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「クレハ、今はどうだ。痺れは取れたか」
クレハは答えなかった。半分
《
ヘカテーというシノンと全く同じ顔をした《死銃》の一人に撃たれた電磁スタン弾の威力は余程強かったらしく、そこまで来てもクレハの麻痺は解けなかった。その状況を受けて、ツェリスカとイツキはアルトリウスに「クレハの麻痺が解けるまで廃墟の奥にいた方が良い」と提案。それをアルトリウスは受け入れ、クレハを抱えて今いるビルの奥に向かったのだった。
それからというもの、クレハは全く何も言おうとしなかった。話しかけても無反応で、ずっとアルトリウスからそっぽを向いたままだった。だからこそアルトリウスはクレハの事が気になって仕方がなかった。
クレハは前日から様子がおかしかった。《死銃》を撃ち倒す事に異様なまでに執着し、今日になってみれば真っ先に《死銃》のところに向かおうとして、《死銃》と対峙した時には自分が倒すと言って聞かず、同じように《死銃》を狙っていたシノンを撃とうとまでしていた。
あまりの事にアルトリウスは驚かされて、そしてクレハへの理解を失いつつあった。クレハについてはわからない部分が多いとは思っていたものの、それは今アルトリウスの想像を遥かに超えた大きさにまで膨張していた。最早クレハが理解不能の存在、もしくは理解が追い付かない未知の概念として成り立とうとしているかのようだった。
そうなられてしまってはアルトリウスとしてもたまったものではない。誰よりもわかりたかったクレハが本当に理解不能の存在になられるのはごめんだ。だからこそアルトリウスはクレハを深堀りする事を決めた。例え拒否されたとしても、そのまま突き進んでやる。そう思ってアルトリウスはクレハに問いかけた。
「クレハ、そろそろ教えてくれないか。なんであそこまでの事をやったんだ。なんでクレハはそこまで《死銃》を討つ事にこだわってるんだ」
アルトリウスにとっての一番の疑問。クレハの《死銃》への異様なまでの執着心だ。《死銃》はプレイヤー達を殺している可能性が非常に高く、もう見られていないチャンネルのニュースがやたらと報道し続けている《
だからこそ止めなければならない存在であると定義され、キリト達を中心に討伐の話が上がっていたわけなのだが、その討伐の任をクレハが真っ先に買って出ていた。《死銃》はその名の通り死を運ぶ存在であり、撃たれれば本当に命を落とす危険性がある。その話に嘘偽りはなかったというのが、つい先程《死銃》に撃たれたペイルライダーが凶悪な頭痛を訴えるようにして消えたのを見てわかった。
なので、《死銃》からは真っ先に逃げるべきであったというのに、クレハは逆に《死銃》に立ち向かおうと、自分の手で討とうとし、援護に入ったシノンさえも撃とうとしていた。クレハは《死銃》を討伐するという事にこだわっているどころか、囚われている。《死銃》の何がクレハを縛る鎖になっているというのか。
その答えをアルトリウスは聞きたくて仕方がなかった。しかしやはりというべきか、クレハは答える気配がない。何も言わないまま背を向けて寝ているだけだ。まだまだ黙っているつもりなのか。
「クレハ」
痺れを切らしそうになっているアルトリウスが問いかけたその時だった。ようやく返事が来た。
「……もう、わかったでしょ」
「え?」
「あれでわかったでしょ。あたしは弱いって」
アルトリウスは首を傾げた。クレハからは見えないだろうが、首を傾げるしかなかった。
「弱いって、なんでだ」
「あたしは《死銃》を討てなかった。一発も当てる事ができなかった。あたしは狙っている《死銃》に一発当てる事さえできない弱い奴だったって事が、よくわかったでしょ」
アルトリウスは眉を寄せた。確かにクレハは《死銃》に先制攻撃したものの、一発も被弾させる事はできていなかった。それはクレハが叫んでから《死銃》に攻撃したりなど、《GGO》の基本である不意打ちをしなかったのが理由だとも思ったが、《死銃》がビークルオートマタを使っていたというのが一番の要因であると思い直した。
《死銃》にはカメレオン型戦機という未知の仲間がいた。しかも現実におけるカメレオンの擬態能力を拡張した透明化能力を持っていた。そいつが《死銃》を守ってくるなど、誰も想像できていない事だった。あんなものに守られた《死銃》を予備知識なしで討つ事など、できる事ではないだろう。
クレハがあの時《死銃》を狙えなかったのは当然だったのだ。それは誰がやったとしても変わる事はなかった。自分がやったとしてもキリトがやったとしても、あの結果は変わらなかっただろう。あの時《死銃》に一発も当てる事ができなかったクレハが責められる理由はない。それをアルトリウスは素直に話す。
「あの時、あいつはあんなビークルオートマタを隠し持ってるなんてわからなかったじゃないか。あんなの俺だってわからなかったし、他の皆だってわからなかった。あの時《死銃》に一発当てるなんて誰でも無理だったよ」
クレハは何も返してこなかった。そこでアルトリウスはいつの間にか論点をすり替えられている事に気が付く。
そうではない。クレハが弱いとかそうじゃないとかじゃなく、どうしてあの時《死銃》を一番に撃とうとしたのか、《死銃》を討つ事にこだわっているのかが知りたい。
思い出したアルトリウスはもう一度クレハに問う。
「――そうじゃなくて、どうしてクレハは《死銃》をそんなに狙うんだ。あいつの何がそんなに嫌なんだ。あいつの何が気に入らないんだ」
「……」
アルトリウスは自分の聞き方が悪かった事に気が付いた。《死銃》のどこが嫌だって? プレイヤー達を実際に殺しているところが嫌な点の全てを満たしている。《死銃》の何が気に入らない? それも同じだ。罪のないプレイヤー達にありもしない罪を擦り付けて勝手に断罪するやり方と姿勢を気に入る奴などどこにいるというのだろうか。少なくとも自分の身の回りにはそんな事を言い出す人などいない。
アルトリウスは頭を掻きたくなる衝動を抑えて、クレハにもう一度問いかけた。今度こそ余計な事を含まずに。
「クレハは、どうしてそんなに《死銃》を倒したいんだ。あいつとまともにやり合えば、本当に死ぬっていうのに」
アルトリウスはクレハの回答を待った。しかしクレハは背を向けたまま何も言い返してこない。それでもアルトリウスはクレハの回答を待ち続けていた。やがてそれが功を成したのか、クレハから声が返ってきた。
「……あんた、いつまでこうしてるつもりなのよ。いつまであたし
「え?」
アルトリウスはまたまた首を傾げた。いつまでこうしているつもりなのかだと? そんなふうに言われるような悪い事をしていたか。いや、身に覚えがない。
「それってどういう意味だ――」
アルトリウスが言いかけたその時、クレハは急にばっと起き上がった。麻痺が既に解除されていたのか――アルトリウスが思うよりも先に、クレハはアルトリウスに飛び掛かり、覆い被さるような姿勢になった。
その時になってようやくクレハの顔を見る事ができたが、アルトリウスはそこで驚かされていた。クレハは今にも泣き出してしまいそうな顔と怒った顔を両方複雑に混ぜ合わせたような表情になっていた。
「いい加減にしろって言ってるのよ! 出来損ないのあたしなんて放っておいて、大好きなおねえちゃんのところに行けって言ってるのよ!!」
突然怒鳴り付けてきたクレハにアルトリウスは目を見開き、口を半開きにした。勿論というべきかアルトリウスの答えを待たず、クレハは更に大声を出してきた。
「あんただって本当はそうなんでしょ。本当に好きなのはあたしじゃなくておねえちゃんなんでしょ。あたしの事は単にからかってるだけなんでしょ。色々言ってるのは、あたしが出来損ないだっていうのを嗤ってるからなんでしょ。もういい加減にしてよ!!」
アルトリウスは呆気に取られていた。クレハから聞こえてきた言葉が脳内に入り込んできて、頭蓋骨の中で跳ね廻っていた。
クレハは出来損ない?
自分が本当に好きなのはクレハの姉?
「もうわかったでしょ! あたしはあんたに並ぶ事なんてできない。あたしは《死銃》を倒せるような力もないような出来損ないなのよ。何もできない出来損ない!
更に飛んできたクレハの言葉のうちの一つが、アルトリウスの頭の中を跳ね廻る言葉を全て消し去り、空いたスペースで木霊するようになった。
《あんたを好きになっていい権利なんてない》
あまりにも唐突な事であったものだから、アルトリウスは数秒瞬きを繰り返していたが、すぐに予想より早く口を動かす事ができた。
「……
クレハ/
そして律の中で構築されていた紅葉へのイメージがかなりの速度で姿を変えつつあった。幼馴染であり、姉貴分だった紅葉。この《GGO》に導いてくれた、一緒に遊ぼうと言ってくれた大切な友達。
そのイメージは律の中でずっと変わる事の無かった不動の存在とも言えた。だが、それが今不動の存在でなくなり、あまり予想していなかった方向へ動き出していっていた。目の中に映り込んでいるのは彼女のアバターであるクレハの姿であるが、今の律には現実世界にいる紅葉のそれと何も変わらなくなっているのが、併せて確認できた。
「なあ、紅葉ってば。それってどういう事なんだよ。俺が……好きって……」
律は改めて聞き直した。もしかしたら先程のは聞き間違いだったかもしれない。聞こえた言葉を自分が都合よく解釈しただけだったかもしれない。だからこそ紅葉に確認を取ろうと思ったのだった。
その問いかけに紅葉が応じたのは、十数秒後の事だった。彼女は本当に今にも泣き出しそうな表情になって、口を開いた。
「……あんたはずっと、おねえちゃんよりもあたしの方を見てくれてた。勝手な事ばっかり言って、勝手にあんたのおねえちゃんみたいになってた赤の他人のあたしを、あんたは素直に受け入れてくれてた。あたしがおねえちゃんの都合で引越ししなきゃいけなくなった時も、周りの皆がおねえちゃんと別れるのを悲しんでた中で、あんたはあたしと別れるのを悲しんでくれてたじゃない」
律はその時の事を思い出す。確かにそうだ。幼い時からずっと一緒に遊んできて、色々と面倒を見てくれて、何より一緒に居てくれた紅葉と離れ離れにならなくてはいけないという話を聞かされた時、何よりも悲しいと思った。
周りの者達は紅葉の姉との別れを惜しんでいて不思議――というか奇妙――に思えた。どうして紅葉の姉ばかり気にして紅葉を気にしないのか、紅葉に対して何も思わないのかと疑問だった。
もし紅葉の姉が全てであり、紅葉はどうでもいいというのであれば、それはおかしい事だろうと思っていた。それを口にする事はなかったものの、今までずっと思っていた事だった。
そんな律に紅葉からの言葉は続けられる。
「律がそんなだから、あたしはいつもあんたの事を考えてた。あんたと離れ離れになった後も、あんたの事をよく考えてた。あんたは今どうしてるんだろうって……そんな事ばっかり考えてたのよ、あたしは」
「……」
律は何も言い返さなかった。キリトがよくやっている、続きを促す時の沈黙を試してみる。紅葉は続けてくれたが、ついにその表情が崩れた。本来の彼女のそれとは異なる青水色の瞳から涙が零れ、覆い被されている律の頬に落ちてきた。
不思議な事に、それはとても暖かく感じられた。
「気付いたらあたしは、あんたの事ばかり考えるようになってた。あんたにまた会いたいって、また一緒に居られるようになりたいって、そう思うようになってた。だから、あたしが引っ越した後にあんたがよくメールとか電話してくれるのが嬉しかった。あんたからの連絡が待ち遠しくなったの。それくらいにまであたしはあんたの事で頭がいっぱいになりそうだったのよ。
だからあたしは《GGO》にあんたを誘ったの。本当にあんたに会いたくなって、本当に話がしたくなったから、一緒に居たくなったから。それをあんたが受け入れてくれたのがすごく嬉しかったし、VRの世界であってもあんたと一緒に居られるのはもっと嬉しかった。……あんたと一緒に遊んでいると、嫌な事を忘れられた。もっと傍に居たいって思えた。あたしはあんたの傍に居る事が、あんたと一緒に居られるのが、幸せだったのよ」
律は完全に言葉を出すのを忘れて聞き入っていた。いや、完全に紅葉に意識を奪い尽くされていた。今が戦場のど真ん中であるという事、そして恐るべき敵に狙われているかもしれない状況であるという事など、どうでもよくなっていた。
「いつだったかはもうわかんない。でもね、律が《GGO》に来てからしばらくして、あたしは気付いたのよ。あたしはあんたが、律が好きだって……幼馴染で、こんなあたしと一緒に居てくれるあんたが、仲良くしてくれるあんたが好きだって……気付いた……」
そこでようやく紅葉の話が終わったようだった。紅葉は上半身を律から離し、少し後ろに下がってから、まるで操りの糸が切れたように座り込んだ。
「だからあたしは強くなろうとしたのよ。あたしは出来損ないだから、今のままじゃ律の隣になんていられない。あたしみたいなのが隣に居たら、律が
「《死銃》に挑んだ……」
律の問いかけに紅葉が頷く。ようやく謎が解けた。あの時からどうして紅葉が《死銃》を死に物狂いで倒そうとしているのか、どうして自分と一緒に安全なゲームに逃げようとしないのかがわかった。だが、その事情を律は中々呑み込めずにいた。
紅葉が逃げようとしてくれなくて、《死銃》に挑んで、殺されそうになって、そしてその理由を聞いてみたら、自分の事が好きだったから。けれど今の紅葉じゃ自分を好きになれば周りから嗤われるだけ、蔑まれるだけだから、そうならないために《死銃》を倒そうとした。
紅葉が俺のために《死銃》と戦おうとしていたという、レイアの言葉は本当だった。
紅葉がここまで必死なのは全て、俺のため――。
それらすべてが現実で起きている事であるが、律は現実感を掴む事ができずにいた。間もなくして、紅葉が口を開いた。
「でも、結果は見ての通りよ……あたしは《死銃》を倒す事なんてできなかった。それどころか、こんなふうにあんたに担がれて逃げるしかできなかった。結局あたしは出来損ないの妹でしかなかったのよ。あんたを好きになっていいわけ、なかったのよ。あんたの、皆の足を引っ張る事しかできなかったのよ……」
直後、紅葉の右手に黒く光るものを認め、すぐさまその正体を掴んで律はびっくりした。そこにあったのは紅葉が普段から使っているサブマシンガンである《UZI》。急にそれを抜いた紅葉は、あろうことかその銃口を自分自身の頭部横へ向けた。すぐさま紅葉の右耳の上の頭部に銃口が密着する。よくある拳銃自殺の姿勢だった。
「こんなあたしなんて、必要ないでしょ」
明らかな自嘲を含めた声で言い放つと、紅葉はその指を引き金にかけた。あのまま引き金を引けばどうなるかなど簡単に予想できる。だからこそ律は止めようと思ったが、その時既に身体が動いていた。
律は吸い込まれるようにして右手を右腰にあるホルスターに突っ込み、中にある《ソーコムピストル》のグリップを力強く掴んだ。それを今度は思いきり引き抜き、瞬時に構えて狙いを定めた。紅葉よりも早く、ずっと早く――それを念じた時には引き金が引かれて破裂音が鳴り響いていた。
「あっ……!?」
小さな悲鳴を上げる紅葉の右手から弾かれた《UZI》は地面へ落ち、滑って遠くまで飛んでいった。動きが完全に止まった頃に、赤い光を纏うポリゴン片となって砕けて消えていった。耐久値が一瞬にしてゼロになったのだろう。《ソーコムピストル》の一撃を諸に受けたのだから当然だった。
「ッ!」
その一瞬の隙を突いて、律は紅葉に向かって飛び込んだ。勢いを載せて紅葉を両手でしっかり抱き締めて地面に倒れ込む。覆い被されていたつい先程とは逆の状態である律が上で紅葉が下の体勢となった。そこからすぐに紅葉が声を出してくる。
「……何するのよ……!」
律は何も言わなかった。しっかりと紅葉を両腕で抱きすくめて離さないようにする。
「離しなさいよ……離してよ……あたしの事なんか、気にしないで離しちゃいなさいよ……!!」
紅葉はどこまでも自分自身を否定していた。それが行動にも繋がっているらしく、律の背中を手で強く叩いてきていた。しかし、そんな紅葉を離そうとする気など、律にはなかった。その気持ちを思いきり込めて首を横に振る。
「離さない。離したくないんだよ! 俺も紅葉が好きだから!」
「え……?」
その声と共に背中を叩かれる感触がなくなった。ようやく話が通じるようになった。確信を得た律は自分の中に宿る気持ちを話し始めた。
「紅葉だって同じだよ。紅葉は俺が小さい時からずっと傍に居てくれたじゃないか。俺が傍に居たんじゃない。紅葉が俺の傍に居てくれてたんだよ。確かに紅葉のねえさんにも優しくしてもらった。本当によくしてもらった。面倒を見てもらいもした。でも、それ以上に俺の傍に居てくれて、俺の面倒を頼んでもいないのに見てくれてたのは紅葉だった。だから、俺は紅葉のねえさんよりも紅葉と一緒に居たいって思ったんだ。紅葉と一緒に居られるのが嬉しいって思ってたんだよ」
紅葉がどんな顔をしているのかはわからなかった。息遣いからして、呆然としてしまっているのだろう。それでも構わずに律は話し続けた。
「だから、紅葉が引っ越すって話を聞いた時、すごく悲しかった。引っ越した時はもっと悲しかったし、寂しかった。もう紅葉と話せないんだって、一緒に遊べないんだって思って、涙が出てばかりだった。俺だってそんな感じだったんだよ。
そんなだったから、紅葉にメールしたし、電話した。紅葉から元気だっていう返事が来て、電話の向こうから紅葉の声がした時、今度はすごく嬉しくなった。会えなくなっても、また話ができるんだってわかった時、寂しくなくなった。会えなくなったけれども、離れ離れになったりしてないんだってわかったんだ。紅葉が俺からの電話とかを拒絶しなかったから……それから、紅葉と同じだよ」
「同じ……?」
紅葉の問いかけに律は頷きで応じた。
「四六時中とか毎日じゃないけど、紅葉の事ばかり頭の中で考えてたんだ。今どうしてるだろうって、本当に元気にしてるかって……そんなふうだったから、紅葉から《GGO》に誘ってもらえた時、《GGO》で会えた時、これまでで一番嬉しくなった。また小さかった頃みたいに一緒に居られるんだ、一緒に遊べるんだ、一緒に居られるんだってわかって、本当に嬉しかったんだ。どうしてそんなふうに思うんだろうって考えた事なかったけど、今更になってようやくわかった」
律は更に強く紅葉の身体を抱き締める。
「俺も紅葉の事が好きだったんだ。小さい頃から一緒に居てくれて、俺の姉みたいだった紅葉の事が誰よりも好きだったんだよ。俺も紅葉と同じ気持ちだ。紅葉の事が好きだ。だから、これからも一緒に居たい。一緒に生きていきたい。紅葉と一緒に、生きていきたい!」
そして一番自分の中で強い気持ちを告げた。
「だから……もう紅葉一人に《死銃》のところになんか行かせない。行くなら俺も一緒に行く。一緒に行って、《死銃》の事を《GGO》から追い出して、また紅葉と普通に遊べるようにする。だから紅葉も、もう一人で《死銃》のところに行こうとしないでくれ。俺を置いたまま、死んだりしないでくれ」
それを最後にして律は口を閉じた。結局紅葉に言われたことが切っ掛けという、遅すぎる結果になってしまったが、ようやく伝えられた。それを聞いた紅葉がどう思うのか不安ではなかったわけではない。だが、律には紅葉からの全てを受け入れる覚悟ができていた。
そして、紅葉から返答が来た。
「律……本気で言ってるの……だってあたしは出来損ないなのよ。あんたに迷惑かけるしかできないような、おねえちゃんの出来損ないなのよ!」
「迷惑なんてかけられてない。寧ろ俺の方が迷惑かけてばっかりだっただろう」
紅葉は更に続けてきた。完全に涙声になっていた。
「あたしみたいな出来損ないが近くにいるなんて、嫌なんでしょ、本当は。本当の事言いなさいよ。本当の事を教えてよッ……!」
本当の事? それならば既に話している。その中に付け加えるようにして、律は声を強くして言った。
「俺の小さい頃から一緒に居てくれたのは、その自称出来損ないの紅葉だよ! 俺は、出来損ないであろうとなかろうと、紅葉と一緒に居たいんだよ!!」
思わず大きな声が出てしまい、それが見事に廃ビル内に木霊した。その音が消えたその時に、紅葉が一際強く抱き締め返してきた。
「……馬鹿よ……あんたは、本当に馬鹿よ、律……りつぅぅぅぅッ……!!」
律は紅葉の抱擁を受け入れ、紅葉を強く抱擁し返した。間もなくして、堰を切ったように紅葉が大きな声で泣き出した。
ようやく紅葉の本質を、見る事ができた。そう思えた律の中には、紅葉への愛おしさが宿っていた。