また、特定の国家や国民を誹謗中傷したり、特定の政治的思想を助長したりする意図は一切ございません。あくまで創作の中の出来事としてお読みください。
「へへっ、来やがった来やがった」
リーダーでもあり、
普段はこんなに臆病だが、いざ戦いとなればヴァサゴの手に負えないほど凶暴且つ強大な存在となるアガレス。そのギャップが可愛らしいったらありはしない。再ログイン時と同様にその頭をくしゃくしゃと撫でてやると、アガレスは「ひゃあ」とびっくりしたような声を出した。
そんな事をしていると、空から赤い光の束が降り注いできた。よく見ると赤い数字の羅列であるそれは、瞬く間に人間の姿へと変わっていった。今まさにブラッキー達と交戦しているレッドアーマーだった。フルフェイスのヘルメットを着用しているために一人一人の顔は確認できない。それが次から次へとヴァサゴ達の前方に召喚され、列を作っていく様は、まるで工場のラインを流れる製品の群れのようだった。
最初に確認できた数は百人程度だった。数秒後には二百、四百となり、あっという間に千人を超え、二千人に到達し――その辺りでヴァサゴは面倒くささに襲われて数えるのを止めた。
そういうのが得意らしいアガレスに聞いてみると、彼女はヴァサゴの脚から離れ、指で野鳥を数えるような仕草をした。
おいおい、目視で数えるつもりか――ヴァサゴが一瞬焦りを覚えたところ、アガレスは答えてきた。目の前にいるレッドアーマーの数は、十万人。どうやって答えを導き出したのかは聞かなかった。集まっているレッドアーマー達が混乱しているような声を出して、周囲をきょろきょろ見回し始めたからだ。
せっかく集めたのに、このままでは
「同胞達よ! 勇ましき戦士達よ!」
それまで混乱気味だったレッドアーマー達は静まり返り、ヴァサゴに注目した。やはりどいつもこいつも顔が見えないが、どうでもいい。
「我らの呼びかけに応じてくれて、深く感謝している! しかし残念ながら、この場所でテストプレイをしていたアルファテスター達は日本人の侵入者――いや侵略者によって既に全滅した。皆殺しにされてしまったんだ! しかもあいつらはそれだけで飽き足らず、別のテスト場所へ移動し、また同じ事をしようとしている!」
そう告げた直後、ぶわっと雰囲気が変わった。無数のレッドアーマー達から憤怒と憎悪と――恨みのオーラが立ち込め始めた。
「日本人どもめ……調子に乗りやがって!!」
その叫びが火種となった。レッドアーマー達は地を揺るがすほどの怒声を出し始め、今にも突撃していかんと勢い付き始めた。そうだ、その調子でもっと
「そうだ! 日本人達は調子に乗っている。我らを
レッドアーマー達が「なんだとぉ!」や「くそが!」などの怒声を上げ始める。集まっている十万人全員が言っているようだ。あまりの声量に耐えかねたのか、アガレスが両手で耳を塞いでいる。
「その意気だ、同胞達よ! だが一旦鎮まってくれ! オレの話を聞いてくれ!」
普段ならば絶対に出す事のない、心に訴えかける声色でヴァサゴは呼びかけた。怒り心頭のレッドアーマー達はその叫びをぴたりと止め、ヴァサゴを仰ぎ見た。同時にアガレスも手を耳から離す。
「日本人達は非常に強大だ。しかし、思い出せ! 今の我らの国の有り様を! 職を、行き場を、富を理不尽に奪われ、飢えて苦しむ同胞を! 助けを求めて
レッドアーマー達が再び「おおおおおおおッ!!」と怒声を上げ始める。エンジンがかかってきた。いや、既にアクセルを踏めば一気に加速して走り出すほどになっている。そのアクセルを、ヴァサゴは踏んでやった。
「君達の正義と愛国心は、どんな剣にも鎧にも魔法にも負けないはずだ! 今こそ、奪われたモノを取り返し、繁栄を取り戻す時だ!」
そしてヴァサゴは右腕を突き上げて、最後の言葉を一段と良く通る声で告げた。
「愛国者達よ、我らの国を守るぞッ!!」
「GO!!」と最後の一押しを言ってやろうとしたが、ボルテージが頂点に達したレッドアーマー達はその言葉より先に戦場へ駆けていった。十万人もの動員であったために、その足音は地鳴りと化し、起こる震動は比較的小規模な地震に匹敵するくらいのものになっていった。
怒り、猛り狂って都方面へ向かっていくレッドアーマー達の後ろ姿を――ヴァサゴはただ見つめていた。
彼らが自分の言葉を素直に聞いたのは、自分の頭上にリーダーを示すカーソルが出ていたためだ。そしてレッドアーマー達は、始めに動かなければならないはずのリーダーが動いていない事に気付かないまま向かっていったようだ。
一匹の巨大な生物のようになって突撃していったレッドアーマーの軍勢は、今に都を守ろうと奮闘している者達と激突し――最大限のカオスを引き起こすだろう。想像するだけで笑いが出てきそうだった。
「あの、マスター……」
演説中ずっと無言だった――というよりも怖がって喋れなかったのだろう――アガレスが、服の
「アガレス、オレの演説どうだったよ? カッコよかっただろ?」
アガレスは
「……今のマスターの話って本当ですか……? あの人達の富や繁栄を、日本人が奪い取ったっていうのは……」
ついに限界が来た。ヴァサゴは
「ふっははははははははははは!」
なんとか抑えつけていたものだから余計に止まらず、腹が痛くなるのを通り越して内臓がひっくり返ってしまいそうだ。その中でアガレスはきょとん顔でこちらを見ている。マスターの身に何が起きているのかわからず、混乱しているかのようだ。
そんな彼女を見ているうちに笑いが収まり、ようやく答えられた。
「真に受けんなアガレス。んなわけねーだろ。《BOSS》から教えてもらった『人間を憎悪に呑み込ませたい時に一番よく効く言い分』を言っただけだ」
アガレスは「えっ?」と言って目を丸くした。その真実をヴァサゴは教えてやった。
ヴァサゴ・カザルスが《BOSS》から指示を受け取り、韓国を発ってアメリカへ向かおうとした時、国内は騒乱の真っただ中だった。なんだよこの状況――そう思ったヴァサゴは《BOSS》から時間をもらい、ある程度情勢を調べた。
韓国は元々、日本との間にいくつも《パイプ》を持っていた。一方的なものではなく、韓国と日本のどちらにも利益の出る《パイプ》だ。それによって、韓国も日本も国を互いに潤していた。
ところがある時、《BOSS》を同じくする《
これだけでも十分に
韓国から日本企業は姿を消し、日本からも韓国企業は消えた。互いを結ぶ契約は全て切られ、繋がりそのものが絶たれたに等しい状態となった。結果、日本との《パイプ》が繋がっている事を前提に政策を考えていたらしい政府は大いに混乱し、そのしわ寄せが国民を襲った。
あちこちで企業や会社の倒産が起こり、行き場を奪われた失業者が街に
何の予兆もなく何もかもが悪化し、不幸と困窮を突然押し付けられた者達の混乱が、激しい怒りに変わるのに時間はかからなかった。
やがて、その矛先は政府へ向いた。誰もが己が不幸は政府の失策のせいだと思っていたので、当然の事だった。
怒り狂う自国民の雪崩を恐れた政府は、「発端は日本が勝手にやった事だ。君達の不幸は日本人がもたらした。何もかも日本人のせいなのだ」と釈明した。
勿論、韓国内には日本と
明日を生きる糧さえ奪われつつある者達は、「外敵によってそうなった」という
そうして、韓国内は日本を憎悪する者達とそれを疑問視、否定する者達で二分されてしまった――らしいというのがわかったところで、ヴァサゴは韓国を出てアメリカへ渡った。中国も似たような有様になっているという話は、アメリカで《BOSS》から連絡を受けた際に知った。
だからこそだ。日本人が一方的に破壊活動や
冷静になって立ち止まり、こちらを疑ってくる者も少しくらい居るのではないかと思っていた。しかし現実は――全滅だった。やってきたレッドアーマー達の中に、憎悪に支配されていない者は一人も居なかった。
《BOSS》の予想の中で最悪のケースが、現実となった。
「しかもこれで終わりじゃねえんだよなぁ……」
ヴァサゴはそう言ってレッドアーマー達が向かっていった方を見た。米粒くらいにまで小さくなっているそれらは既に《憎むべき敵》と交戦を開始していた。
さて、レッドアーマー達にとっての《憎むべき敵》はどうなるか。もしここが普通のVRMMOであれば、ただの滑稽な殺し合いが起こるに過ぎなかっただろう。だが、この世界でこれから起こる事は――。
ヴァサゴは「くくく」と笑った後に、戦場に背中を向けた。
「アガレス、オレ達も《兄弟》達が先に行った《収束地》に向かうぞ」
アガレスは首を
暴虐を働き、
こいつらを追い出しきれるのは時間の問題、もう少しだけだ――そう思ってキリトは身体に力を漲らせ、赤鎧達を斬り伏せていった。アンダーワールド連合軍の全員が、目前に勝利が迫っていると信じていた。
だが、状況は一変した。禍々しい赤い光の束が空から無数に降りてきて、そこから同じ数の赤鎧達が現れた。それらは一目散にこちらへ向かってくるなり、戦闘中のアメリカ人プレイヤー達を押し
「What the hell!? What are these guys!?」
「What the hell is wrong with you!? S-stop it!」
アンダーワールド連合軍と交戦していたアメリカ人プレイヤーが、また英語で何かを言っていた。口ぶりからして、焦って混乱しているのは確かだ。キリトはすぐ近くにいるリランへ尋ねる。
「リラン、アメリカの連中は何を言っているんだ」
《『なんだ、何なんだこいつらは!?』、『何なんだお前ら!? や、やめろ!』だ……》
リランの送ってきた《声》はかなりか細かった。現状にひどく驚いて、そんな《声》しか出せなくなっているらしい。
その直後、戸惑って動けずにいるアメリカ人プレイヤー達を、あろう事か新たに現れた赤鎧達が各々の得物で薙ぎ倒していった。障害物を除去するかのような、荒々しく乱暴な動作だった。
そしてアメリカ人プレイヤー達から吹き出た鮮血でその身を汚した赤鎧達は、日本からの現実世界プレイヤー達へ襲いかかった。現実世界プレイヤー達は迎撃態勢を取ったものの、不完全だった。新たな赤鎧達が同胞を斬り殺した上で襲ってきているという光景には混乱せずにはいられないのだ。
「ウッチュルデジ・マラ、ピヨラン・イルボンノムドラ!」
「カミ・ウリエ・イルッチャリワ・ブルル・ペアッコ・カジョットゥルル・クムギダニ! ノヒドゥル・ッテムネ・ウリヌン・イミ・オンマンジンチャンイヤ!!」
「バー・ウォメン・ダ・ファンロン・ホァンゲイ・ウォ! バー・ニーメン・ダ・イーチェ・ドウ・ジャオチューライ、ラン・ウォメン・ダ・グォジャー・ホイフゥ・ユァンヂュゥァン!」
まただ。日本語とも英語とも違う言語を発して、赤鎧達は日本人プレイヤー達を襲っている。前線から多少離れた位置にいるというのに、凄まじい怒気と殺意が伝わってくる。
いや、違う。これは単純な怒気と殺意ではない。尋常ではない濃度のそれらから生まれる、もっと深く大きく恐ろしいモノ。
――憎悪だ。空間を凍て付かせるどころか、引き裂いてしまうほどの凄まじい憎悪が、赤鎧達から絶え間なく発せられていた。単に殺戮を楽しみたいという欲求をエネルギーにして動いていたのがアメリカ人プレイヤー達であったが、あの赤鎧達は並々ならぬ憎悪をエネルギーにして動いている。
そんな事を考えている間にも、赤鎧達は憎悪を乗せた刃で日本人プレイヤー達を斬り伏せていった――だけに終わらず、
何なのだ、あれらは。
《これは……何という事ぞ……》
リランの独り言に近い《声》が、頭の中に響いてきた。困惑で震えている声色だった。
「リラン、あいつらは何なんだ? 何語を喋っているんだ?」
リランは信じられないものを見ているような顔で前線を見て、声を送ってきた。
《あいつらは……韓国人と中国人だ》
「なっ……」
一瞬聞き間違えたかと思った。しかしリランは指示もしていないのに続けてくる。
《先程のは……『調子に乗るなよ、卑劣な日本人どもめが!』、『よくも俺達の仕事と富を奪い、家族を飢えさせてくれたな! お前らのせいで俺達はボロボロだ!!』、『俺達の繁栄を返せ! 俺達に全てを捧げて国を元に戻せ!』と言っておった……》
キリトはもう一度赤鎧達を見る。やはり聞き慣れない言語の怒声を吐き散らしながら、憎悪を武器に変えて振るっていた。その矛先は日本人プレイヤーに向けられ、一切逸れる事はなかった。
赤鎧はアメリカ人プレイヤーも同じであり、彼らからすれば味方に見えているはずだ。しかし中身が韓国人と中国人であるという新たな赤鎧達は、日本人プレイヤーへの道を同じ赤鎧が塞いでいても、容赦なく武器を振るって斬り伏せ、鮮血を浴びながら突撃していく。彼らの全身から放たれる恐るべき憎悪は、完全に日本人プレイヤー達に向けられていた。
キリトはリランに教えてもらった彼らの言葉を頭の中にフラッシュバックさせる。
卑劣な日本人。仕事と富を奪って家族を飢えさせた。繁栄を返せ――どれもこれも、何もかもを奪い尽くされた者達の
だが、少なくともキリトには思い当たる節がない。彼らは日本人にこれ以上ないくらいに苦しめられたと思っているようだが、何の話なのかわからなかった。
自分達の国は、彼らにいったい何をしたというのか。
今、国際情勢はどんな形になっているというのか。過去最高の総理大臣と言われる南雲総理の政策と統率のおかげで、上手くいっているのではなかったのか。
こういう時は自衛隊上層部の人間であると同時に実質的な政府関係者でもある
いや、そもそも通信している暇などない。少しでも隙を晒すような事があれば、あの中国と韓国からの赤鎧達に斬り刻まれて終わりだ。
現に今、何の話をされているのかわからないであろう日本人プレイヤー達が、アメリカ人プレイヤー達共々斬り殺されていっている。一方的な憎悪を向けられて、その凶刃に倒されていって――。
「これ……韓国語か……?」
比較的近くで、日本人プレイヤーの誰かがそう言った。それが何かのスイッチになったのか、《ALO》、《
「……間違いない。これは韓国語だ」
「韓国語だけじゃないぞ……中国語も入ってる!」
「って事は、韓国人と中国人か、あいつらは……!」
ついさっきまで帝都オブシディアを守るという目的のために一致団結してくれていた日本人プレイヤー達の間にどよめきが起こる。「韓国人だと?」だとか「中国人……?」などという呟きを
その中にキリトも混ざっていた。いったいどうしたというのだろう。韓国から、中国からの襲撃者が何だというんだ。
「キリト……!」
その最中、シノンが寄ってきた。ほとんど反射的に振り向いたところで、キリトは驚かされる。ついさっきまで勇ましく戦っていた彼女だったが、今は覇気の消えた蒼褪めた顔をしている。すぐ傍まで来て背中の付近を掴んできたところで、怯えと不安の混ざった表情をしているのがわかった。
いよいよ混乱が強くなってきて、キリトは問いかける。
「シノン、君までどうしたんだ」
「わからない……だけど、すごく嫌な感じがする……みんな、おかしいわ」
「え?」
キリトがそう言った直後だった。
「韓国に中国……お前らあああああああああああああああああッ!!!」
日本人プレイヤーの誰かが絶叫し、韓国語と中国語の発生源である赤鎧達に突撃していった。それが皮切りになった。日本人プレイヤー達が次から次へと怒声を発して、雪崩のように赤鎧の軍勢に衝突する。
赤鎧達に接敵した日本人プレイヤー達は、鎧を砕くほどの力を込めて武器を振るってその肉体を切り裂き、血塗れの地面へ叩き伏せた。赤鎧達も戸惑う事なく怒声を上げて迎え撃ち、両手斧や槍や剣を振るって憎悪で叩き殺す。
双方の勢いはここに至るまで十分に激しかったが、日本人プレイヤー達が激昂した途端、比べ物にならないほどの激化を遂げた。それだけは確かだった。
「また奪いに来たのか、お前らぁ!!」
「もう俺達から取り上げようとするな!」
「もう何も奪わせねぇぞ! 俺達の国から出ていけ!!」
英語でも、韓国語でも、中国語でもなく、はっきりと日本語でそう聞こえた。その声に含まれている――いや、声そのものを構成しているそれを把握したキリトは、背筋に悪寒を走らせた。
韓国人、中国人からなる赤鎧達は、全てを引き裂くような憎悪を抱いて日本人プレイヤー達を殺戮していた。そして今、その赤鎧達に向かっていった日本人プレイヤー達から発せられているのは――全てを焼き尽くさんとする
韓国人と中国人の赤鎧達がそうしているのと同じように、日本人プレイヤー達も尋常ならざる憎悪を刃に載せ、怨嗟の声を吐き散らしながら斬りかかっていた。
仲間が鮮血を噴いて
溢れんばかりの憎悪を抱く者同士で斬り合い、叩き合い、潰し合い、飛び散った鮮血や切断された身体の一部、肉片が人も地面も汚していく。帝都オブシディアで作られようとしていたそれを遥かに超える地獄が、そこに広がっていた。
「……嘘だろ」
キリトは愕然とした。半開きになった口を閉じる事も、後方にいるシノンがどうなっているのかを確認する余裕さえない。
どうしてこうなっている。何がどうなってしまって、こんなふうになってしまった。そう思っているのはキリトだけではなかった。
この世界を共に生きて厄災を退けたメディナとグラジオ、ドロシーとダハーカ、そしてアリスとユージオとカーディナル。
《SAO》という死地を潜り抜けた仲間であるクライン、エギル、ディアベルの三人。そこに加わって勇ましく戦っていた救援者であるサクヤやアリシャ。そして彼女達に付き従う《ALO》からの戦士達及び《SA:O》や《GGO》からの協力者達。
それら全員が、
「おい……何の冗談だ……」
《どうなってるんですか……何なんですか、これは……》
メディナとグラジオのか細い声が聞こえてきた。答えようにもかける言葉が見つからない。その直後、二つの人影がキリトの元へとやってきた。ドロシーとダハーカだった。暗黒騎士団長の命令で防衛戦に参加していた二人は今――信じがたいものを見たような顔をキリトに向けていた。
「キリト……あの人達は、現実世界人なのですよね……? 前に教えてくれましたよね、現実世界は綺麗なところだって……」
「その話は本当だったのか……? 何故、彼らはあんなにも怒り狂って、殺し合っているのだ……?」
ドロシーとダハーカからの問いに、キリトは答えられなかった。どんなに頭の中を回転させようとしても、押さえ付けられているかのように動かない。いつもならば答えも作戦も出してくれる脳は今――完全に思考停止していた。気を抜けば、二人の問いをそのまま返してしまいそうだった。
「……キリト!!」
またしても絶叫が聞こえた。アリスのその声で我に返った時、キリトは限界まで目を見開いた。日本人、韓国人、中国人、アメリカ人が殺し合っている前線を含む戦場の全域が、いつの間にか光に包み込まれていた。どこからともなく現れてきた赤黒い光の粒子が原因だった。ただでさえ禍々しく毒々しい色に染まっていた地面が、空間が、より一層恐ろしいモノと化している。
「な、なんだこれ!? なんだこの光はよぉ!?」
「何、この黒いような、赤いような光!?」
クラインとアリシャ・ルーが周りを見回しながら戸惑いの声を上げる。他の現実世界プレイヤー達もほとんど同じ反応をしていた。誰もが何が起きているのかわからず、混乱するしかなくなっている。
「こ、これは……!!」
ユージオがキリトと同様に目を限界まで見開いて呟いた直後、
「You bastards!!! AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA」
「ニーメン・ヂェシィェ・リーベンラオ・アアアアアアアアアアアッッ」
「イルボンノムドゥル・アアアアアアアアアアアアアアアッッ」
「このくそどもがあああああああああああああああああッッ」
という絶叫が轟いた。それは何度も連続してエコーチェンバーのように響き渡り、やがて耳を
そして、本物の悪夢が始まった。四か国のプレイヤー達が殺し合っていた最前線に赤黒い光の粒子の濁流が押し寄せ、彼らを包み込んで《卵》を形作った。
最前線は瞬く間に赤黒い光の《卵》の密集地帯へ変化し、それまでの騒乱が嘘のように静まり返る。その静寂が長く続くものではない事は、キリトにはわかり切っている事だった。
間もなくして、《卵》は一斉に
最早その全てを把握するのが困難なほど多種多様であるものの、身体のあちこちが赤黒い装甲へと変質し、他は赤い粒子状の光が蠢く部位となっているのが共通している無数の怪物達が、一斉に《卵》から
嘘だ、やめてくれ。こんなの嘘に決まってる。こんなのが許されるはずがない――どんなに強く願っても、その光景は変わらなかった。
つい先程まで互いに憎悪をぶつけ合う日本人、韓国人、中国人、アメリカ人で埋め尽くされていた戦場は、
「《
という名で呼ばれる怪物達が埋め尽くす本物の地獄となった。そしてそれらは一斉に咆吼した後に、本能の赴くまま敵対する怨敵を、同じ怪物を、そうならずに済んだ仲間達を分け隔てなく殺し始めた。
日本語、英語、韓国語、中国語が溶け合った悲鳴と怒声と絶叫が聞こえたかと思えば、怪物の咆吼が掻き消し、金属音、肉体が破砕される音、爆発音が続いてくる。
最早何の音が鳴っているのか把握するのは不可能になっていた。
「……キリト……」
その中で、唯一聞こえたのは、カーディナルの声だった。いつの間にか、カーディナルはキリトの左隣に並んで地獄を見ていた。
「おぬし達の現実世界はどうなっておるのじゃ……? どれほどの者達が憎み合っておるのじゃ……!? かつての人界とダークテリトリーの憎み合いの比ではないぞ……!?」
――くだらないネタ オリキャライメージCV――
グラジオ⇒下野紘さん
ダハーカ⇒中村悠一さん
アガレス⇒青山吉能さん