キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

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 色々起こる。




06:忘却の神殿

 

 

          □□□

 

 

 

 

「ふんふん、良い具合じゃねえか」

 

《ありがとうございます! 全ては貴方のおかげですとも!》

 

 

 ウインドウの向こうから聞こえてくる声に、ミケルセンは答えていた。通話相手は協力者であり、ミケルセンを随分と尊敬している人物だった。その尊敬している人物が話し相手なせいなのだろう、協力者の声は上ずっている。

 

 

「いやいや、俺はちょっとした手を加えてやっただけさ。それが役立ってるなら、俺も手を加えて良かったと思える」

 

《えぇ、えぇ! 貴方のおかげです。貴方の力があったからこそ、ゲームはここまで進化して、彼らも大いに喜んでくれています。売り上げだって過去最高記録を更新しています。全部貴方の協力があったからこそです!》

 

 

 少々うるさいくらいに褒めてきているが、ミケルセンは別に嫌な気分を感じたりはしなかった。

 

 

「そんなに褒めなくたっていいぞ。でもまぁ、気分が良くなるからいいけれどな」

 

 

 ミケルセンは腕組をして、ウインドウに向き直る。

 

 

「ところで、あの子達はちゃんと育ってるんだろうな? お前達が育ててくれるっていうから、預けてやったんだが」

 

《勿論ですとも。あの子達は次のイベントのメインとなる存在です。これまでは試験運用で動かしてきましたが、ようやく正しい使い方がわかったのです。ついにあの子達にちゃんとしたモノが与えられます》

 

「ほう。そういえばお前から聞いたところ、次に起こるのはこれまでのGGOで一番デカいイベントなんだろ。しかもこのイベントによって、今後のGGOの方針が変わるかもしれないってのも聞いた」

 

 

 協力者がウインドウの向こうで頷くのが想像できた。声が返ってくる。

 

 

《そうですとも。このままのGGOとなるか、新しいGGOとなるか。それを決めるのは彼ら。彼らの選択によって運命が大きく変わる。そんな最高のイベントが起こるのですよ。それを盛り上げるのが、貴方の提供してくださったあの子達なのです!》

 

 

 ゲームの形が大きく変わるというのは、運営としては大きなギャンブルとなるのは間違いない。その形が受け入れてもらえるか、受け入れてもらえないかによって、ゲームそのものの運命が左右されるのだから。

 

 次のイベントによって、このゲームは存続するか破滅するかの分岐点(ターニングポイント)を迎える事になるのだろう。そんな事をゲーム会社がするのは、ミケルセンにとっては意外過ぎる出来事だった。

 

 生きるか死ぬかのどちらかになる選択を迫られるような事になるのは、日本の企業が一番嫌う事だ。

 

 衰退する事を嫌がっているくせに、新しい事に始めて進化する事、リスクを背負って利益を獲得しに行く事を極端に嫌い、衰退していく現実から目を逸らして耳を塞いで、現状維持という題目で金と時間を(むさぼ)り続ける。自分が肥え太る事のできる平和が、いつまでも続くと信じ切っている。

 

 その結果、数年前に起きた社会の緊急事態で、多くの企業が潰れた。どいつもこいつも現状維持という現実逃避で進化と成長を拒み、既にある利益を貪る事だけを徹底したところ、中途半端に生きれただけで、結局破滅していったのだ。

 

 そうならないために努力した企業もあったようだが、緊急事態が終息した後、結局は元の既にある利益を貪るだけの姿勢に戻り、社会を腐らせる原因になっている。

 

 話し相手の協力者の企業もまたその一つではないかと思っていたが、どうにもそうではないらしい。元々日本の企業ではなく、海外の企業というのもあるのかもしれない。だからこそミケルセンは好感を抱いていた。

 

 

「思い切った事をするもんだ。この国の社会の連中はそんな事絶対にしないぜ。本当はリスクしかないギャンブルには何も考えず平気で手を出して、そのまま呑み込まれる。そのくせ会社とかでギャンブルみたいなリスクを背負う事になるかもしれなくなると、途端に(おび)えて何もしなくなるんだ。ギャンブルをやり慣れてるはずなのにな。

 交渉している時だってそうだ。ハイリターンがあるってところまでは興味津々だが、リスクがちょっとでもあるって聞くと、『誠に残念でございますが、交渉はお見送りさせていただく事になりました』だ。その結果がそいつらの破滅なんだけどな」

 

《えぇ、私達は違いますとも。というより、私の目を覚まさせてくれたのが貴方です。貴方のおかげで、私は進むべき道を見いだせたんです》

 

 

 ミケルセンはペストマスクの内側で笑った。当初から思っていたが、中々に面白い事を言う奴だ。

 

 

「そう言ってくれると、俺も色々やった甲斐があったって思える。次のイベントも期待してるぜ」

 

《えぇ期待していてください。必ず、貴方のお望み通りにしてみせますとも! 私が総力を結集させて作り込みます! 貴方から受け取ったものを最大限に活かしてみせます!》

 

「気合いが入っていて何よりだ。それじゃあ、楽しみにしてるぜ」

 

 

 協力者との通話はそれで終わった。ミケルセンは一息吐く。

 

 当初はあまり信用していなかった協力者だったが、色々教えてやったところ、彼は随分とこちらを信用し、尊崇するようにまでなった。なので自分の提供したモノはしっかり使ってくれるし、使いこなしもしてくれる。

 

 提供したモノ達も、その協力者達に使われる事によって、どんどん自分の思い描く結果に近付いていっているだろう。ここまで提供物をしっかり使ってくれるほど、こちらに心酔してくれる者が協力者になってくれたのは、本当に幸運な事だと思った。

 

 いや、良くも悪くも、評価姿勢の違いって言ったところか。あちらの評価の付け方と、こちらの評価の付け方は全く異なる。なので秀でている者が居れば、それを素直に評価し、その技術を褒めたたえる。

 

 如何(いか)に上の人間に()(へつら)えるか、おべっかできる事を最高評価点にしているこちらとは大違いだ。

 

 

「だから、こっちは作り直さないといけねえなあ」

 

 

 ミケルセンは思わず笑った。こちらの環境、社会のあり様を作り直す時には必ず混沌が起きるのだが、その時の、排除される者として始末される事など全然想像せずにいた、(みにく)く自己保身と利益にしがみ付き続ける者達が焦燥(しょうそう)する様は、いつ見ても笑える。

 

 三年ほど前に起こした一斉排除の時なんて、その様子には本当に笑いが止まらなかった。

 

 

「けれど、今度は笑えるような顔は見れねえかもなぁ。……そんな顔をする前に終わっちまうんだからよ」

 

 

 その時こそ何も心配がなくなる時だ。しかしそこに辿り着くにはまだ遠い。まだまだやらなければならない事はある。これから起こるイベントも、そのうちの一つだ。

 

 

「さぁて、どうなるか見ていこうじゃねえか……あの子達の成長も」

 

 

 

 

 

          □□□

 

 

 

 

 《SBCフリューゲル》で攻略が詰まった。ついに解放された新ダンジョンである未知の船、《SBCフリューゲル》の途中まで進む事にはキリト達も成功していた。

 

 しかし、あるところで先に進む事ができなくなった。ボス部屋前の扉とはまた異なる、一つの扉がどうしても開かなかったのだ。

 

 そこは《SBCフリューゲル》の鍵となるレイア及びデイジーが居たとしても開かず、彼女らが声を掛けたりしてみても無反応だった。

 

 もしかして鍵のようなアイテムが必要になるのではないか。キリトの直感を信じてくれた皆で、《SBCフリューゲル》の行ける範囲で探索を行ってみたが、それでも尚、鍵らしきアイテムは手に入らなかった。

 

 どうやらこの問題には、その他のプレイヤー達も当たっていたようで、全員が《SBCフリューゲル》から退却し、情報を集める事に専念していた。誰も《SBCフリューゲル》の中でその解決策を見つけ出せなかったようだった。

 

 キリト達は彼らよりも粘って《SBCフリューゲル》の中を探したが、情報屋アルゴ&フィリア&シュピーゲルの手を借りても見つからず、退却を余儀なくされた。

 

 しかし、《SBCフリューゲル》は最後まで攻略できるように実装されているはず。完全に詰まっているなんて事はないはずだ。きっとどこかに《SBCフリューゲル》のあの扉を開く鍵がある。

 

 《SBCフリューゲル》を一番乗りで攻略するのは俺達だ。必ずそれを現実にしよう――皆と誓ったキリトが言うよりも先に、仲間達はそれを理解してくれていて、これまで行ったフィールドに探索に出たり、街中で情報を集めたりし始めた。

 

 その中にキリトも加わり、今SBCグロッケンで情報収集を行っている真っ最中だった。

 

 

「キリト、シノン、リラン――!」

 

 

 背後方向から声がして、キリトは振り返った。《SBCフリューゲル》の攻略情報を求めているであろうプレイヤー達が多く行き交っている鋼鉄の街中から、こちらに向かって走ってくる人影が一つある。

 

 先端付近が紫がかった銀髪をショートボブにしている、明るい紫の瞳をした少女。アルトリウスのアファシスであるレイアだった。その姿を認めたシノンが呟く。

 

 

「あら、レイちゃんじゃないの」

 

「む? あいつ一人だけなのか。近くにアーサーが居ないとは、珍しいな」

 

 

 リランの感想にキリトも同意する。レイアは基本的にアルトリウスの近くに居て、アルトリウスがログインしていない時は、ほとんど彼のホームから出てくる事はない。アルトリウスがいない間を狙って、彼女を狙うプレイヤーも少なくないからだ。

 

 最近はバザルト・ジョーという保護者も加わったが、彼らがいつもログインしていて、レイアを守れる状態にあるわけではない。

 

 なのでレイアはアルトリウスが居ない時は外出せずに、ホームで情報収集や休息に徹しているのだった。

 

 だからこそ、そんなレイアが一人で外出しているのは、少し驚くべき事である。

 

 

「レイア、どうしたんだ――」

 

 

 キリトが声を出したその時、レイアは既にキリト達の目の前に居て、両手で全員の手を集め、握っていた。

 

 

「へ?」

 

「え?」

 

「なぬ?」

 

 

 突然のレイアからの握手――しかも三人同時――をされて、三人でぽかんとしてしまった。レイアはにんまりとした明るい笑顔をしていた。

 

 

「つーかまえた、なのです!」

 

 

 キリト、シノン、リランの瞬きは同刻だった。レイアが突然やって来たかと思えば、全員の腕を掴んできて、「捕まえた」の一言。

 

 レイアは明るい娘であり、スキンシップのような行為をする事も珍しくはないのだが、ここまで積極的にやってくる事はこれまで見た事がなかった。彼女らしいと言えば彼女らしいが、あまりに唐突過ぎる出来事なので、思わず言葉を失うしかなかった。

 

 直後、なんとか言葉を取り戻せたシノンがレイアに言う。

 

 

「れ、レイちゃん、どうしたのよ、急に」

 

「キリトとシノンとリランに、どうしてもお話したい事があったのです! はぐれてしまうと良くないので、こうして捕まえさせてもらいました!」

 

 

 キリトはその話に喰い付いた。どうしても話したい事となると、現在詰み中の《SBCフリューゲル》の巨大扉を開くための情報が見つかったという事なのだろうか。

 

 

「それってもしかして、《SBCフリューゲル》の先に進む方法か!?」

 

「はい! ムフフなお得情報ですよ!」

 

「ムフフ……? ムフフとは、随分変な表現を使うものだな」

 

 

 リランが目を半開きにするが、レイアは対して気にしていないようだった。間もなくシノンが問いかける。

 

 

「それで、ムフフなお得情報っていうのは、どういうものなのよ」

 

 

 レイアは答えた。なんでも、《SBCフリューゲル》の閉ざされた大扉を開くには、《SBCフリューゲル》の外にある《忘却の森》の奥部に存在する、《忘却の神殿》という場所の奥地に隠されている鍵が必要であるらしく、ここがわからないから、他のプレイヤーたちは行き詰っている――ということらしい。

 

 

「《SBCフリューゲル》の外に、扉を開ける鍵が落ちてるのか」

 

「そうですよ! だから、まずはそこへ向かわないといけません」

 

 

 なるほど、道理で《SBCフリューゲル》をいくら探索しても見つからないわけだ。キリトはこれまでの探索の結果に納得していた。もしここでレイアに話してもらえなかったら、同じように《SBCフリューゲル》の中をずっと探索する羽目になっていただろう。

 

 直後、リランが「ふむふむ」と言ってから言葉をかけてきた。

 

 

「そういう事だったのか。これなら最初からお前に聞くべきであったな。《SBCフリューゲル》はお前たちアファシスの故郷だ。そこの情報を得るならば住民に話を聞くのが一番手っ取り早いやり方だ」

 

 

 レイアは嬉しそうに笑んだ。

 

 

「はい! これから皆さんにも同じ情報を教えていく予定です。キリト達はその中で一番早く情報を得られていますよ!」

 

 

 キリトは少し驚いていた。という事は自分達三人こそが一番乗りという事になる。

 

 《SBCフリューゲル》の攻略を一番乗りでやり切るという目的は、《SBCフリューゲル》の難易度とギミックによって怪しくなりつつあったが、なんとかなりそうな気がしてきた。こうして貴重な情報をくれたレイアのおかげだ――と思ったところで、キリトは気が付いた事があった。

 

 レイアの服装が違う。レイアは最近、アルトリウスとクレハによるコーデで、スカートとネクタイが伴ったスーツを着ていたのだが、今のレイアは一番最初に着ていたものとよく似ている、ぴっちりとして四肢をはっきりさせている深紫のスーツだ。

 

 このような服装のレイアを見たのは初めてだが、アルトリウスとクレハが買い与えたのだろうか。いや、服を買い与えるならばアルトリウスよりもクレハがやりそうな事だ。

 

 「レイちゃん、これなんか似合うんじゃないの」みたいな事を言ったクレハが見せたスーツを、レイアは喜んで受け取った――なんだかそんな光景が容易に想像できた。

 

 

「俺達に一番早く教えてくれたのか。そりゃあ嬉しいよ、レイア」

 

「はい。ちなみに皆さんにはドキドキの怪談というのをお話して来ていますが、キリト達も聞いていきますか?」

 

 

 キリトは首を横に振った。如何にもアスナとユピテルがひどく怖がりそうなドキドキの怪談というのも聞いてみたいところだが、その時間が惜しい。今すぐにでも、《SBCフリューゲル》の鍵があるという《忘却の神殿》へと向かいたくて仕方がない。

 

 

「それはまた今度にしてくれ。というか、その話よりも、今俺達に教えてくれた情報をもっと多くのプレイヤーに教えてやった方が良いと思うぞ」

 

「わかりました! そうするつもりだったので、行ってきます!」

 

 

 レイアはぺこりとお辞儀してから回れ右をすると、軽快な足取りで街中へ駆けていった。レイアの運動能力は月並みといったところなのだが、どうにも転びやすい傾向にあるようで、そこが何もないところであっても、走ると結構な確率で転んでしまう。

 

 そんな彼女が走っていったのだから、また同じように転ぶのではないかと思っていたが、意外にも彼女は転ぶことなく走り続け、街へ消えていった。その様子を最後まで見届けてから、キリトは二人に声掛けた。

 

 

「さてと、行くべきところがわかったな」

 

 

 腕組しているシノンが呟くように答える。

 

 

「《忘却の神殿》か。そんな場所が《SBCフリューゲル》の外にあるだなんて、気付かなかったかも。《SBCフリューゲル》に気を取られ過ぎていたのかしらね」

 

「そもそも《忘却の森》自体、《SBCフリューゲル》が出てくるまで、ほとんど探索されていなかったからな。《SBCフリューゲル》に注意を向かせておく事で、《忘却の森》の中にある要素から目を逸らさせる。中々凝ったことをやりおる」

 

 

 リランの言う事にも頷けた。誰もが《SBCフリューゲル》に目を向けているため、その近くにある《忘却の森》はほとんど盲点に近しい状態になる。そこに大事なモノを隠しておくというのは、上手いやり方だ。

 

 そして今レイアが教えてくれた話が真実ならば、ここへ向かう事で、今の《SBCフリューゲル》の詰み状態を解消できるに違いない。

 

 

「よし、とりあえず俺達だけで行ってみよう。皆の事を待ってたら、誰かに先を越させるかもしれないからな」

 

 

 二人ともキリトの言い分に頷いてくれた。既に出発する準備は整っているから、どこへでも攻略に向かえる状態だ。

 

 確認が済むと、キリトは二人を連れてガレージへ向かい、リランをビークルオートマタの《リンドガルム》にして搭乗、転移装置へ駆けた。

 

 

 

 

           □□□

 

 

 

 

 

 

 遊撃潜伏部隊(ゲリラ)が潜んでいそうだと、ミリオタのシュピーゲルがコメントする《忘却の森》の奥地へ向かったところ、レイアの指し示したものはあった。

 

 鋼鉄建築が基本になっているGGOの世界では化石技術とも言える石造りの、神殿のような相貌(そうぼう)の建物が本当に存在していた。現実世界で言うパルテノン神殿、ストーンヘンジに似ていなくもない、神聖な雰囲気の漂う石の神殿。それが《忘却の神殿》だった。

 

 《SAO》、《ALO》、《SA:O》といったファンタジーの世界では珍しくもなんともないが、未来世界であるGGOにこんなものがあるというのには、周囲の雰囲気やオブジェクトとの強いギャップを感じられた。

 

 そんな《忘却の神殿》はというと、地表に出ている石造りのオブジェクトはただの飾りのようなもので、神殿自体は地下に作られている構造のようだ。実際《忘却の神殿》の建築物の中に、地下へ続く通路が確認できた。この通路の奥こそが《忘却の神殿》の本殿という事に違いない。

 

 キリトは気を引き締めて、愛する人であるシノンと共に、頼もしき相棒であるリランの背に乗って通路を下った。大型のビークルオートマタであるリランが余裕で通れるくらいに広かったので、難なく降り続けられた。

 

 通路の左右の壁側が階段になっていて、真ん中付近は程良い傾斜のスロープになっているという、何かしらの目的を感じられる形状になっていた。

 

 ビークルオートマタが余裕で出入りできるくらいの広さがあり、よく見ると車道のような区分けもされている。車両用の搬入通路という事なのだろうか。

 

 もしそうであるなら、ここは神殿という偽名で隠された軍事基地という事なのだろう。中で何が(うごめ)いているか、何と交戦しそうか、容易に想像できた。激しい戦闘からは逃れられないだろう。キリトの声掛けに二人とも応じてくれて、一層気を引き締めてくれた。

 

 通路を下って二十秒ほどで底に到着した。(にら)んだ通り、そこは格納庫や整備工場を兼ねた巨大軍事基地に間違いなかった。

 

 鋼鉄が壁と床に張り巡らされているが、そこには《SBCフリューゲル》の中でも見た、幾何学模様(きかがくもよう)やギラギラした光沢がある。ここも《SBCフリューゲル》勢力のものに間違いなかった。

 

 更なる証拠として、ギラギラ光沢のある少しカラフルな装甲を(まと)う戦機達が巡回しているのも確認できる。《SBCフリューゲル》で見られた戦機達と同じ特徴だ。

 

 こいつらがいるという事は、ここは《SBCフリューゲル》に関係する施設であり、《SBCフリューゲル》攻略に必要な物を抱え込んでいる事を意味している。レイアの言っていた事は真実だったようだ。

 

 そして周囲にプレイヤーの気配は察知できない。完全に一番乗りの状態でここに来れた。察知したシノンが口角を上げる。

 

 

「プレイヤーがいないわ。私達が一位みたいよ」

 

「《ALO》でオーディンのクエストをやった時を思い出すな。もしかしたら、また《今週の勝ち組さん》に出れたりするかもしれないぞ」

 

《そうなったら我ら三人で出ることになりそうだな。その時に何か喋りたい事はあるか、シノン》

 

 

 あの時出演する事はなかったシノンにリランが吹っ掛ける。彼女はどきりとしたような顔をしていた。

 

 

「えっ。えっと……私はパスでいいかしら。そういうのはやっぱり……」

 

《苦手であろう。我もお前が人前に出て何かを喋っているのは全く想像が付かぬ。お前に《MMOストリーム》への出演は似合わぬよ》

 

 

 リランの《声》には笑みが混ざっていた。シノンがどういう()なのかは良く理解しているから、無理しないでいいよ――そういう意味があるようだ。聞いたキリトはふと呟く。

 

 

「じゃあ、また俺とリランでの出演になるかな。……っていうかおい、まだ確定事項じゃあないだろ」

 

《その通りだ。ひとまず一番乗りを確保できてはいるから、一気に進めるぞ!》

 

 

 そうだ、まだ一位を獲得できたわけではないから、《Mスト》出演はただの願望の域を出ない。キリトがそのことにツッコみを入れると、リランが前に進み出そうとした。

 

 

「――ッ!?」

 

 

 次の瞬間、リランの右足付近から着弾音がした。右方向からエネミーの気配を感知できている。巡回している奴らに見つかったようだ。

 

 ようやく戦闘だ――そう思って右方向を見たその時だった。

 

 

「敵が出た! やっぱりそれっぽい格好してる!」

 

「けれど、なんとかなりそうですよ!」

 

「頑張ってみましょうよ!」

 

 

 ひどく聞き覚えのある声がした。だが、どうしてここで聞くことになったのか、理解が追い付かない。いや、理解が追い付かないのは視線の先の光景だった。そこに三人の人影がある。

 

 全員が少女で、黒と白の軽装戦闘服に身を包んでいるのだが、驚くべきことはその姿だった。

 

 

「え……!?」

 

「な、なんで……!?」

 

 

 キリトとシノンの驚きは重なっていた。

 

 三人の少女のうち、一人は金髪のポニーテールで胸が大きいのが特徴で、一人はピンクの髪の毛と頬元のそばかすが少し目立っているのが特徴的。

 

 そして最後の一人は明るい茶色の髪をツインテールにしている、小柄な体型。

 

 それぞれリーファ、リズベット、シリカだった。大切な仲間であるはずの三人から、エネミー反応が出ていた。

 


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