キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

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 ――報告――

 『06:アンダーワールドの神々』の内容のごく一部を更新しました。お時間がある時に読み返していただけると幸いです。


11:《まつろわぬもの》

「《アメンク》とは、わかりやすく言えば、《突然変異体》だ」

 

「《突然変異体》?」

 

 キリトは思わず首を(かし)げた。その言葉自体がわからないわけではないが、いきなり出されてきてもしっくりこない。

 

 そもそも人族、ゴブリン族、オーク族、ジャイアント族、オーガ族と分けられているとしても、結局のところ根底は人間である事に変わりはないのだ。そんな人間に《突然変異体》がいるなんて話は、現実世界でもアンダーワールドでも聞いた事がない。

 

「お前達はドロシーとダハーカとサライと共に旅をしてここまで来たのだろう。ならば、ダハーカの事をよく知っているはずだ」

 

 シャスターの問いかけにシノンが(うなづ)く。

 

「えぇ。彼はとても良い人ね。一見怖そうな見た目はしているかもだけれど、妹思いの良いおにいさんだと思うわ」

 

「それに、あいつは戦いの時になると、見事な槍(さば)きと短銃の扱いを見せつけてくれたものだ。あれは暗黒騎士の中でも大分上位の方にいるのではないか」

 

 リランの言葉を聞いたキリトも頷く。

 

 確かにダハーカはオーガ族という事もあってか、多少強面(こわもて)ではあるものの、とても真面目で気配りもそれなりにできて、戦闘時の実力も申し分ないくらいだった。もしクィネラがダハーカの活躍を見たら整合騎士にスカウトするのではないかと思うくらいに、優秀な人物であると言えた。

 

 そういう部分が良い意味で目立つから、ダハーカを(さげす)む暗黒騎士が居る事には違和感しかない。

 

「そう、ダハーカはそうなんだ。俺の目から見ても優秀で、暗黒騎士という立場に居てくれている事を(ほこ)りに思うくらいの奴だ。だが、他のオーガ族はどうだ?」

 

 シャスターの問いかけに三人で首を(かし)げると、シャスターは話してくれた。

 

 ダハーカが該当する亜人族であるオーガ族は、まさしく人狼という姿をしており、ジャイアント族よりかは劣るものの、人族よりもずっと強い腕力と膂力(りょりょく)を持っていて、戦闘能力も高い方に入る。しかしその反面頭の回転が鈍く、言葉を流暢(りゅうちょう)に話す事もできないのだという。

 

 その話の後半部分に引っかかりを覚え、キリトは質問をした。

 

「頭の回転が鈍くて、言葉を流暢に話せない? いやいや、ダハーカはすごく流暢に話してたし、頭の回転もすごく良かったぞ」

 

「……ダハーカ以外にそんなオーガ族は居たのか?」

 

 シャスターの何度目かわからない問いかけを受けたキリトははっとする。まだ交易街に居た時にダハーカ以外のオーガ族と話をする機会はそこそこあった。

 

 こちらの事を警戒しているのかそうではないのかわからない雰囲気を(かも)し出す彼らはと言うと、決まってルコのようなたどたどしい喋り方をしていた。

 

 その時はたまたまここら辺に居るオーガ族がそういうふうな特徴を持っている者達なのではないかと思っていた。しかし、シャスターからの説明でその仮説は完全にひっくり返った。

 

「まさか、ダハーカがあんなに流暢に喋れて、強いのは……!」

 

 キリトの疑問に、シャスターは溜息で答えた。

 

「……破壊と敵対勢力の制圧を好む性質を持つ種族であるはずなのに、破壊を好まない心優しいジャイアント。

 略奪と殺戮(さつりく)を好む種族のはずなのに、計算高く略奪よりも穏便を好むゴブリン。

 全体的に臆病で戦いが得意でない者が多い中、逆に勇ましく、戦いが得意なオーク。

 頭の回転が早いために言葉を流暢に話せ、人族でも扱えない者が非常に多い銃すらも使いこなすオーガ。こういう、《その亜人族らしくない亜人》の事を、《アメンク》と総称するんだ」

 

 その種族によく見られる特徴が全く見られないどころか、真逆の性質や特徴を持っている。なるほど確かに、《突然変異体》と考える事もできるだろう。

 

 だが、そんなものはよくある事でないか。亜人族であろうと根本は人間であり、人間は全ての人間がそれぞれ異なった特徴や個性を持っている。それが当たり前だ。シャスターの口にしたその《亜人族らしくない亜人》だって、何人も居て当然であろう。

 

 (むし)ろ同じような特徴しか持ち合わせていない者しか生まれてこないのであれば、その仕組みの方が問題だ。

 

 そんな《突然変異体》であるとされるダハーカとドロシーを、暗黒騎士は声高に(ののし)っていたどころか、(みずか)らの言い分を正しいと信じて疑わない様子だった。どう見たって差別行為であるというのに。

 

「もしかしてそれって、差別階級とかそういうものなのか」

 

「……」

 

 シャスターは(うつむ)いて無言になっていた。その沈黙がキリトの言葉を肯定(こうてい)していた。ダハーカとドロシーは《アメンク》という差別階級の者。だから、暗黒騎士にあんなふうに言われていたのだ。

 

「なんか妙な話じゃねえか? オレも実際に見てきたが、ダハーカの実力は明らかに上位に居られるくらいの高さだった。もしかしたら、あのリピアっていうお前さんの婚約者と並ぶくらいに強いんじゃねえか。それなら、並の暗黒騎士はダハーカに決して逆らえねえだろ。この暗黒界じゃ、力の強い者が絶対で、力が弱い者は強い者の下に置かれるって掟があるんだからよ」

 

 ベルクーリの言い分にはキリトも頷くしかない。この暗黒界では支配神ベクタが定めたとされる《力の掟》により、弱肉強食の考え方が一般的になっている。今ベルクーリが言ったように、力の弱い者は力の強い者の下に置かれて、逆らう事は基本的にできないとされている。

 

 ならばあれだけの実力を持つダハーカが、どうして実力の低い暗黒騎士にあそこまで罵倒されるというのだろう。あれは明らかに《力の掟》を無視した言動ではないか。そう思ったキリトが尋ねるより先に、シャスターが言葉を発した。

 

「《アメンク》は暗黒界の言葉で、《まつろわぬもの》という意味だ」

 

「え?」

 

「俺達暗黒界の住人は例外なく暗黒神ベクタの支配下にある。その時の事はあまり考えたくないが、ベクタが暗黒界に再臨した時、俺達はベクタに思考を掌握(しょうあく)され、ベクタの意思に忠実になるとされている。そして暗黒界の住人達には、ベクタに支配される事は当然の事であるという考え方が染み付いているんだ。だからこそ、人界へ戦争を仕掛ける事を肯定している者が多い」

 

 その話はドロシーから聞いている。彼女にこの話を教えたのはシャスターなのだろうか。

 

「だが、《アメンク》は違う。《アメンク》はベクタが再臨したとしても、思考を掌握されず、その意思に従う事がないとされているんだ」

 

 キリトは目を見開いた。《アメンク》はベクタに従わない? そんな根拠はどこから出ている。

 

「それって本当なのか?」

 

「俺も直接この目で見たわけではないから、本当かどうかはわからない。それでも暗黒界で最も古くて有力だとされている歴史書には、まだ神々がこの世界に降り立っていた原初の時代、ベクタがその力で暗黒界の全ての種族を支配する中、その支配が通用しなかった亜人達が少数ながら見受けられたという記述がある。そしてそれらは、その種族らしからぬ特徴や特性を持っているというのが共通していたともあった。このベクタに《まつろわなかったもの》達が、後に《アメンク》と言われるようになった」

 

 暗黒神ベクタはラースの職員がアンダーワールドの内のダークテリトリーに降り立つ際に使うスーパーアカウントだ。スーパーアカウントとはアンダーワールドの調整を行うために使われるものだから、その力は確実で絶対的な効果を発揮するものでなければならない。

 

 そのはずなのに、スーパーアカウントの力が通用しない、つまりラースの職員達の調整が効かない亜人達が居た。

 

 このアンダーワールドといえど、《超強化改造型カーディナル・システム》で運用される電脳の仮想世界である。何らかのバグが存在していても不思議ではないかもしれないが――それを《カーディナル・システム》が見逃し続けているというのも考えにくい。

 

 どうして《アメンク》なんてものが存在しているというのか。思考を巡らせていると、ふと思い付いた事があった。

 

「ベクタは暗黒界の支配神だって話だな。もしかして、ダハーカやドロシーといった《アメンク》が、力の弱い連中にあんなふうに罵倒されたり蔑まれたりするのは、ベクタの支配を受けない人達だから……なのか?」

 

 キリトの疑問に、シャスターは頷いた。表情に悔しさが強く(にじ)んでいる。

 

「如何に自分達よりも力が強かったり、能力が高かったりしても、ベクタに従わないから、《アメンク》は《力の掟》の外に居る者達。支配神ベクタに叛逆(はんぎゃく)する者達。だから《力の掟》は適応されず、仲間だと思う必要はない。《アメンク》を蔑む連中の考え方は、こうであるようだ」

 

 シノンが「そんな……」と悲しそうに(つぶや)く。これもまた信仰の問題だ。暗黒界人達は暗黒神ベクタを信仰していて、その支配を受け入れる事こそが当然と考えている。

 

 そしてその支配を受けない者の存在は、忌々しいモノだと思ってもいる。いや、そもそも同じ暗黒界に生きる者同士という認識さえしていないのだろう。

 

 だからこそ、あの暗黒騎士は、例えダハーカが自身よりも強い上官であろうとも、あんな態度で平然と罵っていたわけだ。ベクタに従わない奴らは下で、ベクタに従う自分達は上。そういうふうに信じ込んでいる。

 

 自分達がこの話を切り出した直後にシャスターが溜息を吐いた理由がわかった。この問題の根深さも垣間見えた。

 

「そして各種族達は、自分達の住まう場所に《アメンク》が混ざっている事を許さない。だから《アメンク》だと判断できる者が居た場合、即座に追放する。例え小さな子供であろうと容赦なくな。暗黒騎士団と商工ギルドは、そういった居場所を理不尽に奪われた《アメンク》達を保護して、人員として雇っているんだ」

 

「ほぅ。暗黒騎士団と商工ギルドが《アメンク》達の受け皿になっているのか。するとダハーカもその一人か」

 

 ベルクーリの問いにシャスターは再度頷く。

 

「そうだ。今のところ暗黒騎士団にいるオーガ族はダハーカだけだが、ジャイアント族、ゴブリン族は結構な数がいる。《アメンク》達は総じて優秀だ。人族の騎士達よりも呑み込みが良かったり、身のこなしが優れていたり、単純に力が強かったりしてな」

 

 シャスターは自身の右手を見た。自身と《アメンク》達の力の違いを思い出しているらしい。

 

「それだけじゃない。《アメンク》達はダハーカを中心に、未だに俺でさえ使いこなす事のできていない短銃や長銃を使いこなす事ができる。人族の暗黒騎士を差し置いて、銃を使って戦う事ができるんだ」

 

 シャスターでさえできない戦い方をして、他の者達では取れない戦略を取って動く事ができる。そんな人材は人界でも暗黒界でも貴重で強力な戦力であろう。《アメンク》達を敵に回した時の光景は、キリトでも想像を拒否したくなるものだった。

 

「そして《アメンク》達は、ほぼ全員が戦争を支持しておらず、和平派に付いてくれている。……それについては本当に嬉しい限りなんだが、《アメンク》達のそういう部分もまた、周りの者達からの蔑みや差別を助長しているようだ」

 

 キリトは思わずほっとした。《アメンク》達はこちらと戦いたがっているわけではない。それがベクタの支配を受け付けないが故になのかはわからないが、とにかく強者であるとされる《アメンク》達が敵に回る可能性はぐっと減ってくれたと言えるだろう。寧ろ、頼もしい味方が付いてくれたのかもしれない。

 

 そう思っていたところ、リランがふと何かを思い付いたように言葉を発した。

 

「待て、シャスター。お前先程から、《アメンク》は亜人族にしか存在していなかったような話をしておらぬか。人族に《アメンク》はおらぬのか?」

 

 今度はシャスターがはっとしたような反応を見せた。日中の暗黒騎士の言葉がまたしても思い出される。あいつの言い分によれば、ドロシーこそが唯一無二の人族の《アメンク》だとの事だ。

 

 この話は本当なのか――そうキリトが切り出すより前に、シャスターは答えた。

 

「……そうだ。どうしてなのかは解明されていないが、《アメンク》は人族には存在していなかった。だから、《アメンク》は亜人族特有のものだとされていた。人族から《まつろわぬもの》は産まれないというのが共通認識だった。

 ……ドロシーが産まれるまではな」

 

 あの暗黒騎士の言葉は真実だった。キリトが目を見開く中、シャスターは話を続ける。

 

 ドロシーの母親は暗黒騎士団の騎士で、シャスターの盟友だった。実力はあと一歩くらいでシャスターに及ぶくらいであり、暗黒騎士団の次期団長になるのも時間の問題とまで言われていたらしい。それ故に彼女に憧れている者も多かった。

 

 だが、彼女はそんなある時、敵地である人界人の男との恋に落ちてしまった。暗黒界人と人界人の恋愛は絶対にあってはならない禁忌とされているものであった。それは彼女も深く認識しているものであったが、しかし彼女は構わずにその男との愛を育み続け、やがて交わって子を産むに至った。

 

 暗黒騎士達の憧れの的だった上位女暗黒騎士が敵地の男と恋に落ちただけに留まらず、子供まで産んだ。暗黒騎士達と、それ以外の彼女に憧れていた者達は落胆し、嘆き、すぐさまその感情を激しい怒りと憎悪に変えた。

 

 だが、《力の掟》の存在によって、女暗黒騎士に悪感情を向けて逆らい、罵るような真似はできず、その者達のそれは燻り続けていた。そしてその感情はやがて、一つの標的を見つける事になる。女暗黒騎士の産んだ娘――ドロシーだった。

 

 娘は肌の色が暗黒界人のそれではなく、暗黒界人の割に優しすぎるような性格をしていて、人族らしくない。その特徴は《アメンク》以外の何物でもなかった。ドロシーは人族で初めて産まれた《アメンク》とされ――暗黒界人達の悪感情の的になったのだった。

 

 あの女暗黒騎士は強いから逆らえないが、娘のドロシーならば弱いから問題ないし、何より《アメンク》だから同族扱いしなくてもよい。そういった邪な考えに至った者達に、ドロシーは悪意を向けられ続けてきたのだ。

 

 今でこそドロシーも弱いわけではないものの、子供の頃は臆病な部分が強く、周りの子供や大人が容赦なく悪意を向けてきても反撃できず、ただ怯え、逃げるしかなかった。そして悪感情を持つ者達はその退路を塞ごうとしてきた。

 

 しかし、如何に追い詰められようとも、ドロシーに悪意の刃が突き立てられる事はなかった。ドロシーの事を守る者が居たからだ。

 

「それが、ダハーカだったのか」

 

 そこまで沈黙して話を聞いていたキリトが問いかけると、シャスターはまた頷いた。

 

「まだ俺が暗黒騎士団団長になる前の話だが……ダハーカはオーガ族領の近くで彷徨(さまよ)っていたところを見つけて保護した子供だった。その後すぐに当時の団長と色々と話をして、後にドロシーの母親となる彼女の元に預けられる事になった」

 

 彼女は預かった子供であるダハーカを、《アメンク》であろうとも毛嫌いしたりせずに接し、将来優秀で強い暗黒騎士になってもらいたいと願い、様々な技術を教えた。

 

 ダハーカは彼女の教えを素直に受け止め、成長していった。周りの者達から《アメンク》と罵られても決して屈せず、強くなっていった。

 

 それから二年ほど経った頃に、彼女が人界人との男との恋愛の末に子を産んだ。ダハーカは師匠の産んだ子供であるドロシーを実の妹のように思い、悪意を差し向けて手を出そうとしてくる周りの者達から守り続けていた。

 

 ドロシーの母親がベルクーリに討たれて死んだ後、二人はリピアの経営する孤児院に預けられたが、やはりそこでも悪意をぶつけ、(いじ)めようとする子供が数人程度居た。まるで悪しき大人達を丸写ししたかのような子供達から、ダハーカは他の《アメンク》達と共にドロシーを守っていた。

 

 そんなダハーカとドロシーを、リピアとシャスターはずっと見守り、時に直接助け、導いた。やがて二人は強き暗黒騎士となり、現在に至っている。

 

「だが、今でも俺やリピアが居ない時を狙って、ダハーカやドロシーに悪意を向ける者は後を絶たない。暗黒騎士団が和平賛同派である事を認められない騎士達が、その不満をダハーカやドロシーといった《アメンク》達にぶつけるんだ。そんな行為に走った奴らは処罰すると何度も言って、実際に処罰しているというのに、全く収まる気配がない」

 

「見せしめもしたのか」

 

 リランのほぼ無作法な問いかけにシャスターは溜息を吐く。これで何回目の溜息だろうか。この問題の根深さとそれによるシャスターの心労の大きさの全体像が段々と見えるようになってきた感じがした。

 

「した。だが、それでも収まらないんだ」

 

「和平賛同派もそうなのか。お前と同じ我らとの和平を望む者達も、《アメンク》の事はよく思っていないのか?」

 

「いや、元からの和平賛同派の騎士達は《アメンク》達を好意的に思っている場合が多い。それでも直接罵ったり蔑んだりはしなくとも、毛嫌いしている者もいるがな」

 

 シャスターが見せしめに処罰をしても《アメンク》達への差別行為が止まない。ここまで来ると、和平賛同派であることを不満に思っている者達は、シャスターに従っているように見せかけて、実は最上位に居るベクタに従っているのではないかという気がしてくる。

 

 暗黒騎士団のボスであるシャスターが《アメンク》への差別行為や罵倒をやめろと言っても聞かないのは、《アメンク》がベクタに《まつろわぬもの》だから。暗黒界の主神に《まつろわぬもの》は、処罰されようが何であろうが率先して排除すべき――和平賛同派ではない暗黒騎士達の思考はこんなふうなのかもしれない。

 

 どうにも不安になる。もし人界と暗黒界の戦争が始まろうものならば、人界人と暗黒界人の激突よりも先に和平賛同派と《アメンク》と戦争推進派の殺し合いが始まるのではないか。

 

 そうなった時、シャスターとリピア、ダハーカとドロシーはどうなってしまうというのだろう。暗黒界のど真ん中にいる自分は、シノンや仲間達と共に、この人達を守る為に戦うべきなのか。

 

 それを未然に防ぐための会談が明日に控えているというのに、失敗した時の事ばかりが頭の中に浮かんできてしまう。

 

「だが、和平を結べたならば、きっとこんな事はなくなり、《アメンク》達だって迫害されずに生きられるようになるはずだ。俺はそう信じている」

 

 シャスターの言葉でキリトはふと我に返った。視線を感じてそちらを見てみると、シャスターがその目を向けてきていた。希望の未来を掴むべく戦う(たくま)しい戦士が宿す光が、瞳の中で(またた)いていた。

 

「和平使節団の者達よ。どうか、よろしく頼む」

 

 暗黒騎士団団長であり、暗黒将軍の別名を持つ偉丈夫(いじょうふ)は頭を下げてきた。自分達が背負っているのは、人界に生きる者達の未来だけではなく、目の前に居るシャスターのような人達や、そしてダハーカやドロシーといった《アメンク》達が生きられる未来。

 

 その未来を志す頼もしい味方を目の前にしたためなのかはわからないが、キリトの胸中に湧き出てきていた不安という名の黒い水はある程度干上がっていた。この人達のためにも、ドロシーやダハーカ達のためにも、和平会談の成功を勝ち取らなければ。

 

 キリトはそう思い直し、静かに深呼吸をした。

 

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