ただ1が為に   作:ジェイ

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 あけましておめでとうございます!
遅くなりましたが今年一発目の投稿でございます!


4話

 「あなたが私の先生?」

 

 「ああ、そしてお前の護衛も兼ねている。既に聞いているだろうが改めて自己紹介をしよう。俺はシロウ。ファミリーネームは無い。だから好きに呼んでくれて構わない」

 

 目の前の少女の質問に答えながら自己紹介を済ませた。

 一応は冷静さを装っているが、俺は頭を抱えたい衝動に駈られている。

 

 何故こうなったのかと。

 

 

††

 

 

 

 話は数日前に遡る。

 魔王との契約から時は流れ、元同胞と現魔王との間での二重スパイ生活にも慣れ始めたこの頃、とある問題が発生した。

 

 『いつになったら有力な情報が手に入る?』

 

 それを言ったのが誰だったのかはわからないが、誰しもが思っていた事だろう。むしろこの数年間で言及されなかったのが不思議な程だったのだろう。

 だがどうやらそれもタイムリミットだった。

 魔王は良い。正直、奴は元同胞、過激派の連中が動くタイミングさえ掴めれば良いと思っている節がある。なので今のまま長引かせ、準備を万端にしたいと思考しているはずだ。何せテロリズムの最も恐ろしい点の1つは、そのタイミングと規模なのだから。

 しかしその両方を知っていれば準備を整え、迎え撃つのは容易だ。何故なら正面から戦って勝てないからテロを起こすのだから。

 

 問題は魔王ではなく、過激派の連中である。

 俺とカテレアは情報収集と銘打って魔王とコンタクトを取っている。そのため組織内ではスパイ行為を行っていると認識されているのだ。

 以前はそれで話は済んだ。何故なら″まだ信頼されていないので詳しい情報が入手出来ない″と言い訳が出来たのである。

 だが時が経つにつれてその言い訳も通じなくなる。故に事態は発展せざる得なかった。

 

 召集命令。

 

 これを降したのは魔王の血を引く、シャルバ・ベルゼブブとクルゼレイ・アスモデウス。

 命を受けたのは勿論カテレアと俺である。

 

 俺達は渋々ながらも召集を受け、拠点の1つに向かう事になった。そして拠点につき、案内従い向かった部屋に入った瞬間

 

 『お前たちは何時まで悠長にしているつもりだ!』

 

 と、シャルバ・ベルゼブブの怒声に迎え入れられた。

 

 正直な話、シャルバ一人程度ならば俺一人でも相手に出来る自信はある。それが勝てるかどうかと言われればわからないと答えるが、戦うだけならどうにでもなる。多分カテレアも同等だろう。

 しかしこの場にはもう一人同等のクルゼレイ・アスモデウスも同席し、奴等は己の眷族も待機している。おまけに俺達の同士は冥界に残っているのに対して、奴等は部下達もこの拠点に存在するのだ。

 そんな中で俺達は二人。反抗や敵対するのは簡単だが、利口とは決して言いがたいのであった。

 

 故に

 

 『もう少し待って、もう少しで漸くサーゼクスの懐に入り込めそうなの』

 

 カテレアはさらに言い訳、と言うより嘘で奴等の機嫌を取り繕う事を選択した。

 そしてシャルバはその言葉に興味を示した。

 

 『どういう意味だ?』

 

 『サーゼクスに妹がいるのは知っているかしら』

 

 『ああ、有名な話だからな。現ルシファーの生家、グレモリー家には末娘がいて、一族総出で寵愛を注いでいると。サーゼクスも例に漏れず溺愛していると聞いたが』

 

 『そう、その末娘がまもなく六歳になるそうなのよ』

 

 『だからそれが―――――――ああ、そう言う事か。お前らはそこまでの信頼をこの数年で得たのか。我が同志ながらよくやるものだ。俺ならば一瞬たりとも偽物の魔王にへりくだりたくなどないがな』

 

 ここまでの会話でシャルバは状況を飲み込んだようだ。それはクルゼレイも同様らしい。しかし俺にはよくわからなかった。俺は頭があまり良くない。知識を詰め込み、出来るだけの事をしてきたが頭の回転自体は並程度。経験も足らない俺では奴等程の推理力はなかった。

 しかしカテレアの考えは読める故に何となくは察する事が出来る。

 流石に詳細はわからないが″魔王の妹と親密になることで魔王達の警戒心を解き、徐々に内側へ″といったところだろう。

 

 『ええ、私も本当なら嫌なのだけど、そこはほら、シロウがいるから全部任せているの。私は間接的に関わってるだけだから何とか耐えられるのよ』

 

 カテレアは非常に嫌そうな表情を作り言う。それに対して俺は良く言うと思った。

 端から見れば本当に嫌そうに見えるが俺からすれば悪戯をした子供の様に笑って見える。それは表情ではなく雰囲気がそう教えてくれたから。

 だが奴等は違う。奴等はカテレアが本心で言っているのだと思い込んでいる。

 

  『だろうな。その点で考えれば眷族システムも悪いものではあるまいよ。おい!貴様!』

 

 内心で笑いを噛み殺す俺にクルゼレイが声をかけた。

 

 『貴様の働きが我等の崇高なる計画に影響を及ぼすのだ。ミスは許されんぞ!』

 

 『…………はっ!』

 

 カテレア以外に頭を下げるなど御免だが、ここは俺のプライドよりカテレアの為にと膝を着く。俺の安っぽいプライドでこの場を穏便に済ますためなら頭の1つや2つくらい下げてやろう。

 

 『ふん!良いのは威勢だけでないと願おう。精々カテレアに捨てられぬ様に努力することだな。そこのクルゼレイの様に』

 

 『き、貴様!シャルバよ!俺は捨てられてなど――』

 

 『おお、すまんすまん。お前が捨てたのだったか?それはそれは失礼をした』

 

 そんな俺にかけたシャルバの一言がクルゼレイの癪に障った様で言い争いが始まる。どうやらシャルバはからかっているだけの様だがクルゼレイにとってそれは禁句に等しいのだろう。烈火の如く怒りを顕にし魔力を纏い始める。それをシャルバは飄々とした態度を崩さずにからかい続けていた。

 

 『シロウ、帰りましょうか』

 

 そんな事を尻目にカテレアから帰宅の意が伝えられる。

 

 『良いのか?放っておいて』

 

 『これ以上ここにいてもシャルバとクルゼレイのじゃれあいに巻き込まれるだけよ』

 

 あれをじゃれあいと言うのだからこれは日常茶飯事なのだろう。よくよく見れば奴等の眷族達は落ち着いて様子を伺っているので問題は無さそうであった。

 

 『了解した』

 

 『それからやることも出来たし、詳しくは帰ってから話しましょう』

 

 そして俺達は奴等の眷族に一礼だけしてその場を去る。眷族達も軽く一礼していたので事情は彼等より説明されるだろう。

 

 

 

 場所は変わって魔王の執務室となる。

 俺達は一度屋敷に戻った後、着替えて魔王サーゼクスの城へと向かった。カテレアから軽く説明を受けたが、どうやらカテレアは嘘を本当に変えてしまう様だ。そしてそれは俺達にとっても悪いものでは無いのだ。しかし正直俺はやりたくなかった。

 だがそれは俺の我が儘だ。片時も彼女と離れたくないが故に俺はやりたくなかった。しかしこれも彼女の為と思う事で受け入れたのだ。

 そして事情をサーゼクスに話した所

 

 『話はわかった。時期的にも丁度良いだろう。話は私から父上に通しておく。シロウ君、妹をよろしく頼むよ』

 

 と、あまりにもあっさり受け入れられたのだった。

 

 

 

††

 

 

 

 「改めまして、私リアス・グレモリーと申します。これから御指導御鞭撻のほどよろしくお願いいたしますわ」

 

 紅髪の少女、リアス・グレモリーが俺に対して一礼をする。

 流石は大公家の御令嬢と言った所か、と先程まで悶々としていた思いを吹き飛ばす様な挨拶を受ける。

 たかだか六歳程の幼女と言える子からこの挨拶だ。感心せずにはいられない。もしかしたら挨拶用に練習したのかとしれないが大したものだと思う。

 

 「そこまで仰々しい態度をするな。俺は所詮家庭教師で護衛の下級悪魔だ。お前――は流石に失礼だな。リアス君と呼ばせてもらうぞ。リアス君は大公家の御令嬢であり上級悪魔に生まれながらして決まっているのだからそんな言葉使いはいらん」

 

 だが俺にはその様な態度は不要である。所詮俺は下級悪魔。カテレアは最上級クラスの悪魔であり、誇りに思うが俺はカテレアの眷族に過ぎず、俺自身が偉い訳では無いのだ。

 それに折角なのだから信頼を築けた方が良いに決まっているのである。それこそ仰々しい態度は不要だ。

 

 「そうなの?お母さまから挨拶はしっかりしなくちゃ駄目って聞いたから一生懸命練習したの。でもいけない事だったの?」

 

 しかしそれは幼いリアス君には難しい事の様だ。下から覗き込む様に俺を見上げる彼女は今にも泣き出しそうな程瞳を潤ませていた。

 そんな状況に俺は慣れていないため一瞬慌てそうになるが、子供の時にカテレアにかけられた数々の言葉や態度を思いだした事で冷静になれた。

 

 「そうは言ってない。すまないな。言葉が足らなかった様だ」

 

 「ん?何で先生があやまるの?私がいけない事をしたから先生はいらないっていったんでしょ?」

 

 俺が謝罪したことで泣きそうな顔から一転して不思議そうな顔へと変化する。故に俺は彼女の先生として一番はじめの授業をしよう。

 

 「努力は、頑張る事は良い事だ」

 

 「良い事?」

 

 「ああ。努力することは何かを成すためにすることだと言うのはわかるな?」

 

 「うん。でも先生はいらないって…………」

 

 「まてまて、それもちゃんと説明する」

 

 いきなり脱線しそうになったが何とか話を元に戻し、説明を続けた。

 

 「努力することでそのした事は力になる」

 

 「力に?でも私頑張ったけど力は強くなってないよ?」

 

 まだ少ししか話してないのにも関わらず、この子は質問が多い。それはこの子なりに考えていると取れる。これは存外、面白い任務かもしれん。

 興に乗ってきた俺は話を続けた。

 

 「そうだな。リアスの魔力も筋肉も変わっていない。だが力とはそれらだけではないんだよ」

 

 「他には何かあるの?」

 

 「少し自分で考えてみろ」

 

 「え!?うーーん」

 

 物事を学ぶ時、何が大切かと言うとそれは己で考える事だ。故に俺は直ぐに質問に答えるのではなく、一度考えさせてから教える事にした。何故なら考えるとは意識すること。意識しないで話を聞くだけよりも、意識して考えて話を聞いたほうが頭に残るのだ。

 

 「うーーーー。わかんない」

 

 流石に難しかったらしい。まぁ仕方ない事だ。むしろここで答えが帰ってきたら俺の存在が危ぶまれる。

 

 「なら例を出そう。リアス君、君より物知りな子がいたとしよう。それは何故だ?」

 

 「えっと、頭が良いから?」

 

 「それもあるだろう。では何故頭が良い?」

 

 「勉強したから、かな?」

 

 「そうだ。なら別の例を出そう。例えば君より走るのが早い子がいる。でも君は負けたくない。ならどうする?」

 

 「うーーん。いっぱい走るよ。走らなきゃ早くなれないもん。でもこれが力にな…………あ」

 

 どうやら気が付いた様だ。

 

 「そっか、勉強すれは知識として力になって、走れば走る力がつくのね!」

 

 「そうだ。なら君が頑張った結果何が力になったのかはわかるか?」

 

 「うん!マナーって言う力を手に入れたの!」

 

 「そう言う事だ。まだまだ拙いがそれはこれから力をつければ良い。どうだ?頑張った分力が大きくなると考えると楽しくないか?」

 

 「頑張った分力が?…………うわぁーーー!凄い!それって私もお母様やお父様、お兄様みたいになれるってことなの!?」

 

 「勿論だ。努力次第だが越えることも出来るかもしれない」

 

 「うわぁーーー!うわぁーーー!すごーーーい!」

 

 どうやらその気にさせるのは上手くいった様だ。後は何故彼女の頑張りに対して不要とのべたのかを伝えよう。

 

 「では次に何故いらないと言ったかに関してだが――――」

 

 「それはもうわかったよ」

 

 「――――なに?」

 

 「えっとね、仲良くなるためだよね!だって私普通に話す方が楽しいもん!楽しくなくちゃ仲良くなれないよね!」

 

 笑顔でリアス君が言い切る。

 驚いた。話をしていて聡明な子だとは思っていたが、ここまでの会話で俺の意図を感覚でつかんでいたらしい。

 俺はふっと息を吐いた。

 

 「あっ!先生笑った!」

 

 どうやら俺は笑みを浮かべていたらしい。しかしそれがどうしたのだろうか?

 

 「だって先生今まで笑ってなかったよ?だから笑ったから驚いたの」

 

 そう指摘され俺は思い起こした。確かに言われてみればそうかもしれない。元々乗り気ではなかったのも関係しているだろう。その俺が笑みを浮かべたと言うことは

 

 「――――中々に悪くない」

 

 

 そう言う事なのだろう。

 

 

 

 

††

 

 

 

 

 「ははは、彼も中々良い先生をしているね。で君の思惑はどうなのかな?」

 

 私はサーゼクスと共にシロウとリアス嬢の様子を監視もとい見守っていた。

 可能性は限り無く低いが、シロウがリアス嬢に乱暴しないとは限らなかったからだ。それはシロウが渋々ながら受けた事にも由来している。

 しかし結果はこれだ。シロウも満更でも無さそうであった。

 

 「私の思惑ですか。私達の思惑は既に話しているでしょう?」

 

 サーゼクスの問に返答した。彼は何やら私の考えを見抜いているのかにやついた表情を浮かべている。

 

 「それは建前だろう?いや、勿論これも大切な事だね。何せこうやって私達が堂々と情報交換と今後の方針を話し合える。依頼者と依頼主として。でも本当は彼に経験させたいのだろう?子供に教える、いや子育てと言った方が良いのかな?」

 

 そこまで言ってサーゼクスを見るのをやめた。今見たら全力で殴りたい衝動にかられるだろうからだ。

 

 「まぁこれ以上はやめておくよ。今君達と仲違いはお互いによくないからね」

 

 良く言うと思う。そんな事を言いながら声は笑いを含んでいるのだから。

 

 「ふん。なんとでも言いなさい。私はあの子に色々経験させたいだけです。これもその一環です」

 

 そう言って再びシロウとリアス嬢が映るモニターに視線を向ける。

 そこには優しい表情を浮かべるシロウと、楽しそうに、難しそうにと表情を変えるリアス嬢がいた。それを見ているだけで私の頬が緩むのを自覚した。

 そんな所を見られていたのだろう。

 

 「どうやら、君も決めたのだね」

 

 サーゼクスが先程とは別の真面目な声音で尋ねてきた。

 

 「ええ」

 

 だから私も真面目に返した。そして何とは言わない。言うだけ野暮と言うものだろう。

 

 「そうか」

 

 「そうよ」

 

 それきり私達が言葉を交わすことはなかった。だがそれは険悪だから、ではなく互いに未来を思い描いていたからだろう。

 サーゼクスは平和な冥界と、そこに生きる大切なもの達の姿を。

 私はシロウと共に生きるこの先を。

 

 今モニターに映し出されている光景にそれを見ていたから。 

 

 




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