キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

437 / 645
 あのキャラ登場。

 


10:特製狙う者

 

 

           □□□

 

 

 

「やっぱりこの子は特製だよ。先生の言ってた事に間違いないよ。特製中の特製」

 

「やっぱりそうですよね。レイちゃんは明らかに特製の存在であるとしか思えません」

 

 

 アルトリウス達とパーティを組んでフィールドに出たキリトは、一人の少女に集まる二人の少年を見ていた。対象はシュピーゲルとユピテルの二人だ。

 

 彼らはアルトリウスの連れているアファシスのレイアと一緒になるなり、じっと彼女の事を見つめたり、その様子を観察するかのような仕草を取り始めた。レイアがただならないレアものであるという話は結構前からしているはずだから、その事に関して物珍しがる必要はあまりないはずなのだが、二人はそうではないようにレイアを観察していた。

 

 観察されているレイアはというと、少しも困った様子を見せないどころか、胸を張って「えっへん!」と言っている有様だった。まるでもっと自分を見て欲しいと思っているかのようであり、意思を持った博物館の展示品が自己主張を全開にしているようにも感じられる。

 

 もう少し耳を傾け続けると「どやぁ……!」とでも言いそうなものだから、アルトリウスが頭を抱えそうになっているのも見えていた。

 

 

「ユピテルにシュピーゲル君、どうしたの。レイちゃんをそんなに見つめて」

 

 

 母親であるアスナの問いかけに、息子のユピテルはそのまま応じる。

 

 

「前にアイリから聞いていたのですが、やはりレイちゃんはただならない特製のAIです。それこそぼく達に匹敵するくらいの、《すごいの》です」

 

「イリス先生、ずっとそんな事を言ってたんだよね。今までよくわからなかったんだけど、これならイリス先生が言ってた理由がわかる気がするよ。レイちゃんは間違いなく、イリス先生の作るAIに迫るくらいのだよ」

 

 

 シュピーゲルも続いていたが、その言葉はユピテルと大して変わらない。どちらもほとんど同じような事を考え、同じような感想に辿り着いているようだ。そんな彼らの気持ちも、キリトはわからないでもなかった。その理由を話したのは、リランだった。

 

 

《我もそれはわかるぞ。レイアはただのAIなどではない。そこら辺の企業が作っているようなAIではなく、イリスのような規格外の者が作ったAIだ》

 

 

 シノンとアスナが反応する。

 

 

「すごいAIを作ってるっていうと、《SA:O(オリジン)》の開発会社とか? あそこでも、その他の会社と比べて高性能なAIを作ってるでしょ。というか、そういうAIを作るためにあのゲームって運営されてるんでしょ?」

 

「そうだよね。って事は、レイちゃんは《SA:O》を作って運営してる会社の技術と同じ方法で作られてるとか、そういう感じかな」

 

《違う。レイアはそれこそ《電脳生命体(エヴォルティ・アニマ)》に匹敵する存在だ》

 

 

 《電脳生命体(エヴォルティ・アニマ)》――その単語の登場にシノンとアスナは驚き、キリトも思わず続く。

 

 《アニマボックス》という専用の機構が組み込まれ、他の企業の開発するAIの何歩も先を行く性能を持った、技術的特異点(シンギュラリティ)を迎えて生命体に等しき知性と能力を持つに至った者達。それを開発者であるイリス/芹澤(せりざわ)愛莉(あいり)は《電脳生命体》と定義していた。

 

 該当しているのはリラン、ユピテル、ユイ、ストレア、プレミア、ティア、この場に居ないヴァンといった《MHHP》、《MHCP》の系譜であり、誰もがイリスの子供達であるという事が共通している。この者達以外に《電脳生命体》に該当する者は確認できていない。今のところ、イリスでなければ《電脳生命体》を産み出す事はできないからだ。

 

 イリスの持つ技術と能力があるからこそ生み出せる《電脳生命体》に、あのレイアは等しい存在かもしれない。これまで《電脳生命体》を見てきたキリトにとっては、その事は大きな驚きを(もたら)すものだった。

 

 キリトは言い出したリランに問いかける。

 

 

「レイアが《電脳生命体》? 本当なのか」

 

《あくまで可能性の域を出ていないが、如何(いかん)せんレイアの機能は我らに近しい方に入っている。これほどのAIを《ザスカー》が作り出せているのは、驚くに値する。イリスも同じような事を思っているから、レイアの事をよく見ようとしているのだろうな》

 

 

 リランからの答えに、アスナが首を傾げる。

 

 

「けれど、リランとユピテルって元々、人の心や精神を治療するために作られてるんだよね。もしかして《GGO》も、そういうものが必要になるようなゲームになっていくかもしれないって事?」

 

 

 リランは首を横に振った。鋼鉄の身体であっても中身は人工筋肉であるため、動物と全く同じ動きができるのだ。

 

 

《それはないだろう。恐らくは我らと同じ技術的特異点(シンギュラリティ)に到達したAIを作り、それを売りにしようとして、レイア達を作ったのであろうな》

 

「確かに、リラン達並みの知能を持ったAIが実装されてるゲームなんてないものね。宣伝するのにはすごく良い要素かもしれない」

 

 

 シノンが言うと、アスナが更に続けた。非常に納得しているような表情である。

 

 

「そうなるとイリス先生は関わってないだろうね。イリス先生、そういう事にユピテル達を使いたくない、そういう事に使うのは許さないって言ってるからね」

 

 

 アスナの言っている事はキリトもよくわかっている事だった。イリスは《MHHP》、《MHCP》を《祈りを込めて産んだ我が子達》と言っており、実際に彼女達を本当の娘や息子のように思い、接している。

 

 そんな我が子達を何かの宣伝や広告のために使うのは許さないというのが彼女の意志であるため、イリスは《ザスカー》に手を貸しはしないだろう。

 

 ではレイアを作ったのはどんな者なのだろうか――そう思ったキリトに声掛けしてきたのは、アルトリウスとクレハだった。

 

 

「えっとキリト、さっきから何の話をしてるんだ」

 

「エヴォルティ・アニマ? このゲームの専門用語にそんなのあったかしら」

 

 

 キリトは思わず苦笑いして頭を掻く。そういえばアルトリウスとクレハには、《電脳生命体》が何なのか話していない。彼らからすれば《電脳生命体》などという単語はゲームの専門用語にしか聞こえないだろう。

 

 その話を自分達がする事は容易ではあるが、話して彼らに理解させられるかというと怪しい。ここは本人に言わせるのが一番簡単であり、彼らに納得してもらえる方法だ。

 

 

「えっとだな、詳しい話はあとでイリスさんに聞いてくれ。割と重要な話なんだが、お前達に正確に話せるかって言われると、難しいんだ」

 

 

 アルトリウスとクレハは首を傾げていた。頭の中が「?」でいっぱいになっているのは容易に想像できた。だがその解消ができないので、少し申し訳ない気分になる。

 

 そのアルトリウスの所有するアファシスであり、問題の対象でもあるレイアに目を向けると、いつの間にやらアイドルやファッションモデルがやりそうなポーズまで取っていて、シュピーゲルとユピテルは「おぉー」と感嘆している有様だった。

 

 

「もっともっと観察してください! 見るだけならばWCは取りませんので!」

 

「そんな事も言えるんだ。やっぱりすごいAIです、レイちゃんは」

 

「レイちゃん、やっぱりしばらくイリス先生のところに居てみてくれないかな。こういう観察はイリス先生の方が得意だからさ」

 

 

 ユピテルとシュピーゲルが呟くように言うと、レイアは「ひぇっ」と突然怯えたような反応をした。どうやらシュピーゲルの言った「イリスのところに居ろ」が引っかかったらしい。

 

 

「い、イリスと一緒に居るのは問題ありませんが、イリスに観察されるのだけはお断りします! イリスのやり方はすごく細かくて、細かすぎて、怖いのです!」

 

「そんな事はないよ。イリス先生はとても優しい人だから、乱暴にしたりなんかしないよ。怖い事なんて何もないさ~」

 

 

 シュピーゲルがやんわりとした様子で説得に応じているが、どうにもレイアには伝わっていかない。レイアは首を振りまくっている。

 

 

「怖い事あります! イリスの観察は――」

 

「ぅおおーい、そこの――!!」

 

 

 急に知らぬ声が飛び込んできて、キリトは首を傾げた。レイアの背後方面から聞こえてきた気がする。

 

 

「誰だ」

 

「何よ」

 

 

 シノンとほぼ同タイミングでそちらに向き直ると、こっちに向かってきている人影が見えた。その正体はすぐに割れる。

 

 ――男だ。軍隊特有のそれのような茶色いベレー帽を被り、ロシアで普及していそうな防寒服に似たデザインの、暖かさそうな戦闘服に身を包んだ大柄な男が、こちらに向かって走って来ていた。

 

 それを見たクレハが口を開く。

 

 

「なにあれ?」

 

「「「おっさんじゃん」」」

 

 

 キリト、アルトリウス、シュピーゲルはハモった。向かってきている男の見た目はクラインやディアベルは勿論、エギルよりも年を取っているように見えた。エギルはまだ《お兄さん》の領域に居るが、あれはもう既に《お兄さん》の域を脱し、中年に差し掛かっているくらいの、所謂(いわゆる)《おっさん》だった。

 

 この《GGO》には沢山のプレイヤーが居るが、その中には現実世界(リアル)では《おっさん》と呼べるくらいの歳の人も沢山いる。だが、そういったプレイヤー達が必ずしもここでも《おっさん》の見た目をしているかと言われるとそうではない。

 

 現にキリトがここ数ヶ月で交戦してきたプレイヤーの中に、如何にも《おっさん》と言うべき見た目をしたプレイヤーは確認できなかった。本当に《おっさん》と言える見た目のプレイヤーを見たのは、《SAO》の血盟騎士団で一緒に戦った団員、ゴドフリー以来だ。

 

 なので、あそこまで《おっさん》だとわかる見た目をしたプレイヤーからは妙な希少性を感じられた。

 

 そんな希少種を確認したリランが《声》を飛ばす。

 

 

《なんだあの親父。どっから現れた》

 

「アーサーさん、クレハさん、お知り合いですか」

 

 

 ユピテルの問いかけに、二人は当然の如く首を横に振る。勿論キリトにもあのようなおっさんに知り合いはいない。そんな誰も知らないような男は、そそくさとこちらへ走り寄ってきた。

 

 

「よかったぜ、止まってくれたな」

 

 

 男はアルトリウスに声をかけていた。アルトリウスは首も傾げず、男の話を聞くような姿勢になっていた。男は続ける。

 

 

「えっとだな、景気はどうだ」

 

 

 流石にアルトリウスも首を傾げた。あまりに急な声かけなのだから、仕方がない。

 

 

「……?」

 

「お? 今日は連れてるんだな。その暢気(のんき)で元気な奴」

 

 

 男の視線はアルトリウスからレイアの方へ向けられた。レイアはアルトリウスに歩み寄り、きちんと隣に並ぶと、何か思い出したように言った。

 

 

「あ! あなたはこの前の《おじさんその二》!」

 

 

 レイアの言葉に全員でずっこけそうになる。男の事を指しているのだろうが、それは名前ではない。《おじさんその二》という不本意極まりない名前で呼ばれた男は応じる。

 

 

「《おじさんその二》じゃねえ! オレ様は《バザルト・ジョー》だ! 呼ぶ時はジョーでいいから、そう呼んでくれよ!」

 

 

 《バザルト・ジョー》。その男の名前を聞いたキリトは、どこか引っ掛かりを覚えた。何かの拍子で聞いたような気がするが、何の拍子だったかは思い出せない。そんなバザルト・ジョーは、アルトリウスに続けた。

 

 

「まぁそれはいいんだ。それよりもお前さんだ。銀髪で目が赤いお前さん」

 

「え、俺?」

 

「あぁそうだ。お前さん……その()のマスターなんだろ。それで、信じらんねぇが……その娘はAIで、アファシスって奴なんだろ」

 

「そうだよ。レイアは俺のアファシスだ」

 

 

 アルトリウスがありのままを報告すると、バザルト・ジョーは突然頭を下げた。

 

 

「なら話は早い! 一生に一度の男の頼みだと思って聞いてくれ。そのアファシスちゃんを譲ってほしいッ! 金やアイテムなら持ってるだけ全部やる。他に条件があるなら、それにも場合によっては応じるぜ!」

 

 

 あまりに突然の要求に皆で驚いてしまった。レイアもその中に含まれているものだから、クレハが大声で反論した。

 

 

「いきなり何を言い出すのよ!?」

 

「その娘から不思議と目が離せねえんだ。見てると普通にドジやったり、アホな事やってたりするからよ」

 

 

 レイアが「むむー!」と頬を膨らませた。アホやドジと言われているのが気に障っているらしい。直後、ユピテルがバザルト・ジョーに答える。

 

 

「つまり、ジョーさんはレイちゃんの保護者になりたいのですか」

 

「いや、仲間にしたい! ん? あぁいや、そういう事だな! オレ様はそのアファシスちゃんを相棒にしてぇんだ! オレ様は相当強い方だが、仲間の基準は強さじゃねえ。大事なのはハート! ノリが合うかだ。そこのアファシスちゃんみてぇな、ドジなのがすごく良い。そこのアファシスちゃんと、オレ様のノリは最高に合ってる! だからその娘をオレ様が引き取って、最高のパートナーに育ててみせる!」

 

 

 急で高速な決意表明に目を点にしていると、バザルト・ジョーはまたしても頭を下げた。

 

 

「だから頼む! オレ様にお前さんのそのアファシスちゃんを譲ってくれ!」

 

 

 全員で目を点にしているというのはやめられなかった。如何せんバザルト・ジョーの出現と頼みは急展開すぎて、付いていけていない。こいつは一体何なのか。レイアに良いものを感じており、欲しくてたまらなくなっているのだろうか。

 

 だとすると一種のストーカーになるのだが、不思議な事に、バザルト・ジョーからはそんな悪気や(よこしま)な独占欲のようなものは感じられず、本当の保護者――それこそ父親のような優しさと暖かさが感じられた。

 

 言っている事もやっている事も急だが、彼を動かしているのは優しさなのだ。しかし頼みが頼みなので、困惑する他ない。

 

 その中、シノンが口を開けた。

 

 

「なるほどねぇ。レイちゃんが欲しいんだ、あんたは」

 

「っていうより、アファシスが欲しいんでしょ。ならエネミー狩るなり、レンタルするなりしなさいよ」

 

 

 クレハが続けて言うが、バザルト・ジョーはレイアを指差した。

 

 

「オレ様が欲しいのは、そのアファシスちゃんただ一人だけだ! 他のアファシスじゃ駄目だ!」

 

 

 どうやらレイア以外興味が無いらしい。そんなやり取りを見せつけられたレイアはというと、直に頭を下げて一言放った。

 

 

「お断りします! わたしは《レイア》。このアルトリウスをマスターとするアファシスです。それ以外の方のアファシスをやる気は全くありません!」

 

 

 バザルト・ジョーは「ぐ!」と言って、アルトリウスは少しびっくりした様子でレイアに向き直っていた。ここまでレイアが忠誠心を見せてくれているのは、彼にとっても意外だったのだろう。しかしバザルト・ジョーも食い下がる様子を見せなかった。

 

 

「そういう率直なところ、嫌いじゃないぜ……」

 

「レイちゃんはこのとおり、アーサー君のアファシスなの。貴方のやってる事は無理矢理な勧誘、マナー違反だよ」

 

 

 アスナが付け加えるが、バザルト・ジョーはまたしても首を横に振る。

 

 

「これは勧誘じゃねえ。所有権を得たとしても、オレ様はアファシスちゃんの自由を保障する。マスターの登録なんて糞喰らえだ。オレ様は、相棒としてアファシスちゃんが欲しいんだからな」

 

 

 やはりバザルト・ジョーはレイアにぞっこんになっているようだ。かなりの熱意を感じられる。それも邪なものではなく、一途で穢れのないものだ。こんな明るい情熱を一途に抱いているプレイヤーを見たのは久しぶりな気がする。

 

 

「アルトリウスって言ったか。今ここでオレ様と勝負しろ!」

 

「そう来るんじゃないかって思ってた。多分だけど、お前が勝ったらレイアをお前に渡せばいいんだろ。じゃあ俺がお前に勝った場合はどうなんだ」

 

 

 バザルト・ジョーの決闘申し込みに、アルトリウスは冷静に対応していた。まだ新人で慣れない事も多いというのに、もう歴戦の戦士のようになっている。この前の鯱との戦闘が効いたのだろうか。そんなアルトリウスからの問いかけに、バザルト・ジョーも冷静に答えた。

 

 

「お前さんがオレ様に勝ったなら、その時は良いものをくれてやる。とびっきりの良いものだ!」

 

「なるほどな。それならいいぞ」

 

「よし! けどお前さん、随分と観客(オーディエンス)というか、仲間を連れているみたいだな。悪いがそいつらの力を借りるのは無しだ。オレ様と一対一で戦ってもらいたい!」

 

 

 キリトは思わず驚いてしまった。今気付いたが、バザルト・ジョーから感じられる雰囲気は、かなりの戦場を渡り歩いてきている猛者特有のものだった。バザルト・ジョーは結構な事を言っているが、中身は歴戦の戦士なのだ。

 

 対するアルトリウスはまだ初心者の域を出ておらず、強いプレイヤーと戦ったところで勝てる見込みは少ないどころではない。バザルト・ジョーのような歴戦の戦士と本気で戦って、勝てる可能性など無いに等しい。

 

 気が付いたのだろう、クレハが少し慌ててアルトリウスに言った。

 

 

「ちょ、ちょっとアーサー! ジョーは強いわよ。あんたで勝てる相手じゃないわ」

 

「けれど、これだけ頼まれてるわけだし、自分のアファシスくらい自分で守れないとだろ。それにここで逃げ出したら、後々もっと面倒な事になりそうな気がするんだ。大丈夫だよ、あの鯱達よりも恐ろしくないから」

 

 

 アルトリウスは強気で答えていた。確かにバザルト・ジョーは猛者であるが、標準的な強さを持つプレイヤーに納まっている。鯱達のような常軌を逸した能力などはないから、安心して戦えはするだろう。

 

 しかしそれでも勝てる見込みはあるかと言われたら怪しいのだが――バザルト・ジョーのやる気が、アルトリウスにも伝染しているようだった。もうアルトリウスは止まらないだろう。

 

 アルトリウスは一歩踏み出し、バザルト・ジョーに近付いた。その銀色の髪が黄昏の光を受けて虹色に輝いているように見えた。

 

 

「その決闘、受けて立つぞ」

 

「そうこなくっちゃな! ルールは簡単。体力を赤ゲージまで削り切った方が勝ちだ。オレ様は今のところ一人だけで、戦闘不能になったら街まで戻っちまうからな」

 

 

 なるほど、だから赤ゲージまで削り切った時点で決着とするのか。しかしそこまで上手い調整ができるのだろうか。いや、こう言っているという事はそれが可能であるという事なのだろう。バザルト・ジョーも随分と自信があるようだ。

 

 アルトリウスはそれに気圧(けお)されないような姿勢を貫いている。いつの間にか、アルトリウスは心身共に急成長を遂げたかのようだ。ここまで来たら、彼の勝利を祈る他ない。キリトは一同に声掛けをした。

 

 

「皆、下がろう」

 

 

 全員がそれに応じてくれたが、その中でレイアとアスナがアルトリウスに言葉をかけた。

 

 

「マスターなら勝てます! ファイト、おーです!!」

 

「頑張ってね、アーサー君!」

 

 

 更にシュピーゲルとユピテルが言葉かけをする。

 

 

「近付いてくるエネミーとか他プレイヤーとかは任せておいて!」

 

「邪魔するのがいないように、守ります!」

 

 

 シュピーゲルはサブマシンガン《MP5》を両手に、ユピテルはその小さい身体に似合わないミサイルランチャー《FIM-92 スティンガー》を構えて後ろを向いた。彼らの決闘を邪魔しない環境を作るために。

 

 そしてクレハはというと、とても心配そうな表情でアルトリウスを見ていた。

 

 

「アーサー……」

 

 

 隣に並んでいるシノンが静かに声をかける。

 

 

「大丈夫よクレハ。アーサーならやれるわ」

 

《シュピーゲルとユピテルに背後を任せておこう。お前はアーサーを見ておれ》

 

 

 リランの《声》も続くと、クレハはひとまず頷いた。その様子をちらと一瞥してから、アルトリウスはもう一度バザルト・ジョーに向き直る。

 

 

「さぁ、始めるぜッ!!」

 

「ッ!!」

 

 

 バザルト・ジョーの掛け声と共に、その両手に二丁の《ミニミ軽機関銃》が、そしてアルトリウスの手には一丁の《M4カービン》が構えられた。

 

 そしてアルトリウスの《M4カービン》の銃身下部には――もう一つの銃が備え付けられていて、《M4カービン》本体の前にまで銃身が伸びていた。

 




――今回登場武器解説――


ミニミ軽機関銃
 実在する軽機関銃。ベルギーのFNハースタル社という企業が作っており、5.56x45mm NATO弾を使用する。

 その圧倒的な取り回しの良さから世界中の軍隊に採用されており、アメリカ軍、自衛隊でも現在進行形で使われている。二脚が装着されているため、狙撃銃のように地面などに置く事で安定した発砲も可能。勿論これを二丁一度に持って精密射撃する事は現実では不可能。

 ちなみにアメリカでは《M249軽機関銃》という名前で国産化されている。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。