンが出ている。

 

 どうやらあれは毒のナイフだったようだ。不意を突かれて毒ナイフで刺されてしまった。そこまで思ったところで、キリトははっとした。

 

 毒のナイフに妙なハイテンション。こちらを挑発しまくって、煽りまくって来るような言動の姿勢。先程からの黒髑髏の特徴と一致する特徴を持ったプレイヤーを、一人知っている。

 

 だが、こいつがそいつである事などありはしない。そいつは二年以上も前のアインクラッド、SAOで果てたのだ。今ここに居る事など有り得ないのだ。こいつの戦い方や煽り方が似ているというだけで、あいつのイメージを読み取ってしまい、こいつに重ね合わせてしまっていた。

 

 そんな事をしてしまうくらいに自分が緊張してしまっているという事に、キリトは刺されながらも気付いていた。勿論それを読み取られてはいけない。そんな事になれば、こいつがどれ程の煽りでむかつかせて来るかわかったものではないからだ。その問題の黒髑髏はというと、毒ナイフに力を込めて、その刃をより押し込んできていた。

 

 

「はははは、どうだよ、毒武器の味はさぁ」

 

 

 身体が少しだけ重くなり、HPが減っていくのが見える。だが、その減り具合はそこまで酷い物でもない。こいつの毒はそこまで強くはないようだ。毒武器も強化すればもっと毒の威力を底上げできるという話なのに、こいつはそれをやっていない。かなりの間抜けだ。

 

 散々煽られたお返しと言わんばかりに、キリトは不敵な笑いをしてやった。

 

 

「……あんまり効かないな。毒の効果が弱すぎるぜ」

 

「えっ」

 

 

 黒髑髏は意表を突かれたような声を出した。毒が全然効いていない事、そしてそれを口に出された事を予想していなかったらしい。

 

 もし麻痺毒武器だったならば、完全にこちらの動きを奪う事も出来ただろうが、半端な純粋毒ではHPを削れる程度でしかない。動きを奪う事は出来ないのだ。そこをあまり理解しないままやっていたとは呆れる他ない。

 

 アサルトライフルを片手で扱えるようになるくらいのステータスまで上げる事に夢中になり過ぎて、その他の要素に目を向けられなくなっていたのかもしれない。いずれにしてもこの黒髑髏はどこか間が抜けていた。

 

 そんな黒髑髏の腕を、キリトは思い切り掴んだ。黒髑髏は驚いたように腕を動かそうとするが、キリトはがっちりと掴んだまま黒髑髏を離さなかった。ナイフが食い込んでいる事と、毒の効果で《HPバー》がかなり減っていっているが、間に合わせる事は出来る。

 

 確信したキリトは思い切り叫んだ。

 

 

「シノン、今だッ!!」

 

 

 その声は背後にいるシノンに届けた。彼女は手に入れたばかりの狙撃銃、《ヘカートⅡ》をしっかり構えていた。その狙う先は勿論、動けなくなっている黒髑髏だ。

 

 鯱達もそうだったが、黒髑髏は前衛として走り回る自分を捉える事に夢中になっていて、後方に居る仲間達の事を忘れてしまっているようだった。

 

 自分一人だけがここに居るかのような認識でやってしまっていたがために、動きを拘束された際にどうなるか、全く想像していなかったのだろう。やはり間の抜けている黒髑髏にしっかりと狙いを定めたシノンは――。

 

 

「喰らいなさい」

 

 

 一言呟いて、引き金を絞った。どの狙撃銃よりも大きな発砲音と炎を発したかと思えば、巨大な弾丸がそれを切り裂いて黒髑髏へ突進した。雷鳴のようなその音を合図にしてキリトが腕を離した刹那、黒髑髏の姿は一瞬にして後方へ消えた。

 

 もし現実で被弾しようものならば粉微塵にされるという対物狙撃銃弾をその身に受けた黒髑髏は、遥か後方まで吹っ飛んでいき、やがて地面を転がった。間もなく、なんの言葉も発する事なく倒れた彼の者は、すぐに全身を赤白いシルエットに変え、極小のオブジェクト片となって消えていった。

 

 それに合わせるようにして、戦闘不能になっていた鯱達の群れも爆散していき、この場から消えていったのだった。

 

 撃退成功。何とか《氷雨》、貴重な銃火器の数々をここに落とす(ロストする)事なく済ませる事が出来た。

 

 どっと疲れが来たような気がして、キリトはその場に膝を付いた。慌ただしくなっていた呼吸を整えていると、後方の仲間達が向かってきた。そのうちの一人であるアルゴが声を掛けてくる。

 

 

「キー坊、何とかなったナ」

 

「あぁ、何とか出来た」

 

 

 如何なる時もあまり疲れを見せる事のないアルゴからも、疲れが見えた。相当気を張る戦いだったのだから、当然だろう。その隣にいるフィリアも、シノンも疲れているようだった。リランに至っては鋼鉄の顔をしているのでわからなかった。

 

 アルゴに続いてフィリアが言葉をかけてきた。

 

 

「まさか、キリト達を襲ったあいつらがまた出てくるなんて……」

 

「もしかして好かれたかなぁ。だとすりゃ妙な連中に好かれたもんだよ」

 

 

 本当にあいつらの事はよくわからない。黒い雨の中に現れたかと思えば、今度はこんな地下遺跡の中に現れてきた。しかも今度はその中にあの黒髑髏が混ざっていると来た。

 

 そしてその黒髑髏は片手でアサルトライフルを扱えるステータスの持ち主かと思えば、間抜けな事をしていた。おまけに鯱達を仲間よりも大切な存在とまで呼んでいた。

 

 皮肉な事に、あの存在が鯱達の正体不明感を助長させていた。

 

 同じ事を思ったのだろう、リランが《声》を飛ばして来る。

 

 

《あいつら、結局何なのだ。あの唯一言葉が通じた奴も、なんだかよくわからぬ奴だったな》

 

「今のところ言えるのは、結局よくわからない連中って事だけだな」

 

 

 最早それくらいしかちゃんとした情報がない。詳しい情報が無いというのが唯一の情報であるなんて、なんとふざけた状況なのだろうか。だが、いずれにしても倒す事が出来て良かったと言えるだろう。

 

 キリトは立ち上がり、この戦いの決着を付けた人の許へ向かう。黒髑髏に狙撃銃弾を直撃させて倒してくれた、シノン。物々しい狙撃銃を抱えた彼女は今――とても心配そうな表情を浮かべて、キリトを出迎えた。

 

 

「キリト、大丈夫だった?」

 

「あぁ、結構ギリギリだったけれど、どうって事ないよ。それよりシノンの《ヘカートⅡ》、すごい威力だったな」

 

 

 シノンは一瞬きょとんとして、すぐにヘカートⅡに向き直った。恐らくこれまで見てきた中で最も威力の高いモノと予想していた狙撃銃、《ヘカートⅡ》。その予想に間違いはなく、この銃の放った弾丸の一発だけで黒髑髏は仕留められた。あそこまでの威力が出たのは予想外だった。

 

 改めてそれを実感したように、シノンが呟く。

 

 

「えぇ、すごい威力だったわね。これ、本当にすごい武器かも」

 

「やっぱりすごいのを手に入れられてたんだな、俺達。負けなくて本当に良かったよ」

 

 

 そう言ってみても、シノンの表情は晴れない。こちらが今の奴らの事に関して触れていない、その話題に触れようとしてない事を掴んでいるのだ。それを証明するかのように、シノンは再度声を掛けてきた。

 

 

「キリト、今の奴ら……何かある」

 

「……あぁ、俺もそう思ってた。ひとまず街に帰って、居る皆に話してみよう」

 

 

 キリトは出口のある方へ身体を向けた。空間を満たす悪意は消えていた。

 

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