ただ1が為に   作:ジェイ

2 / 8
更新です。
以前書いていた正義の味方とはまるで違います。いずれは被るかもしれませんがまだ先のお話です。


1話

 最近良く夢を見る。一つは彼女と出会い、そして悪魔になった時の夢。あの時から俺は始まった。故に記憶どころか魂にやきついた光景で、例え百年、千年経とうと死ぬまで忘れる事は無いだろう。もう一つは良くわからない夢。俺ではない俺の生涯の記録を断片的に見る。その俺は3つの道筋を辿った。途中までは同じなのだが、ある出来事を境に全く別の物語となる。

 一つは正義の味方を愚直な迄に目指した話。人を救い続け、力の無さを嘆き、世界に身を売ってまで力を手にし、それでも限界があったから少数を切り捨てでも大多数を救い、そして救った者に裏切られた男の話。

 一つは未来の己に抗った話。正義の味方を目指し、英雄になった未来の己。しかし未来は絶望し、過去を無くそうとし、打ち勝った。未来は己の間違いを悟り元の場所に戻り、打ち勝った今は大切な者と共にではあるが正義の味方を目指した男の話。

 一つは大切な一つの為だけの正義の味方になった話。大切な少女を守りたい一心で己の体をも失いながら戦った。手に入れた物は小さいけれど、何よりも大きな物を手に入れた男の話。

 

 最初を除き、どれも俺であり、俺ではない俺の話だ。俺ではない筈なのに俺が経験した事のあるような不思議な記憶。関係無いと思う。だがこれは少なからず俺に影響を与えた。それは戦う術。俺の目指す道には必ず必要となる物だった。これを知った時に少し笑ってしまった。夢の俺も、この俺も戦わない俺が存在していない事に。俺は俺である限り、戦わないと言う未来は無いのだと言うことに。だがそれでも構わない。俺は彼女に救われた。ならこの身は彼女の為でなくてはならない。彼女が望むなら喜んで戦おう。彼女が望むなら喜んでこの身を投げ出そう。俺は彼女の為だけの正義の味方であろう。そう誓ったのだ。彼女の眷属となった、その時に。

だから俺は力を求め己を磨く。知識で得た術をこの身で扱える様に研鑽する。彼女を守る為に、彼女が少しでも笑っていられる様にと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の眷属となったその時からあの子は変わった。前にも増して私に尽くす様になり、物事を学び、体を鍛え、己を磨き出した。それは彼の糧となり、数年で表れ始める。家事をすればこの屋敷で彼の右に出るものはいない。私の好みにおいては誰よりも熟知している。身体能力においても子供にしては高く、知識もそこそこ豊富。そしていつしか彼は独自の鍛練を始める。どこで得たのかは私でもわからない方法。既にたどり着く先を見越したかの様な感覚を覚えた。そんな彼を見て怪訝に思った事は少なくない。しかし最後には彼を信用し、信頼している私がいる。彼は私を裏切らない。彼は私を欺かない。彼は私を独りにしない。彼は私を――――と言葉にすれば言い切れないが、私は彼を疑わないだろう。それが今の、そしてこれからの私達の関係なのだから。

 

 そんな事を考えていると喉が乾いた。誰か呼び出そうとした所で部屋にノックの音が響く。それから聞こえたのは彼の、シロウの「御茶を持ってきた」と少し無愛想な声。それに「入りなさい」と言いながら微笑んでしまう私がいた。それを見たシロウは怪訝そうにこちらを見た後、まぁ良いやといった感じで御茶を机の上に置いた。

 

 「ありがとう。ちょうど喉が乾いてたの」

 

 「どういたしまして。そうだと思ったから入れてきたんだ」

 

 何気無く交わされる会話が心地良い。彼は私を熟知している。それ故に出来る気遣いが嬉しい。きっとそれは彼だからなのだろう。彼が幼い頃から共にあり、約10年の歳月を共に過ごした。その間の成長を、彼の努力を知っているから、より強く思う。

 

 私は彼をどう思っているのだろうか。弟?息子?友?使用人?下僕?わからない。全てであり、全てで無い。そんな不思議な心情。逆に彼は私をどう思っているのだろうか。姉?母?友?主?契約者?わからない。私は彼ではないのだから。でも悪い様には思われていない。それだけは確か。

 

 まぁ何でも良い。私達が私達である限り、私達の関係は変わらない。例え世界が私を裏切ろうとも、彼だけは私の味方だ。そして逆もしかり。なら何も怖いものなど無い。私は決して独りではないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 面白くない。それが最近の俺の心境。いや、最近どころかここ数年ずっとそうだ。彼女が眷属などを持ちはじめてからずっと。当初は理解出来なかった。我等は同志の筈なのに何故眷属などといった現在のシステムを使い、紛い物を増やす事にしたのかを。彼女は言った。

 

「使える物は使うべきよ。生憎私達に選り好みする余裕は無いの」

 

成る程。と思う。悔しいがその通りだった。しかしその後が解せない。

 

「ただこれ以上増やすつもりはないわ。眷属など一人いれば十分よ」

 

何故だ?と問うた。使える物は使う。それは納得だ。ならば何故それを最大限使わないのかと。何故中途半端に一人だけ眷属にしたのかと。しかも役に立つかもわからない人間の子供等を。

 

「気まぐれよ。それにあの子は有能よ。昔はともかく今のあの子にそんな事言ったら、あなたといえど許さないわ」

 

そんな事を言い出した。この時はこれで会話が終わったが、それからは特に面白くない心境だった。

 

 唐突だが彼女は美しい。その長く滑らかな黒髪に切れ長の大きな瞳と高い鼻筋。程よく膨らむ艶やかな唇と形の良い輪郭はある種の芸術だ。更に整いつつも豊満なその肉体は妖艶とも思えるほどに色気に溢れていた。そんな彼女、カテレアとは何度も夜を共にしたことがある。故に俺は彼女が俺の物だと思っていた。しかしそれも最近ではまるでない。あの眷属が出来てからというもの会う回数も年に一回あるか無いかだ。それも同志で集まる定例会の時の数時間のみで、前回の定例会には顔すら出さなかった。故に今彼女に会いに向かう。

 

 「…………面白くない」

 

思わず口から漏れた。

それを聞いていた俺の眷属――――カテレアの件を折りに俺も手に入れた―――に

 

「主、いかがなさいました?」

 

そう問われる。それに何でもないと返し、転移門の用意を急がせる。全くもって忌々しい。あの小僧がカテレアの元に来てから何もかも面白くない。今日こそ彼女の思いの丈を暴いてやる。もし我等を裏切る様なら

 

「くくく、痛め付け、屈服させ、我が眷属に加えてやろう」

 

それも一興かもしれん。

 

 

 

 

† 

 

 

 

 珍しい客人がきた。この屋敷に客が来ること自体珍しいのだがな。

 客人はクルゼレイ・アスモデウス。我が主、カテレアの同志、らしい。その割には俺はこの10年で両手で足りる程しか会った事が無い。同志と言うのならもっと会合等が存在するはずなのだが、カテレアは会合自体に必要性を感じていない様に思えた。俺がここに来る前から支えている使用人に聞いたところ、以前は頻繁に会合へ赴いていたそうで、クルゼレイとも良く会っていたらしい。俺が現れた事で彼女の心境に変化が会ったと、使用人は笑って言っていた。

 それがどんな意味なのかはわからない。しかし一つ分かることは 、彼女は俺を見守っていてくれていたのだろう。脆弱な子供たった俺を、母の様に、姉の様に見守っていてくれていた。ならば俺は彼女の為に成すべき事をしよう。彼女の想いを叶えていこう。それが俺に出来る事なのだから。

 

 「久しぶりね、クルゼレイ。前回の会合は悪かったわね。外せない用事があったの」

 

 向き合うように座る二人。始めに声を出したのはカテレアだった。それはそうと前回の会合の時は確か俺の使い魔探しに同行していた。まぁ使い魔は見つけられなかったが。と言うかカテレアから使い魔探しに行くと言ったので俺は従ったまでなのだが。

 

 「はは、ならば仕方がないな。今日は会合で決まった事の報告と君の顔が見たくてね。手紙でも良かったのだが、俺自ら来させてもらった」

 

 爽やかに言うクルゼレイ。成る程、奴はカテレアに好意を抱いているのか。確かにカテレアは美しい。見慣れた俺でも見惚れてしまうことが良くある。奴の気持ちはわからなくもない。

 

 「そうなの。なら報告をお願い。悪いけどこの後に予定があるの」

 

 カテレアはどこか素っ気なく返す。その瞬間、奴の目が一瞬鋭くなったが直ぐに笑顔に戻った。まぁ好意を寄せてる相手にそう返されれば面白くは無いだろう。しかしそれを一瞬でも表情に出すとは、まだまだ未熟だな。それとも腹芸は苦手なのか?

 

 「そうだな。早速報告をさせて貰う。まず――――」

 

 報告が始まる。結果的に言えば大きな決定は一つだけだった。それと言うのも現代、過去において最強である龍神にコンタクトをとり、その力を借り受けられないか交渉するらしい。そして龍神を頂点に組織を作り出し、戦力の増強を図る様だ。それを聞いたカテレアは「……そう」と呟き

 

 「報告ありがとう。何か進展があれば報告してちょうだい。こちらもそれまでに出来る事はするから」

 

と言う。そしてその後に続く言葉は予想出来た。用が終わったなら帰って、だろう。それはクルゼレイにも理解出来た様だ。しかし奴は腰を深く落としたままで動く気配は無い。それを怪訝に見据えるカテレアに奴は言った。

 

 「話はまだ終わっていない。これはプライベートな事なのだが、どうしても今日聞いておきたくてね。…………カテレア、そろそろどうだ?」

 

 「……なんの事?」

 

 俺は勿論、彼女も奴の言葉がわからなかったらしい。いきなりどうだと言われてもわからないのが普通だ。俺達の様に長年同じ時をすごしたならわかる事も、奴の様にたまにしか会わない者に言われたところでわかる筈も無い。

奴にはそれが気に食わないのか不機嫌そうに言う。

 

 「何が?では無い。俺と君の関係をはっきりさせようと言っているのだ」

 

 関係をはっきりさせる?訳がわからない。カテレアと奴の関係は同志のはず。それ以外何があるのだろうか。俺は意味がわからず頭を傾げる。しかしカテレアは別で理解したらしい。そして

 

 「断るわ。あなたとそんな関係になった覚えはないし、なるつもりもない。何か勘違いしている様だから言わせて貰うけど、アレは戯れに過ぎないわ。本気であなたの相手をしていた訳ではないの。それにもうあなたとそんな事する気は一切無いわ。悪いけど諦めて」

 

 切り捨てた。明確な拒否。そしてその言葉で大体の事は理解した。わかると同時に胸にモヤモヤとした感情が溢れ、顔に出そうになるのを必死に押さえ込む。何故こんな感情が出るのかはわからないが面白くなかった。ベクトルは違うだろうが奴もカテレアの返答には不満だったのか

 

 「本当に良いんだな?後悔は無いな?」

 

 先程の爽やかさが嘘の様に殺気立ち問う。思わず戦闘体勢をとろうとするが、カテレアに手で制されたので元の姿勢に戻った。

 

 「ええ、後悔など無いわ。ある筈が無い」

 

 そうカテレアが返すと奴は無言で立ち上がり帰って行った。俺は思わず聞く。

 

 「良かったのか?」

 

 カテレアは可笑しそうに答えた。

 

 「ふふ。ええ、構わないわ。彼には悪いけど今の私は本当に興味が無いの。それに不機嫌そうにしているあなたを無視してyesとは言えないわ」

 

 む。顔に出ていたのか?

 

 「何年一緒にいると思っているの。それくらい雰囲気でわかるわよ。後安心しなさい。顔には出てないから」

 

 どうやら出てはいないがお見通しらしい。まぁ俺も彼女の事はわかるからお互い様か。

 

 「それはそうと今日も使い魔探しに行くわよ。悪魔たるはもの使い魔を持って、やっと駆け出し。いないままだと格好がつかないわ」

 

 成る程。カテレアの用事とはそれの事か。なら悪魔として動くのだな。

 

 「了解した。我が主(マイロード)

 

 故に悪魔としての呼び名でカテレアを呼ぶ。彼女はまたしても可笑しそうに笑いながら

 

 「ええ、行きましょう。今日こそは使い魔をてに入れるわよ。今回は使い魔マスターに同行を依頼したからきっと良いのが見つかるわ。そうだ!どうせなら龍を探しましょう!きっと役に立つわ!」

 

そう言った。全く無茶を言ってくれる。だが主の、カテレアの期待には出来うる限り応えよう。それが俺の存在意義なのだから。

 




以下がでしたか?楽しんで頂けたら幸いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。