世界は剣で満ちていた。
見渡す限りの荒野。そして大地に突き刺さる剣の数々。数えるのが馬鹿らしく思える程の膨大な量の剣。あまりに多すぎて無限にあるのでは無いかと錯覚をおこしそうなほどである。
そして他に見受けられる物と言えば大きな歯車。それは空の一部の様に浮かんでおり、まるで月か太陽の代わりにも思えた。
「ここは……何処だ?」
思わず呟いた。
いつも見る夢だとは理解出来ているが見たことが無い場所なのだ。しかし何故かしっくりくる場所でもある。俺にとってこの場所は非常に身近な物に感じて仕方がなかった。
「ん?」
ふと視線に剣と歯車以外の物が映る。そしてソレは俺にも見覚えのある人物でもあった。
白く短い髪を立ち上げ、褐色の肌に高い背丈。赤い外装と中に黒いボティアーマーを着込み、下も黒のパンツ。これだけでも随分と目立つ容貌をしているのだが、この人物の一番の特徴はその目だ。鷹の様に鋭いその瞳が何よりもこの人物の特徴となるだろう。
「っ!?」
突如その人物と、夢の未来の俺と視線が合う。ただそれだけなのに俺は気圧された。ただ鋭いからではない。それだけなら俺とて鋭いからだ。背丈、髪色、肌、瞳の色等は違うがそれ以外は俺達は似ている。当たり前だ。世界は違うが、俺達は同一人物なのだから。
それなのに俺は気圧された。そしてそれが非常に気に食わなかった。故に気圧されながらも奴を睨み付ける。
「…………」
「…………」
「…………ふっ」
数瞬無言で視線を交わしていると奴は皮肉気に口角を吊り上げ瞳を閉じる。何か腹のたつ仕草であり、同時に俺もあんな仕草をたまにしていたのを思い出す。他人から見た己を見たようで、少し恥ずかしくなる。
「貴様は――――」
そんな事を思っていると奴が再び目を開け、口を開いた。
「――――だ?」
しかし聞き取れなかった。口を開きこちらに質問の様に何かを聞いているのはわかる。そして口の動きと表情から何となく俺に対して良い感情を持っていない事は理解出来た。だが俺は口の動きは見えても、口の動きから言葉を読む事が出来ない。夢から覚めたら練習しようと思った所で
「ふむ。どうやら貴様は私とは違うらしい。それは世界故か、種としての構造故かはわからん。しかし私達は根本的に同じ存在だ。故に―――」
先程まで聞き取れなかった言葉が何故か聞こえ出す。何となく奴の言葉を聞くには俺の実力が足らないのだろうと理解した。俺の実力にそぐわない内容は聞こえない様だ。しかし
「貴様が――――ならいずれ――――だろう――――
無限の剣製。この言葉だけはやけにハッキリと聞こえた。そして思い出す。夢の中で幾度となく聞いたモノを。思い出してその言葉が何よりも自然と受け入れられた。
心象世界。
俺の、俺達だけの世界。
思い出した瞬間に俺は夢から覚めた。
††
目覚めは最悪と言えたが、俺の気分など大した問題はない。彼女の笑顔が見れればこの感情も消え去る事だと思い着替えた所で思い出す。
「昨日は遅くまで会議だったな」
なので彼女の事だ。いつもより一時間は起きるのが遅いだろう。なので俺は少しいつもより遅めに準備を進める。その際に思うのは夢の事だ。
あの無限に広がる荒野と剣の世界。あれは俺の心象世界だ。しかし謎が残る。どうして俺にもあの世界があるのだろうか。
「
俺が唱える呪文。たったその言葉と魔力を繋ぎ会わせるだけでそれは完成した。
それは一振りの剣。特に何かがある訳ではないが立派な西洋剣だ。
俺の魔術、それは投影魔術に特化しており、特に刀剣類は高い成功率と安定性をもっている。そしてそれは夢の俺も同様だ。しかしである。
「俺には騎士王の鞘を埋め込まれた記憶などない」
そう、俺にはその様な記憶も事実もないのだ。夢の俺は騎士王の鞘を埋め込まれた事によって死を免れ、長い間体内に剣の鞘を宿した事によって魔術特性が剣になったと推測される。
ならば何故俺は夢の俺と変わらないのか?
今までは気にならなかったが、夢のあの世界を見た後では気になって仕方がなかった。故に試してみよう。幸い今日は時間に余裕がある。
「
先程造り出した剣を破棄してから、新たに呪文を紡ぐ。イメージするのはあの騎士王の鞘、
目を閉じ、それをイメージすることに集中する。そして何分か集中するが何も手応えを感じず目を開けるが、そこには何も無い。
どういう事だろうと頭を捻る。
別に鞘が無いのが不満な訳ではない。むしろ記憶に無いものが体に埋め込まれている方が不気味ですらある。ただそれだと何故俺は夢の俺と同じなのかがわからないのだ。
頭を悩ませていると俺はふと感じた。
俺の中に魔術要素とは別の、魔力とも違う何かを感じたのだ。今まで感じた事のない俺。鞘を強くイメージした事に何か関係があるのだろうか。
わからない。わからないが試す価値は在りそうだ。
「
再び呪文を紡ぐ。発声した言葉は同じだが意味が違う。これは解析の魔術。物事の構成等を調べる魔術だ。そしてその対象は俺自身。
「これは……」
そして俺は見つけた。今まで無かった、いや、あるとも思って無かった存在を。話には聞いていたし、これを持つ者と戦った事もあった。だが俺にあるなどと考えた事はなかったし、必要とも思っていなかった。故に気が付かなかったのだろう。
「
神器、それは人間に宿る規格外の力、らしい。らしいと言うのも俺が出会った神器保持者にそこまでの者がいなかったからだ。しかし神器にも様々な物が存在するので一概に切って捨てるものではない。故に俺は神器を発現させるために力を想像する。
始めに思い浮かべたのが騎士王の少女。夢で見た彼女は凄まじい技量をもった、正に英雄だった。しかし何か違うと心が訴える。何故なら俺は彼女の様に戦えない。彼女の様な剣才を俺は身に付けていない。故に俺には想像出来ない。
次に思い浮かべたのが夢の俺。癪だがしっくりくる。手が届く範囲だからこそしっくりくるのだろう。だが何か足りない。そこで思い当たる。
確かに夢の俺は強い。しかし最強等ではない。故に足らない。だが奴は何者だ?剣を振る者か?違う。奴は造り出す者。ひいては俺もそうだ。そして奴は、未来の俺は過去の俺にこう言った。
『常に最強の己を想像しろ』
そう、俺達は造り出す者。故に最強の俺を造り出す。
想像した。魔王に打ち勝つ俺を。龍を切り払う俺を。神を貫く俺を。巨人を殴り倒す俺を。様々な種族に勝利する俺を想像した。しかし
「足らない」
何かが足りないのだ。発想は悪くない筈だ。しかし俺の何かが悪いのか、それとも俺に宿る神器が偏屈なのかはわからないが一向に発現する気配はない。
「っと、そろそろ時間だな。カテレアが起きる――」
そこで俺は思い当たる。いや、確信する。
そもそも俺は何故強くなろうとしているのか?
それは彼女を守るためだ。決して神や魔王を倒す為ではない。
ならば想像するものが間違えていたのだ。俺が想像するのは打ち勝つ俺ではなく――
「――カテレアを守る俺だ!」
刹那、眼前が光に包まれる。眩い光は俺から視界を奪い世界を白く染め上げる。本来悪魔の俺にとって光は毒でしかないが不思議とこの光は不快感を感じず、むしろ暖かさを感じた。
暫くして、とは言え数秒なのだが光が収まると手に重みを感じた。それを眼前にもっていって俺は笑う。馬鹿馬鹿しくて笑った。そして同時に納得した。
「成る程、どこまでいっても俺は俺な訳だ」
目の前にあった神器。それは夢の俺に埋め込まれた騎士王の鞘その物だったのだ。
それが元々俺に眠っていたのかはわからない。何が原因なのかもわからない。もしかしたら世界が異世界の俺との齟齬を無くす為に修正力が働いた可能性もあるが、結果のみで仮定は謎でしかない。だが
「この力、ありがたく使わせて貰う」
俺は俺の心情の為にこの力を使おう。たとえ
「あの王の、アーサー王の関係者が相手だろうと」
全てはカテレアの為に
††
数日後、俺は神器を発現させる。
時間を見て調べた結果幾つかの事が判明したからだ。
1つ、この鞘には類い稀な防御性能を持っている。正確にはあらゆる要因と所持者を遮断する。
例えば敵からの攻撃。こちらは任意で効果を発動し、外的要因と所持者の次元を別ける事によってあらゆる攻撃を受け流し、使い方次第では反射も可能となる。
例えば傷。受けた傷も、その遮断する効果によって元に戻ろうとし、擬似的な癒しの効果を得る。こちらは未発現時にもある程度効果を発揮するが、発現時に比べると劣ると言わざるを得ないが、全く効果を表さないよりはマシと言える。
例えば不老。この鞘を発現時に持っている事で年齢と言う概念すら遮断してしまう。しかしこれは余計な要因と言わざるを得ない。何故ならこの力での不老とは成長しないと言うことであるからだ。現在の状態とあらゆる要因と所持者の遮断とはそう言う事になるのだ。何故数日でこの結論に至ったかというと、普段俺は日常の行動に加え鍛練も行っている。当たり前だが日の終わりにはそれなりの疲労もあるがこの鞘を発現させているとそれが全くないのだ。更に言えば体の成長が無かった。生物とは少しずつだが成長するものだ。体毛等が最も分かりやすいだろう。しかしその体毛も全く伸びなかった。これにより俺はこの鞘を発現させていると成長しないと結論に至ったのだ。
2つ目に、この神器は一度発動させると俺が発動を解かない限り消える事がない。
それは俺が寝ていようが変わらない。流石に死に絶えた時は不明だが、それ以外は変わらずにあり続けるだろう。その際に魔力や気を消費しないのが幸いと言えるだろう。
そして3つ目、これが俺にとって重要な点である。この鞘はその効果を鞘の持つものに与える。
つまり俺が鞘を貸した相手にも上記の能力を発揮するのだ。もし敵に奪われたら厄介な力へと変貌するが、この鞘を持っている限りその心配は限りなく少ない上に、俺の任意で発現を解けるので問題は無いだろう。
以上の効果によって俺はこの神器を
「カテレア、貴女がこれを持っていて欲しい」
カテレアに渡す事にしたのだ。
突然の事に流石のカテレアも驚きが隠せないのか、普段では俺に対して行わない驚きの表情を見せてくれる。しかしこの鞘の効果を思い出したのか彼女は直ぐに微笑み
「わかったわ。貴方の力、私が預かりましょう」
俺の考えを見透かして言い、それを受け取る。
何故俺はこの鞘を、ある意味では究極の守りを他者に預けたのか。
それは俺がカテレアを守る存在だからだ。
それに俺はカテレアの盾であり剣である。
盾ならばこの身を晒せばいい。しかしのみ身だけでは守りきれないモノも存在し、この世界ではその守りきれないモノが多すぎる。故にこの鞘を彼女に持たせる事で彼女を守りきり、俺は剣として敵を穿てば良いのだ。
そして願掛けの意味もある。
剣とは鞘に帰るモノだ。
彼女が鞘となり、俺が剣となる。つまり俺は彼女の下に帰ると言う意味も込めたのである。
カテレアはそれを瞬時に理解した故での微笑みなのだろう。理解した故に受け取ったのだろう。そう考え気恥ずかしくなりつつも俺は言う。
「これで貴女を害するモノは無くなった。俺が盾とならなくとも貴女を傷付ける存在はいない。だから存分に俺を使ってくれ。俺は剣だ。貴女を守り、敵を穿つ剣だ。貴女が命じれば俺は神をも斬ろう。貴女が願えば龍すら堕とそう。貴女が望めば俺は聖剣にも魔剣にもなる。それが俺の存在だ」
カテレアは変わらずに微笑む。しかしその笑みの中に哀しみが見てとれた。それが何なのか俺にはわからなかった。
カテレアの事なら行動や考えすらわかると自負している俺だがこの時は本当にわからなかった。それに悔しさを覚えつつもカテレアの言葉を待つ。
そして、カテレアが口を開いた。
††
嬉しかった。シロウがどこまでも私を第一に考えて行動していることが改めて知ることが出来たからだ。
普通神器、力を得たのなら己の為に使う。私としてもシロウが神器を覚醒させた事を聞いた時、私の為に力をつけるだろうと思った。私の為、と言うのは疑わない。何故ならシロウだからだ。
そして実際にシロウは神器を知るために鍛練を始め、使用方法、効果を知ったらこれだ。
ある意味シロウらしいと言える。私の為に自分の事を蔑ろにするのはいつもの事で、別にそれは良かった。彼の願掛けの様なものであるのも直ぐにわかった。
しかし私は哀しかった。上記の事は別に良い。それがシロウで、私はそれを含めたシロウを愛している。
私が哀しく思うのは彼が剣だと、己を剣だと表現したことだ。ただの剣。つまりは物。私の物。
間違ってはいないだろう。実際にシロウは私の眷属で、下僕で、駒だ。悪魔の私と言う観点で言えば間違いなく肯定出来る。
ただ私はシロウと10年以上の歳月を供に過ごし、シロウの成長を見続けてきた。
だからだろう。私の中でシロウは家族に等しい存在になっていた。
故に思ってしまう。私はシロウの何なのか。ただの主?ただの恩人?ただの所有者?
この気持ちは何なのか自分でもわからない。わからないが無性に哀しくなった。だがわからないから何も言わないのは違う筈だ。そう思い言葉にする。
「貴方の気持ち、確かに受け取りました。貴方は私の剣。私が貴方を振るう。それは生涯変わらない事実でしょう。でも覚えておいてシロウ。貴方は私の剣であると同時に――――」
そこで一旦言葉を切る。何故ならシロウにこんなことを言うのは初めてであり、こんなことを言うのが恥ずかしかったからだ。同時にこの事を確りと知っていて欲しかったら。だから私はこの言葉を贈る。
「シロウ、私は貴方を愛している」
それが友人に対する愛なのか、家族に対する愛なのか、それとも異性に対する愛なのかは私もまだわからない。だけど私がシロウを愛している事に間違いはなかった。
だから言った。シロウは大切な存在なのだと。貴方がいなければ私は哀しいと。そんな意味を込めて。
それを聞いたシロウは真っ赤になる。今まで言葉にしたことが無かったからだろう。また彼は今まで私に尽くしすぎてきた為にその様な経験がまるで無かったからだろうとも思う。
言葉にしなくてもシロウの気持ちはわかった。私はシロウが私の事を知っている以上に彼を知っているのだから。
嬉しいのだろう。驚いたのだろう。恥ずかしいのだろう。そんな思いが表情や雰囲気から伝わってきて私も嬉しくなる。そして先に考えたネガティブな考えは払拭される。
それからどれだけシロウの時が停まっていたのかはわからない。ただ真っ赤になり、微動だにしなかったシロウは思い出したかの様に動きだし、慌てた様に言った。
「お、俺もカテレアを愛している!この世界で誰よりも!夢で見たどんな人よりも貴方を慕っている!だから貴方を守ると決めた!俺は剣だと決めた!貴方を鞘とし、帰る場所に決めた!貴方の下にいれるなら道具でも良かったから!この気持ちが何なのかわからないけど、それが俺の思いで、不変の事柄だから!
シロウ自身、自分の気持ちがよく分かっていないようだ。だが彼の言葉はまんま愛の告白だ。自分の想いをストレートに、思うがままに言葉にした拙い告白。しかしそれ故にその想いはこちらに強く響く。私も彼を愛しているからより激しく伝わる。
そして私は自分の想いに気が付く。
友人に対する愛では無かった。家族に対する愛でも無かった 。一番近いのが異性に対する愛ではあるが、この想いはそれすらも超越したものであった。
片翼。ある意味でこれが一番正しいだろう。
鳥は一対の翼を羽ばたかせる事で空を舞う。もし片方でも動かなくては鳥は墜ちてしまうのだ。私達もそれと同じで片方なくして空を舞う事は出来ない唯一無二の存在。私なくしてシロウはあり得ない。シロウなくして私はあり得ない。私達はそんな関係だと思った。
私の勝手な想いかもしれない。それでも私はそうあって欲しいと思い、間違いないと確信している。だから改めて言う。
「貴方を誰よりも愛しているわ。だから―――」
ずっと私と供に
この日私達は1つになる。
本当の意味で硬い絆を得て、身も心も、全てが1つに。
今回はシロウの己に関する考察と異世界の自分との矛盾を無理矢理纏めてみました。その際に騎士王の鞘の能力ものせ世界に合わせた結果が今回の話です。
そしてシロウとカテレアの関係を強固にするための布石とさせました。
まぁくっついただけなのですけど。
まだ戦闘などは無かったのでそろそろこの世界的にも戦闘シーンを入れようと思うのですが、敵が思いつかない……。
クルゼレイでも良いかなーと思いますが、まだ早いかなーとも思ってしまいます。
なのでその事にどう思うかをお聞きしたいです。
もっと間をいれてからクルゼレイ戦にするか。それとも直ぐにクルゼレイ戦にするかお答え頂けたら助かります。