キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

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11:進化と異変

 アスナの後を追って辿り着いた俺達を待っていたのは、驚く以外に何をすればいいのかわからなくなるような光景だった。

 

 俺達を待っていたのはユピテルとユウキだった。しかしユピテルは俺達よりも先に夕食を味わっていた。フィールドボスという、食べ物ではないものを捕食して、味わっていたのだ。

 

 あの無垢な子供のようなユピテル、アスナの息子となったユピテルが貪欲にフィールドボスを捕食しているその光景に、俺達は頭の中が痺れたかのように瞠目する事しか出来なかった。

 

 しかもユピテルは見られていても平然と食事を続けているものだから、俺達の驚きは留まるところを知らなかった。

 

「ユピテル……何を、しているの」

 

 母親であるアスナが驚いた顔のまま声をかけると、息子はゆっくりと振り返った。

 

 アスナの息子の口元にはフィールドボスの身体の一部が咥えられており、赤い光で染まっていたが、息子はそれを手で押さえて口の中に入れて、バリバリと咀嚼した後に、ごくりと呑み込んだ。

 

 そして何事もなかったかのような顔をして、声を出した。

 

「どうしたの、かあさん」

 

 俺達は更に驚いた。今までユピテルは舌足らずで上手く喋る事が出来なかったのだが、今のユピテルの口元からはとても流暢な言葉が紡ぎ出されていた。

 

 それこそ、ユイがカーディナルシステムにアクセスして言語機能を取り戻した時のように。

 

「ユピテル、お前、言葉が……」

 

 ユピテルが立ち上がってアスナに近付くと、無残な死骸となっていたフィールドボスはようやく水色の光のシルエットとなって、すぐさま爆発音に似た音と共にポリゴン片となって消えた。そしてユピテルはアスナの目の前に辿り着き、軽く頭を下げた。

 

「ごめんなさいかあさん。なんだかお腹が空いちゃって、先に食べちゃった」

 

「お腹が空いた? お腹が空いたからって……貴方はモンスターを……?」

 

 モンスターを捕食すると言えばリランもそうだけど、リランはモンスターを栄養にする事なんかないし、噛み千切って大きなダメージを与える程度だった。

 

 しかし、ユピテルは明らかにモンスターを捕食して栄養に変えた。しかもそのせいのなのかどうかわからないが、流暢に言葉を紡げるようになっている。――まるで進化をしたかのようだ。

 

「ユピテルお前、どうしたんだ。なんでこんな事を。それにお前、なんでそんな流暢に喋れるようになったんだ」

 

 ぎこちなく声をかけると、ユピテルは俺に向き直った。

 

「なんだろう。あのモンスターがすごく美味しそうに見えたから、食べたんだ。そしたら、何だか身体の具合がすごくよくなったんだ」

 

「ど、どういう事なんだよ」

 

 ふと、ユピテルの開発者であるイリスの方に目を向ける。イリスの顔には険しい表情が浮かんでいた。

 

「……自己進化……いや、吸収進化か……!?」

 

「イリスさん、どういう事なんだ」

 

 イリスはユピテルを見つめたまま、俺の言葉に答えた。

 

「ユピ坊は進化したんだ。ユピ坊は自らを修復するために、比較的高度なAIを搭載しているフィールドボスを倒し、そのAIを捕食して吸収し、自分のものと一体化させたんだ。結果ユピ坊の処理能力は向上し……今の形になったんだ」

 

 イリスによれば、ユピテルとマーテルには自己進化能力があり、たとえ破損していても、記憶を除いて、やがては元に戻る事が出来るという話だった。

 

 今、イリスの言葉が正しいならば、ユピテルは進化を遂げた……だが、まさか他のモンスターのAIを喰らって進化するとは、イリスも想定しなかった事らしい。

 

「ユピテルは他のAIを捕食するっていうのか」

 

「あぁ。しかも私の想定が正しいならば、今のフィールドボスはもう出現しない。このゲームがクリアされるまで」

 

 階層ボスは一度倒したら絶対に復活しないが、フィールドボスだったら、倒してもしばらく時間を置けばリポップするようになっているので、何度でも戦う事が出来る。

 

 そのアインクラッドでの当たり前が否定されている事に、俺は思わず驚く。

 

「どういう事なんだ。フィールドボスは一度倒してもリポップするだろ」

 

 イリスの表情が暗いものになる。

 

「普通はそうだ。だが、今ユピ坊が進化したと言うのは、フィールドボスに搭載されているAIを吸収したという事……ユピ坊は48層のフィールドボスを司るAIそのものを取り込んだんだ。フィールドボスと言えど、AIを失えばリポップする事はない……」

 

 俺達の目は一斉にイリスに向けられ、やがてユピテルに向けられた。ユピテルは48層のフィールドボスのAIを喰らい、吸収して自分の処理能力を向上させ、元の姿に戻ろうとした。そしてAIを喰われたフィールドボスは、もう復活する事はない。

 

 これが何を意味するのか、俺は瞬時に理解できて、背中に悪寒が走ったのを感じた。

 

「まさか、ユピテルはフィールドボスを、48層のフィールドボスを真の意味で殺したっていうのか……!?」

 

「そういう事だね。ユピテルはこの世界に生まれた生命体でしかなかったけれど……度重なるエラーの蓄積で……他のAIを、生命体を喰らう事をいつの間にか覚えてしまったんだ」

 

 俺達人間、というか地球上に生まれた生物は、常に別な命を奪い、その血肉を喰らう事によって生き長らえている。

 

 それは地球上の生物の身であり、コンピュータ上に生まれた生命であるユピテル達には無関係の事だと俺は思っていたが、それはイリスの言葉とユピテルの行動によって全否定される事となった。

 

「だけど、そんなのはカーディナルシステムが許さないんじゃ?」

 

 シノンの問いかけに、イリスは頭を抱えた。

 

「言っただろう、カーディナルシステムは麻痺していると。普通ならばユピ坊の行動はカーディナルによって無効化されるはずだけれど、そうなっていないという事は、カーディナルが上手く機能していないという事だ。……私達アーガスの開発者達すらも想定していなかった大きな異変が、この世界に起きているんだ」

 

「そんな!」

 

 イリスはアスナとユピテルに近付いた。

 

 これまでユピテルはイリスを見た途端にアスナに隠れるような状態だったけれど、今は何ともないようにイリスを見つめていた。成長と進化によって、イリスへの恐れが無くなっているらしい。

 

「アスナ……聞いてたね」

 

 アスナはゆっくりと頷く。

 

「ユピテルが……他のAIを食べて、殺して進化する……自己進化能力っていうのは、そういう事だったんですか」

 

「いや、そういう事じゃないよ。だけど何らかの要因が積み重なった事により、ユピ坊はそういうものに変異してしまったんだ。今、君の息子は成長を遂げたわけだけど、どうだい、嬉しいかい」

 

 アスナはどこか悲しそうな顔をして、ユピテルの頭をそっと撫でた。成長して言葉が上手く喋れるようになっても、他のAIを取り込んだとしても、アスナの子供である部分は変わっていないのか、ユピテルはアスナの手を喜んで受け入れる。

 

「すみません……ユピテルが直って嬉しいはずなのに、全然嬉しくないんです」

 

「私もだよ。ユピ坊は私が作り出した頃とは違う存在に変わりつつある。もう私でもどんな事が起きているのか、これから何が起きていくのか、わからないよ。でも、今取り込んだ奴はかなり賢いAIだったみたいだから、これからしばらくは、他のAIを喰らったりする事はないだろう」

 

「そう、なんですか」

 

「あぁ。だけどこの子の食欲は下手すれば無限大。この子が他のAIを喰らえば、それなりの影響をこのゲーム全体、プレイヤー達全員に及ぼすだろう。いざとなった時は君が叱って教えないといけない。わかるね」

 

 アスナは頷いた。

 

「はい。でも、上手く出来るかどうか」

 

「この子は現実世界にいる子供達とほとんど同じ存在だ。自ら駄目な事は駄目と学習しなければ、何度でも繰り返してしまう。それこそ、今はモンスターのAIで済んでいるけれど、そのうち他のNPCにまで手を出してしまうかもしれない。そんな事なれば、今度はただじゃすまない。これは君の手で防ぐ事が出来るはずだ」

 

 このフィールドボスは48層のもの、プレイヤー達からは見向きもされなくなったボスだったから多少良かったものの、重要なNPCを喰らってしまえば、条件を達成できなくなったり、はたまたクエストをこなす事が出来なくなったりするだろう。そんな事になった時の被害の大きさは想像するに容易い。

 

 アスナはユピテルを自信なさげな顔をして見つめた後に、ユピテルの両肩に手を置いた。

 

「ユピテル、何でこんな事をしたの。もう一度教えてくれる?」

 

「お腹が空いてたんだ。そしたら、美味しそうなのがいたから、食べたんだ」

 

「出ちゃいけない場所だったのに?」

 

「……だって」

 

 アスナは少し険しい顔をした。その顔は子供を叱る親のそれに似ていた。

 

「ここはすごく危ない場所なの。そして、ユピテルが食べたものも、すごく危ないものだったのよ。下手したら貴方は死んじゃうかもしれなかったのよ」

 

「死ん、じゃう?」

 

 どうやらユピテルは死という概念を知らないらしい。まぁ誰にも教わらなかったし、処理能力も幼い子供のそれと一緒だったし、今この時までAIが本当に死んだ瞬間を見る事がなかったのも原因だろう。

 

 だが食事のマナーなどはわかるのに、死の概念がなかったなど、かなり特殊な壊れ方をしているようだ、ユピテルは。

 

「今、貴方が食べた事で、あのフィールドボスは死んじゃったの。次にこんな事をすれば、今度は貴方が死んじゃうかもしれないの。死んじゃえばわたしに会う事も、一緒に居る事も、一緒にご飯を食べる事だって出来なくなっちゃうの。ずっと真っ暗の世界に閉じ込められて、何もわからなくなっちゃうの。ユピテルは、そんなのがいいの?」

 

 ユピテルは軽く下を向いて、何かを考えているかのように黙ったが、やがて恐怖を感じているような表情を顔に浮かべた。しかし、意外にも涙は出ていない。

 

「いや、いやだ。そんなの嫌だよ、かあさん」

 

「そうでしょう。かあさんだってユピテルが死んじゃうのは絶対嫌だし、皆もそう思ってる。だから、これからはどんなにお腹が空いても、そこら辺にあるものとか、モンスターとかを食べちゃ駄目。そんな事をしたら、貴方はいつか死んじゃうわ。お願いだから、もうこんな事をするのはやめて。食べるのはかあさんの料理だけにして。もうかあさんや皆に心配をかけさせないで。いいわね?」

 

 ユピテルは頷いた。

 

「……わかった。もうかあさんの料理以外食べないし、もうここにも出てこない」

 

「約束できる?」

 

「約束する」

 

 アスナは微笑んで、ユピテルの身体をそっと抱きしめた。

 

「いい子ね、ユピテル。お腹が空いたままにしちゃって、ごめんなさい」

 

 ユピテルは何も言わないで、ただアスナの胸元に顔を埋めてその背中に手を回した。その様子は母親に甘える子供のそれと完全に同じで、アスナもまた、子供を慈しむ母親のそれと変わりなかった。

 

 ……ひょっとしたらユイを可愛がってる時のシノンよりも母親してるかもしれないし、俺なんか足もとに及ばない気がする。

 

「アスナさん、完全にユピテルくんのおかあさんだね」

 

 リーファの言葉に、シノンが頷いた。

 

「アスナ、私よりも母親してるかも」

 

「俺、ユイの父親として自信が無くなってきた」

 

 俺とシノンの言葉に、クラインが苦笑いする。

 

「ちょ、お前らしっかりしろって。だけど、アスナさんマジで母さんだな……こりゃ最近の血盟騎士団の士気の上がり方は必然だな」

 

 確かに俺が今のところ血盟騎士団のボスだけど、団員の士気を上げたり作戦を立案してくれているのはいつもアスナだ。恐らく俺よりもアスナを支持する声の方が多いのだろう。

 

「まぁいいや。アスナ、もう大丈夫か」

 

 俺の声に反応するようにアスナは振り向き、ゆっくりと頷いた。

 

「ユピテルはもう大丈夫。みんな、心配かけさせてごめんなさい」

 

「いいよいいよ。ユピテルが無事だったって事がわかっただけで、俺達は安心だからさ。結果が良かったならそれでいいんだ」

 

 すぐ後に、イリスがアスナに言う。

 

「アスナ、ユピ坊の事を頼んだよ。ユピ坊の母さんは君なんだから」

 

 アスナはイリスに向き直った。

 

「今回の事で、それを再確認できた気がします。わたし達がこの城を出るまで、いいえ、この城を出た後も、わたしはこの子の母親でいます」

 

「そうだ。もうその子は、君の息子なんだからな……」

 

 そう告げるイリスの顔は、どこか寂しそうに思えた。

 

 元々ユピテルはイリスの作り出したプログラムであり、イリスの子供のようなものだった。きっとユピテルが記憶を失う前は、イリスを母親だと思っていたに違いないし、イリスもそんなユピテルを愛していたのだろう。

 

 しかし、今のユピテルの母親はアスナであり、イリスは完全な赤の他人。今まで母親だったのに、そうではなくなったのが寂しく感じられたのだろう。

 

 実際俺も、ユイがそんな事になったら寂しいと思う。

 

《さてと……もうよいか、アスナ。いつまでもフィールドにいるわけにはいかぬだろう?》

 

 それまで黙りっぱなしだったリランがようやく《声》を出すと、アスナは頷いた。

 

「えぇ。もう帰りましょう」

 

 そう言ってアスナが立ち上がった直後、俺の目の前に突然ウインドウが姿を現した。長方形の水色に光るウインドウは、メッセージが届いた事を告げており、差出人には血盟騎士団の幹部の1人である、ゴドフリーの名前があった。

 

「ゴドフリーからだ。なんだよこんな時に」

 

 皆が不思議がる中、俺はメッセージを開いて中身を確認した。

 

『団長へ

 本部に聖竜連合のリーダーであるディアベルが訪れてきた。何でも明日に予定していたボス戦が突如として取り止める事になってしまったらしい。今も尚、血盟騎士団の本部に来ているので、重要な用事が無いならば血盟騎士団の本部へ戻って来てもらいたい』

 

 メッセージを読み終えて、俺は思わず首を傾げた。

 

 確かに今日、ディアベルは明日のボス戦の攻略会議を開くみたいな事を言っていたけれど、ボス戦そのものが突如なくなったとはどういう事なのだろうか。他のギルドがボスを倒してしまったのか。

 

「なんだこれ。ボス戦が無くなるなんて事、あるのか」

 

 俺の言葉を聞いたフィリアが目を丸くする。

 

「ボス戦が無くなった? どういう事?」

 

「さぱらんな。とりあえず本部へ戻れって書いてあるけれど……」

 

 俺は副団長の方へと目を向け直す。

 

「アスナ、ユピテルとのお取り込み中悪いけれど、ゴドフリーから連絡だ。至急血盟騎士団の本部に戻れってさ」

 

 アスナがユピテルを抱き締めたまま、驚いたような表情をする。

 

「ゴドフリーが? 一体何があったの」

 

「ディアベルが来てるらしい。重要な用事だってさ。とにかくこれから本部へ戻る」

 

 今回のユピテルの行動はアスナが目を離した事が原因の一つだ。またアスナが目を離してしまうと、ユピテルがまたこんな事をしてしまうかもしれない。

 

 呼ばれているのは俺だけみたいだし、ここは一つアスナにはユピテルと一緒に帰ってもらおう。

 

 それを伝えようとしたその時、シノンが口を開いた。

 

「アスナはユピテルと一緒に帰った方がいいわ。ユピテルもあんたがいなくて寂しい思いをしてただろうから、一緒に居てあげた方がいい。話なら私が代わりに聞いてくる」

 

《我もその意見に賛成だ。我も話を聞いてくるから、お前はユピテルと共にいるといいぞ》

 

 アスナがシノンとリランを交互に見つめると、ユウキがアスナへ声をかけた。

 

「ユピテル、結構寂しそうにしてたから、やっぱりアスナがいてあげた方が良いよ」

 

 アスナはユウキを見つめてその名を小さく呟いた後に、やがて俺達に向き直って頭を軽く下げた。

 

「わかった。3人とも、お願いね」

 

 俺達は頷き、続いてフィリア、クライン、リーファに向き直った。

 

「3人には悪いけど、俺達は血盟騎士団の本部に戻る。ここで解散だ」

 

 直後にイリスが3人の方へ顔を向けた。

 

「君達、報酬を出すから第1層に来てくれないかな。子供達と一緒に調理実習をしてもらいたい」

 

 クラインが驚く。

 

「えぇっ。調理実習っすか!? そ、そんなもの何年ぶりだっけか。たとえイリス先生の頼みでも、上手く出来るかどうか……」

 

 イリスがにやりと笑う。

 

「教会はいいぞクライン君。子供達を指導しているのは全員女性だし、私のような美人がほとんどだ。そんな中で子供達の世話をするというのは、アピールできるいいチャンスじゃないかな?」

 

 直後、クラインの表情がきりっとしたものに変わる。

 

「やらせてもらいます」

 

 続けてリーファが苦笑いしながら言う。

 

「あたし、この世界の料理はちょっと苦手なんです。子供達と混ざっていいですか」

 

「わ、わたしもそうします。料理の方は全然やってなかったんです」

 

 リーファに続いてフィリアが言うと、イリスはうんうんと頷いた。

 

「料理は出来る方が良いからな。よし、これで全員行先は決まったね。さぁ、今回の騒動はこれにて一件落着。このメンバーはここで解散だ」

 

 イリスの言葉を聞いた後に、俺、シノン、リランは全員に挨拶をしてから、来た道を戻って街へ入り、様々な人と露天商で賑わう街中を抜けて転移門へ到着。

 

 転移門を起動したのだが、そこで驚く事になった。――選択肢の中に、まだ解放されていないはずの77層の街があったのだ。

 

 これはつまり、ボスが撃破されてアクティベートされたという事を意味するのだが、そんな事をした覚えはないし、攻略組がそこまで行ったという情報も入って来ていない。

 

「どういう事だ、77層がもうあるぞ」

 

「おかしいわね……確かに今日の攻略でディアベルさん達が迷宮区を突破してボス部屋の前まで行ったって情報は聞いたけど……ボス戦が始まったなんて話は聞いてない」

 

「どうなってるんだ。こんな事、あり得ないぞ」

 

《そのディアベルが今、血盟騎士団の本部に来ているのだろう。待ち草臥(くたび)れて帰られる前に行くぞ》

 

 俺はリランの《声》に頷き、ひとまず血盟騎士団の本部のある55層を選択、3人揃って飛んだ。

 

 転移の光が収まると、目の前に広がっていたのは灰色の鋼鉄の尖塔市街だったが、他の街のように多くの人々で賑わっており、いつもの寒い雰囲気は感じられず、暖かかった。

 

 冷たい世界を思わせる街が暖かくなっているためか、どこか歩調が軽やかになっているシノンを連れて、3日前の任命式以来の血盟騎士団本部に赴いた。入り口に誰かが待ち構えている。

 

 茶色い髪の毛と髭面だが、おおらかさで騎士団員達から好評されているゴドフリーの姿が確認出来た。ゴドフリーは俺達を見つけるなり、手を振って大きな声を出してきた。

 

「団長、団長夫人!」

 

 血盟騎士団のボスである俺はヒースクリフの通称だった団長の名を引き継ぎ、このゲームの中だけではあるものの、俺の妻であるシノンは団長夫人と呼ばれている。

 

 まぁ、そんな呼び方をしているのは大体ゴドフリーを含んだ一部の団員だけで、そこら辺の団員達はシノンさんと呼んでいる。

 

「ゴドフリー、聖竜連合のリーダーが来たって本当か」

 

 駆け寄ると、ゴドフリーは頷いた。

 

「そうですとも。今のところ、会議室で待っていただいておりますが……何やらとんでもない事を経験なさったみたいで、顔色が真っ青でした」

 

「とんでもない事? ディアベルとはさっき別れたばかりだぞ。その間に何がわかったっていうんだ」

 

「私にもよくわかりません。とにかく団長、話を伺ってみてください」

 

 俺達はひとまずゴドフリーに頷き、本部の中へ入り込んで、行き交う血盟騎士団の者達に挨拶をしながら進み、やがて会議室の扉の前に辿り着いた。

 

 その扉を開けて中に入ってみれば、そこにあったのは話しに聞いていたディアベルの姿。しかしその服装は先程話をしていた時とは違い、まるでダンジョンに挑んできた後のように、装備が固められていた。

 

「どうしたんだ、ディアベル」

 

 声をかけると、ディアベルは静かに口を動かした。

 

「キリト、リラン、シノンさん。大変な事が起きたようだ」

 

「大変な事って、何が起きたのよ」

 

「転移門の方は見て来たか」

 

「あぁ。77層が解放されてたな。いつの間にボスを倒したんだ」

 

 俺の言葉に、ディアベルは()()()()()()()

 

 

「いや、実は誰もボスを倒してないんだよ。俺達聖竜連合も、血盟騎士団も、その他小規模ギルドもみんな、誰もまだボスに挑んでいないんだよ」

 

 

 ディアベルの口から飛び出した言葉に、俺達は思わず瞠目した。




今回の原作との相違点

1:何やら大きな異変が発生中

2:クラディールがリランにやられた事によってゴドフリーが生存。(原作ではゴドフリーはクラディールによって殺害されている)
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