キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

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09:過去の光景と進展

 

「それでいいっていうのか。今言った通り、嬢ちゃんの母親であり、ダハーカの師である暗黒騎士を()ったのは、オレなんだぞ」

 

 その途中で聞こえたベルクーリの言葉に、シノンとリランと一緒に目を見開いた。

 

 人界へ飛び込んで来てからすぐに聞かされたドロシーとダハーカの話を思い出す。確か、ダハーカの師匠であり、ドロシーの母親である暗黒騎士は、人界の戦士達のいずれかに討たれて死亡したとの事だ。

 

 その戦士達というのが誰の事なのか、多少疑問に思っていたが――まさかベルクーリがそれだというのか。

 

「お前さん達、本当にそれでいいのか。今からやろうって言うんなら、オレは拒まねえぞ。命の保証はできないが」

 

 そう告げるベルクーリの背中から、すぐにでも戦闘態勢に移ろうとしている雰囲気が感じられていた。あの二人と殺し合うつもりでいるのだろう。

 

 拙い、止めなければ――と思ったその時に、行動を起こしたのはダハーカだった。

 

「お忘れですか。拙者達は和平の使者です。そのような役目の者達が、どうして貴方に剣や銃を向けられましょう」

 

 ダハーカは槍も銃も抜こうとはしていなかった。並んでいるドロシーも同様だ。どちらもベルクーリと殺し合う気はないのだと、キリトは判断した。

 

「……お前さん達は、それで辛くないのか」

 

「つらいのは拙者や妹だけではありませぬ。拙者も、妹の母も、きっと貴方の友を、忠臣を討ったでしょう」

 

 ダハーカからドロシーが引き継ぐように続ける。

 

「ずっとその繰り返しなのです。ベルクーリ殿……小官は……いいえ、兄も……もううんざりしているのです。違いがある者同士の、互いを理解しない、理解しようとせずに排除しようとする不毛な戦いに、心底うんざりしています。子供の頃から、ずっと……」

 

 そう話すドロシーの言葉には重みがあった。具体的にどういう経緯を辿ったが故にそうなったのかまではわからないものの、ドロシーとダハーカは争う事に疲弊(ひへい)しきっている。もう争う事は沢山だ。そう思っているのがまざまざと感じられた。

 

「戦争を止めて、和平をもたらしましょう、ベルクーリ殿。拙者も妹も、精一杯ご協力いたします」

 

「小官と兄は、連れのサライや、キリト達のところに居るルコが大きくなる頃には、戦に怯える事のない世界になっていれば良いと、願っているのです。本当に、心の底から……」

 

 二人の事を見つめて、ベルクーリは静かな声で「そうか」と答えた。その時既に臨戦態勢の気配は消えていた。ベルクーリの戦意がなくなった事に気が付いたのかは定かではないが、二人は頭を下げた。

 

「はい。お時間をいただき、ありがとうございました」

 

「お話を聞けて、良かったです」

 

 ダハーカとドロシーの兄妹――本人達から聞いていないがもう確証を得た――は礼を言って、前線拠点の商店街方面へ歩いて行った。その場に残されたのはベルクーリただ一人と、話を盗み聞きしていた自分達三人。

 

 今の話は聞いてよいものだったのだろうか。いや、ダハーカとドロシーの真意を聞けたから良しとするべきか。だとしても本人達から直接許可を取って聞いたわけではないから、やはり良くないか――。

 

「キリト!」

 

 ふと思考を巡らせようとしたその時、不意に届いてきたシノンの声でキリトは我に返った。すぐさま目の前を見たが、そこで驚かされる事になった。あの兄妹と重要な話をしていたベルクーリが、いつの間にやら眼前にまでやってきていたのだ。

 

「お前さん達」

 

「どぅわわわわわわわ! べ、ベルクーリさん!」

 

 思わず間抜けな声を出してキリトは後退(あとずさ)りする。直後、同じような反応をしたリランが弁明しようとした。

 

「ええとだな、ここに来たらたまたまお前達が居て、その話が聞こえてきてしまってだな。しかもその内容がお前とあの二人が……」

 

「待て待て待て! そこまで話してどうする!」

 

 びっくりしてリランを制止しようとしたそこで、ベルクーリは溜息交じりに応えた。

 

「聞いてたんだな。喋りたきゃ、他の奴に喋っても構わないぜ」

 

「喋らないわよ。途中までしか聞けてないし、内容も内容だったから……」

 

 シノンがキリトの代わりと言わんばかりに首を横に振ったところ、ベルクーリはまたしても溜息交じりで「そうか……」と言った。随分(ずいぶん)と久しぶりに聞いた、重々しい溜息だった。

 

「皮肉なもんだ。暗黒界から和平の使者としてやってきた二人が、昔オレが()った暗黒騎士の弟子と娘だったなんてのは。しかも、仇討ちをしたいのかと思えば、死に際どうだったか知りたいだけだと言う。斬りかかってくれた方が、マシだったんだがな……」

 

 その言葉に目を見開いたが、そこでベルクーリは口を閉ざし、前線拠点の商店街方面へと姿を消していった。直後にキリトの脳裏に思い浮かんだのは、今しがたベルクーリと重要な会話をしていたドロシーとダハーカだった。

 

 ドロシーの母親であり、ダハーカの師匠であったとされる暗黒騎士をその手で殺めたのはベルクーリ。二人はそれぞれ母と師の仇のすぐ(そば)で、旅をしている。それも、自分達の都合でである。心配にならない方が難しかった。

 

 ドロシーの事は深堀するなとダハーカから言われていたが、今はきっとそのダハーカも一緒である。きっと深い事情を聞いても大丈夫なはず――思い立ったキリトは二人に声をかけ、ドロシーとダハーカの向かっていった方を目指して足を運んだ。

 

 粘菌達が巣食う地面の広がる一帯を進んでいくと、少し高い丘のようなところに居るドロシーとダハーカの姿を見つけた。丁度、キリト達のいる方角は彼女達から見て背後に位置しており、二人はこちらがやってきている事に気付いていないようだった。

 

 別に奇襲を仕掛けるつもりはないが、なるべく静かに歩み寄り、声が届きそうなところまで近付いたところで、キリトは声をかけた。

 

「ドロシー、ダハーカ」

 

 背後から声をかけられるのだ、二人揃って驚くのではないかと思っていたが、キリトの予想に反して二人は驚きもせずに向き直ってきた。

 

「キリト、それにシノンとリランも。どうかしましたか」

 

 言葉を返してきたのはドロシーの方だった。二人とも素知らぬ顔をしているが、あちこちが引きつっているように感じられるものとなっている。無理をして平常を取り(つく)っているのは確かであろう。今はあれこれ聞ける状態ではなさそうだ。

 

 色々と考えを巡らせるキリトを見つめ、ダハーカは腕組をした。

 

「何か用があったんじゃないのか。そうではないならば……少し、二人で話がしたくてだな」

 

 そう告げてくるダハーカも無理して平常心で居ようとしているような表情をしていた。どちらもつらい思いをしているのは間違いなかった。

 

「いや、用事があってお前達のところに来たのだ」

 

 そこで口を開きつつ、キリトと二人の間に入ったのはリランだった。彼女は《MHHP(エムダブルエイチピー)》という人間の精神を男女問わず治療する事を使命としているAIであるために、精神的に弱っていたり、無理をしている人間が居たりすると真っ先に気が付き、治療しようとする。

 

 アンダーワールドに来てからはあまり見なくなっていたため、もうやらなくなっただとか、そんな余裕さえもなくしてしまったのではないかと若干危惧していたが、どうやらそうでもなかったようだ。

 

「お前達、理由は言いたくはないであろうが、少し落ち込んでおるな」

 

 ダハーカは図星を突かれたような苦い顔をして、ドロシーは俯いた。

 

「我らもそういう時はある。何せ我らは別世界の存在であるからな。こちらの世界でぶつかる壁というものは如何せん多いものだ」

 

 リランの言葉を聞くなり、ダハーカとドロシーはかっと顔を上げて目を見開いた。恐らくも何も、リランの言った『別世界の存在である』という事に驚かされたのであろう。いつ、ベルクーリ達の時のように自分達の身の上話をするか迷っていたが、今くらいしか説明するのに適した時はないだろう。

 

 チャンスを掴んだような気になったキリトは、シノンとリランと共に、己の事情を話した。ここではない世界、現実世界(リアルワールド)というところから来た異世界人であるという事、しかしドロシーやダハーカとは出身地が違う程度であり、そこまで重く考えたりする必要はないという事を、できる限り受け入れてもらえるように。

 

 話し始めの時はひどく驚いていた二人だったが、話が終わる頃には落ち着きを取り戻し、こちらの事情を受け入れてくれたようだった。

 

「そうだったのですか……三人だけではなく、アスナ達も、こことは違う世界から来ていた……」

 

 ドロシーの(つぶや)きにリランは(うなづ)く。

 

「にわかには信じられぬかもしれぬが、事実なのだ。しかし、そうであるが故の悩みというものがあってな。こちらの者達に口で説明できない事が多くて、悩まされるのだ。それで疎外感を感じてしまう事も多々あって、な」

 

 そこでキリトはリランに加わった。

 

「でも、そういう時は大抵、《こっち》の友達が何も言わずに隣に居てくれたりするんだよ。そうされると、最初はどっか行ってくれてもいいのにって思うんだけど……段々と、でも俺には傍に居てくれる友達が、仲間が居てくれているんだなって……」

 

「知らない世界に居るけれども、一人じゃないんだって思えて、元気になるのよ。アスナ達が来る前は特にそうだったわ」

 

 シノンが優しげな声で話すと、ドロシーとダハーカは目を丸くした。まるで互いしか味方が居ないかのように思っている二人にとって、自分達の話は響くものがあったらしい。

 

「だから、ドロシーもダハーカもそうなったらいいなと思ってさ。今、俺達はここに居たい。勿論、つらい事や苦しい事を、話したくなったら俺達に言ってほしい」

 

 キリトに言われるなり、ドロシーが少し戸惑っているような様子を見せた。

 

「……この前、小官は君達と仲良くしないと言ったのに、そんな、友達みたいな事……するんですか……?」

 

「私達が勝手にやってる分にはいいでしょう?」

 

 シノンが言っても、ドロシーとダハーカはあまり納得できていないようだった。彼女達の事情を話してもらえそうにはないが、キリトにとってはそれでもよかった。

 

 ふと空を見上げてみると、晴れていた。瘴気の影響なのか、それともソルスの光が届くようになっているのか、白みがかった空が広がっていて、雲がぷかぷかと浮いている。そのうちの一つを見つめてみたところ、とある存在が頭に思い浮かんできた。

 

「あ。見てみろ、皆。あの雲、なんだかカイナンに見えなくないか」

 

「え?」

 

 キリトに誘われるようにして、皆が空を見上げて、同じところを見つめる。キリトは空を指差し、雲を縁取るようになぞった。

 

「あれだよ、ほら。なだらかになっているところは顔で、螺旋を描いているのはカイナンのあの腹」

 

 シノンとリランは「えー?」や「んー?」と言っていた。どうにも伝わっていないらしい。しかし、ドロシーとダハーカがそれぞれ「ぐっ」と言って何かしらの反応を示したのはわかった。

 

「あいつ自分は弱いって言ってるくせに、やたらすばしっこく動き回れるし、誰よりも走るの早くて、筋力もある。そのくせ戦闘になりそうになれば一目散に逃げ出して、俺とかに腹をぶつけて吹っ飛ばすんだよな」

 

 これまでのカイナンの行いについて思い出しながら、素直に感じる事を喋っていくと、ドロシーとダハーカがまたしても何かしらの反応を示していた。それを声で気が付き、キリトは向き直る。

 

「弱かったらできないと思う。あいつは強い。いや、あいつの腹は強い。間違いないよ」

 

 シノンとリランが「ぷふっ」と小さく笑った。間もなくして、ドロシーとダハーカもその肩を揺らした。全員揃って笑っている。

 

「……笑ってる?」

 

 一応尋ねてみたところ、ドロシーとダハーカは振り向いてきた。どちらも眉を八の字にしつつ、口角が上がっている。

 

「だって、君が変な事言うから……!」

 

「そんな事言われたら、誰だって笑ってしまうだろうに……!」

 

 ドロシーとダハーカはもう一度肩を揺らして笑っていたが、やがて落ち着きを取り戻した。そこで口を開いてきたのはダハーカの方だった。

 

「……ここだけの話、拙者はカイナンとの付き合いもそれなりに長いのだが、あいつの腹に吹っ飛ばされた事は結構な回数あってな。しかもその時の力が想像できないくらいに強くて……地面に打ち付けられて、痛かったものだ」

 

「小官もです。小官もカイナン殿のお腹に吹っ飛ばされた事ありまして……その時は転ぶしかないんです」

 

 ドロシーまで同じような事を言うものだから、脳内にその時の光景が想像されてしまった。力が強いくせに逃げ出すカイナンの腹に吹っ飛ばされるダハーカとドロシー。次の瞬間には、キリトは笑いを堪えるのに力を入れていた。

 

「二人もなのか……うくくく……」

 

「はい。鎧を着ているのに、小官の方が押し負けるなんて、おかしいって思ってたんですよ。キリトもそうだったんですね」

 

「あぁ、そうだ。やっぱりあいつの腹は強いんだよ」

 

 ドロシーの言葉に答えたところ、シノンもドロシーも「あはは!」と笑い、ダハーカも「くくくくく」と下を向きながら笑った。先程から見えていた、つらそうな雰囲気は大分薄まり、ドロシーもダハーカも気が楽になっているようだった。

 

「そうだ、二人とも。そうだとも」

 

 リランの言葉にドロシーとダハーカは目を丸くした。リランは微笑みながら続ける。

 

「我らの前で、つい今のようにつらそうにしている必要はないのだ。我らは既に仲間同士だ。肩の力を抜いて笑い合う。そんなふうにして良いのだ」

 

 二人は「あ……」と小さく言った。リランに言われた通り、肩の力を抜いて自分達と接しているという事に気が付いたのだろう。彼女達はずっと力が入りっぱなし、緊張しっぱなしだった。

 

 そんな中でベルクーリとあのような話をしたのだから、余計に肩に力が入ってしまっていた事だろう。そしてその力を抜いてもいけないとも思っていたようだが――そうではないのだ。

 

 キリトはその事を教える。

 

「二人とも、もう緊張する事はないよ。俺達は一緒に旅をしている仲間同士だ。お互いに和平の道を探っている者同士だよ」

 

「キリト……ですが」

 

「これから起こるかもしれない戦争も、俺達が力を合わせれば、絶対に阻止できるはずだ。ドロシーもダハーカも、二人の上官だっていうシャスターさんやリピアさん、その他の和平派も、今は戦争をやりたがっている推進派も、気兼ねなく俺達と話し合ったりできるようになる。俺はそういう未来が来るって信じてるんだ。まぁ、これは何度も言ってるけどな」

 

 夢見ている光景を想像しつつ、キリトは二人に手を差し伸べた。

 

「だから、もう畏まったり、固くなったりする必要はないぜ。俺達はもう、仲間同士なんだから」

 

 ドロシーとダハーカはキリトの差し伸べた手を受けはしなかったが、代わりに微笑みを返してくれた。その眼差(まなざ)しから感じられる信頼が、どこか大きくなっている気がした。

 

 その十数分後に、カイナンがサライと共にやってきた。買い出しが終わったらしく、そろそろ交易拠点に戻ろうという話をしてきたのだが――それより前にしていた話の内容があまりにもあれなものだったせいか、キリトはカイナンの声を聞いた時から、笑いを堪えるのに必死になっていた。それはキリトだけではなく、シノンとリラン、ドロシーとダハーカもそうであり、全員でカイナンを見て笑わないようにしていた。

 

 傍から見れば不可思議極まりない光景だったものだから、当然というべきか、カイナンとサライは首を傾げながらキリト達を見ていた。

 

 

 

          □□□

 

 

「ドロシー、どうしたの!?」

 

 びっくりした様子で、師匠が玄関の方へと走っていった。ダハーカもその後を追って走り出す。

 

 すぐさま、師匠を驚かせた原因を見つけた。師匠の娘であり、ダハーカにとっては妹に等しい人物であり、この前六歳になったばかりのドロシーだった。

 

 ドロシーは玄関に着くなり腰をその場に落とし、泣きじゃくっていた。それ自体はダハーカも結構な回数見た事がある光景だったが、今回は違った。

 

 ドロシーの着ている服が、ところどころ乱れていたのだ。まるで強い力に引っ張られ――あまり考えたくないが、無理矢理脱がされそうになった後のようだった。明らかに普通ではない出来事に見舞われた後にしか思えないドロシーの姿を目にしたからこそ、師匠はあんなにも驚いて駆け付けたのだ。

 

 四つ年下の妹の酷い姿にダハーカは自覚できるくらいに目を見開かせて駆け寄り、姿勢を低くした。

 

「ドロシー、何があったんだ」

 

 ダハーカの問いかけに、ドロシーは涙声で嗚咽を混じらせながら答えた。酷く怯えた泣き顔だった。

 

「ちがうって……わたしだけ、はだのいろが、ちがう……《アメンク》だって……」

 

 そこからのドロシーの話に、ダハーカは更に目を見開かされた。

 

 家の外に出ていたドロシーは、楽しそうに遊ぶ子供達を見つけ、その仲間に加わろうとした。ところが子供達はドロシーを見るなり、「こいつ、最近見つかったっていう人族の《アメンク》じゃねえか」などと言い出したという。

 

 「ベクタ様に従わない《アメンク》のくせに、母親が暗黒騎士の偉い人なんてむかつく」「こいつは将来ベクタ様に叛逆して殺すつもりなんだよ」などと、子供達はドロシーの思っていない事を次から次へと言い、ドロシーを責めた。

 

 そして「《アメンク》の肌ってどんななのか見せろよ」などと言って、ドロシーの服を強引に脱がそうとしたらしい。ドロシーは怖くてたまらなくなり、子供達の拘束を何とか振り解いて、家まで全力で走ってきたのだそうだ。

 

 悪罵をぶつけられたどころか、服を脱がされそうになったのだ、ドロシーの怯え方と泣き方にダハーカは深く納得できていた。同時に、ドロシーにそんな仕打ちをした子供達に激しい怒りが込み上げてくる。

 

 暗黒界は《力の掟》のせいで、力こそが全てであり、気に入らない奴は叩きのめせといったような教育を受けている者がほとんどだ。それは仕方がない事であると師匠から教えられているが、それでも子供達がドロシーにやった事は許されない事だ。相応の報いを受けさせなければならない事だ。

 

 ダハーカは怒りのままに立ち上がり、外へ向かおうとした。

 

「待ちなさい、ダハーカ」

 

 ドロシーと同じ雪のように白い髪と――ドロシーとは異なる浅黒い肌をした暗黒騎士である師匠に、ダハーカは振り返って反論する。

 

「どうしてですか! ドロシーをこのような目に遭わせた者達に、何もするなというのですか!?」

 

 師匠は泣きじゃくるドロシーを抱き締めながら俯いていた。その沈黙がダハーカの言葉を肯定していた。ドロシーを苛めた奴らには何もするなと言っている。当然、それはダハーカには呑み込めない話だった。

 

 その事を伝えようとしたところ、師匠は先に言葉を発した。

 

「……ドロシーと同じ《アメンク》のあなたが行って、やり返してしまったら、その子供達はもっと酷い事をするようになるわ。子供達だけじゃない。大人達も加わって、《アメンク》に酷い事をするようになってしまうわ。そうなればもう、あなた達の命も危うくなってしまう……」

 

 自分がこの怒りのままに突撃して、子供達を痛め付けた後に飛んでくるであろう報復。その光景が容易に想像できてしまって、ダハーカは振り上げていた拳を下げた。

 

 納得できない。どうして自分達だけが良いようにやられるしかないというのだ。

 

「私のせいなのよ……私が……あの人を愛してしまったから……ドロシーが……《アメンク》になってしまった……」

 

 後悔の念を強く抱いた師匠の声が届いた直後に、視線を感じた。誘われるように向き直ると、ドロシーがこちらを見つめているのがわかった。紫と深緑の不思議な色合いの瞳には、怯えと疑問の光が宿っていた。

 

「にいさん……なんで……《アメンク》なんてものがあって……なんで……わたしたち、《アメンク》なの……?」

 

「――ッ!」

 

 胸を潰されるような感覚に襲われて、ダハーカは飛び起きた。心臓が音が聞こえてきそうなくらいに早く鼓動を刻んでいる。

 

 それを中心に置く身体を見る事で、ダハーカは現在の姿に戻っている事を認知した。どうやら今のは夢であったらしい。

 

「……はぁ」

 

 ダハーカは手で顔を覆った。どうして今になってあんな過去を再現したような夢を見たというのだろう。これからキリト達人界の和平使節団と共に会談へ臨むというのに、幸先が悪いったらありはしない。

 

 この和平会談は、暗黒界の今後を決める重要な会談だ。これが成功すれば、戦争を防げるのは勿論、自分達の境遇だって変わるかもしれない。いや、変えるために会談を成功させるのだ。

 

 ダハーカは深呼吸をして立ち上がり、外していた鎧を再度装備した。そして部屋から出ようと扉を開けたその時に――。

 

「ダハーカさん!!」

 

「ぐッ!?」

 

 何かがダハーカに衝突してきた。何か妙に弾力があるようでないような質感のそれは、強い力でダハーカを後方へ押し戻した。あまりに突然すぎる出来事に対応できず、ダハーカは尻餅をつく。

 

「ややっ、大丈夫ですかダハーカさん!」

 

 少しだけ野太い聞き慣れた男性の声。図々しいところもあるけれども、聞いていてどこか安心できる声。下半身に痛みを感じながら顔を上げたところ、その声の持ち主が居た。カイナンだった。

 

 その姿を認めたダハーカは今の一連の出来事の元凶を察した。自分を弾き飛ばしたのはカイナンの腹だ。まさか朝起きてすぐにカイナンの腹にぶっ飛ばされるなんて、今日は恐らくついていない。

 

「カイナン……今のは挨拶代わりか? それにしては随分と失礼じゃあないか」

 

 いくらなんでも今のは酷いだろうが――そう言おうとしたダハーカよりも先に、カイナンは返答をしてきた。

 

「ダハーカさん、至急準備をしてください」

 

「え?」

 

 カイナンは一枚の紙をダハーカに差し出してきた。文字が書かれている。通達もしくは手紙のようだ。

 

「大教皇様からの直々の通達です。暗黒騎士さん達が和平使節団の使者さん達を受け入れる準備ができたので、オブシディア城へ来てほしいとの事です!」

 















――くだらないネタ オリキャライメージCV――

 子供ダハーカ⇒ 藤原夏海さん
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