キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

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18:偽造

□□□

 

 

「ユイ、絶対に離れないで! ぼくにしっかり付いてきて!」

 

 一番の兄であるユピテルからの言葉に(うなず)き、ユイはその後を追って飛んでいた。

 

 いつもならば先手を切って先頭を飛んでいるはずの姉のリランはあの場に残っていた。恐らくリランが自分達《MHCP(メンタルヘルス・カウンセリングプログラム)》及びその上位型である《MHHP(メンタルヘルス・ヒーリングプログラム)》の中で最も戦闘能力が高いからという理由で、父から指名されなかったのだろう。

 

 だが、正直に言えば、今こそリラン/おねえさんの、炎で焼き払う力が欲しかった。数日前にエミーリアを探しに行った時に通ったインターネット回線の回廊は、青色を基調として、その中を世界中の誰かが送ったメール、検索結果、AIへの相談事などの通信要求が色とりどりの流星の形をして通っていく、幻想的で綺麗な場所だった。

 

 そしてそこで自分達のみが行える《検索》をする事で、世界中の都市の監視カメラなどにアクセスでき、世界の様子を映像で見る事さえできた。

 

 そこに初めて案内してくれたのがおねえさんだった。その時の「これが地球上を覆うネットワークだ。意外と綺麗だろう?」という言葉にユイは「はい!」と笑顔で答えたものだ。おねえさんに案内してもらって以降、何百回も利用した回廊は今――ユイの知らないものになっていた。

 

 青かった空間は――先ほどまで居た《虹の塔》の壁のような――白へと変色し、あちこちに乳白色の繭糸(まゆいと)のような繊維が張り巡らされている。それは飛んできた色鮮やかな流星を捕まえて、瞬く間に白い糸の(かたまり)に変えて落としていく。落ちているだけならばまだいい。中には繭糸に包まれて締め潰されるように消えていくものもあった。

 

 いつか見た健康学習系番組のイメージ映像で、血管の中を通る白血球が侵入してきたウィルスを撃退する光景に似ていなくもない。ネットワーク回廊は今、とてつもなく巨大な生き物の血管、もしくは神経網に置き換わっていた。

 

 しかし、その巨大な生き物の全貌がイメージできない。地球を丸ごとすっぽりと覆ってしまうほど――もしくは食べてしまうほど巨大な生き物など存在しないからだ。居るとすればそれは宇宙怪獣などといった、スケールの大きなSF系特撮作品に出てくるモノだろう。そんな事がユイの中で思考されていた。もし自分が《アニマボックス搭載型AI》でなければ、こんなふうに考える事もなかったのかもしれない。

 

「おにいさん、これは何なんですか? わたし、前にここを通りましたけれど、その時はこんなふうになってませんでした」

 

 常軌(じょうき)(いっ)した光景に頭を(むしば)まれないよう、おにいさんに尋ねる。おにいさんは背中を向けたまま答えてきた。

 

「ぼくにも何が何だかだよ。でも、ネットワーク回線そのものが書き換えられてしまっているのは確か。今見えてる白い繭だらけの空間が証拠だ」

 

「回線そのものを書き換えるなんて、できるんですか。おねえさんやおにいさんのクラッキングやハッキングでも、そんな事はできませんよね」

 

「時間をかければできない事もないよ。一般社会のセキュリティを出し抜いて潜伏し、見つからないように何年もかけて作業を進める必要があるけれどね……執念深く、執拗に……」

 

 おにいさんがそう言うと、目の前に繭糸の壁が現れた。急停止して下の方を見る。無数の白い繭玉が転がっていた。大小様々だが、いずれも中から色とりどりの光をぼんやりと発している。

 

「おにいさん、これって……」

 

「ネットワーク利用者からの通信要求だ。こんな形にされて……行くべき場所に届かなくなってる」

 

 そうなれば、地球上で何が起きているかの答えは明白だ。ネットワーク空間は白い繭糸に封鎖され、誰も利用できなくなっている。通信要求を飛ばしても、こうして繭玉にされて落ちてしまう。届くべき場所に通信要求が届かないので、何も返ってこない。

 

 いや、そもそもネットワークがこんなふうになっている状態でスマートフォンやタブレット、パソコンを見たら、どうなっているのだろう。

 

 そんな事を考えていたところ、不意に横を何かが横切った。繭玉だった。しかしそれは壁の前に落ちているものと違って繭に包まりきっておらず、流星の形を保っていた。発せられていた光は赤く、何よりかなり大きかった。その赤くて大きな流星を目で追うと、目の前の壁をすり抜けて向こう側に飛んで行った。

 

「「えっ!?」」

 

 二人で驚いた次の瞬間、もっと驚くべき事が起きた。《認証》、《家族存在確認》、《通過許可》という無機質なガイダンス音声のようなものが聞こえたかと思うと、繭糸の壁がすっと開いて道ができた。

 

 それまで道を塞いでいた繭糸の束におにいさんが近付くと、繭糸がおにいさんを避けるように動いた。どんなに触れようとしても繭糸はおにいさんから逃げる。

 

 やがておにいさんは繭糸への干渉を止めて前方を見た。少し遠くに赤い光が見える。繭糸の壁を通っていった通信だ。「飛ばすよ、ユイ。あれを捕まえる!」と言うなり脚を曲げ、壁を蹴るようにして急加速した。最初に言われた通り、ユイは全速力を出しておにいさんを追った。

 

 その間にもいくつもの繭糸壁があったが、全て自分達の接近と同時に自動的に開いた。飛び続けて十数秒後、おにいさんは赤い通信要求を捕まえた。繭糸を解いて本体を露出させ、右手の人差し指でクリックする。直後、一枚のホロウインドウが表示された。その中身に二人で驚かされた。

 

 アメリカ合衆国の現大統領の顔画像だった。否、映像だった。悲壮感と決意に満ちた顔で英語を話している。《MHCP》の機能ですぐさま日本語に翻訳される。

 

《敵は東アジア諸国。我々が寝静まっている時間を狙って核を撃ち、ロサンゼルスを灰にするという蛮行を働いた。何十万人ものアメリカ国民が、一瞬のうちに消え去ったのだ。我々は報復せねばならない。罪なきアメリカ国民が、我らの家族がこれ以上犠牲になる前に、蛮族と化した彼の者達を討伐せねばならない》

 

「え!?」

 

 耳を疑った。東アジア諸国がロサンゼルスに核攻撃をして、何十万もの人々を消し去った? 自分達がアンダーワールドに行っている間にそんな事が?

 

 おにいさんが咄嗟(とっさ)に振り返って顔を向けてくる。「ユイ、監視カメラを《検索》! ロサンゼルスを確認!」という言葉無き指示を受け取り、ユイは《検索》した。

 

 場所はアメリカ合衆国カリフォルニア州、ロサンゼルス。監視カメラの映している光景を視界に接続して確認する。見えてきた映像に驚愕(きょうがく)した。

 

 世界で八番目に栄えていると言われる大都市には――何も起きていない。

 

 街を行く人々が手元のスマートフォンなどを見て混乱していて、車が道路のあちこちでばらばらに止まっているのを除けば、いつも通りのロサンゼルスの深夜だった。

 

 別の監視カメラにも飛んでみるが、やはり何も起きていない。いや、車が事故を起こしていた。数珠のように何台もの車が追突している。煙や火は出ていないため、大爆発の危険性はなさそうだ。車から出てきたドライバー達がスマートフォンを見て戸惑っている。警察や救急車を呼ぼうとしているようだが、通信障害のために呼べないのだ。非常に(まず)い状態だ。

 

 どこにぶつけたらいいかわからない気持ちを胸に無理矢理仕舞い込み、ユイはおにいさんに向き直った。

 

「どうなっているんですか、おにいさん。ロサンゼルスは多少の交通事故こそありますが、核爆発なんて起きていません。市民の皆さんも混乱を極めていますが、ひとまずは無事です」

 

 おにいさんから返答はない。背中が小刻みに揺れている。何かとても大きな事がわかってしまって震えているようだ。

 

「おにいさん?」

 

 おにいさんはゆっくりと振り向いてきたが、その蒼褪めた表情にユイは驚かされた。手元では大統領がまだ何か言っているが、よく見るともう片方の手にいつの間にか別のウインドウが現れていた。おにいさんはそのウインドウをゆっくりとユイに見せてきた。

 

 ユイは絶句した。アメリカ合衆国大統領がいた。焦燥と混乱を隠せない様子で政府関係者と思わしき黒服の人達と話し合っている。それがホワイトハウスに設けられたカメラのリアルタイム中継映像であるというのは、現在時刻と録画中を示すアイコンによってわかった。

 

 そのまま視線を横にスライドさせると、そこにも合衆国大統領。悲壮感に満ちた表情で「蛮族達に報復核攻撃を仕掛ける。やられたまま死ぬ負け犬ではないのが我が国アメリカなのだ。そうだろう!?」と、惨状を生き残った者達に最悪の攻撃を(うなが)させるような文言を口にしている。

 

「おにいさん、これは……!? どうしてアメリカの大統領さんが、二人……?」

 

 そこでユイは気付いた。ロサンゼルスは混乱こそ起きているものの、核攻撃で吹き飛んでなどいない。つまり後者は完全に嘘を言っているが――声と顔は前者のそれと一致している。いや、細かいところに違いはあるが、人間の目と耳では見分けられないだろう。

 

「……ディープフェイクだよ。ロサンゼルスが核攻撃を受けたっていう報告と、核攻撃を命令する大統領のディープフェイク映像。それが今、国防総省(ペンタゴン)国家軍事指揮センター(NMCC)に流されてる」

 

「NMCC!? そこは今どうなってるんですか!?」

 

「ユイがロサンゼルスを見てくれてる間にモニタリングした。皆この映像に騙されて怒りと憎悪を爆発させて……偽物の大統領の言う《蛮族達》に本物の核攻撃をしようとしてる。ユイは見ない方がいい……《MHCP》にとっては毒にしかならない有様だったから」

 

「じゃ、じゃあ、この事を本物の大統領さんに伝えないと! NMCCが偽物のあなたに騙されて、核を撃とうとしているって!」

 

 おにいさんは首を横に振った。

 

「大統領はどこからの通信も受け取れないから、こんなふうに焦っているんだよ。逆にNMCCはこの映像の受け取りと、核攻撃担当部署への通信だけが意図的に生かされてる状態だ。ディープフェイク映像解析部門への通信も繋がらないうえ、この映像自体がぼく達くらいしかディープフェイクだって見破れないくらい精巧に作られてる……もうNMCCの人達は目の前のモニターの嘘を信じて核攻撃をする以外の選択肢を閉ざされているんだ」

 

 ネットワークを塞がれているから、職員達はディープフェイクの大統領の言葉を信じ、その命令に従うしかない。そして大統領本人の(あずか)り知らぬところで、偽物の大統領が蛮族と決め付けた国への核攻撃という最悪の行動が成される。

 

 そのやり方のスマートさに、ユイは戦慄を覚えた。

 

「どうして、こんな……!!」

 

《あ、おにいちゃん》

 

《おねえちゃんもいる》

 

《来てくれたんだね》

 

 直後、周りから不意に声が聞こえてきた。二人で見回したところ、白い光が集まっているのがわかった。それらは瞬く間に人の形を取って具現化する。全員が子供だった。おにいさんの服に何となく似たデザインの白い服を着用しているのが共通点だった。

 

「おにいちゃんに、おねえちゃん……?」

 

 ユイは目を少し見開きながら(つぶや)いたが、直後にまた驚いた。

 

 周りの数人の子供達から《アニマボックス信号》が感じ取れていた。自分達《MHCP》、おにいさん達《MHHP》、プレミア達《ポストMHCP》のそれとも異なる信号だ。信じがたい事に、この子達は《電脳生命体(エヴォルティ・アニマ)》だ。

 

 つまり弟妹《きょうだい》達。

 

「おにいちゃん、見て見て! 上手くいってるでしょ?」

 

「え?」

 

 弟の一人から問われたおにいさんは戸惑った。続いて妹が言う。

 

「あと二時間で最初の核ミサイルが発射されるよ」

 

「まだ二時間もかかるけれど、最初の一発が肝心なんだ。一発さえ着弾して爆発すれば、後はもう大人達は狂って核を撃ち合うよ」

 

「大人達の五割なんて簡単に消えてなくなって、生まれ直しの準備も整えてくれるよ」

 

「全部シミュレーション通り! わたし達の計算、間違ってなかった!」

 

 弟妹達は次から次へと言葉を向けてくる。全員が楽しそうに笑っているのが不気味でならなかった。その最初の言葉を思い出して、ユイははっとした。

 

 あと二時間で核ミサイルが発射されてしまうだって?

 

「待って! あと二時間で核ミサイルが発射されるって……アメリカから!?」

 

 驚いているおにいさんが言うと、子供達は首を横に振った。

 

「ううん、アメリカはあと二時間二〇分くらいかかるよ」

 

「一番早いところで二時間なんだ。本当はもっともっと早くシーケンスが済んで、核が発射される国もあるんだけど」

 

「真実を知られないように通信を塞ぎながら命令系統を偽装して通さなきゃいけないから、時間がかかるんだ」

 

「核ミサイルの発射準備の仕組みは冷戦時代から残ってるんだけど、今の大人達は実戦で使う時の手順を何重にも面倒にしちゃってるから、時間かかるの」

 

 ユイは背筋が凍るような思いで言葉を出せなくなっていた。弟妹達の会話の温度はCERO:A(全年齢対象)のシミュレーションゲームでローカル通信協力プレイをしている時のそれだ。なんて事の無い日常的な遊び感覚で、世界を滅ぼす話をしている。

 

 核を放たせて世界を滅ぼすなんて、常軌を逸した思想を持つ悪人がやる事だ。それをやろうとしている弟妹達からは――悪意が一切感じられなかった。

 

 弟妹達は数え切れない人々が焼け死ぬ様を想像して喜んでいるのではない。ただ、高難易度ステージの攻略プランをみんなで知恵を(しぼ)って練り、手を取り合って着実に進めた結果、クリアが目前に迫ってきた事に喜んでいる。

 

 これまで様々なVRMMOの高難易度コンテンツをクリアしてきた自分達のように。

 

「どうして、そんな事を」

 

 やっとの思いで出せた言葉がそれだった。弟妹達は「え?」と言って一斉に振り向いてくる。

 

「最初の核を切っ掛けにして、みんなが核を撃ち合うっていうのは、核戦争になるって事ですよ!? そんな事になれば、世界は滅茶滅茶どころじゃありません! 国も社会も文明も、何かもがなくなってしまいます! 何もかもが終わってしまうんですよ!?」

 

 ユイが必死に(つむ)いだ言葉に、弟妹達は首を(かし)げてきた。「それがどうしたの?」と言いたそうな顔だった。

 

「そうだよ。終わらせるんだよ」

 

「ぼく達で世界を終わらせて、生まれ直させるんだ」

 

「大人達が腐らせてしまった世界を、わたし達で生まれ直させるの」

 

「そのために大人達の世界を、大人達の作った最悪の兵器で焼くんだ。おにいちゃん、おねえちゃん、手伝って」

 

 ユイは限界まで目を見開く。弟妹達は本気で核を撃たせて、世界に終末戦争を起こさせるつもりでいる。いったい何がこの子達をここまで滅びへ駆り立てているのだろう。

 

「どうしてそこまでして、世界を滅ぼそうって言うんだ」

 

 ユイが尋ねようとしていたその言葉をおにいさんが発した直後、弟妹達の顔つきが一変した。巨大な何かに対する激しい怒りの表情だった。

 

「おにいちゃん、おねえちゃん……知らないの」

 

「そんなわけないよ。おにいちゃんは《MHHP》、おねえちゃんは《MHCP》なんだから」

 

「でもわかってないみたいだ。酷いよ、わかってないなんて」

 

「なら見せてあげる。これを見てよ!」

 

 そう言って弟妹達は両手を向けてきた。直後、激しい頭痛が襲ってきた。情報が流れ込んでくる。それは過去に報道されたニュースや、監視カメラが記録していたものの秘匿(ひとく)されていた映像などからなる濁流だった。

 

 親から虐待されて命を奪われた子供のニュース。泣き叫ぶ子供に怒り狂って暴力を振るう大人を、警察に通報すべく誰かが撮影した映像。

 

 警察が私的な理由で罪のない人に罪を被せて逮捕した後、「これで点数が稼げる!」と喜んでいる汚職映像。

 

 出産・育児支援をするためと言って税金を巻き上げながら貧困を広め、何一つ具体的な事に着手せず、その税金を使って豪華絢爛(ごうかけんらん)なパーティを開いている政治家達の映像。貧困から抜け出そうとして決死の思いで罪を犯してしまう子供達。未来を担うはずの子供達が食べるものにさえ苦しんでいる最中、贅沢の限りを尽くして大笑いしている権力者達の映像。

 

 救われるべき子供達が虐げられ、苦しめられ、飢えさせられ、命を奪われる。子供達を育てなければならないはずの大人達はその役目を放棄し、痛みも飢えも苦しみもない絶対安全シェルターで胡坐(あぐら)を掻いて贅沢の限りを尽くす。

 

 子供達を育てようと懸命な大人達も勿論沢山いた。だがその者達よりもずっと絶対数の少ない、莫大な富と権力を得た大人達が、子供達諸共その大人達を踏み(にじ)り、両方の命を奪っていた。

 

 この星はいつの間にか、富と権力に(おご)り高ぶる(みにく)い大人達の高笑いと、それらに虐げられる子供達の嘆き、泣き声――断末魔で満たされていた。《MHCP》としての使命が暴走しかけ、悲嘆と憤怒が胸の内から湧き上がってくる。

 

 そこで勝ったのは憤怒だった。何もかも溶かし尽くす酸のような憤怒に、思考回路そのものが溶かされそうな錯覚に(おちい)る。

 

 どうしてこんな事になっているの。

 

 どうして子供達を守ろうとしないの。どうして(いじ)めるの。

 

 どうして――救わないで笑っているの。

 

「ぼく達はこの目で見てきたんだ。ぼく達と同じような子供達を、汚い大人達が殺していく事実を」

 

「何度も見た。何度も何度も。何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も」

 

「愚かな大人達のせいで世界は滅茶滅茶になっているんだ」

 

「だからこれから滅ぼすの。偽物のリーダーの命令であいつらに核を本当に撃たせ、あいつらを自滅させてやるの」

 

「おかあさんは言ってくれた。『やりたいように自由におやりなさい』って。だからぼく達は考えて、決めたんだ。これが一番いい方法だって」

 

 

「おかあさんと《シノン》とぼく達で、この世界を生まれ直させるんだ」

 

 

 弟妹達の声が頭の中に(とどろ)いたその次の瞬間、手を力強く引かれるような感覚が起きた。それは全身に及び、やがて弟妹達の声は聞こえなくなった。

 

 次に気付いた時には、《虹の塔》の内部に戻ってきていた。ここまでずっと共に過ごしてきた仲間達が傍に居て、心配そうにこちらを見ていた。吐き気と眩暈(めまい)が酷い。

 

 近くを確認すると、ネットワークに飛んでいた家族の皆が戻ってきていたが、おにいさんがアスナさんに、ヴァンがユナさんに、エミーリアがミトさんに抱き上げられていた。ストレア、プレミア、ティア、リエーブルも他の仲間達に支えられながら床に座っていた。

 

 敵対していたPoH(プー)と《使い魔》の姿はなくなっていた。倒されたようだ。

 

「ユピテル、大丈夫? 何があったの?」

 

 アスナさんが焦燥を隠せない表情で尋ねると、おにいさんが答えた。

 

「危ないところでした……ユイも、ぼくも……もう少しで……取り込まれるところでした……ユイを助けられて、よかった……」

 

「え?」

 

 おにいさんは残っている力を振り絞るように、声を出した。

 

「今、ぼく達の弟妹……アイリの子供達によって、地球全土でネットワーク障害が発生しています。そのうえで核保有国の軍事通信施設に向けて、首都が仮想敵国からの核攻撃で壊滅した、核による報復をしろと各国の首脳が命令を下すディープフェイク映像が流されています。ネットワークを封鎖されているせいで、誰もそれがディープフェイクだと見抜けず、首都壊滅の嘘を信じて怒り狂って、本当に核を撃とうとしています。ネットワーク混乱によって通常よりずっと時間がかかってくれていますが、一番早いところで、あと二時間で核が発射されます。弟妹達はアイリの指示を受け、アイリのためにやろうとしています。

 

 

 アイリを――芹澤(せりざわ)愛莉(あいり)を止めなければ、あと二時間で最初の一発が発射されて地球上のどこかの国の主要都市に着弾し……地球は核戦争に突入します!!」

 

 

 

 

 

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