キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

621 / 646
13:降臨 ―神々の戦い―

「あ…………ふ、ははは……嘘だろ……」

 

 キリトは思わず笑った。空に暖かい金色をした光の柱が立ち上っている。いつの間にあんなものがと思うよりも先に、その中の一つをよく確認したところ、笑うしかなくなった。

 

 キリトにとって最愛の人が、その中に居たからだ。

 

 青い空と同じ濃紺の鎧と、そこに浮かぶ雲のように白いスカートの組み合わせ。足元を包むのは群青色のブーツだ。背中の辺りには短剣のようなモノが三本ほど浮かんでいる。それだけならば、まだ誰なのかわからなかったかもしれないが、白みがかった青水色の髪を確認した時点で間違いようがなくなった。

 

 彼女だった。この世界で死亡し、現実世界へ強制的に帰還させられたと思っていた彼女が、再びこの世界へ舞い降りてきていた。その手に巨大な長弓が握られているのが見えたが、それもまたキリトに深い安堵(あんど)を与えた。彼女の利己心の昇華した武器だったからだ。

 

 キリトは続けて愛する人のすぐ隣を見た。空から伸びる神聖な光の柱のうちの二本の中にも、人の姿があった。一人は栗色の長髪をしていて、白い優美なドレスの上から胸当てを着用していて、細剣らしき剣を手に持っている少女。

 

 そしてもう一人は、(まぶ)しい金色の長髪をポニーテールにしていて、もう一人と同じように胸当てを着用し、大地に萌える植物達を映したような緑色のドレスを身に(まと)っている少女だった。

 

 片方は大切な仲間の一人であり、もう片方は大切な家族だった。しかしその姿は、まるで神話の世界から飛び出してきた女神のようであった。

 

「太陽神ソルスの名の元に、地を満たす(けが)れを焼き尽くす!」

 

「地神テラリアの意志の元に、この大地に守護を! 鉄壁の守りを!」

 

「創世神ステイシアの御名(みな)()いて宣言します! (いびつ)な獣へ変えられた人々に、あるべき姿へ還す浄化を!」

 

 太陽神ソルス、地神テラリア、創世神ステイシアの順でそう唱えると、ソルスは弓を引き絞り、テラリアはその手の長剣を振り上げ、ステイシアは細剣を突き出す。

 

「ディバイン・パニッシュメント!!」

 

「ファータイル・アフィクション!!」

 

「グロリアス・エンブリオ!!」

 

 そしてソードスキルとも似ても似つかぬ名が発せられると、まずソルスが矢を放った。

 

 純白に(きら)めく(まばゆ)い光を放つそれは空に向けて垂直に発射されていた。やがてそれは一瞬のうちに分裂したかと思うと鋭い弧を描いてターンし、あらゆる方向に広がり、レーザー光線のようになって地上へと降り注ぎ、大爆発を引き起こした。

 

 続けてテラリアが振り被る長剣の刀身に緑色の光を収束させ、思い切り振り下ろした。刀身に纏われていた緑色の光は巨大な斬撃となって空を駆け、ソルスの放った矢同様に地表へ向かい、殺し合う《EGO(イージーオー)化身態(けしんたい)》の群れのど真ん中に着弾。

 

 一瞬にして地面から色とりどりの植物が猛烈な勢いで生えてきて、戸惑っている《EGO化身態》の群れを(から)め取った。咲き乱れる花畑はそのまま小規模な森となって、更に多くの《EGO化身態》を呑み込んでいった。身動きを封じるためのものかと思いきや、森の中心が緑色の光を一瞬放ち、急激に膨張。光と烈風で構成された大爆発となって、絡め取っていた《EGO化身態》達も、近くに居たそれらも吹き飛ばした。

 

 更にそこにステイシアが手を(かざ)すと、空に青いオーロラのような光が()し込み、「ラー」というオーケストラのコーラスのような荘厳(そうごん)な音が鳴り響いた。それは《EGO化身態》達にも聞こえていたらしく、空を見上げる。

 

 次の瞬間、どぉぉんという轟音が響いてきて、《EGO化身態》達が一斉に地面へ倒れ伏し、そのまま押し潰された。まるで姿の見えない巨大重量物に圧し掛かられたかのようだった。どうやらステイシアの力によって発生した強大な重力場が《EGO化身態》を呑み込んで押し潰したという事らしい。

 

 三女神の《EGO》による攻撃。《EGO化身態》への攻撃手段の最適解によって、地上を埋め尽くさんとしていた《EGO化身態》達は一斉に(たお)れ、元の姿を取り戻した。圧倒的な力による蹂躙(じゅうりん)――否、浄化だった。

 

 その様子をキリトは(なか)ば呆然として眺めているしかなかった。口角が中途半端に上がったまま下がらないし、それ以上上がりもしない。驚き、信じられない気持ち、嬉しい気持ち、安堵――それらがいっぺんに鍋に放り込まれてかき混ぜられたようになっていて、どれを顔に出せばいいのかわからない。

 

 見る余裕などないが、周りの者達なんて絶句と茫然自失(ぼうぜんじしつ)は良いところで、白目を剥いて失神している者も居る事だろう。

 

 奇跡にも等しい大浄化を成し遂げた三人の女神達は、その衣装をひらひらと揺らめかせながら地上へ、キリトのすぐ目の前にまで降りてきて、ふわりと着地した。

 

「ははは……おいおいおいおい……」

 

 キリトは歩み寄りつつ、笑もうとした。しかし、あまりにも衝撃的な光景を見たせいか、いつものように純粋な笑みではなく、歪な変な笑いになってしまう。だからこそ、彼女達に申し訳が立たなかった。

 

「キリト、お待たせ。戻って来たわよ!」

 

 そんなキリトに声をかけてきたのは太陽神ソルス――シノンだった。

 

「おにいちゃん、皆、遅くなってごめんね! 菊岡さんと愛莉先生に、ベクタ達に対抗できるスーパーアカウントを用意してもらえたの!」

 

「最初は使えそうになくてびっくりしたけど、わたし達の《EGO》のおかげで使う事ができたの!」

 

 シノンに続けてそう告げてきたのは地神テラリアと創世神ステイシアの二神。それぞれリーファとアスナで間違いなかった。まさかこんな土壇場で、あそこまで大きな力を持った存在となって自分達のところへと舞い降りてきてくれるだなんて。そこでようやく彼女達が今、ここに居てくれているという実感が湧き、感情が強く揺さぶられているのがわかった。

 

 気を抜けば涙が出てきそうだが、泣いている場合ではないし、泣いてはならない――キリトは自分自身に強く言い聞かせて、彼女達を見つめた。それでも泣きそうになって仕方がなかったが、そこからすぐに、出てきそうになっていた涙が引っ込む出来事が起きた。

 

 とても多くの悲鳴が聞こえてきたのだ。《EGO化身態》はシノン達の攻撃でほとんど斃れ、元に戻ったはず。では今度はなんだ――そう思って振り返ってみたところで、あちこちにあの忌々しい光の卵が出現し、そこから新たな《EGO化身態》が続々と孵化してきたのが見えた。

 

 恐らく、黒龍ジブリルが空に放っていた《矢》の第二波が降り注ぎ、第一波の時には《EGO化身態》となるのを逃れていた者達が新たな《EGO化身態》となってしまったのだろう。

 

 自分は《EGO化身態》にならずに《EGO》を手に入れる事ができたから幸運だったものの、人から《EGO化身態》となる際に生じる苦痛は、世界の何もかもがわからなくなるほどのものだ。

 

 それを人為的に起こして、人を強制的に《EGO化身態》へと変えてしまう――まさしく鬼畜を超えた所業だ。人界の無辜(むこ)の民を機械人間(ガーダー)という名の兵器に改造して運用していたアドミニストレータと良い勝負であろう。

 

 あの黒龍ジブリルはアドミニストレータと同じような思考ルーチンでも持っているのだろうか。いや、そんな事はもう、どうでもいい。何が何でも、あいつらだけは絶対に倒さねばならない――邪悪を極めたような暗黒神ベクタと黒龍ジブリルという、最悪の敵への激しい怒りが湧いてきて、胸の中が燃えるように熱くなった。

 

 しかし、そこで終わらなかった。更に胸の中が怒りで満たされる(おぞ)ましい光景が、次の瞬間に繰り広げられたのだ。

 

 空から紫の光の大群――《矢》の第三波までもが降り注いできて、同胞が突如として怪物となった事に(おのの)き、腰を抜かしている者達にまで着弾し、確認する事が困難なほどの速度で《EGO化身態》が急増殖。

 

 それだけで留まらなかった。先手を切ったキリトとリランを追い、ベクタを倒すべく行軍していたシャスター率いる大軍団――しかしシャスターの姿はないので先発隊か斥候(せっこう)の集団であるらしい――の者達がタイミング悪く戦場に到着していた。

 

 ベクタの代わりに怪物の大群が居るという状況に動揺している彼らにも、《矢》は容赦なく降り注ぎ、ほとんど一人残らず《EGO化身態》へと変えてしまった。あっという間に、辺り一面の地表が再び《EGO化身態》で埋め尽くされて、混沌の支配する地へと逆戻りしてしまった。

 

 更に、斥候部隊が来た方角へと紫色の光を(まと)う《矢》の大群が飛んで行ったのも見えた。シャスター率いる大軍団の本隊を探知し、それらをも《EGO化身態》へと変えるつもりなのだろう。もうしばらくしたら、シャスターの軍勢も《EGO化身態》の群れと化すのだろう。

 

 最早見境など存在しない。使えそうな者達は全部《EGO化身態》にして戦わせる――それがベクタとジブリルの思惑なのだ。何という邪悪なのだろう。

 

「あいつら……よくもあんな酷い事を」

 

「キリト、状況はどうなっているの!?」

 

 太陽神ソルスであるシノンが隣に並んできた。キリトはすかさず答える。

 

「アリスがベクタとあいつの《使い魔》に(さら)われた。今すぐにでも追わないといけない。だけど、この戦場を見捨てる事もできない」

 

「あの《矢》みたいなの、ダハーカとカイナンにも刺さってたわよね? あの二人、あれが刺さったすぐ後に《EGO化身態》になったわ。もしかしてあれって……!?」

 

「あぁ、人を無理矢理《EGO化身態》に変える呪物だ」

 

 リーファ、アスナの二人は「ええっ!?」と驚いた。無理もない反応だった。何の罪もない人間を無理矢理《EGO化身態》に変えてしまうモノが存在しているなど、悍ましすぎる事実だからだ。

 

《それらはこちらに向かってきているシャスターの軍勢の居る方角にも飛んで行った。ドロシーの献身のおかげで彼らは正気に戻り、ベクタの反旗を(ひるがえ)した。暗黒騎士だけではなく、その他の種族の多くがそこに参加しておる大軍団だ、彼らが一斉に《EGO化身態》になれば、とんでもない事になるぞ》

 

 リランが追加説明をしたところで、周りの《EGO化身態》達が、《EGO化身態》から戻った者達を襲い始めた。このような仕打ちを受けたのだ、彼らはベクタへ反逆の意志を持ちつつあるだろう。死なせるわけにはいかないが、しかし襲い掛かる《EGO化身態》の数は自分達だけでは対応しきれない。

 

「敵は複数……しかも強大……戦力分散は命取り……」

 

 アスナの独り言が聞こえてきた。その内容の通りである。敵は《EGO化身態》であり、一筋縄では攻略できない集団だ。戦力が分散していては、あっという間に袋叩きにされて終わりだ。

 

 しかも、例え《EGO化身態》の群れを鎮圧したとしても、その後にはベクタとジブリルという大ボスまで控えていると来ている。シノン、アスナ、リーファという三女神が到着しているが、彼女達の力だけでどうにかできる状況ではないかもしれない。

 

 まだまだ戦力が必要だが、人界側も暗黒界側も、その戦力が《EGO化身態》になってしまっているのだから理不尽だ。

 

「わかったよ、キリト君。戦力が足りていないんだね。なら、大丈夫だよ」

 

 アスナの返答にキリトはリランと一緒にきょとんとし、同時に向き直った。

 

「アスナ? どういう事だ?」

 

「多分……そろそろだから!」

 

 アスナは不敵に笑っていた。何か秘策があるようだが、その全貌が掴めてこないためにキリトは首を傾げるしかなかった。

 

「どうやら、とんでもない事をしでかしてる不届き者が居るみたいねぇ」

 

 直後、声が響いてきた。耳を澄ませたところ、上空から聞こえてきているのがわかり、キリトはそちらへ顔を向けた。そして目を見開く。シノン、アスナ、リーファの三人が降り立ってきた時と同じ光の柱が、空に再び現れていた。

 

 まさか、もう一度同じような奇跡が起こるというのか――キリトの予測は当たった。光の中には、もう三人の女神の姿があった。

 

「火神イグニアであるこのあたしの怒りを買うような奴は……どこに居んのよ!」

 

 火神イグニアを名乗ったのは、ピンク色の髪の毛をしていて、大きなバトルハンマーを(たずさ)え、白と黒が基調の衣装を身に纏い、背部に沢山の連なった水晶の装飾を付けた少女。彼女はそのバトルハンマーを振り被り、狙いを地上を跋扈する《EGO化身態》の群れに定めた。

 

「……それになった時は本当にきついわよね。今すぐ元に戻してやるから! アウェイキング・ダイアペイズン!!」

 

 三女神の時と同じように何かしらの術技の名前を口にすると、彼女はバトルハンマーを水平に振った。ほぼ同刻、彼女の背後に虹色に輝く巨大な光球が五つ出現し、撃ち出されるようにして地上へと飛んで行った。

 

 空を裂いて突進していった光球は《EGO化身態》の群れで埋め尽くされようとしている地上へ着弾するなり、光の柱を伴う大爆発を引き起こした。相変わらずここからでは目視できないが、結構な数の《EGO化身態》が吹き飛んだ事だろう。

 

「残念! 援軍がこれで終わりだと思った? まだまだあるわよ!」

 

 キリトはリランと共に「えっ」と言った。直後、残りの光の柱の内の一つから人影が飛び出してきた。茶髪をツインテールにしていて、草原を駆け抜ける優しき風を映し出したような翡翠(ひすい)色のドレスを身に纏った小柄な少女だった。

 

「祈りが届きますように……傷付いた全ての人々へ祝福と癒しの風が吹きますように!」

 

 少女はふわりと空で軽い舞踏を披露した後に、その手に握られている翡翠の短剣を振り下ろした。

 

「風神アエリアが今ここに唱える! カインドネス・アトモスフィア!!」

 

 風神アエリアが宣言するように言うと、彼女を中心に暴風が吹き荒れ、巻き込まれた《EGO化身態》の群れが吹っ飛んで行った。しかし一方で、その近くに居た《EGO化身態》と戦っている人々はまるで元気を取り戻したかのように勢いを出し始めた。攻撃と回復がいっぺんに行われたらしかった。

 

「やっと来られた……この時をずっと待ってたんだからね、わたし!」

 

 次の瞬間にキリトはもう一度驚かされた。天からの光より現れたのは火神イグニア、風神アエリアの二柱だけではなかった。三柱目が、同じ光からばっと姿を見せてきた。

 

 日光のようなオレンジ色の、跳ねっけのあるセミロングの髪の毛をしていて、瞳は澄んだ青色。その身を包むのは水面のような優美なデザインをした短めのケープが付属した、同じく優美な青色のドレスだが、一方で下半身はホットパンツのようになっていて、腹部が露出している。

 

 前にその姿を見たのはいつ頃だっただろうか。少なくとも二年以上は会えていなかった大切な仲間の一人。水の女神の得物と言われれば即座に納得できる形状の短剣を握り締めた彼女は、くるりと一回転した後にその短剣を空へ突き上げる。

 

「この世の全ての水を司りし水神アクアリアが、穢れの全てを洗い流すわ! シュトローム・リヴァイアサン!!」

 

 水神アクアリアを名乗った彼女が短剣を振り下ろすと、その背後に巨大な水柱が立ち上った。それは瞬く間にただの水柱から、神話に語られる水龍(リヴァイアサン)の形を取り、咆吼。

 

 水龍は地上から飛び立ち、海蛇のようにうねりながら空を駆けたかと思うと、地上を埋め尽くす《EGO化身態》の大群の中心に突っ込んだ。間もなく、その巨躯は火神イグニアが繰り出した技の時のように水の大爆発となったが、同時に再び空高く水の柱が立ち上り、大雨が地上を洗った。

 

 その大水の爆心地周辺からは忌々しき《EGO化身態》の群れは消え、ベクタとジブリルによってそれにさせられていた人々が元の姿を取り戻して倒れていた。その時には大水は完全に止んで、大雨は優しい雨となって人々を濡らしていた。

 

 ソルス、ステイシア、テラリアに続いてこの世界に降り立ち、地上を支配しようと暴走する怪物の群れを浄化した三女神は、ゆっくりとキリトの元へと降りてきた。キリトは即座に駆け寄り、出迎える。

 

「リズ、シリカ……!」

 

 火神イグニア、風神アエリアはそれぞれリズベットとシリカで間違いなかった。衣装こそ女神のものであるが、髪色は確かに二人のものだったし、何よりイグニアのバトルハンマーはリズベットの、アエリアの短剣はシリカの《EGO》であった。

 

 だが、驚きはリズベットとシリカの神としての再臨で終わらなかった。もう一人居る女神――水神アクアリアの特徴と、この世界があまりに特殊空間であるが故に、アスナ達のようにやってくる事ができずにいた大切な仲間の一人の特徴は、大部分が一致していた。

 

「君は……もしかして、フィリアなのか」

 

 オレンジの跳ねっけ髪をした、青色の瞳の水神アクアリアは深く頷き、弾けるような笑顔を見せ付けてきた。

 

「うん、わたしだよキリト。大分久しぶりになっちゃったかな」

 

 その声を聞き、笑顔を見た途端、再び胸中に深い安堵が訪れてきた。

 

 フィリア。本名を竹宮(たけみや)琴音(ことね)という彼女は、《SAO》で出会って以降苦楽を共にし、時に力を合わせて戦い、数多の厄災を退けてきた大切な仲間であり、良き友人の一人だ。そんな彼女がここへやってくる事など全く予想の範囲外だった。

 

《キリト君、聞こえるかな!?》

 

 直後、不意に声が届いてきた。上空からしたように感じたが、同時に頭の中に直接響いてきたようでもあった。その声色はリランでもユピテルのものでもなく、男性――菊岡(きくおか)誠二郎(せいじろう)のものだった。

 

《すまないねキリト君。こちらから最大限の援護射撃を用意するのに少しだけ時間がかかってしまったんだ》

 

「菊岡さん!?」

 

《あまり余裕がないから、簡潔に話す。襲撃者達にベクタというスーパーアカウントが渡ってしまった以上、同じスーパーアカウントで対抗するしかなくなった。だから、彼女達にスーパーアカウントを使ってもらう事にしたんだ。それだけじゃない。愛莉博士の子供達が君の仲間に声をかけて、援軍を呼んでくれたんだ。受け取ってくれ!》

 

 援軍? もしかしてまだ来てくれる者達がいるのか――期待を胸に顔を上げてみたところ、六女神が舞い降りてきた時と同じ光の柱が、またしても空から射し込んでいた。今回は二本だ。

 

「もしかして、ボクの事待ってた!?」

 

「待ってただろうさ。これだけの状況なんだから!」

 

 空に射す二本の光の柱は、真っ直ぐ地面へと伸びる形から、斜め四五度くらいに(かたむ)いた。そこから光を纏う何かが射出されるようにして飛び出し、地面へと着弾してきた。隕石かと思われたそれは、人だった。その姿を認めたキリトは、またしても目を見開いた。

 

 一人は、肩の辺りが露出したデザインの白いドレスに身を包み、紫の長い髪を一対の三つ編みのおさげにして、後頭部に不思議なデザインの装飾品を付けた、少し小さめの身体をした少女。その手に握られているのは神剣としか思えない長剣。

 

 もう一人は、黒を基調としていながらところどころに藍色のラインや装飾が見られる和服の上から、黒と紫の軽鎧を纏い、更に袖なしコートのような陣羽織らしき上着を羽織った――黒に極めて近い長い茶髪を下ろした、小柄な少年。背中にはその身体には不釣り合いな大太刀らしき剣が背負われている。

 

 その二人の姿にも、見覚えがあるどころではなかった。だからこそ、つい先程から襲い来ている感動が再び襲い来る。

 

「剣神グラディアの力、そしてボクという《絶剣》が居れば、この戦に敗北はあり得ない!」

 

 剣神グラディアを名乗った紫髪の少女は剣を構えた。その神剣から感じる波動は――《EGO》のものだった。その彼女の元へ、《EGO》の攻撃を一番の弱点とする怪物達が群がっていく。彼女が何者で、その手に握られているモノが何かもわからないのだろう。そして彼女は、怪物の群れに臆さなかった。

 

「薙ぎ払ってあげるよッ! グラディア・ジ・アポカリプス!!」

 

 彼女が叫ぶと、目に見えぬ剣閃が放たれた。それは一瞬のうちに、本来ならばそれを構成するはずの風も大気も斬り裂く斬撃の嵐となって吹き荒れ、発生から一秒程度で消えた。

 

 そこからまた二秒程度経過したところで、周囲の怪物達は一斉にどす黒い血飛沫を上げ、ある者は首と上半身、ある者は下半身と脚、ある者は全身がバラバラに切り離され、地面へ崩れ落ち、光となって消えていった。

 

 だが、まだまだ怪物達は群れを成している。そのうちの群れのいくつかが、剣神グラディアと共に地上へ降り立った少年へと向かっていき、あっという間に包囲した。

 

 数だけ見れば少年の圧倒的不利であるが、果たしてキリトはそうとは思わなかった。寧ろ、逆だ。

 

「何だか見た事のないタイプのモンスターだね。どっちかと言えば妖怪に近いか……?」

 

 少年は少し目を丸くして周囲の怪物達を見ていた。だが、その藍色の瞳は次の瞬間にぎっと鋭くなり、怪物達を(にら)み付ける剣士のそれとなる。

 

「いずれにしても、倒さなきゃいけない事は変わらないか」

 

 黒い和風鎧装束に身を包んだ少年は、その背丈を遥かに超える長さを誇る大太刀の収まる鞘を背中から腰元へ移動させて抜刀し、構えた。その刀身は闇夜を映したような黒色であり――キリトのイメージに反して日本刀のような片刃ではなく、日本の遥か古代に存在したとされる銅剣のような両刃だった。

 

 その刀身がゆっくりと振り被られると、少年の周囲の地面が黄金色に輝いた。いったい何事かと目を見開いていると、少年を包囲する全ての怪物達の足元を埋め尽くすほどの巨大な魔法陣が浮かび上がった。それは陰陽印や漢字のような形状の様々な紋様で構成されている、地面へ映し出された巨大な満月のようでもあった。

 

 そしてその中央に居る少年が振り被る両刃の大太刀にも、同じ色の光が纏われる。

 

月弓(ツクユミ)縁起(えんぎ)夢奏封月(むそうふうげつ)!!」

 

 ツクユミという言葉の込められた術名が叫ばれると同時に、少年は黄金色に輝く大太刀で回転斬りを繰り出した。同刻、その黄金色の光を纏う刃から斬撃が放たれる。それは一瞬のうちに満月魔法陣の全域に及び、群がる怪物達を両断した。それで終わりかと思った次の瞬間、魔法陣が凄まじい輝きを放ち、激しい光の柱を伴うほどの爆発を引き起こした。

 

 斬撃と大爆発の二段構え。まさしく彼らしい徹底的なやり方だった。そんな爆発の爆心地に居た少年はというと、その身体に傷一つ見受けられず、冷静に大太刀を一度振っているだけだった。満月魔法陣の中央には爆発が及ばなくなっていたのか、それともあの爆発自体が発動者である少年以外を吹き飛ばすようになっていたのか。

 

 いずれにしても、この少女と少年の放った術技によって、かなりの数の《EGO化身態》が吹き飛び、元の姿を取り戻すに至っていた。完全なる大逆転劇を見せ付けてきた二人にキリトは歩み寄る。

 

「ユウキ、カイム……!」

 

 数年ぶりに見る大切な友人と親友のうち、友人の少女は軽い足取りで駆け寄ってきた。その隣に並んで、どっしりとした様子に見せかけているけれども、その小さな体躯のせいでそうは見えない親友も歩いてくる。

 

「やっほーキリト! ボク達も来たよ!」

 

 剣神グラディアは天真爛漫な声と表情をこれでもかと見せ付けてきた。(まぎ)れもなく彼女はユウキだった。《SAO》の時に出会い、ここまで苦楽を共にしてきた大切な仲間であり、《絶剣》の二つ名で呼ばれるほどに剣に卓越した少女。

 

 なるほど確かに、この世界の剣術の始祖とされる剣神グラディアは彼女にお(あつら)え向きであろう。

 

「まさかユイちゃん達の言っていた条件にぼく達が当てはまるだなんてね。でもまぁ、おかげでキリト達をこうして助けられたから、良かったよ」

 

 そう言ったのはユウキの隣にいる少年だった。これまでは結んでお下げにしているのが通例みたいなものだった黒に極めて近い長い茶髪を下ろした、自分と同い年とは思えないほどに身長が低い、藍色の目の少年。

 

 その服装を改めて確認したところ、黒い着物のような服の上から軽鎧を着用し、更にその上から陣羽織のようなコートを羽織り、その脚は黒いたっつけ(はかま)。まるで日本の歴史書の中から飛び出してきた武将のような恰好だった。……草履(ぞうり)ではなく靴を履いているなどの要素がところどころにあるので、完全にそうではないが。

 

「カイム……お前も来てくれたのか」

 

「当然でしょ。信頼してる親友が危ないって時に、駆け付けないほどぼくは薄情じゃないよ」

 

 少年は軽く笑みながら答えた。ずっと見る事も会う事も叶っていなかった、親友のカイムで間違いなかった。最後に会ったのは、自分達がこのアンダーワールドへと放り込まれる要因となった事件の時だ。事件時、彼も重傷を負ったように見えていたが――現実はそうでもなかったらしい。

 

 それにしてもまさかユウキ、カイムにまで会えるだなんて。どこまで喜ばしい出来事が起きてくれるというのだろうか。最悪から最善へとひっくり返りつつある現状に、キリトは感動を抱かずにはいられなかった。

 

「それにさ、キリト」

 

「え?」

 

「みんな来るよ」

 

 カイムはそう告げて空を指差した。籠手に覆われた指が示す方へキリトは顔を向ける。そこでまた驚く羽目になった。神の降臨を告げる光の柱が、四本も並んでいたのだ。

 








――くだらないネタ オリキャライメージCV――

 カイム⇒伊瀬茉莉也さん
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。