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「……何度聞いても、恐ろしい話ね。その禍々しい計画に、私達は一切気が付けないでいただなんて」
キリトの背後で、ファナティオが溜息交じりに言った。
西帝国の最西端にある《西の峡谷》から動けなくなっているかもしれない、
キリトの周りには、結構な人数がいる。まず、キリトの背後にシノンとルコとファナティオがいて、共にリランの背に乗っている。そのリランの右隣辺りで、
竜を合わせた十四人が今回の遠征のパーティだった。いつもならばここにメディナとグラジオ、《冒険者達》十数名が加わっているのだが、今は居ない彼女らに代わり、ファナティオがいるようなものだった。
整合騎士団の副騎士長ファナティオ・シンセシス・ツー。どうして自分達に同行するのかと尋ねてみたところ、「坊や達が普段どう戦っているのか気になるから」と、「いなくなったシェータが心配だから」であるかららしい。あくまで個人的な予測ではあるが、後者が強いのだろう。
現に南帝国に調査に向かったエルドリエ、北帝国に向かったデュソルバートは《カラント・コア》に接触した結果、取り込まれて《
《EGO化身態化》は一歩間違えれば死に繋がる事象であり、それに整合騎士達が次々呑み込まれてしまっているのは、副騎士長としては由々しき事態だ。彼女としても、これ以上整合騎士が《EGO化身態》になるのを防ぎたい意思があるに違いない。なんとなく把握した気になったキリトは、ファナティオをリランに乗せたのだった。
ちなみにファナティオにも専用の飛竜がいるそうだが、それは今カセドラルの中から出られなくなってしまっているらしい。なので、リランの背中に乗るしかなかったのだそうだ。
そんな移動の最中で、ファナティオがアドミニストレータの真実について聞いてきたので、色々と答えたのだった。中でもファナティオが一番ショックを受けていたのは、アドミニストレータが人界の人々を《ガーダー》なる機械人間と、ソードゴーレムにしようとしていた話だった。
「まさか、人界の人々までも《
クィネラやカーディナルから話自体は聞いていたはずだが、詳細を聞くのは初めてだったのだろう、見なくても声だけでファナティオの表情が悲しげになっているのがわかるくらいだった。
「ファナティオの使ってる剣は、アドミニストレータが作ったものなのよね?」
シノンの問いかけにファナティオは「え?」と言った後に答えた。
「えぇ。この《天穿剣》は元々、百枚の大きな鏡だったのよ。ソルスを反射させて一点に光を集中させて熱を発生させ、対象を焼く兵器としていたらしいわ。それを《あの悪霊》は《神器》にしたってところよ。……
何か理由があったのだろうか。それとも、作ったところでアンダーワールドの人々には使えない代物だと舐めていたか。
彼の者から受け取った神器を携えるファナティオは続ける。
「猊下のお力は人々を幸福にしたり、守るべきものをちゃんと守るための、素晴らしいものよ。決して人を機械人間にしたりするためのものなんかじゃないわ。そんなふうに力を使って、私達の事も良いように使っていた《あの悪霊》は、討ち
ファナティオの声には怒りが感じられた。今カセドラルに巻き付く《カセドラル・シダー》になっているとされるアドミニストレータに対する怒りだ。
かつてカセドラルを守っていた頃の彼女は、アドミニストレータへの忠誠心が一際強く、そのために自身の命さえも投げ出す戦術を取ってしまうくらいだった。
その命を捧げてもいいと思えていた上位存在が、実は本来の上位存在に取り憑いて好き放題していた悪霊だったと聞かされたのだ。恐らく人一倍《あの悪霊》への怒りと憎しみが強いのだろう。かつての忠誠心が高かった者ほど強く怒っている事が、今の整合騎士達を見てわかる傾向だった。
「だから、その呪いに苦しめられているかもしれないシェータを、一刻も早く救い出さないとね」
「あぁ、力を貸してくれ、ファナティオ」
キリトの言葉にファナティオは「任せて
が、すぐさま彼女が「ううーん……」と言い出したものだから、キリトは軽く驚いた。今度はシノンとファナティオの間に挟まるルコが尋ねる。
「ファナティオ、どうしたの」
「最高司祭猊下って、鎧の新調とかもやってくれるのよね?」
「うん。クィネラさま、何でも、作ってくれる。ルコの帽子も、作ってくれた」
「なら、鎧の新調……いえ、大きさを変えてもらおうかしらね」
「なんで」
「このところ、胸元がきつい気がするのよ。この鎧って軽くて頑丈なんだけど、余裕があんまりないから、胸がぎゅうぎゅう抑え付けられるような感じでね」
キリトは「ん――?」と小声で言ってしまった。何だか嫌な予感のする話が聞こえる気がする。その話を、ルコは続けた。
「ファナティオ、胸、大きいの?」
「鎧できつく感じられるくらいだから、膨らんだのかも。ちびちゃん、見てみる?」
「ふかぁ、見てみたい!」
「わかったわ。帰ったら大浴場に行って、見せてあげるわね」
その後に、ファナティオから問いが飛んできた。
「というわけで坊や、帰ったらちびちゃん借りるわよ」
「……何か教えるなら悪影響の出ない範囲でお願いします。
そう答え、キリトは溜息を吐いた。シノンの溜息も聞こえる。帰ってきたルコが何を言い出すか。恐らくユイ以上の強敵になっているに違いない。そんな彼女をどうやって説得するべきか。考えるだけで胃が痛くなってきそうだ――そう思ったその時だった。
《雑談しているところ悪いがキリト、《カラント》があるぞ》
頭にリランの《声》が響いてきて、キリトは我に返った。すぐに応答する。
「早速出てきたってところか。近くに魔獣や《EGO化身態》は?」
《おらんな。だが――》
「だが?」
《代わりに人が集まっておる。それもかなりの数だ》
キリトは思わず眉を寄せた。《カラント》は魔獣を生み出し、《EGO化身態》を集める力があるうえ、空間神聖力を吸い上げてしまう特性も持っている。なので、その傍は必然的に危険地帯となるのだが、そこに人が集まっているだって?
「本当か、それ。見間違いじゃないか」
《いや、地上を走っているユピテルからも連絡が来た。やはり人が沢山集まっておるそうだ》
リランもユピテルも嘘を吐けない性質である。やはり下の《カラント》で何かがあるのは間違いなさそうだ。
キリトはリランに降下するよう指示し、併せてユージオにも伝達。少し近いところに
リランが地に足を付けたところで、その背から滑り降り、前方を確認してみる。確かに今しがたの話の通り、《カラント》があった。そしてその近くには、本来ならば群れを作っているはずの魔獣や《EGO化身態》の姿はなく、人々の姿があった。全員揃って、祈りを捧げているような姿勢をしている。
「あの人達、何をしてるんだろう。何か祈ってるみたいに見えるけど……」
ユージオもキリトが思った事と同じ事を口にした。やはり彼らは祈っているらしい。だが、そんな彼らの眼前にあるのは魔獣を産み、怪物を呼び寄せ、周辺の緑を枯らす禍々しい植物である《カラント》だ。まさか《カラント》に祈りを捧げているとでも言うのだろうか。
キリトが
「その植物の
ファナティオが事実をきっぱり述べると、人々は振り返ってきた。その際、人々の中に若い人はおらず、壮年から老人の男女しかいない事にキリトは気が付いた。直後、壮年の男性が答える。
「そういうわけにはいきません。雷を収めるには、ここで最高司祭様に祈りを捧げる必要があるのです。救いを待っているのです」
その言葉に皆が首を傾げた。最高司祭様――それはつまりクィネラの事だが、クィネラに祈りを捧げるとはどういう事だ。まるでクィネラが死んでいるような言い草に、「勝手に殺すな」と言いたくなる。
「最高司祭様の救いとは、どういう事でしょうか」
今朝もクィネラと話をしてきたアリスが問うと、同じ男性が答えた。何でも、彼の天職は木こりなのだそうだが、彼の切るべき木にあの黒雲が雷を落とし、みんな焼いてしまったのだという。それ故彼は天職を失ってしまい、
その壮年男性の隣にいる壮年女性は、私領地で働く小作人なんだそうだが、高額の税を納めているために食べるものがなく、大切な娘が病に
その他の者達も、似たような事を口にしていた。どうやらここにいる全員は、かなり悲惨な目に遭ってしまっているらしい。だが、それがわかっても、この《カラント》の近くに集まっている理由が掴めない。
「じゃあ、一体何故ここに集まっているんですか?」
アスナが問うと、壮年男性は答えた。
「この世界の救世主様が率いる《真正公理教会》の方々に、私達は使命を授けられました。『この世界の公理の乱れ、人々を襲う厄災は全て、偽りの最高司祭による偽りの公理教会が引き起こしたもの。救いを求めるのであれば、我ら《真正公理教会》の救世主と、彼女が導く選ばれし民の下へ集え』と」
話が終わった頃、キリトは驚きを隠せなくなっていた。《真正公理教会》など聞いた事がないが、その集団がこの者達に説いたとされる文言と、救世主という言葉には聞き覚えしかない。
女とされる救世主と、彼女が導く選ばれし民。これは間違いなく、メディナ達の事だ。キリトはすぐに壮年男性に尋ねる。
「貴方はその救世主に会ったんですか」
「いいえ、私共は救世主様への拝謁は許されておりません。私は《選ばれし民》より、この地に居るようにと使命を受けたのです」
「何故ここに居ろと言われたんです?」
「それが私の果たせる使命であり、果たした暁には雷を止める事ができると聞きました」
壮年男性が言い終えるなり、ユージオが「なんでそんな嘘を」と零した。ここに居て、最高司祭に祈りを捧げているだけで雷が収まるわけなどない。
《真正公理教会》がメディナ達の事なのかは定かではないが、この人達はその者達に騙されているのは確実だ。起こりもしない奇跡の存在を吹き込まれて、《カラント》の近くという危険地帯に放り込まれ、留まらされている。
《真正公理教会》があまりに真理を説いているように見えたのか、或いは何も考えさせないくらいに威圧的だったのか、疑う事さえできていないようだった。
そんな事を思った時だった。人々の近くに堂々と生えている《カラント》の下部の球体が割れ、中から何かが突き破るようにして現れてきた。どっしりとした体型の小型の恐竜のような獣。魔獣で間違いなかった。
その姿を確認した人々は「ひぃぃ!」と怯え出す。《カラント》から魔獣が生産されてくる事を知らなかったのだろう。キリトは即座に抜刀し、皆も一斉に戦闘態勢に入る。
「離れてください!」
《天穿剣》を引き抜いて構えたファナティオが呼びかけると、人々は《カラント》から離れていった。それが気に入らなかったらしく、恐竜の魔獣は吼えて走り出した。人々を喰らうつもりでいるのだろう。
させるものか――キリトが魔獣と人々の合間に入り込もうとしたその時だった。突然、魔獣の体勢が横方向に崩れた。そのままどしんと音を立てて魔獣は横倒しになり、動かなくなった。
あまりに一瞬の出来事に、皆が呆気に取られ、キリトもそうなりそうだったが、すぐさまはっとして魔獣を見た。横腹に矢が十数本も刺さっているうえ、そのうちの数本が急所に突き立てられていた。どうやらこれが致命傷となり、ごく短時間のうちに絶命したようだ。そして魔獣は絶命の光を出して消滅する。
今のパーティの中で弓を使っているのはシノンだけだが、果たして彼女は
では、誰がこの矢を――?
「おぉ、かかった、かかった!
「やっぱこういうのは
矢の軌道から推測できる発射地点から、声と足音が聞こえてきた。鼠色の鎧を着た若い男二人が歩いてきているのが認められた。片方は茶髪で、残る片方は跳ねた金髪をしていて、何だかガラが悪い雰囲気をしている。
「生贄死ぬ前に仕留めるとか、流石だわー」
男達の言葉に含まれた囮、生贄という単語が引っ掛かった。その時点で嫌な予感しかしないが、それでもキリトは尋ねた。
「囮だと? どういう事だ」
男達は「ああ?」と言って、茶髪が聞き返してきた。
「んだよあんたら。他人の獲物横取りする気かよ」
「貴方達、囮とは……まさかこの人達の事を!?」
アリスが驚きと怒りを込めながら問うと、また茶髪が答えた。
「何キレてんだよ。意味わかんねぇ」
シノンがアリスとは異なる冷たい怒りを込めた声を出す。
「人を囮にするだなんて、自分達が非道な事してるってわかってる?」
今度は金髪が答えた。
「非道? いや、オレ達は魔獣と怪物の討伐のために選ばれた戦士だし。生贄の一人や二人、囮にして何が悪いんだよ」
「生贄だと?」
キリトの再度の問いに、茶髪がふふんと笑った。嫌な気持ちにしかさせてこない。
「こいつらは《真正公理教会》の協力者だ。オレ達の代わりに《カラント》の番もしてくれて、囮にもなってくれる、便利なもんだ」
どうやらこの男達は《真正公理教会》の者達のようだ。そして最悪な事に、身に着けている鎧はメディナが連れる《冒険者達》の中で、戦闘が得意な者が着用しているそれだった。
つまりこいつらは、《冒険者達》。メディナに従っているだけのはずなのに、まるで《EGO化身態》になりかねない貴族みたいな事をしている。メディナがそんな指示をしているとでもいうのか。
《冒険者達》の言い分を聞いたアリスが激昂する。
「貴方達、恥を知りなさい! 罪なき民を利用するなど、何を考えているのですか!!」
「貴方達、何が目的なんですか」
アリスの隣で静かに怒るユージオの問いに、茶髪の冒険者が答える。
「救世主様ができるだけ多くの魔獣を倒して《実》を集めろって言うから、効率の良い方法を試しただけなんだけどなぁ」
「実って、《カラント》が付ける実の事ですか。何のためにそんなものを」
「さぁ、それはよくわからんな。救世主様の命令に従ってるだけだし」
「命令……やっぱりメディナさんがこんな事をしているっていうの」
アスナが小さく言うと、《冒険者達》はこちらを
「なぁなぁ、こいつら良い鎧着てるぜ? 生意気だって思わねえ?」
「いっその事、奪ってオレ達の装備にしてやるか」
何やら《冒険者達》は不穏な事を言い出した。沈黙で続きを促す。
「いやいや、追剥をしろって命令は受けてねえよな?」
「違ぇよ。『魔獣を倒して《実》を集めるためには強い装備が必要』だろ?」
「おぉ、そうだった! やっぱり物は考えようだよな!」
その話の後に向けられてきた《冒険者達》の目は、ぎらついていた。央都やその周辺でふんぞり返って悪行を繰り返し、最終的には《EGO化身態》と成り果てる貴族達のようだった。
「どうやら、貴族達のように命令を捻じ曲げて解釈する輩のようです」
「《冒険者達》の中にも、そんな人達がいるだなんて……」
アリスとユージオが怒りを
「「行くぜ、救世主様のために!」」
《冒険者達》二名が叫んだその時だった。ひゅんとキリトの後ろから何かが前方へ駆けていった。それは目にも留まらぬ速さで《冒険者達》の元へ着き、一閃を繰り出す。
次の瞬間には、《冒険者達》は地面に倒れて動かなくなっていて、代わりに二人の少女がそこに立っていた。デュソルバートから許可をもらって付いてきた、リネルとフィゼルだった。二人とも短剣を手にしている。
「リネル、フィゼル……!」
キリトが思わず呼びかけると、二人は振り返った。どちらも得意気に笑っている。
「安心して、麻痺毒を入れただけだから」
「重要な情報を握っている人を殺しちゃ駄目だって聞きましたので」
そう言えば二人は、毒短剣の使い手であり、相手の動きを封じる戦法を得意としていた。それが今役立つ事になるのは、キリトも予想できていない事だった。
二人が一緒に行くと言い出した時は、何か大事が起こるんじゃないかと思ってひやひやしたが、そう思う必要はなかったらしい。
「なっ、選ばれし方々を傷付けるなんて……まさか貴方達は、偽りの公理教会!?」
「な、ならば、この花が狙いか!? さ、させないぞ。この花だけは、我らが守り抜き、斬らせない!」
《冒険者達》に生贄にされていた壮年の女性と男性が言い出し、《カラント》を守るような陣形を取った。他の人々も同じように《カラント》の盾となっていく。目にした全員が驚き、そのうちのアスナが言う。
「ですから、その花から離れてください! その花は魔獣を生み出し、怪物を呼び寄せる危険なものなんですよ!」
壮年女性は首を横に振った。
「本物の最高司祭様に祈りを捧げ続ければ、私の娘は元気になる。彼らはそう言いました!」
「私は再び《天職》に就ける……そしてあの方々は私達に食事も提供してくれる。私達はこの花を守らなければならないのです!」
どちらも悲痛な叫びだった。他の者達もこのような境遇なのだろう。だからこそ、《真正公理教会》に付け込まれてしまったのだ。心身共に弱った者を、
その騙されている者達に、ファナティオが言葉をかける。
「貴方方には酷な話をするかもしれないけれど、最高司祭猊下なら央都にいらっしゃるわ。もし聞いてもらいたい事があるのであれば、ここでそんな花に祈ってないで央都に足を運ぶべきよ。あのお方は多忙だけれども、差し迫った人がいるのであれば、進んで話を聞いてくださるわ。そうして救われた人達を、私達は何人も知っている。今の最高司祭猊下が偽者かどうかは、会ってみればはっきりするはずよ」
最高司祭クィネラのすぐ近くにいるファナティオだからこそ言える真実が述べられると、人々は衝撃を受けたような顔になった。
「そ、そんな……今の最高司祭は偽者の極悪人で、今は亡き本物の最高司祭様から拝命を承ったという《真正公理教会》の言葉は嘘であると……?」
「偽者の最高司祭の取り仕切る央都は危険地帯で、立ち入れば命はないという話も嘘だというの? じゃあ、何故《真正公理教会》の方々はあのような事を言って……本物の最高司祭様と、偽りの最高司祭って……?」
壮年男性と女性が頭を抱えた。
「はい、おやすみなさい」
直後にフィゼルが言い放ち、リネルと揃って《カラント》の盾となる人々の元へ駆け、再び一閃を繰り出した。瞬く間に人々はその場に崩れ落ち、動かなくなる。すぐさま寝息が聞こえてきた。眠ってしまったらしい。
「今度は睡眠毒を撃ち込ませてもらったよ」
「だから痛くないです」
リネルとフィゼルはそう言ってキリトのところに戻ってきた。すかさずキリトは礼を言う。
「二人とも、ありがとう。助かったよ」
二人はほぼ同じタイミングで「どういたしまして!」と答えた。とりあえずこの場での騒乱は収まったと言えるだろう。だが、問題は山積みだ。キリトと同じ事を思ったであろうシノンが呟く。
「こんな何の罪もない人達を利用してまで《カラント》を守ろうとしてたなんて、《真正公理教会》はろくでもない集団ね」
「でも、生まれてきた魔獣は倒してましたよね。《カラント》は守って魔獣は狩るって、なんだか矛盾してませんか」
シリカの疑問にはキリトも同意だった。魔獣を生産するのが《カラント》だから、魔獣を根本から倒したいなら《カラント》を斬るべきだ。しかし《カラント》を斬らずに魔獣だけ狩るというのが、連中のやり方のようだった。
全く意図が読めない。何故こんな矛盾に満ちた行為をしているというのだろうか。
「《真正公理教会》……それが彼らの属する組織。そして救世主……メディナ殿が恐らく彼らを率いている」
「そんな。メディナさん、どうしてこんな事をしてるの」
アリスとリーファが言い、次にリズベットが腕組をして引き継ぐ。
「何にしても、今の公理教会や対策本部が偽者の組織、そのうえクィネラが極悪人なんて、人聞き悪いったらありゃしないわ。あの
直後、キリトに話しかけたのはシノンだった。
「ねぇキリト。この人達の話、あのハァシリアンって奴が言ってたのと似てない? やっぱりハァシリアンがメディナにこんな事をさせてるんじゃないかしら」
「俺も同じ事考えてた。もう十中八九そうだって思った方がよさそうだな。とはいえ、どうやってメディナの居るところとか足取りを吐かせたものか」
気になっているのはそこだけではなかった。足元で気絶している《冒険者達》は、『囮』やら『装備』やら、まるで
「坊や」
考えていると、またまた声がしてきた。人々を説得しようとしていたファナティオが、出発前と同じように声をかけてきていた。
「シェータの事がとても気になるけれど、まずは一旦央都の対策本部に戻らないかしら。この《冒険者達》をカーディナル様に調べてもらった方がいいと思うの」
「あぁ。こいつらは何か違うものがあるみたいだしな」
「それに、《カラント》を守ろうとしていた人々だけど、この人達も猊下のところに連れて行ってあげましょう。猊下の本当の事を教える必要があるけれど、《真正公理教会》の偽情報に振り回される前から、相当疲弊していたみたいだから……」
キリトは近くで眠る人々に目を向けた。
この人達は《真正公理教会》の言った事を真実だと思い込まされ、自分達にその話が嘘であると言われると酷く混乱していた。あのまま放っておけば、矛盾に押し潰されて魂を崩壊させてしまっていた事だろう。
本当に潰れてしまったら無理だが、その前の段階の人の治療なら、クィネラ達《
頭の中で今後のルートを描き、キリトは皆に声を掛けた。
「皆、一旦央都に帰ろう。ただ、この人達をクィネラとカーディナルに預けたら、すぐにここに戻って来るぞ。結果はリランとユピテルの通信能力で聞きつつ、メディナとシェータの足取り探しをしよう」
皆が頷いたのを確認してから、キリトは《カラント》に近付いて剣を抜き、一閃した。《真正公理教会》が守ろうとしていた禍花が一つ、西帝国から消えてなくなった。