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シノンの推測は当たっていた。ルコが初めて明確な恐れを抱くくらいの力を持つと思わしき《
リランの背に乗ったキリト達が追い付いた時、既にメディナは央都に破壊をばら撒き、建物を薙ぎ倒し、火の手を上げさせていた。人界で最も華やかで賑わいのあった央都セントリアの、その一角は今あちこちで濃密な黒煙が上がり、黄金色の光が地面から湧き出ている有様になっていた。
それはメディナが極めて一瞬に近しい時間で、
メディナ・オルティナノスが怪物になって戻ってくるとは一切予想していなかった貴族達は、悲鳴を上げて逃げ惑っていた。リランが央都の外壁のすぐ上でホバリングに入った際、《赤黒の猫人》ともいうべき存在となったメディナの撒き散らす破壊の音に
……のだが、その内容は「衛兵はどこだ、私を助けろ!」だの「整合騎士め、役立たずが!」だの「
はっきり言って助けるだけの価値があるとは思えない連中だ。街の警備及び敵性存在の接近時の迎撃に当たっている衛兵、騎士、整合騎士達にあれらの言っている事を聞かせようものならば、即座に助けるのをやめて見捨てる事を選ぶだろう。自分が衛兵や騎士の立場に就いていたならば、そうする自信がある。
そして連中の言っている事はメディナの怒りの炎に更に油を注ぎ、結果的により激しい破壊と
だが、そんな傲慢で屑と言われても仕方がないような連中を救おうとしている者がいた。紫銀色の長髪をなびかせ、勇敢な正義の騎士のそれに近しい光を蓄えた、本紫色の瞳で敵を捉え、紫と白と金で構成された司祭服を
彼女は神聖術の数々を使用し、《EGO化身態》となったメディナである《赤黒の猫人》を迎撃していた。それもルコやシリカが使う攻撃系神聖術などではなく、強力な兵器を即席で生成して砲弾の雨あられを浴びせるという、規格外の術だ。
どうして整合騎士達ではなく最高司祭クィネラが前線にいるのかと疑問だった。もしかしたら《赤黒の猫人》の襲撃があまりにも唐突だったせいで、整合騎士達が思うように動けなかったのかもしれない。
それにそもそも整合騎士長ベルクーリが《西の峡谷》で《EGO化身態》にされてしまった副騎士長ファナティオの鎮圧に、シェータ、リネル、フィゼル共々当たっていて、アリスは自分達と一緒に行動している。これだけで六人。
央都に残っている整合騎士はエルドリエとデュソルバートとレンリの三人だけであり、うち二名が《EGO化身態》に有効な《EGO》使いであるが、だからと言って人界で最も広い街とされる央都セントリアの、襲撃を受けた一角に
襲撃地区の真反対の地区に居ただとか、休んでいる最中だったとか、そもそも央都にいなかったなどの事情が重なってしまえば、整合騎士より先にクィネラが到着して対応に当たっているなどの状況になっていてもおかしくはないのだ。
たった一人で対応しながらも、全く《EGO化身態》の勢いに押されていない妹に、姉であるリランは援護射撃を行った。自慢の火炎弾ブレスを連続で放ち、《EGO化身態》に何度も爆発を浴びせる。
今まさにクィネラへ飛び掛かろうとしていた《赤黒の猫人》の動きが止まったのが、彼の者を包む爆炎の隙間から見えた。そこでキリトは咄嗟に声をかける。
「クィネラ!!」
救う価値があるのか怪しい貴族の連中でも助けようとしていた最高司祭は、呼び声によって気が付いたようだった。顔をキリト達に向けて、嬉しそうな表情を浮かべる。
「リランねえさま、キリトにいさま、シノンねえさま!!」
ホバリング飛行するリランの隣に、アリスとユージオとグラジオを乗せた
整合騎士達を除く、西帝国捜索隊の帰還を目にしたクィネラはより嬉しそうな顔をするが、即座にアリスが声かけをした。
「最高司祭様、ご無事ですか!?」
クィネラの顔が曇りの表情に変わる。
「わたくしは無事です。ですが急襲により、既に犠牲者が沢山出ていて……」
やはりそうか。ここはあくまで央都の多数ある地区の内の一角に過ぎないが、それでも貴族街という人口密集地だ。そこに暴力的な《EGO化身態》が唐突に攻め入ったのだから、最初の攻撃の時点で多数の犠牲者が出ただろう。
その犠牲者を出してしまったのは、他ならぬメディナ。《EGO化身態》という怪物になっているが故に自我はないうえ、やられたのも非常時でも傲慢な屑貴族連中だが、彼女は央都の人家を破壊し、人を
自分自身を失って制御不能の怪物となり、暴走してしまうというのは、この世界に存在する
クィネラの言葉を聞くなり、アリスの後ろにいるグラジオが身を乗り出すようにして叫んだ。
「何やってるんですか……何やってるんですかメディナ先輩ッ!!!」
黒煙の上がる央都の一角にその声が響き渡る。爆炎が晴れて、《赤黒の猫人》の姿が再度見えるようになった。それは今、メディナと同じ色の目でグラジオを
「聞こえてるのかもわかってるのかもわかりませんけど、街を壊して人を殺してるんですよ、メディナ先輩! そんな事、メディナ先輩のやりたかった事ですか!? オルティナノス家の汚名を雪ぐのがメディナ先輩の悲願だったのに、それと真逆の事してどうするんですか!!」
《赤黒の猫人》の、獅子と虎が混ざったような輪郭の顔に
直後、《赤黒の猫人》はがぁと吼えたかと思うと、後ろ足をバネのようにしてジャンプしてきた。行先にいるのは冬追の背中のグラジオだ。直前までグラジオは正論を言っていたが、《赤黒の猫人》にとっては挑発にしか聞こえていなかったらしい。
「冬追!」
一応の騎手であるユージオが指示を下すと、彼らを乗せた冬追はぎゅんと反転して城壁から遠ざかった。巨剣を咥えた《赤黒の猫人》が四足歩行姿勢でそれまで冬追のいた空間に着地してくる。
「キリトにいさま!」
街中に一人残ったクィネラにキリトは振り向く。彼女自身はそうではないものの、彼女の周囲の街並みはボロボロだし、瓦礫の下に人がいる可能性も捨てきれない。
「こいつは俺達に任せろ! お前はお前のやるべき事をやるんだ!」
「央都の人達は襲撃を受けて大混乱してるんでしょ。最高司祭のあんたが支えてあげなさい!」
シノンと一緒にクィネラに伝えた直後、《赤黒の猫人》は央都外周に広がる平原へ飛んだ冬追を追って飛び跳ねた。どうやら狙いが央都からグラジオ達に変わったらしい。その予想のとおりに《赤黒の猫人》は央都から平原へと向かっていった。これでひとまず央都の心配をしなくて良くなった。
キリトはリランに指示を出し、《赤黒の猫人》の後を追わせる。ほんの数秒央都から離れたところで、冬追を駆るユージオ達に合流できた。《赤黒の猫人》は四足歩行形態から二足歩行形態となって冬追と戦っていた。その手に巨剣を携え、それを姿勢良く振るう戦闘態勢をしている。
そのためなのか、その姿が《EGO化身態》となる前のメディナと重なって見えた。やはり姿形が変わってしまっていても、あれの根幹はメディナなのだ。
《EGO化身態》になると、そうなる前とは全く異なる戦い方をするようになる者が多かったので、なった後となる前では違う戦闘スタイルになるのが《EGO化身態》だと思っていたが、どうやら全てがそういうわけではないらしい。少なくともメディナは《EGO化身態》になった後でも、なる前の戦闘姿勢を維持している型だ。
だとすると、《赤黒の猫人》はソードスキルを使う事もできるのだろうか。だとすれば厄介極まりない。人間を遥かに上回る大きさと力を持つ存在がソードスキルなんていう強力な技を放とうものならば、生み出される破壊力は絶大なものとなる。
《赤黒の猫人》の詳しい大きさは把握できていないが、少なくとも四足歩行形態の時にはリランと同じくらいの全高があったし、二足歩行形態となった今はリランの全高を上回っている。そんな大きさを持つモノが繰り出してきたソードスキルを喰らおうものならば、一溜まりもないだろう。
《EGO化身態》戦はいつでも強力な攻撃を一撃でも喰らえば終わりみたいなものだったが、今回はそれが際立っている。白兵戦に持ち込むのは悪手以外の何物でもないだろう。だが、《EGO化身態》には《EGO》による攻撃が利くという事もわかっている。
基本リランから降りずにいて攻撃してもらい、隙を作ってもらったところで《EGO》による特効攻撃を叩き込む。そして向こうが体勢を立て直したらリランの背中に戻って、隙ができるまで攻撃してもらうに戻る。これを繰り返す戦法が良さそうだ。
頼みの綱であるリランが地上に降りたタイミングで、キリトは伝える。
「リラン、今回はお前の力を思いっきり借りるぜ」
《《
「あぁ、この世界がそういうゲームの世界じゃなくてよかったよ」
もう少しこの世界がゲームのようであればと思った事は多々あったが、今となっては逆にゲームのような仕様が少なくて良かったと思っている。
特に《SA:O》にあった、『大型《使い魔》を本来の姿で具現化させられるのは一定時間中のみ』という仕様が存在していようものならば、いよいよ生き残る事はできなかっただろう。
大型の強い《使い魔》に匹敵する体躯や能力を持っている事がある魔獣や、そもそもそういうモノよりもずっと強い存在になっている事が多い《EGO化身態》が普通に存在しているこの世界で、《使い魔》だけが制限時間付き。そんなのは理不尽にもほどがある。俗に言う無理ゲーの世界だ。
そんな仕様にしなかったこの世界のマザーシステムである、強化改造型カーディナル・システムに礼を言いたい気持ちになってきた。
一応そのマザーシステムの力によって変異させられてしまったメディナ/《赤黒の猫人》は、巨剣で冬追に斬りかかった。冬追はユージオ、アリス、グラジオを乗せたままバックステップして回避する。
振り下ろされた《赤黒の猫人》の巨剣が空を裂いて地面に激突し、地表が
あの時正論を述べたグラジオに腹を立てているのだろうか。いや、メディナはもう何も言われたくないのかもしれない。
彼女は小さい頃から、あの救いようのない屑貴族連中に《欠陥品》と罵られ続けていたのだ。もう何もかもに耳を塞ぎたくなっても不思議ではない。
もう何も聞きたくないから、非難も罵詈雑言も正論も隔たず、言う者を潰そうとする。つまり今のメディナ/《赤黒の猫人》には何を言っても挑発にしかならないという事だ。だが、いつまでも耳を塞がせたままにはさせられない。
キリトの考えを
極高温と極低温という相反する属性の弾が《赤黒の猫人》に直撃し、炸裂したが、その瞬間に《赤黒の猫人》が巨剣を盾のように構えたのが見えた。灼熱と凍結の爆発が晴れた時、《赤黒の猫人》はキリトが直前に確認した姿勢で剣を構えていた。身体は無傷だ。
リランと冬追のブレスは巨剣に受け止められてしまい、《赤黒の猫人》本体にダメージは入らなかったようだ。《赤黒の猫人》は巨剣でのガード姿勢から、メディナだった時のそれに似た戦闘姿勢に戻る。
これまで相手にしてきた《EGO化身態》は、人間張りの知性を発揮して厄介な行動や攻撃を仕掛けてくるものも居れば、簡単に回避や防御ができてしまう攻撃や動きしかできないようなものも居たりして、その個体によって知性や賢さに違いがある傾向にあった。
そして《赤黒の猫人》はというと、賢い方に入る《EGO化身態》だ。もしかしたらメディナが《赤黒の猫人》となる直前にルコが怯えていたのは、《赤黒の猫人》が攻撃力だけではなく知能も高く、鎮圧戦が困難なものになるのが感じ取れていたからなのかもしれない。
《赤黒の猫人》は巨剣を咥えて四足歩行態勢になり、後ろ足で地面を蹴ってジャンプした。飛び掛かった先にいたのはユピテルだ。彼は《赤黒の猫人》の動きを即座に認め、大きいサイドステップを繰り出して《赤黒の猫人》の突進攻撃を回避する。
《赤黒の猫人》は咥えた巨剣で水平に一閃するが、ユピテルは更にバックステップして範囲外へ退いたため、空振りで終わった。そこで反撃の雷を降らすかと思いきや、何もせず《赤黒の猫人》の隙をただ見送った。
《EGO化身態》になったリズベットを鎮圧した後に本人から聞いたのだが、ユピテルは《EGO化身態》となった女性と戦う事がとても苦手なのであるという。
リランやクィネラと違って、女性の心や精神を癒す事を使命にして産み出された彼は、あまりにもその者が酷い人間性の持ち主でもない限りは、基本的に女性を攻撃するような事はしない。
というよりも、攻撃できないのだ。何故なら彼にとって女性とは癒すべきものであり、攻撃して傷付けるべきものでないから。癒すべき対象である女性を攻撃する事は、自身が生まれ持った使命に反してしまう事。
だからこそ、《EGO化身態》となった女性を目の前にすると、ユピテルは攻撃行動を
リズベットが《EGO化身態》になった時に反撃せずに一方的に攻撃を受け続けてしまって、死にかけたのはそのためだ。リズベットという親しくしてくれていた女性を攻撃して傷付けなければならないというのは使命に反した行動であるため、ほとんど反撃に出られず、やられてしまった。
そしてそれは、今もそうであるようだ。《赤黒の猫人》の基になっているのはメディナという女性であり、ユピテルからすれば癒すべき対象。攻撃しなければ鎮圧できないし、救えないが、それは使命に反する行動。
普通のAIならば、この矛盾した状況にエラーを抱えてしまい、やがてそれに押し潰されて崩壊してしまいそうなものだが、彼がそうならないでいられるのは、恐らく彼がリランやクィネラ同様に《MHHP》として成長を遂げているからだろう。
いずれにしても、ユピテルにメディナ/《赤黒の猫人》へ攻撃させても上手く行かなさそうだ。男性が《EGO化身態》になった場合ならば、それはもう見ているこちらが一種の恐怖を覚えるくらいに、容赦なく雷の雨を降らせてくれて頼もしいものだが、今は期待できない。
こればかりは彼が生まれ持った本質に関わっている事だから非難のしようもない。
ユピテルへキリトが声をかけようとしたその時、先に声をかけたのはその背中に乗っているアスナだった。
「ユピテル、攻撃はわたし達に任せて。あなたは回避する事に専念して」
母親からの声掛けに息子は少し驚いたようだった。頭の中へ《声》を飛ばしてくる。
《かあさん? ですが……》
「あんたは女の人や女の子を攻撃するなんて無理でしょ。だから攻撃なんてしないで、あんたはチャンスが来るまで回避し続けて」
「それで、メディナさんに隙ができたら一気にあたし達を近付けさせて。できる限りの攻撃を叩き込むから!」
リズベット、リーファの順にユピテルに伝えたが、その内容はまさしくキリトの考えていた作戦だった。やはり皆同じ事を思い付いたらしい。《EGO化身態》には《EGO》による特効をぶつけるに限る。いつの間にかこれが皆の間の共通認識になっていたようだ。
しかしその時、ふと一番後ろにいるシリカの顔が見えた気がした。
小柄な体型の関係上、三人の陰に隠れるようになっている彼女は今――。
しかと確認するより前に、それは見えなくなった。《赤黒の猫人》が巨剣で再度ユピテルに斬りかかったからだ。《赤黒の猫人》は巨剣を刀のように扱う姿勢で構え、回転斬りを放っていた。
範囲攻撃刀ソードスキル《旋車》だった。ユピテルは直前にそれを察知し、前後の脚と肩から生える太い腕をしならせてバックステップする。何とか無事に回避できたようだが、嫌な予感が当たった。
《赤黒の猫人》はソードスキルを使える。対策本部に招かれて早々、メディナは訓練する兵士達に混ざって、クィネラが整合騎士達を中心に流布したソードスキルの特訓に取り組んでおり、西帝国へ失踪する前には刀のソードスキルの全てを取得し使いこなせるようになっていた。
エルドリエ、リーファ、デュソルバート、リズベットの四名は各々の武器に対応したソードスキルを取得したうえで《EGO化身態》となったが、その時にはソードスキルを繰り出してくる事はなかった。恐らく、これまで人界のあちこちで確認、鎮圧されてきた《EGO化身態》の中に、ソードスキルを使えるそれはいなかっただろう。
つまりメディナ/《赤黒の猫人》は史上初のソードスキルを使いこなす《EGO化身態》だ。しかも《SAO》や《SA:O》と違って、この世界ではソードスキルを発動させても終了後の硬直が起こらず、基本的に放ち放題になっている。《赤黒の猫人》もこの仕様に則って、この後ソードスキルを連発してくる事だろう。
道具や武器を扱えるくらいの知性と、人間を遥かに超える
これは確かに強い《EGO化身態》であろう。近衛兵や下級騎士が徒党を組んで挑んだところで、惨敗して撤退を余儀なくされるのが目に見える。いや、そもそも《赤黒の猫人》が撤退を許すとは思えない。
見つかった時点で央都への逃走は不可。全員が《赤黒の猫人》の餌食になって、結果的に央都の対策本部へ報告できる者はいなくなり、《赤黒の猫人》は対策本部から認識されない存在となる。
そして対策本部は央都まで襲撃してきた《赤黒の猫人》を、その時初めて認識する――自分達が《赤黒の猫人》を最初に発見していなかった場合は、恐らくそうなっていただろう。
自分達で手に負えるかどうか、怪しく思えてきた。ここはベルクーリ達がファナティオの鎮圧に成功して戻ってくるまで時間を稼ぎ、更にエルドリエ、デュソルバート、レンリの三人が揃うまで待ち、整合騎士全員を揃えたうえで改めて鎮圧戦に臨むべきか。
いや、《赤黒の猫人》にそれだけの隙があるとは思えないし、持久戦に持ち込ませてくれるくらいに攻撃力が低いという事もない。持久戦に持ち込もうとしたところで押され、結局潰されてしまうのがオチだろう。
やはり《赤黒の猫人》はこの場で自分達の手で倒すしかない。つい先程のファナティオの時のように、《EGO》使い全員の力をぶつけて、鎮圧し切るしかないのだ。そのためにはまず、リランや冬追の力を使って《赤黒の猫人》に隙を作らねば。
「リラン!」
キリトが指示を下すと、身構えていたリランが後ろ足で地面を蹴り上げて飛び、《赤黒の猫人》へ突進した。空中で全身の筋肉を硬化させたうえで右手を振り上げ、《赤黒の猫人》に接敵したタイミングで渾身のパンチをお見舞いする。
これまであらゆるボスモンスターを跳ね除け、この世界に来てからも魔獣や《EGO化身態》を退けてきた一撃がぶちかまされ、どぉんという轟音が鳴り響き、腹まで震動が伝わってくる。
手応えが来たのと同時に《赤黒の猫人》から悲鳴のような声が上がる。《EGO》による一撃よりかは効果は薄いかもしれないが、かなりの打撃が入ったようだ。やはりリランくらいの大質量の存在の衝突を受ければ、強大な力を持つ《EGO化身態》でも
勝機はある。先程即席で組み立てた作戦の通り、リランと冬追に攻撃を続けてもらい、《赤黒の猫人》に隙を作ってもらう。そしてできた隙に、《EGO》による一撃を喰らわせて確実に《EGO化身態》の天命を――。
「「キリト!!」」
思いかけたその時、不意にシノンとルコの叫び声が聞こえてきた。はっと我に返ったその時に、キリトは《赤黒の猫人》に向き直った。
思わず「え?」と言ってしまった。《赤黒の猫人》の尻尾が一瞬のうちに変化していた。長さ自体はそこまで変わっていないものの、その太さは二倍以上となり、剣山のように無数の鋭い棘が飛び出している。
どう見ても、邪魔する存在の何もかもを薙ぎ払い、叩き潰すための形をしていた。
「リラン、避け――」
キリトがリランに号令を飛ばしたのと、《赤黒の猫人》がその場で尻尾による薙ぎ払いを繰り出したのは同時だった。
一瞬遠くなった意識が、すぐさま襲ってきた全身の激痛で取り戻された時、キリトはシノンとルコ共々宙を舞っていた。
次回『誓いと約束』