体は剣で出来ている。
いつからか自然と使う様になっていた言葉。それは俺の魔術故か、それとも魂故かはわからないが、俺はその言葉を紡ぐ。
その言葉は最強の俺だ。
俺の中で思い描く俺だ。
幾万の敵を凪ぎ払い、幾千の将を討ち取り、幾百の王を仕止め、幾十の帝を殺し、そして神をも消す去る俺の妄想だ。
だが妄想とは言いきれない程の力がこの言葉にはある。
この言葉はあらゆる剣を模倣する。
それがただの鉄屑だろうが、匠の鍛えし刀であろうが、祝福された聖剣であれ、呪われし魔剣であれ、神なる刀剣、神や魔王をも殺すものであれ、刀剣ならば全てを我が力として振るうことが出来る一つの極地なのだ。
これを使えば俺は最強を名乗れるとすら思い上がるだろう。
…………そう、思い上がりでしかない。
如何に剣が神を殺しても、刀が魔王を消し去っても、それを扱うのは所詮俺でしかない。
俺など良くて二流。決して一流にはなれない半端者でしかない。
故に、故に俺は広さを求めた。俺の才では深みには到達出来ない。ならば半端者なりに広きに手を染める。
剣術は敵を斬れれば良い。武術は敵を殴り、蹴れれば良い。銃術は敵に当たれば良い。
そうやって様々な物に深みを求めず、手段として用いればその分野において一流には追い付かなくとも 、総合的に見れば一流すらも凌駕出来ると俺は確信している。
勿論生半可な事ではない。
一を極める事すら困難な者が、他を修めると言うのは無理、無茶、無謀と言うものだろう。
それでも俺はそう成らねば為らなかった。成らねば俺は彼女の側にいられないと思っていた。
現実には彼女はそんな事を望んではいないことなどわかっている。彼女は俺に平穏と安寧を願っていることなど百も承知だ。
だがそれでも俺は力を求める。
彼女が俺にそう望む様に、俺も彼女にそう望むからだ。
故に俺は言葉を紡ごう。
体は剣で出来ている。
その先は未だに見付からない。
魂に刻まれた言葉ならばあるがそれは俺の事ではない。
只でさえ模倣の俺が、それ以下になってしまう。ならばその先は不用だ。俺は俺でなくては彼女を守れない。
故に探そう。
俺が俺としての言葉を。
ただ一が為にあらんとするその言葉を。
彼女を、カトレアだけを守り抜く俺であるその心を。
††
家庭教師と言うのも悪くは無い。そう思い始めたこの副業も終わりに近付いていた。正確にはリアスの為だけの、となるが。
何故ならば
「本日をもって俺は君の家庭教師という任からはなれ、ミリキャス専属の教師となる。君は明日より人間界の日本でハイスクールだからな。最後に何かあるか?」
「そうね、シロウ先生には随分とお世話になったわ。貴方の教えは私の中に生きている。厳しくて優しい、私にとっては一番の先生よ」
リアスが冥界を離れるからだ。
リアスは予てより日本に深い関心を寄せていた。そして貴族である事もありハイスクールから領地経営を学ぶために日本のグレモリー領の主として留学することになったのだ。
「随分と慕われていた様で安心した。俺の様な者の指導を真に受けて良いものか些か疑問ではあるがな」
「ふふ、相変わらず自分の評価は低いのね。私が言うのもあれだけど先生から間違った事は教わっていないわ。私が納得しているのだから自信を持つと良いわ」
「ふっ、君こそ相変わらず自信過剰だな。だが君はそれで良い。王は慢心するくらいで丁度良いのだからな。細かい事は君の女王に任せ、騎士に頼り、兵士を使え。王は座して待つのが勤めだ」
「ええ、そうするわ。幸いな事に私の眷属は優秀だし、皆が先生の教えを受けているしね。ねぇ皆」
リアスはそう言い自らの後ろを振り返る。
「そうですわ。先生からは多くの事を学ばせて頂きました。魔力の扱いはあれでしたが戦闘のいろはは勿論、女王として、そして使用人としての先生は一級品ですから」
「僕も先生の事は尊敬しています。剣士としてはあれでしたが戦闘者として先生は良き先達です。料理美味しいですし」
「………先生は強くて格好いい。才能無いのに強いし料理美味しいです」
「ぼぼぼ僕もです!先生みたいになんでも出来るようになりたい!」
「と、この通りよ。皆がシロウ先生に対して文句の無い評価よ。貴方なら安心してミリキャスをまかせられます」
一部気になる事も無くはないが概ね好評の様である。
元は二重スパイの為なのだが、今に至ってはこちらが本分なのではと錯覚してしまいそうなほど充実した日々だった。
つい己の本分を忘れそうになったのも一度や二度ではなかった位に俺は今の生活が好きと言える。
カテレアと過ごし、仕事として子供たちに勉学や己の経験などを教える穏やかな日々を夢想した。
だが………
「ありがたい限りだな。しかし君達が此処より離れる事で俺の本業も忙しくなることが予測される。何故だと思う」
それも今日までだろうと俺は確信していた。そして俺は最後の授業を始めるとしようか。
「………私とソーナがお兄様たちの庇護下から離れるからでしょうか?」
俺の問題に対してリアスが口を開く。その答えは半分正解と言えるだろう。
リアスは魔王の妹。そしてリアスの口よりでたソーナと言う少女もまた魔王の妹であり、彼女もリアス同様に日本の、リアスと同じハイスクールに通うことになっている。
そんな二人が親元を離れると成れば過激派からすれば格好の餌に思えるだろう。実際には治安維持を名目とした組織が裏から彼女達を支援しているので大した問題では無い。勿論その組織の編成には俺とカテレアも相談役として貢献しているので並大抵の者共では歯牙にもかけないだろう。
それでも奴等は間違いなく行動を開始する。何故ならいくら精鋭の兵士を配置しようとも千載一遇のチャンスである事は間違いなく、魔王としては手を緩める事が出来ないからだ。
理由は様々なものがあるが、二人の肉親が彼女達に深い愛情を注いでいることが知れ渡っているからだ。
最悪魔王は二人を冥界の為に見捨てるだろう。しかしその選択をするのに必ず隙が生じる。
その隙を見逃すほど奴等は甘くないのだ。
だがこれはあくまで半分ほどでしか無いのだ。
「ふむ、着眼点は悪くない。敵からすれば攻めいる時期としては悪くない。例えこちらに読まれた事であっても君達が捉えられれば魔王達の行動はある程度制限される事は間違いない」
「先生の言葉からして半分正解ってところね、ならもう半分は自と見えてくるわ。朱乃、祐斗、小猫、ギャスパー、あなた達はわかる?」
やはりリアスは聡明だ。俺の性格を知っているのもあるだろうが、物言いで己が答えを不充分と理解した。そしてその足りない部分を瞬時に察し、更には部下の育成にも繋げたのだ。…………王の資質は十分にあることがこれだけでも分かる。
「………考えうる状況としましては相手の準備が整いつつあると言うこと、そしてこちらがそれに合わせた情報を敢えて流す、と言ったところですわ」
「あるいはこちら、現悪魔政権側の情報が先生やカテレア様以外から漏れている、つまりは裏切り者が現れたからだと思われます」
「…………魔王様の準備が出来たから嘘の情報を流して釣り上げる為に先生が忙しくなるだけかも…………」
「あわわわわ!?えとえと、僕は何をすれば良いのかわからないてすぅぅーーーーー!?」
「ほぅ…………」
皆の言葉を聞き俺は歓心の息を吐く。そしてリアス君の満足げな表情を見て安堵した。俺の教えも捨てたものではなかったのだから。
「その表情を見る限りリアス、君は間違いなく俺の生徒であり、その眷属の育成は成功と言える。一人一人の答えだけでは不充分だが、総合すれば概ね正解だ。最後のギャスパーの言葉は不安要素に思えるかも知れないが、俺からすれば勝手に動き出さないだけ良いし、わからない物をわからないと言える事は恥ずべき事ではなく美徳ととらえられる。そしてどの様に動くのか決めるのは己達ではなく、あくまでも魔王達の決定により変わる事から想定はしても行動に移す段階には達していない故に君達には満点を与えておこうと思う」
「だ、そうよ皆。そういう訳みたいだから私達は悪魔のお仕事をしながらだけど気ままなスクールライフを送ることにしましょうか。ただギャスパーは悪いのだけど…………」
俺の言葉にリアスが続き、明日からの新たな生活、そして今後の方針を軽く言う。しかしギャスパーに対しては申し訳無さそうにしている。
「だだだだ大丈夫ですぅ!僕、皆さんは優しくて大好きですけどやっぱりまだ怖い………お外は怖いんです………」
しかしギャスパーはそれを受け入れている。むしろ己が望んでいることから彼の心証がうかがい知れるだろう。
リアスの眷属には女王の姫島朱乃を筆頭に騎士の木場祐斗、戦車の塔城小猫、僧侶のギャスパー・ヴラヴィと少数ながらも皆が各部分において高い能力と才能を持っている。
そして皆が心に傷を抱えており、リアスとの生活の中で少しづつ癒されてきた。
今では日常生活をおくる程度なら問題は無いのだが、事ギャスパーにおいては別なのだ。
彼の力は強すぎた。
その強すぎる力故に彼は力を暴走させる事も頻繁であり、それ故に排斥された。そして彼もまた他を拒絶したのだ。
受け入れたのは仲間と最近になって俺くらい。魔王であろうと俺の主であろうと彼は受け付けなかったのだから、彼の他に対する恐怖心は相当なものだ。
それらの事情を鑑みてリアスがギャスパーを制御出来る段階に成長するまで封印することになった。ただ封印と言ってもリアスが宿泊する建物の一室に隔離するので、基本的に引きこもりであるギャスパーからすれば今までと大差のない生活になるので本人もある意味安心している。
「いずれ時は来る。ギャスパーの力が必要になる時が。その時は躊躇しないことだ。案外適当に使った方が良いこともあるからな。そして神器の先達としてアドバイスは己の力を信じろ、くらいか」
「は、はいぃ…………」
彼の力もまた神器だ。そして半吸血鬼故にスペックはこの中で、いやこの世界でも通用するレベルなのだが、この性格が彼の力を半端な物に下げてしまっている。しかし彼が本当に力を欲した時、誰かを守りたいと願った時、化けるだろうよ。
「ま、話はこれくらいにしておこう。君達の送別会の手筈は整っている。喜べ、今日は我が主も参加する。後リアスの兄君である魔王もだ。料理は俺とグレイフィア殿も手を貸した。さっさと準備をするんだな
堅い話はここまで、と言うわけで彼等に準備を急かした。彼等は急ぎ着替えに部屋を出ていき、そして俺は後ろを振り返る。
「もう、良いのかしら?」
「ああ、彼等を危険にさらすのは心苦しいが覚悟は出来ている。そして君″達″から少しの期間であるが離れるのは心が引き裂かれそうだよ」
「ふふ、前から決まっていた事なのだから仕方無いでしょう。この″子″だってもう6歳になるのだから少しくらい我慢出来るわ。ねぇ、ティア」
俺の後ろには主であり、そして愛すべき妻と俺達の宝である娘がいた。
カテレアは娘のティアを抱き抱え、ティアは俺に笑顔を向け
「大丈夫、です。わたしもお姉ちゃんになる、から、我慢、します。それに、パパがお仕事行くの、まだ先の、事ですから」
ティアが途切れ途切れに話す姿を見て俺は苦笑をもらす。ある日突然ティアはカテレアの真似をし始めたのだ。それまでは普通の子供の様に話していたのだが、今は普段から敬語を使う様になった。のだが、慣れていないので途切れ途切れになってしまっているのだ。
ティアいわく「ママがかっこよかった!」らしい。
そしてティアの言葉から誤解されがちだが俺達に新たな命が宿った訳ではない。彼女の言うお姉ちゃんになる、とは俺の使い魔であるグリフォンが現在懐妊している。その子が間もなく出産するだろう事からの言葉だろう。
「そうか、では俺が帰ってくる頃にはお姉ちゃんになった姿を見せてくるかい?俺はその姿を楽しみにしているよ」
「う、じゃなくて、はい!」
俺は今幸せだ。
この幸せを守る為に俺は戦う。
ティアは俺が出るのはまだ先だと思っている様だが…………
「シロウ、怪我をするなとは言いません。でも必ず帰って来てください」
カテレアにはお見通しの様だ。
「ああ、勿論だ。では後は頼む。ティア、リアス達によろしく頼むぞ」
「パパはお仕事、ですか?」
「ああ、パーティには出れないけど直ぐに帰るよ。そしたら君の大好きなチョコレートケーキを作ろう。そして皆で食べよう」
「本当!?待ってるね!」
「それは楽しみね。シロウ、行ってらっしゃい」
「ああ、行ってくる」
今日はリアス達の送別会。
そしてティアのお披露目会になる。
あの男が、クルゼレイ・アスモデウスが来ない訳がない。
カテレアが懐妊した時の奴の形相は凄まじいものがあったからな。
奴の性格ならば必ず現れる。
壊しに必ず。
投稿出来ずに申し訳ありませんでした。
感想いただけたのに関わらず返事すら出来なくて申し訳ございませんでしたーーー!
言い訳はありません。存分に叩いてください。
ゴメンネ(-_-;)