キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

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06:焔は揺らめいて ―化身態との戦い―

 

 

 

           □□□

 

 

――デュソルバート。

 

 誰かが我を起こそうとしている――デュソルバートは闇の中で確かにそう思った。耳に届いてくるのは、とても聞き覚えのある声だ。

 

 それはきっと、前から薄々思い出しかけている誰かの声なのかもしれない。眠る自分を起こそうと、そっと優しく手を重ねてくれる、誰か。大切な人。

 

 だが、その人については既にわかっている事がある。自分はその人の事を喪っているという事だ。だから、もうこの手を握られる事はない。そして、その人の事は何もわからない。

 

 どんなに求め、どんなに思い出そうとしても、その願いは叶う事はない。

 

――よくわかっているじゃないの、デュソルバート。

 

 声が響いた。目を開ける事ができないが、すぐ目の前にその主はいる。感じられる気配からして、最高司祭猊下(げいか)だった。

 

――あなたは彼女を守れなかった。あなたが守ろうとしたものは、全部あなたのせいで壊れてしまったのよ。

 

「壊れてしまった? 違う。我は……」

 

――そんなに大切なものなら、なんで手放してしまったというの?

 

「我が……手放した?」

 

――そうよ。あなたはあなたにとって大切なものを自ら手放してしまったの。そして、その事を思い出せもしない。

 

「違う……我は」

 

――師匠、何やってるの? 早く稽古付けてよ。

 

――師匠の稽古、これでも楽しみにしてたんですよ。

 

 声の主が急に変わった。少女の二人の声。それぞれフィゼルとリネルの声だ。同じ整合騎士ではあるものの、正騎士には至っていなかった二人。

 

 そのためなのか、突然自分のところにやってきて、「師匠になって!」なんて頼んできた。断れなかったので、仕方なく稽古を付けてやっていたものだが、何故二人の声がする?

 

「フィゼル、リネル……」

 

 返答をしたところ、彼女達からの応答はなかった。

 

 どうした、何故答えない。

 

――あの娘達は死んだわよ。またあなたが壊したの。

 

 死んだ? 我のせいでか?

 

――えぇそうよ。あなたは失ったものの代わりに中途半端な代用品を見つけて、庇護欲を満たそうとしたのね。小さな娘達を守れた気になって嬉しかった? 楽しかった?

 

 違う! 彼女らはそんなものではない!

 

――それすらも壊されてしまったわ。あなたのせいでね。

 

 何故だ。何故彼女らまでそうなる。

 

――随分とあなたは可愛いわね。とっても可哀想で、可愛い人。でも、これだけははっきり言えるわ。あなたが守るべきものは何もない。

 

 我は……喪った? 何もかもを……?

 

――そうよ。だから代わりに役目を与えてあげる。この私、最高司祭アドミニストレータのために戦いなさい。それこそがあなたの存在意義よ、デュソルバート。

 

 

 最高司祭猊下の声は、それで途絶えた。その時デュソルバートの身体は、既に動いていた。自らの存在意義のために。

 

 

           □□□

 

 

 《EGO化身態》という名で呼ばれる怪物となったデュソルバートが火を放ってきた。

 

 不死鳥騎士とも言うべき姿のそれが足を床に叩き付けると、扇状に炎が広がってくる。バックステップを繰り返す事でキリトは回避したが、炎はそれ自体が意思を持って襲ってきていると錯覚しそうな動きをしていた。

 

 そのせいで回避が時折難しく、直撃を受ける事もままあった。おかげでキリトは既に身体のあちこちを火傷してしまっていた。

 

 神聖術を使ってその都度治してはいるが、「させぬ」と言わんばかりに不死鳥騎士が次の炎や爆発矢を放ってくるものだから、追い付かない。

 

 

「師匠、お願いだから目を覚ましてよ!」

 

 

 フィゼルの叫びが炎に吸い込まれていく。不死鳥騎士の大元であるデュソルバートには届いていないだろう。《EGO化身態》は言わば完全暴走状態であり、いくら呼びかけても通じる事はない。

 

 あったとしてもそれは例外中の例外であり、期待するだけ無意味だ。目を覚まさせるには、《EGO化身態》の《天命》をゼロにする他ない。この場の全員の力を合わせて倒す以外にないのだ。

 

 ここには十分すぎるほどの戦力が集まっていると言えるほどの数の仲間達が揃ってくれている。連携すれば、活路を見出せるはずだ。

 

 ここにいる皆のうち、それぞれ得意分野は何だったか。誰が何に特化していて、何の役目に強かったか。咄嗟(とっさ)に考えようとしたそこで、不死鳥騎士の矢が飛来してきた。

 

 はっとして再度バックステップするが、少し遅かった。床に刺さった矢が爆発して、左足に爆炎を受けてしまった。

 

 

「ぐああッ!」

 

 

 他のVRMMOでは体験できない痛みと熱が左足を襲うと同時に、強い衝撃まで飛んできて、キリトは予想したよりもずっと後方に飛ばされてしまった。床に激突し、鈍い痛みまで追加で襲ってきて呻く。

 

 

「キリト!」

 

「キリト君!」

 

 

 すぐさま二人くらいの声と足音が聞こえた。顔を上げると、シノンとアスナがそこにいた。どちらも心配そうな表情を顔に浮かべている。

 

 今のが大分大きなダメージになったと思ったのだろう。実際足がかなり痛いので、それに違いはない。

 

 

「あなた、大丈夫?」

 

 

 シノンの声掛けに、キリトは立ち上がりつつ答えた。

 

 

「まだ大丈夫な方だ。まぁ、かなり痛いけど」

 

「ごめんキリト君、治してあげられなくて……いつものわたしならできるんだけど……」

 

 

 アスナが申し訳なさそうな顔をしていた。そう言えばこれまで遊んできたVRMMOでは、大ダメージを負わされた時には決まってアスナに治癒スキルを使ってもらったものだが、この世界に来てからは、そういう事はなくなった気がする。

 

 

「今の君は治癒術が得意ってわけじゃないんだな」

 

「うん。今のわたしが使ってるアカウントは聖騎士(パラディン)っていって、近接攻撃に特化したものなの。だから、いつもみたいに治癒とか回復が得意じゃなくなってるんだ。今、そういうのはユピテルの方が得意なんだけど」

 

 

 そう言ってアスナは前方を向き直る。視線を向けてみれば、そこには青白い稲妻で身体を作り上げ、肩から二本の腕を生やした大狼の姿。アスナの《使い魔》形態となっているユピテルだった。

 

 不死鳥騎士は炎と冷気を浴びても平気な顔をしていたが、ユピテルの放つ雷撃を受けた時には明らかに痛がった。不死鳥騎士は雷撃に強いわけではなかったのだ。それがわかってすぐに、ユピテルには雷撃で攻撃する役割を任せていた。

 

 そして今、ユピテルの雷撃によって確かに不死鳥騎士の《天命》は削られていっている。つまり重要なダメージソースとなっているというわけだ。ここでユピテルを攻撃担当から外してしまったら、こちらの火力は大幅に削がれてしまい、ジリ貧に陥るのは目に見えている。

 

 だからユピテルにはこのまま使い魔形態での攻撃を続行してもらう他なかった。

 

 

「ユピテルは手一杯だ。神聖術を使う余裕なんてないし、そこまで色々やってもらおうとも思ってないさ」

 

 

 キリトはそう言って、負傷した足に神聖術をかけた。じんじんとした痛みと熱さが和らぎ、元通りに動かせるようになった。先程からこの繰り返しだ。被弾しては自分で神聖術を使って回復、被弾して回復。

 

 おかげで、あまり前に進めているような気がしていなかった。神聖術を使うための空間リソースにだって限りはあるから、今の調子をいつまでも続けられるわけではない。リソースが尽きてしまえば回復手段がなくなるので、最終的に不死鳥騎士にやられて終わりだ。

 

 では撤退はどうか。勿論駄目だ。不死鳥騎士が許してくれそうには見えない。背を向けたこちらに矢を放って、巻き起こる爆炎で吹き飛ばそうとしてくるだろうし、どこまでも追ってくるだろう。不死鳥騎士はゲームのボスエネミーではなく、本物の怪物なのだから。

 

 進めはするが進み方が掴めないし、逃げる事もできない。どうやってこの膠着(こうちゃく)状態を打ち破る?

 

 そんな事を考えていたところ、不死鳥騎士が上空に向かって矢を放った。あんな光景を見た事がある。弓使い(アーチャー)のエネミーが矢を上空に放つと、矢が分裂して増え、雨のように地上へ降ってくるのだ。

 

 その想像のとおりになった。燃え盛る矢は空中で三十本くらいにまでその数を増やし、重力に引かれるようにして戦場に降り注ぎ、あちこちで小規模な爆発を次々引き起こした。まるで現実世界(リアルワールド)における爆撃機による空爆だった。

 

 

「きゃああッ」

 

「うわああッ」

 

 

 リーファ、グラジオ、《冒険者達》数名から悲鳴がして、彼女らがそれぞれ別方向に吹っ飛ばされたのが見えた。かなりのダメージを入れられたのは間違いなかった。

 

 

《このッ!》

 

 

 爆撃が止んだタイミングを見計らって、後方に下がっていたリランが飛び出し、その爪で不死鳥騎士に斬りかかった。その一撃は両手剣のそれをも超えるものとなるリランの爪は、確かに不死鳥騎士を斬り裂いた。

 

 だが不死鳥騎士は怯みもしなければ、よろけもしなかった。《天命》もほとんど減っていないだろう。

 

 これが先程からの最大の疑問だった。何故攻撃があまり効かないのだ。確かに当たっているのに、まるで何かに邪魔されているかのようにダメージが入らない。

 

 もしかしたらこの絡繰(からく)りを解きさえすれば、光明が見えてくるのではないかとも思っているが、その解き方に迷い続けているのが現状だ。

 

 今しがた攻撃を仕掛けた、状況に合わせての解析や計算が得意な方に入るリランも手を焼いているようで、対処策を見出せていない。

 

 

「リランの攻撃が全然効いてないなんて、一体どうなっていて……!?」

 

 

 不死鳥騎士から比較的近い位置にいるアリスも戸惑っているようだった。彼女も先程から隙を見て攻撃してくれているが、それが不死鳥騎士への有効打になっていっている様子は見受けられない。

 

 武装完全支配術などもどうかと思ったが、そもそも剣も雷以外の属性攻撃も効いていないのだから、やるだけ無駄で終わる可能性が高い。こちらも膠着してしまっている。

 

 この不死鳥騎士にダメージを与えられない原因はどこにある? 何が原因でそうなっている?

 

 そう考えていたところ、不死鳥騎士の脚を包む炎が強くなった。また踵落としをして、炎の波をぶつけてくるつもりだろう。その予想の通り、不死鳥騎士は強く羽ばたいてぐるりと空中で一回転、その踵を思いきり床に叩き付けた。

 

 直後、不死鳥騎士の前方に炎が波打った。津波とまではいかないものの、こちらを焼き尽くすには十分すぎるくらいの炎が勢いよく迫ってくる。咄嗟に防御態勢を作り、皆にも指示を出したが、防ぎきれる予感はほとんどない。

 

 

「ディス・チャージ!!!」

 

「はあッ!!!」

 

 

 その時、小さな影が二つキリト達と不死鳥騎士の間に躍り出て、言い放った。シリカとルコだ。神聖術の扱いに長けている二人は息を合わせて術を発動させた。

 

 二人の掌から水流が放たれ、やがて大きな波となって炎の波と衝突し合った。二人はキリトの予想よりも高出力で水素系神聖術を放っていたのだ。

 

 現実に大いに存在する水の波と、存在しない炎の波がぶつかり合い、水が蒸発しながらも炎を消す音が周囲を満たす。

 

 勝負は二人の勝ちだった。水の波は迫り来た炎の波の全てを消し去り、燃え盛る周囲の炎さえも消し、そして不死鳥騎士に覆い被さった。その際に攻撃力は失っているようであったものの、苦手な水を不死鳥騎士に浴びせる事はできた。

 

 炎の赤みがすっかり弱くなったその時、急に不死鳥騎士の姿の確認が難しくなった。赤々と輝いていたその身体は、薄暗い周囲と同じくらいの赤茶色に変色してしまっていたのだ。

 

 一番最初にその姿を確認した時のような神々しさはほとんど感じられなくなっている。あれは燃えているが故のものであったらしい。

 

 

「炎が消えた……今なら!」

 

 

 炎に弱くなったがために後ろに下がっていたユージオが呟くように言うと、左手に冷気を急に収束させた。《青薔薇の剣》のコピーを作ったかと思ったが、しかしそこに青薔薇の意匠はなく、その柄がどんどん後ろに伸びていく。

 

 そうして出来上がったのは大槍だった。冷気で何でも作れるという話は既に何度も聞いていたが、あんなものまで大がかりな武器まで作り出すところは流石に初めて見る光景だった。

 

 

「であああああッ!!」

 

 

 出来上がった氷の大槍を、ユージオは投擲した。周囲の炎と熱が弱まった事によって、溶かされる事なく大槍は飛翔し、不死鳥騎士に突進していく。

 

 そして、その結末に驚かされた。先程まで冷気も炎も効かなかった不死鳥騎士の胸に、氷の大槍が突き立てられたのだ。《ステイシアの窓》を咄嗟に開き、不死鳥騎士を確認したところ、《EGO化身態》としての《天命》がかなり減っていた。

 

 ようやく、不死鳥騎士がまともにダメージを受けた。偶然か必然かは定かではないが、膠着状態が解除されて先に進めた。

 

 

「ユージオの攻撃が効いた!?」

 

「さっきまで効かなかったのに、何故だ……!?」

 

 

 アリスとメディナが戸惑ったように言った。二人の言う通り、先程から不死鳥騎士が大ダメージを負うような事はなかったし、炎も冷気も効いている気配がなかった。

 

 それが急に効くようになったのは何故か。明らかに、シリカとルコの放った水を浴びたのが原因としか思えない。二人の水を浴びたところ、不死鳥騎士の身体を包んでいた炎が鎮火されて――。

 

 

「!!」

 

 

 そこまで考えたところで、強い一筋の光が頭の中に走った気がした。

 

 炎だ。あいつの纏っていた炎は、それ自体があいつを守る鎧の役割を果たしていたのだ。

 

 リランの爪の効果が薄く、ユージオと冬追の冷気が効かなかったのは、不死鳥騎士が纏う炎が前者の勢いを極限まで削ぎ、後者を完全に防いでいたから。

 

 リランの炎と自分の《EGO》が無効化されていたのも、火に油を注いでいたようなものだったからで、逆にユピテルの雷撃が通っていたのは、炎の鎧を貫通できる属性だったから。

 

 つまり、あいつの纏う炎を鎮火させたところに集中攻撃すれば、ダメージを与えられる。

 

 

「わかったぞ! あいつに水をかぶせるんだ!」

 

「ええっ!?」

 

 

 キリトの言葉に真っ先に反応したのがリーファだった。その他の皆も同じように驚いている。そんな皆に向けて、キリトは導き出せた答えを教えた。話が終わった頃、皆は驚きつつも納得しているような様子になった。

 

 やがて、そのうちの一人であるアスナが言う。

 

 

「そうだったのね……デュソルバートさんの炎が攻撃を防いでいたのね」

 

「つまり、今みたいに燃えてない状態を作り出す事ができれば、仕留められるって事」

 

 

 シノンの発言にキリトは頷く。

 

 

「あぁ。だから、水素系神聖術をありったけぶつけて消火するんだ!」

 

 

 キリトがそう言ったその次の瞬間、不死鳥騎士の身体が赤く輝いた。彼の者を中心にして軽い爆発が起こると、再びその身体が炎に包み込まれた。一見ただの炎にしか見えないが、あらゆる攻撃を弾く頑丈な鎧だ。

 

 

「シリカ、ルコ、もう一回あいつに水を――」

 

「む、無理です~……」

 

「無理……」

 

 

 キリトは「えっ」と言ってシリカとルコに向き直った。二人は随分と息を切らしていた。まるで激しい運動をした後みたいだ。

 

 

「今の神聖術、あたし達ができる最大出力で撃ったんです……だから、続けては難しいです……」

 

「神聖術、でも、体力、使う……疲れる……」

 

 

 確かに今の神聖術はかなり大がかりなものであり、連発できそうなものに見えたかと言うと、そうではなかった。あわよくば連発してもらおうと思っていたが、そんなに甘いものではなかった。

 

 困った。不死鳥騎士の弱点がようやくわかったというのに、それを突く手段がほぼ一回きりだったなんて。早々に代替の手段を取らねばならないが、それはどういうものか――。

 

 

「ほほぅ、水素系神聖術を撃ち込んで、デュソルバート様の火を消せばいいんだな?」

 

 

 不意に聞こえた声に向き直ったところ、そこでメディナが興味深そうな顔をしていた。先程まで驚いていたというのに、切り替えが早い。

 

 

「そうだけど、君は神聖術が得意だったか? どっちかと言えば剣の方じゃないか」

 

 

 キリトの問いかけにメディナは素直に頷く。

 

 

「そうだ。私は剣の方が得意だ。神聖術は使えるが、シリカやルコには及ばない。だけど、《彼ら》の中には神聖術に長けた者が結構いるんだ」

 

 

 メディナが言うと、その後方にずらりと人影が並んだ。

 

 《冒険者達》だ。メディナが強引に接触する事によって、ついてくるようになった記憶無き者達。それらの二十名以上が、メディナを最前列に置いた陣形を組んでいた。

 

 

「救世主の名の下に命ずる! 総員、水素系神聖術を怪物に向けて放て! 得意な者は自身の使えるものの中で最上位の術をぶつけてやれ!」

 

「「「はい、救世主様!!」」」

 

 

 メディナの高らかな号令が響くと、冒険者達は一斉に詠唱を開始。瞬く間に発動にまでこぎ着け、水流を放った。

 

 一人一人の水素の集まった掌から放たれる水流は、先程のシリカとルコのそれには及ばない規模であったものの、二十人以上が力を合わせる事で、あの波は再現された。

 

 真っ青な波濤(はとう)が不死鳥騎士を呑み込み、周囲を水浸しにする。どぼぉんという如何にもな大きな水の音が鳴り響き、やがて止んだ頃には、不死鳥騎士の身体からは炎が消えていた。

 

 それに加えて周囲の鎮火も完了し、足の踏み場も大幅に増えていた。二回も規模が比較的大きい水素系神聖術を放ったのが功を成したようだ。そして今、不死鳥騎士は炎の守りを失っていた。

 

 

「今です!」

 

「師匠ッ!」

 

 

 すぐさまリネルとフィゼルが飛び出した。二人は目にも留まらぬ速さで師匠が変じた怪物の許へ辿り着き、その手に携えた短剣で斬り付けをお見舞いした。

 

 怪物は反撃に出ようとしたが、直後に動きを鈍らせて二人に回避を許す。麻痺を受けたのだ。炎の守りを失ったがために状態異常も効くようになっていたらしい。いや、それより前に二人が攻撃を続けていたために、麻痺毒が蓄積されていたのかもしれない。

 

 いずれにしても、これで不死鳥騎士の動きは完全に止まった。

 

 

「今だ、叩き込め!!」

 

 

 キリトの号令が響くと、その場の全員が攻撃に転じた。各々が剣技(ソードスキル)を放ち、その武器が纏う光が周囲を真昼の空のように照らし、不死鳥騎士を虹色の光の爆発が包み込む。まるで《SAO》、《ALO》、《SA:O》でレイド戦をやった時の再現のようだった。

 

 瞬く間に不死鳥騎士の《EGO化身態》としての《天命》が削られていき、やがて消滅する――かと思いきや、皆の攻撃が止んだところで僅かに残ったのが確認できた。

 

 デュソルバート自身も強靭な身体と精神の持ち主だったものだが、それは《EGO化身態》も変わらないらしい。

 

 

「キリト、とどめを!」

 

 

 後方のシノンが呼びかけてきて、キリトは応じて走り出した。しかし、途中で足を止める。すぐ隣の床を霜が駆け抜けていき、不死鳥騎士の足を捕えたからだ。

 

 急ブレーキをかけた後に振り向くと、ユージオが青薔薇の剣を力強く床に突き刺し、霜と冷気を発していた。

 

 数秒も立たないうちにその目とキリトの目が交差した。ユージオの瞳には、一際強い意志の光が瞬いていた。

 

 

「やらせてくれ、キリト!」

 

「わかった。任せるぞ!」

 

 

 キリトが後退するのと合わせて、ユージオは青薔薇の剣を床に突き刺したまま前方へダッシュした。空中で冷気を右手に募らせ、長剣を作り出す。

 

 その剣に冷気が更に集まり、両手剣くらいの大きさにまで膨れ上がった。ユージオに埋め込まれた、冷気を自在に操る力をもたらす《コア》があるからこそ成せる業だ。

 

 

「デュソルバートさん、元の貴方を、信念を取り戻してくれ!!」

 

 

 その叫びを乗せて、ユージオは縦方向に不死鳥騎士を一閃した。不死鳥騎士を不死鳥騎士たらしめていた《天命》が消え去ると同時に、彼の者は膝を着く。

 

 間もなくして、その身体は黒と橙と赤の三色の光の粒子に分解されていった。そしてその姿が完全に消え去ると、それまで不死鳥騎士が空間に一人の男が現れた。

 

 赤い鎧に身を包んだ赤髪の男――デュソルバートだった。

 

 

 


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