キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

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 彼らの無自覚な部分が明らかに。

 


09:安らぎを得た戦士達

 

          □□□

 

 

 

 サチとシノンとの会話を終えた後、キリトは屋上に出た。いつもは誰もいないところであるが、そこに誰かがいるような気がしたからだった。

 

 リランと共にそこへ向かってみたところ、その予感は当たった。鋼鉄の街並みを見下ろせる展望台でもあるそこに、エイジとヴァンが並んで立っていた。どちらも街並みを見ているようだ。

 

 かつては敵対した者同士。キリトにとっては自分が取るかもしれなかった選択肢の体現者であり、悲劇の英雄とも言える戦士がエイジだ。再会した時から思っていた事であるが、どう話しかけたらいいのかわからない。前方にその二人がいるというのに、その背後で何もしないでいるしかできなかった。

 

 

「……なんとかなったのか、キリト」

 

 

 こちらに背を向けたまま、エイジは声を掛けてきたから、キリトはリランと共に驚いた。

 

 

「なんだよ、気付いてたのか」

 

「リラン(ねえ)の《アニマボックス信号》で一発だ。そしてリラン姉の隣にいるのなんてお前くらいだろ」

 

 

 答えたのはヴァンだった。エイジと同じでこちらに背中を向けたままだが、彼も《電脳生命体(エヴォルティ・アニマ)》の一体なので、同じ《電脳生命体》であるリランの反応を探り当てる事など容易だ。だから目を向けていなくても、どこにどの《電脳生命体》がいるのかわかる。

 

 そしてそのリランの隣にいるのは自分であるというのも、彼は既にわかっているようだ。まぁ、一度リランを乗せた自分と戦っているので、それは理解できて当然だろう。そんな二人に近付いていくと、もう一度エイジが声を掛けてきた。

 

 

「その様子だとなんとかなったみたいだな、お前の事情は」

 

「あぁ、なんとかなった。ありがとうな、エイジ。お前が協力してくれたおかげだ」

 

 

 サチとマキリを救うために戦う事になったボスエネミーの二体。それらとの戦いはエイジとヴァンが居てくれたおかげで有利に戦えた。あぁしてサチとマキリを救う事ができたのは、エイジとヴァンが力を貸してくれたおかげだ。キリトは改めてそれを実感していたからこそ、そう言った。

 

 

「……お前が僕に礼を言うのか」

 

「協力してくれた人にお礼を言うのは当然だろ。それに……ごめん」

 

 

 キリトの言い出した事が読めなかったのか、エイジとヴァンは驚いていた。相変わらず背を向けたままでも、その動きでわかった。

 

 

「何を謝っているんだ。僕はお前に謝られるような事をしたか」

 

 

 《オーディナル・スケール》でのエイジとの最終決戦の後でわかった事。エイジは自分が選ぶかもしれなかった選択肢の体現者であり、もう一人の自分のようなものだったという事だ。もし自分がエイジと同じ立場に置かれた時には、間違いなく同じ選択をしていた。

 

 あの時は記憶を取り戻したいがためにエイジを一方的に非難していたが、本当はそんな事をするべきではなかったし、そもそもそんな事ができるような立場に自分はいなかった。それがわかった時からキリトはずっとエイジに謝りたかった。

 

 その事を話すと、エイジは背中を向けたまま答えてきた。

 

 

「僕の選択が、お前がしていたかもしれない選択だって?」

 

「少なくともな。もし俺がお前みたいに目の前でシノンを喪って、シノンの事を生き返らせられるって計画を持ち掛けられたなら、俺はお前と全く同じ事をしていた。そうならなかったのは運が良かっただけだ。運良くお前と同じにならなかっただけなんだ。

 もしそれが無くて、お前と同じ立場に置かれる事があったなら、俺はお前と全く同じ事をして、お前と敵対していた。そう思うんだ。だから、俺はお前を一方的に悪く言う事なんてできなかったはずだし、そんな事をしていい立場にいるわけでもなかった。だから、あの時はごめん。お前がどれだけ苦しんでいたか、全然知ろうともせず……」

 

 

 エイジは相変わらず背中を向け続けていたが、首や頭には動きがあった。顔を下に向けているらしい。唐突(とうとつ)に言われて戸惑っているかもしれない。だが、それでもキリトはこれを言わずにはいられなかった。自分が選ぶかもしれなかった行動を起こした青年、自分と同じように大切なモノを持っている(ほこ)り高き戦士に。

 

 その戦士はというと――数秒後にようやく顔を向けてきた。こちらを嘲笑(ちょうしょう)しているような表情が浮かんでいたが、悪いものではなかった。

 

 

「……一度お前の大切な人を奪おうとして、お前の命さえ奪おうとしたのが僕だっていうのに。その僕にそんな事を言えるなんて、お前は本当にお人好しだな。なんでそこまでお人好しになれるのか、純粋に気になるよ」

 

 

 確かにそうだろう。例えエイジが自分が取るかもしれなかった選択肢を取った人であろうとも、彼がシノンや自分の仲間達の命を奪おうとしていたというのに変わりはない。そんな彼にあんな事を言っているのだ。大甘と嘲笑されても仕方がない。そう言われるのは予想の範囲内だったが……気分が良くなるものではなかった。

 

 だが、エイジの言葉は続いた。

 

 

「……でも、正直僕はそんなお前が(うらや)ましくて仕方がなかった」

 

「羨ましい?」

 

「お前は僕みたいに戦闘中にすくんで動けなくなったりせず、敵に立ち向かっていける。……だいぶ良くはなったけれど、僕は未だにVRにいると、すくみそうになったりする時があるんだ。だからいつまで経っても強くなれないし、あの時彼女を救う事だってできなかった」

 

 

 エイジは《フルダイブ不適合症》というものに(かか)っていた。フルダイブマシンが本人の発する本能的な生存欲を優先的に発現させてしまって、動きを麻痺させてしまうもの。

 

 それのせいでエイジは満足に戦う事もできず、強敵を目の前にすると足がすくんでしまって動けなくなる傾向にあった。そのために彼の大切な人であるユナを一度喪う羽目になったという話だった。

 

 そんな症状を持ってしまっているエイジは、ようやくこちらに振り向いてきた。

 

 

「《オーディナル・スケール》の計画が最後まで行って、お前と戦った時に気が付いたよ。僕はお前に嫉妬していただけだ。大切な人を守るために戦えて、実際に守れて、SAOをクリアに導く事ができた。そしてお前はこんなにも優しい。僕はそんなお前が羨ましくて、(ねた)ましかった。僕ができなきゃいけなかった事ができて、成し遂げられたのがお前だ。

 ――そんなお前の話を聞いているうちに、僕がお前みたいに強ければ、あんな事は起きなかった、ユナを死なせるような事はなかったって、いつしか思うようになっていた。一人で怒って、一人で思い込んで……そしてお前を襲った。僕のやっていた事はただの八つ当たりみたいなものだったんだ。自分ができなかった事をできた人達に勝手に怒って、勝手に嫉妬して、攻撃して、苦しめた。身勝手なもんだろ」

 

 

 自らの真意を語るエイジの言葉には自嘲(じちょう)が含まれているのがわかった。エイジ自身が嘲笑する言葉の内容に対し、そしてエイジ自身に対してキリトは首を横に振る。

 

 そんなはずがあるものか。エイジの怒りは理不尽へ向けられた真っ当なものであったし、その怒りの根底にあったのはユナに再会したいという純粋な気持ちだ。自分がユナを守れなかったから、強い連中が憎らしいなんていう身勝手な八つ当たりとは違う。

 

 

「そんな事ないよ。お前は大切な人を取り戻したくて必死だっただけだ」

 

「その結果が何も起きず、お前にも負けて、芹澤(せりざわ)博士に助けられた。僕は自分一人の力じゃ何も変えられなかったんだよ。お前とは違ってね」

 

 

 キリトは言葉を詰まらせた。確かにエイジの成し遂げられた事は少なかったかもしれないし、結局外部の者達が救ってくれたというのも事実のようだ。エイジはその事について自嘲しているようだが、それを辞めさせる方法がキリトには思い付けなかった。

 

 

「でも、芹澤博士はお前達のところにいる人で、ほぼお前達の根回しみたいな感じで僕のところに来てくれたようなものだ。多分あの人が別なところに居たのであれば、きっと僕のところには来なかったと思うし、ユナだって生き返る事はできなかったはずだ。あれも結局はお前達のおかげだったと思うし……僕が今ここにいるのも、ある意味お前のおかげだ、キリト」

 

「俺のおかげ?」

 

 

 首を(かし)げるキリトに、ヴァンが答えた。

 

 

「お前と戦ってから、エイジの《フルダイブ不適合症》の症状は弱くなっている。あの時お前と死に物狂いで戦ったおかげで、エイジはフルダイブに適応できるようになってきているみたいなんだ」

 

 

 確かにあの時のエイジの強さは、《フルダイブ不適合症》を患っているとは思えないくらいのもので、《SAO》にいたならば間違いなく英雄になっていたと思えるものであった。思い出すキリトはきょとんとする。

 

 

「そんな事があるのか」

 

「そんな事があるから言ってるんだよ。おかげでエイジは割と普通にVRゲームを楽しめるようになってきてるし、母親(おふくろ)が用意してくれたVRルームでユナとおれとで不自由なく暮らす事もできてるんだ。それになんだか、オーグマーを使っている時のおれやユナの感触とかを、より強く感じる事もできるようになってきているみたいなんだよ」

 

 

 VRでの経験によって《フルダイブ不適合症》の症状を緩和できるというのは初耳だが、先程戦っていたエイジを見た時、確かに《フルダイブ不適合症》を患っているとは思えないような動きになっていたとは思っていた。それが《オーディナル・スケール》での自分との最終決戦の影響とは、キリトも驚きだった。

 

 

「ヴァンの言っている事は真実だ。そうなんだろ、キリト」

 

 

 エイジに問われ、キリトは目を丸くする。ヴァンを含む《MHHP》、《MHCP》は嘘を吐く事ができない、言っている事はいつも真実であるというのが特徴の一つだ。そのヴァンがこう言っているという事は、つまりいつの間にやら自分はエイジの事を強くしていたという事だ。

 

 

「そうだな……エイジお前、強くなったんだな」

 

「強くなれたんだよ、お前のおかげでな。一番助けてもらわれたくなかった奴だったっていうのに、お前は僕の気持ちなんて何も知らずに、僕の不適合症を緩和させたんだから、すごいよ」

 

 

 エイジは明らかに褒めてくれている。感謝もしてくれているようだ。だが、どうにもキリトには実感が湧かなかった。エイジは確かに強くなったが、その強さは彼自らが手に入れた強さであるとしか思えない。

 

 そもそもエイジはあの時彼とヴァンとユナと過ごす日々を取り戻したい、愛する人を生き返らせたいという強く正しい意志を持って戦いに臨んできていた。その時に宿っていた思いこそが、彼の強さを底上げしたのではないだろうか。自分がエイジを強くできた事実など存在してはいないのではないだろうか。

 

 その事を口にしようとしたところで、リランが言葉を発した。

 

 

「それはお前がユナを想っていたからこそ発揮できた強さなのではないか、エイジ。あの時のお前は我らの敵ではあったが、これまで我らが相手にしてきた邪悪な意志を持った敵達とは違う、清らかな意志を持っていた。ユナを想う一途な心がお前にはあった。《フルダイブ不適合症》が緩和されてきたのは、お前が持っているその心のためであると思うのだが?」

 

 

 キリトはまたしても目を丸くした。リランの言った事は自分が気になった事そのものだった。やはりリランも同じような事を思っていたのだろう。それを指摘されたエイジはというと、ふんと鼻で笑った。

 

 

「そうだろうけれど、その切っ掛けをくれたのは結局お前達だ。僕はお前達に救われていたんだよ。救われたくなかったのに」

 

「正直気が進まないけれど、事実だから言う。ありがとう、キリトにリラン姉。エイジに強くなる切っ掛けをくれて」

 

 

 どことなく柔らかく笑うエイジの横で、ヴァンが頭を下げてきた。あの時敵対していた少年が頭を下げて礼を言ってきているこの瞬間は中々に現実味がなくて、受け入れるのに時間がかかりそうだった。

 

 それでも、こんなふうに言われているのは嫌ではない。つい先程のお人好しを指摘された時よりも気分は確かに良かった。だが、すぐさまキリトはとある事に気が付いた。まだ彼らに本当にお礼を言ってもらえるような事はできていない。

 

 

「……礼を言うのは早いぜ。まだ、サチとマキを助けるのに協力してもらったお前達の大切な人を助けられてない。礼を言うなら、その人を助けられた時にしてくれ」

 

 

 エイジとヴァンは一瞬きょとんとしたようだったが、すぐさま表情を戻した。不敵な笑みだ。

 

 

「そうだな。僕とヴァンはあの二人を助けるのに役立ったんだろ。だから、今度はお前達の番だ。僕達が役立った時と同じくらいお前達に役立ってもらわないと、釣り合わない」

 

「もしユナを助ける時に足を引っ張るようなら、礼は一切言わない。場合によっては背中を撃つからな」

 

 

 キリトは思わず笑んだ。できる限りの不敵な笑みを。変に(へりくだ)ったりせず、ドライな態度を示してくれているのが彼らに相応しいし、彼ららしい。ようやく丁度良くなってくれた。そんな彼らにキリトは返事する。

 

 

「その辺は期待しておいてくれ。お前達の足を引っ張るほど、俺達は恩知らずでも役立たずでもないからな」

 

「無事にお前の《ママ》を見つけ出して、お前とお前の《パパ》のところに帰らせてやろうぞ、ヴァン」

 

 

 明らかに悪戯(いたずら)をしているような声色でリランが言うと、ヴァンが「なッ!?」というびっくりしたような反応と声を出した。

 

 

「ま、ママにパパ? 誰の事だ」

 

「パパがエイジで、ママがユナに決まっておろう。お前が二人を家族だと思っているならば、即ちお前はこの二人の息子であるという認識でいる。そういう事なのだろう?」

 

 

 母親であるイリスとはまた異なるからかい方でおちょくられるなり、ヴァンは顔をかなり赤くした。彼の顔は半分近くが前髪で隠れているのだが、それでもわかるくらいに赤くなっている。

 

 

「そ、そんなわけないだろ! た、確かにおれはユナとエイジの家族だ。生涯その心と精神を癒していくと誓った二人だ。だけど、二人の子供とか息子になったつもりはないし、ユナとエイジをそれぞれママとパパと思った事だってないぞ!」

 

 

 明らかにヴァンは動揺していた。《オーディナル・スケール》での彼はとても思いつめたような様子だったが、そんな様子は今は感じられない。彼もまた救われていたようだ。思わずその事にキリトは安堵する。

 

 そうさせてくれた彼の仕草を見る事三秒程度、異変は起きた。彼は急に動揺を抑え始めた。

 

 

「……って、いや待てよ? おれの戸籍とかってどうなってるんだ。鋭二(えいじ)悠那(ゆうな)は結婚するって話だから、近いうちに夫婦になる。そうなると二人の家族であるおれの扱いはどうなるんだ。居候(いそうろう)? いや、その程度のものなわけがない。おれは二人の家族、二人はおれの家族なんだ。って事はやっぱり……そもそも正直母親(おふくろ)よりも悠那の方が母親(ははおや)だって思える時もあったし……というかそうであって欲しいくらいだし……」

 

 

 無意識なのだろう、ヴァンは聞こえるくらいの声量で独り言を言っていた。どうにも自分の扱いが気になっているらしい。エイジとユナにとってヴァンは家族であり、ヴァンにとっても《MHHP》や《MHCP》の姉兄(きょうだい)達以上の家族がエイジとユナである。

 

 そしてヴァンの姉に当たる《MHCP》であるユイは、自分とシノンの子供で、形式上は養子みたいなものだ。そのユイと似たような境遇(きょうぐう)にいるのがヴァンだから、つまりヴァンにとってエイジとユナは――。

 

 

「ま、ま、待ってくれヴァン。そんなに結論を急ぐんじゃない。君は――」

 

 

 焦り始めたエイジが声を掛けたところで、ヴァンはエイジに振り向いた。

 

 

「エイジ……やっぱりそういう事なのか。おれはお前達の子供なのか。お前がおれのパパで、ユナがおれのママって事だったのか」

 

「な、な、なッ……!?」

 

 

 《オーディナル・スケール》で剣を交えた時には想像できないような、頬に赤みを射させてエイジは戸惑い始めた。ヴァンの事は家族だと思っていたが、その形はなんなのか、エイジ自身も考えていなかったらしい。

 

 

「いやいやいや、ヴァン、君はだな、僕達にとって君は……あれ? ヴァンは芹澤博士が作ったAIだけど、今は僕達のところにいて、僕達の家族だよな……ヴァンは見た目が子供のうちに入るから……いや、中身もまだそうだから……そのヴァンが僕達のところにいるって事は、僕達がヴァンを引き取ってるって事だから……」

 

 

 エイジまで途中からヴァンと同じようになってしまった。聞こえるくらいの声量で独り言を呟いてしまっていて、何が気になっているのか丸わかりだ。隣にいるヴァンには丸聞こえ。ヴァンはすぐさまびっくりしたように声を上げる。

 

 

「や、やっぱりそうか!? おれはお前達の子供って事なのか!?」

 

「いやいやいやいや、待って待って待って! それはユナが決める事だよ。この話はユナは知らないだろ。まずは君についてユナに確認を取ってからだな――」

 

「いや、ユナは既にその気みたいだったぞ……おれの事を本当に自分の子供みたいに思ってるみたいだったし、そうでないとできないような事だってしてくれてたんだ。お前は何気なく見てただけかもしれないが……ユナはもう既にその気だ……」

 

「えぇッ、そうだったのか!? じゃ、じゃあやっぱりヴァン、君は僕達の……」

 

 

 エイジとヴァンは顔を合わせた。どちらも赤い頬をしているものだから、吹き出しそうになる。二人は《オーディナル・スケール》の時からずっと家族同士だと思っていたようだが、親子であると考えてはいなかったのは間違いない。その事を改めて認識した事によって焦っているようだが、それを見ているだけでキリトは心から安心できた。

 

 大切な人を喪ったエイジ、同じく大切な人を喪って傷心していたヴァンは、共に家族という宝を得る事ができて、親子関係になる事ができた。親子関係になっていたというのには無自覚だったからこそ、あんなふうに焦っているわけなのだが、それでも嫌そうではないし、寧ろ嬉しい事がわかって戸惑っているようにも感じられた。

 

 そういった感情に敏感なリランが柔らかく微笑んでいるのも証拠である。エイジとヴァンという悲劇の英雄だった戦士達は、ついに暖かい安らぎを手にする事ができたのだ。そんな二人にリランが声を掛ける。

 

 

「さぁて、ヴァン。エイジとユナの養子である事を受け入れる事と、養子ではないものとして生活していく事は、どちらの方が理に(かな)っておる?」

 

「う、うるさいんだよ! 変な話吹っ掛けやがって! おかげで、どうすればいいかわからないじゃないか……!」

 

 

 完全に焦っているヴァンの返事にリランはもう一度笑った。エイジとヴァンが幸せを手にする事ができたという事実を確認できたのが、リランは心から嬉しいのだ。《MHHP》としての側面の影響もあるだろうが、彼女自身の心が嬉しがっている。

 

 リランを嬉しくさせたそんな二人の幸福を、キリトも祝わずにはいられないし、そこに立ちはだかろうとしている壁の存在も許せない。これから彼らの大切な人を見つけるための探索に向かうわけだが、ラスボスを相手にするのと同じくらいの気持ちで挑まねば。キリトは胸に高鳴りを感じていた。

 

 その時、キリトの通信端末が小刻みに振動した。着信を受けている。間もなくウインドウが展開されたが、そこには意外な事に《フカ次郎》と書かれていた。自分達の別動隊として《ホワイトフロンティア》を探索している彼女達にも、何か発見があったのだろうか。

 

 いや、それ以前にフカ次郎から通話がかかってくる事自体が意外すぎる。そんな気持ちを抱きながら、キリトは通話を開始した。

 

 

「もしもし、フカ次郎。どうしたんだ」

 

《プリヴィエート、キリト君!》

 

 

 聞こえてきた声にキリトは驚いた。端末の向こうにいるのはフカ次郎ではない。フカ次郎よりもずっと幼くて、元気さと無邪気さを隠そうともしていない少女の声。聞き覚えがあるどころではないその声の持ち主の名を、キリトは呼んでいた。

 

 

「セブン? 君なのか」

 

《えぇそうよ。今フカちゃんの端末を借りて電話してるの》

 

 

 セブン。本名を《七色・アルシャーピン》という彼女は、VR世界で活動するアイドルであり、歌姫であり、自分の仲間の一人でもある。本業は研究者であるため、研究の具合によってVRにダイブできるかどうかが左右されやすく、最近は研究が忙しくなった事によってログインができないという話を聞かされていた。

 

 

「君がいるって事は、研究が落ち着いたって事か」

 

《そんな感じ。それよりもキリト君、すごい事が起きちゃったわ!》

 

 

 声色が上ずっている。端末の向こうのセブンははしゃいでいるようだ。まだ十三歳であるからか、どことなく幼さが垣間(かいま)()えるのが彼女だとは知っている。その部分が出てきているのは間違いない。

 

 

「すごい事ってなんだ」

 

《ユナちゃんよ! ARアイドルのユナちゃんが、あたしの憧れのユナちゃんが、《GGO》に来てるの! この《ホワイトフロンティア》のあたし達のすぐ傍に!》

 

「なんだって!? ユナがそっちにいる!?」

 

 

 キリトが思わず口にした一言に、キリト以外のその場の全員が驚いて声を張り上げた。

 

 

 

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