01:次ノ手
「ぬ……」
小さな声を零しつつ、ガブリエル・ミラーは上半身を起こした。視線を巡らせると、そこは薄暗い部屋だった。
背後にあるのは巨大な装置で、座っているのは寝心地も座り心地もそれなりに良いジェルベッドの上。アンダーワールドから現実世界へ戻ってきていた。ガブリエルは支えるような手を顔にあてて「ほぅ」と小さく呟いた。
予想外の帰還、いや、
だというのに、結果はどうだ。自分は《絶剣》とその兄にしてやられ、ついに敗北を喫させられた。完全に予想外の結末だった。その事実を受け入れたつもりで現実へ戻ったが、敗北の驚きは今もなお残っていた。
「よもや、《絶剣》に負ける日が来るとは……」
しかし、こうして足踏みをしている暇などない。
ついに見つけた。愛する人は確かに、あのアンダーワールドに居た。そして捕らえた。
アリスと名を変えていた彼女は、自分の事を忘れてしまっていたようだったが、本当にそうだったのかは
きっと彼女はまた自由の身になって、どこかへ行ってしまったのだろう。取り戻さなければならない。
「んん?」
ジェルベッドから音を出さず降りたところ、隣接するもう一台の巨大装置――《
二人揃って、彼らにしてやられたようだ。ヴァサゴも《上官》から《使い魔》をもらったという話だったが、それさえも彼らは退けたようだ。
「やるじゃないか」
ふふっと薄笑いした後、ガブリエルはメインコントロール・ルームへ戻った。最初に目に入ったのは、金髪の坊主頭の隊員がコンソールに向かってキーボードを叩いている光景だった。ガブリエル
「あぁ、お疲れです、隊長。いやー、やられちまいましたねぇー」
まるで緊張感というモノがない。元々の人柄もあるが、彼はあちらにダイブせずコンソールで色々な情報を見ているだけだったので、それくらいしか言える事がないのだろう。
「まさか、負けるとは思ってもみなかったぞ。《絶剣》があそこまでの力を付けているとは……」
「ゼッケン? なんすかそれ」
「気にする必要はない」
そう言ってガブリエルはクリッターの見るコンソールに目を向けようとしたが、その前に耳へ飛び込んできた声があった。
「おいおい、そんなに落ち込むなっての。お前の力はよくわかった。お前は強い《使い魔》だ。さっきのは少し状況が悪かっただけだ。っていうか、お前の方が最後まで残ってたろ」
ガブリエルはそちらを見た。ヴァサゴが居た。耳にスマートフォンを当てて、いつもの彼らしい喋り方とテンションで誰かと会話している。話し方からして、相手は《上官》ではなさそうだ。
「ったく、お前って可愛いな。少し待っててくれや。もうすぐまたあっちに行けるからよ」
ガブリエルはいつの間にか目を半開きにしていた。クリッターが振り向いて、同じようにヴァサゴへ顔を向ける。
「ヴァサゴの奴帰ってくるなり、あんなふうに通話してるんですよ。スマホからは、なんか可愛い女の子の声聞こえてくるんですよね。どっちも言葉が英語じゃなくて日本語っぽいんで、何言ってるかさっぱりですけど。日本語じゃなくて英語で話せっての」
ガブリエルは短く鼻を鳴らした。クリッターは自分やヴァサゴのように日本語を聞いて理解し、話す事はできない。ヴァサゴが知らない相手と日本語で会話をしていたら、不気味にも思うだろう。
「ねぇ隊長。ヴァサゴの奴、女の子と日本語で何を話してるんですか。どういった内容で?」
「聞かない方がいい。お前の事だから吐き気を
クリッターは「うぇ……そんな話してんのかよ」と小さく言った。ガブリエル自身はどうとも思っていないが、クリッターがヴァサゴの会話内容を聞けば、今言った通りになるだろう。そんなくだらない考えを振り払うように、ガブリエルはクリッターに言葉をかけた。
「それで、プランBの
クリッターは眉と口角を上げた。
「順調ですよ。URLは隊長達がダイブしている間に出来上がりました。もう既にアメリカの超大手ゲームコミュニティに飛ばしてあります。チェックしてみてくださいよ」
そう言ってクリッターはコンソールへ軽い操作を加え、眼前にあるモニタの一角に一つのサイトを表示させた。
なんともそれを好む者達が使いそうな刺激的なフォントが並び、飛び散る鮮血のエフェクトまで丁寧に用意されている。書かれている文言のうち、最初に目に飛び込んできたのは、新規VRMMOタイトルの時限ベータテストの開催という文章。
史上初の殺戮特化型PvPゲームがここに爆誕。完全人間型・亜人型アバターを使用し、レーティング、倫理コードは全て未実装。鮮血は飛沫となって舞い、手足が千切れ、臓腑がぶちまけられる。現代の法規制に飽き飽きしたサディスト達よ、諸君の望む残虐がここにある。全てを殺戮して日頃のストレスを忘れよう――そういった物々しい文言が簡潔に、しかし興奮を誘う書き方で書かれていた。
「どうですか? 個人的に『現代の法規制の飽き飽きしたサディスト達よ』のところがお気に入りなんですよね」
「ふむ、問題ないな。十分にフラストレーションを抱えたアメリカ人達を呼び寄せられるだろう。効果は?」
クリッターは笑みを浮かべる。とても悪人らしい笑みの仕方だ。
「もう既にありとあらゆるSNSで大拡散! 隊長が用意した《入口》は無数のユーザー達にコピーされて、再アップロードされて、収集付きませんね! 何だかネット回線がどこもかしこも悪いような感じもしますけれど、もう既に三万……いえ、五万ダウンロードはされてます」
興奮気味のクリッターはモニターに再度視線を向ける。そしてその目を細くした後に、見開いた。
「あっ、間違えました。もう十万ダウンロードされてました。まだまだ増えていきますよ。すごいですねこれ」
「十万人か……そう言えば、目的地の確認をしていなかったな……」
あれだけ現実世界と差のない仮想世界に居たせいか、
スマートフォンが着信を受けていた。ガブリエルはディスプレイに表示されている名を確かめ、一拍置いて通話に応じた。
《ごきげんよう、マスター》
耳に入り込んできたのは、電子的な響きを一切感じない少女の甘い声。その真実の見た目を知ると、ガブリエルすらギャップのせいで数秒動けなくなる《使い魔》が相手だった。
「ジブリル、無事だったのか」
《マスター、お優しいですわね。まさか、わたくしの心配をしてくださっていただなんて》
スマートフォンの向こうのジブリルは感動を覚えているようだった。しかし今は興味もないし、確認している時間すら惜しい。
「現状を話すぞ。私はミスをした。帝都オブシディアの面積を調べないまま戦争に赴いたというのがそれだ。率直に聞くぞ。お前、帝都オブシディアの面積はわかるな?」
《はい。帝都オブシディアの事でしたら、全て把握しております。どこが工業区や商業区や住宅地区なのか、全部わかりますわ》
「ならば、帝都オブシディアを襲撃するのに、十万人以上の兵士を向かわせるのは十分と言えるか」
ジブリルの「うふふ」という声が聞こえた。見た男を骨抜きにするに違いない黒い髪の小さな乙女の微笑みが脳裏に浮かぶ。
《大軍勢でオブシディアを襲うのですね。良い作戦ですわ。けれども、オブシディアにはキリトさま達が在留している可能性が極めて高いです。あの人達を相手にするとなると、十万人程度の軍勢では心細いですわ。十万人健在で仕掛けても、あっという間に九万、八万、五万人と減ってしまわれるかもしれません。せめて、二十万人や三十万人くらいいらっしゃれば……》
確かに《絶剣》とその兄を含め、結構な数のスーパーアカウント持ちが現れて戦況がひっくり返されたようなものだった。あれらが一時的な救援だったとは思えない。その後もオブシディアに滞在し、実質的な防衛に入っているのだろう。
そして暗黒界の者達は自分達がダイブしている間に洗脳を解き、
「まだそんなに必要か……今すぐにでもダイブしなければならないのだがな」
「あの、隊長まで女の子と話してるんですか」
ガブリエルは「ん」と言ってそちらを見た。クリッターが目を半開きにしてこちらを見ている。
「相棒と話をしているだけだ。気にしなくていい」
「その割にはボリューム大きいですし、英語ですね。ヴァサゴと違って何の話をしているか丸わかりなんですけど」
「聞こえていたか。ならば話が早くて助かるぞ。アメリカ人プレイヤーの十万人では足りない。この二倍から三倍が居ると安心らしいぞ」
クリッターはびっくりした顔になる。まだ十万から二十万人も必要なのかと衝撃を受けているらしい。
コンソールのモニタを見たところ、《入口》のダウンロード数が十二万を超えていた。しかし増え方はスローペースに入っている。
「おうおう、数の問題か? じゃあ心配ねえよ」
そう言って割り込んできたのはヴァサゴだった。スマートフォンは手元にないので、《使い魔》との通話は終わったようだ。そしていつも通りテンションは高めである。
「クリッター、プランBはこれだけでいいんだ。途中で上手くいかなくなりそうなのは想定済みなんだよ」
クリッターは「はぁ?」と、わけのわからないものを見せられているような顔をする。しかし、ヴァサゴの言う通りである。プランAは暗黒神ベクタである自分とジブリル、そしてヴァサゴとアガレスの四名で暗黒界の全てを掌握し、人界軍を滅ぼした後にアリスを奪取するという作戦だった。
プランAはこうして自分達が現実世界に帰ってきているので失敗。プランBはこのプランAが失敗した場合に取る次の手段として考えていたものであり、ある種の保険だった。
その保険を使わなければならないのが現状だが――しかし、この保険としてのプランBは、プランAよりも強力で成功率が高いと考えている。
「どういう事だよ。プランCもあるってか?」
クリッターの問いかけにガブリエルは答える。
「違う。お前にやってもらったのはプランBの前半だ」
「えっ、前半?」と振り返るクリッターに、今度はヴァサゴがスマートフォン片手に答える。
「今からコンソールに、プランB後半のやり方を送るぜ。オレ達が再度ダイブして、アメリカの奴らが減り始めたら、これをやれ」
クリッターは「はぁ……」と溜息交じりで言った。今度はなんだよとでも言いたそうだ。サイバー作戦とはこういうものだというのは、お前が一番わかっている事だろうに――ガブリエルはそう言いたかったが、それを遮ったのがジブリルの声だった。
《マスター、もう一度アンダーワールドへ飛び込まれるのですね》
「そうだ。目的を達していないからな。……ついに見つけたのだ、引き下がるつもりはない」
《そうですわね。それでこそわたくしのマスターです》
弾んだ声でジブリルはそう言い、更に続けた。
《ですが、例えマスターの実力を持ってしても、キリトさま達の猛攻をしのぎ切るのは困難だと申し上げますわ。勿論マスターのお力を信じていないわけではありませんが、それでもキリトさま達は本当の強敵です》
「……そうだな。現に私も《絶剣》に敗れたからな。ヴァサゴもアガレスも彼ら相手に敗北を喫している」
身体から魂を切り離して上から
《でも、大丈夫ですわよマスター。とっておきがありますので。マスターの分と、ヴァサゴさまの分のとっておきが……》
ガブリエルは首を少し
ドロシーの覚醒と人界と暗黒界の和平を祝う食事会の翌日、キリトは街を散策していた。いつもは隣にシノンとリランが居るものだが、今回シノンは他の女の子達と予定があるらしく、居なかった。
そしてリランはそもそも最初から居ない。どこへ行ったのだろうかとも思ったが、リランは自分の《使い魔》であるものの、女の子だ。一人でどこかへ行きたい時だってあるのだろう。
時間になればちゃんと戻ってくる事も、これまでの彼女との日々でよくわかっている。今回もそれだろう。そう思い、キリトは一人で街をぶらついた。
街――帝都オブシディアの様子は数日前と変わっていない。多くの人々が行き交い、朝方から喧噪で街そのものを満たしている。誰もが楽しそうだ。戦争が起こる前はこうではなかったのだろう。
しかし困った事に、そんな街中をぶらつくにしても、行くべきところも、やるべき事も思い付かない。ここにシノンが居てくれたなら、ユイやルコ、或いはシノンのための服飾品を探したりなどができただろう。自分が思っていた以上に、彼女達を頼っていたのだと気付く。
「……まぁ、そうだよね。このままじゃ……どこまでも離れていっちゃうよね……」
色々思考を巡らせながら歩みを進めていたその時、ふと耳に声がした。街は良い意味で騒がしいのだが、その中でもはっきり聞こえたのは、それがとても聞き慣れたものだったからだ。
「でも、結局そうなんだよね……仕方がない事だよ……だって……」
導かれるように歩いて一分未満。声の主が見つかった。そこはバルコニー席のある喫茶店で、その椅子の一つに腰を掛けている少女が一人。アリス達とはまた異なる金色の長髪に紅玉のような赤い瞳。そして、この前購入した衣装ではなく、普段着である紅色のコートを纏っている。
普段ならばキリトと共に居るリランだった。てっきり空でも飛んでいるのかと思っていたので、こうして地上で普通にしているのは予想外だった。
「リラン」
「わあッ!?」
リランの不意打ちを受けたかのような反応に、キリトも驚かされた。
「あぁ、すまん。驚かせたか」
「あ、当たり前でしょ――あ、違う、当たり前であろうが! 急に声を掛けるでないわ」
キリトはもう一度驚かされる。これまでリランは、急に声を掛けても「うん?」とか「ぬ?」などと言って動じず冷静に反応する傾向にあった。こんな反応をされたのは初めてかもしれない。異変のように感じられて、キリトは詳細を尋ねようとしたが、リランの方が早かった。
「……今の我の声、聞こえていた……か?」
「あぁ。なんか、仕方がない事だとか聞こえていたような」
「そのくらいしか聞こえておらぬかったか」
「うん」
リランは小さく息を吐き、視線を伏せた。キリトはリランの対面の席に座った。
「どうしたよ、リラン。そんなに大きな溜息なんて吐いて」
「……」
「なんか疲れるような事でもあったか? それともここ最近戦えてないからフラストレーション溜まってるとか?」
とりあえず、これまでのリランがこうしている時の事を思い出しながら、尋ねてみる。しかしどれも外れのようで、リランは答えてくれなかった。
「……キリト」
「うん?」
「我はどうやら、変わったらしい」
「変わったって、何が?」
リランは頬杖を付き、テーブルに置かれたカップを見下ろした。入っていたであろう飲み物は既に三分の一ほどの量になっている。
「この世界で過ごしているうちに、我は悩む事ができるようになったようだ。これまでは悩んだりなどしなかったものなのだがな」
アンダーワールドに来てから、少しずつではあるがリランにもユピテルにもこれまでにはない変化が見受けられるようになった。まるで本当に居るべき世界に居るかのように伸び伸びとしていたり、得意だった事がより得意になったりなど、成長というよりも進化を思わせる変化を起こしている。
「お前、悩むのか……いや、悩めるようになったのか……!?」
「……そういう事らしい」
「じゃあ、その悩みっていうのは何なんだ」
「……人間関係……というものだ」
キリトは首を傾げた。リランは続ける。
「困っているのだ。我は今とある子と、今よりもう少し……いや、もっと仲良くなりたいと思っている」
「友達か、誰かか?」
「ともだち……ああ、そうだな。そうなるな。仲の良い友人だ」
リランは顔を上げる。魔界のそれと言ってよい色相の空が広がっていた。
「その子には、我よりも仲の良い子が居る。それはそうだ。我よりも
キリトは聞いた情報を頭の中で纏め上げていた。同じ種族で、似た者同士――まだ断片的だが、恐らく暗黒界の亜人達の事を指しているのだろう。自分達が暗黒界へやってきてから、それなりの日数は経過しているものの、それでもまだ浅い方に入る。暗黒界の者達と自分達が共に過ごしている時間はまだまだ短いのだ。
「何だか深刻そうだな」
「あぁそうだ。勿論その相手の子とも、我は友人関係だ。だから、我が入り込めば、きっと二人の仲を引き裂く事になるだろう。そんな事はしてはならない。あってはならぬ事なのだ」
リランらしいな――キリトはそう思った。やはりイリスの家系の
「リラン、重く考えすぎだ。俺だったら、二人の仲に入って、一緒に仲良くやろうぜって感じになると思うけど」
キリトの言葉を受けたリランは顔を戻す。しかし、またカップを見下ろす。先程から一向にこちらを見ようとしていない。
「勿論、それは一つの理想ではある。まぁ結局のところ、我は二人とも好きなのだ。二人に同時に嫌われるのだけは、絶対に嫌だ」
キリトはまたしても驚かされる。リランの表情があまりにも真に迫っているそれだったからだ。こういう顔をしているという事は、心の底から願っている事を口にしているというのを意味している。
「リランもその子も、その子の友達も、一緒に仲良くなれたら良いのに。三人で賑やかなのも良いと思うぜ」
キリトにそう言われたリランは、ようやく顔に微笑みを浮かべた。
「そうだな……ここ最近は多くないが、三人で一緒に遊ぶ事もあるし、そういった時は我もとても楽しいものだ。その子の友達とも、まぁ、仲良くやっている方だな」
「おぉ、いいじゃないか。優しいんだな、その子も、その子の友達も」
そう言うと、今度は一気にリランの表情が曇った。
「あぁ、それはもう。息ぴったりというレベルではない。まるで、この世自体がその二人を引き合わせるべく動いたのではないかと思ってしまうくらいの仲良しで……本当に羨ましい」
誇張じゃないかと言いたくなったが、キリトはそれを呑み込んだ。リランの羨望の表情が、その二人について言った事が誇張でない事を語っていたのだ。
「お前がそう言うのなら、よっぽどなんだな……」
「本当にな……だが困った事に、その子は……その子は、わたしからの好意には、なかなか気付いてくれないみたいで」
キリトは、はっきりとした違和感を覚えた。今、リランが《素の口調》に戻った。リランは余程の事がない限りはこうはならない娘なのだが、リランを《素の口調》にさせる友人とはいったい何者なのか。
そして何故、ここまでのリランの好意というものにその人は気付かないのか。
「なんで気付かないかなぁ。リランはそういうのが下手じゃないって、俺保証できるんだけど」
直後、リランは手で顔を覆った。急な仕草にキリトはびっくりする。
「お、おいリラン、どうした」
「……結論が出た」
リランは静かな声で言った。周囲の音にかき消されそうな声量だったが、キリトは聞き逃さなかった。
「結論? 何の?」
「
リランはもう一度静かな声で言うと、力強くカップを掴んで、ぐいっと中身を飲み干した。静からの動の激しい移り変わりにキリトはまたまた驚かされる。更にリランが立ち上がったのが、そこに拍車をかけた。
「おいリラン、さっきから何なんだよお前!? 今度はどこへ行くつもりだ?」
「茶を飲んでいたら腹が減った。孤独に食事を楽しんでくる」
そう言ってリランは急ぎ足でその場を去っていった。追いかけようとも思ったが、その時既に後ろ姿さえも見えなくなっていた。ずかずかと、苛立ちを隠さない足取りだった。
「リラン……」
キリトはリランへ差し伸べていた手を下ろした。そのまま脳裏にリランを思い浮かべる。
リランは相棒だ。そして大切な家族の一人だと言える。けれども、今のようにリランは何を考えているのか、何をどう思っているのかわからない事が多い。自分は既にある程度理解できるようになってきているものの、思っている事、考えている事の複雑さではシノンに匹敵するか、或いはそれ以上かもしれない。
「なんなんだよ、お前……」
やはり追いかけて問い詰めてみるべきか。それとも一人の女の子としてそっとしておくべきか。二つの選択肢の前に板挟みになりかけた、その時だった。
ずん、という《重さ》が突然身体に覆い被さるように襲い掛かって来た。
「えっ……」
キリトははっとして意識をその場に取り戻した。焦りが胸の内から湧いてきて、周囲を見回してみる。待ちゆく人々や露天商の店員達などに変化は見られない。誰もが何事もなかったように歩くなどして、各々の日常を過ごしている。
だが、気のせいだったとは思えない。今、確かに何かが起きた。このアンダーワールドという世界そのものに、何かが起きた。そうでなければ、この止まらない胸騒ぎの正体はなんだというのだ。
「なんだ、今のは……」
キリトはそう独り言ちて、遠くを見ようとした。しかし帝都オブシディアの街並み、外壁、人の群れがその視界を塞いできて、何も見えなかった。
――くだらないネタ オリキャライメージCV――
リラン(少女形態)⇒水樹奈々さん
ジブリル⇒斎藤千和さん