キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

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14:集結 ―神々の戦い―

「それにさ、キリト」

 

「え?」

 

「みんな来るよ」

 

 カイムはそう告げて空を指差した。籠手(こて)(おお)われた指が示す方へキリトは顔を向ける。そこでまた驚く羽目になった。神の降臨を告げる光の柱が、四本も並んでいたのだ。

 

 まさか、まだ神――スーパーアカウントがあるというのか。それはいったい誰が使っているというのだろう。瞠目(どうもく)をやめられないキリトが見上げていたところで、不思議な事が起きた。どこからともなく音が聞こえてきた。それはただの音ではなく、様々な現代楽器で構成された音楽(ミュージック)だった。

 

 明らかにアンダーワールドでは聞く事のできない、現代的な音楽。しかもただの音楽ではなく、これから歌が始まろうとしている、イントロのような構成になっていた。これは――。

 

「異世界のみんな――! いきなり押しかけるような事になってごめんね――!」

 

 唐突に声が響いてきた。女神のそれとかと思ったが、大人の女性ではなく、まだまだ幼さの残る少女の声だった。声の発生源である光の柱に向き直ると、そこに三つの人影が見受けられた。その姿を視界に入れたキリトは思わず目を見開く。

 

 一人は、小さな身体を和の要素の強い、青と藍を基調とした鮮やかな色合いで、生地の中に優美な金色の刺繍(ししゅう)が施された和洋折衷(わようせっちゅう)の衣装に身を包んだ銀色の長髪の少女。今しがた聞こえた声の主は彼女で間違いないであろう。

 

「だけど、わたし達が来たからには、もう安心だよ――!」

 

 更にもう一人が声を世界へ届けようとする。明るい赤い長髪を(なび)かせ、踊り子が神への舞を奉納する際に着るそれのようでありながら身軽そうなデザインの、朱色と紅色を基調とした和洋折衷衣装を(まと)っている、銀髪の小さな女神よりも背が高い、活発そうな少女だった。

 

 ――この二女神が姉妹であるという話を信じられる者は、そうそういないだろう。

 

「さぁ、ゲリラライブの開始だよ! 二人とも、準備は良い?」

 

 そして最後の一人が姉妹に声掛けをした。小柄な少女の姿をした女神のそれとはまた異なる色合いの銀髪で、ところどころを三つ編みにしている。その華奢(きゃしゃ)で美しい四肢を包んでいるのは、黒と白と紫で織り成された、やはり和洋折衷のデザインの装束だ。

 

 その女神に問われた二女神は(うなづ)き、妹神の方が先に挙手するように手を突き上げる。

 

「もっちろん! このあたし、歌神(かしん)ミヤスズヒメはいつでも準備万端よ!」

 

「わたしもだよ! 舞神(ぶしん)ミヤビノヒメ、いつでも踊れるよ!」

 

 《歌神ミヤスズヒメ》、《舞神ミヤビノヒメ》を名乗った二人の答えを聞いた三人目の女神は笑み、その右手を思い切り空へと突き上げた。残った左手は胸元に添えられている。

 

「歌神ミヤスズヒメ、舞神ミヤビノヒメ、唱神(しょうしん)ミヤメノヒメの三女神の歌よ! 傷付いた者達に癒しを、戦士達に息吹を与えん!!」

 

 《唱神ミヤメノヒメ》と名乗った女神の一声を皮切りに、三女神の歌は始まった。彼女達の歌を乗せる、どこからともなく流れてくる音楽は実に様々な現代楽器で構成されているが、その中には三味線(しゃみせん)胡弓(こきゅう)(つづみ)といった和楽器も混ざっているのが認められた。

 

 そのおかげもあってか、キリトにとってとても心地良い音楽のように感じられた。あまり大きな音量と多数の楽器で奏でられる音楽は好きではないというのに、彼女達の音楽と歌は気持ちが良くてたまらない。

 

 しかし、アンダーワールドの者達からすれば、あまりにも聞き慣れぬ音楽と歌であるため、混乱してしまうかもしれない――そう思っていたが、果たしてその予想は大外れとなった。

 

 あの禍々しい《矢》によって《EGO(イージーオー)化身態(けしんたい)》になっていたものの、女神達の力で浄化されて元に戻った者達は、上空で奏でられる女神達の音楽と歌を耳にするなり、その身体に力を(みなぎ)らせたかのように「おぉぉ――!!」と歓声や雄叫びを上げていた。

 

 間もなくして、キリトも身体に蓄積されていた疲労や鈍痛が溶けるようにして消え去り、力が(たぎ)って来るのを感じた。恐らくも何も、あの三女神の歌によるものであろう。あの歌と音楽は、他のゲームでいうところの強化状態(バフ)をかける超広範囲支援術なのだ。

 

 人界軍、暗黒界軍の兵士達が一斉に立ち上がり、勇ましい叫び声を上げながら戦闘を開始した。相手は暗黒神ベクタと黒龍ジブリルの冷酷な暴挙によって怪物にさせられた同志達。彼らを元に戻すための正しき戦いが再開される。

 

 しかし、それでも怪物達の方が優勢だ。数というのもあるが、そもそも怪物――《EGO化身態》は並みの魔獣を遥かに凌駕(りょうが)する力を持つ存在だ。《EGO(イージーオー)》を持たぬ者が徒党を組んで戦ったとしても、一体鎮圧するだけでもかなりの時間を要してしまう。彼らは三女神の歌の加護を受けているけれども、まだ危機に晒されている事は変わりない。

 

「――彼女達の歌だけで増援は終わりだと思ったか?」

 

 その次の瞬間だった。空が白く激しく光ったかと思うと、見えない巨大な腕が空気という幕を掴んで力尽くで無理矢理引き裂いたような轟音が鳴り響き、黄金に輝く巨大な稲妻が落ちた。まさしく神の裁きのような落雷は、怪物達を貫いたかと思えば地面を走り回り、間一髪で落雷を逃れた怪物達をも襲った。

 

 雷と言えば《使い魔》形態となっている時のユピテルの得意技だが、しかし今どこにも彼の姿は見えない。それにユピテルの放つ雷撃、電撃は青色をしているのだが、今の雷は黄金に輝いていた。つまりユピテル由来のものではないという事になる。

 

 そうなるとあれはいったい――そう思って三女神の隣にある、もう一つの光の柱を見ようとしたが、その瞬間にそれは消え、先程落雷が生じた地点に何かが勢いよく落ちた。

 

 そこに居たのは――女神ではなく男神(おがみ)だった。日本神話に登場する神々の纏うそれのようなデザインの、金色の刺繍の入った白い着物を左半身に、無双の力を持つ鎧武者のような紅白の甲冑を右半身に纏った男性。そのやや金色がかっているよう見える薄茶色の髪は自分よりも少し長めであり、鉢金を額に着用している。

 

「本当に、あいつらの居るところでは事件が起こるんだな。それとも事件が起こりやすいところにあいつらはいつも居るのか?」

 

 男神はやや毒を含んだような事を言うと、その腰元に携えている鞘から剣を引き抜いた。カイムの大太刀のような両刃ではなく、片刃であるものの、日本刀と西洋剣の両者の特徴が混ざり合ったような姿をしている白い剣だった。歌神、舞神、唱神のような和洋折衷の恰好をしていないなと思っていたが、なるほど剣が和洋折衷だったか。

 

「……呆れるよ。しかも鎮圧には、この《雷剣将(らいけんしょう)カズチイクサ》の力まで必要なんだろ。尻拭いする人間の気持ちも考えてほしいものだ」

 

 そう言って男神は剣を構えた。直後その身体から黄金の雷が起こり始め、バチバチとスパークを起こす。やがて男神は雷球となり、もう一度空へ戻る。

 

絶技(ぜつぎ)霹靂神(はたたかみ)!!」

 

 男神の宣言が一体に響き渡ると、雷球は隕石のように地表へ降り、地面へ激突。雷の大爆発を引き起こすと同時に激しい落雷を周囲に何度も発生させ、その一帯に居る《EGO化身態》の全てを呑み込んだ。

 

 歌神達三女神からのバフを受けていたためなのだろうか、ユウキとカイムが術技を放った時よりも広範囲に及び、多くの《EGO化身態》が吹き飛んで、その本来の姿を取り戻していた。その光景にキリトは絶句しそうになっていた。

 

「セブン、レイン、ユナ……エイジまで!」

 

 歌神、舞神、唱神、雷剣将を使う仲間達の名前を一つずつキリトは口にした。歌神ミヤスズヒメであるセブン、及び舞神ミヤビノヒメとなっているレインは《ALO》から、唱神ミヤメノヒメを使うユナと、その番であり、雷剣将カズチイクサと言ったエイジは《GGO》から自分達と仲間同士の関係となり、現在に至っている友だ。

 

 まさか、彼女達までもがスーパーアカウントを得て、ここへ援軍としてやってきてくれるだなんて。これは何の奇跡なのだろう。

 

「キリの字、おめーは本当っにオレが居ねーと駄目だな! 皆を繋げたユイちゃんとストレアちゃん達に感謝しろよぉッ!」

 

 続けて空から聞こえてきた声にキリトは――ずっこけそうになった。まるで現代に(よみがえ)った野武士のような青年の声色。聞き慣れているし、味方である事が頼もしいけれども、聞くと何だか身体の力が抜けてしまいそうになる声だった。

 

「また世界の危機か? いつも面倒事に巻き込まれてるな。お前らしいよ」

 

「けど、これまでで一番大きな危機かもしれないな。さぁ、大仕事だぜ。準備はいいか!?」

 

 更に二人の青年の声も聞こえてきて、キリトはそちらへ向き直った。一人は頭のバンダナを巻き、腰に刀を携えた、着物と鎧が合体しているような装束を纏った赤茶髪の青年で、更にもう一人はチョコレートのような色の肌をした、大型のバトルアックスをひっさげ、ダークグリーンの鎧とコートが混ざった衣服に身を包んだ大男。

 

 そして最後の一人はメタルブルーの髪で、尚且つ深い青の鎧を纏った、どこもかしこも青尽くめの騎士(ナイト)だった。その手に握られているのは大きな盾と長剣の取り合わせなものだから、余計に騎士だと思うしかなくなる。

 

「クライン、エギル、ディアベル!!」

 

 キリトに呼ばれた三人の男達は重力に適応するように地面へ降り立った。三人とも《SAO》の時からの友人であり、苦楽を共に過ごし、厄災を共に乗り越えた仲間達だった。

 

 だが、そこで増援の降臨は終わらない。更に後方から光が差し込んだかと思えば、無数の火炎弾と、暗黒属性弾で構成された弾幕が《EGO化身態》の群れに向かって降り注いできた。今度は何かと思って目を向けてみたところ、飛竜が居た。

 

 いや、よく見たところ飛竜ではなく、白い羽毛と甲殻に身を包んだ巨大な八咫烏(ヤタガラス)だった。その背中の付近に四人もの人影が認められる。そのうちの一人である茶髪の青年がその主のように八咫烏に(またが)っており、残りの三人はふわふわと浮かんでいた。四人が乗っているというわけではなかった。

 

「キリト、無事か――!?」

 

「来ちゃいましたよ、キリトさん――!!」

 

「遅くなってごめんねぇ――!!」

 

 聞こえてきた声に感動を覚える。白みの強い銀色の髪で自分と同じくらいの背丈、朱色の瞳をした銀のコートを纏った少年に、赤とピンクの中間色のような髪をサイドポニーテールにまとめ、黒みがかった軽装に身を包んだ青い目の少女、そして少年とは異なる色相の、ウェーブのかかった銀色の髪をしていて、理想的な体型を白い戦闘服で着飾った赤い目の女性。

 

「アーサー、クレハ、ツェリスカ……!!」

 

 《GGO》で出会い、やはり共に大いなる敵へ挑んで勝利を収めたアルトリウス、クレハ、ツェリスカで間違いなかった。そして最後の一人――黒いガンナーコートと思わしき衣装に身を包んだ青年が声を届けてくる。

 

「ラースが大変な事になっていると聞いたが、まさかこういう事になっているとはね。助けるよ、キリト君。僕も神武(ジンム)もね」

 

「イツキ……!」

 

 キリトがその名を呼んだのと、《神武》と呼ばれた白い八咫烏が《EGO化身態》の群れに火炎弾幕を再度放ったのは同時だった。そこで違和感に気が付く。つい先程の弾幕は火炎弾だけではなく、暗黒属性弾も混ざっていた。しかし今の弾幕は火炎弾だけ。では、あの暗黒弾は?

 

「……アスナ――!!」

 

 聞き覚えのない声がしてきて、キリトはまたそちらに顔を向ける。ドラゴンがホバリングしていた。身体はところどころ水色の混ざった白と紫色の鱗と体毛に覆われていて、人が乗れるくらいに大きい。リランのそれに近しい形状の、大きな羽毛の翼を肩から生やした、マズルの短い愛嬌のある顔立ちをしているドラゴン。アンダーワールドに生息するそれではないという事は即座にわかった。

 

 その背中の近くに、アルトリウス達の時と同様に複数の人影が浮遊しているのが見えた。その全員を把握してキリトはこれ以上ないくらいに目を見開く。

 

「ユイちゃん、なんつーレアものを捕まえたんだヨ。流石はあのおねーさんの子だナ」

 

「ユイだけじゃなくて、アタシも頑張ったんだよー!」

 

「ユイとストレアだけじゃありません」

 

「わたしとプレミアも頑張った。セブンとレインに声掛けしたのはわたしとプレミアだもの」

 

「それを言うならわたしもですよ。アーサーさん達をここへ来るよう仕向けたのはわたしです」

 

「みんな、すごいよね。あたし達、皆と同じのはずなのに、同じ事全然できないんだもん」

 

「でも、間に合ってよかった……!」

 

 確認できたのは全員女の子だった。一人は少しぼさぼさしているように見える、金色の髪をショートヘアにしていて、顔に(ネズミ)の髭のような赤い模様を入れている、パーカーらしき軽装を着た少女。

 

 続けて、少し跳ねっけのある白紫の髪で、紫の衣装を纏った胸の大きな赤い目の女の子。更に続けて背丈の低い青みがかった黒髪をショートヘアにした、水色の衣装の女の子と、白い髪と白い服、やや見覚えのある体型をした女の子。更に白銀の長髪をところどころリング状にまとめ、あちこちがタイツ状になっている黒い服を着た女の子。

 

 そんな女の子達に感心しているのは、青みがかった黒髪の上から白い猫耳帽子を被り、白い戦闘服を着た少女。その近くに居るのが、猫耳帽子の少女と同じ色彩の髪をして、青い戦闘服を着た、少し儚げな雰囲気の少女。

 

「あぁーもう! 誰が誰を呼んだのかなんてどうでもいい事だろうが! そんなつまらない事で言い合うな! 理に(かな)ってない!」

 

「ヴァン、そうカリカリするなっテ。エイジとユナを呼んでくれてありがとうナ。オレっちもあの二人をどうやって呼ぶかって思ってたところだったんダ」

 

 よく見ると女の子だけではなかった。一人だけ、黒いセミロングヘアで、黒と水色のポンチョを着た小柄な男の子が混ざっていた。どうにもうるさそうにしているが、黄色の髪の少女がなだめるように声をかけていた。

 

「アルゴ、ストレア、プレミア、ティア、リエーブル、ヴァン……マキとサチも!」

 

 彼女達の名を思わず一人ずつ口にした直後、中央に居る水白紫のドラゴンが(あぎと)を開き、ブレスを連射した。それは間違いなく先程神武の放った弾幕に混ざっていた暗黒弾だった。

 

 アルゴ達までもがこの危機へ()せ参じてくれたのはわかった。だが、あのドラゴンについては依然としてわからないままだ。

 

「パパ――!」

 

 直後、とても心地良い声がして、キリトの意識は一瞬にしてそちらへ向けられた。間もなく小さな少女が空中から舞い降りてきて、そのまま抱き付いてきた。懐かしすぎる温もりの衝突は、ごく最低限の力だけで受け止める事ができた。

 

 ほぼ同時に、先端のみが白色になっている栗色の髪と、法衣のようなデザインの白い衣服が印象的な小柄な少年がアスナの近くに現れたのも見えた。その少年の姿を見つけるなり、アスナが一目散に駆け付けて抱き締める。ユピテルだった。

 

 そしてキリトは目線を下に向ける。黒く長い髪をなびかせ、くりくりとした黒い瞳がたまらなく愛おしい、柔らかいデザインの服を着た少女がそこに居た。

 

「ユイ!!」

 

 その名を呼ぶと、愛娘(まなむすめ)はにんまりと笑った。あまりにも懐かしいその笑顔を目に入れた途端、感動のあまり頭の奥が痺れたようになって、涙が零れてきそうになった。しかし、またしても泣くまでには至らなかった。

 

「これで皆揃ったね。中々に壮観な構図だ」

 

 という、つい先程も聞いた女性の声が聞こえてきたからだ。皆が既に地上へ降り立っている中、一本だけ空に残っていた降臨の柱の中から、一人の女性が降り立ってきた。その姿に驚かされる。

 

 全体はユイと同じ髪色だが、上部はプレミアと同じ色のグラデーションになっている長髪で、クィネラとティアを足したような整った体型に、ストレアと同じ黒子のある大きな胸。腹部を露出したデザインの、白色の上着の上から医者や研究者の白衣を連想させる白いコートを着用し、白いスカートを履いている。そしてその瞳はリランのそれに茶色を混ぜたような赤みの強い茶色。

 

「イリスさん!?」

 

「ええッ!?」

 

 キリトが思わずその名を口にすると、今しがた降臨してきてキリトを驚かせた仲間達も、そちらに向き直って驚いた。彼女までもが現れてくるとは誰も予想していなかったからだ。

 

 キリトにイリスと呼ばれたラースの中枢スタッフは、他の仲間達の時と同様、ふんわりと地上へ降り立つ。

 

「お待たせキリト君。私も力を貸すよ」

 

 イリスはそう言って歩み寄ってきた。そこへ駆け付けたのは、リランとユピテルの二人だった。

 

《アイリ、何故ここへ!?》

 

「今、オーシャン・タートルは襲撃を受けていて、どこも危険じゃないですか! どうやってアンダーワールドへのログインを!?」

 

 《イリスの家系》の長姉(ちょうし)と長男の問いかけは、まさにキリトが聞きたかった事だった。サブコントロールルームにはアミュスフィアを使えるような設備はあったのだろうか。

 

 いや、そもそもあんな狭いサブコントロールルームでアミュスフィアを使ってアンダーワールドへダイブする事を、菊岡(きくおか)凛子(りんこ)先生が許可するのだろうか。

 

 疑問だらけの三人にイリスは涼しい顔で答える。

 

「《自室》からだよ。私の自室はサブコントロールルーム近くにあってね」

 

「そんなところにまで行ける余裕が? 連中はサブコントロールルームまで来てないんですか」

 

 キリトの問いかけにイリスは頷く。

 

「あぁ。襲撃者の連中はサブコントロールルームを見つけられてないんだよ。菊岡さんの言ってたように、サブコントロールルームの周辺は館内マップに記載されてないし、メインコントロールルームからでも位置を特定できないようになってる。

 それにサブコントロールルームへの通路も周囲の壁と同じ見た目の隔壁で閉ざしてあるから、何も知らない連中からすれば、どれが隔壁でどれが普通の壁なのかの判断も付かない。そして仮に隔壁であると理解したとしても、連中の持ってる装備程度じゃ人が一人通れるくらいの穴を開ける事さえ困難だ。もし隔壁に穴を開けられるくらいの威力の爆弾を起爆させようものならば、周りが倒壊して巻き込まれるのがオチさね」

 

あの大海亀(オーシャン・タートル)ってどんだけ丈夫なんですか……」

 

 呆れそうになっているキリトを見て、イリスはにまーっと笑った。サブコントロールルームの心配はする必要がないから思う存分振る舞えという意思表示だった。

 

《キリト君、聞こえるね!?》

 

 空から声が聞こえてきた。男の声色だ。イリス/芹澤(せりざわ)愛莉(あいり)比嘉(ひが)、凛子先生の居るサブコントロールルームへ自分達を避難させてくれた、菊岡で間違いなかった。

 

「菊岡さん、イリス先生が……愛莉先生がログインしてきてるんですが!?」

 

《ラースからのサポーターとして、愛莉博士にそちらへ向かってもらったんだ。彼女はラースのスタッフの中で、君達との繋がりが最も強い人だからね》

 

 何だか腑に落ちないほど簡潔な説明だった。だが、言われてみれば状況も状況だ。ラースのスタッフの一人がこちらへ来てくれているというのは、ありがたい支援だった。

 

《もう通信は()たない。最後に、アリスが連れて行かれた場所について伝える。ワールドエンドオールター……別名《果ての祭壇》だ。そこにあるコンソールから彼女は連れ去られようとしている。ベクタが向かっていった方向をそのまま進め! やがて《浮島地帯》に辿り着く。その先が《果ての祭壇》だ!》

 

 そこまで聞いたところで、菊岡との通信が一気に不安定化した。そして《すまないが、健闘を祈る》という言葉が辛うじて聞き取れた直後に、彼からの声は何も聞こえなくなった。通信が切られてしまったようだ。メインコントロールルームを占拠した襲撃者達からの妨害なのだろうか。

 

 愛莉/イリス(いわ)くメインコントロールルームからサブコントロールルームを見つける事はできないという話だが、連中は恐らく、サブコントロールルームが存在している事には気付いているはず。だからこそ、こうやって妨害工作を仕掛けてきている――という事なのだろう。

 

 しかし、どんなに操作をしても、その位置を把握する事ができないから、相当に苛立っているのも事実であろう。妨害工作はどんどん苛烈になっていくに違いない。この先、如何なる障害が突然立ちはだかってきたとしても不思議ではないだろうが、果たして連中がそこまでのクラッキングをできるのかは疑問だった。

 

「最高の援軍をありがとう、菊岡さん。目的地は《果ての祭壇》だな!」

 

 キリトは顔を上げ、数年ぶりとなる号令と指示を皆に伝えようとしたが、そこで思い出した事があった。周囲を満たす《EGO化身態》の群れだ。アリスを(さら)って満足顔をしてそうな暗黒神ベクタと、《使い魔》である黒龍ジブリルによって《EGO化身態》に変えられた人々と、神々の加護と支援を受けた兵士達の戦いはまだ続いている。

 

 戦況は相変わらず《EGO化身態》の群れの方が優勢のようだった。その光景を目にするなり、アスナが良く通る大きな声を出す。

 

「スーパーアカウントを使っている皆に通達します! 周囲の兵士さん達を襲っている怪物を倒してください! あれは暗黒神ベクタという悪人のせいで怪物に変えられてしまった人々なんです!」

 

「怪物は、スーパーアカウントの鍵でもある武器からの攻撃に弱いんです! その力を使って、一刻も早く怪物を全部倒してください! 怪物に変えられてしまった人々は、こうしている間にも苦しんでいるんです!」

 

 アスナに続いてリーファが事実を告げると、驚く者と戦闘態勢に入る者の二つに分かれた。しかしすぐさま、驚いていた者達も戦闘態勢となる。全員がやるべき事を確認して、取りかかろうとしてくれているのがわかった。

 

「キリト、どう攻める? ううん、どう動く?」

 

 《太陽神ソルス》となっている最愛の人であるシノンが再び隣に並んできた。シノンの濃密な《EGO》の波動が全身に伝わってくる。

 

 キリトは咄嗟に頭の中でスーパーアカウント使用者の数を数えた。アスナの使う《創世神ステイシア》から始まり、エイジの使う《雷剣将カズチイクサ》まで十二人。

 

 暴れ狂う《EGO化身態》の数と比べれば何百分の一であるが、その一人一人の力は先程も目にした通りだ。彼女達に力を振るってもらえば、地平線を埋め尽くす《EGO化身態》の大軍団だって一網打尽にできるだろう。

 

 ここは一旦、アスナ達に任せよう――と思ったところで、キリトは再び思い出した。アリスを連れ去った暗黒神ベクタの中身だ。

 

「よーし、怪物達を全部倒せばいいんだね! それならボクとカイムにお任せ――」

 

「待ってくれ、ユウキにカイム!」

 

 今すぐにでも《EGO化身態》の群れに飛び込んでいこうと勢い付いていたユウキと、その隣で静かに構えているカイムに呼びかけた。

 

 ユウキは急な呼び声に驚いたような、カイムは「ん?」という薄いリアクションをして、振り向いてきた。キリトはそちらへ向かおうとしたが、しかしユウキとカイムは、それよりも前にキリトのところへと駆け寄ってきた。

 

「どうしたの、キリト」

 

 ユウキは不思議そうな顔で、キリトの顔を(のぞ)き込むような仕草を見せている。一方のカイムはというと、何か重要な事に気付いて身構えているような顔をしていた。

 

「わざわざ呼んだって事は、何かあるんだよね」

 

「話が早くて助かる。その通りだ」

 

 キリトはこれから実行に移す作戦を二人に話した。キリトとシノンとリラン、ユージオ、冬追(フユオイ)と共に、アリスという()を取り戻すべく《果ての祭壇》へ向かう事。アリスを連れ去ったのは暗黒神ベクタという悪人である事を。

 

 カイムは腕組をしながら、ユウキはどこかきょとんとしているような顔で話を聞いてくれていた。そうして最も肝心な部分に差し掛かろうとしたタイミングで、カイムが尋ねてくる。

 

「その暗黒神ベクタって奴が、この酷い状況を作り上げた元凶って思ってるんだけど、合ってる?」

 

「それだけじゃない。ベクタは……サトライザーだ」

 

 キリトが最重要部を伝えたところ、ユウキの様子が一変した。その赤色の瞳が一気に見開かれると同時に目全体が据わり、表情が無表情へ近付く。キリトの知る天真爛漫(てんしんらんまん)なユウキの姿はごく短時間のうちに消えていった。

 

「……本当なの、キリト」

 

 いつにもなく鋭くて冷たい声でユウキは尋ねてきた。可能であれば、今のは冗談だと言って、彼女をいつもの彼女に戻してやりたいところだったが、そうしたところで現実は変わってはくれない。どんなに認めないようにしても、あの暗黒神ベクタの中身がサトライザーであるという事実は揺るがない。

 

 キリトは頷くしかなかった。

 

「あぁ。あのサトライザーが、今まさにアリスを攫ってる張本人だ。今すぐにあいつに追い付いて、倒さないといけない。もしあいつが《果ての祭壇》でアリスと一緒にログアウトしようものなら、取り返しの付かない事になる。だから――」

 

 最後まで言えなかった。ユウキが自身の《EGO》を構え直したからだ。

 

「――行こうカイム、キリト」

 

 




――原作との相違点――

・セブン、レイン、ユナ、エイジが神アカウントを使っている。

・アルトリウス(フェイタルバレット主人公)、サチ、ディアベルが参戦している。


――くだらないネタ オリキャライメージCV――

 ヴァン⇒水瀬いのりさん

 マキ⇒喜多村英梨さん

 アルトリウス⇒梶裕貴さん

 
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