キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

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12:会談 ―暗黒界人との戦い―

 

          □□□

 

 

 《帝都オブシディア》に到着した翌日、ついに和平使節団は和平会談の時を迎える事になった。闇神ベクタが座るためにあるとされる玉座が奥に設けられている謁見の間にて、まずはキリトを含めた和平使節団のほぼ全員が招かれ、その後にダークテリトリーの種族や組織を束ねる長達、《十候》が招かれてきた。

 

 ダハーカとドロシーによると、ぼさぼさというよりも刺々しい金色の髪をしていて、ベルト以外上半身に服を身に着けていない、浅黒い肌の青年――どちらかと言えば少年に見えなくもない――が拳闘士ギルドのギルド長イスカーン。

 

 三つ編みにした金髪で、緑色の肌をしている巨人がジャイアント族族長のシグロシグ。

 

 ダハーカよりも攻撃的な雰囲気をしていて、首回りの青灰色の(たてがみ)らしき毛が目立つ上半身裸の狼男がオーガ族族長のフルグル。

 

 少々野性的で粗暴な雰囲気の民族装束を身に着けているのが山ゴブリン族族長ハガシと平地ゴブリン族族長クビリで、カイナンとほとんど同じような体型をしていて、見方を変えれば学者にも思える見た目の男が商工ギルドのリーダーであり、カイナンの上官であるレンギル・ギラ・スコボ。

 

 灰色のローブを身に(まと)い、フードを深く被っている事で顔がよく見えない青年らしき男が暗殺者ギルドのリーダーであるフ・ザ。

 

 イスカーンとシグロシグと同様の金髪で、その種族にしては整った顔をしているのが特徴的なものの、随分(ずいぶん)とこちらを鋭い目で睨み付けてきているのが――ダハーカの友人であるというオーク族族長のリルピリン。

 

 そして、キリト達と昨日色々と話をした暗黒騎士団団長のビスクル・ウル・シャスター。この九人が大きなテーブルを挟んだ向こう側に並んで立った。

 

 いよいよ和平会談が始まる――と思った直後に、キリトは違和感を覚えた。《十候》はその名の通り十人居なければならないが、一人足らない。イスカーンからシャスターまで数えたところ、暗黒術師ギルドのリーダーであるとされるディー・アイ・エルが居なかった。

 

 そいつは今どこに居るのだろうか。まさか遅刻か? こんな重大な会談に遅刻しているのか?

 

 そんな事を思っていたその時だった。

 

「ごきげんよう、お集まりの皆さま方」

 

 出入り口の方から声が届いてきた。まるで丹精込めて作られた楽器の奏でる優美な音色を連想させる少女の声色。耳に入れた途端心地良さが胸を満たして来ようとしてくるものの、同時に妙な寒気が背筋を這い回ってくるような感覚に襲われて正気に戻るような声。

 

 キリトはその根源を探そうとして振り向いた。こちらに向かって歩いてきている二つの人影を見つけ出す。

 

 片方は、その浅黒く美しい肌を全面的に見せ付けようとしているような、やたらと露出度の高い服装を着ている、ウェーブのかかった白銀の髪と、水色の瞳と口紅をしている女性。

 

 自身を目にした男を全員骨抜きにするつもりでいるかのような妖艶(ようえん)な雰囲気がこれでもかと出ているが、その中には獲物を探し狙っている獰猛な獣のオーラも混ざっている。恐らくこの女性が暗黒術師ギルドのリーダーであるディー・アイ・エルだろう。

 

 そのディー・アイ・エルを護衛のような立ち位置に就かせて歩いている、もう片方の人影の正体は少女だった。ユイくらいの背丈しかなく、幻想的な雰囲気を(かも)し出す白をアクセントにした黒色の西洋装束――現実世界の日本でいうところのゴシック・アンド・ロリータという言葉から連想される服装に身を包んでいる。

 

 腰まで届くくらいに伸ばした髪は絹のようにさらさらとしているが、色は全てを呑み込む闇のように黒い。そして何より目を向けてしまう驚くべき点は、その頭の左右から竜のそれを思わせる流線形の黒い角が一対生えている事だった。

 

 そういう装飾品なのではないかとも思った。しかし、どんなに注意深く確認してもルコのように肌から直接生えているようにしか見えなかった。

 

 その瞳は金色と橙の中間のような色をしていて、思考を読み取る事ができないような妖しい目つきをしている。あのアドミニストレータにさえ、膨大な悪意と支配欲を抱く悪女であるというのを見るだけで把握できる明確なわかりやすさがあったが、この少女はそういうものが全くない。完全なる得体の知れない存在だ。

 

 その少女がこちらに向かって歩いてきている事が受け入れがたい。できる事ならば、近付いてくる少女から逃げるまではいかなくとも、距離を取りたかった。何なんだ、あの(むすめ)は。

 

「大教皇様……」

 

 対岸にいるドロシーの零した言葉にキリトは目を見開いて向き直る。

 

 《大教皇》。その名前は既に何度か聞いている。かつてダークテリトリーから闇神ベクタが去った後、その名代として姿を現し、ダークテリトリーの者達に知恵と技術を授けたとされる存在の今の名称が《大教皇》だ。

 

 そしてその大教皇は、人界の管制者として現実世界から派遣されてきたAIであるクィネラ同様に、このダークテリトリーの管制者として降り立ったAIである可能性が高いとも言われていた。

 

 それらの話を聞いた後、大教皇とはどのような人物なのかと気になっていた。大教皇なんて言われるくらいだ、知的で威圧的で老賢者ともいうべき姿をした男ではないかと思っていたが、現実はそんな予想の斜め上を行っていた。

 

 キリトは声量を抑えて(つぶや)くように言う。

 

「大教皇……!? あの女の子が大教皇なのか……!?」

 

「そうだ。俺達《十候》を束ね、暗黒界に多大なる恩恵と発展をもたらし続けている、暗黒界の頂点だ」

 

 小声でシャスターが答えた。驚くべき事に、やはりあれが大教皇で間違いないらしい。老人でも老婆でもなければ老賢者でもなく、ゴスロリ姿の美少女。

 

 これまで実に様々な衝撃的な出来事に出くわし続けてきたので、ちょっとやそっとの事では動揺したりしない肝が手に入っていた。だが、今回はあまりにも予想外過ぎて動揺するしかなかった。

 

「遅かったな、ディー・アイ・エル。普段は遅刻など一切しないというのに」

 

 シャスターが近付いてくる大教皇の側近らしきディー・アイ・エルに声をかけるが、そこには嫌な気持ちが多分に含まれているのが感じられた。彼は随分とディー・アイ・エルの事を嫌っているらしい。

 

 まだ話をしてもいないというのに、何故だかディー・アイ・エルがシャスターを中心とした和平派に普段から喧嘩を売りまくっているところが容易に想像できてしまう。

 

 それに、昨日のサライとリピアの話を思い出してみたところ、サライとドロシーとダハーカは人界まで来る際にディー・アイ・エルの襲撃を受けたという内容だった。そこから考えるに、ディー・アイ・エルは危険人物だと認識して良いようだ。

 

 そんな妖艶さと挑発を隠さない雰囲気のディー・アイ・エルはというと、ふふんと笑った。

 

「ごめんなさいねぇ。大教皇様も会談に参加しなきゃだから、色々準備があってね」

 

 確かに、ダークテリトリーの行き先を決める会談にダークテリトリーの最高権力者が参加しないなんて話はない。その最高権力者である大教皇が参加するに当たって、然るべき準備というものは必要であろう。

 

 ディー・アイ・エルの言い分は特に間違っていないのだが、何だか嫌な気持ちになってくる気がするのは、彼女がずっと挑発態勢であるせいなのだろうか。いずれにしても、あまり長々と話していたいとは思えなかった。

 

 そんなディー・アイ・エルを付き添いにしているらしい大教皇は、シャスターへ顔を向ける。

 

「シャスターさま、どうかディーさまを怒らないでくださいまし。ディーさまはただ、わたくしの準備を手伝ってくださっただけなのですから」

 

 大教皇の言葉を聞いてもシャスターの不満そうな顔はそのままだった。ディー・アイ・エルが「そうよ」と言わんばかりの表情をしているせいだろう。直後、大教皇はシャスターからキリトの方へと顔を向けてきた。

 

「あなたさま方が、人界からやってきたお客さま方ですわね?」

 

 キリトは思わず背筋をびくりと言わせた。まさか大教皇が声をかけてくるとは思っておらず、応対する言葉など何一つ考えていなかった。それでも咄嗟(とっさ)に考え出し、答える。

 

「あぁ、はい。初めまして、暗黒界の大教皇様……」

 

 大教皇は目を丸くした。もし自分以外の男ならば、この丸くなった彼女の瞳に愛らしさを覚えるのかもしれない。だが、キリトは何も感じなかった。一件可愛げな形になろうとも、その内側に潜む得体の知れなさが全然消えていない。

 

「まぁ……随分と(かしこ)まったご挨拶をされるのですね。意外なところを見せてもらいましたわ」

 

 キリトは顔を上げて軽く驚く。今、失礼に当たらなそうな挨拶をしたつもりだったが、それが意外とはどういう事なのだろう。まさか大教皇はこういう挨拶をされた事がないのだろうか。

 

 いや、それはないだろう。大教皇はダークテリトリーのヒエラルキーの頂点に立つ存在なのだから。となると、この『意外なところを見せてもらいました』という反応はいったい?

 

 気にしている余裕はなかった。大教皇が次の言葉をかけてきた。

 

「皆さまのお名前は既にお聞きしております。人界より遥々ご足労いただき、誠にありがとうございます、ですわ」

 

「いえいえ、こちらこそ会談の場を作ってくださり、恐縮です」

 

 キリトの返事を聞いた大教皇は「ふふふ」と微笑んだ。相変わらず精巧な楽器が奏でる音色のような声だ。並みの男が聞いたら心地良さのためにその場から動けなくなってしまうかもしれない。大教皇がダークテリトリーの頂点に居られるのは、これらも影響していそうだ。

 

 そんな事を考えているうちに、大教皇はディー・アイ・エルを他の《十候》達の一番外側に立たせ、当の本人は玉座側の方――(すなわ)ち和平使節団と《十候》の間に位置するところに立った。

 

「さぁ、お集まりの皆さま方、会談を始めましょう。それぞれ思うところをお話しくださいまし」

 

 大教皇の一声で、ついに人界と暗黒界の行き先を決める話し合いが開始された。キリトも気合を入れて、言葉を頭の中で選びながら、話をしようとした。

 

 だが、同時に不安もあった。この話し合いは結局上手くいかないのではないだろうか。人界と暗黒界、価値観も生き方も崇拝する神も根本的に異なっている者達が話し合ったところで、衝突するだけで終わるのではないか。そういった不安な予想がずっと頭の中から離れなかった。

 

 そして――その通りになった。最初こそはそれなりに穏便に進んでいたものの、時間が経過してくると、和平推進派である暗黒騎士団のシャスターと商工会ギルドのレンギルが何か発言をすれば、すぐに否定の言葉が返されるようになった。その激しさは人界側が全く口を挟む余裕がないくらいである。

 

 和平推進派をほぼ頭ごなしに否定していた反対派は、暗黒術師ギルドの長ディー・アイ・エル、山ゴブリン族の長ハガシと平地ゴブリン族の長のクビリ。発言を控えているらしいのが暗殺者ギルドのフ・ザ、ジャイアント族の長のシグロシグ、そしてオーガ族のフルグル。

 

 条件次第ではと譲歩を示しているのが中立派の拳闘士ギルドのイスカーンとオーク族のリルピリンといったところだった。

 

 「いっその事殺し合いで決めるべきだ」と一点張りしているのが反対派であり、「条件次第では……」と言っている中立派の族長達も、一騎打ちもしくは総力戦での戦いを提案してくる始末だ。

 

 そんな話ばかりが飛び出すものだから、「それじゃあ戦争するのと変わらないだろう」とシャスターとレンギルが繰り返し(いさ)めてくれたが、反対派と中立派の意見は変わらず、状況は和平交渉の方に全く(かたむ)かなかった。

 

 そして頼みの綱である大教皇は、何を考えているのか全くわからないような顔でくすくすと笑っているだけで、暴走しそうな反対派を止めてくれはしなかった。

 

 おい、《十候》は君の部下みたいなものなんだから、上司である君が何とかしてくれよと言いたくなったが、とてもそんな事を言い出せるような雰囲気ではなかったし、言ったところで大教皇が何かしてくれるようには思えなかった。

 

 その間にも、反対派と和平派の意見はぶつかり、ばちばちとスパークして火花を散らしていた。そんなやり取りが繰り返される中、急にだぁんという大きな音が鳴って、反対派と中立派を除く者達が驚かされた。

 

 拳闘士ギルドの長イスカーンが両手でテーブルを叩いた音だった。

 

「あ――ッ! もうまどろっこしいったらありゃしねえな! おい、こっちに来たんだから、こっちのやり方で話を付けさせてもらおうじゃねえか!」

 

 イスカーンはそう怒鳴って身構えた。試合中のキックボクサーのような、いつでもパンチとキックを繰り出せる体勢だった。

 

「イスカーン、貴様何をするつもりだ!?」

 

 驚きと怒りを込めた声でシャスターが怒鳴る。イスカーンは足でステップを刻み続ける臨戦態勢のまま答えた。

 

「だから、人界からもオレ達からも一人ずつ出してタイマンすんだよ」

 

「タイマン? いや、そんなものは生温(なまぬる)い」

 

 かなり低い声を出して近寄ってきたのは、ジャイアント族の族長シグロシグだった。黒い白目と金色の瞳孔から明確な敵意が感じられる。

 

「ぐるる……ああ、生温い。ここで、全員、潰せばいい……ぐるるッ」

 

 キリトの隣に居るベルクーリの近くにフルグルがやってきた。同じオーガ族であるダハーカが向けてくる事のない鋭い敵意を向けてきている。そしてその口調はシャスターから聞いた通り、流暢(りゅうちょう)ではなかった。

 

 二人揃って何をするつもりでいる――そう思った直後、シグロシグが腰に携えていたハンマーを引き抜き、振り下ろしてきた。

 

「なッ!?」

 

 思わず目を見開いて、キリトは後方へダイブして回避する。それはベルクーリがバックステップしたのと同刻だった。一秒も経たないうちに二人の立っていた空間へシグロシグのハンマーが叩き付けられ、轟音と共に床が(ひしゃ)げた。

 

 本当に間一髪だった。もう少し遅れていればぺしゃんこになっていた事だろう。そしてシグロシグは実際にそうするつもりで攻撃してきた。完全にやる気になってしまっている。

 

 ベルクーリを除く人界側の全員、シャスターとドロシーとダハーカの三人に動揺と戸惑いが広がった。すぐさまドロシーが大声を出す。

 

「お、おやめください! せっかくの人界との和平の場です! これでは意味が……!」

 

「おっしゃあああ! オレもやるぜ!」

 

 そう意気込んでイスカーンがテーブルに飛び乗って臨戦態勢になったが、

 

「イスカーン! やめろと言っているだろうが!」

 

 直後にシャスターがその足を掴んでテーブルから強引に引きずり下ろし、拘束した。イスカーンは「何しやがんだよ!」と抗議の声を上げて暴れ出そうとするが、シャスターの力の方が勝っていた。

 

「待で! 順番っでもんがあるだろが! フルグルにシグロシグ! おでも居るんだぞ!」

 

 中立派であったオーク族族長のリルピリンも武器を腰の直剣に手を伸ばしながら、フルグルとシグロシグに抗議するように言うが、フルグルは「オーク、拳闘士、そこで見ていろ」と言って臨戦態勢に入った。

 

 戦う気になっているのはシグロシグ、フルグルの二人。シグロシグはベルクーリ、フルグルはキリトを狙っているようだった。

 

「キリト!」

 

「閣下!」

 

 シノンとファナティオが呼びかけてくる。キリトが咄嗟に答えるより先に、ベルクーリが答えた。

 

「こいつらはオレとキリトとの一騎打ちをご所望のようだ。手出しするなよ」

 

「一騎打ち!? ベルクーリ、お前までそんな事を!?」

 

 シャスターが怒りと焦りを混ぜた声で言うなり、ベルクーリは「へへっ」と笑った。

 

「さっきから話は堂々巡りじゃねえか。実際に戦ってみたら、こちらがどういう脅威に成り得るか、わかってもらう方が得策なんじゃないかと思ってな。勿論(もちろん)和平交渉を放棄したわけじゃねえ。興奮してる奴らを昏倒させて、話し合いを正常化するだけだ」

 

 ベルクーリは背中に携えていた《時穿剣(じせんけん)》を引き抜き、その刀身に光の紋様を浮かび上がらせた。ベルクーリの《EGO(イージーオー)》だ。

 

 《EGO化身態(イージーオーけしんたい)》が相手というわけでないというのに、あそこまでやる必要があるのか。そう思ってベルクーリと向き合うシグロシグの手元を見て、キリトは察した。

 

 よく確認したところ、シグロシグの持っているハンマーはそこら辺で見受けられる武器とは明らかに異なる特徴を持った、《魔具》ともいうべき姿をしていた。加えて、それ自体から強い力の波動のようなものが放たれているのを感じられる。

 

 その波動は、《EGO》が放つ特有の力の波動と酷似していた。どうやらあれも《EGO》であるらしい。まさかジャイアント族の族長が《EGO》を手にしているとは。彼も一度《EGO化身態》になり、鎮圧された事があるのか。(ある)いはそうならずに自分自身の利己心(エゴ)を昇華させられたのか。

 

 いずれにしても《EGO》が使えている時点で、シグロシグは指折りの実力者の一人だ。だが、相手は《人界最強の剣士》や《剣聖》とも謳われて騎士達の憧れの的になっている整合騎士長ベルクーリである。

 

 シグロシグの《EGO》がどのような力や性能を持っているかはわからないが、ベルクーリに勝利するイメージは全く湧いてこない。心配しないでも良さそうだ。

 

 そしてキリトに敵視を向けているフルグルはというと、懐から何かを取り出して左腕に装着した。小型のクロスボウが合体しているガントレットだった。あれがフルグルの武器であるらしい。同じオーガ族のダハーカのように槍と銃などを使ってくるかと思っていたので予想外だった。

 

 見くびっているつもりはないが、フルグルはそんなに強くないかもしれない――構えるフルグルの態勢を目にして浮かび上がってきた感想はそれだった。《EGO》を持つシグロシグは勿論の事、《アメンク》であるとして集落を追い出されてシャスターに拾われたダハーカよりも強そうには見えない。

 

「潰してやるぞ、人界人(イウム)

 

 フルグルはそう言ってクロスボウの弦を引き、矢を放ってきた。キリトは咄嗟に左手に《リメインズ・ハート》、右手に《EGO》を引き抜いて防御態勢を作り、矢を弾く。テーブルの付近で戦うのは分が悪い。まずはテーブルから離れなければ。

 

 キリトはダッシュして壁側へと向かった。フルグルはキリトを追いかけてくる。仲間の皆は既に後方へ退避してくれていたが、これで十分に距離を取る事ができた。ここまで来れば心置きなく戦える。

 

「がるるるッ!」

 

 フルグルは如何にもな(うな)り声を出してキリトに飛び掛かってきた。長く鋭い爪が伸ばされた右手が振り下ろされてくるが、キリトはバックステップで回避する。

 

 直後にフルグルはクロスボウから矢を放ってきたが、キリトは姿勢を低くする事で回避し、続けて床を蹴って前進し、懐に潜り込むようにしてフルグルに急接近した。飛び込んでこられるのを予知していなかったのか、フルグルは驚いたような反応をして、一瞬動きを止めた。

 

 その隙を見逃さなかったキリトは《EGO》ではなく《リメインズ・ハート》で一閃を放った。確実に入れられると思ったが、しかしフルグルは咄嗟に足に力を入れて後方へ飛び跳ねる。先程自分も行ったバックステップであったが、その飛距離は二倍近くに及んでいた。

 

 オーガ族は高い腕力と膂力(りょりょく)を持つ反面、頭の回転が鈍いという特徴があると昨日シャスターから聞かされていたが、どうやら脚力も高いらしい。ダハーカもキック力や跳躍力が高かったような気がするので、間違いなさそうだ。

 

 その恵まれた脚力によるステップでこちらと距離を取ったかと思えば、フルグルは床に着地して足に力を溜め、解放。バネでも使ったかのようにキリトへと飛び込んできた。今回もまたクロスボウを使わず、右腕で殴りかかってきた。

 

 クロスボウはあくまで補助的な武器で、メインウェポンというべきものは腕の方なのだろうか。そんな事を考えながらキリトは双剣を胸の前でクロスさせてフルグルの拳を受け止めた。腕の筋肉にびりびととした衝撃が走ったものの、力が抜けるような事はなく、フルグルの一撃を防ぎ切れた。

 

「がっ、ああああッッ」

 

 直後、フルグルは苦痛に呻くような声を出してよろよろと後退した。こちらに打ち付けた右手を抑えている。殴打を繰り出した際に《EGO》に拳を打ち付けてしまい、火傷を負ったのだ。

 

 最近は徐々に制御できるようになってきているが、自分の《EGO》である白き炎剣は常に高熱を発しており、自分以外の存在が触れたりすれば確実に火傷する。知る由もなかったとはいえ、その刀身を諸に触ってしまったのだ、激痛に襲われた事だろう。

 

 そしてフルグルは完全に隙だらけになった。力こそが全てという掟を何よりも信奉しているのがフルグル達だ。その者達に攻撃を叩き込む事に躊躇(ちゅうちょ)など必要ない。

 

「だああああッ!!」

 

 キリトは先程外した横一文字斬りをフルグルに放った。ソードスキルではなく、ただの一閃。それでも十分だった。渾身の力が載せられた《リメインズ・ハート》の刀身がフルグルの腹部に叩き付けられる。

 

「ぐ、がああッッ」

 

 フルグルがもう一度呻き声を上げると、キリトは《リメインズ・ハート》に更に力を乗せ、バッティングの要領でフルグルを吹っ飛ばした。フルグルは腹部の切り傷から赤い血を撒き散らしながら宙を舞い、やがて勢いよく床に激突した。

 

 

 















――くだらないネタ オリキャライメージCV――

 大教皇⇒斎藤千和さん
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