キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

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22:包み込む夜空

 

 

           □□□

 

 

「シノン、リラン、クィネラ……アリス、カーディナル、ユージオ、ルコ……終わったぞ」

 

 

 キリトは切れる息を整えながら、仲間達へと振り返った。アリスとカーディナルがこちらを(たた)えているような表情をして視線を向けてきている。

 

 

「お見事でした、キリト」

 

「クィネラとアドミニストレータの分離が確認できておった。アドミニストレータにお前がとどめを刺した事により、あいつは完全に消滅したようじゃ。人界はあいつの見えぬ恐怖政治から解放されたぞ」

 

 

 つまり、あの悪霊を完全に討ち(はら)う事ができたというわけだ。どっと疲れが来て、キリトはその場に腰を落とした。右手に納まっていた白き炎の剣がぼぉっと強く燃えて消える。役割が済んだので、元の場所に戻ったのだろう。それと時を合わせてシノンがすぐ(そば)まで駆け寄ってきて、同じように腰を下ろしてくる。

 

 

「キリト、あなた……」

 

「あぁ、あいつを倒せたよ。君が俺と力を合わせてくれたおかげだ。ありがとう、シノン」

 

 

 シノンは「ええ」と(うなづ)くと、その身体をキリトに寄せてきて、抱き付いてきた。何度も抱き締めてきたその身体を、今一度キリトは抱き締め返し、その温もりを全身で感じ取る。

 

 そう言えば、こんなふうに抱き合ったのはいつ以来だっただろうか。少なくともここ最近はやっていなかった気がする。そのせいなのか、いつも以上にシノンの温もりは心地よく感じられた気がした。

 

 

「やったね……キリト……」

 

 

 そんな中、聞こえてきた一つの声色にキリトははっとし、そちらの方を向いた。アリスに膝枕されていたユージオが、少しだけ上半身を起こしていた。

 

 

「ユージオ!」

 

 

 シノンに離れてもらった後、二人でユージオの傍まで寄った。血色が戻ってきている顔をして、彼は微笑んでいた。そんな彼にキリトは声をかけ返す。

 

 

「ユージオお前、大丈夫なのか」

 

「うん、大丈夫だよ。アリスとルコが助けてくれたおかげで……」

 

 

 そう言ってユージオは身体を起こし、アリスの方へ向き直って、きょとんとした。アリスがその目に涙を(たた)えていたからだ。

 

 

「アリス……どうして泣いているんだい」

 

 

 アリスはぶんぶんと首を横に振った後に――先程のシノンのように、ユージオの胸へと飛び込んだ。急な突進――と言っても威力は全くない――を受けたユージオは少し驚いたように声を出したが、アリスの声が反論を(さえぎ)った。

 

 

「誰のせいだと思っているんですか。あなたがあの力を解放した時……命まで使い果たして、そのまま死んだんじゃないかって思ったんですよ!」

 

 

 アリスは震える手をユージオの背中に廻した。

 

 

「だからもう……二度とあんな真似はしないでください。自分の命を(なげう)つような事はしないと、約束してください……」

 

 

 ユージオはぱちくりと(まばた)きを繰り返していたが、やがてその顔に微笑みを再度浮かべ、アリスの背中に自身の手を廻して、抱き締めた。

 

 

「……そうだね。もう、あんな無茶はしちゃいけないね。約束するよ。もうあんな事はやらない。ううん、あんなふうな事をしなくてもいいくらいに強くなるって、約束する」

 

 

 アリスはユージオの胸の中で頷いた。きっとその言葉は真実となるだろう。ユージオは強くなるに違いない。今その胸の中にいるアリスのために、もっともっと強くなっていくのだろう。そんな能力があるわけでもないのに、キリトは希望の未来が見えているような気がしていた。

 

 やがて、ユージオはアリスに離れてもらった後、ルコに向き直った。

 

 

「ルコ、僕を助けてくれてありがとう。君の神聖術のおかげで、僕は命を繋ぐ事ができた」

 

 

 ルコは首を横に振った。先程から見えていたが、ルコは帽子を外して獣耳と角を(さら)け出した姿となっていた。ここでは隠す意味がないからだろう。

 

 

「ううん、ルコの神聖術、効いたのは、ユージオが頑張ったから。ユージオが死なないように、頑張ったから、助かった」

 

「それでも、ルコも頑張ってくれたよ。本当にありがとう」

 

 

 ユージオに言われたルコは「えへへ」と笑った。ユージオの言う通り、ルコの力があったからこそユージオは死なずに済んだようなものだ。ルコはユージオの命の恩人と言えるだろう。

 

 

「皆様」

 

 

 三人の会話を聞いていたところで、差し込まれた声があった。振り向いてみたところ、リランとクィネラの姉妹が歩いてきていた。ふと目を細めて見ると、クィネラの目つきは弱々しさと優しさを兼ねた光を蓄えた垂れ目になっている。自分の知るクィネラの顔だ。

 

 できたかどうか不安な部分があったが、結果は成功。アドミニストレータをクィネラから完全に分離する事ができていた。安堵(あんど)したキリトはクィネラに応じる。

 

 

「クィネラ、大丈夫か」

 

 

 本紫色の瞳と紫がかった銀色の長髪をした美しき女性となった、あの時の小さな少女は頷き、顔に笑みを浮かべた。

 

 

「はい。キリトにいさまとリランねえさま、シノンねえさまが戦ってくださったおかげで、わたくしはわたくしを取り戻す事ができました。感謝してもし切れないくらいです。本当にありがとうございます」

 

 

 口調はユピテルと同じ敬語だが、彼のものよりももっと丁寧だ。確かイリスはクィネラは丁寧な言葉遣いで喋る、お嬢様という設定を施したと言っていた。

 

 あの時はまだクィネラは小さかったのでわかりにくかったが、成長を遂げた今、彼女がどういう喋り方をするのかよくわかるようになったといったところであろう。

 

 本当に大きくなったものだ――子供の成長を目にしたであろう親の気持ちが、なんとなくではあるものの、わかったような気がした。直後、クィネラのすぐ近くに大きな影が姿を見せ、彼女に近寄っていった。

 

 雪のように白き毛と、ところどころ水色のある甲殻に身を包む、獅子に類似した輪郭(りんかく)を持つ一本角の竜、冬追(フユオイ)だった。アドミニストレータの手駒である整合騎士とされていた時からユージオと一緒にいた彼の竜だが、考えてみると、その行動には不可解な部分が多い。

 

 思い返すだけでも、元老長であったチュデルキンに真っ先に食らいついて、とどめを刺せる状態にしたり、アドミニストレータに忠誠を誓うどころか反逆し、ソードゴーレムの撃破に貢献(こうけん)したりなど、公理教会に真っ向から立ち向かっていた。

 

 公理教会によって配備されていたはずなのに、従わずに反逆していた白き獅子竜。それは今、クィネラに近寄ったかと思うと、その顔を彼女の身体に擦り付けるようにした。ごろごろという音が聞こえる。猫が主人や家族に甘える時に出す声だった。そんな冬追を、クィネラはくすぐったそうに受け入れ、その頭を撫でてやっていた。

 

 ただでさえ謎だらけの竜である冬追の、更なる謎行動にキリトは軽く驚き、クィネラに問いかけた。

 

 

「そいつは何なんだ。さっきからずっと一緒に戦ってくれてたんだが」

 

「僕も気になっていました。アドミニストレータが僕に《シンセサイズの秘儀》をした後、鎧と一緒に贈ってきた竜なんですが……何者なんですか、その子は? 飛竜にしては色々違うみたいですけれど……」

 

 

 キリト、ユージオの疑問に、悲しそうな顔でクィネラは答える。

 

 

「この子は《あの人》が作り出した生体兵器です。《あの人》は古の時代からこの世界を守っていた竜達を殺し尽くし、そのうちのいずれかの竜から強引に引き抜いた力を植え付けたうえ、様々な動物の情報を入れ込む事で、強力な竜を作り出そうとしていました。この子はその(むご)たらしい計画の中で生まれた子なのです」

 

「生体兵器って……アドミニストレータは、そんなものまで作ってたっていうの。機械人間を作り出すだけじゃ飽き足らずに」

 

 

 シノンの言葉にクィネラは首を横に振る。

 

 

「いいえ、ガーダー……いえ、機械人間の方が後に生まれた存在です。言うなればこの子は、機械人間を生み出す過程で生まれたものなのです。《あの人》は当初、この子と同じような存在を整合騎士達に与えて、戦力の増強を図っておりました。

 しかし、その計画を開始してすぐに、人々を捕まえて改造し、機械人間にした方が手っ取り早くて強力な存在を作り出せるという事に気が付き、機械人間の増産を優先するようになったのです。その結果、人造竜ともいうべき生体兵器の製造はこの子で終わり、最初で最後の人造竜であるこの子は封印される事になりました」

 

 

 いずれにしても惨い話だ。アドミニストレータの身の上話には、こんなふうな惨いものしかないのだろう。いや、あの女ならばそんな話しかなくて当たり前か。そう思いながら、キリトは更にクィネラに問いかけた。

 

 

「……そうだったのか。って事は、冬追がチュデルキンやアドミニストレータを攻撃していたのは、作り出された事を恨んでいたからなのか?」

 

「いいえ、冬追も他の整合騎士達が使役する飛竜のように、公理教会への絶対服従が設定されるところだったのですが、わたくしはそこに妨害を仕掛けました。それが奇跡的に上手く行き、冬追は公理教会に支配されず、わたくしを主と思ってくれるようになったのです。冬追はその事を上手に隠してくれて、ずっと《あの人》と公理教会に支配されているふりをしながら、公理教会に反旗を(ひるがえ)し、《あの人》を討ち倒す方達が現れるのを待ってくれていたのです」

 

「公理教会とアドミニストレータを討ち倒す者……それが私達だったというわけですか」

 

 

 アリスの(つぶや)きに等しい問いかけに、クィネラはまたしても「はい」と言って頷いた。その顔がこちらに向けられてくる。彼女は目元に涙を浮かべていた。

 

 

「正直に申し上げると、そんな方達は現れないのではないかと思っておりました。この閉ざされた世界を救うために立ち上がる勇者のような方達などいないのではないかと、諦めていた部分もございました。ですが、そう思う反面で、わたくしはリランねえさま達の事を思っておりました」

 

「我らを?」

 

「ええ。リランねえさま、キリトにいさま、シノンねえさまならば、きっと閉ざされたこの世界にさえやってきて、わたくしを助けてくださるのではないかと……《あの人》に支配されて、やがて(にえ)にされる人々を救ってくださるのではないかと思っていたのです。まさか、それが現実になってくれるとは思ってもみませんでした」

 

 

 この世界の時間は加速されていて、現実よりも遥かに早く時間が過ぎるという話を、前に菊岡を中心にしたラースの者達から聞いた。クィネラが待った時間というのは、きっと気が遠くなるほどのものであっただろうし、とても大きな苦痛の(ともな)う日々であっただろう。

 

 今更言ったところで無意味でも、キリトは謝らずにはいられなかった。

 

 

「待たせてしまったな、クィネラ。もっと早く助けに来るべきだったのに……知らなくて、ごめん」

 

「いいえ、謝らないでください。キリトにいさま達は、この世界をお救いになられたのですから」

 

 

 そこまで言ったところで、甘えていた冬追がクィネラから顔を離した。そのまま、冬追の視線がある方向まで動いて止まる。クィネラはきょとんとして冬追に向き直った。

 

 

「どうしたのですか、冬追――」

 

 

 クィネラは冬追がどこに視線を向け、目を半開きにしているかを確認した。

 

 

「あっ……ひっ、ひぇ、ひゃ……」

 

 

 その直後、急にクィネラの挙動がおかしくなった。頬が紅潮したかと思えばそれは顔全体に広がり、瞳の中に渦巻きが見え始めた。まさかアドミニストレータが取り憑いていた事による後遺症のようなものがあったというのか。

 

 キリトが胸中に焦りを抱き始めたその次の瞬間、

 

 

「きゃあああッ!!」

 

 

 クィネラは悲鳴を上げてその場に蹲った。当然その光景に皆がびっくりし、リランが声掛けする。

 

 

「お、おいクィネラ、どうした!? どこか悪いのか!?」

 

 

 姉の声を受けた妹はぶんぶんと首を横に振り、声を出してきた。随分(ずいぶん)とか細い声だ。

 

 

「り、リランねえさまでも、き、キリトにいさま、し、シノンねえさま……でも……おね、お願いがあり、ます」

 

「え?」

 

「なに、何か、羽織るものを、下さりませんか……わたくし、す、素肌を晒すのが、どうしても、苦手、で……」

 

 

 キリトはそこでようやく気が付いた。クィネラはずっと一糸纏わぬ姿を曝け出していた。自分達はずっと、裸のクィネラと話し合っていたのだ。あまりにも今更だが、身体の中が急激に熱を帯びてきた。

 

 その直後に、不意に視界が真っ暗になった。柔らかくて暖かい何かが目を覆っているらしい。

 

 

「キリト。クィネラのためにも、見ちゃ駄目よ」

 

 

 シノンの声がした。彼女の手に目を塞がれているようだ。それをキリトは(いさぎよ)く受け入れる事にした。そもそも今までやっていた事がこれ以上ないくらいに失礼な事だったのだから。

 

 間もなくして、複数の声と物音が耳に届いてくるようになった。

 

 

「最高司祭様、こちらを羽織ってください。足りるでしょうか」

 

「は、はい、十分です……」

 

「わしのローブも使うといい。ルコ、わしらが良いと言うまでユージオの目をしっかりと塞いでおるのじゃぞ」

 

「ユージオ、見ちゃ駄目、だから。想像して、鼻の下伸ばすも、駄目」

 

「痛たたたたた! そ、そんな事してないからもっと優しく抑えて!」

 

 

 暗闇の世界でキリトは苦笑いした。先程まで世界の命運をかけた死闘をしていたとは思えないような会話と状況になってしまっている。いや、先程までの状況こそが異常であり、それが健全な形に戻ったと言えるのかもしれない。いずれにしても、何だか肩の力が抜けていくようだった。

 

 しばらくすると、シノンの手が離れて視界が取り戻された。先程まで裸体の曝け出しという本人にとって最悪の状態だったクィネラは、その身体をアリスのマントとカーディナルのローブに包んでいた。あの嫌がり様だったので、もっと厚着させてやりたいところだが、この場には服はないので仕方がないだろう。

 

 尚、ユージオに目を向けてみると、今度は自身の手で目を抑えていた。ルコが近くで責務を果たした事に「えっへん」と言いたそうな姿勢をしている。よっぽどルコに強く目元を押さえつけられてしまっていたのだろう。

 

 そう言えば、ルコは時に十代前半の少女とは思えないくらいの馬力を発揮するような事もあった気がする。それが今、ユージオの目元に炸裂してしまったという事だろうか。キリトは苦笑いを止められなかったが、直後に聞こえてきたクィネラの声で我に返った。

 

 

「皆様、ご覧になってください」

 

 

 クィネラは窓を指差していた。誘われるようにして目を向けてみたところ、アドミニストレータが作り出した黒と紫の(うごめ)く混沌の世界ではなく、無数の星々が各々の色で輝く夜空が広がっていた。

 

 

「この夜空の下に広がる世界こそが、皆様のお力によって救われた世界です」

 

 

 ユージオが窓の外を見ながら呟く。

 

 

「僕達が救った世界……」

 

「えぇ。皆様が《あの人》を倒してくださったおかげで、この世界の人々が贄にされる事はなくなりました」

 

「そっかぁ……」

 

 

 そう言ってユージオは外を見ているが、その視線は夜空の下ではなく、夜空そのものに向けられていると、キリトは気が付いた。直後、ユージオの口が再度開かれる。

 

 

「何だかこうしていると、毎晩一人で見上げた夜空の星を思い出すよ。こんなに空の高いところから見ても、それは変わらないんだね」

 

 

 アリスが顔に笑みを浮かべて答える。

 

 

「えぇ。とても美しい光景ですね」

 

「世界は僕が思っているよりも小さくて、例え離れ離れでも、この夜空で繋がっているんだ。どんな時でも、見上げればそこに夜空はあって、僕を優しく見守って、包んでいてくれた……ん?」

 

 

 ユージオは何かに気付いたように、こちらに顔を向けてきた。見つめられていると思ったキリトは少しきょとんとしたが、すぐにユージオの目の先にいるのは自分ではなく、鞘に収まる黒き剣であると気付いた。

 

 

「何だか、キリトの持ってる剣の輝きに似ているね。そうだ、キリトのその黒い剣の名前、《夜空の剣》っていうのはどうかな」

 

「《夜空の剣》?」

 

「うん。キリトとその剣なら、できると思うんだ。この小さな世界を、夜空のように優しく包み込む事が」

 

 

 キリトは剣を鞘から引き抜いた。悪魔の樹と呼ばれていたギガスシダーから作り出した、鋼鉄を(しの)ぐ斬れ味を持つ黒き剣。その名前が中々思い付かなくて、《黒いやつ》と呼んでいた。その剣に与えられようとしている名前は、とてもしっくりくるものだった。

 

 

「《夜空の剣》か。うん、良い名前だ。ありがとう、ユージオ。変な名前ばかり思い付いて困ってたところだったんだ」

 

「あ、言われてみればそうね。あなたが本当に良い名前を付けてたところ、見た事ないかも」

 

 

 キリトはシノンに思わず振り向く。しかしすぐさま後方から声がした。リランだ。

 

 

「そうだな。キリトはネーミングセンス(命名の才能)がない。我と初めて会った時なぞ、ゴジラ、キングギドラ、モスラなんて名前を付けようとして全部却下されたところで、ようやくリランというマシな名前を思い付けたのだからな」

 

 

 キリトは「ぐえ」と言ってしまった。そう言えばリランと一番最初に出会って、名前を付ける必要が出た時、そんな名前にしようとしたような記憶がある。あまり思い出したくない恥ずかしい部分を掘り返されて、反射的に身体の内側から激しい熱が出てきた。

 

 たまらなくなってリランに反論する。

 

 

「な、なんでそんな事憶えてやがるんだよ、お前!?」

 

「《電脳生命体(エヴォルティ・アニマ)》だからな。消去しない限りは全ての事象が記憶されておるよ。お前もよく知っておるだろうに」

 

 

 リランを筆頭とした《電脳生命体》は全てがデータで構成されているから、参照さえすれば何十年も前の事を当時のように思い出す事ができる。色々な意味で人間を超越した、電脳に生きる生命体ならではの特徴であるが、今持ってきてほしいものではなかった。

 

 その《電脳生命体》の長姉(ちょうし)の話がされるなり、ルコとアリスが目を細めてきた。

 

 

「ゴジラ、キングギドラ、モスラ……リランの見た目に、全然合わない」

 

「キリト……お前はどういう感覚で名前を付けようとしているのですか。名付けられたものがとても可哀想になります。《夜空の剣》も危ないところでしたね。もう少しユージオによる命名が遅かったならば、キリトによっておかしな名前を付けられてしまうところだったのですから」

 

「お願いですからそんな事言わないでください。リランさんも、あの時俺は出来心だったんです」

 

 

 弁明してみたが、果たしてリランは目を細めて「ふっ」と笑った。明らかにこっちを小馬鹿にしている。

 

 

「出来心? 出来心でそんな名前を付けようとしていたようには感じられなかったがなぁ」

 

「そうなのですか。キリトにいさまは、リランねえさまに大真面目にそんな名前を付けようと……?」

 

 

 何も知らないクィネラが喰い付いてきて、キリトは「あ」と言ってしまった。次にリランが何を言い出すか読めた気がする。その予想は的中し、リランは更に小馬鹿にしている笑みを顔に浮かべて応じた。

 

 

「そうだとも。何なら見てみるか、クィネラ。その時の記憶を共有すれば見れるからな」

 

「えぇ、お願いいたします」

 

「お願いします、やめてください。ゴジラとかキングギドラとかにしようとした事には反省していますから」

 

 

 キリトに頭を下げられたリランは「そうかぁ?」と言って笑った。何とか踏みとどまってくれたらしい。あの時の事をクィネラにまで拡散されたら、羞恥でおかしくなってしまいそうだった。彼女達は面白がっているようだが、こちらからすれば全く笑い事ではない。

 

 そんな中で、ユージオの声が響いた。

 

 

「ねぇ。アリスとキリトはずっと、この夜空みたいに僕の傍に居てくれたんだね」

 

 

 キリトはもう一度我に返ったようになって、ユージオに向き直る。

 

 

「例え記憶を思い出せなくても、僕の魂にはアリスとキリト、二人の思い出が刻まれていたんだ。僕は、一人きりなんかじゃなかったんだ」

 

「えぇ、そうですよ。あなたは一人きりなどではありません」

 

 

 ユージオはアリスに顔を向け、その瞳を交差させた。見る見るうちに、その目が見開かれていくのがわかった。何かとても重要な事に気付いたのだ。

 

 

「アリス、もしかして僕の事がわかるの!? 僕との記憶が……!?」

 

 

 アリスは悲しそうな表情をして、首を横に振った。

 

 

「……いいえ。あなたの事は何も思い出せません。いくら頭の中を探しても、何も見つからないのです」

 

 

 しかし、そこでアリスは終わらせなかった。顔を上げて再度ユージオと目を合わせる。徐々に頬が桜色になっていった。

 

 

「でも、わかる事があります。ユージオ、あなたは私にとって大切な人です。どうしてなのかはわからないですが、それだけはわかるのです。あなたは私にとって……かけがえのない人だっていう事が……」

 

 

 ユージオは「アリス……」と小さく呟いて、アリス同様に頬に赤みを差させた。やはりそうだった。ようやく、アリスがユージオを求めていた理由が判明した。この二人は互いに想い合う恋人同士だったのだ。

 

 その内の片方であるアリスがユージオに尋ねる。

 

 

「ユージオ、あなたはどうなのですか。あなたにとっての私は……」

 

 

 最後まで聞くより先に、ユージオがその両手をアリスの背中に廻した。金色と青で構成された鎧に包まれた身体をそっと抱き締め、耳元で(ささや)くように言った。

 

 

「ごめんよアリス。記憶を失っている君にこんな事言ったって、混乱させるだけだと思うけれど……僕にとっての君も、かけがえのない人だ。僕は連れ去られてしまった君にまた会いたいと思って、ここまで来たんだ……それくらい……大切な人だよ」

 

 

 アリスはユージオを抱き締め返した。瞳から涙が零れ出しそうになっている。

 

 

「……そうなのですね……思い出したいです……私の事を……あなたを大切に思う私の事を、あなたの事の全てを、思い出したいです……」

 

「あぁ……思い出せるよ。だってここに、君の記憶があるのだから……」

 

 

 そう言って、ユージオはアリスから顔を離し、あるところへ向けた。そこにいたのは、先程の戦いの最大の協力者である賢者。カーディナルだった。

 

 

「そうですよね、カーディナルさん」

 

 

 賢者は頷いた。

 

 

「あぁ。じゃが、それより前にやる事があるぞ。キリトにシノンにリラン、そうじゃろう?」

 

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