ただ1が為に   作:ジェイ

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遅くなりましたが次話投稿です。
…………何とか年内に出来て一安心です。




2話

  ああ、またかと思う。またこの夢かと。俺でない俺の夢。正義の味方に強い想いを寄せる俺の夢。正直俺はこの俺達に共感できる。この身は救われたのだ。救われた者の気持ちは良くわかるので救うと言う行為に憧れの様な想いも理解できる。更に言うなら救った者が目指すものに憧れるのも理解できる。しかし違いがあるならそこになる。俺を救った人は俺の側にいて、夢の俺達は幼い頃に亡くしている。それ故に想いの方向に違いが出た。

 俺は救ってくれた人の為に。夢の俺達は救ってくれた人の想いを継ぐために。そして憧れの為に

 救ってくれた人への想いは同じ筈なのに、その人の生死次第でここまで変わるものなのかと驚きにも似た感想をもった。だからと言って俺自身に何の変化も無いが、今の俺だろうと、夢の、平行世界の俺であろうと大して変わりはしないと改めて思うのである。

 

 さて、また何時もと同じ光景から始まるのだろうとたかをくくっていた俺だが何か違和感を感じる。焼かれる人と家々。崩れ落ちる建物と、人々の悲哀と苦痛に満ちた声を聞きながら歩き続ける幼き俺。同じだ。嫌になるくらい同じ光景。俺の経験した地獄と何処までも同じ地獄。なのに何かおかしい。と言うかだ。夢の俺は何が原因でこの地獄を見た?俺は大地震が原因であった。大地は裂け、建物は悉く崩れ燃えた。この夢でも建物は崩れているし 燃えているが大地は裂けていない。所々大地は割れているが地震の様な巨大な裂け目は存在しない。つまりこれは地震の影響等ではない。ならば何が原因で?

 そこまで考え俺は見た。今までの夢では見たことなかった物を。そして何故今まで見なかったのかと思える程の物を。夢の俺はあれが何なのかわからなかった様だが悪魔となり魔術をたしなむ俺にはわかる。あの黒い太陽の如き呪いを。災害より、なお災害を体現した呪いを。

 

 

 

††

 

 

 

 どんな夢を見ても俺の日常に変わりはない。それがどんなに気になる内容であってもである。何故なら俺の優先すべきは彼女が第一だからである。彼女の事に比べれば俺の事など二の次で、彼女の日常を壊すモノを、彼女の望を阻むモノを俺は何よりも嫌う。それが例え自分自身であれだ。故に今は忘れてしまおう。そして日常を始めよう。彼女の望むモノを届けよう。それが俺の存在なのだから。

 

 身支度を整え自室を出る。身支度と言っても特別な格好などしない。黒のパンツに適当なシャツのラフな姿。初めは執事服を着ていたのだが彼女に不評だったのと、個人的に何故か嫌悪感があったので止めた。以来人様の前に立っても恥ずかしくない程度には気にしつつ、ラフな格好で過ごす事となったのである。ただ正式な場ではその限りではないが。

 まぁそれはさておき先ずは食事の用意。それが終れば彼女を起こす為に部屋に向かう。その際には人肌程度の温度のお湯を桶に入れ、新しいタオルを2~3枚。そして紅茶の用意も忘れない。それらをワゴンに乗せ、何時もと同じ通路を通り、何時もと同じ歩幅で、何時もと同じ速さで運ぶ。部屋に到着し、ノックをしようと扉に手の甲を向けた所で

 

 「シロウ、良いですよ」

 

 扉の向こうから声がかかる。彼女には俺の事など筒抜けなのか毎日の様に繰り返される俺達の日常。そして俺は決まって苦笑しながら「入るぞ」と声をかけて扉を開ける。部屋に入るとまだ寝起きな彼女が優しく微笑みながら迎えてくれる。それを見るたびに俺は何時も通りと再認識できるのだ。これが俺達の日常。平和の象徴。その始まりだ。

 

 

 

 

††

 

 

 

 

 何時もの如く私を起こしにくるシロウに声をかける。別に気配を感じたからとか壁の向こう側を透視できるなどと言った高尚なものではなく、ただ知っているだけ。彼は私に全て合わせるから。それでなくとも10年以上、彼が幼子の頃より共にある。わからない訳がない。そしてそれは彼も同じ。だから出来る無駄なやり取り。そう無駄なのだ。わかるのなら声をかける必要も、返事を待つ必要もない。だってわかるのだから。でもだから意味がある。無駄だからこそ感じられる。日常を、彼を、そして私を感じられる。一日の始まりを迎えられる。だから繰り返す。日常を日常として焼き付ける。いずれ訪れる変化の為に。その変化から戻れるように繰り返す。私達にとって最も穏やかな時間なのだから。

 

 

 

 何時も通りを終えた私達のその後は様々だ。何もせずにのんびり過ごす事もあれば、現政権の以来で仕事をすることもある。もしくは同志達とのやりとりもあるが、最近私は彼等に疑問を感じていた。私は今の悪魔世界に危機を感じている。過去の戦争において失われた原初の魔王達。ルシファー、ベルゼブブ、アスモデウス、そしてレヴィアタン。そう私のご先祖様ひいては我等同志のご先祖様でもある。その魔王達が失われた事により別れてしまった悪魔世界。新政府側と真魔王側―――新政府は旧魔王派と呼ぶ―――による争い。実質上新政府側が勝利を納めたが納得していない者が数多く存在する。私自身は、実は割とどうでも良かった。確かにレヴィアタンの者として魔王を継げない事に悔しさ等はあるが、今代のレヴィアタンを継承した者も多少性格に難があれど優秀だったから任せる事が最初は出来たのだ。

 しかしその考えも止まぬ争いで変わっていく。いつしか私は考える様になったのだ。何故争いが止まぬのかと。今の魔王達もかなり優秀であり、筆頭魔王のサーゼクス・ルシファーは人格者であり、強力な超越者、そして良き政治家でもある。そんな彼ですら認められない者達は何を望んでいるのか。

 過去の栄光?それもあるだろう。正当な血筋?貴族には良くある固定概念だ。数え出すと沢山出てくるが何よりも己の家の為かもしれない。初代魔王が没した事により没落した家も多い。そんな家の者達は決まって真魔王側につく者ばかりだ。そしてそれは少なくない数で、争いが激化する要因なのである。

 そして私は思い付く。私達初代魔王の血縁が正式な場で、実力を持って魔王となればこの争いは止むのでないかと。無駄に悪魔同士で血を流し、民達を危険に晒す事は無くなるのではと考えた。

そして彼等同志達と出会い、その考えは加速する。しかし彼等と私では考えに違いがあった。彼等は革命による政権交代を志していたのだ。正直私はそれに乗り気ではなかった。しかしそれ以外の方法があまり無いのも事実故に彼等と行動を共にしていた。

 それまでしていた現政権の以来を断る様になり、同志達との会合に参加するようになり、時には同志の一人と夜を共にしたことすらある。何故そんなことをしたのか私自身わからないが、そんな気分だったとしか言いようが無い。ともかく色々変わっていく私は色々と諦めていたのかもしれない。正攻法で魔王になるのを諦め、自身の在り方を諦め、争いを止める事を諦めたのだ。

 しかしそんな私を変えた、元の私に戻してくれたのが彼、シロウだ。脆弱な人間の癖に強く生きようとする姿が忘れていた己を呼び起こす。興味本意で生かしてみれば私の為に努力し続ける。こんな子供の姿を見せられて己の不甲斐なさを恥じた。何を諦めているのかと己を罵倒した。そして私は目が覚めた様な清々しさをかんじるのである。

 それ以降私の生活は以前に戻りつつある。現政権の以来は極力受け、少しづつ己の有能さを教え込む。まぁ魔王の血縁であり、魔王候補だった私だ。それは簡単になし得る事が出来た。そして同時に同志達へ他の方法の模索を進める様になった。初めは良い顔をするものは少なかったが、根気強く話していくうちに理解者は増えていった。しかしここで私は疑問を抱く様になる。

 私と同じ魔王の血縁であるクルゼレイ・アスモデウスとシヤルバ・ベルゼブブはこれを拒否し続けたのである。何故かと思っていると段々とそれが見えてきた。

 

 彼等は己の欲望の為に魔王になりたいだけなのでは?

 

 そう思う様になったのだ。それからだろう。私が会合に顔を出さなくなり始めたのは。同志だと信じていたのに、志は同じと思っていたのに裏切られた気分だったからだ。挙げ句の果てには龍神の力を借りる?馬鹿馬鹿しくてヘドが出る。その話が出てから私は会合に出なくなり、私の考えに賛同してくれた本当の同志と共に我が領内に引っ込んだ。

 それからは毎日が有意義だった。シロウと穏やかに生活をしつつ、同志達と今後について話し合う。話し合うと言っても革命ではなく正攻法のやり方でだ。皆悪魔世界を憂いている本物の同志達。現政権に不満は無いが、悪魔世界の情勢を嘆く者達なのだ。時に白熱した話し合いもあるが、互いに志を同じくする故に遺恨は残らない。互いの考えを尊重し合う事が出来る政治家達。それ故に有意義だったのだ。そしてある時私達は決断する。現政権に話してみようと。特に今代の魔王達は皆話がわかる者達ばかりだ。個人的な理由によりセラフォルー・レヴィアタンは無理だが他の者、特にサーゼクスならば私も話しやすい。

 決まってからは早かった。トントン拍子に話は進み私達はサーゼクスとの話し合いがなされたのであった。

 

 

 

 

††

 

 

 

 

 「密偵?」

 

 疑問を発したのは彼女、カテレアだった。

 俺達は彼女の同志達との会合の結果、現政権にこれまでの事を話すことに決めた。相手はサーゼクス・ルシファー。冷静に話を聞き、俺達自身がまだ犯罪行為を犯していないことを知ると何の罪にも問わずに話を続けた。俺は思わず聞いてしまう。

 

 俺達の思想はあなた達にとって危険な筈だ。何故それを許す。

 

 彼は言う。

 

 「確かに君達の思想は危険に捕らわれるだろう。しかし内容を吟味すれば悪い話では無いし、何よりも悪魔世界をより良き方向に導ける可能性だってある。生憎まだ引退する気は無いがね」

 

 そうして彼は笑う。正直俺は呆れた。同時に強かだと思った。要はこう言っているのだ。

 

 まだ魔王の位は譲らないが、お前達は遠慮なく使わせて貰う。と。

 

 そして話は進みカテレアの疑問の声と繋がった。彼は俺達に革命派―――真魔王側の派閥を便宜的に俺達を穏健派と呼び、過激思考の持ち主達わ革命派と呼んでいる―――へのスパイをしろと言っているのだ。

 

 「つまりあなたは私達に彼等を裏切れと言っているのでね?」

 

 「そうなるね。でもそれは今更だろう?こうして私に話を持ち掛けた時点で裏切りになるとおもうのだが?」

 

 「まぁそれは構わないでしょう。あの者達は私欲を満たす事に執着した愚か者共、裏切った所で何の良心も痛みません。しかしこれは謂わば依頼になるはず。報酬は勿論あるのでしょう?」

 

 

 カテレアの問にサーゼクスはにんまりと笑う。その笑顔にはいやらしさはなく純粋に喜んでいることが伺えた。

 

 「勿論だとも!報酬はそうだね。君達の身柄の安全の確約と政治での発言権と言うのはどうだろうか?」

 

 これには俺やカテレアはおろか、サーゼクスの部下や俺達に同伴した同志達も驚愕する。先ずは発言権。これは俺達からすれば願ってもない報酬である。これがあれば政治に介入でき、俺達の目標に一歩近付くのだ。更には身柄の安全。今の政権に俺達の思想は危険以外の何物でもない。当然敵も多くなるし、何より俺達は真魔王側の者達。俺達を害する者が現れてもおかしくない所か必然とも言える。それが無いとなれば条件としては破格。受けない理由はない。

 

 「…………それは信じて良いのですか?」

 

 しかしそれ故に疑ってしまう。あまりの好条件だ。裏が無いかと疑ってしまうのも無理がない。

 

 「勿論。私の名と、この拝命したルシファーの地位にかけて誓おう。これは契約だ」

 

 彼の言葉に衝撃が走る。契約、それも悪魔の王としての。それは必ず守らなくてはいけない約束となる。悪魔は契約を持ってその存在をなす。故に契約を破る悪魔は悪魔に在らず。悪魔の王ともなればそれは絶対。もし破ったなら魔王である資格は無くなることになる。つまり彼は約束を破ったなら魔王を辞めると言ったに他ならないのだ。

 

 「……信じましょう。しかしもし約束を破ったなら革命派を打倒したとしても新たな革命派が牙を剥くことになるのを忘れないでください。そんな者なら魔王の資格は無いですから。私達にはそれだけの力があります。私とシロウだけでも魔王一人に匹敵する位の力はありますし、我が同志達も精強です。それを肝に銘じておきなさい」

 

 「わかった。そうしておこう。何かあれば連絡をくれ。すぐに私へ取り付ける様に取り計らう」

 

 「わかりました。それでは私達はこれで失礼します」

 

 こうして面会は終わった。小さな、されど大きな一歩となるこの話し合い。俺達は未来への希望と、少しばかりの緊張を持ってその一歩を踏み出したのであった。 




ある意味今話までが序章とも言える内容です。
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