キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

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04:再戦、激突 ―60層主との戦い―

 翌日、俺達は頼もしき仲間であるユウキを連れて、60層のボス部屋に望む事となった。60層はまるで第1層を彷彿とさせるくらいに草原と洞窟、森で出来ており、ハンマーと豪華な鎧を装備したコボルト、ウェアウルフ、リザードマンなどがはびこっていたが、その全てを俺達攻略組は退け、迷宮区の中を突破したが、その最中、俺の隣を歩いていたユウキが少しテンションの高い声色で言った。

 

「はぁー、楽しみだな、ボス戦! このSAOでのボス戦ってどんな感じなのかなぁ」

 

「気を付けろよユウキ。この世界のボス戦はALOとは違って、命を懸けた戦いなんだ。決して気を抜いてかかるんじゃないぞ」

 

「はいはいー」

 

 俺の言葉をわかっているのか、そうでないのかわからないような返事をする勇気に少し呆れた直後に、俺は肩に妙な重みを感じた。小型化したリランが乗っているわけじゃないような重み、これは人の手が乗っているのか? そう思って振り返ってみたところ、かなり見慣れた、無精髭を顎に生やし、赤い髪の毛を逆立てて、額にバンダナを撒いている、戦国武者のような鎧を身に纏い、腰に刀を携えた男の姿が見えて、俺は少し驚いた。

 

「よぉキリト。話すのは久しぶりだな」

 

「クライン!」

 

 俺の肩に手を乗せていたのはクライン。俺達がまだこの世界にダイブして間もない頃に、俺に戦闘の仕方を教えてくれと頼んできた張本人で、俺の良い友人だ。クラインは小規模ギルド、風林火山のリーダーであるため、中々俺達の前に姿を現さなかったが、強力なボス戦と聞いてやってきたようだ。まぁ、こいつとはよくメッセージで話をしているから、話すのは特に久しぶりでもない。

 

「今回のボスは強いそうじゃねえか。お前、ちゃんと準備できてるよな」

 

「あぁ勿論。こっちには第1層の時にはなかった切り札があるからな。どうって事ないさ」

 

「そうだなぁ。ちぇっ、お前ばっかりいいもの沢山手に入れやがって、羨ましい限りだぜ」

 

 クラインはそう言って、俺の右後ろで歩いているリランに顔を向けた。

 

 クラインにリランとシノンを会わせたのは、3月の時で、クラインはいつの間にか俺が<ビーストテイマー>になっている事に仰天し、更にシノンという彼女が出来ている事には腰を抜かしてしばらく動けなくなった。

 

 その時から、クラインは「俺もリランみたいな<使い魔>が欲しい!」とか言い出して、風林火山の連中と一緒に、57層までの様々なドラゴンを狩りまくったそうだが、ただ一つとして、クラインの<使い魔>になってくれるドラゴンは姿を現さなかった。まぁその代わり、ドラゴンなんていう強敵を倒しまくったおかげでクライン達風林火山の連中のところにはレアアイテムがザクザク、所持金もたんまり、経験値も入りまくって聖竜連合や血盟騎士団の団員達を大幅に超えるレベルになって、攻略組を支えるギルドの一つとなった。

 

 しかしクラインは「レアアイテムや金より<ビーストテイマー>になりてー!」と嘆き、レアアイテムや金が手に入った事を嬉しいと思わなかった。これは風林火山の連中も同じで、余程俺のリランが輝いて見えたらしく、<ビーストテイマー>になりたくてしょうがないそうだ。最近はドラゴンや強力なモンスターを狩る頻度は落ちてきたようだけど、どうやら風林火山の連中は誰一人として、強力なモンスターを<使い魔>にするという目的を捨てていないらしく、未だにモンスターを<使い魔>にすべく頑張っているようだ。

 

「なぁリラン、1週間くらい俺の<使い魔>になってくれねえか?」

 

《……お前の心は非常に健康的だ。お前の所へ行く意味はそこまでないな。それにお前は他の連中よりもレベルが高くて、戦いにも困っていないではないか》

 

「そういうお前の主人のキリトも、攻略組の中で群を抜いて強いぜ」

 

《キリトは記憶を失った我の目の前に、初めて姿を現したプレイヤーだ。だから我はキリトを主人に選んだのだ。お前も<ビーストテイマー>になりたくば我に固執せず、戦いを続けるのだな》

 

 クラインはちぇっと言ってリランから視線を逸らした。

 

「そんな事で本当にモンスターが<使い魔>になるなら、とっくに何匹ものモンスターが俺の<使い魔>になってるっての」

 

 確かに、モンスターを仲間に出来るRPGならば、今頃モンスターを狩りまくっているクラインの元には数匹の<使い魔>達が現れているだろう。だがこのゲームはそれではないので、クラインの元には一匹も<使い魔>はいない。

 

「だが気を付けようぜクライン。今回は強敵だ。気を引き締めて、お互い死なないように戦うぞ」

 

「おうよ。ボスに俺達の力を見せてやろうぜ」

 

 そう言って、クラインは俺の肩を軽く叩いた。<使い魔>を従える事が出来なかったとはいえ、クラインは見ての通り攻略組の中でも強豪で、今まで攻略組の様々なプレイヤーがクライン達を信頼して来たし、今回に至っては、昨日仲間になった頼もしいプレイヤー、ユウキもいる。そして指揮を執るのは賢人ディアベルと優しき副団長アスナ。死亡者の出る事のないパーティ、これならば、どんなボスでも怖くない。

 

「さぁ、ボス戦だ。今回も、生き残るぞ!」

 

 俺の言葉に皆が頷き、足を進め、やがてボス部屋に辿り着いた。この奥にボスがいる事を示している、豪勢で複雑な模様が刻まれた石の扉を前に、ディアベルとアスナが並んで、集まっているプレイヤー達に振り返り、声をかけた。

 

「みんな、準備はいいな? 俺から言える事はただ一つ、勝とうぜ!!」

 

 ディアベルに続いてアスナが力強く言う。

 

「必ず勝って、生きて帰りましょう!」

 

 ディアベルとアスナの号令に、みんな一斉に「おぉー!!」と声を張り上げて、武器を掲げた。皆の声で俺の気を引き締めたが、直後にリランの《声》が頭の中に響いた。

 

《キリト、今回こそ二刀流を披露するのか》

 

 リランはどうやら俺にだけチャンネルを合わせて《声》を送ってきているようだった。その証拠に周りの皆はディアベルとアスナに注目したままになっている。皆の耳に届かないくらいの声で、俺は囁くように言った。

 

「敵があまりに強いんだったらな。二刀流になれば人竜一体ゲージも溜まりやすくなるみたいだから、今日はお前にも沢山戦ってもらうぞ、リラン」

 

《任せろ。今日も大暴れさせてもらうぞ》

 

「あまり暴れすぎて周りの連中を巻き込むんじゃないぞ」

 

 リランが頷いたのを見届けると、ボス部屋の扉が轟音と共に開かれて、プレイヤー達が武器を構えつつ、ゆっくりとボス部屋の中へ流れ込み始めた。俺もまたその一人となって、武器を構えつつボス部屋の中へと入り込んだが、すぐさまディアベルとアスナが身構えて、俺達に陣形を組むように言った。

 

 ボス部屋の最奥部に玉座のようなものがあり、そこには白い鎧に身を包んではいるものの、模様の走る腹部がはみ出ていて、右手に戦斧、左手に盾、腰に巨大な剣を装備した肥満体質のコボルトが、ふんぞり返るように座っていた。その名は、ボス攻略会議の時にディアベルが教えた通り、《デトネイター・ザ・コボルトロード》。その名前と姿を見ただけで、第1層のボスである《イルファング・ザ・コボルトロード》との戦いの映像が頭の中でフラッシュバックする。

 

 あの時は数名の犠牲が出てしまったが、今回はユウキもいるし、何より、小さくなってはいるけれど、俺達の切り札であるリランもいるし、ディアベルの指揮能力も、聖竜連合の実力も第1層の時とは比べ物にならないくらいのものになっている。負ける気があまりしないが、コボルトロード……獣人王は元から強力なボスであるため、絶対に気を抜いて戦ってはならない相手だ。大胆かつ慎重な戦いを、繰り広げなければ。それこそ、危険を感じた時には皆に見られてもいい覚悟で、二刀流を発動させる……。

 

 俺達を見つけたのか、獣人王はゆっくりと立ち上がって戦斧と盾を構え、ドスドスと大きな音を立ててこちらに立ち向かってきた。同時に、近くにある柱の陰から、ハンマーと鎧を装備したコボルト達が躍り出る。《アーマード・コボルト・センチネル》、あの獣人王に従う取り巻きだ。この辺りも、イルファングの時と同じだ。

 

「取り巻きがいる! Aチーム、Bチーム、Cチーム、取り巻きに攻撃を仕掛けろ! 決して取り巻きをD、E、Fに近付けるな!」

 

「聖竜連合のD、E、Fチームが攻撃を開始したら、こっちのA、B、Cチームは後退するようにボスへ攻撃を仕掛けてください! 逆にこっちのD、E、Fは取り巻き達を攻撃して、ボス攻撃への妨害を防ぎます! ボスを攻撃するチームも、ボスの攻撃には十分に気を付けて!」

 

 ディアベルとアスナによってチーム分けされた聖竜連合、血盟騎士団の合計30人が、それぞれのリーダーの指示に従って陣形を組み、王を守るために迫り来た獣人達を迎撃し、他のチームがボスへ突撃を仕掛ける。

 

 獣人王は小蝿を払うように斧を振り回し、チームを攻撃するが、獣人王に近付いていた聖竜連合の者達が一斉に防御体勢に入り、斧をパリング。弾かれて隙を晒した獣人王に向けて、血盟騎士団の者達が一斉にソードスキルを発動させ、獣人王にそれぞれの刃を叩き付ける。ソードスキルによる硬直を受けながらも、血盟騎士団の者達はスイッチして後退、他のチームが武器そのものによる攻撃を仕掛けた。

 

 まるで怒涛のような攻撃、計算し尽くされた精密機械のような陣形。どれをとっても第1層の時とは比べ物にならないほど、俺達は成長している。当然だ、当時は第1層、今は第60層。ここまで上がり、いくつもの修羅場を俺達は潜り抜けてきたのだから、今更コボルトロードなど怖くもなんともない。

 

「キリト、シノンさん、ユウキさん、風林火山の皆は遊撃に尽くしてくれ! 取り巻き達を蹴散らしたら、ボスへ攻撃! キリトは人竜一体の準備を整えて、いつでも発動できる状態をキープしてくれ!」

 

「了解だ!」

 

「ぶちかましてやるぜッ!」

 

 ディアベルの指示にそう言って、俺とユウキ、クラインで、獣人王の近くで聖竜連合、血盟騎士団の者達と戦っているコボルト達に横から攻撃を仕掛ける。特にユウキに至っては、これまで溜め込んでいたわくわくを爆発させるように剣を振るい、コボルト達を次々と蹴散らしていった。

 

 そしてクラインもそうだ。リランのような<使い魔>を手に入れるために強敵ドラゴンとの戦いを何度も繰り広げていたためか、その太刀筋は他のギルドの者達と比べて鋭く、素早く、強力で、立ち向かって来るコボルト達を真っ二つにしていった。その様子は、第1層の時に戦い方をレクチャーしたクラインと同一人物なのかと疑いたくなるくらいだ。

 二人と一緒に奮闘しようと思っていたのに、二人の驚くほどの強さのおかげで、俺が攻撃しようと思っていたコボルトもみんな倒されてしまった。思わず拍子抜けした直後、背後の方からシノンの声が飛び込んできた。

 

「キリト、コボルトの方はユウキとクラインに任せて、私と一緒にボスを攻撃しましょう! 私がここであいつに矢を撃つから、続いて攻撃して!」

 

 確かにコボルトの方はユウキとクラインに任せておいてもいいかもしれない。それにそもそも、この戦いはあの獣人王を倒さない限り、終わらないのだから、さっさと獣人王を叩きのめすのが先決だ。

 

 そう思ってシノンの指示に頷いた直後、ボスの方から悲鳴が聞こえてきた。何事かと視線を向けてみれば、獣人王だけが持つものであろう、戦斧と盾のコンビネーション攻撃のソードスキルを受けて、聖竜連合、血盟騎士団のボス攻撃チームが大きく吹っ飛ばされたのが見えた。

 

 そのまま地面に激突した攻撃チームのHPはあの連続攻撃によって残りわずかになっており、危険を示す赤色に変色していた。一撃であの有様とは、今まで相手にしてきた、フィールドボスやモンスターを巨大化させて、ちょっと強くしたようなボスモンスター達とは一線を画している。

 

 あの獣人王は、かなり強いけど、これでこそボス戦と言えるものだ。そう思うと、腹の底から嬉しさや楽しさに似た気持ちが一気に全身に広まり、力に変わった。その直後に、プレイヤー達を吹っ飛ばして隙を晒した獣人王に狙いを定め、シノンは矢を放つ。ひゅんっという風を切る音を立てながら、ほぼ一瞬で獣人王の腹部に矢は到達。腹に矢が刺さった獣人王は悲鳴を上げて跪き、その隙を更に突いて俺は猛スピードで獣人王に接近する。

 

 その時に、取り巻き達が道を塞いだが、即座にユウキとクラインが排除、再度道が開かれて、俺は獣人王の元に無傷で到達し、シノンの作った矢傷目掛けてソードスキルを放った。

 

「はああッ!!」

 

 右方向から切り裂き、そのまま左上に剣をかち上げ、真下へ斬り下ろし、更に右上に剣をかちあげて四角形を作り上げる。片手剣ソードスキル《ホリゾンタル・スクエア》が獣人王の腹に炸裂し、目に見えてHPが減少していき、早くも一本目の<HPバー>が空になって二本目に突入したのが確認できた。

 

「アスナ、ディアベル、クライン、スイッチだ!」

 

 ソードスキルの硬直をスイッチする事で俺は獣人王から後退し、それまで周りの者達に指示を出していたアスナとディアベル、遊撃を任されて周りのコボルト達を殲滅していたクラインが一気に獣人王へ接近、立て続けに武器に光を纏わせた。アスナの閃光の如き細剣ソードスキル、ディアベルの力強い片手剣ソードスキル、クラインによる鋭い刀のソードスキルが連続して獣人王に炸裂。そのHPを一気に削って見せた。

 

 獣人王の悲鳴を聞き付けて、取り巻き達がそこへ向かおうとするが、背中を見せた獣人王の取り巻き達を、アスナ、ディアベル、クラインの取り巻き達が切り裂き、消滅させる。獣人王はきっと、取り巻き達とのコンビネーションによる戦法を得意としていたのだろう。しかし、取り巻き達は次々聖竜連合と血盟騎士団による連合軍に討伐されて、そのリーダー達が隙だらけの獣人王を攻撃する。獣人王の作戦は瓦解したと言えた。

 

「キリト、コボルト達のリポップが止まったわ!」

 

「取り巻き達が出なくなったよ!」

 

 シノンとユウキの声を拾って、俺は周囲を見回す。この戦いが始まった時から、コボルト達が何度倒してもリポップしてきて、その都度他の皆が攻撃を仕掛けていたのだが、シノンとユウキの言う通り、コボルトが全滅しているにもかかわらず、コボルト達はもう現れなくなっていた。一体何が原因なのか――そう思って獣人王の方に目を向けたところで、その原因が分かったような気がした。

 

 獣人王のHPは俺達の猛攻によって、二本目の<HPバー>も失い、HPを黄色に変色させているのだ。多分だが、獣人王のHPが黄色に突入すると、コボルトが出現しなくなるようになっていたようだ。

 

「よし、黄色まで減らしたぞ! だが油断するな、次はどんな手を打って来るかわからない! 慎重に構えろ!」

 

 ディアベルの指示を受けて、連合軍の皆は武器や盾を構えてじっと獣人王の動きを伺い始めた。次の瞬間、獣人王は突如として咆哮し、手に持っている戦斧と盾を放り投げて、腰に携えていた、獣人王の身の丈を超えるほどの大剣の柄を掴み、構えた。

 

 イルファングの時と同じく、武器を持ちかえて行動パターンを変化させてきた。だけど、イルファングの時と違い、デトネイターの全身に走っている模様が光を放つようになっていて、如何にも本気になった事が理解できた。

 

「大剣に持ち替えたわ! 両手剣スキルと、あれ自身が持つオリジナルのソードスキルが来るようになっただろうから、慎重に当たって!」

 

 アスナの指示に連合軍の皆は頷いた。確かにあれだけ巨大で立派な大剣だ、ただの両手剣スキルだけを放ってくるはずがない。あいつ自身、あいつだけが持てる、強力なソードスキルがあるはずだ。どれだけの威力になっているか想定できないので、動きを読みつつ慎重に当たらなければ。

 そう思って武器を構え直した瞬間、リランの《声》が頭の中に響いた。

 

《気を付けよキリト! あいつは、強くなったぞ!》

 

「そんな事わかってる! 駄目だと思ったらすぐさま人竜一体を使う――」

 

 直後、獣人王の方から複数の悲鳴が上がった。何事かと視線を向ければ、獣人王は回転斬りを放った直後のような姿勢をしており、周りのプレイヤー達が複数人吹っ飛ばされて、宙を舞っていた。かち上げられたプレイヤーのHPを望遠すれば、全快だったのが危険を示す赤色エリアまで減らされているのが見えた。

 

 恐らく、今獣人王が放ったソードスキルは、あいつ自身だけが持っている強力な回転斬りソードスキルだ。でなければ、攻略組としてパーティに参加出来る者達が、立った一撃であのような有様になる事などありえない。

 

 迂闊だった。このボスは、クォーターポイントのそれに近しい実力を持っている。

 

「パリングだ! 相手のソードスキルが来たら一斉にパリングを行って、ボスの攻撃を弾くんだ!」

 

 俺の指示に、アスナが首を横に振る。

 

「駄目なの! 相手のソードスキルの威力が高すぎて、パリングしても破られる!」

 

 ダメか! 確かにあれだけ大きくて強そうな剣だ、そう簡単に防げるわけがなさそうだし、ソードスキルも高出力過ぎて如何なる防御も破るようにできているのだろう。きっと鉄壁防御のヒースクリフでもあいつの攻撃を受ければノックバックするに違いないし、そしてそんな攻撃を《神聖剣》持ちじゃない俺達が防げるわけがない。

 

 考えられる方法と言えば、相手のソードスキルが来たら素早く後退して回避し、相手が硬直した隙を狙って攻撃を仕掛けるくらいだ。俺もその中に入り込んで攻撃し、ゲージを溜めてリランと人竜一体し、短期決戦する。このまま戦い続けたら、死亡者が出かねない。

 俺と同じことを考えていたのか、ディアベルが獣人王を観察しつつ連合軍に指示を下した。

 

「あいつの攻撃はガードしてもブレイクされる! 防御は考えるな! 攻撃が来そうだったら攻撃を中止して、背後に下がれ!」

 

 ディアベルの指示が行き渡り、一同は獣人王に攻撃しつつも、硬直を招くソードスキルを使わなくなった。当然だ、ソードスキルを使って硬直している間に相手の強力なソードスキルを受ければ一溜りもないのだから。ソードスキルを使わなくなった分、総合火力が落ち込んで、時間がかかるようになっただろうけれど、時間はかかっていいんだ、生き延びさえ出来れば。

 

 ……そう思いたいところだけど、攻撃する時間が伸びる分、皆が疲弊する可能性も出てくるから、やはりあまり長い時間戦う事はお勧めされないだろう。それを防ぐための人竜一体、攻略組に切り札だ。あの獣人王に攻撃を仕掛け、ゲージを溜めて人竜一体を発動、リランの力で獣人王に立ち向かい、完全に獣人王を撃破する。それが最適の戦術のはずだ。

 

 だが、ゲージが溜まる条件は俺が敵に攻撃を当てる事にあり、素早く動ける片手剣でも溜めきるにはかなりの時間を要する。だけど、俺がいつの間にか取得していたスキルである《二刀流》を使えば、手数も威力も激増し、人竜一体ゲージもすぐさま溜めきる事が出来る。すぐさま人竜一体を使うには、《二刀流》を解放させるべきだが、その後皆にどんな目で見られる事か……。

 

「ソードスキルが来るぞ、後退ッ!」

 

 直後、ディアベルの指示が周囲に木霊し、俺はその方へ顔を向けた。次の瞬間に獣人王が大剣で二度回転斬りを放って硬直を起こした。ディアベルの指示が早く行き届いたため、ボスの回転斬りを喰らった者はおらず、寧ろ硬直した獣人王に追い打ちを仕掛けるように攻撃を始めた。硬直のために動けない獣人王から肉にはモノが食い込むような音が何度も鳴り、HPが少しずつではあるものの減少し、赤に少しずつ近づいていく。

 

 この光景を見て、俺の中には《二刀流》も人竜一体も必要ないんじゃないかっていう気が起こり始めた。そんなものが無くても、みんなで力を合わせて攻撃を仕掛ければ、いつも通り仕留められるはずだ。もしかしたら心配のし過ぎだったのかもしれない――。

 

 そう思ったすぐ後に、獣人王は突然硬直を解除して、大剣に金色の光を纏わせ始め、俺は思わず目を見開いてしまった。まさか、こんなに早く硬直を解く事が出来ると言うのか!? この驚きは戦っている全ての者が感じたらしく、俺と同じように目を見開いて、獣人王を見たまま固まってしまっていた。そのように動きを止めた、近くにいる者達に獣人王は狙いを定めて、光を解放させるように剣を振るった。その中に、先程周りの者達に指示を出したディアベルの姿が、含まれていた。

 

「ディアベル、回避だッ!」

 


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